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小雨の偽日記

『花飾り』

思い切った服装が
苦手な小雨です。

選ぶ服は、どうしても
地味なものばかり。
恥ずかしいのと、
それから、
きれいに着てもらえない服に
悪い気がしてしまうから。
本当は、小雨じゃない子が着てくれて、
とってもきらきらして、
もっと似合っていて、
一日が明るくなる、
努力のたまものに、なれたのに。
ちょっと大変なときがあっても、
がんばってみる
女の子のおしゃれ。
華やかなことが苦手で、いつも逃げてきた小雨は
服を選ぶとき、
かわいいとは違うの。
奇妙な状態です。
たぶん、あんまり
見ていて不愉快ということにはならないだろうけど
どうなのかな?
冒険したほうがいいと励ましてもらったときも
このくらいなら大丈夫、
見ていて悪いことないよね、
と気を使って、
それで、どうせ気を使うなら
最初から冒険しないほうがいいんじゃないかと
結局、無難に。
着慣れたものに戻ってしまう
一歩も踏み出せない冒険。

失敗したり
転んだりしながら
いろいろ試して、見つけていくって
小雨には難しいです。
手を出す前からおびえてしまう。
勇気を出して進んでみたって、
途中でつまづいて引き返してしまう。
弱い小雨です。
だって、間違ってしまうよりはいいから。
だって、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない
新しいことを始める力なんて
小雨はなかなか出せなかった。
なぜだろう──
お兄ちゃん。
いつも、小雨のことを元気付けてくれるの。
ときどき、お兄ちゃんのことを考えながら
普段できないことをしています。
小雨はたぶん、
あの、
こんなことを言ってしまったら
また引っ込み思案だって笑われるかな。
小雨が勇気を出せるのは、
他の女の子みたいに華やかじゃないけれど、
ときどき褒めてくれる家族の言葉。
小雨は他の人が見逃してしまいがちな
小さな問題によく気がついて、
手を貸してあげられる、
細やかな思いやりの持ち主だって。
本当は、そこまで褒められるほどのことはしていないけれど
でも、嬉しいです。
小雨の小さな個性に気がついてくれる。
こんな未熟な小雨のこと、放り投げたりしないで
いつも見守ってくれます。
小雨の特徴、
あるかないかもよく見ないとわからないような
芽生え始めたばかりの個性は、
みんなが言ってくれるような小さなこと。
決して、華やかな世界に憧れたり
かわいさを競ったり、
そんなことは、できないんだと思います。
小雨ががんばれそうなことを見つけて、
これでいいんじゃないかな。
地味だけど、
ちょっとだけ、細かな世界に優しいかもしれない
小雨の個性を、そのままに。
それが小雨のおしゃれだったら、って。
よく見ないとわからないくらいの花飾りで飾るくらい。
今日の水着選びは、それでいいと思ったんです。
地味でもいいかな。
そんな、小雨です。

お兄ちゃん、どう思う?

こんなふうに
ささやかな決意をして
お買い物に行った小雨が、
立夏ちゃんのすすめに、ついその気になって
信じられないくらい大胆な水着を
なぜか選んでしまったことを。

家に帰ってきてみんなに見てもらって、
小雨ちゃん、思い切ったねー!
大評判です。
みんなが笑顔で歓迎してくれるけど、
あの、
思い切ったのは小雨じゃないんです。
立夏ちゃんが熱心に、
これしかない、って言ってくれたから
なんだけど……
もしかして小雨は、やってしまったのでしょうか。
パレオもない。
スカートもない。
言い訳なんてきかない
真剣勝負という感じの水着です。
立夏ちゃんが言うには、ストロングスタイル。
ガチンコなんですって。
お店で試着してみて、
恥ずかしい、
でも
これなんだ!
と思って。
お兄ちゃんに喜んでもらえるかもしれない、
と、なんだか体が熱くなって。
決めてしまったのですけど、
やっぱり、
小雨、
いきなり暴走しすぎたでしょうか。
大人しいところからだんだん体を慣らしていったほうが良かったですか?

小雨の偽日記

『小雨の日』

ついに夏です。
家族みんなが指折り数えて待っていた
夏休みも始まりました。
ふだんとは違う、不思議な毎日。
見たこともない特別なことが起こってしまいそうな、
それでいて、ついうっかりだらだらと過ごしてしまいそうな
新しい時間が、私たちにも訪れます。

このごろは
あついあつい、
とってもあつい日が続いて
家族が体を壊してしまわないか
とっても心配で
心配で心配で
はらはら。
このままでは、心配のあまり
熱を出してしまいそう。
そんな小雨の情けなさを天の神様も見ていて
そこまで心配しなくても、と考えてくれたのか。
一休みの涼しいお天気、
オアシスのような、快適な小雨の日でした。
優しい雨。
うるおいの一日。
庭のすみにしぼんでいたお花たちも、
夕方には、たっぷり浴びた雨のしずくをまとって
別人みたいになってきらきら。
疲れきっていた夏の日々に、ひといき。
なんだかうれしい。
穏やかな天気に感謝の気持ち。
輝くような世界が広がります。

