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ヒカルの偽日記

『一日目』

てんつくてんつく。

ぴーひゃら
どんどん。

町の音に合わせて
小さい子たちが歌っている。

一日中太鼓を叩きっぱなし
踊りっぱなし
おはやしをはやしっぱなし
というわけではないので
昼間は、スピーカーから鳴っているよ。
というか、夜の盆踊りもだいたい録音だ。
太鼓やおはやしは、広場のステージで
それ専門のイベントがあるとき。
明日は、2時からおはやし。
4時から太鼓。
ちなみに正午からは、演歌歌手。
私はそういうの詳しくないから知らない人だけど
見に行く?

お祭りが始まった。
家族みんな、
夏休み最後のいい思い出になるだろうか。
誰も宿題を気にしないでいいなんて
何年ぶりのことになるか。
そんな大げさな話じゃないか。
ともかく、心置きなく楽しもう。
こころなしか今年の我が家は、どの笑顔も
気にかけていた肩の荷を下ろしたように晴れやか。
大きいお姉さんも、チビたちも。
宿題を計画的に済ませた子も、
前日まで予断を許さなかった危なっかしい子も。
よく似た笑顔でお祭りに飛び出した。
あさひや青空に宿題の意味なんてわかるわけないのに
どうしてそんなに嬉しそうなのかな。
20人揃った、珍しいお祭り。
はしゃぎすぎて迷子にならないようにな。

普段は騒がしいのが苦手らしい
小雨や吹雪だって
慣れない浴衣を着て
緊張しているようにすました大人っぽい顔でいても
その体のどこかから
わくわくと高鳴る音が聞こえてきそう。
きらきら輝く目を大きく見開いて。
何か特別ないいことが、この町で起こっている真っ最中だって
怖がりの子でも
冷静な子でも
わかってしまう。

小雨が苦手にしていて
よく怯えがちな
声の大きい魚屋も
今日はお祭り仕様。
新鮮なたこを使ったたこ焼きに
見た目から豪快なイカの丸焼き。
同じお店なのに、今日通った小雨は
お祭りらしい華やか笑顔。
いつもの商店街も、
提灯が並んでにぎやかに輝いている。
八百屋では焼きとうもろこし。
肉屋では豚肉たっぷりの焼きそば。
どこをのぞいても、通いなれた店とは違って見える。
この二日間を盛り上げたくて、せっかくだから楽しみたくて
そんな気持ちが熱気になって伝わる
夏のお祭り。
お店じゃないけど、うちの家族も
いつもとは違って見えるらしい。
浴衣の効果なのか。
お祭りの空気もなのか。
私は、浴衣でもお祭りでも変わらない気がするから
参考にならないタイプだけど。

蛍が浴衣を着せてくれて、
その時に褒めてくれて。
やっぱりスポーツしている人は
すらりとしていてかっこよくて、凛々しくて、
浴衣も映えるね、って。
そんなものなのかなと
半分くらい真に受けて出かけたけれど
でも、浴衣姿でスポーツマンだってわかる人も別にいないし
蛍の身内びいきだな。
仕方ないやつだな。
スポーツマンといったら
浴衣をきた姿より、あれかな。
行動で示すのかな。
盆踊りを踊りだしたら、なんとなく夢中になって
浴衣はだいぶ着崩れて、汗も染みて
凛々しいとは言えない姿だけど
やりたいことを充分にやったから後悔はない。
見た目はともかく、気持ちはだいぶさわやか。
いい盆踊りを楽しんだ。
スポーツマンらしいかどうかはわからないけれど
これが私の夏祭り。
明日も、夕方からの盆踊りはあるから、
もしオマエがまだ踊り足りなかったら
付き合ってもいい。
花火大会がある都合で、今日より時間は短いから
やり残すことなく踊り抜きたいなら、気をつけて。
それから、ちびっこのど自慢大会のステージが5時から。
うちの出演者を応援に行ってやりたいし
盆踊りより大事なイベントになりそう。
出演するのは立夏と、
甘えん坊な立夏が一人では寂しいと
小雨に声をかけたけど
いくらなんでも小雨を出演させるなんてできないし
それで自分から身代わりを買って出て
最初は絶対嫌だと言っていたはずが
なんでこんなことになったのかと言わんばかりの
青い顔をしている麗、
2人が今年の出演者。
今からでも断ろうとしているけど
それも情けないと覚悟を決めては
でもやっぱり、の振り子が
顔を見ているだけでもわかる。
見守ってやるしかできないけれど
麗が覚悟を決めたら
応援してやりたいな!
芸術分野は得意じゃないとしても
お祭りを楽しむための企画なんだし
それに、立夏より音程がずれるなんてことはなかなかないだろうし。
それを考えたら立夏のほうが心配かもしれない。
2人とも、たとえうまくいかなくたって、
せいいっぱいの力を出し尽くせばいい。
そうして、さわやかに花火大会を迎えて──
夏休み最後の日をみんなと過ごしたいな。

ヒカルの偽日記

『スピーディー』

ヒカルお姉さんの
お天気予報。

明日は晴れかも。
晴れたら外に出て行きたい。
庭でもいいし、
公園でもいい。
時には学校に行って、
頼まれていた部活の助っ人が
できたら嬉しい。
あんまり暑すぎたり
体調が良くないときだったら
窓際を歩いたっていい。
日陰で休んで、涼しい風を浴びるだけでもいい。
晴れていると、それだけで
一日を気持ちよく過ごせそうな気がしてくる。
さわやかな輝き、
深呼吸。

