アルケイディア&キュクレイン

アルケイディア&キュクレイン TOP  >  2013年12月

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海晴の偽日記

『カレンダー』

リビングのカレンダーをめくると、
それは今年最後の一枚。
雪だるまを囲む厚着の子供たちのイラストと、その下には
あとたった31日分の数字が並んでいる。
その先で、カレンダーの最後に顔を見せた大晦日。

今年もついに12月になりました。

まだ早いかもしれないけれど
思い返してみる、
いろいろなことがあった一年。
お正月を家族で楽しく祝う始まりから
冬の寒さを助け合いながら乗り切って、
ようやく近づいてくる暖かい季節の気配を、みんなで喜んで。
そしてやってきたまぶしい夏の日々。
思い出がいっぱいの季節も
やがて過ぎて行き──
だんだん色を変える秋の景色を
大好きな人たちと並んで見つめて過ごしたら
今、冬の訪れと共に
一年が終わろうとしている。
新しい年を迎える瞬間が近づいている。
めまぐるしいほどの日々を過ごして
充実していたように感じる一方で、
まだ今年のうちに済ませておきたい
やり残したこともどっさりあるような気もする。
大掃除に悔いを残し、
時間を見つけて部屋の掃除を完璧に済ませようとした
新年のすがすがしい決意はどこへ?
飽きっぽい性格を直して
今年こそは、家族にセーターのひとつくらい贈りたかった!
少しは活躍できるようになっている予定だった
お天気お姉さんの仕事も
教わることばかりでまるっきり新米のまま。
足を引っ張らないように
必死でついていけたら上出来。
天気予報の仕事が増えそうな時期のあと一ヶ月で
もう少しは、成長できるのかしら?
責任を持って挑む大事なお仕事。
すてきな海晴お姉さんの天気予報を見ないと
一日が始まらないんだ!
そんなことを言ってくれるいい子は、
今、どこにいるのかな?
いないかしら?

それに、今年もわからないことだらけで、
毎日向き合うのに真剣だったのが
大事な家族の気持ち。
みんな、たくさんケンカもしました。
仲直りがなかなか上手にできないことも、たくさんあった。
今年もあまさずトラブルだらけ。
毎日大騒ぎをして、
暴走するほうも、
見守るお兄ちゃんお姉ちゃんたちも
いつまでも飽きないようす。
終わらないみたい。
とりあえずは一区切りが、もうすぐ。
来年はもう少し、大人らしく振舞える子が増えるかな?
みんなが新年に宣言する抱負が今から楽しみです。
私も、人のことはあまり言えないかもね。
今年をあと一ヶ月、
たぶん必死で、一生懸命走り抜けて
来年はどんな目標を立てるんだろう。
まだ私は知らない。
あとたった一枚だけになったカレンダーが
この家族みんなに、どんな時間をくれるんだろう?

さっそく、めくったそばから目に付くのは
すでに先月から日付にしるしがつけられている、イベントの予定。
幼稚園や、木花の生徒会も参加する教会のクリスマス合唱会。
そしてもちろん、蛍ちゃんや氷柱ちゃんが大変なお仕事を立派に終えて
家族みんなで楽しむクリスマス。
今日、新しく書き加えられたしるしは
来週の日曜日。
今のところは一番遅く決まったイベントなのに、一番早くやって来るのが
麗ちゃんの学芸会。
演目は、賢者の贈り物。
小さい頃から美人だった麗ちゃんだけど、
ついに目を付けられてしまったわね。
長い髪も、女の子として密かに誇らしく思っているらしかった。
女の子としては少しだけ変わっている趣味を大事にしている麗ちゃんとしては、
半分複雑な気持ちで、
でもやっぱり大事にしているようだった、長い髪。
みんなに期待されることになったのはいいこととわかっていても、
こんなことになるなら長い髪なんていらなかったのに、って
美人の顔を台無しにしてむくれさせている。
そんなふうに、家族にはもっと早く甘えてくれてよかったのにね。

演技が下手だから、恥ずかしくて誰にも見に来てほしくなくて
隠していた麗ちゃん。
本当は乗り気じゃないことを
誰にも相談できなくて泣いてしまうなんて
とても悲しいことだよ。
こんなに素敵な家族がいっぱいいるのにね。
弱音を吐いて、泣いてしまっても
みんな、そうしている。
家族に助けてもらっているんだもの。
この家に来て間もないお兄ちゃんもそうです。
キミもちゃんと、教えてあげてね。
大事なことを、たくさん。
麗ちゃんの来年の目標は、
なんでも素直に話せるようになることかしら。
つらいことがあったら、
もっと当たり前に、泣き顔を見せられるようになること。

それとも、今年のうちに達成できる目標かもね。
あんまり上手じゃない演技に初挑戦するのに
もしも劇がうまくいかなかったらどうするのかしら。
もしもうまくいったときに、うれしいって
誰に甘えるんだろう?
きっと、小さな胸のうちに抱え切れないことがいっぱいあると思うよ。

楽しいことも悲しいことも
家族がいるからいっぱいの一年。
泣いてしまうことはきっと、たくさんある。
これからもいっぱいある。
あと一ヶ月。
この一年の締めくくりの時間。
まだまだいろんなイベントが待っている一ヶ月に、
想像もしなかった特別なことがいっぱいやってくるんだろうと
それだけは、私には今から見えているよう。
何が起こるのか、それはまだわからないけれど。
でも、私はこの12月をどんなふうに過ごせるか
考えただけでどきどきしている。
みんなで助け合って、大騒動の日々を乗り切っていこうとして
今年の終わりを迎えるときに、
どんなに大変なことがいっぱいだったとしても、
大好きな人たちと笑顔を交わすことができたなら
それが一番の幸せなんじゃないかと
今からその日を楽しみにしています。
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吹雪の偽日記

『ボーダー』

冬の早朝、
窓の外には
枯れて色をなくした木の葉と
冷気に耐える樹肌。
薄い霧もかかる朝には
未だ降雪の気配は見えないのに
白く染まりはじめた世界。
私たちの住む地域に霜が降りるのも、まもなくでしょう。
地中の水分が凍ってできる霜柱は、霜とは別の現象で
さらに厳しい冬の気温が条件になっています。
我が家の子供たちが
朝の寒さも気にせずに霜柱を踏もうと外に出て行く
そんな寒い日が来る頃には、
雪の訪れも現実的な予測として近づいているはずです。

それが、だいたいいつごろになるのか
例年の記録を参考にしてみると。
関東地方で、クリスマスに降雪を観測する年は
あまり多くありません。
ただ、可能性が少ないながらも
雪の降る聖夜を待ち望む人たちは
気象条件の整った国ばかりでなく、日本にも多いようです。
西高東低の冬型の気圧配置を考え合わせると
主に太平洋側の地域においては
気象の面で条件的に向いていないと思われるのに、
なぜか、全国的に定着しているイメージ。

偶然にも、
遠い厳寒の国からそりをひいてサンタクロースが訪れる
このクリスマスが、
私たちの住む国でも各地で雪の訪れの可能性がある
境界の時期になるのかもしれません。

寒い季節の訪れは歓迎します。
家族はあまり喜ばないようですが。
体調を崩すかもしれないと、
私の薄着にも、セーターを重ねようと試みています。
自己管理が難しい小さい子ではないので、大丈夫です。
そうは言っても、
運動して一時的に体温が上がった子供と区別がつかないらしく
風邪の心配をしているようです。
やはりキミも、私がこの季節にふさわしい装いになることを望みますか?
それとも、私が自分で想定している快適な温度を保つべきだと
思ってくれますか?

この家には、寒さに弱い体質の子も
比較的強靭な体力を持った子もいて、
ヒカル姉は、少し調子が悪いと感じても
栄養をとって休めばすぐ治ると宣言しているし、
ユキは大事をとって外遊びを控えることが多い。
しかし、ヒカル姉も風邪で伏せってしまうことがたまにはあるようで
どこまでが健康を保てるラインか、
各人でも判断が難しく、その基準は一定しないのでは。
それほど難しいならば
私が薄着で生活する例もありえるのではないか。
それとも、私もやはり自分で想定できない事態が起こって
寒さのあまりに体調を崩すことはあるのだろうか?
健康でいられるラインとは、果たしてどこにあるのか?

そんなことを考えながら、
暖房のきいていない廊下を歩いていくと
リビングのドアを開けたとたん、
暖かい空気にくらくらすることもあります。
ここにも、境界がひとつ。

家族の何人かがが今気になっているラインは
いつまでなら、サンタクロースにお願いの手紙が届くのか。
それで、私はこのごろボーダーラインについて考えるのかもしれません。
ぎりぎりまで待ってもらえる境界線。
ひとつだけのクリスマスプレゼントを、なかなか絞りきれない子には
締め切りは非常に重要な悩み。
今の時代なら、海外にもすぐに手紙が届くだろうし
不思議な力を持つサンタのことだから、そのくらいの無理は通るかもしれないと
期待する子もいます。

また、少し年長のきょうだいが気にしているのは
サンタクロースにまつわる、もうひとつの境界線。

私が気づいたのは、いつのことだったでしょうか。
論理的に矛盾があることを把握していても
夕凪姉のように、信じ続けることは可能です。

夕凪姉のクラスでも、
サンタクロースがいないと主張する子は
何人かいると聞きました。

夕凪姉は言っています。
世の中には、不思議なことを考える人がいるものだ。
本当にプレゼントが届いているのに。
と。

世界中の子に、一晩でプレゼントを届けることが難しくても。
現代では多くの家屋に煙突がなくて、入り口に困っても。
高空を飛ぶトナカイやそりの説明が現実的でなくても。
プレゼントを用意する予算について謎があるとしても。
おじいさんがあえて寒い季節を選ぶことに健康面の心配を感じても。
なぜ、良い子にプレゼントを届けるのか、理由がはっきりしていなくても。

サンタの起こす奇跡の全ては
家族の行動で説明できるとしても。

夕凪姉が、どのような理屈も気にせず
サンタだからと納得しているのに
なぜ私は、論理的に突き詰めただけでわかったような顔をしているのか。
もしかしたら、夕凪姉が正しくて私が間違っているのだろうかと
時に考えることもあります。
サンタを信じる力とは、果たして何なのか。
全ての論理を跳ね除けて
サンタクロースは実在するのか。
だとすると
私は今年、良い子だったでしょうか?

私が気になっている、もうひとつの境界線。
合唱会に参加する子と、しない子と。
私はどう誘われても、参加することはない。
これははっきりしています。

しかし、霙姉は
断られたら断られるほど燃えると
理解が困難な説明をして
まだ私の勧誘を続けます。
なぜなのでしょう?

次の日曜は、麗姉の学芸会があります。
別のクラスの演目には、マッチ売りの少女があるため
見ていて泣いてしまったらどうしようと春風姉は心配しています。
もっと心配することがあるような気がしますが
春風姉は、特に問題はないと考えているらしい。
麗姉は、あまり人前に立つのが好きではないそうです。
それでも麗姉は劇の練習をしています。

仕方なく学芸会を終えた後、
私の気持ちを理解して、霙姉に抵抗する味方になってくれるのか。
それとも、気が進まない要求であっても
何かの意思があってやりとげようとしているのか。
もし、そうする理由を麗姉が見つけ出したのであれば。
私が何かを教えられて、合唱に参加することを断らないこともありうるのか。
家族が私に与える影響は、理解を超えている場合もあります。
予想できる範囲も存在しているのに
どのあたりから、家族は私の考えられない行動を始めるのか。
いまだに判断はできない。
練習を重ねる日々を見ていると
私はだんだん、
麗姉が本当に学芸会を嫌がっていると、断言できない気持ちになっています。
そんなことは、私がこれまで麗姉を観察していた経験を元にしたら考えられないはずなのに。
ただ、家族が支えていると知るだけで勇気が出ると
そんなことは実際にありえるのでしょうか?
私は今、論理的に説明できないことを考えている気がします。

ヒカルの偽日記

『断ってきた』

喫茶店の話。
やっと、伝えることができた。

というより、
伝えるだけは前から伝えていたんだから
わかってもらうことができた、
かもしれない。

喫茶店メニューのおかずは
正直まだ名残惜しいけれど
もう決めたんだ。

だいぶ前から考えていた。
期待されても、喫茶店で働くことはできないんだから
おかずをもらい続けていたら悪い気がする。

相手に無駄に希望を持たせてしまったら申し訳ないし
私も気がひける。

でも、
やっぱり私の付け焼刃の腕前では
とても本職にはかなわなくて。
おいしくて。
毎日のお弁当の時間に、楽しみが増えてしまった。
得をしたような、って言ったらせこいけど
すごく上手だったから。
春風も対抗して張り切って、
私は、いいのかなと少し動揺しながらも
二人に甘えていた。
だって──
おいしいおかずがいっぱいあると、楽しかった。

もういいか、
ここまで世話になってしまったから
何日か働いてみても、
なんて考えることもあった。
喜んでくれるはずだ。
こちらが毎日心のこもったおかずをもらっているんだし
少しでもお礼の気持ちを表現することができたら
きっと、誰にとっても悪いことじゃない。

本当は、自分の得意分野で思いっきり戦えたらよかったな、
と何度も思った。
お弁当勝負に巻き込まれる形じゃなくて。
働くか働かないか、
私が積み重ねてきた日々の力を
発揮する場だと思って
竹刀を構えて、正面からぶつかり合って、
負けたらそれで、すっきり話はまとまる。
そうしたくても、相手には剣道の経験はないからな。
働くのも剣道をするわけじゃないから
意味がない。
もしも私が、自分の得意分野で結果を出せたとしても
喫茶店の助っ人に何か影響があるということは
たぶんないんじゃないかな。
本当にないな。
意味のない想像だな。
あーあ、
本気で戦って決着を付けられないなんて
どうも盛り上がらない。
残念だったよ。

なんとなく、受け入れかけていた。
相手が熱心に誘ってくれるのは、うれしいことなんだ。
今はピンと来なくても、
やってみれば考えが変わるかもしれない。

麗だって、気が進まない演劇をしようとしているんだし。
でも、麗を見ていたら
あんまりやりたくないのは変わらないみたいでも。
私とは、何かが違う。
このごろあきらめたみたいで、一応やるだけはやると決めたみたい。
家族に不満を言いながら、
それを笑って慰めてもらって
むくれている。
仕方ないなーって、自分でも少し笑って。
家族に話せないで悩んでいたらしい、少し前の顔と比べたら
そういえば
気が楽になっているみたいに見えるな。

ああ、なんだ、
悩んでることがあったらこんなふうに話してもいいんだ。
みんな、ちょっとうるさそうにしながらも
なぐさめてくれるんだ。
それはそうだよな。
家族だし。
当たり前だ。
私はあんまり話さないで、なんで一人で考えて
決めようとしているんだろう?
麗が不得意な戦いに挑んで
家族に励ましてもらっているように。
私だって当たり前に、大事な妹の麗を元気付けているように。
私が苦手な分野で戦ってみて、
家族に励ましてもらってもいいんじゃないか。
私がしたいことはたぶん、喫茶店で働くことじゃない。
流されるままに、そのまま誘いに応えるんじゃなくて
私の気持ちを伝えたかった。
言葉だけで気持ちを伝えるのは苦手なんだ
たぶん、自分で考えているよりもずっと苦手だ。
これまでうまく話せなくて、誤解されることもあって
もっと体だけでぶつかれたらいいのになって、いつも考えていた。
今回は。
うまくいかなくて、相手を悲しませてしまったら
私にはつらい話を聞いてもらえる家族がいる。
聞いてもらおうと決めた。
大事な友達に誤解されて、傷つけることになるとしても
私はやらなくちゃ。
苦手なやり方だけど、
いつも剣で語ってばかりいられない。
麗は不満そうにしているけれど、
文句を言いながらも、自分ひとりでは向き合うだけでも難しい壁を乗り越えようと
前向きになっているみたいに見えたから。

だから、今日はお弁当のおかずは受け取らないことにした。
ごめん、ってちゃんと言ったけど
おかずが嫌だったわけじゃないことはわかってもらえただろうか。
別に、そんなに喫茶店で働きたくないってことではない。
今は蛍と氷柱がアルバイトに行って、家に人手が欲しい時期。
麗が苦手な演劇に挑戦しているのを、なるべく励ましてあげたいし。
本当は、私にできることは少ないのかもしれない。
もしかしたら、今の家族の忙しい時期を乗り越えるために
私の力は何の役にも立たないのかもしれない。
ときどき、そんな気はしている。
オマエと一緒に料理を習っているのに
まだ見習いで、簡単な仕事を任されるだけ。
麗が悩んでいる時も、そこまで難しく考えていなかったり。
私には、家族の気持ちをわかってやることなんて
できないんだろうか。
だけど、近くにいたいんだ。
家族がそれぞれの用事であわただしく活動しているこの時期に、
なるべくみんなのそばで見ていたいと思った。
力を貸せることが全然ないとは限らないじゃないか。
実は全然ないとしても、
私は、家族を見ていてあげたいから。
喫茶店の仕事は手伝えない。
今の私には、とても大事なことがあるんだ。
どうしてもやりたいことは、ずっと前から家族を守ることだった。
今でも、気持ちは何も変わっていない。
時々、役に立っていないと感じることがあっても
ずっと変わらないままだと思う。

バカって言われた。
うん、たぶんそうだろうとは思っていたけれど
実際に面と向かって言われると、かなりショックだ。
そんなに大事なものが
ちゃんと自分でわかっているのなら
どうしてもっと早く、はっきり決断しなかったのか。
どうしてだろう。
おかしいな。
家族が一番大事だって、最初からわかっていたつもりなのに。
なんとなく、別に私がいなくてもいいみたいな気がしていた。
たとえ必要とされていなくたって
私が一番大事なのは、家族なのに。
いや、
ちゃんと私は家族に必要とされていて
何があっても変わらずに、ずっと愛されているんだって
ちゃんとわかっている。
でも、わかっているつもりだっただけなんだろうか。
迷惑をかけたくないって、遠慮していたのかな。
私も麗みたいに、悩んでいるときは甘えてみたくなったのか。
今日は素直に、
つらいことがあったと、オマエに話したい。
友達を泣かせてしまったよ。
クラスメートなんだ。
仲が良くて、これからもずっと仲良しでいたかった。
一緒にいると楽しいことがいっぱいあって。
私は、友達のことが嫌いで断るわけじゃなくて
とても大事に感じているけれど
今の私には、もっととても大事にしたいものがある。
申し訳なく思っている気持ちを
ちゃんと伝えたつもりだけど、
うまくいったのかわからない。
明日からも、今までみたいに仲良くしてくれるかな。
もう、お弁当のおかずはもらえないけれど。

トレーニングの走り込みの準備をしていると、
こんなふうにしている時間で
喫茶店の手伝いもできたんじゃないかって、悩み始めてしまう。
私にそんな器用なことができるわけなんてないと、知っているのに。
体を動かして、何も考えないでただ走るだけに専念して
すっきりする気持ちのいい時間が好きでやっていることだ。
やめればそれでいいという話じゃない。
ちゃんとわかっている。
きっと、少し走れば集中できると思う。
今日はなんとなく一人じゃなくて
誰かについて来てもらって、ペースを上げてもらいたい気分。
もしも暇だったら、ちょっと付き合わないか。
この季節は、夕方遅くにランニングしていると
あっという間に暗くなって、なんとなく不安になるときもあるけど
空はよく澄んでいて
星が見えて綺麗だよ。
町のほうでは、人工の明かりが邪魔でなかなか見えない星も
家に近づいてきて、裏山が見える場所まで来ると
明かりも少なくなって、またたく星の光がよくわかるようになる。
あの星の下に私の家族がいるんだと、教えてくれるみたいだ。
家族が一番大事なはずなのに、たまに見失ってしまう私に
あの星空はもうしばらく、これからも輝いて
道を示してくれたらいいな。
ここに、私の大事な人たちがいるんだよ。
って。
私がもう迷わないようになって、
ちゃんと一直線に、
何にも惑わされないで、今一番行きたい場所に向かっていけるような、
そんなふうに私がしっかりするまで、
もうしばらく、オマエにつきあってもらいたい。
どんな悩みも吹き飛ばせるほど、私が全力で走れるように
これからも一緒にいてもらわなくちゃ。

真璃の偽日記

『うわさ』

うわさ話に興味を持ってばかりの
おしゃべりな女の子は
ちょっとだけはしたない。

マリーはね、
会話はエレガントに楽しみたいの。
上品な話題が好きよ。

でもね、
話の引き出しは多いほうがいい気がするし。
いろんな人と話をしたいなって時には
知識がたくさんあったほうがいい。
吹雪ちゃんの好きな数学は高尚な気がするけど、ついていくのが大変なときもあるし。
というか、マリーにはわからないし。
吹雪ちゃんたら好きな話題になると夢中なのね、とかわいく思えたり。
一番長い時間を過ごしたいのは愛するフェルゼンの隣だけれど
マリーの好きな話ばかりになってしまったら、飽きてしまわない?
好きなフェルゼンの話だけ。
もちろん何も話さずにいる時間も、フェルゼンとなら心地よい。
だけど、長い時間を過ごす私たちに
ぴりりと気のきいた刺激は必要かもしれないわ。

やさしいフェルゼンは、虹子や青空が同じような話ばかりしていても
いつも優しく聞いてあげるけれど
マリーならもうちょっと、
他の人にはなかなかできない話題で
フェルゼンを楽しませてあげられたらいいかしら?
と思う。
どんな話が好きだろう?
同じ話ばかりだと飽きないかな?
つい、引き出しを多くしたくて
耳を傾ける、うわさ話。
はしたないかも。
でも、マリーも気高い女王の生まれ変わりとはいえ
女の子。
ついつい楽しむ
気さくなおしゃべり。
迷惑をかけたくないのに
詮索してしまうみたいになって、話題の主役が恥ずかしがってしまうと
マリーいけないわ!
と、苦悩しながらも
うわさ話をしてしまうの。
いけないわ!

それに今日は
ヒカルお姉ちゃまがいつもほど元気がないみたいだって
朝からみんなが心配していたのよ。

冬場にスタミナをつけたくて、
用意したらっきょうの瓶詰め。
お弁当に一個くらいなら、においもあまり気にならないかな?
苦手な子は言ってねーって
春風お姉ちゃまが明るく呼びかけながら、腕には力をこめているのに
ふたはなかなか開かない。
みんなも、らっきょうはカレーの付けあわせにもいいし
そろそろ家族みんなお料理のお手伝いも板についてきたところで
おいしいカレーパーティーもできるんじゃないかな、
きゃあきゃあにぎやかに話し合っていても
なかなか開かない瓶のふたを
いつの間にか息をのんで見つめている。
フェルゼンにも頼んで、立夏お姉ちゃまも挑戦したがって
順番に瓶が一同をめぐって
氷柱お姉ちゃまが瓶を開ける豆知識を披露しても
がっちり頑固に閉じたふたは、
微動だにしない。
こんなにみんなで力を合わせているのに、
大きなかぶじゃないから、全員で引っ張るわけにいかないのよ。
頼りになりそうなヒカルお姉ちゃまは
みんながお願いしても覇気がなくて
瓶詰めを手にしても、力が出し切れないみたい。
うんうんうなってるけど、開かないの。
どうしたの、ヒカルお姉ちゃま!?
顔が濡れていて力が出ないの!?
青空は変な心配をしていたけど
ヒカルお姉ちゃまの優しい笑顔は
新しい顔と取り替えたりできないもんね。
すぐに元気になったらいいのにね。
この調子では、
カレーパーティーはまだ先になりそう?
と、食い意地を張っている場合でもないかも?
マリーたちが心配してもしょうがないことかもしれないけど
観月やさくらと、幼稚園でも暇があれば顔を合わせて相談し合った今日。
その後、帰ってきたヒカルお姉ちゃまから話は聞いたわ。
喫茶店の家のお友達と、いろいろあったのね。
確かに、忙しいクリスマスにアルバイトをしてくれたら助かるけど
ヒカルお姉ちゃまならいつでもいいらしい。
暇なときはまたよろしく、って
今日は喫茶店とは関係ない、梅干のおにぎりをくれたって。
よくわからないけど、
商売をしている家の娘さんって、たくましいのね。
マリーたちも、ママが本気になったら大変かもしれないわ。
フェルゼンをセンターにしたいみたいだし。
もし本当にそんなことになりそうなら、
マリーはフェルゼンの味方よ。
一緒にアイドルグループに入って、すぐ近くでいつも助けてあげる。
任せて。
お弁当に間に合わなかったらっきょうの瓶詰めは
ふたが緩んだのか、ヒカルお姉ちゃまが元気を取り戻したらひとたまりもないということなのか
晩ごはんの支度の途中に他愛もなく降伏したわ。
アルバイト先で、お料理に詳しいお友達から
瓶の開け方の工夫を本格的に聞き込んできた氷柱お姉ちゃまが
呆然としていたっけ。
リベンジ果たせずね。
たぶんマリーたちの家族は、難しい理屈に頼るより
考える前にまず体でぶつかっていくのが向いているのよ。
そういう家系なのね。
この瓶のふたを何としても開ける! とか
蛍お姉ちゃまが晩ご飯の支度をできない日でもカレーを作ろうよ! とか
フェルゼンのことが誰よりも好き! とか。
カレーパーティーの予定は、日付はまだ決まっていないけど
ヒカルお姉ちゃまは、喫茶店の子からコツを聞いてくるから
きっとうまくできるよ、ってその気になっている。
マリーの正直な心境は……
ヒカルお姉ちゃまのことだし、あんまり全面的に任せたら不安な気はするけれど。
張り切っている元気な人の力をうまく引き出してあげるのも、女王の仕事。
やめたほうが、なんてそんな誰にでも言えるような忠告は
マリーは言いたくないわ。
がんばって、ヒカルお姉ちゃま!
もしも、予想をまったく裏切らない結果が出たとしても
マリーは決して責めることなく、全てを受け入れるわ。
それよりもマリーは、ヒカルお姉ちゃまの深刻な悩みが解決したことを
一緒に喜びたいの。
大好きな家族の悩みも知らないで
うわさ話を控えるのがエレガントとか言ってる場合じゃない。
だから、マリーが少しおしゃべり好きでも
フェルゼンは大目に見てくれる?
カレーパーティーをするなら、麗お姉ちゃまが今は大変そうだからその後がいいとか
きっと失敗したらすごく落ち込むと思うし、みんなでおいしく食べるなら早いほうがいいとか
いろいろ意見が出ているの。
失敗するって決まっているみたいな話になっているのはなぜかしら?
やっぱりうわさ話は、気を使って控えめに話したほうがいいかな。
フェルゼンは、カレーパーティーはいつがいいと思う?
もしもみんなが決めかねているうちに、付け合せにしたいらっきょうがなくなっても、
まだ保存している瓶はあるそうだから
ヒカルお姉ちゃまがちゃんと開けてくれると思うわ。
福神漬けを作ってもいいし。
我が家では、小さい子を中心に福神漬け派が多いの。
マリーはらっきょうも好き。
でも、これはナイショね。
うわさ話の種にしたらだめよ。