そんな雨の後は、毎日の花壇のお世話も
すこし色づいたように、胸が弾みます。
足音にぱらぱらと舞う土ぼこりのにおいも
乾いて夏の日がしみこんだ厳しさではない。
なんだか思いがけなく甘さまで感じさせてくれる
風もふんわり、雨の後。
寒すぎたりもせず、真夏の気温は
雨の後は、紫外線対策の厚着ごと小雨をじりじり焼いたり
そんなことはなく快適。
久しぶりの涼しさに誘われるのか、
雨がやんだら元気な子たちは庭に飛び出し、
静かな子たちもお姉さんも、気持ちのいい散歩を始めたい
過ごしやすい、珍しい夏の一日。
こんな夏休みもあるんですね。
小雨のささやかな仕事もはかどります。

天気予報では、しばらく曇りがちな空模様が続くそうです。
そうなると、今度はちょっと不安になってしまうもので──
たまには夏のぎらぎらする日差しが恋しくなったりは
しないでしょうか?
楽しみに待っていた、まぶしい季節。
暑さを乗り切りながら
いよいよ過ごせると思った、新しい私たちの夏。
始まるという時になったというのに、
それが、
こんなはずじゃなかった!
という気分になるなんて。
そんなことになってしまったら
小雨が情けないのがいけないんです。
もちろん、小雨が雨を呼ぶなんて
そんな大それたことを言うつもりはないのですけど、
じめじめしてしまう気持ちが雨を連れて来てしまったら
そう思うのは、小雨がうじうじ悩んでいる気持ちを
灰色の空に見てしまうからでしょうか?

あんまり暑い日が続くときの
心配もそうだけど、
それは、努力して気をつけていくことだから
まだなんとかなるほうです。
吹雪ちゃんの朝顔の育ちがなぜかあまりよくなくて
こんなにお世話をしているのになぜなんだろうって
二人で悩んでいるのもそうだけど
吹雪ちゃんは、こればっかりはどうにもならないことだと。
教わったとおりに、できることをお世話したら
あとは祈るばかり。
吹雪ちゃんがそう思っているなら
小雨がこれ以上心配することじゃあ、ないのかもしれない。
もっと、どうしたらいいのか
解決が難しい
ふいにあらわれる真夏の雨雲みたいに、
灰色に覆われる、小雨の気持ち。
小雨のこのごろは、夏のお百姓さんスタイル。
とってもだいじなこと。
花壇だけじゃなくて、家庭菜園にも手が回る
時間が自由な夏のお休み。
まだまだ初心者の小雨の力では、
形と色の悪い
トマトになすに、きゅうり。
痛んだところを捨てて、
汚れを洗ってよく落として、
お料理として食卓に提供できるのも
そんなに多くない、修行中。
お遊びみたいな、でも少しだけ役に立てている気持ちになれる
嬉しい時間の使い方。
困っているのは、その話ではないんです。

ところで、夏のお百姓さんばかりではない
少しうきうき、もうひとつのだいじなこと。
それは、夏のおじょうさん。
我が家では、夏のおじょうさんといえば
まず、虹子ちゃんが名乗りを上げます。
それから、たくさんのきれいなお姉ちゃんたちがそうなりたくて。
似合うものは、
つばの広いぼうしに、白いワンピース。
それからもちろん、勇気の大胆ビキニ。
そんなイメージ。
実は、小雨は普段からこんなふうに地味だから
あんまりおしゃれを知らないから──
心配したお姉ちゃんたちや妹たちが、
小雨ちゃんももっと、きれいになれるよ!
素質があるよ、と薦めてくれる
新しい服、華やかな色合い、清楚な誘い。
とても小雨に似合いそうにない、夏を凝縮した
太陽のようなおしゃれ。
ちょっぴり不安な思いに、曇る心。
いいのかな?
だんだん小雨は、どうしてかな
あまり嫌じゃないの。
なぜか勇気を出してみたい。
立夏ちゃんは、夏のせいだというんです。
新しく始まるかもしれない
わくわくする予感、
そんな季節。
希望していた何かに、挑戦してみたくなるものだと
そうなのでしょうか?
夏休みは、始まったばかり。
どうなってしまうのかしら。
いいものなのかしら。
とまどう曇りがちな心と、
晴れ間を覗かせそうな、冒険の気配。
小雨の心が迷う間は、灰色の空を見つめ続けるのかな。
お兄ちゃんは、小雨はどうしたらいいと思う?
やっぱり、小雨にひまわりモードは
似合わないかなあ。

小雨の偽日記

『おでかけですか』

まだ、お料理番を任せてもらえるなんて
とうてい無理な小雨です。

お手伝いできることはがんばろうって思っているのに
それもまだ不安が残るくらい。
にんじんの皮を剥くだけなのに、ピーラーで指を切るなんて
逆に器用だと言われるくらいです。
もちろん、器用だからではないんです。
そんなミスが月に2、3度。
蛍お姉ちゃんも、小雨くらいの時にはそのくらい失敗ばかりだったって言うけど
本当なのかな?
ううん、家族の言うことを疑うわけじゃないんです。
だけど、小雨が蛍お姉ちゃんくらいの歳になって、
あんなにいろいろできるようになるかというと
全然そんなイメージが浮かばないです。