もしかしたら
明日は曇りかも。
曇ったらいつもより多めに
体を動かしたい。
限界まで試してみたい気持ち、
抑えきれない。
蒸し暑さには油断できないけど
あんなにぎらぎら輝いていた太陽が
どこにもないなんて信じられない。
あとからあとから噴き出す汗は
今日は夏の気温じゃなくて
別の強烈なエネルギー。
自分の中にある、挑戦したい気持ちが
どこにも逃れる術はなく
汗だくにさせる。

これは天気予報じゃない。
どこからおかしくなったんだろう?
晴れでも曇りでも
まあいいやって
体を動かしにふらっと出て行くから
いけないのか。
こだわりは別にないし。
細かいことはかまわない。
だけど海晴姉も細かいことは気にしないほうだな。
いや、時々うるさい用件にはうるさいけども。
家では天気のことでそんなにこだわってはいない。
お天気お姉さんになるためには
何が必要なのか。
お天気お兄さんでもいいよ。
私も期待されているみたいだけど
才能がないから
後継者になるとしたらオマエじゃないかな。
と言ったって、オマエがこれからどう成長していくのか
わからないな。
高校一年生。
未来はまだ、うすぐもりに隠れているみたい。
私は人より少しだけ
ぼんやりと方向が見えている。
細かいことは気にしない方向に向かうだろうと。

でも、天気にこだわらないと言ったって
雨が続いたらたぶん困るな。
ちょっとくらいの雨ならまだなんとかなる。
夏だから、裸になってシャワーを浴びたらすぐ乾く。
とか言ったら、また裸で歩かないでって
怒られるかも。
子供じゃないから、ちゃんとわかってるのにな!
後でちゃんと、濡れた床を自分で拭くのに。
でも、小さい子が真似をするかな。
拭き残しがあって誰かが滑っても大変だ。
細かいことを気にしないのも問題だな。
もし私が裸でいるのを見つけたら
オマエにもちゃんと注意してもらえると助かるな。
お願い。

ちょっとくらいの雨だと思って
飛び出していったらやっぱりだめかな。
もし、私が雨の中を走りたくて
うずうずしているようだったら
止めてくれ。
でもそうなったら、
うずうずしすぎていたら
ちょっとくらいは大丈夫だと言い張って
私がオマエを
雨の中に付き合わせるかもしれない。
溢れる行動力を誰も止められなかったら
まあ、その時はその時で。

明日は一応、晴れの予報だけど
時間帯によっては曇ったり降ったりする
不安定な天気らしい。
あんまり雨が降ったら嫌だな。
とはいえ、家族の体を考えると
猛烈な暑さが戻ってくるのも困るな。
わがままかな?
天気のことはどうにもならない。
まあいいか。
晴れるか曇るかしたら、外を走るよ。
暇だったら一緒に行くか?
暑すぎないといいな。
雨が降ったら濡れて帰ってもいいくらいの
暖かさになるかな。

涼しい日が続くと、
このままだんだん秋に近づいていくのかなって思う。
あんなに暑かったのに
季節が変わるのは早いものだ。
明日くらいからよく晴れてくれないと
最近暇そうなペンギンのかき氷機も
来年の活躍の時を待って、そろそろ冬眠に入るだろう。
いやペンギンはずっと寒いところに住んでいるから
冬眠はしないか?
暑い夜に遊んだ花火も
まだ少し残ってる。
これを片付けるくらいには、まだ夏は続くかな。

花火といえば
月末のお祭りは結構派手に上がるよ。
週間天気予報だと、そのあたりの日はまた雨らしい。
予報が外れればと願っているなんて
お天気お姉さんに悪い気がする。
やっぱり私には向いていない仕事だな。
こんな話は海晴姉には秘密にしておこうよ。

ヒカルの偽日記

『にんじんさん』

にんじんは、
英語でキャロット。

栄養素のカロチンの名称は
キャロットが由来。
それほど、カロチンが豊富に含まれる食材らしい。

カロチンは、人間の体内に吸収されると
ビタミンAに変わる。
ビタミンAが欠乏すると、
肌がカサカサしたり、
風邪をひきやすくなったりする、
らしい。

カロチンは油に溶けやすく、
油を使った調理法で
吸収率がよくなる、
らしい。

ただ、にんじんの特有の甘さと味は
熱を加えると出てくるものだから
苦手なら、生のサラダで食べても
いいらしい。

全部、聞いた話。
自分で勉強したのは
にんじんの英語名だけだ。
もし私の不注意で
間違っていたらごめん。
教えてくれたのは、吹雪と蛍だから
詳しく知りたいなら、話してみるといい。

そんなふうに
にんじん推しの
理由は、
ただでさえ熱くて食欲がなくなりがちな
このごろ、
嫌われもののにんじんは
残されてしまう一番の候補だから。

この季節、
トマトやきゅうりは
家庭菜園で取れる。
あまり量はないし、家族全員に渡るってほどじゃなくて
新鮮な食材は貴重な感じがする。
それに、家族みんなが
育つところを見ている、
花壇の一角。
物珍しさもあって、
嫌われがちな野菜にしては、みんなよく食べてくれる。
一生懸命作るところを見てるから、残しにくいのかもな。
でも、にんじんは家では作っていないし。
畑で取れた新鮮な素材!
っていうアピールはない。
にんじんさんとかわいく呼んでみたって
味のほうは大人。
嫌いな子にとっては、
なかなか気持ちを改める機会がない
悩みの一品。