星花の偽日記

『おかゆ』

蛍お姉ちゃんのおかゆは
とってもおいしい。
だけど、あんまり普段から食べることもない。
だっておかゆは、毎日がんばる栄養をしっかりとろうという感じでは
あんまりない。
体調を崩したときに、つらくても一息ついてほしい、なんとなくそんな味わい。

食べやすくて体が温まる。
薄い味付けが、弱った体を優しく包んで
ゆっくり眠れそうな気配。

もちろん、普段から食べても何も問題はないですね。
消化に良いのは、うどんも同じとは思うの。
でも、うどんは人気のおいしさなんだけど。
大好物はおかゆです、
毎日でも食べたいです、
っていう小学生もあんまりいない気がするね?
うどんはいつ食べてもおいしいのにね。
特に冬場はいいんだよね。
暖かい湯気が揺れる
おだしのいいにおいが立ちのぼるおわんは、ちょっとほっこりする景色。
どんな具を入れても合いそうな気がする。
ほうれんそうやわかめもうれしい、
卵が入っていても満足感があるし
定番のてんぷら、かき揚げや油揚げ、それぞれ我が家にもごひいきの子がいる。
コロッケもカレーも合う。
麺は、こしがあって食感を楽しむのもいいし
よく煮込んだり、柔らかい麺につゆの味がなじんでいるのもいい。
どんな食べ方を選んだって、心も体もうっとり。
ほかほかになります。
星花たちはまだお料理がそんなに上手じゃないから、つい煮込みがち。
するっといくらでもおなかに入るような単純な作り方ほど、実際は難しい。
蛍お姉ちゃんは今日はアルバイトでいなかったの。
海晴お姉ちゃんに、明日はうどんを食べてもらったらいいでしょうか?
おかゆばかりでは飽きてしまうもんね。

とうとう本格的に寒くなってきました。
もう12月だーって驚いていた日々から、だんだんこの寒さが日常になってきて。
早く日が暮れて、薄暗い夕暮れに一番星を探しながら帰ってくる間も
ほっぺたがひりひり冷たい。
鼻先が赤くなっていても
星花の鼻では、トナカイみたいには役に立たない。
おうちに帰ってあったまろう。
交通量が増えている年の暮れ、夕方はさらに帰りを急ぐ人がいっぱい。
にぎやかな町にそわそわしているばかりじゃなくて、車にも気をつけて帰ろう。
夕凪ちゃんと手をつないで歩こう。
おうちには星花と夕凪ちゃんの帰りを待っている家族がいます。
お兄ちゃんはもう帰ったかな、と顔を思い浮かべて話し合うと
つないだ手も大きく振られる。
まだ帰っていないのなら、
星花と夕凪ちゃんが、お兄ちゃんにおかえりを言ってあげられる家族。
今日も早くみんなでそろって
晩ご飯の時間にしようよ。

帰りが遅くなるのは、海晴お姉ちゃん。
お天気お姉さんのお仕事だけじゃなくて、大学のお勉強もあるんだもの。
寒い時期だから、心配だったの。
星花だって帰り道に考える。
このお空に星がもっと輝く時間には
もっと寒くなるんじゃないかな?
きれいな景色だと見ているだけの道ではない。
凍えてしまってとても心細いかもしれないな。
聞いてみたら、体調管理は大人が一番気をつけないといけない基本のひとつだから
大丈夫、って言ってくれたんだけど
今年とうとうおうちで風邪を引いてしまったのは
海晴お姉ちゃんだったの。
ついつい無理をしちゃったって
赤くなってつらそうな顔で、無理をして微笑んでいました。
すぐに部屋に戻ってしまって、今はゆっくり休めているでしょうか。
この時期、つい焦ってしまう気持ちは
お仕事をしていない星花でも、なんだかわかるの。
こんなことを言ったら生意気でしょうか?
12月は、小学生でもついあわただしさを感じるよう。
クリスマスも来るし、今年も終わるんだし。
それに思っていた以上の寒さに、厚い着替えを取り出すのもまだ馴れないうちに
日々洗濯物がたまって、早くたたんでしまわなくちゃいけなくなって。
小学生も意外と気ぜわしい……ような気もする。
大人の人と比べたら全然たいしたことはないはずですけど。
夕凪ちゃんの服が山になってしまって、
放り出している間にほこりがつくよ。
よく食べてるガムがついてしまったら大変だよー。
暖房で溶け出すチョコも注意です。
掃除のコツって、いらないものを捨てる事だって聞くけど
夕凪ちゃんはそんなにいっぱい何かを集めているわけでもなくて
いらないなら捨てることも苦手ではなさそうなんだけど
なんで整理整頓って感じじゃなんだろう?
吹雪ちゃんのほうが、持ちものが多いのにまとまっている気がする。
星花は大事に集めた三国志グッズがあって
どれも手放せなくて。
大掃除ももうすぐ。
冬休みに入ってからの数日で終わるものなのかなあ。
このごろ部屋が散らかりがちだと、思ってしまう。
やっと迎えた楽しい年末年始なのだし
きっと遊んでしまいそうだよ?
お兄ちゃん、年末もどうかご指導をよろしくお願いします。
町の気配につられてしまうのかな、
つい急ぐよりは、落ち着いて行動しないといけないことはわかっていても。
星花たちも慌てがちなんだもの。
お仕事も勉強もあって
きっと年末で忙しい海晴お姉ちゃんが
無理をしてしまいがちなのは、やっぱりそうなってしまうのかもしれない。
いくら豪傑でも、病にはかなわないものです。
海晴お姉ちゃんは頼れるお姉ちゃんに見えるけど
やっぱり無理をしたら風邪を引いてしまう。
こんなふうに体調を崩す前に、力になりたかったな。
星花たちのご飯では、
栄養をバランスよくとってもらって手助けとは、なかなかいかないでしょうか。
せめて今日は
蛍お姉ちゃんはアルバイトで帰りが遅い日。
星花は、春風お姉ちゃんのお手伝いをして
なんとしてもおかゆを届けます。

明日の天気予報は休めないから、
その代わり土曜日には一日中寝てでも治すつもりだそうです。
日曜は、麗お姉ちゃんの晴れ舞台。
海晴お姉ちゃんも、絶対に行くって言ってるの。
なにがなんでも治すんだーって
病人とは思えない迫力。
それとも、熱で変なテンションになってしまっているの?
氷柱お姉ちゃんは、学芸会は人がいっぱい集まるから
風邪が治りかけの体で行ったら、絶対体に悪いに決まっている、と
海晴お姉ちゃんを家にとどめておく作戦をこっそり考えたいみたい。
星花も協力するように言われました。
でも海晴お姉ちゃんは、
いつも麗ちゃんのことを気にしていて、
とても大好きなんだと思うの。
やっぱり見に行きたいはずです。
金曜日と土曜日で治してもらって
誰も心配しないくらい元気な体になって、麗お姉ちゃんの応援に行ってほしい。
星花もそのためにサポートしたいです。
といっても、することはおかゆを作るくらい。
今日、もしも流れ星を見つけたら
お願いするのは海晴お姉ちゃんの風邪が治るように、それだけなのに。
部屋の窓を開けていると、夕凪ちゃんと吹雪ちゃんも寒い思いをしてしまうから
眠る前の短い時間に、カーテンのはしをそっとつまんで夜空を見るだけ。
こんな短い時間では、流れ星は降らないかな。
流れ星が見つかりますようにってお願いは、どこに向かってしたらいいんだろう。
星花にできることは少ないんです。
まだ、流れ星は見つかっていないけれど
どうか海晴お姉ちゃんが早くよくなりますように。
そして、この冬はもう誰も
体調を崩したりしないでほしいの。
寒い季節でも元気でいられたらいい、
あたたかいおうちで幸せに、
この冬を家族みんなで過ごせますように。
星花は、忙しいような気がするなんてことばかり言わずに
がんばって夕凪ちゃんの服をたたんで、タンスにしまうから。
だから、お願いです。
まだ見つからないどこかのお星様、
星花のお願いを叶えてください。

観月の偽日記

『温泉』

海晴姉じゃは結局、
今日のお仕事には行けなかった。

といっても、
病気が急に重くなったわけではなくて
テレビ局の人から怒られたらしい。
具合がよくない人間の顔を
朝のさわやかなニュースの代表として
視聴者にお届けすることなどできない!
うむ、それはそうじゃ。
というわけで、今日は代役のお姉さんがお天気予報。
いつもは海晴姉じゃの挨拶で、
元気良く幼稚園や学校に向かうこの家族も
みんななんだか、物足りない朝。
朝の少ない時間で、千羽にはだいぶ足りない折鶴に心を込めて
回復を祈願するばかり。
いつも朝にはテレビの向こう側にいる大好きな人が
今日はおうちにいてくれるのに
ちっともうれしくない。
幼稚園でマリー姉じゃやさくらと顔を合わせて相談するうわさ話は
海晴姉じゃの病状ばかり。
冬場の引き締まった空気も、ありがたいお日様の恵みも
今日ばかりは形無しで、話題にもならない。
ちゃんとよくなってもらわないと
またさくらがお部屋に忍んで行って泣いてしまう。
そうなったら一大事じゃ。
わらわもマリー姉じゃも、
今は我慢していても、きっとつられて泣いてしまうのじゃ。

万全を保つ体調管理も大人のお仕事。
であるが、
体調を崩したときには無理をせず、
よく休むのも、大事なお仕事じゃ。
海晴姉じゃがうまく舞うことができなければ
この自然をつかさどる神がお怒りになる、ということもない。
昔は、清らかな乙女でも祈りで雨を呼ぶことがかなわず
竜神の沼にその身を捧げることもあったそうな。
こわいこわい。
わらわだって、どんなに力があっても、そんなお仕事を任されたら
兄じゃと手に手をとって逃げてしまうぞ。
そうであろ?
海晴姉じゃがつとめているのは、そんなおそろしいお仕事ではないから
ちゃんとよく休んで、治してくれればよいな。

病院でおくすりをもらってきて
今日は一日ゆっくりしていたようじゃ。
だが、本当にゆっくりしていたかどうかは、
さくらがけなげに差し入れしたミーチカちゃんに聞かなければわからぬ。
なにしろ、お部屋のほうから
さみしいなー、
誰かがお見舞いに来てくれないかなー、
ね、ミーチカちゃん!
と話しかける大声が
リビングのほうまでかすかに聞こえてきた。
うーん……
お見舞いは禁止されておるのじゃ。
破ったら、
沼に放り込まれたりはしないが
おしりがはれるまで
ぺんぺんされる。
そういうお達しが出ておる。
それに、
とっても苦しいお風邪がうつらないように
心がけねばいけないのは
子供のお仕事でもある。
海晴姉じゃも、うつしてしまったら
後で悔やむに決まっている。
今はわらわもつらくとも、
今日だけは心を鬼にしなければ。
いつになく長く感じる一日。
楽しくて時間が早く過ぎるときは、
もっと遊んでいられたらと思うのに
実際に時間の進みが遅く感じることがあると
誰かが病気になっている時間なんて早く終わってくれればいい、
たちまち過ぎ去るように祈ってしまう。
みんなで遊んでいても、ふと落ちる沈黙。
海晴姉じゃはちゃんといい子でお休みしているであろうか。
そんな心配顔の一同が、輪になっている。
兄じゃは、うがいと手洗いは今日もきちんとしておるか?
海晴姉じゃの具合が気になって、おろそかになっておらぬか?
それでは、海晴姉じゃも悲しむと思う。
たぶん。
後になって、お見舞いに来てくれないなんて薄情者だと
ののしられるようなことは、
たぶんないと思う。
今は、病気で心細くなって
寂しがっているだけなのじゃ。
お手紙を届けて励ますのが、小さい子たちにできる精一杯。
兄じゃも、書くと良い。
別に、夕凪姉じゃのように
風邪を吹き飛ばすマホウの力が込められていなくてもかまわぬ。
わらわがしたように、快癒祈願を和歌に仕立てる工夫だってなくても良い。
心がこもっていれば
ほとんど同じ文面ばかりでも、
早くよくなってほしい。
ゆっくり休んでほしい。
それでいいのだと思う。
心配する声をひとこと届けるだけでも
海晴姉じゃも納得して休めるであろう。

明日いっぱい休めば、もう全快するだろうと
夕方おうどんを届けに行った蛍姉じゃが
うれしい報告をおみやげに持ち帰ってくれた。
しかし、日曜日に麗姉じゃの学芸会に行けるかどうかは
明日の様子を見なければわからない。
いくら良くなってもそれだけは賛成できないと
激しい剣幕の氷柱姉じゃもいる。
どうなることか、
わらわが占ってみても、答えははっきりしない。
行けそうな卦が出ているようでもあるし、
休んでいたほうがよいお告げのようにもとれる。
明日訪れる未来はまだ、
運命を受け持つ神々も決めかねているようじゃ。

いまさら言ってみても遅いし
海晴姉じゃの回復には役に立たないが
寒い季節、温泉にでも行きたいという話は
ときどき出ていた。
それで、来年の松の内は、大磯で過ごそうと
もう宿の予約は済んでいる。
遠い旅程も徒歩にあらず、馬にあらず
天使であっても羽はなく
予約して席を取った電車で行く。
だが、それまで寒い日があったら
裏山でも掘れば、温泉くらいは出るんじゃないか、
何があるかわからないところだし。
そんな話もあった。
うむ。
わらわも、占いでどこを掘ればいいか探してほしいと言われた。
確かに、様々な気が入り混じっておる。
その気になれば温泉くらい掘り当てられそうな気配はあるが。
しかし、あの地に住むものは多く、
山は決して人間ばかりのものではない。
自然の恵みによって大地に立つ生き物たちがいる。
翼あるものも、地に根を張るものも
山の大事な仲間。
人の目に映るものも、そうでないものも
また、自然をつかさどる
時には恐ろしい大きな力も
人の大事な営みでも動かせない生命。
共に生きていると受け入れるのが
自然に生きる者たち全ての習い。
温泉を求めて、人の都合で踏み込んでいい場所なのであろうか?
と思っていたが
一番大事なことは、自然を受け入れることだけではなく
家族を思いやることではないか。
病気で苦しむ家族がいたら
何があっても治してやりたい、
その思いは決して、摂理に反する感情ではないはず。
この先もう家族に苦しい風邪にかかる子が出ないように
ちょっと、山の神にお伺いを立ててもいいのではないか。
と、思った。
もし温泉を引くことができたら、我が家としてはめっけものじゃ。
毎日ほかほかに湯気をたてて
手足の隅々まで血行を良くして
気持ちよくおふとんに入ることができるぞ。
どうすれば山の神に会えるかというと
何が住んでいてもおかしくない山のことなので
かわいいわらわが行けば興味を持って、きっと向こうから出てくるであろう。
それに、輝くオーラを持った兄じゃがついていれば、
なおさら目を引くはず。
隠れていられなくて出てくるに決まっている。
あまり出てこないようなら
歌か踊りで誘えばいい。
神様だって、歌や踊りが嫌いではない。
そもそも、心弾む祭りも全て偉大な力に捧げるために行うもの。
わらわが楽しそうにしていれば
向こうからやってくるであろう。
ぽっかぽかの温泉を掘り当てるのじゃ。
みんなで仲良くお風呂に入ってあたたまる時間が
ますます楽しみになること間違いなし。
さっそく、明日にでも山へ探しに行こう。
よいお告げがもらえるであろうか。

さくらの偽日記

『おやすみの日』

さくらは、おやすみの日がすきなの。
だいすき。

べつに
ようちえんも、いやじゃないの。
ほんとだよ。
ときどき、こわい日もあるけれど。
おにがくる。
なんでおにって、
ようちえんをねらってやってくるの?
いい日もあるよ。
サンタさんもくるんだよ。
ようちえん。
おゆうぎをして
おそとであそぶと、たのしいの。
おともだちもいます。
いじめっこがいないか
うららおねえちゃんはしんぱいしている。
そんなこわいこは、
ようちえんにいるおとこのこが
ときどきこわい……
なぜか、かぶとむしをさくらにくれる。
かぶとむしはこわいんだよ。
うでにくっつく!
とろうとしても、ひっぱるといたくて
とれない!
このままさくらは、いっしょうかぶとむしをうでにつけて
いきていかないといけないの?
そんなへんなさくらは、
お兄ちゃんもきらいになる?
さくらがかぶとむしをくっつけてしまっても
やさしいお兄ちゃんは、たすけてくれる?
びくびくしていると、そのうちかぶとむしはとんでいっちゃう。
こわかったー、
ってなるよ。
そんなこわいことするおとこのこはにがて。
お兄ちゃんはさくらにやさしいのに
どうして、ようちえんのおとこのこはあらっぽい?
ようちえんのおとこのこは、
だいじなさくら、
よくがんばったねって、はげましてくれないのはなんで?
さくらはお兄ちゃんとあそんでいるのがいちばんいいな。
いっしょうずっと、お兄ちゃんといればいいな。
でもね、おとこのこたちがあそぼうっていって
さくらがみていたら
いつのまにか、おともだちがいっぱいあつまって
いっしょにおにわをはしっている。
おともだちがいるようちえん。
さくらはすきよ。
お兄ちゃんがいるおうち。
さくらはもっとだいすき。
ふしぎだね?
ようちえんがいやじゃないのに
さくらはおうちにかえるのがたのしみで、
おやすみのひに、お兄ちゃんとずっといっしょにいるのがすきです。

きょう、お兄ちゃんは
おんせんをさがすために
やまのかみさまにおねがいにいったの。
おどりを見せにいきました。
さくら、あそんでもらえなくてさみしかったの。
やまについていくのはこわい。
みんな、やまにおどりにいってしまって
おへやでひとり。
お兄ちゃんなら、やまのかみさまがでてきても
さくらをまもってくれるから
ついていけばよかったのかな?
でも、ひとりになっちゃった。
こんなさみしいおやすみなら
ようちえんにいけたらいいのにな。
おへやにいたら
まどからミーチカちゃんがかえってきたの。
きのう、みはるおねえちゃんに
さみしいおかぜのときにも、ひとりじゃないように。
さくらがかしてあげたミーチカちゃん。
おふろはいっしょにはいれないこと、
さくら、おぼえているの。
みはるおねえちゃんといっしょにやすんで
ちょっとよごれてしまったミーチカちゃん。
きょうはあさから、からだをふいてもらって
おにわでひなたぼっこしていました。
だから、まどからかえってきたんだよ。
みはるおねえちゃんのおへやにいたときに
びじんにしてもらったのかな?
かわいいミーチカちゃんは
すこしおとなっぽくなったみたい。
さくら、びっくりしちゃった。
なんでそんなにちがうの?
せがのびたわけじゃなくて……
かみのけがのびて、おかっぱになったのね。
それで、すっかりさくらのとしをおいぬいて
ミーチカおねえちゃんになったみたいにみえるよ。
みはるおねえちゃん、
すごい!
なにをしたんだろう、
おとなのおへやなんだね。
さくらも、みはるおねえちゃんのおへやにいったら
びじんになるのかな?
さくら、まだこころのじゅんびができていないから
そんなにすぐにおとなになったらこまるよ。
どうしよう、
どきどきしちゃう。
ミーチカちゃんがかぶっていたのは
おかっぱのかつら。
かつらをかぶっただけで
ぜんぜんふんいきがかわる!
かつらをとったら、もとのかわいいミーチカちゃんにもどりました。
うららおねえちゃんが、げきでかぶるかつら。
ほんものをみたのはきょうがはじめてだけど、
このまえ、はなしてくれたからおぼえていたよ。
かみをきるえんぎをするまえに、
こっそりほんとうのかみのけをくるくるまいて、
そのうえから、みじかいかみのかつらをかぶる。
かみのけをきったふりをして、
みじかいかみのうららおねえちゃんになって、えんぎをするの。
きょう、みはるおねえちゃんはだいぶよくなって
いっしょにごはんをたべてもいいんだけど
ひとごみのなかにいったらいけない。
おかぜをわるくしたらいけないおねえさんのために
おうちでれんしゅうを見せてあげるときいて
おともだちがもってきてくれたの。
でも、うららおねえちゃんはげきのかつらがなんであるのかわからなくて
おともだちにでんわして
そのはなしをきいて
びっくりしていたよ。
おうちのだれがおともだちにおねがいしたのか
だれがうけとって
だれがミーチカちゃんにかぶせたのか
ぜんぜんわからない。
みづきちゃんはね、
きょう、おやまのかみさまがかおをみせなかったから、
おんせんはでないけど
これでかんべんしてほしいって
きをきかせたんじゃないかっていってる。
みぞれおねえちゃんは、
うららおねえちゃんが、おおよろこびでげきをみせたいみたいではずかしいから
ミーチカちゃんにかぶせて、しらないふりをしているんじゃないかって。
りっかおねえちゃんは、
これはきっと、つららおねえちゃんがこっそりたくらんだにちがいない、
っていってる。
でも、つららおねえちゃんは
みはるおねえちゃんのさくせんじゃないか、
もしかしたらママのしたことかも、って。
さくらはね、
かんがえました。
たぶん、サンタさんが来たんだよ。
いつもいい子で、おしごともおべんきょうもたいへんなみはるおねえちゃんが
つい、だいじなときにはりきりすぎてからだをこわして、
だいすきなうららおねえちゃんのげきをみにいけなくて
かわいそうだったから。
それから、ミーチカちゃんも
ときどきはおとなっぽくなってみたくて
サンタさんにおねがいしたのかも?
ミーチカちゃんは、くまのぬいぐるみで、にんげんじゃないから
サンタさんからプレゼントはもらえなくて、ざんねんね。
だけど、
せかいじゅうのこどもたちをいつもみていて
いい子にはプレゼントをくれるサンタさん。
いつもりっぱなみはるおねえちゃんと
おみまいをがんばったミーチカちゃんのために
ことしだけはとくべつなプレゼントを
すこしはやくもってきてくれたんだと
さくらはおもいます。

きょうは、ばんごはんのあとで
ほたるおねえちゃんとつららおねえちゃんもおしごとからかえってきて
かぞくみんながそろって。
うららおねえちゃんと、お兄ちゃんのげきをみました。
れんしゅうじゃない、ほんとうのげきみたい。
でも、うららおねえちゃんは
ほんばんは、あいてがおとこの人じゃなくて
おとこの人のかつらをかぶった、おともだちのおんなのこだから
あいてがおとこの人だとちゃんとしたれんしゅうにならなくて
へんなかんじ、って
こまってた。
お兄ちゃんは、
ほんをよんで、すぐにせりふをおぼえて
かっこよかったの!
でも、きんのとけいをうってしまったのは
どじをしたね?
うららおねえちゃんにすてきなものをプレゼントしたかったんだから
きっと、どじだけど、とてもいいことなんだよね。
ふだんも、たまにどじをして
つららおねえちゃんにしかられているお兄ちゃんだけど
いつもかぞくのことをかんがえすぎてどじをしちゃうから
いいことなんだなっておもったよ。
さくらにもいつもやさしくして
あまやかしすぎて
おねえちゃんたちにおこられてしまっても
やさしいお兄ちゃんが、さくらはすきです。
ようちえんのおとこのこには、そんないいことできないよ!
どじをしてもいつもかっこいい、さくらのお兄ちゃん。
たまにおこられるけど、ほんとはとてもいい子だから
お兄ちゃんにも、サンタさんは
ことしもちゃんとプレゼントをもってきてくれるね。

ひとりでおへやにいるあいだは
さくら、さみしかったけど
たのしいことがいっぱいある、おやすみ。
おうちのみんなといられるおやすみが
さくらはだいすき。
あしたは、うららおねえちゃんのがくげいかい。
ほんばんをみるときは、おとなしくしていないといけないよっていわれて
さくら、ちょっときんちょうしているけど
お兄ちゃんたちがいっしょのおでかけ。
みはるおねえちゃんはおるすばん。
さくらがちゃんとよくみて、
うららおねえちゃんががんばったよってほうこくしてあげたいです!

あさひの偽日記

『ほわ』

ほわっちゃ
わっちゃ!
ほうほうほう。

うわーお!
お、おおっ!
むむむ……
あば?

るーるー、
うおっば、
あーたん、ほうほうほう?

(クリスマスには
 なんと!
 サンタさんがプレゼントをくれるよ。

 あさひはみちゃった!
 サンタのしょうたいは、かぞくだった!
 うららに、げきのかつらのおとどけ、もしかして……
 サンタごっこをしているだけだった?

 きよしこのよるには、
 ほんもののサンタがきて
 あさひもプレゼントをもらえるかな?)

夕凪の偽日記

『なんで?』

もう!
なんでなんで?

世の中には
不思議なことがいっぱいある。
夕凪は恋のマホウ使いなのに
まだ、お兄ちゃんが勇気を出して
夕凪ひとすじだって言ってくれないの。
なぜだろう?
吹雪ちゃんの天才的な頭でも解き明かせない
この世は謎だらけの世界。
夕凪には、わからないことがたくさん。
確実に知っていることは、ただ一つ。
夕凪はお兄ちゃんといると楽しくて
お兄ちゃんのことが大好きだということ。
知らないことがいっぱいある夕凪が知っている
たったひとつのこと、
だけど
いちばんだいじなこと。
だから、ちょっとわからないことがあるくらい
別にいいかな、
と思っていたの。
でも、こんなに納得いかないのは夕凪はじめてだよ。
なんでだろう?
麗ちゃんがめずらしく素直に
海晴お姉ちゃんに家族思いな姿を見せることができた。
学芸会の本番にいけなくても、おうちで劇ができるように
きのう、かつらが届いた
夢のように美しい奇跡のみなもとは
なんと
夕凪が作り出したすごいマホウなんだと
誰も思いつかなかったのは
なんでだ!
失礼な!