お手伝いだけでは、とも思うし。
あのあずき鍋のとき、
ほうれんそうを切っていたのは小雨です。
ごめんなさい。
謝ることじゃない気もしますけど。
あと、そのあたりの真実とか、詳しい事情は
今月の末になって明かされるかも、とのうわさなのですけど
どういうことでしょう?
私たちのマンガが、雑誌で好評連載しているみたいな、謎のうわさ。
小雨みたいな地味な子でも、プロの人に描いてもらえたら
ほんの少しでもかわいくなれるかな。
ともかく、
お手伝いができるようになるだけじゃ、お料理は上手にならないですね。
お姉ちゃんたちが風邪を引いてしまったとき、何にもできないし。
ついこの前も、春風お姉ちゃんと蛍お姉ちゃんが体調を崩してしまったの。
小雨もそろそろ、本格的なお料理のお勉強をしないといけない時期が
来ているのかもしれない。
それでね、このごろお弁当作りを試しているんです。
おにぎりとおかずの簡単なメニューばかりではない、
もう少しだけ高望み、普段から家族みんなに食べてもらえるよう、
小さなお皿でいいから
食卓のはしっこに、ひっそり並んでいてもいい
メイドイン小雨になるために。
努力の途中の高望みメニューは、今のところは
氷柱お姉ちゃんの夜食や
ヒカルお姉ちゃんがもうちょっと欲しいときなどに
食べてもらっています。
時々は、霙お姉ちゃんにもリクエストをもらえるくらいになりました。
食べた人それぞれ、いろいろな感想をもらえるの。
こんな感じでいいのかな、
こんなんじゃまだまだかな、っていう、
真剣であっても子供の遊びの範囲。
優しいお姉ちゃんたちに支えられて、
こんな怖がりの小雨でも、おっかなびっくり修行中です。
小さい子の口に入るものになると、まだ学ぶことはいろいろあるんだし。
健康、安全、おいしさ、彩り、
そして楽しい食事の席。
小雨のお料理が笑顔の助けになるような。
めまいがするほど遠い目標です。

もちろん、おでかけのお弁当作りも勤まらない。
春風お姉ちゃんと蛍お姉ちゃんは
またぶり返してもいけないから、無理をしてはいけないし、
お弁当を持ってのおでかけは、この春休みは実現しないようです。
準備が大変だし、それに、不安定なお天気は続くし。
蛍お姉ちゃんは、もうこんなに元気になったって逆立ちして見せたり
病み上がりっていうわけではないけれど。
海晴お姉ちゃんたちを説得する、いい意見ははっちゃけなかったようです。
とはいえ、どこにも行かない春休みも少し寂しいという意見もあって。
少しくらいお天気が不安定でもなんとかなり、
お弁当の用意も必要なく、
小さい子が多くても楽しめて、
お兄ちゃんやお姉ちゃんの負担にもならず、
できれば、そんなに混んでいない場所が良くて、
春休みのちょっとした思い出になるような。
海晴お姉ちゃんの知り合いの人の好意で、
お昼に席を取ってもらえたので
明日はみんなでおでかけ。
ようやく家族が待ち望んだ、春休みの一大イベント。
全員で作る楽しい思い出の舞台は、
すぐ近くのファミリーレストランです。
それっておでかけ?
と、立夏ちゃんは疑問もあるようだけど
20人もの人数で行くなんて、なかなかできないもの。
もう、一大イベントの盛り上がりです。
小さい子たちは、初めてのお子様ランチを期待して
胸を弾ませ、目はきらきら。
小雨も、ファミリーレストランは慣れない場所。
まだ家族がここまで多くなかった頃に
ほんの小さな、今よりもっと頼りなくて、泣いてばかりだった小雨が
連れて行ってもらった、緊張と興奮の、冒険みたいなお食事。
おうちでは味わったことのない、違う種類のおいしさ。
だったような?
あれは、やっぱりお子様ランチだったのかな。
みんなで食べるいつもの愛情料理となんだか違う、
その時だけ、小雨のために用意してもらった特製メニュー。
でも、実はあんまり良く覚えていないので
期待している小さい子たちから、どんな味だったのか聞かれても
要領を得ない答えしかできないの。
いつのまにか、もうお子様ランチなんて頼むと恥ずかしい歳です。

お兄ちゃんも楽しみでしょうか?
小雨は、ほとんど行ったことのない場所だから、不安も多くて
立夏ちゃんがよく友達と行くし慣れているっていうから、
離れないでついていけばいいかな、と思っていたの。
でも考えてみたら、
立夏ちゃんはよく動き回って、ときどき追いかけていけなくなって
どこに行ってしまうのか予想もつかないですよね。
立夏ちゃん本人も、それは自信を持って保証してくれました。
初めての小さい子たちは小雨よりも不安なことがあるだろうし、
なるべく見ていてあげたいし。
それで、あの、思ったのはね、
お兄ちゃんなら小さい子たちに目を配るのが上手だし、
近くにいれば頼りになるし、
小雨が、そばの席に座ってもいいでしょうか?
だめでしょうか?
みんなが狙うかな?
頼りになるお兄ちゃんの周りには、
様子を見ていないといけない子が並ぶと思うし、
お兄ちゃんも、近くの席にいて欲しい好きな子がいたら、選んで欲しいし。
もし、離れた席に座ることになっても
家族みんなが一緒ですもんね。
立夏ちゃんに置いていかれて心細いようなとき、
不安で誰かに頼りたくなっても、
小雨はお姉さんなんだから
なるべく不安な子がいないように、妹たちを見ていてあげたい。
みんなが楽しめるお食事にしたいです。
小雨もちょっとくらいは力になれるよう、がんばります。
蛍お姉ちゃんは、店員さんの衣装を今後の参考にしたいと
おでかけのお弁当が作りたいって主張も、今はしていません。
接客業の衣装は、どれも自作の参考になるって。
勉強熱心で、すごいですよね。
実は小雨も楽しみにしていることがあって、
たまに食べに行く、おうちでもない、給食でもない、
お食事専門のお店の、本物の外食。
小雨は家で作るご飯に応用できるよう、学べることを探そうと。
新しい生活を迎える季節、
小雨も野望に目覚めたのでしょうか?
不安半分、楽しみ半分。
小雨も新しい経験を積んで、
おいしいご飯が作れるようになれるかな。
成長中のささやかな小雨弁当、もっとおいしく作れるようになったら
お兄ちゃんも注文してみてください。