それを聞いたときは、
おなかをすかしていればなんでもおいしいよ、
と思って。
運動するといいな、
私が指導しよう、
と提案したけれど、
暑さと疲れでますます食べ物が入らなくなると
即却下。
暑さに負けず元気なのは
私とオマエだけ。
いや、そんなこともないと思うけど。
暑さに強くて、夏だって運動しておなかをすかして
なおかつ好き嫌いがまったくない
元気なよい子は
私とオマエくらいしかいない気配。
家族の悩みを聞かせてもらったのに
参考になる意見が出せなかった。
吹雪も夏の暑さに弱いタイプ。
食べたほうがいい理屈がわかっていても、
理屈では体が動かないことって、
あるらしい。
理屈に縁がない私だから、わかってやれない。

そういえば、
春風と蛍の料理を食べても
おいしいな。
吹雪や立夏の作ったアイスを食べても
おいしいな。
コンビニに寄って買い食いをしても
おいしいな。
あさひの離乳食まで
おっ!
おいしそうなのを
食べてるな!
って、声をかけたら
そこまで!?
という顔をされたほど。
いや、あさひがそんな顔をしたわけじゃなくて
ごはんをあげていた蛍に。
こんなことでは
参考になる意見は出せないのかなって
あきらめていたんだけど、
思いついた。

ミキサーにかけて
にんじんジュースにしよう!
にんじんの栄養もとれる、
熱中症対策に必要な水分もとれて
一石二鳥。
私でも、いいアイデアをひらめくことがあるんだな。
オマエも一緒に作っていいよ。
同じ大食らい同士、たまには家族にこんな形で貢献したいよな。
大丈夫、
にんじんを切るくらいできるから。
調理実習の成績は普通なんだ。
まあ、学校では親切なクラスメイトに
よく助けてもらえるからっていうのもあるか。
みんな、自慢の腕前を疲労するのが嬉しいんだな。
こんなに上手です!
今すぐでもお嫁に行けます!
どうですか!
って、
私がお嫁にもらってもいいみたいなことまで
言い出す勢い。
まさか女の子同士で結婚するはずがないし、
夢中になってしまうくらい、料理が好きなんだな。
でも私だって助けてもらってばかりじゃない。
学校の授業だ、ちゃんと勉強してる。
ほら、こう。
包丁は、
猫の手!
な?
にゃーん、
だ!
オマエも包丁を握るときは、
もう片方の手を
にゃーん、
だぞ!
ちゃんとな。
恥ずかしがるようなことじゃない。
みんな、こうやって大きくなったんだから。
たぶん。
オマエが手伝ってくれなくちゃ、一人でやっちゃうぞ。
ほら、どうだ。
私だって切るだけなら
まあまあ、それなりじゃないかな。

ヒカルの偽日記

『愛され』

激しい雨と、
吹き飛ばされそうに強い風。

台風みたいに強烈な
春の嵐。

うちのチビたちも
また興奮する。

低気圧が好きなのかな?
元気がありすぎて、
激しい気候には対抗心が生まれるのか。

今日は、昼過ぎから雨が降り出すと、
普段の雨とは違った勢いに、盛り上がる妹たち。
青空はガラスに鼻をくっつけて
食い入るように外を眺めていた。
顔が冷たくなかったのかな?

私はこういう天気を無邪気に喜べるほど
子供じゃないみたいだ。
せっかくの土日なのにな、って。
これから学校が始まったら
嫌でも机にかじりついていないとならないのに。
別に、それが嫌というわけではないけど。
そんなことを言ってしまったら、妹たちに偉そうな口はきけない。
でも嫌かどうかは置いといて、
やっぱり外で体を動かすのが健康的でいいよ。
ああ、なんかもったいないな。
もったいなくて、ウズウズするな。
おまけに、もうすぐ身体測定。
体を張って記録を出して、
健康な肉体を数値で残す日。
来年の成長までの公式記録。
これまでずっと、一年をそうして楽しみにしてきたのに
直前になって体を鍛えられない
このもどかしさ。
蛍はこの際だから体重を絞るつもりらしいけど
こう雨が降ると、私が手を貸してやれることも少ない。
蛍の成長も著しくて喜ばしい。
本人は、このままだと胸がミサイルぽく飛んで行ってしまわないかなんて
冗談を言うくらい。
でも、風呂で見ると確かに予想を上回る成長に
これはもしかして冗談でなく心配になることもありそうだと
見ていてはらはら、
風呂場で蛍に相談されて、赤くなったり青くなったりした。
って、この話はオマエにしないようにって口止めされていたんだった。
聞かなかったことにして、すぐ忘れるんだぞ。
わかったな。
自分ではままならない、体の成長。
女の子に生まれたんだから、悩むことも多い。
春風だって、王子様に振り向いてもらえるようにと
毎晩、愛されボディを目指して、努力を続けている。
これも言わないほうがいい気がするな。
別に口止めはされていないけど。
誰だって悩むとはいえ、
体のことなんて、なるようにしかならない。
成長なんて人それぞれ。
そんなこと気にしないで、明るくいられたら一番いいんだけどな。
というかそもそも、愛されボディって何だ?
筋肉がついた頑強な肉体は、
やっぱり女の子の目指すゆるふわじゃない気がするな?
まあいいか。
私には、なれないし。
それより体を動かすほうが楽しい。
とはいえ、達観するのも難しい年頃の、
そんな子が多いこの家だ。
オマエが男の子として、意見を言ってやったらどうだろう。
体の成長で悩むことなんてない、と。
かける19。
私は言ってもらいたいほど女の子らしくしていないから、
18人分でいいや。
それとも、オマエも体の成長にはひとことあるだろうか。
それもありだな。
相手のことを思っているなら、思うとおりに伝えればいい。
家族なんだから、隠し事は良くないよ。
もしそれが万が一、相手を泣かせるようなことなら、
同じ家族として、私がフォローすればいい。
何を言い出すとしても、
オマエが悪い人間じゃないことは良く知っている。
女の子の体のことで何か意見があったら、きっと参考になる。
あ、まず私が聞いてやる。
先に麗あたりに聞かれたら、男の子の意見に動揺しそうだし。
今日明日は、暇もありそうだし。
話があったらいつでもいいよ。
外に出られないで、時間をもてあます週末。
興奮した妹たちをなだめるために、
年上の私たちは、今日はずいぶん遊んでやって、
へとへとで、だけど満足して、わりとみんな早く寝付いたみたい。
家中こんなに熟睡しているようだと、
チビたちなんて、起きたらすっかり体力もみなぎっているだろう。
明日の天気予報によると、朝方まで雨で、その後も一日空模様は不安定。
また子供たちは、体いっぱい精いっぱい遊びたがるかな?
雨があがったら外に出てみたくなるかもしれない。
そうなったら、危なくないように見ていなくちゃいけないし、
付き合って遊んでやりたいから、また疲れるかも。
私に天気の予測はできないけれど、
長年の経験を生かして、たまにはしてみたい。
家族の、今はまだ分からない活動予報。
私の予報では、
明日は全員が全員、一日中ずっと手に負えないだろう。
過去のデータも天気図も人工衛星も使わない、根拠のない予想。
もし当たったら、
ちょっと嬉しい。
それだけ。
仕事でもない、役に立たない、ただの遊び。
当たればいいな。
その時、また明日が元気な子を相手にする日になったら大変。
オマエも早く休むんだぞ。