実を言うと、夕凪だけで思いついたことじゃないの。
そうだ、
きょう、家族で麗お姉ちゃんのお友達に詳しい話を聞いたとき、
かつらを受け取った女の子は
いかにも神秘的な感じの巫女服を着ている
小学生くらいの女の子だったという話になって
観月ちゃんじゃなさそうだし
まさか本当にありがたい神様がおうちに来た?
と、あわてていたから夕凪はつい笑っちゃって。
みんなのうしろで
事情を知っている星花ちゃんはおろおろしていたし
吹雪ちゃんは、いつ言い出そうか聞いているみたいに
夕凪のほうをちらちら。
きっと、かつらは大事なものだから丁寧に扱ってね、って
夕凪は受け取るときに聞いていたのを忘れていて伝えないでいたから
今日になって、かなり高価なものだから心配していたとお友達の子から聞いて
夕凪も、えっそうなの、わー危ないところだったって思ったけど
吹雪ちゃんが、ミーチカちゃんにかぶせて届けたのを
大事なかつらを雑に扱ったみたいじゃないかなと思い出して
ちょっと怖かったんじゃないかなあ?
夕凪も、怒られそうで怖かったもん。
怖いのに、びっくりしているみんなを見ていると
笑ったら絶対すぐばれるのに、こらえきれなくて。
夕凪、がまんするの苦手!
結局、ぷるぷる震えているところをお友達の子に見つかって
あっ!
この子だよ!
山の神様を呼ぶ踊りのために、蛍お姉ちゃんが作ったコスプレの巫女装束を着ていても
観月ちゃんみたいに巫女装束に合わせてかっこよく髪を頭の後ろでまとめて結んでいても
顔を見れば一発だったね。
巫女装束は去年のお正月の服。
成長した夕凪にはサイズが合わなくて
その後すぐ着替えたから、誰もわからなかった。
夕凪も思ってもみなかった妙な展開で
動揺しているみんなが面白かったのに
簡単にばれちゃった!

学芸会に見に行けないかもしれない海晴お姉ちゃんのために
星花ちゃんと夕凪と吹雪ちゃんで知恵を出し合って、
かつらを届けてもらえばいいじゃないってひらめいたのは夕凪だよ!
その前の話で、おうちで劇をしてもらえばいいかもって思いついたのは
確か星花ちゃんだったけどね。
そのもっと前の話で、このままだと海晴お姉ちゃんが悲しい思いをしてしまいそうで
何かできないか、と提案したのは吹雪ちゃん。
そして、サンタさんが来たって考えたさくらちゃんのおかげで
麗ちゃんは、なんとなくその気になったみたいで
家で劇を見せてくれて、
だから、家族を思う愛のマホウは
家族みんなが協力して作りあげたもの。
きのう、かつらを届けてもらったのはいいけれど
普通に渡したらたぶん、
余計なことするなって怒られそうな気がしてきて
三人でかつらを囲んで頭を寄せ合って
とうとうパニクった夕凪が
星花ちゃんを連れて山に逃げちゃったあと。
もともと、家に残って小さい子と遊んであげる予定だった吹雪ちゃんが
普通に渡したら、怖がった夕凪に悪いと思って
ミーチカちゃんにかぶせて届けたかつら。
それはもう、夕凪たち三人
家族じゅうから怒られちゃった。
海晴お姉ちゃんにおうちで劇を見てほしいなら
ちゃんと麗ちゃんにお願いするべきでしょう。
断られるかもしれないとしても、心を込めて話をするのが本当だって。
そうだよね。
さくらちゃんも、サンタさんじゃなかったんだって悲しそうにしてた。
わーん、さくらちゃんごめんね。
今回はサンタさんじゃなかったけど
クリスマスには本当に来てくれるからね!
サンタさん、おねがい!
こんな悪い子の夕凪のところには来ないかもしれないけど
きっとさくらちゃんにはプレゼントを届けてくれるよ!
星花ちゃんと吹雪ちゃんも、ふだんはいい子だから絶対プレゼントが届くよ!
夕凪のところにも、もしかしたら来る?
こんないたずらをしなかったら
ふだんはいい子のはずなんだけど……

麗ちゃんは、堂々と舞台に立っていたよ。
きっと家族の前で劇をしたから、度胸がついたんだ!
とか夕凪が言ったらまた怒られるかも?
でも、麗ちゃんの劇が成功して
麗ちゃんが一仕事終えたような表情をしていると、夕凪もうれしいのは本当だもん。
舞台の麗ちゃんがすごくかっこよかったなって感じたのも、夕凪の本当の気持ちだもん。
いたずらで困らせてしまった夕凪が言うのはおかしいかもしれないけど。
いよいよ本番のぴりっと緊張した空気の中、
背筋を伸ばしてはっきり声を出して演じた麗ちゃんは
かっこよかったよ。
きのう、みんなの前で練習してよかったね!
と思っていたら、後で聞いたら
ものすごく緊張していたんだって。
練習と比べたら、体ががちがちになって
全然うまくできなかったって。
あんな演技になっちゃって
見た人はなんて思うだろう?
ああーどうしよう、
いつもきりりとしている麗ちゃんにしては珍しく、
気持ち悪くくねくねもだえている。
そんなことないのにね!
よかったよ?
なんだか、かっこよく天気予報をしたあとに
カメラの外側で
外れないかどうか心配している
海晴お姉ちゃんみたい。
とっても難しいお勉強をして、毎日よく当たっている予報をしてくれるのに
変なの!
麗ちゃんもそんなふう。
家族だから、みんなどこかが似ているけれど
やっぱり海晴お姉ちゃんと麗ちゃんは、特に似ているのかな?
今日はちょっと珍しい、きりりとできない麗ちゃんを囲んで
励ましたり、家族って面白いねって笑ったりする帰り道。
海晴お姉ちゃんに教えてあげたいことがいっぱいで、
夕凪はあふれ出す報告を抑えきれなくて、
一緒に見ていたお兄ちゃんとも、たくさん話した帰り道でした。

次の日曜日は、幼稚園の合唱会があって
その前に、歌が上手な教会のお姉さんたちと
おうちで歌が上手なお兄ちゃんと、なぜか霙お姉ちゃんが幼稚園に行って
歌を教えてあげる予定もあるんだって。
なんで夕凪が行けないのか謎だけど、
おうちにいてもみんなで練習できるから、これはまあいいかな?
その次の日曜日は、夕凪とお兄ちゃんたちにもやってくる緊張の本番。
教会で行われる合唱部のお姉さんたちの立派な発表会に便乗して
地元の人たちが参加する、下手かもしれないけれどやる気で挑むクリスマス合唱会。
それから、楽しい冬休みに入ったらすぐ、
冬休みが始まったことがさらにうれしくなる一番の楽しみ、
家族で過ごすクリスマスが
夕凪たちの家にも訪れる。
わあー!
こうやって待ち遠しい気持ちが盛り上がってくると、
ますます実感、
いよいよだ!
ついに、クリスマスシーズンだね!

虹子の偽日記

『おとこのりょうり』

ほたるおねえちゃんが
おしごとのひは、
おにいちゃんが
キッチンのおうさま。
はるかおねえちゃんが
おひめさま。
きょうは、げつようび。
おしごとがおやすみのほたるおねえちゃんは
じょおうさま?

みんなにてつだってもらうよ。
おうさまは、めいれいもできる。
こらっ!
ゆうな!
だいどころでおどらない!
ハンバーグがうれしくても
あぶないから、おどらない!
えらいおうさまの
めいれい。
にじも、
ハンバーグはうれしい。
おどりたいよ。
だめかしら?
おうさま、
キッチンはせまいからだめだけど
ひろいところでおどってねって
にじこにめいれいしてください!
つららおねえちゃんは、
きがちるし、ほこりもとぶから
おりょうりをまっているあいだは、おどらないでほしいんだって。
ハンバーグのひは、おどるのもたのしみのひとつだもん!
おいしいだけがうれしいんじゃないんだもん!
みんながうれしいハンバーグだから、にじこもうれしいんだもん!
うれしいっておしえてあげたいんだもん!
おどっちゃだめ?

まいにち
おうさまはめいれいをして
おしろをつくる?
ドレスをつくる?
ちがうよ、
おりょうりをつくる!
それが、
おうさまのおしごと。
きょうはハンバーグ、
きょうはコロッケ。
みんなのリクエストだよ。
おうさまがきめているんじゃないの?
すきなものをえらんでつくるわけじゃないの?
めいれいするからって、すきなことをしていいわけじゃない。
みんながよろこぶものをえらぶ。
いがいときをつかう
おうさま。
おつかれさま!
おうさま!
つかれたら、にじこといっしょにおふろにはいったらいいとおもいます。
せなかをながしてあげる!
かたをもんであげる!
でるときじゅうまでかぞえてあげる!
がんばったおうさまを、ほめてあげる!

おうちで、よくおりょうりをしているのは
はるかおねえちゃんと、ほたるおねえちゃん。
とってもおいしいおりょうり。
にじこ、まいにちごはんがたのしみよ。
おふろでほめてあげる。
ときどき、けんこうのおりょうり。
にじこね、
いつもげんきだから
けんこうのおりょうりはたべなくてもいいとおもうの。
でも、
すくすくそだつため、
おおきなからだをつくるため。
たべなくちゃ。
ピーマン……
にんじん……
にがいおやさい、
ちいさいこでもおいしくたべられるようにおりょうりしました、
はるかおねえちゃんのえがお。
たべたら、もっといいえがお。
きらーいってたべなかったら
ちょっとかなしいえがお。
なきそう?
にじこ、たべます!
そだちます。
にがてなおやさいでも
ハンバーグのおともで
おいしくたべられたら
はるかおねえちゃん、てんさいなの?
って、おもうよ。
でもにじこは、
だいすきなハンバーグがおいしいとき、
もっとうれしい!
どうしてそんなに
なんでもできるてんさいなの?
ってきいたら
いやいや、
てんさいなんかじゃないよ、って
うれしそう。
そんなー、
またまた。
にじちゃんったら、
うふふ。
てんさいじゃないけど
うれしそう?
てんさいじゃないひとは、
ちがいます。
まじめにおへんじするよね?
これは、
にじこにないしょにしているだけで
やっぱりてんさいなのかも?
おしえたくないじまんのわざ、
たくさんあるのかも?

おにいちゃんのハンバーグも
おいしいよ。
おりょうりのてんさいだ!
でも、
きのうまでのメニューをならべたら
ハンバーグや
コロッケや
ポテトサラダに
ミートソース。
こねて、つぶして
ちからわざのりょうりばっかり!
そこにつららおねえちゃんは、きがついてしまった。
もしかしてこれが、おとこのりょうりなのか。
こんなんでいいのか。
ちいさいこは、こんなにちからわざの
おとこのりょうりでまんぞくできるのか。
そうだんしてくれたの。
にじ、
いいとおもう!
おにいちゃんのおりょうり
おいしいとおもう!
おうさまは、かんがえました。
おとこのりょうりばかりでは
おんなのこはまんぞくできないかも?
じゃあ、あれはどうだろう。
おんなのこたちがつくる、
かていかメニュー。
まえから、みんながまちのぞんでいたおりょうり。
そうだ!
それがいい!
きょうはカレーパーティーがはじまりました。
やさいがいっぱい
あまくちカレーに
このまえつくってのこっていた
ハンバーグやコロッケ、
なにをのせてもいいひなの!
とんかつも少しつくって
カツカレーもできるよ、っていってくれたけど
にじこはハンバーグ。
カレーにはいっているにんじんは
ふだんのにんじんとはぜんぜんちがうみたい、おいしいよ。
あまくて、とろとろ
おくちのなかでとけていく。
いいきもち。
カレーをたべると
からだがあったかくなる。
おにいちゃんは、あまくちカレーでよかった?
ちゃんと、からだがあったまった?
つららおねえちゃんは、これもおとこのりょうりみたいだな。
からいおりょうりのほうが、おとこのひとはもえるのかしら?
しんぱいしていたよ。
おとこのひとは
むねのなかがいつも、あつくもえている。
あついおもいに、えいようをあげるために
おとこのりょうりは
おおざっぱだけど
ちからがでるおりょうりなのかしら?
かんがえていた、つららおねえちゃん。
でも、おりょうりをつくるときに
あつくもえるのは、
おにいちゃんだけじゃなくて
はるかおねえちゃんと、ほたるおねえちゃん。
おんなのこらしいかわいさのために
さむいきせつもなまあしをみせてきあいじゅうぶんな、
りっかおねえちゃん。
いきるときとしぬときをともにするあついちかいをむすびたい
せいかおねえちゃん。
おんなのこもいっぱいもえている。
おにいちゃんは、
おとこのこだから、だれよりもこころのなかがあついのかな?
こころをあつくするために、からいものがきくのかな?
あついおもいは、エネルギー。
だれかをあつくあいする。
かぞくをだいじにするために、
あついおもいでだっこしてあげる。
すてきなちからだよ、
おとこのあついこころ。
おにいちゃんは、あついこころでだれをあいする?
かぞくをいっぱいあいしてくれますか?
いちばんすきなのは、
きれいなみはるおねえちゃん?
やさしいはるかおねえちゃん?
りりしいヒカルおねえちゃん?
それとも、もしかして
かわいいいもうとの、にじこ?
やっぱり、ぜんいんなのかな?
おとこのひとのこころ、
カレーであつくなった?
にじこもいつか、おにいちゃんみたいに
カレーをいっぱいたべてみたいよ。
すてきなあったかいハートをもった
おんなのこになります。

春風の偽日記

『はじめて』

春風の王子様は
おふくろの味、
お好きでしょうか?

王子様にとって、おふくろの味って
具体的には
どんなものがそうなのかしら?

ハンバーグやコロッケも味わいがあるけれど
飽きない素朴な味のほうが
毎日おうちで食べるには落ち着けるかも?
おみそしるや
サトイモの煮つけ
だったりするのかな?
春風に作ってほしい
おふくろの味。
王子様のためなら
もう、いつでもお嫁さんになれます。
春風はためらわずにあなたに人生を捧げて
一生、苦楽をともにします。
あなたと一緒に子供を育てて
にぎやかな家庭を築くの。
子供にたくさんのことを教えてもらいながら
お母さんの春風になります。
できるのかな。
春風は本当は、とても弱虫なの。
一人では寂しくて、何をしたらいいかわからなくなってしまう。
誰かがいてくれなかったら、泣いてしまうの。
いつも臆病で、つまらないことで怖がって
消えてしまいそうに震えている。
幸せな家庭にいても、こんな春風だもの。
たぶんつらいこともたくさんあって
いつも笑顔ではいられないのではないかしら。
不意に深い理由もなく差し込む、不安の影。
怖いけど、でも。
あなたがそばにいてくれるなら。
苦手なことがどれだけあっても
家族を愛する気持ちだけは
誰にも負けないと思うから。
弱くて頼りないお母さんだとしても
必ず、愛情豊かな生活をしていけます。
それだけは、
他の何ができなくたって
誰よりも愛することならできる。
これから何が待ち受けているとしても、
もう気持ちは決まっています。
いつでもお母さんになれます。
それとも今の春風では、
まだ早い?
私の王子様から見たら
子供のおままごとに見えてしまう?
そんなことないです……
きっと、そうじゃないです。
春風はいつのまにか
もう一人前の女の人で
何も知らない子供ではないんです。
あなたと出会ってから、春風は何もかもが変わっていく。
あなたが春風を、そんなふうにしたんです。
春風を一人の大人の女性に変えることができる人は
世界であなたしかいない。
こんなに広い世界を、あんまり知らない恥ずかしい春風でも
出会った瞬間にすぐわかってしまったこと。
春風があなたに
恋をしたということ。

そこで。
今日のお料理は、おふくろの味の定番の
肉じゃが。
カレーの材料も余っていたから
春風が腕をふるって
王子様の家庭の味になるように
心をこめました。
肉じゃがは
男の人に喜んでもらえる家庭的な料理だと聞くけれど
春風はもうだいぶお料理のレパートリーをそろえていて、
肉じゃがだけではこんなに食べ盛りの子がいっぱいの家族を支えていけない。
このかわいいみんなのために、だいぶお料理は作れるようになって
肉じゃがだって、普段から作っている慣れたメニューのいくつかと同じみたい。
これでどうだ! という衝撃の一品ではないような。
恋人たちの肉じゃがに求めている、付き合い始めたばかりの初々しさが足りないというか
新鮮味がないでしょうか?
春風もこんなにおいしいお料理を作れるんだね、と王子様に喜んでもらうには
迫力が足りないかな……
でも、蛍ちゃんみたいな挑戦的なびっくり料理は
春風はちょっと苦手かもしれない。
実を言えば、驚きのメニューばかりではなく
どこにでもありそうな当たり前のお料理を作りながら
それが一番の幸せに感じられるキッチンが、
春風の夢でした。
いま、蛍ちゃんがお料理を担当できる日が少なくなって
人手不足を補うために、小さい子たちはがんばっている。
特別に上手ではなくても
家族のために新しいことを毎日覚えて
大好きなお兄ちゃんに喜んでもらっているのを見ていると
うらやましいな、
春風も小さい頃に王子様がいてくれたら
きっと毎日喜ばせてあげられたのに。
と、ちょっとさみしい。
時間を巻き戻すことは、誰にもできません。
あ、もしかしたら、頭のいい吹雪ちゃんならいつかできるのかもしれないけれど
春風には無理なこと。
今よりもまだ幼くて夢見がちで
とても小さかった春風が
海晴お姉ちゃんのお料理姿がとってもかっこよく見えて
自分も、家族のためにできることがあるのかなと考えていた子供の頃。
もみじみたいな手のひらと、おままごとばかりしていた細い腕は
まだフライパンも包丁もちゃんと握れるほどではなかったのに。
家族みんなに心配をかけたっけ。
あのとき、春風よりも小さかった蛍ちゃんは
よくわかっていなかったみたいで、エプロン姿がかっこいいって言ってくれたけれど。

春風は、
今の小さい子たちが苦労しているよりも
たぶんもっとずっと
昔はお料理ができなかったんです。
習いはじめたばかりのころ。
海晴お姉ちゃんも、人に教えるほど得意ではなかったし
もし得意だったとしても、たぶん教えるのがそれほど上手なお姉ちゃんではないし……
焦げる目玉焼き。
フライパンからこぼれる卵焼き。
立夏ちゃんや小雨ちゃんみたいな
食べてくれる人のおなかが不安になりそうな失敗をしてきました。
あのとき、王子様がおうちにいたら
失敗したって決して悲しいばかりじゃなくて、
がんばる春風に優しい言葉をかけてくれたかも?
少しずつ上達してきたら
最近、妹たちに見せている笑顔みたいに
自分のことみたいに喜んでもらえたかも?
いま、こうして上手に作れるようになった春風は
王子様と、たくさんの大事なはじめてを共に過ごせなかったことを
残念に思ってしまう。
みんながはじめてのお料理を見せてあげている。
春風も、運命の愛する人が来てくれるまで
待っていればよかった!
いつか必ず、春風だけのたった一人の王子様と出会えるはずだと
昔からずっとずっと信じていたんだもの。
きっと、体のどこかでわかっていた。
家族の絆が知らせていたんです。
ものごころがついたときから感じていたと思うの。
愛する一番の人が、もうこの世に生まれていること。
それは、やがてこの家に来てくれて
家族としてずっと一緒に過ごす人だと
最初から気がついていたみたいです。
とっておけばよかったな、
春風のはじめてのお料理だとか
家庭的な肉じゃがを食べてもらって
これでいつでもお嫁さんにもらえるね、
って王子様に言ってもらえること。
夢のよう!
あーあ、そんなことがあったらよかったのにな。
でもそうなったら、春風のかわいい妹たちが
おなかをすかしてしまいます!
変なことを考えてしまって、
悪い春風です。
いけない春風は、王子様も嫌いですか?

元気にがんばっている小さい子たちを見て
王子様とうれしい思いを共にしていると
突然気がついたの。
春風はこうして、王子様のとなりで
小さい子たちの成長を見ていく幸せがあるんじゃないかしら?
不器用で心配だった妹たちが
だんだん一人前になっていったり
よく失敗して慰めてあげる時間を
あなたと喜べる毎日も
春風の経験したことのないはじめて。
こんな幸せを、
これからもたくさんあなたと過ごせるのではないかしら?
うれしい!
きゅん!
昔こんなふうだったらよかったな、なんて
後ろ向きに振り返っているなんて
それどころじゃない!

私の王子様。
春風は、あなたと過ごすはじめてが
この先数え切れないほどたくさんあることを
知っています。
何も難しいことを知らない春風でも、
そのくらいは簡単に気がつくんです。
あなたに、今の春風が見せたことのない姿をたくさん見てもらって
恥ずかしい思いもするだろうということ。
ときどき、自信のない部分を知られてしまって
悲しくなることがたくさんあることも、もう知っている。
でも王子様は、そんな春風とこれからもいてくれる。
うれしい時間をすぐそばで過ごしてくれる。
いっぱい一緒に喜んでくれる。
春風はわかっている。
あなたが家族でいてくれて、春風のこれからのはじめてを共にするの、
何度でも、
あなたに知られていない場所なんてすっかりないと思っていても
春風はいつもあなたと、知らない何かを見つけていく。
慣れているはずだったキッチンに立っているだけで
いくつも見つかる、あなたとのはじめて。
怖がりで悲しいことが多くても、
力が足りないことばかりでも。
春風の過去を巻き戻したくなってしまっても、
大好きな家族にいけない嫉妬をしてしまうことがあったって、
あなたといられることが
春風はうれしい。
私は、はじめてを
あなたと経験していく。
これから、何度でも。
決して尽きない
新しい幸せ。
春風が毎日一生懸命作ろうとしている
平凡な幸せの毎日のどこかに、
春風の見たことのない幸せを
あなたと見ているのだろうと思います。
今日の肉じゃがはどうだったかしら。
王子様の家庭の味になれそう?
今はもう、あまり新鮮さがないかもしれないけれど
春風は、あなたといると毎日がはじめての日々。
あなたも春風と同じ気持ちになってほしくて
何もできない子供の頃のように
いま、春風は不器用にがんばっています。
どうか、これからも末永くよろしくおねがいします。
愛しい愛しい
世界で一番大好きな
春風の王子様。

立夏の偽日記

『センチメンタル』

リカは13歳。
お年頃。
悩む日もある。

子供のときから
どんなふうにしたらかわいいかなって考えることは
あったけど
それは、うれしかったんだよ。
はなやか、女の子がいっぱいのおうち。
今日も一日、楽しくなるかな。
わーい、女の子だよ。
リカ、げんきだよ。
駆けて行っておやつに飛びついたり
男の子とボールを奪い合ったりしていたら
たまに忘れそうになるけれど
でも、かわいくいられたらいいなって
いつだって気持ちのどっかにあったはず。
難しいことを考えられる頭じゃなかった。
ただ、楽しい毎日ならそれでいい。
やけに引きずる悩みなんて、何もなかった。

それなのに、どうしたの?
リカらしくないってわかっていても
日が短い時期は、暗くなると
ちょっと気持ちも灰色の雲がかかって
ああ、
まだ日が出てくれないと!
リカの太陽、
あの空で輝かないと。
もっと長い時間、リカにぽっかぽかとエネルギーをくれないと。
どこか薄く白い、穏やかなお日様の下の空気と
すぐに暮れる季節の、広がる影と。
モノクロの景色は
ちょっと切ないよ。

原因は、あれかなあ。
リカは歌が好き、
クリスマスも好き、
だからクリスマス合唱会は超楽しいはずだと思っていた。
土日には一緒に練習しているお姉さんたちも
ほがらかな歌声でいいね、
と言ってくれる。
おうちで歌っても
立夏の声はいつも明るくていいね、
陽気なおうちだ、
と喜んでくれる。
それなのに、
霙おねーちゃんはこんなことを言う。
こんな立夏でも元気に歌っている。
吹雪ちゃんやユキちゃんが、
虹子ちゃんと青空ちゃんのおうち合唱団に誘ってもらったんだから
せっかっくだし、せいいっぱい歌えばいい。
あまり声を出すのが苦手じゃないと悩む必要なんてない。
もっと歌が苦手な立夏だけど、楽しそうにしていたらみんなうれしい。
歌は楽しく歌うのがいちばん。
上手に歌うのもいいけど、
まずは楽しい気持ちから始まるんだ。
うん。
そうだよ、吹雪ちゃん、ユキちゃん。
歌は楽しい気持ちになるからいいんだよ。
上手かどうかなんて関係ないよ!
見栄を張っていたらいけない。
もっとうまく歌えたら、なんて
全然意識しなくていい。
こんな立夏でも楽しく歌っているし……
って、
こんな立夏って
どういう意味!?
そりゃあ、あんまり上手じゃないほうだけど。
いいじゃん!
明るいじゃん!
こんなって言われるほど
何がいけない!?
音を外しているところカナ?
それは……
少々お聞き苦しいものを聞かせているかもしれませんケド……
あれー?
そんなに良くないかなあ。
練習すれば上手になるはずだと思ってさあ、
合唱会に参加を決めたときから
がんばっていたんだけど……
モシヤ、上手になってない?
いや、前よりは良くなってない?
そうでもない?
えー……
そんなことがあってリカ、ちょっとへこんだのかなあ。

前から少しだけ。
変だな、とは思っていたの。
すぐ成長する、と思っていたのに
実は、体を動かすスポーツが上達するほど
ぐんぐん伸びる経験って、リカには多くない。
中学生になって
リカは成長して、
スポブラからついに
大人のブラに変わったよ。
これでいろんな経験が始まるんだ!
憧れのオニーチャンと
大人になって一緒に並んで歩けるんだ!
と思っていたら
リカはかわいいな、
の素敵な笑顔には
この胸の中に良く知っている
抑えきれない思いがどうしてもあふれるあの響きは
どうしてないのかな。
リカ、こんなに好きなのに
あんまり通じてないのかな。
ちょっとだけ、胸が痛い。
すくすく膨らみ始めた胸は
もっと奥に別の原因があるみたいに、うずいている。
どうして、ブラだけじゃない
すぐに成長できないのかな?
いちばん重要なこの胸の中にある心が、どうして?
がんばっているのにな。
いつもスキだって言ってるよ。