小雨の偽日記

『楽しいホワイトデー』

学校のお友達は、
ホワイトデーに愛のこもったおかえしがもらえるのか
それは大問題。
小雨ちゃん、どう思う?
ふだんあんまり仲良くしていない男子にチョコをあげて
進展がないままこの日を迎えて──
やっぱりだめなのかなあ、と悩む子もいます。
また別の子で、よく話をする男子にあげたけど
冗談か、ただの義理チョコだと思われていたらどうしようって
不安になっていたり。
それから、チョコは思い切っておこづかいをつぎ込んだし
ちゃんと3倍返しをしてもらえるのかな、と心配している子。

小雨に相談してもらっても、
なかなか適当なことは言えない大事な問題だし、
かといって、チョコをあげた相手の気持ちは
小雨には全然分からないことなんだし
どうしよう、どうなるのかな、
小雨のお友達は、みんな幸せになれるでしょうか。
お兄ちゃんは、そんな時なんて答えてあげるの?
みんながお兄ちゃんに相談していたら、
きっと小雨が相談してそうなるみたいに
安心できると思うんだけど、
お兄ちゃんは、みんなのお兄ちゃんじゃなくて
小雨の家族だけのお兄ちゃんです。
だから、小雨はお兄ちゃんがそこにいたら
してくれそうなことをいっしょうけんめい考えて、
なんとかお友達の心を軽くできないかとがんばって、
だけど、安心してもらえるようにはなかなかなれなかった。
だらしのない小雨です。

クッキー、マシュマロ、キャンディー。
どれをお返しにもらうかも
意味が違うんだそうです。
しかも、いろいろな説があるって。
もしかしたら、今日、何のお菓子をもらうかで
人生が変わってしまうかもしれない。
そんなに大げさな話じゃなくても、
女の子が心を込めて本当の気持ちを伝えたのに
もしも思いが届かなかったら
誰だって絶対つらいですよね。
だから、今日のお返しは大問題。
バレンタインでカップルになれなかったなら、
一ヶ月も待たされた後なんてもうあんまり期待できないって
そうなんですか?
小雨は、あんまりバレンタインを経験していないから
自分の話を参考にアドバイスすることはできなくて。
お兄ちゃんにチョコをあげた後、どうだったかなって思い出すと、
次の日は恥ずかしくて顔も見ることができなかったり、
こんな小雨へのお返しなんかで困らせてしまったら申し訳ないとか
どうも情けない思い出しかないような気もするんですけど
いつも、チョコをあげられて良かった、
よろこんでもらえていたらいいなって、それだけだった、と思いながら
アドバイスを考えたんです。

一ヶ月待たされて何もなくても、
人の気持ちはそれぞれだから、大丈夫。
小雨なら、一年経っても気持ちは変わらずに
待ち続けていると思います。
どんくさい小雨ですから
十年、二十年──
それとも、小雨の一生。
なんの音沙汰がなくても
希望が何一つなくたって
普通にして待ち続けていると思います。
チョコをあげたくらいで、
ううん、こんな小雨が好きになったくらいで
お兄ちゃんに応えてもらえるなんて厚かましい望みは
小雨には持てないの。
かなわないとしても、チョコをあげることができたら
小雨は満足して
それで一生終えても何も悔いはありません。

みんなに言ったら、
あきれられました。
相談に乗ってあげるはずだったのに、
小雨のほうが心配されてしまって。
小雨ちゃん、
もっとガツガツしようよ!
うーん、そうしなくちゃいけないかも。
がんばってみるね、ってその時は本気で答えていたんですけど
後になって真剣に検討してみると
お兄ちゃんの前にいたら、気持ちがふんわり。
お兄ちゃんのことを思うと、ほっこりあったか。
お話ができたらいつも特別な時間。
心臓の鼓動も大きく、血がめぐって体が熱くて
これが生きている実感?
小雨にはそれで満足。
それ以上を求めるつもりなんて全然ないのは本当なんです。
特別扱いなんてしてもらわなくてもいい、
放っておかれても、
お兄ちゃんと家族として生まれて、生活できるなら
もう充分なんです。
これ以上何かもらったら
罰が当たってしまうかもしれない。
小雨の中身が充満しすぎて
破裂してしまうかもしれない。
でも、破裂はしませんでした。
罰も当たらないでしょうか?
小雨のためにお兄ちゃんが行動してくれるなんて、
いいのかな?
今日、こんなに嬉しいのなら、
いけないとしても、小雨は止めることはできないでしょうか。
それに、いけないことじゃないのですものね。
海晴お姉ちゃんも、言ってます。
家族が仲良しでいることは、とても美しい。
幸せで嬉しい。
小雨も、本当にそうだなって思います。