ヒカルの偽日記

『報酬』

麗が健康に気を使って
舐めているプロポリス。
この季節になると、
のどかな陽気で気持ちが緩んだり
変わっていくことが多くてそれどころじゃなかったりして
忘れているときもよくある。
麗は電車みたいに正確に行動を決めて動くのが望みだけど
もちろん小学生だし、なかなか予定通りにはいかないみたい。
あと、健康のためには
好き嫌いを直すのも重要な気がする。
それから、毎日のトレーニングで体を鍛えるのもいい。
ともあれ、健康に気を使うのはいいことだ。
立夏にも少し見習わせたいな。
でも、立夏はあれがあの子らしいんだから、いいかもしれない。
麗も立夏も、ずいぶん性格は違うけれど
みんなかわいい私の妹だ。
麗よりも小さい子たちや立夏は、
プロポリスなんて苦いものをどうして?
と、首をひねっているけれど
そういえば似たようなことを私も言われる気がする。
どうして、苦しい思いをわざわざ?
毎日きっちり、あんなに大変なトレーニングをするなんて。

プロポリスが苦くても、健康にいいならあまり気にならないのと同じで
私が走る理由は、たくさんのものが報酬になるからなんだろう。
体を動かすのは楽しいし、
強い体を作れる。
もしかして、家族みんなを守れるようになりたいから
続けられたのか、と思ったこともあるけど
オマエがいて、だんだん家族を任せられるようになっても
私は好きで走っている。
オマエはまだまだ頼りないときもあるから、それで鍛えたりないのかな。
この時期は、年度末だから道路工事が増えて
通らないほうがいい場所をよく見かける。
せっかくだし、朝のジョギングのコースを、
そのときの気分で少し変えたりする。
暖かくなってきて、なんだか浮き浮きして
新しいコースを開拓してみたいのかも。
普段は横目で通り過ぎる脇道。
気になっていたところも、そうでないところも
道がありそうだと覗いてみると
小さい頃に冒険したかすかな記憶のある見慣れた風景や、
覚えているところがあっても、工事で変化した道なんかが見つかる。
当然と思って繰り返す習慣に、少しだけ新鮮な風が吹く。
意外な狭い横道から自転車が顔を出して、ぎょっとしたり。
狭い道、そんな路線があることも知らなかったバスが、ゆっくり進む後ろを
カルガモの親子みたいに何台も車が連なってついていく。
あんなふうにゆっくりした風景が、なんとなくほのぼの思えるのは
穏やかに暖かくなって、過ごしやすくなったこの季節だからだろうか?
のどがかわいたとき、初めての自動販売機、目を引く色合いを見つけて
そこでは、あたたかい飲み物が減って
つめたい青のマークがやけに目立っていることに気づく。
まだ微妙な頃合なんだなと、機械が迷っているみたいでちょっとかわいく思える。
その変化が日に日に、自然に思えるようになる気温。
白と薄桃の景色を通り過ぎることも、少し前からは日常的な風景になっている。
自分ではどうにもならないことで変わっていく環境に、落ち着かない感じがして、
でもなぜか新しいことに挑戦してみたくなる、わけのわからない感覚。
これが、春が来たってことなのかな?
オマエも何か始めるつもりなら、
毎朝のジョギングに連れていってやろうか。
春休みも待っているし、健康的な習慣に興味があったら
気軽に始められるタイミングだ。
麗も一緒に連れ出してみようかな。
さわやかな季節を全身で感じられて、
体にいいことは請け合いだ。
鍛えていると、電車に乗るよりちょっと歩いてみるかってなるけど
そうなるのは麗は歓迎しないかもしれないな?
まあいいか、こういうのは、参加してみて損はないことだ。
オマエの意見はどうだろう。
運動能力に関しては、私は家では少数派。
体を動かすのはいいことだとわかっていても
毎日がっつり鍛えるのは大変だと思うほうなのか?
人間は、動き回っているほうが自然だって気がするから
私は何も苦にならないんだけどな。
パワーあふれる子供たちに付き合っているから、そんなふうになるのか。
だけど、頭を空っぽにしてぼーっとしているのも嫌いじゃないな。
オマエがこの家に来てからだろうか。
オマエは、わりと動じないほうだもんな。
のんびりしているっていうか。
うちみたいな大家族に馴染むのも早かったし、大物なのかな?
どうも私は周りに影響されやすいのかもしれない。
もし誘われたら、細かいことを忘れて、ゆっくりしていそう。
なるようになると、身を任せて。
時にはそれも私の自然な姿なんだと受け入れるんだろう。
それはともかく、明日からも走るのは変わらない。
オマエがジョギングに参加するきっかけがつかめないって迷うなら
私みたいにうれしいことがたくさんあれば
自然に続けていけるようになるのかな。
私はただ、走っているだけで満足だし
これ以上を求めようとも思わない。
でも、オマエと一緒に行けたらと誘いたくなるのは、
もっと楽しいかもしれないって予感がするからなのか。
欲張りなんだろうか。
私がこんなに楽しくいられるように
オマエもそうであればいいなと思っている。
もし、走る喜びを感じてみたいならぜひ協力したいんだ。
最初の一回くらいなら、自動販売機のジュースをおごってあげてもいいよ。