それとも、あれかな?
町を彩るクリスマスのあかり。
駅前のツリーにも、
その日を楽しみに待っているあちこちのお店にも
そこかしこに、クリスマスカラーのふわふわ。
すぐに目を引く赤色や
ほっと暖かそうな白いふちどりに
緑の葉っぱがなんだか優しくて
イルミネーションだって、
日が落ちるのを待っていたみたいに輝きだす。
寒いけど、すっきりとした空気にきれいに踊る
町の人たちの夢のかたち。
なんだ、寒くても冬の夜はそんなに悪くないじゃない、
そう思ってみても
オニーチャンは、日が落ちてから迎えに行く蛍ちゃんや氷柱ちゃんと
二人できれいな景色の通りを歩いているんだな、
と気がついてしまって。
なのにリカは、
晩ごはんを食べてお風呂にはいったら
一日いろいろあって楽しかったなーって
すぐ気持ちよく眠ってしまう。
子供みたい!
小学生の頃とそんなに変わらないヨ。
小雨ちゃんと麗ちゃんと机を並べて一生懸命宿題をしているお部屋で
9時を過ぎたらもう、まぶたが重い。
お先にーってベッドに入っていることもあるし。
だから、麗ちゃんが夜更かしをして
本当は宿題だけじゃなく、こっそりいい本を読んでいてもわからない。
たぶん、麗ちゃんにとってのいい本だから、リカがうらやましがることじゃないけど
うえーん!
大人っぽい本を読んで
リカより大人っぽい夜の過ごし方をしているみたいなの!
さわやかな朝にも、眠そうな目をこすっている麗ちゃん。
しょぼしょぼしているけど、なんとなく充実感のある顔。
心配そうな小雨ちゃんに
昨日は夜更かしだった? って、声をかけてもらっているの!
まったく、
あんなにかわいい
かわいいちっちゃい麗ちゃんなんだけど
いつの間に追い越されてしまったんだろう?
夜更かしが苦手なリカは、
そうなの、
あんなにうきうきする町を歩く年頃になかなかなれないの。
それにね、ママが言ってた。
蛍ちゃんと氷柱ちゃんはしっかりしているからいいけれど
リカがアルバイトすると言い出したら、止めるつもりだった。
どういうことなのさ!?
アイドル事務所をしているママのところには、いろんな年齢のアイドルがいて
リカくらいの子も、とっても忙しくお仕事をしている。
その子達を立派に支えてあげているママは
中学生の子がお仕事をしたらとても大変だということを、
日頃の経験でよく知っているみたい。
だから、リカにはたぶんまだムリだと思っているんだって。
そうかな。
オニーチャンもそう思う?
リカにはまだ、
お迎えに来てもらって、二人だけでクリスマスムードいっぱいのデートは
ムリかなあ。
あ、でもね。
蛍ちゃんのパン屋さんも、氷柱ちゃんの洋菓子屋さんも
クリスマス本番はとっても忙しくなるから
24日と25日だけでも、ピンチヒッターで誰か手伝えないかって
おうちのみんなに都合を聞いているの。
でね、
その時期ならもう冬休みだからいいよってママは言ってるよ。
どうしようか?
オニーチャンも、二人のお店をお手伝いする?
リカ、今年はサンタさん捕獲をあきらめて
二人のお店で、少し働かせてもらっちゃおうかなあ。
できないなんてママに思われたままでも悔しいし、
あと、少し大人の経験をして
オニーチャンに喜んでもらえるように成長できないかなあ、って。
と言っても、どっちかのお店しか手伝えないかな。
どっちも忙しい二日間だと思うし。
オニーチャンはどうする?
するなら、やっぱ一緒のお店がいいな。
いつか将来二人だけの小さなお店を開くときの参考になるかも!
とかね。

それでねー、
冬は切なくなるものなのかな、
人恋しくなるって春風おねーちゃんが言ってたな、
センチメンタルなリカでいたら、
霙おねーちゃんたら
なんだ、また体重が気になるのか、
って。
違うよー!
なんでリカが落ち込む理由はそれしかないみたいな言い方なの!?
もう、
むしろ、悩んでやせちゃうくらいだよ。
こんな切ない恋でやせてもうれしくなーい!
ほら、見てよ。
体重計に乗ったらすぐわかる。
太ってなんて、
そんな全然……
ちっとも……
あれ?
おかしいな。
体重計が壊れちゃったのかな?
そうだよね、
食べ過ぎた覚えなんてないよ?
う、
うそだー!
そういえば、
あのね……
みんなも心配していたんだって。
リカ、悩んでいるとついつい目の前の食べ物に手を出して
知らないうちに食べ過ぎているんじゃないかって
これまではそれどころじゃなかったけど
確かにそんな忠告を聞いた気がする!
そんな!
別においしいものをいっぱい食べて、幸せな経験をした記憶もないのに
ただ、ぼーっと悩んでいただけで
こんなのってないんじゃない!?
オニーチャンがリカをちゃんと幸せにしてくれないからだあー、
悩んでいる暇もないほどかまってくれないからだ、
どうするのこのお肉!?
待てよ。
もしかしたら体重が増えたのは
身長が伸びたとか
胸が大きくなったり、
そんな可能性もある!
よく食べたし、
横に成長するだけではない気もする!
よーし!
お風呂上りの身体測定に、全力で挑むからね!
本当の決戦は、その時だ!

リカはこのごろやけに悩んで、よく食べて
無邪気な心も、ちょこんと盛りあがりはじめた体も
これから誰にも負けないほど、大きくなります。
絶対なんだから!
目を離していたら
あっという間だヨ?
油断しないで
いつも、ずっとリカを見ていてね!
知らないうちに、オニーチャンにつりあうオンナの人になっていました、なんて
もったいないよ。
こんなに近くにいるんだからネ。

観月の偽日記

『うたごえ』

それは、遠くはるかな昔から。
ひょっとすると、最初の人間がこの世に生まれ落ちた瞬間から。
それとも、
古の神様が、一人の恋人と共に愛を見つけ出して
いちばん最初の世界を生み出したときから。
歌は思いを伝える手段であったのかもしれぬ。
愛の感情を乗せ、どこまでも距離を越えて届ける役目を定められた。
人の歴史の、数え切れない愛を運んできた。
ときには、幼い感謝と育ち始めた優しさを詰め込む家族愛。
別の場面では、自分の今の形を長い時間をかけて作り上げていく友に向けた思い。
また、人が知るもっとも特別な感情の一つ、
ただ相手を思うだけで、歓喜ばかりでなく様々に胸がいっぱいになって
どう扱っていいのかもわからない激しい思いは
数多く歌の形になって届けられて
いくつかは後の世にも伝わり、
昔も今も変わらぬ感情を持つこの積み重ねが
人の歴史なのだと感じさせる。
運命によって定められたような
たったひとりの人へと向かう気持ち。
人はそれだけを、愛と呼ぶこともある。
恋人だけに向かうものばかりではなくとも
人間の営みを成り立たせる、
何よりも必要な大切な感情。

あるいは、歌は神々への感謝に捧げられることもある。
古くから人を包み込む神秘の力。
それなしでは、一日も続いていけぬ。
星のうつろい。
大地の営み。
風も雲も、地をゆくわれらのあずかり知らぬうちに動いていく。
わけもわからぬまま、そこに何かを感じて
恐ろしい自然の怒りからの庇護を望み、
変わらぬ愛しい日々を求めたりもする。
相手が目に見えぬ偉大な何ものかであっても
歌が手段として選ばれ、
今に至るまで続いている。
これからも変わることはないであろう。
あらゆるものが、謎の多い世界に包まれて生きている限り、
人を支えている、理屈では説明できない何かを見出して、心を込めて祭りは続いていく。
やがては、限りない努力を重ねて
全ての謎が明かされることがあるとしても
人は必ず、自分たちを生み出した大きな力を思い、
理屈に従わぬ不思議な気持ちを胸に、何ものかへ感謝を捧げていくであろう。

もともとは原始的な歌声。
たぶん、生きる力と密接につながっているもの。
最初の歌とは、ただ生きている我々の鼓動なのかもしれぬ。
だから、吹雪姉じゃが試みているように
複雑な音楽理論を学んで
分析によって答えを出そうとしても
うまくいくとは限らぬ。
熱い血潮と鼓動だけが答えを知っている。
歌が鳴り出すと、自然に激しくなる脈動がそのあかし。
乗せる音や言葉にときめく胸こそ、たったひとつの真実。
そのように作られているだけで
人が追いかける理屈は後付けにすぎない。
言うであろう、
お笑いの構造を説明しようとするときに
かえるを解剖したときには、たいていの場合はもうかえるは死んでいる、
と。
そのようなものじゃ。
何も、わかろうとする努力をする必要はない。
歌が届いたこの肉体のざわめきが答え。
勝手に上昇していく体温、ときどきこぼれる涙が、歌声の伝える何かを知っている。
千年、二千年も前からそうであったらしい。
だから、熱い感情に任せて
伝えたい気持ちだけを声に乗せればよい。
技術はあとからついてくる。
いちばん大事なのはおそらく、
伝えたいこととは、果たして何なのか。
吹雪姉じゃはたぶん、その答えをもう知っている。
すぐに思い当たるに違いない。
わらわでも知っていることじゃ。
とても簡単な一つきり、
目を背けることのできない大きなものを
胸の中にもう持っている。
生まれたときから。
あるいは、どうしても何かを伝えたい
特別な誰かに出会ったときから。
どうしても、わかっているはず。
歌うとは、
ただそれだけのことじゃ。
理屈ではないのじゃ。

わらわも、
今日は幼稚園で楽しく歌ってきた。
ついに、兄じゃが幼稚園に来て教えてくれる予定の日じゃ。
さくらは朝からそわそわして
お兄ちゃんに、普段幼稚園でどんな遊びをしているか教えてあげて
今日はいっぱい遊ぶんだ!
と、言っておった。
でも、兄じゃは学校の大切なお勉強を済ませてからなので
幼稚園が終わって、
お歌の練習をしたい子が残って、教わっている間に
兄じゃがいよいよやってきて
クリスマスの楽しいお歌を聞かせてくれた頃には、もう日が暮れ始めていた。
よい子はおうちへ帰る時間。
さくらが期待していた遊びは全然できなくて、残念であったの。
でも、珍しく兄じゃと手を繋いで帰るうれしい日になって
さくらはそれだけで満足だったようすに見えた。
兄じゃが教えてくれた
海を渡ってきた遠い国の言葉のお歌は
実は幼稚園では教えてもらっていないので
聞かせてもらっても、合唱できないのじゃ。
霙姉じゃにささやかれて、兄じゃがせっかくひとりで堂々と歌ってくれたのに
園児たちには参考にならないのじゃ……
でも、男の人の堂々とした歌声は
マリー姉じゃもわらわもさくらも、
それから、幼稚園に通うみんなも、静かに聞いていた。
歌が終わったら、にぎやかに拍手もしてもらえたな。
今度の幼稚園の合唱会にあの人が来てくれるなら
いつもよりがんばって歌う、という子もいた。
そして、元気に歌って褒めてもらったなら
勇気を出して告白する!
とのことであった。
わらわの兄じゃは、もてもてじゃ!
幼稚園の合唱会で歌うお歌は
実は兄じゃに来てもらう前から、みんなで声を合わせて練習中。
上手かどうか気にしないで
楽しく歌っていられる子ばかり。
本番は、次の日曜日に迫ってきた。
土曜日は幼稚園がお休みなので
練習できるのは明日までじゃな!
むずかしくてかっこいいお歌ではないが
とっても楽しく、元気に歌ってくれる
よい子たちが集まるぞ。
本番になったら緊張してしまいそうな子もいるが、
今は楽しみにしていて
歌を聞いてほしくてうずうず。
もちろん、わらわも
兄じゃに聞いてもらって
喜んでもらいたい。
このちっちゃな体の奥から
いっぱいの愛を届けたくてたまらぬのじゃ。
聞いてくれたら、いっぺんでわらわに惹かれてしまうこと間違いなし。
もっと小さい頃から、ありがたい神様に感謝の歌と踊りをたくさん捧げてきた実力を
今度は愛する家族に、心を込めて届けるのじゃ。

幼稚園のみんなも、クリスマスの楽しいお歌で
見に来てくれるおうちの人たちや、いろんな人に気持ちを伝えたいのであろう。
ゆっくり教えてもらって、一生懸命練習したお歌しか今はあんまり立派ではないような
いつもやりたい放題で無邪気な子供たちも
やがては、その思いを自分の言葉で
歌にして届けて
いずれは誰かの歌が、人の変わらぬ心を遠い世に伝え残していくのかもしれぬな。
まだ全然そんな気配も見えない子ばかりではあるが。
あるいは後世まで残らなくとも
わらわは、本当に望む誰かの心だけを動かせればそれでよい。
もしもさだめに従うことを忘れ、神に仕えることをおろそかにしてしまっても
いつかは大きくなるわらわの体から生まれる、この世界にたった一つきりの愛の歌で、
特別なオーラで結ばれていると見定めた兄じゃの心を動かせるのであれば
昔から人が同じように続けてきた歴史をわらわも辿り、
もう、それ以上に望むことはないのかもしれぬ。
そんな愛の歌を届けられる日が来るようにと願いながら
今はまだ、無邪気に子供らしく練習中じゃ。

青空の偽日記

『さむさにまけない』

さむーい!
さむーい!
って
みんながいってる。
こんなさむさは
このふゆはじめて!

わーい!
そらもいうよ!
みんなでおおごえ
たのしいな。
さむいな!
ふゆだな!

ついに、
このまちにも
ほんものの
ふゆがきた。
サンタさんとトナカイさんより
ちょっとはやく。
サンタさんにとどけるおてがみを
おうちのみんながもうだした。
そしたら、
さむいふゆがきた!
サンタさんは、さむいくにのひと。
まちがさむくならないと、こないの?
だから、さむくなった?
そらとみんなに
ぷれぜんとをおとどけするしたく。
さむいふゆだよ。
もうすぐだよ。
さむいさむい、
てをこすって
はーってして
うわぎをきて
ちいさいこをだっこして
あったまらないと、
ずっとずっと
きゃーきゃー
こえをだしている。
うるさいって
つららにおこられちゃう。
おんなはどきょう!
あと、ちえ!
さむいのはわかっているんだから
ちえとどきょうをつかって、
なんとかしなさい!
ほっかいろは、ちいさいこにはまだはやい。
だめよ。
こたつにこもってばかりいると、かぜをひきやすい。
こどもらしくおそとにでよう。
こどもは、かぜのこ。
それから、ママのこ。
だからげんきで
おそとであそぼうよ。

みはるはテレビでいってる。
どこもさむくなった!
あっちもこっちも
さむい。
ゆきがふるまちだけじゃなくて
そらのまちも
とってもさむいよ、
おてんきよほう。
ふゆだから。
おおかぜがびゅうびゅう。
こごえちゃう!
ゆうがた、あそぼうよっておそとにでたら
せいかもゆうなも
きゃーっておうちににげかえる。
あとからおそとにいこうとしたこさめがでてきて
ぶうつかっちゃう。
おそとがすきな
こどもたち。
でも、
ごうごうふくかぜは、いやよ。
ほっぺたが、つーんて
いたくなっちゃう。
どこもさむいふゆがきた。
だから、やまのいきものも
さむさでほっぺたがいたくなっちゃう?
おさるも
らいおんも
おさかなも
ぺんぎんも
ほたとくせいぱんだぱんの
しろくろぱんだも
どこにいるこも、さむい。
おさるのこだって
かぜのこだけど
かぜがふいて、おそとであそべない。
きっと、さみしいよ。
あったかくしているといいね。
ぱんだ、
ぱんやさんにいるの?
つららのおみせには
なにがいる?
つららのおみやげは
まかろん。
ひとくちちょこ。
くり。
きゃらめる。
あまいものをたべてそだついきものがいる?
こぐま?
はちみつだいすきこぐま?
いま、さむくない?
まかろんはあまいけど
ほかほかのぱんじゃないから、ほかほかしてない。
つらら、
こぐまにあったかいものあげて!
あまくて、あったかいものあげて!
おおかぜで
おそとにあそびにいけないこぐま。
そらは、おうちで
あったかいぎゅうにゅうのむよ。
おにいちゃんにだっこしてもらうよ。
こぐまも
あったかくしてもらってね。

かぜがふいても
おしくらまんじゅうすれば
そら、あったかいよ。
おすもうもして
あったかい。
かぞくとあそぶと
あったかい。
おにいちゃんは、いっぱいあそんでくれて
いちばんあったかいの。
せいかとゆうなは、よわむし!
そらはへいきだもーん。
おおかぜ、こわくないよ。
くちゅん。
くしゃみ、でた。
はなみずも、でた。
でもへいき!
かぜのこだもん!
そらだもん!
もっとあそぼ!

さむくても
おふろにはいって
おふとんにはいって
すぐあったかいの。
さむいのにがてなゆきも
おふろはとくい。
ながくはいれないけど
すぐあったまるの。
すごいね、おふろ。
みんなだいすきね。
それからね、
ゆき、おふとんもとくい。
おやすみっていって
おにいちゃんにだっこしてもらって
すぐねむれるの。
そらは、
えほんをよんでもらってからねる!
よくねると、
あったかいよ。
おそとでかぜがふいても
おへやにおふとんがならんでいる。
きょう、さむいけど
おにいちゃんは、
だれにえほんをよんでもらう?
どんなえほんで
おやすみする?
だっこがすきなの?
おにいちゃんが
おふとんであったかくねむるまで
そら、だっこする!
そらとおにいちゃんは
あしたもさむくても
こまらないの。
おうちでまいにちあそんで
あったまる。
ほたのほかほかのぱんやさんも
あったかい?
おにいちゃんとあそんで
ほたとぱんたべて
つららがこらーっていって
みんなあったかくて
たのしいの。

蛍の偽日記

『かがやくゆめの』

きらきらと
きれいなもの。

どこまでも続いている宇宙がそのまま見えるような
澄んでいる冬の夜空に
小さい子たちが遊んでいるみたいに
気ままに散らばったり、おぎょうぎよく並んだり
かわいい、またたく星の粒。

それから、
クリスマスが近づいた私たちの町に
サンタさんを歓迎する、並木道やお店のイルミネーション。
ここにはプレゼントを待っているいい子が
たくさんいて、
今年のクリスマスには
楽しみにしていたプレゼントを家族に見せてあげたくて。
とてもうれしいものが届いたら
大好きな人に急いで教えてあげたくて。
蛍がそうだったからわかる。
お兄ちゃんがいたら、きっと何よりもうれしくなって見せてあげたかったから
いまお兄ちゃんがいる小さい子達の気持ちを想像してみる。
そんな子を見て喜ぶお兄ちゃんの顔を、早くも思い浮かべてしまう。
いい子たちと一緒に過ごす家族が
この町にたくさんいるんだと
ほのかな明かりで伝える、クリスマスのよそおい。

まだまだあるよ。
立夏ちゃんの女の子らしいファッションは
一年前のちびっこガールズモードと比べたら
きらり、はなやか。
おこづかいはそんなに変わっていないから
蛍がリクエストに応えて作ってあげているのが理由かな?
それともやっぱり、立夏ちゃんが見た目も中身も
ぐっと女の子らしく成長中だから?
片付けの苦手な立夏ちゃんも
秋の大人しかったおしゃれから、冬景色が似合うようになっている。
もうすぐ静かな雪が降ってきたら
去年ほど派手過ぎない立夏ちゃんの工夫は
どのくらい季節感があるものなんだろう。
まだどこにもないその景色を思い浮かべてみる。
寒い季節らしくおとなしめの色合い、
でもどこかに遊び心を盛り込みたい。
私たちは、これからたくさん楽しいことがあるって
もう知っているんだよ。
女の子たちのはちきれそうな胸の中みたいな、色とりどりの冬服が歩く景色は
すぐそこまで迫っている。

あ、もちろん
お兄ちゃんもかっこよく決めたらいいと思うな。
寒い季節、
おうちの中で過ごしたくなる季節でも
これから始まる冬には
いろいろな思い出が生まれる。
どうやったって、忘れられない思い出ばかりできてしまうはずだもの。
私たち家族はずっとそうでした。
だからこの冬もきっと。
何が起こるか、手のひらを口元に持っていって寒そうに暖めながら
きっとだよ、
絶対だよ、
って、その時をそわそわ待っている。
足踏みは寒いからだけじゃない。
待ちきれないからなの。
もし、かっこいいお兄ちゃんの服装がとっても似合っていて
優しさも強さも、いつも私たちのお兄ちゃんでいてくれるたくましさも
誰よりもかっこいいヒーローだったら
思い出になる時間も、ひとまわりくらい楽しそうじゃないですか?
蛍はときどき、お兄ちゃんの服を見てあげたい。
迷惑じゃなかったら、いつでも蛍にお手伝いさせてください。

そして今日の
きらきらくるくる
まぶしさに目が回りそうな輝きは
世界中のかわいいケーキたちの
ほんのひとかけらが集まっただけでも
この景色はパーティドレスで競うような舞踏会。
蛍が人よりちょっとだけお料理が得意かな、
それならうれしいな、とうぬぼれていたって
おうちのお茶会は、せいぜいお菓子たちのパジャマパーティ。
やっぱり本当のお店は違うな。
こんなところで働ける氷柱ちゃんなのに
しかめっつらはいけないな。
少し困ったことがあったって
店員さんは、できれば花開く笑顔でいなくちゃ!
繊細なデザインの洋菓子たちの中にいても
きっと負けないまぶしさだと思います。
本当は、アルバイト先に行ったら
氷柱ちゃんも緊張してしまうかもしれないから
気にしていても
でも、わりと近い場所で働いているのだし
あちらの店長さんもよくごあいさつに来るくらいだし
今日は土曜日、
ホタと氷柱ちゃんがどちらも働いている、週に一度の日。
でも、おうちで家事をすることになったみんなは大変ですよね、
変なところではしゃいでしまって、なんだかごめんなさい。
だけどね、
いけないとは思っていても
弾みはじめた胸は、だんだん勢いを増すばかりで
あっちに跳ねたり
こっちに飛んできたり
わくわくは、わりと自然に大きくジャンプするようになる。
お昼の忙しい時間が過ぎて、少し息をつけるようになって
休憩を取った短い時間で
お店の人たちも、ケーキでリフレッシュしてもいいと思って。
蛍がおつかいの役目を申し出て
ついでに、氷柱ちゃんの様子も見れたらいいなと
そのくらいで出かけました。
洋菓子のお店、
やっぱり私たちのパン屋とは、だいぶ違いますね!
パン屋は素朴で親しみがある日常の一部に感じてもらえたらと
木材のあたたかみを意識した店内に、
棚にめいっぱいパンが並んでいたら、選ぶ楽しみもあるし
ふっくらしたやわらかそうなあたたかさが自慢なんですけど。
チョコレートとフルーツは、
こんなふうにして魅力を引き出すんだと
ケーキの全てが、女王の風格。
手の込んだデザインの高級感は、
なんというかお店の隅々まで行き渡っているよう。
ああ、上品なんだ!
かわいいなあって憧れるけど
蛍が店員さんだったら、ちょっと緊張して失敗しそうな空気だよ。
氷柱ちゃんは、
なんで来たの! って顔を一瞬だけ。
すぐにプロの顔に戻りました。
いらっしゃいませー、
とはいえ、いつもこんなぎこちなさではないかも?
最初はどうなることかと思っていたけれど、と出てきて
パン屋さんでは蛍とお話もする、洋菓子店の店長さんが
しっかりしているからクリスマスの後も働いてくれたらいいのに、
とうれしい言葉をかけてくれるくらい。
氷柱ちゃんも、蛍が突然訪ねてしまったから緊張してしまったんだよね。
ごめんなさい。
でも、ケーキを扱うてきぱきとした手際はさすがでした。
おうちでも、おかたづけは小さい頃から上手だった氷柱ちゃんだもんね。
手先が器用じゃないくても
頭がいいし、もしかしたら蛍よりもお料理に向いているのかもしれないと
普段のかっこいい氷柱ちゃんを見ていたら、ときどき思うこともあります。
きっとすぐにお料理も上手になるよ。
ショーケースのきらきらを眺めて
蛍が見つけたのは
あっ!
アップルパイは、蛍のお店でも扱っているよ。
どちらがおいしいか、
これは調査しなければいけませんね。
パン屋に戻って、
休憩しながら
いざ勝負!
燃え上がる炎を背負って、対決のはじまりです。
やっぱり、一口食べてすぐわかるところがある。
フルーツが違いますね。
ケーキの幸せと最高の相性を追求していったら
どうしても得意分野。
くやしいけど、そこは本格的な洋菓子店の強みだな。
みずみずしさを封じ込めておいて
さくっと噛んだときに、口の中に広がる喜び。
大好きな人を遠くから見つけた瞬間を思い出す
うれしい、切ない、この甘酸っぱさ。
のどもとを通り過ぎるまでの、あっというまの天国。
木になっているりんごに祝福を与えたときと同じように、蛍の胸に降りてくる天使。
りんごの迫力は、さすがだな。
でも、パイ生地はうちのパン屋も負けていないかな。
バターを使って焼くことなら、毎日研究しているようなものです。
さくさく気持ちのいい音を繰り返し、だんだん広がる柔らかな甘さは
そう簡単には追いつけない努力のはずですから。
今日のところは、ひきわけというところですね。
見習い店員の蛍も少しの対抗心、
うちだって簡単には負けない。
ちょっとだけ、ほっとした感じです。

クリスマスまでのアルバイトは
あと二週間くらいになりました。
一番忙しいのはクリスマス当日なんだから
今から、短いような気分になるのはおかしいですけど
お仕事を任せてもらえるこの期間、
一生懸命走り抜けたいです。
氷柱ちゃんがお店でしっかりと立つ姿がかっこよかったみたいに
蛍も少しはまぶしく輝いているかな。
星空にも、クリスマスにも一目見た感じではかなわない
だけど真面目なお手伝いさん。
きらめく立派な店員さんになりたくて
今日も笑顔で働いています。
疲れてしまっても、
お客さんの大切なお買い物の時間が
今日も、いつものように変わらぬ愛しいものになってもらえるように。
まだ小さくて何も知らないホタも
おいしいものを食べて元気が出るときは
こんなふうに、人の心を支えるお仕事の端っこで
少しでもキラキラ活躍したくて。
毎日が、お勉強の真っ最中。
蛍がいなくて大変なはずなのに
優しい家族に励ましてもらえる幸せ者、
明日もがんばります。

麗の偽日記

『考えている』

クリスマスに欲しいプレゼント。
おうちでも時々話題になっている。

立夏ちゃんが、結局何をお願いしたのか
私は知らないの。
口の軽い立夏ちゃんが
珍しく、秘密にしている。
みんなでプレゼントの話をしていても
あの明るい立夏ちゃんが、ふしぎと話題に乗ってこない。
24日の夜、
いい子で寝ていれば
必ず届く
とってもいいもの。
何をお願いしても
サンタさんなら持ってきてくれる。
何を頼むか秘密にしたまま
オニーチャンに聞いてみたら
何でも持ってきてくれるって教えてくれた!
と、言い張っている。
何かしら?
靴下に入るものかしら。
靴下どころか、煙突を通るかどうかも心配。
何を頼むかわかったものじゃない立夏ちゃんだもの。
なぜか誰にも明かさないのも気味が悪い。
今年はいつになく悩んでいたようだし。
普段から、考えても仕方のないことは、考えても仕方ないと
そう言ってる立夏ちゃんなのに
自分のプレゼントとなると、話は別みたい。
まったく調子がいいんだから。
まあ、そのうち自分から話してくれるでしょう。
黙っていられる立夏ちゃんじゃないと思うから。