お兄ちゃん、
ホワイトデーのお返し、どうもありがとうございます!
小雨は、お友達の話を聞いて
お返しにもらうお菓子にどんな意味が込められているのか
小雨も悩むのかな、と思っていたけれど
こんな小雨のことを気にしてもらえただけで嬉しいから
実際は全然気になりませんでした。
家族みんながとっても喜ぶ日になって、
やっぱりお兄ちゃんは、みんなにとって特別なんですね。
すごいなあ──
小雨もそんなふうになれたらと思うけど、
なれるわけがないので、
あこがれるだけです。
それと、気持ちを伝えるだけ。
ありがとうって、何度もしつこいですか?
お兄ちゃんの気持ちも考えずに、迷惑ばかりかけていて肩身が狭い小雨ですが
でも今日は言わせてください。
小雨はお兄ちゃんの妹に生まれて
これ以上何も望むものはないほど嬉しいっていうことを。

あ、でも、
氷柱ちゃんはなんだか不機嫌そう。
自分の誕生日なのに、家族の中心でいられなくて寂しいのかな。
誕生日くらいは主役でいられたらという気持ち、
小雨にもわかります。
お兄ちゃんは、小雨の誕生日には
小雨を一番みたいにお祝いしてくれますか?
でも、そんな時もお兄ちゃんが活躍していたら
小雨は自分のことなんてどうでもよくなって喜んでしまいそう。
それとも、もしかしたら
お兄ちゃんのエスコートでお菓子をもらえるこんな日に
思いもしなかったくらい胸が弾んでいる今みたいに
お兄ちゃんは、小雨の知らない気持ちをたくさんくれるのでしょうか。
消極的な小雨だったら、
お兄ちゃんがいないとずっと経験できなかったこと。
これからも、どきどきして体が熱くなってしまうと思います。
小雨は、たくさんの特別をもらって、胸に詰め込んで、
破裂しないでいられるように、がんばっていきます。

小雨の偽日記

『ゴールイン』

お兄ちゃん、
おめでとうございます。

ついにゴールインしたって
聞きました。
固い約束を交わしたと──
いつまでも離れないことを誓い合ったと。
死も二人を分かつことのできない
永遠の愛で結ばれたんだと。

立夏ちゃんが言ってました。
違うんですか?

お兄ちゃんがくれたっていう、
キャンディがついた指輪を
見せてもらったんです。

立夏ちゃんの勘違いなんですね。
よかった──
あ、よくないです。
このまま誤解されていたら、大変です。
でも、あんなに嬉しそうな立夏ちゃんに
本当のことを言うなんて──
どうしましょう、
小雨にはそんなことできません。
立夏ちゃんにはもう少し、夢を見せてあげてもいいでしょうか。
だって、小雨が見ている夢もいつかは終わってしまう。
お兄ちゃんは将来、誰かを選ぶんでしょう?
その時に、小雨が選ばれることなんて考えられないですもの。
どんくさい小雨だし、
いいところがない小雨だし、
それに、私たちはきょうだいです。
だけど、お兄ちゃんが立夏ちゃんを選んでくれたと聞いたとき、
少し胸がズキズキしたけど、
良かった、それは良いことだと思ったんです。
お兄ちゃんが将来はそれほど遠くへ行ってしまわないということだし。
立夏ちゃんと小雨は一つ違いで
仲がいいほうだから、これからもいつでも会えると思います。
これまで、なんとなく考えていたことですけど、
お兄ちゃんは男の人だし、広い世界へ出て行くのかもしれない。
立夏ちゃんが勘違いしたままでいれば
小雨にもちょっと希望があるでしょう?
お兄ちゃんと、もっと時間が経ってもいつも会えるのかもしれないって。

ちょっとだけ欲張ったことを言ってしまうと、
お兄ちゃんがまだ誰も選ばないで、
小雨がこのままお兄ちゃんの近くにいられたらと思うんです。
もう少しこのままの時間が続けばいいなって。
小雨が選ばれるわけではないとわかっていても、結論を出さないでいてほしい。
お兄ちゃんの気持ちを考えない、小雨のわがままですよね。
立夏ちゃんとはまだ結婚しないんだ、ってわかって安心してしまうなんて。

いけないですね、お兄ちゃんには早く幸福になってほしいのに
それだと小雨が悲しい気持ちになってしまうなんて。
ううん、恋人ができたら小雨は
おめでとうって、心から祝福してあげたい。
小雨たちにも必要なお兄ちゃんだけど──
お兄ちゃんは、私たちの家族を支えてくれるとても大事な人。
みんなの笑顔のために、たくさんのことができる人。
だからきっと、いい人と結婚して幸せになれると思う。
そうなったら素敵だなと思うんです。
小雨はそれを思うだけで、自分のことのように幸せです。

でも、やっぱり
そんなの寂しいです。
お兄ちゃんがこの家からいなくなるかもしれないなんて。

お兄ちゃんは、いつまで小雨の近くにいてくれるのかな?
お兄ちゃんが大学に行くなら、来年度からあと6年いてくれることになるのでしょうか。
その時には、小雨もちょうど高校を卒業します。
もう少し立派になって、お兄ちゃんがいなくても大丈夫になっているのかな?
全然想像もつきません──
小雨は立派に成長できていると思いますか?
お兄ちゃんがいなくてもいい小雨なんて、未来のどこかにいるのかな?

