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氷柱の偽日記

『星に願いを』

今日も元気なユキ。
擦り傷だらけになって帰ってきたわ。
目を離すと、どこにでも潜り込むし、
気がつくと、どこにでも登り出して、
あの子の行く手を阻むものは何もない。
生まれたときからいつも何かを追い掛け回して、
止まったら死ぬみたいに走り回って。
女の子とは思えないくらい暴れん坊で、すぐ何にでも首を突っ込んで
生傷が絶えないところは心配の種だけど、
これからも家族をハラハラさせ通しでいてほしい、
私の願い。
びっくりするような事件の全てが、私の喜びなんだから──

ええ、
わかってるわよ。
こんなこと言ったって意味がないって。
でも、誰だって考えるに決まってる。
あの子がもう少し元気でいられたら、
せめて、子供が当たり前に知ることができるたくさんの経験を
当たり前に手に入れることができたなら、
走って、転んで、滑って、誰かと喧嘩して取っ組み合って転がりまわって
自分のことを思ってくれる人がいることを体で受け取って、
悩んだり壁にぶつかったり、時には無茶な方法で痛い目にあったりしながら、
いつかきっと自分の願いは全部叶うんだと信じて、
大切なものをたくさん手に入れる、そんな子供時代を過ごす権利が
ユキにだって必ずあるはずなのに。
せめて、自分の体を負い目に思うことなく
無邪気に大好きな家族と遊ぶことくらい、許してもらえたっていいじゃない。
ユキみたいないい子が、まだ小さいのにつらい思いをしなくちゃいけない
残酷だって表現じゃあ、割り切れない──

残酷じゃなければ、何て言えばいいのかしらね。
願えば叶うなんて都合がいい話はないし、
明日の朝、目が覚めてみたら
夢から覚めたみたいに、全てが良くなっている──
なんてこと、世の中にそんな都合のいい話は知らないし。

ほら、あれがオリオンの三つ星。
あなただって、あれくらいは知っているでしょう?
長い冬の夜、勉強に集中していた頭を休めて見上げた空に
流れ星を見つけることだって珍しくない。

流れ星に願いを叶えてもらおうって
願う言葉なんて、結局ただの独り言なのよ。
たまには、そんな独り言をつぶやきたいときもある。
後で無駄だと思い知らされて後でつらくなるなんてこと、
もう嫌になるほど分かりきっているのに。

夜空の流れ星に、願いをかなえる力なんてない。
七夕も、クリスマスも
誕生日も、大吉のおみくじも
それに、あなたは知らないだろうけど、
まあ、知っていたら、あなたに告げ口した犯人を見つけ出して
口が軽いことを後悔するまで反省を促すつもりだけど、
私、昔は魔法使いだったのよ。
妹たちがどこに隠れてもすぐに見つけ出すし、
考えていることも顔を見ただけで当てられる。
知らないことは何もない、
できないことなんて何一つない、
不可能を可能にする、奇跡の魔法使い。
家族の誰もが認めていたし、私もそうだと思っていた。
どんなことでも、願えば叶う。
私なら何でもできる。

本当は、
世の中は叶わない願いばかりで、
かなえる手段なんて何もなくって、
自分の中でそう決め込んでしまって、
身動きも取れなくなって、
そんなのが当たり前で──

いつからだったか忘れたけれど、
私は信じることにしたの。
願えば叶わないことはない。
私は今でも魔法使いなんだ。
ただ、願いを叶える方法は、夜空に願うことじゃない。
本当の魔法の使い方は、そんなんじゃない。
いつか、夕凪がもっと難しいことを理解できるようになったら、
教えてあげるつもりのこと。
私が伝えられなくなったとしたら、あなたが教えてあげればいいわ。
だって、私がそれを教えてもらったのは──ううん、忘れたけれど、
私よりはあなたが適任かもしれないし。

なんでもできる、本当の魔法。
願いを叶える流れ星は、
他のどこでもない、
私のこの平たい胸の中に
はちきれそうに熱く、輝いているんだと。
一番大事な願いを伝える場所は、そこなんだと

小さな頃に信じていた時と違うのは、
それは私だけが持っている力じゃなくて、
誰の胸の中にでもあるって気がついたこと。
それを教えてくれるのは
願いをかなえているたくさんの人たち、
私のかけがえのない大切な人たち──
もしかしたら、願いをかなえるのは私の中の星の光じゃなくて
誰かの胸の中にあるものなのかもしれない、
そうだったとしても、かまわない。

だから私は、今でも信じている。
できないことなんて何もない。
絶対にない。

なんにでもついてきて、ぼんやり星を眺めているような
間抜けな下僕の中には、
そんな立派な星の光なんて見つからないと思うけど、
だから、私があなたに願うようなことがあるとしたら、
何もない夜の空に消えていくような、無意味な独り言だわ。
意味がないと知っていて、たまにはそんな気分になるだけよ。
今から私がつぶやくことは、みんなそれだけのこと──

これからもユキにはずっと、大好きなお兄ちゃんが近くにいてくれますように。
ユキが自分の体のことを負い目に思うことなく、お兄ちゃんと接することができますように。
いつまでもユキがお兄ちゃんを愛していられますように。
ユキがお兄ちゃんに愛され続けますように。
何があっても家族みんながお互いを大事に思い、
誰一人欠けることなく幸せに暮らせますように。
そしていつか、ユキが病気でつらい思いをすることがなくなって、
あの子がどんな素敵な未来も自由に選べるようになって、
今まで手に入れるはずだった大切なものをたくさん取り戻して、
これから手に入る素晴らしいものを残らず集め尽くして、
他の人より理不尽に悲しい思いをしなくてすむようになったユキが
愛する人たちに見守られながら、
いっぱい、私たち家族をハラハラさせてくれますように。
それから、間抜けな下僕が寒い夜に夜更かしをして
風邪を引いたりしませんように。

どうかお願い、
お星様。
氷柱のお願い、叶えてね。

なんてね。
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