私はちゃんと考えて
サンタさんがもしも不況の影響でおもちゃの仕入れが苦しくても
どうにかもらえそうな無難なものを選んだつもり。
そこまでサンタさんの事情を考慮してお願いしなくても大丈夫だと
わかってはいる。
それでもついつい、考えてしまう。
クリスマスの朝に、靴下の中によくわからないプレゼントが入っていたら
がっかりするのはサンタさんに悪い気がするし、
もらえるだけでもうれしいんだけど
年に一度のプレゼント。
少しは物がわかっているつもりでも
私は自分で言っても仕方ないことだけど、まだ小学生。
もらえるなら、なるべく希望しているものがいい。
だから、
考えすぎだと、毎年立夏ちゃんに言われてきたけれど
じっくり考えてお手紙を書きました。
フィーリングで決めてしまうと、
よくクリスマス翌日に本当に欲しいプレゼントが見つかる立夏ちゃんのよう。
今年は反省したのかしら?
じっくり考えていたわ。
私が悩みながらサンタさんに手紙を書いていても、ちゃかしてこない。
立夏ちゃんが誰にも明かせない秘密を大事に抱えているなんて。
いつ以来のことだろう?
私が望むプレゼントは
どこまでだって電車に乗れる、
何度使ってもなくならない切符と
遠くまで旅ができる大人の体。
頭脳も含めて、一人前の大人。
クリスマスに起こるはずの一晩の奇跡は、きっと叶えてくれる。
けど、それは靴下に入らないので。
大人の体はクリスマスにお願いするのはやめておいて。
夢の切符は、たぶん電車会社を全て買収すれば手に入ると思うけど
なんとなく手段と目的が入れ替わっている気がするというか
私がしたいのはたぶん経営じゃないし。
そのへんは大人になるまでに考えておく課題。
今年のクリスマスには
電車の模型をひとつだけ。
優先順位をつけて、五台の名前を挙げておきました。
たまたま手に入りにくいものをお願いしてしまって、
仕方なく希望していない車両になった、
そんな事態を避けるために。
サンタさんも、これなら本命のプレゼントが手に入らなくて困ることもないでしょう。
そう思っていたら、
麗ちゃん欲張りだな!
なぜか小さい子たちにびっくりされた。
五台欲しいと言っているわけではないんだけど。
サンタさんにも事情があるだろうからそこに気を使ってのお手紙で
むしろいいことだなと自分では思っていたんだけど
わがままに見えるのかしら?
あなたにも、そんなふうに見える?
クリスマスプレゼントは、本当に欲しいものを一つだけ選ぶほうが素直なのかな。
でも、サンタさんにも手に入らなくて、希望しないものになるのも嫌だし。
立夏ちゃんはたぶんとんでもないものをお願いしているだろうから
何を頼んだのかわからないのに、いまのうちから慰める言葉を考えているくらいだし。
考えすぎてしまうことがあると、
ときどき言われる。
私は、これが普通だと思っているんだけど。

そういえば、
あの日から一週間。
ステージの上に立って
恥ずかしいような、やりとげたような思いをした日。
電車を見に行って
気分がほっこりするようなときも
ふとしたきっかけで、あの日のことを思い出して
顔が赤くなる。
決して悪い劇じゃなかったことはわかっているのに
でもやっぱり、困るよ。
もしもサンタさんにお願いできるものが
正真正銘、本当に奇跡の力で用意できるとして。
何も制限がないというのなら
私は、学芸会で大勢の前に立っても困らない
鋼の心をもらえたらいい。
もっと欲しいものはたくさんあるけど、
まあ仮定の話だから。
いつまでも思い悩むことがない心、本当にもらえたらな。
でも、それは私が考えすぎているだけだと立夏ちゃんは言う。
私一人の演技を深く気にする人はいない。
もうそんな昔のことは忘れている。
今は、間近に迫ったクリスマスのことでみんな頭がいっぱいのはず。
いや……私はそんなことないから……
よくわからないはげましなのか、
別に深いことを考えていないで、思いつくままその場の気分でしゃべっているだけなのか。
そんなふうに気楽になりたい、と考えるには
ちょっと立夏ちゃんは強烈過ぎて憧れとかではない。
私が考えすぎているのは
もしかしたら本当なのかもしれない、と思っている。
それでも、顔が熱くなるのは止められない。
勝手に赤くなってしまう顔をコントロールするなんて
考えすぎないだけでできるようになるのかな?
気にしなければいいなんて。
そんな適当な人になるだけで解決するとは
私には、とても信じられない。

今日は幼稚園のクリスマス合唱会。
午前中から始まって、一時間くらいで終わる小さなイベント。
それでも本番を迎える子たちは緊張してしまう。
ゆうべは、お兄ちゃんにお歌をいっぱい聞いてもらうって
はりきっていたさくらちゃんが
今朝になって、おなかが痛いって言いはじめた。
私は──
緊張すると具合が悪くなってしまう感覚、
つい最近経験したばかりだから。
無理をしないで休むのが一番だと思ったの。
もしも悪い風邪だったら、重くしてしまうといけない。
今日はゆっくり休んで、悪くなりそうなら病院に行って。
休んで治るなら、それが何より。
そう思っていたんだけど。
がんばって練習したんだから、
もし出られそうなら、行くほうが後悔しないと思うと
意見を出した子もいた。
ユキちゃんは、
具合が悪くなったときに、どんなことをしてもらいたいか
よく考えているから、少しなら知っているかもって
ずっと手を握ってあげて
おなかをさすって。
ついていてあげた。
治ってほしくて、根気強く。
すぐにあきらめない、って言ってた。
いちばん近くで、励ましていればいい。
この時だけは少し無理をしてでも、笑顔でいれば
そのほうがいいんだって。
ついていてあげる人は、できることがなくて悲しい気持ちになっても。
つらい病気のとき、本当にしてほしいことは
すぐそばに、自分だけを見る人がついていてくれること。
同じ苦しさを分け合うことができなくても
その人だけは、そばにいたら力になると信じているみたいに。
治ったらいいと強く思ってくれる人が本当にいること。
氷柱姉様は、もし風邪だったらうつるとひどくなるかもって
すごく心配していた。
さくらちゃんも心配だけど、ユキちゃんのほうが体が弱いから
うつったら重くなるかもしれない。
ユキちゃんは何も気にしていないみたいに、ずっと一緒にいたわ。
小雨ちゃんは、少し前から続く寒さを気にしていたみたい。
自分も立派なお天気お姉さんだったら
ゆうべから寒さに気をつけてあげられたのに。
なぜか、そんなことを言って悔やんでいた。
お天気お姉さんじゃなくても、暖かくしてあげたらいいだけだと思うんだけど。
もっとお天気のことがわかったらいいのにって
変なことで悩んで、あっちに行ったりこっちに来たりあわてていた。
病人のまわりでうるさくして、ほこりをたてて
邪魔になっているんじゃないの、というくらいだった。
こんな小雨ちゃんがいたら治らないわ、と
私は何とか部屋で大人しくしてほしかったんだけど
小雨ちゃんでも、じっとしていられないときってある。
目を離したらすぐさくらちゃんの様子を見に行ってた。
よくないって何度も言ったのに。
さくらちゃんはそのうち自然に治ってしまって
何事もなかったみたいに、元気に合唱会に参加したわ。
いい歌声だったね。
きっと、たくさん練習したのね。
短い時間だったけど
精一杯に歌って
満足そうな顔をしていたっけ。
私は今でも、
さくらちゃんが風邪を重くしてしまうことを考えたら
合唱会に行かせるべきじゃなかった、と思っている。
すぐ治ったんだから、は結果論。
無理をして重くなる可能性のほうが高かったはずよ。
合唱会の満足そうな笑顔も、
今後も同じようにしていい理由にはならないと思う。
また誰かが、大事なときに病気になったら
私は今日みたいに、消極的に止めるに違いないの。

あんまり考えすぎるとよくないのかな。
私だったら、さくらちゃんにあんなうれしそうな顔をさせてあげられないかな。
同じように人前に立って、練習の成果を発表していたのに。
今でも赤面して思い返すだけの私と、ずいぶん違うな。
おなかが痛いときに誰かに励ましてもらえること、
そんなにうれしいのかな。
別に、私も病気になりたいというのではない。
あの時に病気で劇に出なかったら、
後で恥ずかしがらなくてもよかったのか、
それとも悔いが残る苦い思い出になったのか
たぶん本当のところはわからない。

ときどき思うの。
家族がこんなに大勢いたら
みんながずいぶん違う。
考え方も違って
きっとみんなが別々の将来を選ぶ。
同じ道を進む子がいるとしても
全員が同じ道になるなんて、たぶんない。
将来はたぶん複雑に分かれていく。
でも、今日みたいに同じ悩みを持って
みんなが別々の意見を出して
それぞれ違う答えになって。
こういう時間を重ねているなら
私たちは、いずれ違う道を歩くことになっても
その先でも家族なのかもしれないな。
全然違う家族が、違う感情をぶつけあっているから。
変な話で、考え方が全然合わない子がいっぱい集まって
問題ばっかり山積みだから
家族でいられるのかもしれないな。
そんなことを考えた。
だから何だというわけではなくて
また考えすぎだって言われるかな、とそう思った。
それだけの話。

もし本当に、誰かが風邪で寝込んでしまったら
今日みたいに落ち着けない気分になるだろうな、とも思った。
だから、うがい手洗いくらいは徹底してよ。
少し口うるさく言ったとしても
お兄ちゃんなんだから、私の味方でいてくれるでしょう。
こんなに神経質なのは、うちの家族でも私だけみたいだし
せめて、あなたくらいは
たまに私の肩を持つくらいでいいんじゃないかな、と
それが今日の私の意見。
立夏ちゃんが風邪をひいたりしたら
クリスマスでお目当てのものがもらえなくてダブルショックで
弱ってしまうかもしれない、と思ったけど
バカは風邪を引かないって言うわね。
たぶん、あんまりものを深く考えない人は
寒さ対策もそんなにしないだろうから
風邪が比較的重くなってしまうだろうし、
長い人類の歴史で、バカでも体だけは丈夫な子が生き残って遺伝子を残して
私たちの家族の血の中にも少しは流れているのかな、と
立夏ちゃんの意味不明な健康さを見ていて考えたりもするけれど
これは私の勝手な想像。
実際は、風邪をひかないわけじゃないと思うから
なんとなく立夏ちゃんが寒そうに肌を出していたら
少しうるさく思われるだろうけど、ひとこと言ってもいいんじゃないかと
このごろ、ほんのちょっと考えているの。
実際に行動にうつすか、私にもわからないとしても。

綿雪の偽日記

『魔法使いの弟子』

サンタクロースさんは
赤い鼻をしたちょっぴり恥ずかしがり屋のトナカイさんにも
勇気をくれる、とってもやさしい人。

ときどきあわてんぼうだけど。

遠い場所にある、雪の中のとても寒い国。
いま、今年の冬に寒い思いをして、
風邪に気をつけようねって家族でがんばっている
ユキたちがいるこの町よりも
ずっと寒いという国にいて
それでも笑顔を絶やさないおじいさん。
きっと大変な寒さのはずなのに
そんなこと何も関係なくて
何もつらいことがないみたいに
世界中のよい子にプレゼントを届けてくれるの。
どこにいても、どんな小さな子でも
必ず見つけてくれるよ。
子供たちのいいところを探し出したら
枕もとの靴下に
一年分のいい子に、勲章を
そっと残しておく
不思議な力を持った
立派な人。

むかしむかし。
貧しいおうちに
煙突から金貨を落とした贈り物が、最初のはじまり。
きっとその家に住んでいたのは
とてもいい子たちだったのだと思います。
サンタさんが、どうしても
年に一度の清らかな日に
素敵なプレゼントを送らないではいられなかったほど。
そして、
何年も後まで
今になってもずっと
サンタさんがいい子に贈り物を届けてくれるきっかけ。
やさしい習慣が、
いつまでも続いて、世界中のいい子のベッドに
暖かい心を届けてくれるようになったはじまり。
最初にサンタさんからプレゼントをもらったおうちに
届いたものは、
本当は金貨だけではなくて
人を思うやさしい心が形になったことだとか、
聖なる夜の奇跡を信じられる気持ち、
なのかな。
クリスマスの夜、
素敵な感情は
必ず、世界中のどこにでも届くのです。
いい子がいるから。
寒くて遠い、まだ行ったことのないどこかの国に
暖かい気持ちのサンタさんがいるからなんだよね。

夕凪お姉ちゃんが言っていたけれど
サンタさんって
やっぱり魔法使いなんですか?
煙突がないおうちにも
何があってもがんばって
うれしい贈り物を届けてくれるの。
クリスマスの一晩だけの、
大切なお仕事。
待っているすべての子供たちのために
誰にもできない奇跡を起こします。
不思議なサンタさん。
魔法使いかな。
それとも、魔法使いじゃなくても
すごい力を持っている人はいるのかな?

きのう、さくらちゃんがおなかが痛くなってしまったとき。
今から思えば、それ以上具合が悪くならないように
休むのが本当はよかったんだよね。
でもユキはそんなことを考えられないで
ただ必死でした。
付き添うことしかできないのにね。
ユキはお医者さんみたいに何かができるわけじゃない。
必要な知識もない。
ただ夢中だったことは覚えているんだけど
いったい、何をしていたんだろう?
もしも風邪だったらうつってしまう危険は、ぜんぜん頭に浮かばないで
何もできないユキが、どうしてもしたかったこと。
治ってほしい、
お願い神様、すぐに治してください。
あんなにお兄ちゃんにお歌を聞かせてあげたかったさくらちゃん。
まだ小さくてもお兄ちゃんが大好きなさくらちゃんの
やさしい気持ちを
どうか、届けさせてあげてください。
ユキがふだん病気がちで
誰かのために何かをしてあげるなんて全然できないから
さくらちゃんはいつも元気でやさしい子なのに
そんなつらい思いをしたら悲しいな、って思ったからでしょうか?
そのときは祈ることばかりで
どんなつもりでついていてあげたかったのか、なんておぼえていない。
いま落ち着いてみたら、自分が病気で悲しいことが多かっただけで
誰にもそんな思いをして欲しくない、と無理を言いたかっただけなのかもしれない。
ユキのこと、さくらちゃんを元気にできた不思議な力を持っている
サンタさんだと言ってくれる夕凪お姉ちゃん。
どこでそんな力を身につけたの? って。
本当は、まごころがこもった素敵なプレゼントを届けようとした
優しいサンタさんは
実はさくらちゃんで、
ユキはそんなさくらちゃんに力をもらって
ついていたいな、っていうお願いを叶えてもらっただけ。
さくらちゃんが元気になってくれた、そんなうれしいプレゼントをもらったのは
ユキのほうなんです。

クリスマスが近づいてきました。
一夜だけの奇跡が起こって
サンタさんが不思議な力で、プレゼントを届けてくれる日。
いったいどんな奇跡が起こるのかな。
本当に奇跡が起こるのかも、ユキはまだ少しだけ信じられない気持ち。
でも、サンタさんが届けてくれる優しくて暖かい気持ち、
そんなお話を聞くたびに
ユキが考えることは
それはいつも届いているような、
ユキのお兄ちゃんにいつも届けてもらっているのと同じような、
そんな感じがするな、ということ。
寒い国にいて大変そうでも、いい子のためにやってきてくれそうだとか。
いい子にしていたらきっと見つけ出して、えらいねって言ってくれそうだし。
何より、ユキをうれしい気持ちにしてくれる特別なプレゼントを
まいにち、まいにち
病気で少しだけつらい思いをするときだって
そんなことはすっかり吹き飛ばして
いつもユキを世界で一番幸せな女の子にしてしまうほど
にぎやかな毎日に、たくさん届けてくれる
すごい力。
あのね、
ユキはサンタさんのことはそんなに詳しく知らないし
どうやったらなれるのかも考えたことはないんだけど
お兄ちゃんは、
将来はサンタさんになって
世界中の子にプレゼントを届けられる魔法を
使えるようになるかもしれないね。
ユキの大切なお兄ちゃんなのに
他の子にプレゼントを上げるのは寂しいような気が
少しするけれど、
でも、その時もお兄ちゃんは
今みたいに優しいお兄ちゃんかもしれないから。
ユキたち家族のことも気にしてくれて
ちゃんと、おうちのユキたちにもプレゼントを届けてくれて。
クリスマスの大事なお仕事に行く前に
誰よりも先にプレゼントをくれるかもしれないな。
そしたらユキたちは、その年のクリスマスに
世界で一番最初にサンタさんにプレゼントをもらえる
サンタさんの正体は、なかなかわからないらしいから
他のみんなに自慢したりはできないけれど
たぶん、自慢できるとしてもしたくない。
ユキたちだけの大切な宝物に
お兄ちゃんと過ごすクリスマスが、なってしまう。
と思ったら、もう毎年のクリスマスが
とても幸せになっています。
すごい力を持つサンタさんって
クリスマスにプレゼントを届けるお仕事がないとき、いったい何をしているのか
たまに話題になるけれど。
きっと、そのすてきな力で
近くにいる人たちを大事にしてあげて
いつもすぐそばの人に幸せをプレゼントしているんだと
サンタさんにあんまり詳しくないユキだけど
そんなことを想像しました。

魔法みたいな力を持つお兄ちゃんのことが大好きで
さくらちゃんも、いつのまにかやさしいプレゼントができるようになったのかな?
だったら、お兄ちゃんを大好きなユキも
自分で知らないうちに力を身に着けて
さくらちゃんを元気にするために、ちょっとでも役に立っていたとしたら。
今のユキには夢みたいな話ですけど
でも、そんなことがあったならうれしい。
いつもお兄ちゃんと一緒にいるのが好きで
楽しい時間を過ごして。
優しいお兄ちゃんに憧れて
いっぱいにせのびをして少しでも近づきたい。
ユキだけじゃなくて
家族のみんなも似たようなことを考えているかも。
大した力もない
子供のユキだけど
どんなときでもお兄ちゃんを見て
もしかしたらお兄ちゃんみたいにすごい力を
だんだんおぼえようとして
これからも育ちます。
これからもいっぱい
ユキたちのそばにいてください。
お願いが叶って
うれしいプレゼントが届くとき、
それがお兄ちゃんといられる時間だったら
クリスマスの日でも
サンタさんのお仕事がお休みの日でも
ユキはきっと、いつも幸せです。

氷柱の偽日記

『寒気』

本格的な冬が来てから
天気予報では
乾燥注意をよびかけている。
強い冬型の気圧配置が続いて
強烈な寒気が発生し、
日本海側では大雪。
とても強い吹雪の場所もあるそうね。
いくら冬になるのが早くて
寒い期間が長い地方だからって
あまりに急な雪の訪れじゃないかな、
天気予報を見ている私たちでも感じる。
本当にもう、
とうとう冬になったんだわ。
私たちの町も、
吹き付ける北風に震えているよう。
わかっていたはず。
もうすっかり寒くなったってこと。
それでも、
驚いてしまう。
少し前の週間天気予報では雨の予報だったから
まだ本格的な寒さとは言えないと思っていたのかもね。
今日の予報を見て
テレビの前では、思い思いに声を上げる家族たち。
楽しみな時間を待つ歓声だったり
寒さを心配するつぶやきだったり。
ついに明日は、
東京も雪の予報。
早い気もするけど
このあたりも、もう雪を迎える時期なのね。
まだ積もるというところまでは行かないかな。
麗が心配しているみたいに、電車の運行に影響は、
あってもおかしくないわね。
でもまあ、まさかいきなり何本も電車が止まるというほどでもないと思うけど。
なんにしても、体調の心配もあるし
帰りは早めにね。
いえ、下僕のことを心配しているというか、
それは、この家の誰も、もう具合を悪くしないほうがいいんだから、
家族の合言葉という感じで
明日は、早く帰ろう。
そういうことね。
ユキは明日も学校に行くの。
やっぱり、休ませるほうがいいのかな……
心配だわ。
でもユキは、もう残り少ない今年の学校だから
一日でも多く行きたいって言ってる。
今年のうちにたくさんお勉強をして
今できることをして、
来年もいろんなことをおぼえる予感を見つけて
すがすがしい新年を迎えるんだって。
もちろん、いいことよ。
なんで立夏や夕凪の妹なのに、あんな勉強熱心ないい子に育ったんだろう。
あと、下僕の妹なのに。
まあ、私の妹でもあるし。
いい影響というのは自然と伝わるものなのかしら。
でもね。
まだ小さいし、体が弱い子だから
ユキがどうしても行きたいと言っても
年上の私たちが止めなくちゃいけないときもある。
一応、明日は朝の様子を見て考えるわ。
ユキは今年、いっぱい遊んで
少し強い体になったよ、だって。
そんなこと、お医者さんでもない私にはわからない。
ユキが自分の体のことがわかるならいいけれど。
本当に強い体になって
いつのまにか、私たちがいつも見てあげているつもりでいても
ぜんぜん気がつかないうちに
雪の日にも外を歩けるようになっていたらいい。
ユキに知ってほしいことが、たくさんあるもの。
同じ名前をして、空から降ってきて
しんしんと積もる白い雪は
触れたときは冷たいものであっても、
こんなにきれいで、
真っ白く純粋に積もるものなんだと
その寒さを体験しながらわかってもらえたらいい。
ユキの名前はこんなに美しいものからつけられたんだよ、って教えてあげたい。
雪が降る町を歩く人たちが
この冬をどんな風に過ごすかゆっくり考えて、
たまに困ったような、あるいはうきうきしたような顔で通り過ぎていく。
町の景色をすっかり白く変えて、
私たちのところに、冬がやって来たんだとみんなに伝える。
今は、おうちの中で大好きな家族たちと
あたたかく、寄り添いあって過ごす冬。
厳しい寒さでも、
家族がこの家にいれば乗り越えていけるものなんだと気づかせる冬が
私たちの住む場所にやって来る。
そんな冬に、一番大きな印象を持つ素敵なもの。
家族と手を繋いで越えていく季節が来たと知らせる
ユキと同じ名前をした、白いきれいなもの。
こんなに特別なものの名前が似合う子なんだよ、って
雪が舞う空を見上げながら
ときどき、てのひらに受け止めて触れてみたりしながら。
私が考えていることを
ユキにわかってもらえたらいい。
私がユキをどんなに思っているか。
毎年の特別な思い出になる白い雪よりも
いつもおうちで一緒にいてくれるユキが
どんなに特別で、私の中でかけがえのない宝物なのか、
降り続く雪の中で話せたらいい。
あなたは私の大切なもの。
こんなにきれいな雪景色だってくらべものにならない。
ユキみたいに美しい白い雪の中で話せたら
ちょっとは伝えれれるのかな。
こんなにユキを愛している人がいて
どんなときも、何があっても見守っているんだよ、
それが私の気持ちだということ。

今年、最初に風邪をひいてしまったのは
ふだんはあんなに体力があるように見える、たくましい元気な海晴姉様。
悪くならないうちに治ったのはよかったけど。
夕凪たちのアイデアが役に立ったのかはともかく、麗の学芸会に行けなくても
大人なんだから納得しているし。
まったく、あの海晴姉様も寝込むほど深刻な寒さだと思うべきなのか
急に寒くなってもおうちではまだ体調を崩す子がいないことを喜ぶべきなのか。
立夏の様子がなんだか変なのも
風邪をひいたとかじゃあないわよね。
理由はたぶん、
サンタさんへの手紙。
そう、これ。
なんで私が持っているのかって?
いいのよ、
ちゃんとサンタさんに届いたってことなんだから。
プレゼントのお金を出したのも、当日に枕元へ届けるのもたぶん私ではないけれど
買い出しとかで協力はしたんだし。
いえ、
立夏のプレゼントはまだ買ってないけどね。
他の候補をまったく考えないで
サンタさんにならお願いしたものを絶対にもらえる、と信じている。
代わりに今年は何を届けるのか
まだ会議が続いているの。
サンタさんたちの間で。
立夏も、手紙の最後で
どうか立夏だけじゃなくて家族のみんなのお願いも聞いて
みんなにプレゼントを届けてください、って
変に気を使うより
もっと考えることがあると思うけど。
もしも第一希望のプレゼントが無理だったら
何がいいのか、とか。
立夏が希望している、不可能なプレゼントは。
これからずっと
お兄ちゃんと二人だけで毎日続ける交換日記。
日記帳をあげるだけならいいんだけど
たぶんお兄ちゃんは
19人姉妹との日記でせいいっぱいだから、
姉妹との交換日記を増やすのも無理でしょう?
あの子には珍しく、プレゼントの内容を秘密にしたのも
無理を言ってるのがわかっているのか、
それとも、他の子に真似をされたら
そのぶんお兄ちゃんを取られちゃうから、だけの理由かもしれないけど。
世界中のどんなサンタさんでも、叶えてあげることのできないお願いなんだから
代わりに何かほしいもの、
下僕もこっそり聞き出しておいてよ。
私たちの下僕は
肝心なときに役に立たなかったりして、頼りになるかどうかは疑問だけど
でも、私たち19人姉妹の家族なんだから
誰か一人が独占することはできないと思う。
あなたもあんまり無理をすることは考えないようにね。
たいしていい知恵が浮かぶ頭でもないんだし
使い慣れない頭を使って、熱が出るかもしれない。
ただでさえこんなに寒い冬。
少なくとも立夏にはこんなに思われている体なんだから
大事にしてよね。
無理してでもこれから立夏と毎日交換日記をしよう、なんて思いつめて
体を壊すようなことはしないで
ちゃんと別のプレゼントを考えておいて。

吹雪の偽日記

『旅する夜』

昼の12時頃から目立って降り始めた雨は
私の家族たちの帰宅時間に渡って降り続いたため、
今日の夜は帰宅時の寒さが何度か話題になりました。

また、それ以上に多く聞かれたのは
雪の話題。
より精密に言えば、
雪の降る時刻に関する話題です。

夕方を過ぎても雪にならない天候に、
不満を持つ姉妹もいたようです。
キミはそれほど不満はなかったようですね。
やはり、あまり雪は降らないほうがいいと思いますか?
電車が止まる心配もあります。
家族が夕方の天気予報に釘付けになっている最中に、
関東平野の一部で五センチ、関東北部では十センチ程度の積雪が予想されるとの予報に
このあたりは雪遊びができるほど積もらないと嘆いた立夏姉を
慰めているときのキミは、
できれば一緒に遊びたかったらしい発言もありました。
積もるほど降らないことが予想できていたから
今日の天気を容易に受け入れたのでしょうか。
帰宅時の足や、寒さの不安よりも
家族と遊べるかどうかが基準である様子は、
キミにとって雪はどのような解釈で受け止める現象なのか、
そのような基本的な部分も未知であることを知らせる。
今もって私に、キミが複雑な謎と疑問の凝縮であることを実感させる。
私はクリスマスの歌が苦手であっても、
キミがどのような態度でクリスマスの到来や
それにちなんだ歌を見つめているのか観察できるのならば
参加してもよいのではないか、と考えたことはあります。
いえ、しませんが。
そういえば、霙姉の話によると、
学校のハンドベル部に病気で欠員ができて、
今からでも助っ人を歓迎しているとの話ですね。
年齢も性別も不問とのこと。
合唱と協力する曲があるため、土曜日と日曜日には合同練習があるとか。
募集しているのは、練習すれば誰でもできる簡単なパートの担当だそうです。
いえ……
しません。
本当です。
それはともかく。