あさひちゃんが6歳になるときの話ですね。
きっと、あさひちゃんは泣いてしまいます。
そうなったら、小雨は自分が悲しいことなんて気にしている場合じゃないです。
あさひちゃんや、その時もまだ小さい妹たちを慰めないと。
でも、小雨にはそんなの無理です。
小雨はいくら経っても、全然しっかりしていないと思うし。
しっかりしていたって、そのときのみんなの悲しさが分かるから、きっと慰められない。
お兄ちゃんがいなくなったら、みんなどんなに悲しくなることか──

だけど、小雨たちがお兄ちゃんを縛ることなんて
してはいけないんです。

お兄ちゃんが自分で選んだ結果が、いつまでもこの家にいることだったら
うれしいのにな──
実際に立夏ちゃんと結婚するつもりはありませんか?
立夏ちゃんならきっと、お兄ちゃんと明るくて楽しい家庭を作れると思うし、
立夏ちゃんは、お兄ちゃんといられてすごく幸せになると思う。
それで、お兄ちゃんが幸せでいてくれたら小雨も嬉しいし、
小雨もお兄ちゃんの近くにいられたら嬉しいです。
といっても小雨なんて
お兄ちゃんがここにいる理由の一つにもならないですよね。
でも、立夏ちゃんはいい子なんです。
考えてみてはもらえませんか。
小雨のことなんて、何も気にしないで決めていいんです。

それで、小雨は──
小雨はたぶん、なかなかお嫁に行けなくてずっとこの家にいると思います。
そうなったらせめて、
お兄ちゃんがいつでも帰れるように、過ごしやすいようにしておきたい。
お兄ちゃん、どこに行ったとしても時々は帰って来てほしいです。
ううん、お兄ちゃんの都合が合わないなら、帰って来れなくたっていいです。
いつかお兄ちゃんが帰ってくるかもしれない場所にいられるだけで、
小雨は幸せです。
もしも小雨の知らないどこか遠くでも、
お兄ちゃんが幸せにしていたら、小雨はきっと凄く嬉しいです。

お兄ちゃんがもしも疲れてしまったとき、
いつでも帰ってきて笑顔になれる場所は
小雨がいつまでも守っていたいです。
でも、そんなことが、いつか小雨にもできるようになるのかな。

小雨の偽日記

『歯磨き』

小雨の番です。
ごめんなさい。

今日の小雨は
いつにもまして
情けない小雨です。

何があったかというと、
たいしたことではないんです。

小雨は緊張しやすいし、
不安になるとますます緊張するし、
ただでさえ失敗しやすいのにさらに失敗が増えるし、
やりたいことを早めにできるときは
余裕を持って計画を立てて──

このバレンタインも、
本番直前まで追い詰められたら
まず失敗する!
どうしても失敗したくないときほど、緊張する──
と、気が気ではなかったので、
ちょっと早いけど、三連休のうちに用意しておこうとしたら
試食にまぎれて、
小雨からお兄ちゃんにあげるはずだった普通のチョコが
どこかへ行ってしまいました……
今はもう、誰かのおなかの中。
早くもチョコとして生まれた役割をまっとうしました。

大丈夫です。
まだ、振り出しに戻っただけ。
時間はあるんだもの。

お兄ちゃんにおいしいチョコを食べてもらいたいから、
小雨はまたがんばって作ります。

ところで、このところチョコをわりと試食していますけど、
こんなに食べる機会は普段あまりないので、
いつもよりもしっかりと歯磨きをしないといけません。
家族全員で気をつけよう、と声を掛け合っています。
お兄ちゃんは、歯磨きは大丈夫ですか?
一番食べて欲しい当日に
お兄ちゃんがチョコを食べられなくなったりしたら、
みんな悲しみます。
何かあったら、小雨のチョコは後回しにしてください。
なるべくならやっぱり、せっかくのバレンタインには──
ううん、本当は受け取ってもらえるだけでいいんです。
ともかく、お兄ちゃんの歯が健康であるにこしたことはありません。
小雨たちも、バレンタインを言い訳にして不健康になってはいけないし、
歯磨きくらいはしっかりしようって。

それが、今日は──
歯磨きしているとき、どうやら他の事を考えて
ぼうっとしていたみたいで……
立夏ちゃんはなぜか笑っているし、
麗ちゃんは苦い顔をしているし、
小雨はいったい歯ブラシで何をしていたんでしょう?
そこまでショックを受けていたつもりはないんですけど。
もう一度きちんとチョコを作れるのかな、
という不安で頭がいっぱいだったことだけはよく覚えているんです。
気がついたら、手に持っている歯ブラシがありえないほど開いていました。
歯磨きに集中していなかったというか、
何をしていたのか自分でも記憶にないというか。

お兄ちゃんも、歯ブラシは歯磨き以外のことに使わないように
気をつけてくださいね。
小雨のほかに誰がそんなことするでしょうか……
余計な心配をしてしまいました。

あんまり関係ないかもしれないけど、
普通は使わないような場面で
意外なものを使うことは、よくあるんですよね。
チョコでコーティングする
中身を工夫している子もいます。
それに、蛍お姉ちゃんのバレンタイン料理も、
小雨には見たことがないものが多いけど、たぶん
ああいうものなんですよね?