ヒカルの偽日記

『絵本の日』

今日も風は冷たかったけれど
ユキは大丈夫、元気に学校へ行ってきたよ。
寒いと言っても、もう3月も中旬になる。
うちの姉たちも桜の開花が気になる季節。
数日前までは、春が来ないうちに
もう初夏になりそうな天気だったけど──
私は今日みたいにゆっくりと季節が変わってくれるほうがいい。
急な変化には、誰だってそう簡単についていけないものだし。
と思うけど、オマエが来たときはすぐに馴染んだ子が多かったな。
どこか、そういうものだと前から思っていたなんて言った子もいるし。
我が家にはずっと、不思議と何か足りなかった気がしていたって。
そこに当たり前みたいにすっぽり入ってくるものなんだって。
いずれオマエが来るものだと、最初から決まっていたような感じ。
それまでだって楽しくても、幸せでも、平凡でいることに何の不満もなくても
なぜか欠けていたような、必要なもの。
物足りなかった心のどこかに、気がつかないほどかすかな隙間風。
一人やってきただけで、こんなに暖かくなるものなんだろうか。
いったい、なんなんだ?
これからの私たちに、また新しくそんな変化なんて起こるのかな?
嬉しい、騒がしい、当たり前の、
私たちの日常の小さな一部分。
いつも通り過ごす日々は何も変わっていないはずなのに
オマエが入るだけでずいぶん違った景色に見える。
思い出深い昔の日々も懐かしいけれど、
そんな頃に戻りたい気持ちが全くないのはなぜだろう。
まあ、戻ろうとしても、もうオマエを家から追い出すわけにはいかないし。
その分、おかしなことをしたらしっかり叱って、
叩き直してやらないと。
夕凪のいたずらに付き合ったり、
拾ってきた猫をかくまってやったり、
虹子の納豆を代わりに食べたり、
あたりは、問題なく許せるとして。
風呂を覗いたりしたら驚く姉妹が多いだろうけど、
オマエはそんなことはしないか。
家族なら一緒に風呂に入るし、覗いて楽しいこともないもんな。
意外とおかしなことはしないんだな。
男って、もっとよくわからないものだと思っていたんだけど
一緒に生活してみないと見えないことがある。
全然、普通だ。
勉強もそんなに好きじゃないって言いながらしっかりやってるし。
苦手なわりに、結構教えてもらえるし。
私の運動にも付き合ってくれるし。
同じ歳っていうのもあるけど、
きょうだいで誰より、一番近いような感覚までしてくる。
すると、やっぱりオマエも、春になると変な気分になったりするのかな。
この日々が通り過ぎてしまうと困るような、わけのわからない気分。
過ぎ去る時間を止めるわけにはいかないのに。
別に、新しいことが始まるのが嫌なわけでもないのに。
特別に変わってしまう具体的なことなんて何もないのに──
なんだか、寂しいような、怖いような、
よく似ているけどまったく別の感情のような。
新生活に向けて忙しくしている間はあんまり気にならないけど、
ふと息をついたときに、物足りなくなる気持ち。
まるで、誰かに近くにいてほしいと
私の体のどこかでつぶやいているみたい。
変なの。
まあいいや。オマエも片づけが大変じゃないか?
古い教科書をまとめて、来年の分を入れる場所を作らなくちゃ。
高等部になったら、一年前の教科書も後で見直すことが増えるって春風が言うから
どうしようか考えていたんだけど──
中等部の頃にも同じように言われて、こないだまですっかり忘れていた。
まとめて押入れに放り込んだけど、見直す機会なんてなかったよ。
だから、まあいいかと思って。
うちにはさいわい、勉強で困ったときに教えてくれる人がたくさんいるんだし。
頼りにしてるぞ。
嫌いだからって、あんまり勉強をサボるなよ。
私も、できることがあったら助けるよ。
できそうなことって、体を鍛えるときくらいしかないかもしれないけど。
その時は相談して。
今年の教科書をきつく縛って押入れに持っていったら、
懐かしいものを見つけた。
もちろんそれは、中等部のときの教科書。
この時期の私はまだ鍛え方が甘かったのか、
縛り上げた紐にも、まだ余裕がある。
今ならもっと圧縮できるのにな。
後で縛りなおすから、暇だったら手伝って。
オマエが手伝ってくれたら、古本圧縮の記録を更新できるかもしれない。
それから、他にも見つけたもの。
ずいぶんボロボロになったけれど、今でもよく読まれている本。
これから先もしばらくは、すぐに取り出せるような場所においておかないと。
私たちも小さい頃に使っていた、一番最初の教科書。
いつまでも色あせないというには見た目のほうは自信がないけれど、
内容は文句なし、
今の子供たちにも新鮮なお話の数々だ。
オマエはどんな絵本を読んで育っただろうか。
たとえば、100万回生きたねこの内容って、覚えてる?
さっき見直したけど、こんなに切ない終わり方だったかな。
バーバパパの子供って、7人だけで寂しくないかなあ。
ウォーリーを探すことにかけては霙姉は実力があった。
あの性格でいつも正解をじらすものだから、悔しい思いをしたっけ。
あさひが必要としなくなるまで、もう少し活躍しそうな、
ほこりっぽい押入れで見つけた宝の山。
それとも、あさひが大きくなってからも
うちにはこれを引き継ぐ子が現れるかもしれない。
そうか、これから嬉しい変化があるとしたら
また当たり前みたいに赤ちゃんが増えていくってことだな。
ママはその気がないみたいだし、
オマエがどこかから赤ちゃんを連れてきたら、
やっぱり私は怒るところなんだろうか。
それとも、家族たちが喜びそうだし、私もそれを見て一緒に嬉しくなるのかな。
うーん、考えてもわからないか。
それより、今のところは早く作業を終えてしまおう。
私が当たり前に新年度を迎えるための、忙しい時期。
また今年の春も、オマエと普通に過ごすつもりだ。