雪だるまが作れるほどではないとしても
木の実の赤い目と葉っぱの耳をつけたうさぎが作れるくらいなら。
明日の朝に少しは積もっているだろうと
自分の目で確認してからベッドに行きたい。
そのような期待を口にして、
お風呂のあともカーテンの隙間をあけて雨模様を見つめていた子供たち。
くっつきあって、押し合って
しゃがんで丸まって、固まりあう後ろ姿。
氷柱姉は、もうこれでちっちゃいけものたちみたいな眺めだから
うさぎを作るまでもないんじゃないか、と
よくわからない理屈で、小さい子を早く寝床へ追いやろうとしていました。
屋外の冷気が伝わる寒い窓に張り付く子たちに
せめて暖かくしてほしいと、湯気の立つミルクを運んでいたのは蛍姉。
一目でも初雪を見ることができたらと張り切っていた姉妹も
ひとりまたひとり、眠り込んだくたくたの状態で部屋に運ばれて行き、
もし降ったら、寝ていても起こしてねと話し合ったことを思い出しながら
最後に残った私が、このリビングのカーテンの隙間から
ついに雪に変わりはじめた天候を見ています。
今年も私たちの住む場所に、初雪がやって来ました。
熱い飲み物が苦手な私に、
風邪を引かない栄養をとるように用意されたはちみつ入りのレモネードは
何度かのおかわりのあと、
蛍姉の就寝後の今、もう空のカップのどこにもありません。
約束をしたと言っても、雪を待っていた子たちを今から起こして回るのは問題でしょう。
この日記を届ける頃には、私はベッドに入っていると思います。
蛍姉に注意されたとおりに、
カップの片づけを済ませ、
歯磨きももう一度きちんとしてから
布団をかけて暖かくして休んでいるはずです。
あるいは、この日記を読んだキミが
私を探しにリビングに来ることを期待して
もうしばらく、この場所に残っているかもしれません。
その時のために用意する飲み物は
私に合わせてレモネードでいいのか
それとも、温かいミルクやホットココアなどは
こんなに寒い時刻なら私にも用意できるのか、考えています。
また、私が部屋に戻った後に
もしも後からキミが来るとしたら、無駄足にならないように
蛍姉の注意を忘れたふりをして、空のカップを置きっぱなしにして
片付けの仕事を残しておくといいのか。
ただ一人で見ているには、あまりにも不思議な思いがする景色。
雪がこんなに白い理由は、
不思議な妖精のしわざなどではなく。
観月が言うように、さくさくと雪を踏みしだいて山を行く雪女がいるからでもなく。
単に光の性質だと知っている。
光は波長によって七色の可視光線に分解され、
水がプリズムの役目を果たして虹が発生するのと比べて
雪は透明度の関係から、不完全に通過した光が混じり合い
人間の網膜に白色として捕らえられる。
説明してみればなんでもないメカニズムなのに
私が見ているこの風景は
やけに特別に思えて
誰かと眺めていられたら、と考えている。
理由はわかりません。

こんなにも特別に見える雪も、
見慣れてしまう頃には春が来て、
なかなか見ることのない遠いものになっていく。
それまでの冬の期間に
この不思議な景色に、私は本当に慣れることがあるのか、
初雪を迎えた今は、まだ正確な予測ができません。
あるいは冬の長さは、慣れるには短い時間なのか。
それとも私は、雪の夜の神秘的な眺めが気になっているのか。
雪を見た自分の中に発生している、理解できない感覚の答えを知りたいのか。
答えが出なくても、ただ誰かと話をしたいだけなのか。
雪の夜が人に特殊な感覚を与えるその理由を、私は知らない。
隣にいたらと思い浮かべる人が決まっているのはなぜなのかもわからない。
次第に多くの謎が明らかになっていくこの世界において
いまだに解明できないものがここにもあるようです。
雪に見慣れるには短いようであっても
寒さを増す季節には
私が心配するべきことは他にあるのではないか、とも考えています。
それは、雪だるまを作れるかだとか、
恐ろしい雪女の到来ではなくて、
電車が止まってしまう心配も、もうすぐ必要なのだろうけれど。
並んで雪を待っていた小さい子たちが暖かくして眠っているか
この気温を体感していると、気になっている。
であるならば、
やはり私が待つならば、温かい飲み物を作っておくべきなのかもしれない。

この日記をキミが読み終えたときに
私が存在している場所はいったいどこなのか。
いったい何を手に、その場所にたたずんでいるのか。
もしも出会えたのならば、初雪についてどんな会話を交わすのか。
私が今いちばん伝えたいことは何なのか。
あの名高いシュレディンガーの例えを思い出すまでもない日常的な風景なのに
観測者を待っている私には予想がつかない。
であるならば、私もまた量子と変わらないのか。
このような雪の夜には、霙姉が言っているように
宇宙に比してあまりにも小さな人間の存在を思えばいいのか。
雪の夜に私が話したいのは、そのことではない気もします。
明日の朝には、わずかに積もった雪も、変わり始めた雨で溶けてしまう予報。
心を奪うこの景色を離れて、ベッドへ向かう決心がつくまでの間に
果たして答えは出るのか。
そもそも、一人で考えていたら答えが出るのか。
私はそれすらも知らない。

星花の偽日記

『みかん』

じんぐるべる
じんぐるべる

ふんふふん。

ちゃかちゃか。

この踊りは
虹子ちゃんと青空ちゃんが考えたの。
すごいですね!
あんなに小さいのに
もう、我が家のりっぱな振付師を任せることができます。
1歳と、
2歳で!
どれほどの才能?
それとも、
踊りが好きなのは、普通かな?
星花も小さい頃はよく踊っていたんだって。
あっ、お兄ちゃんから見たら、今もまだぜんぜん小さい子なんだけど。
おうちにビデオカメラはないから映像は残っていないの。
実際にどんな踊りをしていたのかは、今は覚えていない。
海晴お姉ちゃんも霙お姉ちゃんも、機械は苦手だから
デジカメにも星花の踊っている写真はありません。
蛍お姉ちゃんがちょっと大きくなってからみたい。
かわいい服を作って、小さい子に着せてあげて。
星花が4歳のクリスマスのサンタ服が
入学式とか七五三とかじゃなくて、家族の日常を記録に残したはじめの写真。
このときの星花は
ずいぶん緊張して、固い顔。
やっぱり、カメラが苦手だったのかな。
ほっぺたを真っ赤にして、口を結んで。
凛々しい顔です!
かわいい!
子供の頃の星花って、今よりかわいかったのかな?
カメラの前で緊張しないでいられるようになったのは
たぶん、つい最近。
だから星花の踊りは残っていません。
カメラ、
今でも苦手かもしれませんけれど。
前より少しはよくなった?
今でもまだ、カメラの前ではかたまっちゃう?
思い出すのは
去年、カンフー教室の昇級審査会で
いい成績を残せたときの笑顔。
緊張も忘れたみたいに。
あれから一年、
写真には残せない、星花の満天笑顔。
写真に残っていなくても
本当は家族のみんながいて、毎日うれしい。
そしてクリスマスにやって来た大好きなお兄ちゃんが、今はこのおうちにいて。
星花の毎日にいっぱいだった笑顔は
お兄ちゃんの記憶にあるでしょうか。
クリスマスの楽しいパーティで
緊張を忘れるくらいの笑顔が、今年は写真に残せるかな?
大事なお写真係は麗ちゃん。
張り切っている飾り付け係は、春風お姉ちゃんとヒカルお姉ちゃんがリーダー。
そうそう!
お兄ちゃんにご報告があるの!
クリスマスパーティの中心になる
非常に責任重大なお料理担当は、
今年は小雨お姉ちゃんと星花が任されたの。
星花の初めてのケーキになるんだあ。
やっぱり、初めては失敗するものなのかな?
ケーキのスポンジがしぼんでしまったら、
みんな、あーあってなっちゃうかなあ。
でも、蛍お姉ちゃんも氷柱お姉ちゃんも、立夏お姉ちゃんもケーキを販売するアルバイト。
立夏お姉ちゃんは、何かあっても助けてくれそうな蛍お姉ちゃんのいるお店のお手伝いに
決めたそうです。
だから、もしものときは連絡があれば買って駆けつける!
星花は初めてのケーキを一生懸命作ればいい。
失敗しても頼りになるお兄ちゃんやお姉ちゃんがいるから大丈夫だって、
蛍お姉ちゃんたちは言ってくれました。
生まれて初めて作るケーキをお兄ちゃんに食べてもらえる、
そんな世界のどこにも見つからないうれしい幸運は
おうちでは星花が一番乗り。
お兄ちゃん、星花は実はそんなに自信はないの。
ケーキ作りが下手だったらどうしよう?
せっかくのはじめて。
うまくいかなかったら
もしかしたら、とんでもない思い出になって記憶に残ってしまうでしょうか?
これからずっと同じときを共に過ごすと誓い、
死ぬときも一緒。
固い絆で結ばれたお兄ちゃん様に
なんとか、おいしいと思ってもらえるように。
もしも大変な思い出になってしまったら
挽回していけるように。
ここが、矛を取りひげを伸ばして挑む熱い戦場ではないのが少し残念ですけど。
星花はひげを伸ばしたくても無理だし、
お兄ちゃんはたぶん怒られるから伸ばせないですけど、
でも、お兄ちゃんを守れずに散る三国時代みたいな悲しい運命なんて
別に星花の毎日には待ち受けているということはなさそうだから
ほっと安心したりして。
戦いに敗れても、またお兄ちゃんのために星花は挑みます。
立派なお兄ちゃんにいつもお仕えすることを求めて、
どんなに離れても駆けつけます。
恐ろしい武将が行く手を阻んでも、どんな相手にも立ち向かう。
女の子の星花でも
主君を思う心は、たとえ関羽様が相手でも負けていないと言いたい。
強さでも、かっこよさでも、役に立つかどうかも星花は全然かなわないけれど
お兄ちゃんの側にいたくて駆けていく心は、あの素敵な関羽様と同じだと思えたら──
そんな気持ちにしてくれる人が星花の側にいるなら
それは星花の一番の自慢になります。
これからずっと重ねていく、お兄ちゃんがいてくれる家族のクリスマス。
クリスマスの初めての挑戦、
うまくいくかどうかはこれからだとしても。
懸命に挑んだ記憶だけは、星花は自分の中に残しておきたい。
もう小さい子供ではありません。
今年のクリスマスのこと、
絶対に忘れないでいようと決めている。
楽しい思い出になるのか、もしも力が及ばなかった記憶になるとしても、
星花はお兄ちゃんのために全力を尽くして、
この初めてを誇りにして、毎年のクリスマスを続けていけたらと願っています。

残念ながら残っていない星花の踊りだけど、
虹子ちゃんと青空ちゃんの踊りがあるから、これもうれしいですね。
この踊り、来年からも残していけるかな?
合唱会に参加する星花が
歌の練習をして、というかお兄ちゃんと楽しく歌って遊んで
ただでさえ乾燥する季節にのどがかわいたこんな時、
一休みするこたつにみかんがあると
冬っていいな!
と、思います。
甘いみかんがあるおかげで、冬を満喫してる星花。
だから雪を見れなくてもいいんだもん。
昨日は初雪を見たのは吹雪ちゃんだけ。
今朝になって、雨の庭に所々見つかる白いかけらを探している星花たちは
吹雪ちゃんがうらやましいような気もしているけれど
初雪だけが、冬の訪れを告げるいいものじゃないんだもん。
おいしいみかんを食べる、冬の幸せ。
うん、ほっこり。
お兄ちゃんも、のどがかわいたときはぜひどうぞ。
たくさんあります!

吹雪ちゃんは雪のことを詳しく知っていて
夕べの初雪の話をしてくれるときは
すごく立派に話すの。
吹雪ちゃん、すごく頭がいいんだね。
虹子ちゃんと青空ちゃんも踊りが得意だし
なんだか星花、お兄ちゃんのお役に立っているかなあ?
みかんがおいしいよ、なんて
誰でも言える当たり前のこと。
でも、おいしいですよ。
冬の活力。
こたつの上に元気のみなもと。
お兄ちゃんも、みかんをいっぱい食べて
風邪をひかないでください。
世界のどこにもいない、星花が憧れるかっこいいお兄ちゃん。
星花はその妹なのに、
なにもすごい所がなくて、
お兄ちゃん、こんな妹で残念じゃないかなあ。
お姉ちゃんたちも、妹のみんなもすごいところがいっぱいあるのに
星花は、
ただ初めてのケーキ作りでこんなにはしゃいで
気合を入れて、
絶対にがんばろうって決めている。
きっと、他のみんなが成長してきたら追いつかれる出来事です。
今年のクリスマスだけの特別なの。
たいしたことは何もできないかもしれない。
お兄ちゃんがいつかは忘れてしまう、小さなクリスマスなのかもしれません。
でも、いいの。
がんばるって決めたんです。
絶対、星花は自分だけはずっと忘れないクリスマスにするんだから。
こんな頼りない星花でも
今年だけはどうか、お兄ちゃんの特別になれますように。
家族の楽しいクリスマスを作る力が
今の星花にまるで足りなくたって
このくらいですぐにあきらめてしまったら
関羽様のようになりたい、なんて恥ずかしくてとても言えないですもの。
みかんひとつでほっとするこんな普通の星花も、
今年はクリスマスの大きな役目を果たします。
見ていてください。

海晴の偽日記

『大きなちから』

お天気お姉さんの力でどうにかなることではないけれど。
寒い冬が来て、誰もが厚着を来て歩く町に
ぽつぽつと滴る冷たい雨が続くと、
一日の天気をお知らせする私も少しがっかり。
本当は、こんな季節だからこそ
毎日暖かい晴れの予報をお届けしたいのに。
日差しの少ない季節でも
せめてお日様がにこにこ明るく見守ってくれている時間くらいは
子供たちは元気にお外で遊んでいられて
大人の皆さんは、忙しい日々にひとときでも暖かい日差しを感じて
大変なことがたくさんの師走の毎日を、気持ちよく送っていけたら。
お天気の情報でしかお手伝いできない私の仕事。
曇り空の予報を伝えるのは、あまり得意ではないけれど、
でも毎日必要としてくれる人たちがいます。
がんばって正確に伝えたい。
お天気お姉さん一年生、毎日勉強中です。
明日から関東では、やや天気は持ち直しそう。
発達した低気圧による風には注意が必要ですが
時間があったら、久しぶりのお日様をゆっくり浴びてみてください。
うーん。
私は毎日正確にお知らせするお天気お姉さんより、
大好きな晴れの空を呼びこむように
夕凪ちゃんみたいにマホウ使いを目指したらよかったかな?
今度、大学でそんな授業がないか探してみるね。

三連休の初日、
もしかすると、いい天気も午後から曇りに変わる場所も。
お洗濯は早めに済ませると良いかもしれません。
蛍ちゃんがアルバイトの前に、張り切って済ませていくかしら。
残り一週間足らずになったパン屋さんのお仕事。
よくがんばっているね。
お疲れ様です!
クリスマスケーキの販売に人手がほしいから
24日と25日は立夏ちゃんが臨時のアルバイト。
ええと……
蛍ちゃん、もう少しの間大変かもしれないけど、がんばって。
蛍ちゃんになら立夏ちゃんを任せられるよ。
よろしくお願いします。
立夏ちゃんは、落ち着いてお仕事をするようにしてね。
それから、たぶん言わなくてもいいくらい元気な立夏ちゃんだけど
初めてのアルバイト体験、
はりきってがんばってください!
元気に仕事を終えて帰ってきて
楽しかったことも、時には失敗してしまうこともあるだろうけど
立夏ちゃんだけのおみやげ話を持ってきてくれるなら
それが一番のクリスマスプレゼントです。
あ、もちろん
私も、サンタさんには別にプレゼントをお願いしてあるから
立夏ちゃんからと、サンタさんからももらいます。
本物のプレゼントがもらえなくなる心配とかは気にせず
たくさん、たくさんの体験を、欲張りにおうちに持ち帰ってください。
私の弟クンも誘ってもらっていたみたいね。
キミが近くにいてくれたら、立夏ちゃんのことも安心なんだけど。
やっぱり、おうちの準備が気になるかしら。
もし、立夏ちゃんたちと働いてみるつもりがあるなら、注意してね。
24日はみんなの学校で終業式。
半日で帰宅できるのはいいけれど。
学校にアルバイトの申し込みをする人は、当日にも結構いて
かなり混雑する職員室。
霙ちゃんの忠告がなかったら、
立夏ちゃんも今日のうちに届け出ておいたかどうか怪しいわ。
キミも、もし終業式の日になってからアルバイトをすることになったら
遅刻しないよう、時間には気をつけて、余裕を持って届けを出してね。
もしも学校に黙ってアルバイトしたら、すごーく怒られるよ。
見つからなければいいなんて考えてたら、
そんな悪い子は、先代生徒会長のお姉様が許しません。
かなり説教されてしまう子、よく見てきたし。
反省文もかなりの量を書かないといけないし。
私も、友達や下級生が泣きながら反省文を書いているのを
生徒会長としてはなんとなく見るに見かねて
つい手助けしてあげたものだし……
大変なんだから!
生徒会長の仕事というのは。
あ、そういう話じゃなかった。
学校の先生に怒られると大変なんだから!
氷柱ちゃんのアルバイト先も、クリスマスは忙しくなりそうな洋菓子屋さん。
でも、ケーキの予約なんて全然入ってないから
どうせ当日も大して忙しくならないし
アルバイトはあんまりいらないって、本人は言ってるわ。
ヒカルちゃんは、そんなに売れないで大丈夫なのかなって心配している。
ちゃんとお給料が出るのかな。
あんなに一生懸命がんばっていたのに。
私たちも一つ買いにいったほうがいいのか、なんて。
もう。
氷柱ちゃんが、気を使っていらないうそをつくから
かえって家族に心配をかけている。
立夏ちゃんが自分のお店に来ても、何かあったときにフォローできないかもしれないから
頼りになる蛍ちゃんのお店でアルバイトしてほしくて、言ってるんだと思うの。
まあ、同じお店で家族が働いていたらやりにくいのもあるかもしれないけど。
確か何日か前は、氷柱ちゃんも家族を誘っていたの。
蛍ちゃんのお店もアルバイトを募集しているって聞いてから、
氷柱ちゃんの話すお店の様子が急に閑散としてきた。
家族がお店に来るのが恥ずかしい様子の氷柱ちゃんが、
それでも人手がほしくて立夏ちゃんたちをアルバイトに誘っていたくらいなのにね。
お店だって、助っ人を引っ張ってこようとしているのは氷柱ちゃんだけじゃないはずだし
どうしても人手が足りないという状況になることはないだろうけど
忙しくなりそうだから、ちょっと心配だな。
正直に、手伝って! って言えば
かわいい妹のために力を貸してあげたい家族はいっぱいいるのに。
このごろは、自分一人で何とかしようと考えているのか
黙りがちな横顔がなんとなく悲痛に見えるのは気のせいかしら。
当日は時間を作って様子を見に行くつもりよ。
まったく。
氷柱ちゃんも強情なんだから。
一人でどうにか解決できたらと考えることは、よくあるよ。
まだ若くて、自分ひとりでもせいいっぱい力を出せばなんでもできそうな
そんな年頃。
でも私は──
暗い曇り空に、肩を丸めて帰ってくると
おうちではそんな天気は忘れるくらいの騒ぎで、
どうしてこんなに元気でいられるのか、小さい子のパワーが不思議なくらい。
吹雪ちゃんは、とうとう霙ちゃん相手に根負けしてしまったのか。
それとも、大好きなキミが参加しているから興味があったのか。
明日はハンドベル部の活動を見に行くって
練習の本を熱心に読んでは、半分握ったこぶしをふりふりしてる。
本番は日曜日の夕方だから
練習期間は土曜日と、日曜日当日、本番までの時間。
私は見学だけであきらめたハンドベルだけど
簡単なパートとはいえ、なんとかなるものなのかしら。
今日も家族は元気いっぱい。
この冬も、やりたいことだらけ。
予定を決めた立夏ちゃんのアルバイトや、
おうちで家族のためにクリスマスの準備をがんばりたい子たち。
アルバイトの誘いを真剣に断ってきた春風ちゃんやヒカルちゃん、
お料理担当の小雨ちゃんや星花ちゃん。
みんなが元気で過ごしているのを見ていると、
曇り空でも落ち込んでいられなくて、
この家で一番力をもらっているのは私なんじゃないかと感じてくる。
いつも意地を張ってしまいがちな氷柱ちゃんも
私の力なんだよ。
本人は知らないだろうけど、
強がりを言ってしまう氷柱ちゃんを守れたらいいと願う気持ちが、
私が長女としてみんなを助けてあげられる力です。
そんなみんなを気にしてくれるキミも。
いつも家族のことを大事にしてくれてありがとう。
そんないい子に、
サンタさんもきっととびっきりのプレゼントを届けてくれると思うわ。
冷たい雨の厳しさを実感する、とうとう冬になりました。
日差しが物足りなくて寂しくて、暗くなりがちな季節を乗り切る力は
なかなか一人では出せないんじゃないかな。
できる人もいるかもしれないけれど
私はたぶん、それは無理なんだとわかっている。
みんなに助けてもらっています。
このにぎやかな家族のみんなに囲まれているから。

ついにはじまった本格的な冬を乗り切るために
どうか、これからよろしくお願いします。
それから、冬が終わった後も、ずーっとね。

イベント盛りだくさんのクリスマスシーズン、
そして、いよいよ冬休み。
みんなが毎日楽しく過ごせますように、祈っています。
どうか元気に、精一杯に。
ついでに私にも
そのあふれるエネルギーをいっぱいぶつけて
これからがんばっていく力をたくさんくれたらうれしいです。
みんな、風邪なんてひかないように!
家族で力を合わせて、冬を過ごしていこうね。

真璃の偽日記

『もうすぐクリスマス』

あと何日?

ずいぶん前から
早く来ないかな、
まだかしら、
さすがにもう
そろそろクリスマスじゃないかな?
待っていた。
明日くらいには、朝起きたら
その日がクリスマスになっていないかな。
なんて。
胸は弾むし
足は踊るし
気がつくと、勝手に鼻歌は口ずさんでいるし。
マリーらしく優雅に
クリスマスムードの高まってきた町を眺めながら。
おチビちゃんたちの手をとって
おうちのツリーの飾り付けをしながら。
ときどきは、
フェルゼンの胸に抱かれて
楽しみに待っているのに、どうしてまだクリスマスが来ないのか
わかっているのに、尋ねてみたり。
にじちゃんや青空ちゃんじゃないんだから、あと何日待つのか知っているのに
カレンダーなんて見えないふりで
そろそろだと思っているの、とからかってみる。
あの時のフェルゼンの困った顔。
真剣に答えようとしてくれていたのよね。
跳ねたり飛んだり、子供みたいに
くっつきあってぐるぐる転がりまわりながら
待ち続けたクリスマス。
冗談と本気が交じりあって
自分でもどっちなのかわからなくなるほど
もういつ来るのか、
本当に訪れるものなのかさえ疑問に思って
ずいぶん長いこと待っていたようなクリスマス。
目の前に近づいてきた今から思えば
もどかしいのか、待っているのが楽しいのか迷うそんな時間も
あっという間のことだったような。
それでいて、
あとほんのわずかの数日が
まだまだ、あまりにも長すぎると感じるほど
マリーを戸惑わせるいけないいたずら妖精のよう。
まもなく本番を迎えたとき、
今からこんなにドキドキしている胸は
これ以上に高鳴ってしまうの?
そんなの、マリーは
とても耐えられない気がするわ。
愛するフェルゼンが助けに来てくれなくちゃ。
羽飾りをつけた騎士の姿で
クリスマスのうれしさがあふれてめまいがしそうなマリーの前に現れて
甘い喜びの瞬間を分け合ってくれなくちゃ。
でないとマリーは
不機嫌になってしまう。
楽しくて仕方ないクリスマスを
マリーとひと時も離れずに味わい尽くしてくれないと
とても許せない!
フェルゼンが気がきかないで、マリーのそばで
どれだけ楽しいかいつも聞いてくれなかったら
おしおきが始まるかもしれないわ。

だいぶ前から町の景色は様変わりして
お店のクリスマスの飾りつけは
きらめくダイヤモンド。
そんな気分。
もみの木も、
リースの飾りつけも
大粒の宝石がついたブローチのよう。
絵本で見つけるクリスマスは
夜空に輝く星たちが、
金のティアラにも負けないほどにきれい。
クリスマスの夜には、本当にこんなに輝くの?
きっとそうよね。
星空を渡ってサンタさんはやって来る。
こんなふうに輝いていてくれなかったら
暗い夜は、道に迷ってしまうもの。
それに、お迎えする私たちも
サンタさんに早く来てほしくて
道を照らしてあげられたらいいと思うわ。
星がたくさんの夜だったら
きっと安心ね。

