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氷柱の偽日記

『いきものだから』

えっと。

何から話せばいいのか
わからないけど。

なんか、今度はマリーが書きたいことがあって
日記の順番を回して欲しいと言ってるの。
そりゃ、私はうまく書ける自信がないから
まだあんまり書きたくないけど。
でも、このままだとまた
私の番がどんどん後回しになって
いつになるかわからなくて。
だから今度は譲らなかった。
わがままじゃない。
前から、私の番って決められていたから。
いくら私自身が後回しにしたくても
決まってしまったから。

みんな、日記に書きたいことがたくさんあるのね。

マリーは今度の運動会で
音楽に合わせて踊るって。
さくらのチャイナドールより複雑な、年長さん仕様。
自分でも一部の振り付けを考えたって、自慢げ。
練習をあなたに見てもらいたいみたい。
立夏もダンスが得意だから、一緒に練習してあげている。
少し前に日記を担当したばかりだけど、今度はマリーの日記にかこつけて
自分のことをお兄ちゃんに知ってほしいって。
もっといろいろ知ってほしいって。
ちかごろはふたりとも、ダンスがノリにノってきて
ナウなヤングはディスコでフィーバーと踊っている。
流れるトワイライトゾーン。
いくらなんでも、幼稚園だし
そんな音楽に合わせて踊るわけではないのに
変なのやっていて大丈夫なのかしら。

って、そんなこと言いたいわけじゃないの。
そんなことのために、今日の日記を書こうとしたわけじゃない。

今回はもう、誰にも日記の順番を渡したくなくて
それで始めた見切り発車だから
うまくできないと思う。
絶対、大事なことを言えないに決まっている。
今回は貸しにしてもらって
いつかそのうち、って約束でもできれば
それでいいかと納得したかったんだけど。
私にしては、それだけでもじゅうぶんがんばったんじゃないかって。
でも、ここでまたそんなことをしたら
いつもいろいろもらってばかりだから
そのうち返せなくなる。
一緒にいるだけで、どんどん増えていく。
家族になってから、私だけ一方的にもらっているもの。
私があなたにあげられる以上に
たくさん、毎日。
気がついたら、数え切れないほどだった。
もらったものを返さなきゃいけない決まりなんてない。
わかってる。
わかっていても、自分が対等になれないなんてなんとなく認めたくない。
ゆうべは変な夢を見てベッドから落ちそうになったわ。
鈍感で恥を知らないあなたが
恩知らずにもどこかに行ってしまって
いつか、っていう約束が私にはもう二度と果たせなくなる夢。
変な夢を見るなんて
よっぽど心につかえているものがあるからだわ。
だから、今のうちに言っておく。

私、嘘をついた。
あの写真がクラスで選ばれたから
自分ではそんなつもりじゃないのに
そのせいで言えなかった、なんて。
嘘だった。
私もあの写真が良かった。
さりげなく候補に入れておけば、クラスのみんなも見つけてくれると思っていた。
何も変な写真じゃない。
どうってことのない普通の風景。
でも、わかってもらえる気がしていた。
これといって変わったものじゃないし、こっそり発表すれば
何も起こらないと思い込もうとしていた。
家族のみんなにもバレないで済むくらいの
地味な展示でそれっきり。
そんなわけない。
写真を見たら、誰にだって絶対に
私の気持ちがわかると思った。
たくさんの人に見てもらって、
見た人全員にわかってもらいたかったの。
こんなことはこれからもずっと家族には言えないけど、
私が自慢したい家族なんだと、写真を見た人にはわかってもらえると思った。
カメラを向けられたら、ついうっかり笑顔になってしまうのは
さくらだけじゃない。
あの時は、虹子が楽しそうに歌っていた。
一緒に歌って踊る夕凪も、カメラを向けたらにこーって。
まったく単純な子ばっかり。
カメラの何がそんなに嬉しいのかしら。
私は嬉しくもおかしくもないときに
カメラくらいでは笑わない。
あなたはあの時、カメラに気がついていなかったみたいね。
シャッターの音でこっちを向く前から
ずいぶん嬉しそうにしていた。
世の中にこんなに嬉しいことがあるのか、みたいな。
しまりのない顔で
ニタニタと
あふれる嬉しさをどうしても止められない、
そんな笑顔。
人間の表情筋って、こんなにも崩れるものなのね。
気がついてる?
いつもあなたがそんな顔をしていること。

私は、
あなたをそんな顔にできるうちの家族を
誇りに思う。
たいていだらしのない顔をしているあなたを
そうなるのも当たり前なんだし許してあげてもいい。
それから、いくら嬉しいときでもそこまで変な顔で笑うことなんてない
自分を知っている。
私は、あなたに負けないくらいどんなときでも
こんな気持ちにしてもらっているのに。
私の家族たちに。
よく変な顔で笑っている家族でも。

私は、それを写真に撮れて嬉しかった。
他の人に見せて、自慢したかったの。
誰彼かまわず、
世界中の人に見てほしかった。
ちょっとでいいから
私がどんな生活をしているか知ってもらいたかった。
黙って発表したことは謝るわ。
ごめんなさい。
でも、許可をもらうには
どうして私がこの写真を選んだのか
特に被写体の人には必ず説明しないといけない。
絶対そんなこと言えるわけなかった。
だから、クラスメイトに選ばれて仕方ないからと
言い訳できる環境を整えた。
今、私が同じ状況になってもそうするに違いないわ。

私も毎日、
日記に書きたいことがある。
でも書かない。
麗みたいに、思ったことを上手に書けなくて逃げたいわけじゃない。
自分が何を考えていて、どう伝えればいいのかわかるわ。
ただ、そうすることが怖いだけ。
知られてしまうなんて耐えられない。
私の気持ちを伝えるなんて
そんなの我慢できるわけがない。
別に、言ったらいけないことを考えているわけじゃないのに
あのときはできなかった。
今もできない。
これからだって、ずっとできないに決まってる。
でも、
もし万が一、
人間、生きていれば
この先何があるかわからないから。
けどまあ、あなたは単純だから
今の気持ちが変わったりしないし
主人に対する感謝の気持ちを忘れることもないわよね。
下僕だから。
私が下僕だって言ったんだから
間違いないの。
それなのに、
焦ってしまって、早く言わないといけないなんて
私は何を考えていたのかな。
やっと優しい主人にめぐり会えて
ささやかな一生を捧げる決意をした下僕が
この家を離れることなんてあるわけないのにね。

海晴姉様に頼まれて、
写真の腕はまあそれなりだからと
幼稚園の運動会で、撮影を担当することになったの。
ご主人様が大仕事を任されたんだから
下僕も全身全霊でサポートするように。
ずっとあなたは下僕らしく
ご主人様から離れたらいけないから。
そんなことをしたら、すさまじいお仕置きをして躾けなおすわ。
世界のどこにいたって必ず捕まえて
下僕に本当にふさわしい態度を骨まで叩き込んであげる。
いいわね。
その単純な頭でも、ひとつ覚えるだけならできるわね。
あなたは生まれながらにして私の下僕。
これからもずっと。
ご主人様がどんなことをしても。
あなたにこれからどんなことがあっても。
何があっても、忘れないで。
私から離れないこと。
あなたは下僕で、そうするのが当たり前なんだから。
これは命令よ。
主人の命令は絶対よ。
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