小雨は独創的な工夫に向いていないので、
教えられたとおりの、よくあるものに
また挑戦してみたいと思っています。
めずらしいものは作れないけれど──

普通すぎてつまらなかったら
ごめんなさい。
華やかな日に合わせたいけど、
結局作るものは普通にしました。
小雨がまだ小さいときからお姉ちゃんたちに作ってもらっている、
普通のチョコのお菓子は、
簡単だからって理由もあるけど。

子供のころからなじんだこの味を口にすると、
今日もこの家でおやつの時間を過ごしているんだな、
小雨も家族の一員の端っこにいるんだな、って
しみじみと実感できる、小雨の好きなチョコレート。
我が家のおいしい伝統を、
お兄ちゃんも気に入ってくれたら嬉しいです。

大丈夫。
ちゃんと落ち着いて作れば、
小雨もまた失敗しないで作れるかもしれません。

小雨の偽日記

『幸せになることを遠慮しない』

今日も麗ちゃんは
海晴お姉ちゃんに怒られていました。

あんなに電車のことが好きなのに
あんまり乗りに行けないって、きっとつらいですよね。

小雨が海晴お姉ちゃんだったら
麗ちゃんに、もっと好きにさせてあげたいと
思ってしまうんじゃないかな。

でも、それっていけないですよね。
子供のころからあんまりお金を自由に使わせるわけには行かないし。
夕方遅くまで電車に乗っていたら、こっちは心配になります。
時間があるときに一人で電車に乗っていて、家族といられなくなったら──
それで寂しいのは小雨のほうかもしれないけれど。

麗ちゃんは、小雨よりもずっと大人で、しっかりしています。
でもまだ小学生だから、海晴お姉ちゃんのやり方で正しいんです。
麗ちゃんだって頭がいいから
していいことと悪いくらいはわかっているんだし……
小雨は慰めるくらいであんまり力になれません。これじゃいけないですね。

小雨が海晴お姉ちゃんくらいになったら
あんなふうに、しっかり妹のことを気づかうことができるのかな?
どうしましょう、お兄ちゃん。
小雨には全然自信がありません……

麗ちゃんより一つ上の小雨が
本当は少し早く大人になれるといいんだけど。
小雨のほうが麗ちゃんに助けられてばっかりです。
でもそんなふうに弱音を吐くと、麗ちゃんを怒らせてしまうから
小雨のもやもやした気持ち、
お兄ちゃんに聞いてもらえて嬉しい。
あの、お兄ちゃんもこんな話を聞くのは嫌ですか?
こんな小雨はうっとおしい?

海晴お姉ちゃんは、家族の間で遠慮があっては
いけない、ってよく言ってくれます。
家族と一緒に幸せになるとき、遠慮なんかしていたら
何もできないって。
ちゃんと言葉にしないと、気持ちはなかなか通じないって。

家族の間でも、できることとできないことがあるのかもしれない。
だとしても──
麗ちゃんみたいに自分の考えをはっきり言える子がいてくれるのは
海晴お姉ちゃんは嬉しいのかな、と思います。
いつも電車に乗りに行けるわけではない、というか、
好きに乗りに行けることのほうがまずないのに、
麗ちゃんはあきらめないで、家族にお願いするんです。
あきれられても、
どうしてそんなに、って言われても
普通に考えて無理に決まってるじゃないって
お姉ちゃんたちからさんざん言われても──

やっぱり、電車が好きだから?
それとも、家族ってそれでいいのかな?
遠慮しないで自分の意見を伝えられたら
麗ちゃんみたいに電車に乗りにいけなくて悲しくてもいいの?

小雨にはまだ分かりません。
家族みんなで幸せになる前に、自分の幸せもなかなか見つけられない。
一番年が近い麗ちゃんがどんなふうにできたら幸せなのか、
小雨にはまるで思いつかないんです。

お兄ちゃんも、小雨が遠慮しないほうがいい?
こんな小雨だけど、お兄ちゃんに聞いてもらいたいことがたくさんあります。
お手伝いでお料理を運んでいたらひっくり返すし、
家族旅行では切符をなくしてしまうし、
トイレに行ったらスカートがめくれてパンツのお尻がよく丸出しになる
恥ずかしくて情けない小雨が
お兄ちゃんに遠慮なく自分の気持ちを伝えてもいいものなのでしょうか?
ただの迷惑にならない?

あのね、お兄ちゃん。
小雨は麗ちゃんのことでときどき考えるんだけど、
麗ちゃんくらいしっかりしている子なら、きっと、もっと大人になってから
好きなことがなんでもできるようになると思う。
麗ちゃんに話したら無責任だって怒るから、言えません。
でも、無責任な思いつきだけど、お兄ちゃんも思いませんか?
どんな電車に乗ることもできるし、
昔の電車を整備して動かすこともできる。
新しい素敵な車両をたくさん作ったり、
麗ちゃんが一番いいように線路を敷くこともできるはずです。
大好きな電車たちの
麗ちゃんが知っている一番いいところを引き出してあげられるように、
小雨には電車の気持ちは分からないけれど
麗ちゃんに愛されるたくさんの電車が
麗ちゃんといられて嬉しい、
愛されて嬉しい、
自分の良さを引き出してもらえて嬉しい、
麗ちゃんが電車を好きでいてくれて嬉しい──
きっと電車がみんなそう思ってくれるようなことがいっぱい、
麗ちゃんならできると思うんです。