前から考えていたの。
世界中を彩るきらびやかな飾りつけと
楽しみなパーティ。
いい子にはプレゼントまでもらえるなんて
クリスマスって、とっても華やか。
まるでマリーのためにあるように
みんなみんな
うれしいものばっかりでできているクリスマス。
本当は知っているの。
マリーがいくらかわいらしくて
みんなに愛される女王だからといって
クリスマスの素敵なこと、
マリーのために用意されたわけではないの。
全部、クリスマスを楽しみにしているいろんな人たちが
待ちきれなくて、どうにもならなくて
気がついたら全力で工夫を凝らしていたら
こんなにきれいで、にぎやかなものになった。
もし、マリーのためにクリスマスをしてねって言ったら
他の人たちは困るかもしれないけれど。
世界一特別にかわいいマリーのために
フェルゼンは、こんなに楽しくお祝いする人たちにも負けないほど
マリーに最高のクリスマスを届けてくれる?
クリスマスをわくわくしながら待っているどんな子も体験できない
世界一のクリスマスをマリーに届けてくれるかしら。
そんな楽しみな日が、もうすぐ訪れるの。
とはいえマリーは
どこにだってありそうな当たり前のクリスマスも好きよ。
定番のお料理をテーブルに並べて
イブの夜にはサンタさんを待って、いい子でベッドに入ったら
その時だけは静かなこの家の夜は、
トナカイの引くそりが近づく音が聞こえてくるかな。
シャンシャン、きらめくような鈴の音。
冷たい夜空から降り注いでくれるかしら。
目が覚めたときに届くプレゼントは
サンタさんはお願いしたとおりに届けてくれるかな。
マリーのくつしたが大人っぽいからって、
お姉ちゃまたちと間違えたりしないでね!
クリスマスパーティーは、今年は蛍お姉ちゃまと氷柱お姉ちゃまのお仕事が終わってから。
吹雪ちゃんがハンドベルの演奏に参加したから
今日はおうち合唱団の練習が寂しいみたいで
一緒に遊んであげている間にマリーと観月とさくらも参加して、
規模が大きくなりつつあるジングルベル。
パーティーの日は、家族のみんなにマリーたちのお歌を届けてあげる。
明日のフェルゼンたちの発表会も見に行くわ。
素敵なお歌を聞かせてもらうの。
マリーたちの心のやる気のキャンドルに火をともしてね。
蛍お姉ちゃまがいないクリスマスの準備だけど
当日に向けて、それぞれが張り切っている。
ここしばらく、おやつの時間に蛍お姉ちゃまがいないことがあるのは寂しいけど
今日は、マリーがお手伝いしたホットケーキ。
おいしくなーれって一生懸命かきまぜたロイヤルなホットケーキ、おいしかった?
小雨お姉ちゃまが作ってくれたロイヤルミルクティーもなかなかのもの。
マリーとここまで張り合えるなんて、やるわね。
クリスマスのお料理担当を任せてもらって、
やる気になっているのかな?
ときどき、キッチンのほうから
小雨お姉ちゃまの不吉な悲鳴が聞こえるのは気になるけど。
クリスマス本番が楽しみね。
おやつの時間にこんなふうに、自分たちで好きなものを作れるようになれたら
もう少しだけ蛍お姉ちゃまたちがいない寂しい時間も、我慢できるかな?
クリスマスにみんなが揃うときには
マリーのエプロン姿で、驚かせてあげるんだから。
みんなお料理も上手になっている上に
かわいい合唱の贈り物までしてあげたら
蛍お姉ちゃまの喜ぶ顔が想像できるわ。
これからはマリーの時代だな、って言ってくれるはず。
フェルゼンもそんな素敵なマリーの姿に
これまでにも充分にフェルゼンの心をひきつけているマリーの
さらに新たな魅力を発見するはずよ。
誇らしいそんなパーティーのために準備を重ねたい。
とても待ちきれないと思っていたクリスマスまで
まだまだ増えていく喜び。
本番前に、もっとクリスマスがうれしいものになっていって
そのおかげでマリーがもっと成長して、きれいになってしまったら
マリーより先にフェルゼンが我慢できなくなってしまうかも。
そんなときは、マリーにそのハートの情熱をそっと分けてね。
少し早くても、クリスマスを二人で味わいましょう。
なんて思っていたら
ホットケーキがおいしすぎて
ぽろぽろこぼしてしまう青空ちゃんや
においでおなかがすいてしまったのか、泣いてしまうあーちゃん。
もしかしたらあーちゃんは、フェルゼンが恋しくて泣いてしまったのかも?
マリーも覚えがあるわ。
我慢しないで泣いてしまってでも、愛する人をそばに引き止めたくなってしまう。
でも、それではどうにもならない時だってあるから
あーちゃんにも、どうやって素敵な女性になって
向こうからそばにいさせてくださいって言わせてあげられる方法を
大きくなったらちゃんと教えてあげる。
だから泣かないで、よく食べてよくお休みして早く大きくなるのよ。
って言っても、聞いてくれないで泣いている。
そんなにフェルゼンが恋しいのね。
わかるわ。
でも、だからってマリーの愛しいフェルゼンをあげるわけにはいかないし
あーちゃんは泣かせたくないし
お姉ちゃんって大変ね!
こんなとき、蛍お姉ちゃまがいたらな、と思ってしまうわ。
ごめんなさい、蛍お姉ちゃま!
もう少しだけ我慢できるなんて嘘だったの!
うわーん、早くマリーたちのおうちに帰ってきてー!

こんなに毎日が大騒ぎで
クリスマスイブの夜も、サンタさんの近づくうれしい鈴の音が聞こえるかどうか
だんだん心配になってきたけど。
遠い夜空にだって、どこまでも声が聞こえそうで
マリーたちの家をうっかり通り過ぎて心配はなさそうね。
なんて考えていると、ますます待ちきれない。
早くサンタさんのプレゼントが届いて
素敵なクリスマスパーティーがはじまらないかな!

春風の偽日記

『うたおう』

もしも、歌声が
愛する人へと伝えたい気持ちでできているのならば。
この地球上のあちこちにある音に混じって
春風のちっぽけな体は
かけらも残さないで歌声になって
大きく響き渡り、
全てが王子様のところへ飛んでいく。
いますぐに。

止められない春風の思いは
いま、世界のどこにあるのだろう。
どうやって王子様のところへ飛んでいくのかしら。
つのる愛情が形になって
受け止めてもらえるかどうかもわからないまま
激しく飛び跳ねている。
ひとつの思いは、ためらいがちにふわふわしながら。
他のひとつは、一直線に。
春風の心の中では、泣いてしまっていつまでも動けないような気がしている
弱い恋心もうずくまっている。
だけど、どれもいつかは。
きっと近いうちには。
こんな、昨日の春風の記憶や
今日の気持ちや
何気なく積み重ねていく日々。
春風を形作るものが
何もかも歌声になって
あなたに向かう。
私の心をこんなにも揺さぶる人に
声を届けることができるなら。
せめて一瞬でもいいから、愛する人の耳に
言葉だけじゃなく、
春風の気持ちが響いてくれるのなら。
体の全部が歌になってしまって
その後にはもう、何も残さず消えてしまっても
後悔はないのだけど。
春風にはまだそんなすごいことはできないし
もしもできるようになったら、
その時はたとえ一瞬でも、なんて願いは忘れて
消えてしまうのはやめて
いつまでもおそばにいさせてもらいながら
王子様へと愛のささやきを届けていたい春風なので
消えたりはしません。
いつまでも、あなたのおそばに。
春風の願いです。
素敵な歌で愛を伝えたいのも春風の願い。
どっちを選んだらいいのかな。
どうしよう!
王子様が春風をわがままにしてしまうわ。
とても素敵な人だからいけないの。
どうして──
そんなに、あなたは春風の喜びのために生まれてきてくださったのでしょう。
あなたに尽くしたくて朝起きたときから、夜に別のお部屋に別れてしまうときまで
この世界にいてくれる時間の全てが、まるで春風のためのよう。
きっとかわいらしいはずの寝顔を見ることができたなら
眠っている時間まで春風のためになる。
あ、もし王子様の寝顔が少しくらいだらしなくたって
春風は絶対に幸せだな。
だからいつでも見せてくれていいんですよ。
春風には隠し事をしなくていいの。
あなたの何もかもが、春風の喜びなんだから。
たとえどんなことがあったって
決して変わらない春風の気持ちです。

今日は、
春風と王子様の奏でる愛のハーモニーが
荘厳な教会のすみずみまで響き渡りました。
愛を見守る神様へと届いたでしょうか。
本番前は緊張していた立夏ちゃんたちも
王子様の素敵な声に誘われるみたいに
大勢の人の前に立っていること、
失敗しないでいられたらなんてことも忘れたみたいに
歌を楽しむことを思い出して。
合唱部のお姉さんたちと比べて全然下手でも
気弱にならないで、
大事な人と並んで歌えるこんな大事なときに、怖くて声が出ないことが
一番後悔すると、わかっているみたいに。
練習してきた結果を発揮できました。
よかったですね。
立夏ちゃんが音をだいぶ外すだろうっていうのは
練習のときから予想がついていました。
でも、一緒に歌うお姉さんたちも、それでいいって言ってくれていたの。
やっぱり本番が近づくと、教会の静かな雰囲気もあって
自分がいたら迷惑かもしれないって考えてしまったらしい立夏ちゃん。
そんな弱気を吹き飛ばしてくれたのは
本番がはじまったらすぐ、誰よりも大きな声を出して
みんなの緊張と、恥ずかしさを忘れさせて、
そんなどうでもいいことよりも
大事なことがあると教えてくれた
私の王子様。
あなたが伝えようとしていたのは
隠しきれないほどの、歌うことの楽しさなのだったのでしょうか。
それとも、自分が先頭に立って進んでみせる勇気なのかな。
好きな人と一緒に歌える喜び?
もしかしたら、誰か愛する人に向けて届けようとした思いなのかしら。
今日、あなたと合唱に参加できた私たちの胸に残ったものが
とても暖かい思い出だったことは
春風でもわかるただひとつの確かな事実です。
それはたぶん、聞いてくれたみんなも同じだったと思います。
蛍ちゃんも、アルバイトの時間を少しお店の人にお任せして
私たちの歌を聞いてくれました。
いい人がたくさんいるお店でお仕事ができているみたいで、よかったな。
氷柱ちゃんが日曜日をお休みに選んだのは
今日のためだったりは、しないかな。
去年のクリスマス合唱会が日曜日だったのは
家族が参加するのを決めたのは、
霙お姉ちゃんが生徒会長のお仕事で誘ったら、とは予想できたかな?
氷柱ちゃんも優しい人に囲まれて働いているみたいですよ。
忙しさを増すケーキ屋さんの
ほほえましいクリスマスの風景のうわさ話は、
甘くて美しいお菓子をどうしても愛する女の子たちの間では
森のさえずりのようにひそやかに、どこからか聞こえてくる。
今年のクリスマスは
素敵な従業員さんが働いている、おいしいものいっぱいのお店が
木花の生徒たちの間でも注目されています。
王子様も、今日は合唱部やハンドベル部の子たちと話したでしょうか。
アルバイトのお誘いもあるみたいだけど
今年のクリスマスは
春風がいるおうちのクリスマスの準備をするのもいいと思うわ。
とってもおすすめです。
春風、絶対に忘れられない楽しい準備にできるから。
一生の思い出になるクリスマスパーティーにするには
春風と王子様が一心同体になって協力すれば、一番の力になるはずです。
二人で過ごす永遠のクリスマスの夜のためになるかもしれないし。
春風からのお誘いは、どこにアルバイトに行っても経験できないおうちクリスマス。
もしよかったら、考えておいてくださいね。

ハンドベルの演奏に参加した吹雪ちゃんも
苦戦しながら、だけどがんばっていましたね。
覚えるのが早くて、臨時の助っ人とはとても思えないと
ハンドベル部の人たちからも評価してもらえたのですけど。
軽いベルを任せてもらえたのはいいとしても
遠くまで音を響かせるのに、ずいぶん大きな音になるものなんですね。
同じ舞台で演奏を聞いているだけで、けっこうびりびりくる迫力なのに
一生懸命ベルを鳴らしていた人たちは
静かで落ち着く場所が好きな吹雪ちゃん、
とても大変そうでした。
演奏が終わったら、ぐったりして。
普段から手を繋ぐのが苦手だから、
今日の帰り道はお兄ちゃんの袖にじっとつかまって、
ふらふらしながら連れてきてもらっていました。
甘えられるお兄ちゃんがいてよかったですね。
吹雪ちゃんは、春風より年下なのにとてもえらい子。
いつもはとっても頭がよくて
春風ではお話を聞いてあげるくらいしかできないのが
なんだか申し訳なかったりもします。
ひらひら舞い降りる雪の中にも、妖精はいないなんて
春風ももちろん知っているんだけど……
でも、妖精はどこかにいるかもしれないし。
だって、サンタさんは実際にいるんですから。
吹雪ちゃん、よく困らせてしまってごめんなさい。
だけど今日は、お疲れの吹雪ちゃんのために
お姉ちゃんならできること。
特別好きな食べ物があるわけじゃなくても
栄養バランスがいい食事は
春風が心を込めて作った野菜たっぷりのポトフを
ふーふーしながら。
とってもがんばった今日だけは特別に、
お兄ちゃんにふーふーしてもらってもいいと思います。
頭がよくてまじめで、
とってもしっかりしたいい子で、
春風の大切なかわいい妹の吹雪ちゃん。
今日はお風呂にも入らないで眠り込んでしまったけれど
ゆっくり休んで、明日はまた毎日変わらないおはようのあいさつができるといいね。

立夏ちゃん、星花ちゃん、夕凪ちゃんもお疲れ様でした。
主催者の霙お姉ちゃんも、裏方で目立たないけど、たぶん大変だったんじゃないかな。
私たちの楽しそうな歌声がどこまでも響きそうな
これならサンタさんはクリスマスの夜には迷わずに、
一直線にプレゼントを持ってきてくれるはずです。
立夏ちゃんも春風のかわいい妹だな、って今日は再確認しました。
音が外れても歌い続ける度胸は、それでこそという感じ。
私たちの自慢の立夏ちゃんがいてくれたから
今日の教会は、やさしい笑顔が満ちている暖かい空間になったのだと思います。
春風もね、立夏ちゃんには
希望通りのプレゼントが届いてほしいとは思うのですけど。
でも、立夏ちゃん一人のお願いだけで叶うプレゼントではないですものね。
サンタさんからは、もしかしたら別のものになるかもしれないお返事が来ています。
私たちのことを見ていてくれて
とても素晴らしいプレゼントを一人一人に届けてくれる
立派なサンタさんなら、
春風は信頼できるかな。
立夏ちゃんのすてきなところをたくさん知っていて
一番立夏ちゃんが望んでいるものを、
もしかしたら、立夏ちゃんよりもよくわかってくれているかもしれない
私たちの素敵なサンタさん。
今日の合唱会を見ていたら、今までよりももっと信頼できそうな気がしてきました。
それは、おうちのいい子たちの活躍を見たから、ということにしておきます。
春風、まだサンタさんにあったことはないんだもの。
夢いっぱいのお仕事で、春風の愛しい家族たちに笑顔を届けてくれるサンタさん。
もしも会えるとしたら、クリスマスの夜。
それまでは、どこかでそっと私たちを見守っていて
大切なものを届けるときを待っているんです。

さくらの偽日記

『はちじ』

さくらのおなまえは
さくら。

お兄ちゃんは、しっていますか?
さくらのおなまえは
もともと
おはな。

おはなのなまえです。
だから、さくら。

春にさく、
ピンクいろにさく。
もりもりさいて
はなびらが、ひらひら
みわたすかぎり
きれいなさくら。
でもね、
さくらね、
あの、ちっちゃいほうのさくらのことなの。
さくら、
まだ、ちっちゃいでしょ?
だからかな。
お兄ちゃんと春に見たさくら、
よくおぼえていないみたい。
おにわにさくらがさいて
まいにちうれしくて
おどったんだって。
さくら、おどった?
おぼえてないの。
はなのつぼみを見つけて
わーい!
つぎのひは、ひらいたはなを見つけて
やったー!
うれしかったのは、おぼえているかも。
さくらのきのしたで
お兄ちゃんとさくらをみて
まいにち、おどりました。
まる。
あ、おねえちゃんのさくぶんのまね。
お兄ちゃんとさくらのはなを見たことは、おぼえているよ。
あとね、あまざけのんだよね。
まださむいから
おそとでみるなら、からだのなかからあったまるように。
ほたるおねえちゃんからもらったの。
ほかほかのゆげが
さくらのちゃわんと
お兄ちゃんのちゃわんから
すきすき、って
だっこしてほしいから
くっつきあう。
さくらも、お兄ちゃんとくっついたよ。
おぼえてる!
でも、
まいにちおどってた?
よくおぼえていないの。
うれしかったな、
お兄ちゃんと、さくらを見たの。
お兄ちゃん、おどらなかった?
だからおぼえていないのかな?
お兄ちゃんがおどったら
さくら、おどっていたよ。
ことしのさくらは、おどってたらしい!
でも、ことしよりもおどるね。
お兄ちゃんとおどります。
さくらがさいたら
きれいで、
お兄ちゃんと見ていていいから
さくらはうれしいです。
さくらって、いいね。
いいはなだね。
こんどは、いつさくのかな。
はる?
はるは、いつくるかな?

それでね。
こんどクリスマスでしょう?
さくら、クリスマスもあんまりおぼえてないみたい。
おうちにお兄ちゃんがくるまえは
クリスマスはお兄ちゃんぬきで
パーティーをしていたんだって!
おぼえてないよ……
さくらは、そんなさみしいクリスマスをしらないよ。
おねえちゃんに、
ことしはお兄ちゃんがまだおうちにいないから
お兄ちゃんぬきでクリスマスパーティーをします!
そんなこと言われたら、ないちゃうよ。
さみしくて、
パーティーにならなくて、
さくら、さがしにいきたい!
お兄ちゃんをむかえにいくの。
お兄ちゃんがいないクリスマスパーティー、
どんなだった?
さくらがさみしくてないてしまって
お姉ちゃんたちをこまらせて
いい子じゃないから、プレゼントをもらえなかった?
お兄ちゃん、さくらはプレゼントをもらえなくてもいいです。
おうちにいてください。
ないちゃうんだよ。
サンタさんが
プレゼントをもってかえってしまっても
お兄ちゃんがかえってくるまで
さくらはないています。

きょねんのクリスマスのおはなし、
おねえちゃんたちに、いろいろきいたよ。
ねるのは
いつもとおなじ、はちじ!
そしたら、つぎのひのあさには
プレゼントがとどくよ。
あしたは、サンタさんがやってくる日。
あしたのよるは
みんながまっていた、たのしいクリスマスイブ。
いつもとおなじじかんの
はちじに、おやすみなさいをして
まっています。
でも──
サンタさんがくるの、たのしみなのに
ほんとうにねむれる?
どきどきして
おふとんのなかでもぞもぞしていたら
サンタさんはこない?
おねえちゃんたちは
きょねん、さくらははちじにねて
プレゼントをもらえたから、だいじょうぶだよって。
おぼえていないの。
きょねんのさくらは、どうやってねたのかな?
いまのさくらは、もうあしただなって
きょうもどきどき。
ねむれる?
あしたもどきどきしたら
ねむれないかもしれないよ?
たぶん、どきどきした
おぼえていない、きょねんのよる。
ほんとうにねたのかな?
おぼえていることは
目がさめたときに
さくらのちいさいくつした、
お兄ちゃんのくつしたのはんぶんしかないくつしたから
ちょこんって
まるいあたまが
はみだしていたこと。
わっ!
びっくりしたよ。
サンタさんからとどいたプレゼントは
おふろのぴよちゃん。
おなかのなかには
おふろがたのしくなるどうぐがいっぱい。
かわいいスポンジ!
いいにおいのおはな!
シャンプーのいれもの!
いれものをおくところ!
ぷかぷかうかんで、おなかにいれて
およいでとどけてくれます。
ぴよちゃんは、およぐのがじょうずなの。
なにしろ、うまれたときからぴよちゃん。
あひるのこ。
おおきくなったら
はくちょうになりそう。
ちいさいぴよちゃん、
さくらといっしょにおおきくなろうね、って
いつもおふろできれいにした。
お兄ちゃんも、あそんでくれた
おふろについてきてくれる、かわいいぴよちゃん。
きょねんのクリスマスからずっと、さくらだけのあかちゃん。
だっこしてあげたら、きもちがいいあかちゃん。
くつしたはのびちゃったけど。
あと、はじめてみたときはびっくりしちゃったけど。
さくらのくつしたにはいって
とどいたおくりもの。
いまでは、
おはなはとけちゃって
スポンジはぼろぼろ。
よくおっことすから
ひびわれて
おなかのふたがぴったりしまらなくなっちゃった。
はくちょうになれるぴよちゃんは
さくらのおふろでいっしょにあそんで
いっぱいあそんで
はくちょうじゃなくて
さくらのあかちゃんになった。
ぴよちゃん、すきなのに
こわれてあぶないから
もうおふろにいっしょにはいらないほうがいいんだって。
クリスマスからずっと
おふろのじかんがすきだったさくら、
これからはおふろがきらいになってしまうの?
ぴよちゃんとあそんだおふろ。
かぞくであそんだおふろ。
お兄ちゃんも、お姉ちゃんたちも
にじちゃんも、そらちゃんもあそんだぴよちゃんは
もう、いっしょはだめ?
そろそろぴよちゃんといっしょにはいれなくなっても
さくら、
おふろにはいりたい!
つぎは、
かぞくとおふろにはいるよ。
それでね、
ぴよちゃんにおしえてもらったあそびを
いっぱいするの。
お兄ちゃん、さくらとあそんでください。
いっぱい、おふろにはいろうね。
まいにちだよ。
いちにちじゅう、ずーっとはいろうね!
ぴよちゃんのことがすきなかぞくのみんなといっしょに
さくらはいっぱい、たのしいおふろにはいります。
さくらのプレゼントなのに
かぞくがみんなよろこんでいたね?
みんなでぴよちゃんとあそんだね。
あしたも、とどくの?
はちじにねむったら
くつしたがふくらんでいて
さくらはまたびっくりしてしまう?
お兄ちゃん、さくらはあした、ねむれるかな?

あさひの偽日記

『むにゃ』

くー……
くー……
ん?
むにゃ?
うーむむ?

くー……
くー……
にゃ!?
にゃーにゃ!
うぶぶ、
くすくす。
あんにゃ!
くー……
くー……

(うーん……
 もうたべられないよ……
 ん?
 いま、だれかきた?
 きのせいかな?

 まあいいや……
 あさひはねるよ……
 あ!?
 おにいちゃんだ!
 おにいちゃんはいつも、
 あさひのゆめにでてくるね。
 ゆめは、たのしいな!
 きょうのよるも……
 あさひとおにいちゃんはいっしょだよ……)

小雨の偽日記

『クリスマス』

小雨たちに
今日、クリスマスを運んできてくれたのは──

家族みんながそわそわ準備をはじめた頃から
しだいに厳しさを増してきた
12月の本格的な寒さなのでしょうか?

それともやっぱり、
プレゼントと一緒に
家族にきらきら笑顔を届けてくれたサンタさんの活躍?

蛍お姉ちゃんと立夏お姉ちゃん、氷柱お姉ちゃんが
晩ごはんの前に帰ってくるとき、
それぞれのお店から持って帰ってきてくれた大きなケーキは
食べ切れなくて冷蔵した分も多かったけれど
雰囲気を盛り上げてくれたし。

星花ちゃんの初めてのケーキも上手に出来あがって、
二十人分に切り分けたおいしさが、今日のクリスマスの一番のお楽しみだったのかな。

夕凪ちゃんのリクエストのクリスマスピザは
おうちで作るのは難しくて用意できませんでしたけれど
おすしのリクエストなら、
ちらし寿司を作る春風お姉ちゃんのお手伝いができてよかったな。
クリスマスらしいちょっと豪華な楽しさがみんなに届いたでしょうか。
お兄ちゃんも食べてくれましたか?