ヒカルの偽日記

『初心』

こんな寒い日でも、
家に帰ると家族が出迎えてくれて、
チビたちなんかは飛びついてきて、
あっという間に熱くなってしまうほどだ。

ほっとするよ。
私は外にいても、こういうのを思い出して、
もうちょっとやってみるか!
ってなったりして。

でも、たまに──
女の子が多いから、恋の話になって、
そんな時は聞いているだけなんだけど、
お嫁さんになるって話が出ると、
この家は広いけど、みんなの子供の部屋まではない。
いつかは家を出て行く子もいるかもしれない、
って思う。

寂しいことだけど、仕方ないんだし。
そうなったら祝福して、見送ってやりたい。
この家は私が守っていくから、安心していいよ、大丈夫──
そう言ってあげられたらいいな。
私はお嫁にもらってくれる人もなさそうだから。

だけどやっぱり、
いなくなるなんて、寂しくてあんまり考えたくない。
大事な家族だもんな。

オマエはいいよな。
好きな子を嫁に選んで、連れて行っていいんだし。
春風でも、蛍でも、誰でも、
オマエが選べばずっと離れないでいていい。
でも、私はそういうわけにはいかないじゃないか。

どうも私は変なことで悩む時があるみたいだ。
頭の中がぐるぐるして、
すっきりしない感じ。
いつもあることじゃない。
たまにそうなるみたい。

そんなときは、運動して気分を変えたくなる。
頭が空っぽになるまで、
余計なことを何にも考えなくていいように
体を動かして、汗をかいて、
溜まっているものがみんな流れてしまうまで
一心不乱に──

そのうちに見えてくるもの。
そもそも私が運動しているのはどうしてだったかな。
今みたいに悩むよりも前のことで、
こうしている私は、どこから始まったんだろう。
私の最初の気持ちはなんだったのか。
私を動かし始めたものは何なのか。

そうするとたいてい、
まだ小さかった頃の私と、
大きくなりながらいろいろあった私と、
ずっと近くにいた家族の姿が浮かんでくる。
昔、いろんなことをしたよな、って。
どれかひとつが小さなきっかけだったって思い出すときもあるし、
もうちょっとごちゃごちゃした長い期間も。
それは私が忘れていたような子供の頃の思い出だったり、
ほんのついこの間の、何気なく続いている生活だったりする。

私が戻っていく場所。
どこかに出て行く始まりになって、
いつも心のどこかで思っていて、
またいつか戻ろうとしている
そういう始まりが、
家族たちと過ごしながら、もらっている何かなんだろうって考える。

ああ、
家に帰ったときのほっとする感じが
また大事に思えて
あれでいいのかな、
と、ときどきそんな答えが出たり。

また迷ったり。

そんなことを繰り返している。
だからたぶん、
いつか、私以外の全員が出て行ってしまって
もしもこの家に
私しかいなくなっても、
変わらないことなんだろう。

何かに迷ったら、
この家でみんなと過ごした時間に
いつも戻ってくると思う。
それを思い出せるこの家にも、何度も戻ってくると思う。
そして、またここに戻ってくる予感を胸に
そのときの私も外に出て行くんだろうな、と思う。

そんなことを考えると寂しいし、
悩むことはわりとあるとしても、
答えが出るときは、同じだったりもする。

子供の頃から家族と過ごして、
オマエがやってきて、それからずっと一緒に住んでいる
この生活が私のはじまり。

迷ったときには、
そうやって初心を思い出すんだ。

オマエが迷ったときの参考になるかな?
それとも、もっといい考えがあったら教えてよ。
私は、頭を使うのがあんまり得意なほうじゃない。
あんまりいい方法が浮かばないのかもしれないし。
いや、オマエが迷わないようなしっかりしたやつだったら
余計なお世話だな。
あんまり悩むことがない脳天気なやつにも見えるけど、
まあそれはそれでいいか。

だけど、
このごろは寂しいことを考えると、
なぜか、オマエだけはずっと近くにいて
今と同じように一緒に、私が戻る場所を守っているような
不思議な予感がある。

オマエが結婚して家庭を持ったところへ
遠慮なく転がり込むような無神経な自分ってことなのかな?
まあ、オマエなら笑って迎えてくれそうな気がするし、
春風も蛍もあんまり気にしないだろう。