もちろん、たくさんがんばれる麗ちゃんのことだから
電車を運転することも無理じゃないし、
一生懸命走れるように整備してあげたり、
電車にどんな問題が起こっても解決してあげられるようになる。

世界中の電車に乗りに行くのもいいし。
きっとね、麗ちゃんなら友達もいっぱいいて
大人になったら一緒に電車に乗りに行く友達ができると思うんだけど
こんなに家族がいっぱいの家で育っているでしょう?
もし、麗ちゃんが好きな電車に乗りに行こうとして
人数が少なくて少し寂しいと思ったら
そのときに小雨がついて行きたいの。
いま思いつく小雨ができることは、それだけだから。
小雨は大人になっても、すぐ切符をなくしたりして
お荷物のままかもしれないけど、
麗ちゃんが寂しくしていたら近くにいてあげることだけは
できると思うんです。

だから小雨は、麗ちゃんが
悲しくて泣いちゃうことがあっても
今みたいに、家族に遠慮なくなんでも言ってほしいです。
もしかしたら今よりも素直になってもらいたいかも。
寂しいって気持ちは、なかなか口に出せないみたいなんだもの。

そう思っていても小雨は
自分のことになると
なかなか気持ちを口に出せません。
怒らせてしまうし、
こんな小雨のつまらないお願いだし、
なんだか申し訳なくなってしまうもの。

思いを言葉にして
家族みんなと一緒に幸せになれるなんて──
小雨にはまだ少し難しいみたいです。

お兄ちゃん、
いつか小雨が、とても伝えたい気持ちを
きちんと言葉にして伝えられるようになるときまで、
小雨の側にいてくださいね。

小雨はがんばります。

小雨の偽日記

『おしょうゆが!』

お兄ちゃん!
行かないで!

小雨のせいです。
悪いのは小雨なんです。
だから小雨はどんなことをされてもいい、
罰を受けたくらいですむならどんな目にあってもかまわない、
小雨にできることなら何でもします。
だけど小雨がひとつだけ、
どうしても悲しくなってしまうこと──
どうか、
どこにも行かないでください……

小雨、あまり反省していないのかもしれない。
だけど──

せっかくみんなが揃う楽しい日曜日のお夕飯が、
小雨のせいでこんなに悲しいことになるなんて。
家族のみんな、まだ小さいあーちゃんの他は、みんなわくわくしてこの時間を待って、
ううん、あーちゃんだって、自分では食べられなくても
食卓が笑顔に囲まれたらきっと嬉しかったはずなのに。

ユキちゃんも、今日の診察でも体の調子が良くて
少しだけなら、とお医者様にやっと許していただいたのに。
このときをどんなに楽しみにしていたのか、
それなのに、
もう小雨、家族みんなに顔向けできない。

小雨は、
お兄ちゃんの妹でいる資格が
なかったのかも──
悲しい、悲しいことまで考えてしまいます。

せっかくのおさしみ。
買ってくるように頼まれていたおしょうゆを、
忘れてしまうなんて。
よりによってたったひとつの買い忘れ。

おうちのどこを探しても
おしょうゆの一滴さえ、どこにもないと
知っていたはずなのに。

お夕飯の前に、
寒い冬、みんながあったまろうと早くお風呂に入った後になって、
初めて発覚した
大惨事。

一日を家族でゆっくり過ごして、
横を見れば、安心できる家族の顔。
昨日まで一週間をがんばって、
明日からの一週間も、胸を張ってすごすために、
みんなが思い思いに楽しんだ
お休みの日。
日曜日の最後のお楽しみ。

小雨、
少しでも家族の役に立ちたくって
おつかいを任せてもらったっていうのに、
それなのに……

お風呂上りのお兄ちゃんが
買い物に行くなんて
そんな怖いこと、
小雨はどうしても、
黙っていられないんです

お外はもう、暖かかったお昼から想像もできないくらい
たちまち冷え込んでしまったし、
あっという間に湯冷めをしてしまうに決まっていて、
それで体調を崩してしまうかもしれないし、
だいいち、
暖かいおうちにお兄ちゃんがいられないなんて悲しいことはしてもらいたくない──
小雨も、お兄ちゃんがいないなんて、心配でしょうがなくなってしまいます。

暗くなったら何が起こるかわからない。
どんなに注意していても、夜のお外は危険が多いでしょう?
車にぶつかってしまったら──
変質者にさらわれてしまったら──
暖かい日で間違えて冬眠から覚めたクマが
おなかをすかして襲ってきたら──

悪いのは小雨なのに、
わがままですよね。
でも、小雨、
これだけはどうしても
自分の気持ちを整理できないんです。
お兄ちゃんがいてくれればおしょうゆなんていらない、
お兄ちゃんと、
暖かいおうちでお夕飯を過ごせるなら
小雨はおさしみだっていらない。
お兄ちゃんは、小雨のおしょうゆなんです!
小雨が喜ぶ、一番のおさしみなんです!
食卓に、どんな豪華なご飯よりもおかずよりも
必要な、大事なもの。
家族みんなそう思ってくれているはずです。
お兄ちゃんの笑顔よりも食卓に欲しいものなんて
他に何ひとつありません!
きっと、みんなそうです。

お兄ちゃん、
どこにも行かないでください。
お夕飯は、おさしみのためにあるわけじゃ
ないんです。
お願い、
お兄ちゃん──


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