ま、そんな先のことはいいか。
昨日も今日も天気が悪くて、
チビたちは元気がありあまってる。
明日は泥まみれにならないように、
しっかり見張っておかないと。
早く学校から帰って来たほうが良さそうだ。
どうやら寒さが続くかもしれないって話だし。
オマエも、あいつらが無茶をしないように見ていてくれよ。

まだまだ、やることがいっぱいで
迷ってる暇なんてなさそうだな。

ヒカルの偽日記

『ダブルス』

今日は寒かったな。
オマエはどうだった?
こんな日は、近くにいればよかったのに。

私は、個人的な買い物があって
デパートに行ってきた。

一人でもいいかな、と思っていたけど
ちょうど虹子が暇そうにうろうろしていたから
声をかけたんだ。

虹子が言うには、
それなら今日は、
フレディとフラミンゴはお留守番だって。
遊ぶのはまた今度。
フレディとフラミンゴに悪いことしたな。
私は会ったことないけど。
どこに出没するのかもよく知らない。
もし、オマエが見かけたら
一言謝っておいて。
いや、本気にするなよ。
まあそれはともかく。

楽しかったよ。
オマエも来れば良かった。
近くにいたら、誘ってやったんだけど。

虹子はちょっと気をつけていないとすぐ
浮かれて歌いだすし、
手を離してどこかへ行こうとするし、
知らない人に挨拶をするのが好きだし。
そのたびに注意していたから、
姉妹というよりは
親子に近い二人だったかもしれない。
虹子にも困ったものだ。
もし、オマエが来て
三人だったならどうなっていたかな。
周りの人が見たらきっと、
お父さんが二人いる変な親子になるだろう。

デパートに着いても、
まだ自分には大きすぎる服を見て楽しんでいたようだ。
私の行く先はスポーツ用品売り場。
虹子にも付き合ってもらったことだし
何か買ってやりたかったけど。

新しい靴は欲しくないか。
こっちのポロシャツは似合うんじゃないかな。
ここのタオルは洗濯に強いぞ。
繰り返し使えるぞ!
いろいろ聞いてみたけど
虹子の希望は
パフェが食べたい!
だった。

子供って、
面白いよな。

あんなにいい服がたくさんあったのに。
動きやすそうなのが。
すぐテニスの公式試合ができる白い無地のやつも。
いろいろ便利だと思うんだけどな?

買う予定だったのは
スポーツタオル。
虹子の意見も参考にしたよ。
もう少しシンプルなほうがいいかなあと思ったけど、
絶対こっち!
かわいいから!
と、押し切られた。
虹子が使うわけじゃなくて、
私の買い物だってちゃんと説明したんだけどな?
もちろん、虹子にもおそろいのを買ってやったけど。
でも、使いやすそうなやつだったから
やっぱり虹子は私の妹だな、
見る目があるな、
連れてきて正解だったな、
虹子が妹でよかったな、
これはもう、
虹子は将来、私が面倒を見てやるしかないな!
スポーツの実力を鍛えてやりたいな。
と、決めた。

それから、
こっちも虹子のおすすめ。
お店で見かけて気に入ったらしいよ。
蛍光ピンクの、テニスグリップ。
滑り止めに巻くやつだ。
リボン結びに使うには、ごわごわしてるし太すぎるけど
どうにか虹子の髪留めに巻いてやったので、見てあげて。
今日の虹子は、普段よりもっとキラキラのお姫様!
だそうだ。

せっかく選んでもらったけど
このところ天気もあまりよくなくて
コートはどろどろのまま。
テニス部は筋トレが中心の練習メニューらしい。
助っ人によく行ってるから部活に参加はできるけど、
こんな時期にコートだけ使わせてもらうのもなんだか悪い気がして。
今度晴れたときには、コートの整備を手伝おうかな。
それで、ラケットにピンクのグリップを巻いて、
妹に選んでもらったって自慢するんだ。
晴れるのが楽しみだな。

将来有望な妹がいるぞ、って言っても
テニス部の連中には関係ないか。
15年後くらいの話だもんな。
その頃は、私は30過ぎか。
まだ全然現役だ。
虹子とダブルスを組んでコートに立てるかな。

今日のデパートには
オマエに似合いそうなポロシャツもあったけど、
今度また行こうか?
コートの整備を手伝ってくれるなら、
オマエも練習に参加してもいいと思うよ。
二人でダブルスを組んで
テニス部の連中といい勝負ができたら楽しいと思う。
オマエは前と後ろとどっちがいい?
私ならどっちもいけるし、好きなほうを選ばせてやるよ。

虹子がテニスをするようになったら私と組むんだからな。
その時はオマエとは敵同士だな。
いい勝負をしよう。

ヒカルの偽日記

『おっぱい』

変なことを聞くけど──

オマエは
おっぱいが好きなのか?

どのくらい好きなんだ?
水や空気のようになくてはならないものなのか?
手が届く距離にあってほしいのか?
夢に見るまで憧れているのか?
オマエにとってどこまで必要なものなんだ?
おっぱい。

サイズは、大きいほうがいい?
小さいの?
ちょうどいいくらい?

形が好きなのか?
揺れるといいのか?
触ってみたいのか?
匂いはどうだ?
どのへんに興味がある?

たいして面白くないものだと思うんだけど
そんなにいいの?
どうして人の心をここまで動かすのかな。
関わっただけで騒ぎが絶えない。
たかがおっぱいにいったい何があるんだ。

オマエのおっぱい好きを
詳しく知りたがっている子は
実は、私じゃなくて立夏だ。

おっぱいだけじゃなくて
おしりの好みも気にしていた。

セクシーなおっぱいと
キュートなおしりでは
どっちが好みだろう。
それって、どっちを選んでもたいして違わないよな?
というか、どっちだったら立夏にとって嬉しいんだ?
真剣な顔をしてうなっていた。
オマエが立夏にとっていい返事をしてあげられたらなあ。
でも私も悩む意味があまり分からないから、アドバイスができないな。

オマエがさわやかな顔で
「おっぱいが好きさ! 大好きさ!
 立夏のおっぱいはいいおっぱいだ」
って言ってあげられたら、解決するのかなあ?
何が解決するのかわからないけど。
あ、おしりのほうが好きならそれでもかまわない。

オマエの部屋かどこかで、何かそういう本でも見たのか──
それとも野生の勘なのか、分からないけど。

そもそも、
立夏が自分のおっぱいを見てもらって
気に入ってもらいたい
というわけでもないようだ。
勘でかぎつけたらしいのは、オマエのおっぱい好きだけであって。

様子を見ていたらどうも、
バレンタインに作るチョコを考えているようだな。
おっぱいチョコ。
おしりチョコ。
お兄ちゃんの好みはどっちだろう。
そんな世界の終わりのような顔をしてまで悩むことなのか?

それほど、オマエの喜ぶ顔を見たいのかもしれないな。
立夏に正直な気持ちを教えてやってくれ。
オマエに喜んでもらうことが、たぶんあの子にとっては一番嬉しいんだ。

でも、ちょっと気が早いとも思うな。
バレンタインはまだもう少し先だし。
立夏みたいに独創的なチョコを作ろうとしたら、練習も大変なのかな?
ときどきはお菓子作りも手伝っているけれど
基本的に不器用で、なんとなく心配な立夏。
準備が早いに越したことはないか。

そういえば、私もチョコを作るように春風と蛍に誘われているんだ。
あんまりやったことないし、材料が無駄になってもいけないし、
買ってくるほうが早いよ、と主張したんだけど
それではだめだって。
左右から口をそろえてたしなめられた。
だめなんだ……?
まあ、簡単にできるっていう話だから、
味を気にしなければそこそこ料理だって作れるんだし、
失敗もしないだろう。
私のほうは何も心配することはないさ。
大丈夫だって。

立夏のチョコはどうなるかわからないが、
オマエに食べてもらいたくて作っているんだ。
少しくらい不器用でも、受け取ってあげて。
もし助けが必要な事態になったら、その時は一緒に食べてやるよ。

ヒカルの偽日記

『12時のシンデレラ』

今はお昼寝しているチビたちだけど──

さっきシンデレラの絵本を読んであげていたら
こんなことを聞いてきた。

「いじわるなお姉ちゃんって、
 おうちで言うと誰なの?」

難しい問題だ。

シンデレラは汚れた服を着ていたっけ。
それで、思い出したことがあるんだ。

昔、小さかった頃の私は、
いつもほこりと泥の中を転がりまわって
みんながあきれるほど服を汚していた。

だから、着替えて遊びに行くときでも
洗濯籠の山盛りの中から
まだマシなものを掴み取っていったり、ずいぶん回りを困らせたらしい。
転んで穴が開いたものだって
擦り切れてボロになるまで平気だったんだ。

何か違うかな?
この話だと、いじわるなお姉さんは出てこないし。

シンデレラはガラスの靴だけど、
汚れた服は同じなのに、私は靴をたくさん履きつぶしてきたっけ。
夢中になって走っているうちに
気がついたら、靴のかかとが舌を出したみたいに笑っている。
もちろん靴下は真っ黒だ。
ガラスの靴なんて、すぐに破壊してしまうだろう。

シンデレラのガラスの靴はもともとは毛皮の靴だとか
最初からガラスの靴だった説もあるとか
マリーや吹雪が詳しかったけど。

どんな素材でも、私にかかれば変わらないだろうな。
少し大きくなって、ちゃんとしたスポーツシューズが足に合うようになると
やっと家族も安心したって、よく聞かされた。
それからも、たくさんの靴を壊してきたけれど。
姉妹で一番の靴持ちは、
おしゃれな海晴姉でも春風でもなくて、ずっと私だったのかな。
誰も追いつけない勢いで、靴を壊し続けてきた──
今の靴も、そろそろ買い替え時かもしれない。
オマエはどうだ?
よく私のトレーニングに付き合っているからな。
これからは、オマエと一緒に靴を履きつぶしていくんだな。

ガラスの靴を履くような立場じゃなくて良かった。
舞踏会に行く予定もないし。
だったら、家の雑巾がけでもしているほうが私は好きだ。
あれは本気でやると、案外いい運動になるんだ。
全身の筋肉を使うし、足腰もいい感じに痛めつけてやれる。

でも、思ったんだけど、
ガラスの靴を脱ぎ捨てて王子を振り切る
シンデレラの脚力って、かなりのものじゃないか?
やっぱり、雑巾がけで鍛えられていたのかな?

まだずいぶん汚れた服を着ることが多い私は、
魔法をかけられる前なのか、
それとも、もう魔法が解けた後なのか──
一生、ガラスの靴に縁のない
灰かぶり姫。
なかなか悪くない毎日だ。
だけど、なるべくスポーツシューズはあったほうが嬉しいかな。
今の時代に生きていたら、シンデレラもそう言うんだろうか?

ナイキの靴を履いたシンデレラを捕まえるには
王子にも相当の下半身が必要だな。


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