もしかしたら、
晩ごはんを食べながら盛り上がったクリスマス会で
ユキちゃんたちのおうち合唱団が披露してくれた
かわいい歌声が、
おうちにも本当にクリスマスが来たような
うれしい気持ちを届けてくれたのかもしれない。

でも、いちばんうれしいのは──
久しぶりに家族全員が晩ごはんの席に並んでいること。
蛍お姉ちゃんと氷柱お姉ちゃんが、長い間のお仕事を無事に終えました。
立夏ちゃんも持ち前の明るさで、臨時アルバイトの役目をしっかり果たしたそうです。
やっと、誰も寂しい気持ちを我慢しないでいられる晩ごはんになりました。
お疲れ様っていう、小雨の尊敬の気持ちや
みんながいるととっても安心する感じが
ふくらんで。
とっても盛大なクリスマスのお祝いをしているのに、
それだけじゃないみたい。
小雨は、蛍お姉ちゃんたちがいてくれてうれしいって
珍しく積極的に伝えられました。
長い間寂しかった、っていう愚痴も少しこぼしてしまったのは
恥ずかしかったですけど。
見回すと、うれしそうな顔がテーブルのどこにも並んでいるパーティー。
普段は冷静な麗ちゃんも、ときどき満足そうに息をついて
ゆっくり周りを眺める目が、こころなしかうるんでいるよう。
小雨がうれしすぎて、そう見えてしまっただけ?
なんだかいつもよりたくさん食べていたり
小さい子が食べるときに手助けしてあげたり。
蛍姉様は今日はゆっくりしていて、なんて
むしろ蛍お姉ちゃんがおろおろしてしまうほどはりきっているみたいで。
家族が揃っていることをみんなが喜んでいるような食事の席でした。

たぶん、
小雨ががんばって作った分のお料理は
それほどクリスマスを盛り上げる力になっていないと思うけど。
でも、星花ちゃんや夕凪ちゃん、吹雪ちゃんの頼もしいお手伝いもあって
小雨がびっくりしてしまうほど、見栄えもよくておいしくて
喜んでもらえるクリスマスディナーになりました。
星花ちゃんたちが中心になって作る頃には、もっとすごいのかな。
家族みんなが食べてくれてうれしいです。
失敗ばかりしてきたけれど
どうにかおいしく食べられるものもできてよかった。
最初に用意していた分量から、失敗の分がずいぶん減ってしまって
お兄ちゃんは男の人だからいっぱい食べてほしかったのに
ちゃんとおなかいっぱいになったでしょうか。
いつも蛍お姉ちゃんと氷柱お姉ちゃんのお迎えも大変だったはずだから
クリスマスくらいは小雨でもおいしいものを作って力をつけてほしい、と
そう思っていたのに、張り切れば張り切るほど失敗は増えていくようでした……
それはともかく、お兄ちゃんもお疲れ様でした。
暗くなるのも早くて、夜になるととても寂しいこんな季節。
蛍お姉ちゃんと氷柱お姉ちゃんがアルバイトを続けられたのは、
いつもとても立派なお姉ちゃんたちだからなんですけど、
小雨は勝手に
お兄ちゃんの力がとっても大きかったからだと思ってしまいます。
小雨も、お兄ちゃんにはいっぱい迷惑ばかりかけてしまいました。
春風お姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒にキッチンにいて
いつも見守っていてくれると思うから、
小雨はうまくいかないことのほうが多かったのに
どうにか、キッチンのお留守番をつとめました。
期待されていたほど、メインの調理担当として
蛍お姉ちゃんの後継者になって次代を担うことは全然できなかったですけど
だんだん、ちょっとずつでも小雨のお料理をテーブルに並べられるようになって
まったく役に立たないわけではない程度の仕事はできました。
もっとやるべきことはあったかもしれない、そう思ってはいても
小雨にできる精一杯をなんとか果たそうとして
お兄ちゃんにも、ときどき褒めてもらえて。
反省したり、悔やんだり、落ち込む思い出がどんなにたくさんあったって
今、小雨は、自分を責めるばかりではなくてもいいのかな、と思います。
お兄ちゃん、ありがとうございました。
小雨にお兄ちゃんがいてくれてよかったです。
お兄ちゃんが、こんな家族のピンチが訪れるときに
小雨のおうちにいてくれて、どんなにうれしかったか言葉にできないくらい。
もしもお兄ちゃんがまだこの家にいないなんて悲しいことがあったら
しばらくみんなはごはんが食べられないだけじゃなくて
小雨はどんなに落ち込んでいたか、自分でもわからない。
小雨は、実は恥ずかしいことを考えていたんです。
お料理のお手伝いの役目を任せてもらったとき、
いつも家族に迷惑をかけてばかりで
感謝の気持ちをあまり上手に行動で返したりできない不器用な小雨は
こんなときこそ、
いつも小雨のことを守ってくれて
家族からもらっているうれしい気持ちに、
お料理でお返しができたら、と思っていたの。
むしろ迷惑をかけてしまうだけでした。
がんばろうとするほど
小雨はお兄ちゃんたちの優しさのお世話になってしまう。
失敗を重ねて余計な仕事を増やしたことがどれだけあったか、数え切れません。
小雨が今までずっともらってきた暖かい気持ちに
少しでもお返しをしたかったのに
またたくさんの優しさをもらってばかり。
夜になって、ひとりでベッドに入ったときに
一日のことを思い出す小雨が泣いてしまうのは
何もできなくて悔しいからなのか、
小雨に優しくて素敵な家族がいてくれてうれしいからなのか、
止められない涙の理由がはっきりしないまま、
つらいのとうれしさが全部同じみたいに混じりあいながら
今日までお料理担当を続けることができました。
一緒にキッチンでお仕事をする人がたくさんいたからです。
春風お姉ちゃん、いろいろ教えてくれてありがとう。
ヒカルお姉ちゃんも、お互いに励まし合いながら続けてきたような気がします。
お兄ちゃんが、小雨のことを見ていてくれたからがんばれました。
小さい子たちの力が一人でも欠けていたら、
今みたいに笑顔でクリスマスを迎えることができなかったかもしれない。
みんな、ありがとう。
どれだけお礼を言っても足りない気持ちがします。
もう、これから小雨がたくさん働いても返しきれるかわからないほどの優しさ。
本当は、返す必要なんてないと言われます。
小雨たちは家族なんだから。
お兄ちゃんと小雨も、うれしい家族なんだから、
もらった気持ちを感謝で返したりしなくたって
ずっと家族のまま、変わることはないんです。
小雨はまだまだできることがあんまりないから、優しくしてもらうばかりなのかな。
胸を張って、みんなのためにできることなんて、今までも、たぶんこれからも何もなくて。
がんばろうとするほど足を引っ張るだけの思い出が増えていくかも。
小雨は──
みんなに迷惑をかけながら、
仕事を続けてきて。
ひとつ、思うことがありました。
お兄ちゃん。
立派なことが何一つできない小雨でごめんなさい。
何も役に立たない小雨が妹で、お兄ちゃんは困ってしまうときがどんなに多いか
小雨の今の想像なんて全然及ばないくらいではないでしょうか。
力も何もない小雨です。
返そうと思っても、きっと返しきれないものをもらって
返さなくてもいいはずなのに、考えています。
小雨はお兄ちゃんたちのために
少しでもいいからお役に立ちたい気持ちになっています。
これから、また迷惑をかけながら
小雨は慌てつづけると思います。
吹雪ちゃんは、普通にすればお料理はできるのに
なぜかいたずらばっかりしていましたね。
それで気がついたんだそうです。
たとえ間違えないようにしていても
どんなに上手な人でも、失敗は絶対にある。
挑戦しないでいてもいいなんて黙って大人しくしていることは
大好きな、憧れの人がいるのなら絶対にできない。
吹雪ちゃんも、春風お姉ちゃんやお兄ちゃんを見ていると
自分に苦手なことがいっぱいあると忘れてしまうよう。
だから、一番必要なのは、失敗を恐れて何もしないことなんかじゃない。
挑戦を繰り返したら、
何をしていたって、どこかで必ず壁にぶつかるものだとわかってしまった。
本当に覚えないといけないのは、
失敗したときにどうすればいいのか。
吹雪ちゃんがハンドベルの日に、
お兄ちゃんに抱きつくみたいにして帰ってきたときに、
こうすればいいんだ、と思ったんだって話を聞いたの。
それで、
小雨にはお兄ちゃんがいるとわかりました。
小雨は、春風お姉ちゃんみたいにみんなを引っ張っていくことはできないし
蛍お姉ちゃんほど立派なお仕事だって全然できない。
小雨が知った、たぶん一番大事なことは
たくさんの家族がみんなすごい人たちだということと、
何よりも、お兄ちゃんが
小雨をいつも気にかけてくれて
情けなくても優しくしてくれて、
必ず守ってくれる。
家族のみんなが、この世の誰よりも小雨のことを愛してくれること。
小雨が気がついた、家族の大変な日々の収穫。
お礼や感謝を行動で上手に示す必要がなくて、
もしもしたくたって、全然上手にはできないとわかっています。
小雨はこれから
できないけれど、どうしてもしたくって
お兄ちゃんたちのために
何かしようとして
迷惑をたくさんかけて、
落ち込み続けて。
その時、小雨が家族と一緒なら
悲しくて泣いている小雨でも
やっぱり、今みたいに
お兄ちゃんたちにありがとうを言おうとしていると思うんです。

蛍お姉ちゃんのお仕事の話を聞いていると
恥ずかしがっているみたいな言い方になっていても
すごい大変なお仕事をして、活躍しているんだなと感じます。
氷柱お姉ちゃんは、
蛍お姉ちゃんのケーキの思い出だとか、
とても難しいことを考えながらお仕事をしていたんですって。
小雨があと何年かしたら、蛍お姉ちゃんや氷柱お姉ちゃんみたいになれるとは
全然思えないの。
お仕事をする能力も、考えている内容も、ずいぶん違うんです。
氷柱お姉ちゃんは、お仕事なら答えを出せると期待していた悩み事は
結局何もわからないまま終わった、って残念そうでした。
家で作るんじゃなくてケーキを売るお仕事の大切さとか
どうして蛍お姉ちゃんはおうちでしたいことがたくさんあるのに
わざわざ外にお仕事に出て行くのか、とか
そんな悩み事は、答えが出ないままだって。
でも、蛍お姉ちゃんからお話を聞いてしまいました。
氷柱お姉ちゃんのお店の人が話してくれたんですって。
てきぱきと仕事をこなして
頭がよくて、要領もよくて
頼りになるお仕事をしていた氷柱お姉ちゃんの
一番の活躍は、
小さい子がお店に来たときに
優しく話してあげて、
緊張している子でも上手にお話ができるようにしてあげたこと。
他の誰にもできない、すごい能力だったそうです。
氷柱お姉ちゃんは、おうちだと小さい子たちに厳しくしすぎてしまったり
蛍お姉ちゃんも、よく相談を受けていたみたい。
ところが実は、知らない人ばかりのお店で働くようになって、
子供の相手は得意なほうだったということが判明しました。
どうしておうちでは、なかなか全員に優しくするのが難しいみたいなんでしょう?
蛍お姉ちゃんは、このアルバイトで自信をつけて
いいほうに成長していけそうで期待している、って。
氷柱お姉ちゃんが、お給料のほかにもたくさん得るものがあったなら
小雨みたいな未熟すぎる小さい子が言うのもおこがましいですけど
なかなか発見できない自分を見つけるって
きっと、すごく難しくて、とても無理みたいに見えて
ありえないようでも、もし成功するときだって
ときどきはあるとしたら、
大変なことばっかりの連続でも。
氷柱お姉ちゃんが、何かうれしくもあった思い出だって
アルバイトを思い返していられたらと、小雨も願っています。
小雨は大変な経験をたくさんして
少しは何かを見つけることができたでしょうか。
これからの小雨が、上手に成長していけるか、つまずいてばかりなのか
たぶんうまくいかないことだらけで変わらない気もして。
でも、これからあわただしい年末。
もしも何かあったら
こんな情けない小雨のことを
どうかよろしくお願いします、お兄ちゃん。
小雨が情けない子でも
お兄ちゃんは見捨てないで
守ってくれます。
小雨は何もできないままかもしれないけれど
お兄ちゃんの妹として
たまには前向きになって、がんばっていこうと思えるときがあります。
迷惑かもしれませんが
お兄ちゃんが頼りなんです。
小雨があたふたと
どうしようもない空回りを続ける姿を
これからもお見せしてしまうことを考えたら
今からもう、顔が熱くなってしまうけれど
お兄ちゃんがいてくれると思えるから、
小雨は、弱い心に少しの勇気が生まれそう。
クリスマスが終わっても
小雨はお兄ちゃんに守ってもらっているんです。

蛍の偽日記

『おしまい』

それから女の子は
王子様と
いつまでも
いつまでも
幸せに暮らしました。

今日はクリスマス。
そして、
長いような短いような
一ヶ月ちょっとのアルバイトの
おしまいの日。
今日で蛍は、普通の女の子に戻ります。
これからは楽しいことも
つらいできごとも
大好きな家族と分け合って
喜んだり、ぶつかったりしながら
仲良く毎日を送っていく
どこにでも当たり前にいる
普通の女の子。
観月ちゃんが詳しい、ずっと昔の時代から。
吹雪ちゃんが興味を持っている、科学が進んだ未来世紀が到来しても。
いつも変わらず、町の風景のどこかにいる
ささやかな幸せを大事にする普通の子。
明日からは蛍も
はたらく女性をしばらくお休みして
愛する人たちと日々の生活を重ねていく
何も特別なところのない一般人。
家族の人数が多いにぎやかなおうちで
お兄ちゃんのことが大好きな、平凡な妹になります。

でも、実を言うと、パン屋さんでの仕事はまだあるんです。
忙しかったクリスマスの後片付けや
細かな用事の引継ぎ、
何よりも、とてもお世話になったお店の人たちへの挨拶に
明日はもう一日お仕事。
夕方になる前には帰ってきて
晩ごはんの支度をはじめられると思います。
お兄ちゃんが迎えに来てくれたら
一緒に買出しに行きたいな。
でも、いよいよはじまった冬休み。
小さい子たちも、お兄ちゃんに遊んでほしがっているかも。
蛍も、遅い帰りで心配をかけてしまうこともなさそうだし。
買出しは一人で行くことになるでしょうか?
クリスマスのごちそうを食べ過ぎて
成長分をはるかに上回るカロリー摂取量を心配しているまじめな子たちに
健康面を考えたバランスのいい栄養献立を用意したいな。
でも、冬休みにいっぱい遊びたいみんなには
寒い季節に負けない力がつくメニューのほうが喜んでもらえる?
冬休みはあまり長くないけれど
みんなが毎日おうちにいるんだもの、
蛍の腕を振るう機会は多いはず。
あ、でも、
大磯に旅行に行っている間は、家事はあんまりいらないですか?
時間が空いたら、どうやって過ごせばいいんだろう?
もしあんまり暇そうにしていたら
どうかお兄ちゃん、
何もわからない蛍の手をとって導いてください。
旅行先で有意義な過ごし方があんまりできなくて恥ずかしいです。
もしかしたら、意外と少ないかもしれない蛍の冬休みの活躍。
あまり出番は多くなくても
台所に立つ一回一回の全てに全力投球して
おなかから家族を支えていけたらと願っています。
あとは、元旦は振袖の着付けを任される大役もあるし
家族のために張り切って過ごせる冬休みになるといいな。
大掃除は、小雨ちゃんのほうが得意そうかな?
蛍はコスプレ衣装の片付けも苦手だし
霙お姉ちゃんや立夏ちゃんは、なかなか蛍の手に負えないかもです……
宇宙の永久のような営みに比べれば、一年の区切りなど何の意味もないって
霙お姉ちゃんがごまかそうとしたら
蛍はそんなことを言われたら、なるほどってその場は納得してしまって
後になって思い返して微妙に釈然としない感覚が残ってしまうので
その時は、かしこい氷柱ちゃんやお兄ちゃんに手助けをお願いしたいです。
難しい理屈はたくさんあるのかもしれないけど
できるだけの大掃除をして
たまった汚れをきれいにしつつ、積み重ねてきた日々を思い返し──
感謝の気持ちを新たにして、
一年の締めくくりを気持ちよく迎えたいのが、蛍の気持ちです。
アルバイトが終わりになって、浸っている間もないうちに
この一年も、もうまもなくお別れのとき。
中学生でもこんなに忙しい気がするんだから
もっと大きくなったら、どんなにあわただしいんだろう!
海晴お姉ちゃんもきっと大変だと思うし
蛍も家族みんなのさわやかな年越しのお手伝いをしたいな。

今日の日記のはじめのご挨拶は
よくお店をごひいきにしてくださるお客さんのおうちの
せっかく仲良くなった小さな女の子に、
アルバイトのお仕事が終わって、もうこのお店で会えなくなるお別れの挨拶をしたときに
そのあとお姉ちゃんはどうするの?
と聞かれたときにとっさに浮かんだ今後の予定。
自分でも何を言っているんだろうと思っていたけれど
改めて考えると、そんなに間違ってはいないですね。
その場でぱっと浮かんだ内容が
あらかじめ用意しておく凝ったお別れの台詞よりも、的確になることはあるのかもしれませんね。
お兄ちゃん、今まで蛍のお仕事を支えてくれて
ありがとうございます。
いつも感謝している蛍です。
アルバイトがなくても、お兄ちゃんにはとってもお世話になっているし
こんなときに思うだけではないんだけど。
でもやっぱり、いつも考えています。
忙しくて助けてもらいたい必死のときも
落ち着いて過ごす毎日も。
蛍に、こんなに優しいお兄ちゃんがいてくれてよかった。
アルバイトからの帰り道は
クリスマスの飾り付けがきれいだったからなのか、
お兄ちゃんが隣にいてくれたのが理由なのかもしれませんが。
同じ道のりを辿る変わらない帰りがいつも
まるで夢のような時間でした。
寒くないか気を使ってくれて、
蛍のほうがお兄ちゃんに尽くしたくてうずうずしている状態なのに、
たくさん優しくしてもらいました。
思い返すと、本当にあったのかしらと疑ってしまうほどのきらきらの思い出。
励ましてもらうこともあったり、
ただ、その日の仕事の内容を聞いてもらうだけでも
すぐ近くで蛍を見ていてくれる笑顔が
いつも蛍の力になりました。
あの時間は、朝が来るとすぐに忘れてしまう夢ではなくて、本当にあったことで、
蛍はお兄ちゃんと歩いた道をいつまでも忘れずにいていいんですよね。
お兄ちゃんと話した何気ない会話も
一緒に見た町の景色も全部、
蛍の胸の中の、子供みたいな宝石箱の
いちばん大切な場所にしまっておいて
ときどき取り出して、眺めたい。
今は蛍の一番目立つところに、
もっとお兄ちゃんと毎日を重ねていく時間を宝石箱に詰め込むその時まで
手の届くように置いておきたい。
あんまり大事な思い出ばっかり増えていったら
どこにしまったらわからなくなっちゃうかな?
蛍は整理整頓が得意なほうじゃないのに、どうなってしまうのでしょうか?
でも、どこを手にとっても大切な思い出ばかりだっていうのは、絶対うれしいから
まあいいかな。
触れてしまうと赤面してしまうようなつたない経験も
胸を張って大好きな人に話せた小さな背伸びも
もちろん、毎日変わらないような時間の積み重ねだって
これからずっと、蛍だけの宝物。
それがどんなにうれしいことなのか、
お兄ちゃんと過ごしてきた蛍は知っています。
そして、毎日新しく
何気ない暮らしの中で思い出が増えていくに違いない
確かな予感が
どんなにうれしいのか、
それも蛍は、お兄ちゃんに教えてもらったから、知っているよ。

お兄ちゃん、
何度でも言いたい蛍は
しつこくても、やっぱりどうしても
また言いたい。
今まで蛍を支えてくれて
本当にありがとうございました。
蛍はこんな素敵なお兄ちゃんがいてくれてうれしいです。
これからも、末永く妹の蛍を
どうかよろしくお願いします。
今年がもうすぐ終わってしまって、来年もまた。
それから、やがて来るその次の年も。
長いようで短いような、一年の繰り返しを重ねていきたい。
いつまでも変わらない絆の家族に生まれたことを幸いに
ずっと蛍のそばで
蛍のお兄ちゃんでいてください。
お兄ちゃん、
大好きです。

あんまり日数がなくて
すぐに終わってしまうかもしれない予感の冬休み。
これから蛍は余裕がある時間が増えると思うので
もしも用事があったら、遠慮なく呼んでください。
いつでもメイドさんのかわいい衣装に着替えて
お世話に飛んで行きたいです。
それとも、家族みんなが冬休みだから
お兄ちゃんに遊んでほしい子が多くて
蛍のことをそんなにかまってもらうわけには行かないかな。
蛍は、夢みたいにお兄ちゃんと幸せな時間を過ごしている間、
というのは、アルバイトのお迎えをしてもらったときのことですけど、
お兄ちゃんは忙しくて用事もいっぱいあるのに
蛍にかまってくれて。
お兄ちゃんがこんなに愛してくれると実感できるのが
とてもうれしいことだとわかってしまった。
でも、お兄ちゃんは蛍を愛するためだけに生まれたわけじゃないかもしれないもの。
家族みんなの大切なお兄ちゃんです。
蛍がいつまでも独り占めすることはできない。
だからひとときだけ蛍の近くにいてくれるなら
この時間をとても大切にしなくちゃ、と思っていました。
忘れられない思い出があまりにも多いのは
そうして、特別に大事にしようとしていたからかもしれませんね。
ううん、意識していなくても自然とこうなっていたかな。
これからずっと、お兄ちゃんが
蛍だけをこんなふうに愛してくれたらな、と
現実になることがおそらく叶わない望みを持ったときが、よくありました。
お兄ちゃんが蛍を愛するためだけに生まれてくれたのならいいのに。
お休みになったら、お兄ちゃんは家族みんなの幸せな宝物。
蛍だけのものではないという、当たり前の事実。
蛍も家族のみんなは大切だもの。
みんなで仲良く過ごせたらと思います。
ただ、お兄ちゃんがたまにでいいから
蛍の小さなお願いを思い出すときがあったら
少し時間が空いたようなときにでも
蛍のほうをちらっと気にしてくれたらうれしいな。
いつもお兄ちゃんのことを思っている妹が
お兄ちゃんの大勢の家族には、少なくとも一人だけでもいるんだって
蛍のことを忘れないでね。
お兄ちゃんの助けがあってうれしかったアルバイトは無事に終わって、
どうしてもお兄ちゃんに頼る場面は減るとしても
蛍は、いつもお兄ちゃんを必要としています。
ときどき、助けに来てくださいね。

ヒカルの偽日記

『いいにおい』

キッチンのほうからは
おせち料理の相談と
いいにおい。
いや、まだ作り始めてはいないと思う。
いいにおいは、毎日のごはんだ。
それとも、
買い物袋から顔を出している
黒豆や栗きんとんや
おそばもだろうか?
来月2日からは、大磯旅行の予定。
あんまりたくさんは作らないおせち料理の材料が
もう、いいにおいをさせているのかな。

今年もそろそろ暮れが近い。
海晴姉が忙しそうに駆け回る時期も、もうあとわずか。
テレビの向こうのお天気お姉さんは
年明けの旅行を話題にして、楽しみな様子。
指折り数える日を越したら
いよいよ次の年。
やり残したことはないか?
私はたぶんなさそうだ。
あるかもしれないけど、あんまりいろいろ覚えていられる頭じゃないし
まあ覚えていないなら、いいかと思って。
今年の年始の抱負を思い出せば
健康に過ごす、とかだけだし。
一年のうちに何かが出来るようになりたいとか
成長したかったり、スタイルをよくするとか
そういう微笑ましい誓いもなかった。
霙姉がこたつでのんびりいるのどかな光景をよく見かけるけれど
私ものんきな点ではそんなに変わらなかったよ。
願うことといったら
家族みんなが元気ならそれでいい。
あとは、自分自身が悔いがない日々を過ごせたら
もうそれだけで満足。
今年を全力で走り抜けたら
あとは来年を楽しみにして。
年の瀬も、慌てるような理由は私にはなかった。
オマエもないなら、
これから一緒に
みんなの手伝いで大掃除だな。

春風が同室で、こまめに掃除をしてくれるおかげで
私の部屋はよく片付いている。
みんなには、ずるいって言われるけど
部屋割りは年が近い子同士が決まりだし。
それに、いいことばかりじゃなくて
大雑把にしているとうるさいし。
少しは女の子の自覚を持ったらいいなんて
私に言っても仕方ないことなのに。
もともと大雑把な、
気がつかない性格なんだから。
春風もわかっていると思うんだけどな?
まあ、注意しながら私を助けてくれるとき
楽しそう。
好きでやってるのかもしれない。
掃除が好きみたい。
いいな!
だから、ときどき細かいことを言われても
まあいいかと思う。
もしも部屋割りを自由にしていいなら、どうしよう?
うるさくなさそうな蛍と同室だったら
たぶん今度は、かわいい服にされてしまう。
春風ほど片付けは上手じゃないらしい。
家事は何でもできそうな蛍だけど、頼りないところもあるかわいい妹。
きちんとした性格の氷柱が同室で、釣り合いが取れているのかな。
氷柱が私が一緒だったら
きっと、かわいがると思うけど
氷柱はうるさくかまわれるのは苦手そうだな?
やっぱりオマエと同じ部屋が一番落ち着きそうな気がするんだけど
それはいけない決まり。
家族みんなの長男だから、しょうがないか。
いつも一緒にいたいのに。
暇なときはすぐプロレスも相撲も本気でできる相手なのにな。
ともかく、あれこれ考えてみたところで
いま、大掃除のために手があいていて
手伝いをして回りたいのは
私くらい。
オマエも暇になったら手伝うといい。
今日は曇り空の寒い日で
家の中で暖房にあたって
あんまりほこりを立てる大仕事は、暖かく晴れた日にまわすことにして
小さなものから掃除を開始している子たち。
整理整頓は手伝えないけれど
ごみがあったら、捨ててくるよ!
妹たちの部屋を回って
流行の季節が過ぎたファッション雑誌や
なんとなく残しておいた旅行土産の空き箱とか
思い出というわけではないのに捨て忘れたお菓子の袋もためている子がいたし
電車の時刻を書き並べた、数字だらけの空想旅日記や
マホウを考案する落書きノートも
複雑な計算式が並ぶ吹雪の頭の中みたいな書付は
内容が分からないけど捨てていいのかと本人に確認してみたり。
放り出しっぱなしのままにしてある
穴が開いた服やパンツ。
いろいろあるな!
今年積み重ねてきたいろいろな出来事の、
思い出に残っている部分も、つい取っておいてみたよくわからないものも
わけるのが大変なほど混じりあっているというか
本当にこの積みあがった山を、いるいらないでわけることができるのか
私たちの手に負えるのか迷うほど。
いらなかったら全部片付けてしまって
すっきりして新年を迎えられたら、ちょっとうれしい。
毎年、寒い思いをして大掃除をして
なんでこんな時期に年越しなんてあるんだろう、と不満もあるけど
凛と引き締まった雰囲気の冬空の下、
片づけを終えてきれいになった家にいて
すがすがしい気持ちで
澄んだ空気を呼吸していると
いよいよ新しい年を迎えるんだと実感できるようで
これから待っていることが想像もつかないスタートに立っている気分。
何もかも受け入れてくれそうなほど
透き通った空間へと歩みだしていくんだ。
冬の大気は、まだ何も詰まっていない新鮮な始まりのよう。
この季節に訪れる新年。
なんだか、よくできているな。
まだ空白の新しい一年が、
私たち家族みんなにとって、良い年になってほしい。
長い時間を共に過ごしていく幸せな家族として、
そして、助け合いながらみんなを守っていける頼りになる相手として。
来年も、オマエと一緒にいる。
どうかよろしく。
お前がいないと私たち家族はもう何事もはじまらない習慣なんだ。
みんながそろってはじめて、私たちは家族なんだから。
難しいことはわからないし、いろいろ考えてもすぐ忘れる私だけど
大事な人がいるということだけは
よく知っている。

あんまりものを考えない立夏は
その分、直感が発達してきたというのは本人の談。
掃除の時にいるもの、いらないものは
においで一発でわかるんだそうだ。
甘いお菓子だとか、おいしそうなにおいとは違うもので
うまく説明はできないらしいけど
なんとなくいいにおいがするんだって。
私も頭を使うのが苦手なら
そのくらい鼻が利いてもいいのにな。
なにかよさそうなにおいを感じるものは。
おいしそうとかじゃなくて、感覚で良さそうな気がするにおいをたどると
掃除をしてもいつまでも残しておきたいものは
オマエかな?
くんくん……
家族のにおいだからかな?
こんないいものが近くにあったら
あとは掃除のついでにだいたい捨ててしまっても
特に不都合がない気もしてくる。
みんながそろっていれば
もう、だいたい何とかなるよな。
困ったことがあったって
頼りにできる人が、私にはここにいるんだから。
この家に、
大事な家族がいるんだ。
こんなに大雑把な鼻を利かせても
全然掃除の役に立たない気がするな。
実は相談なんだけど、
さっき観月が、
まとめて読もうと思って出しておいた古い本が
どこにも見つからなくて、心当たりがないか
聞いて回っていた。
そういえば、
やけにぼろぼろの本が並んでいるなと思って
張り切って紐で縛ってまとめた記憶があるんだ。
今日、庭の物置に運び込んだ本の束のどこかに
たぶん混ざっていると思う。
必要なものだったんだな。
私の鼻はやっぱり適当すぎて頼りにならないことがわかったよ。
もし、オマエの大掃除が大丈夫で、時間があったら
明日は観月の本を探してやりたいんだけど、
手伝ってもらえるかな。
いや、私がしたことだから自分で探すべきか。
なーに、どこかにあることは間違いないんだし
体を鍛えると思って、あの山積みの本を
今日みたいに汗びっしょりになって並べなおせば
見つかるんじゃないだろうか。
えっと……
やっぱり、できればこっちを優先して
手伝ってもらえたら助かるんだけど。
お礼に、お正月が来たら
私の分のおぞうにのもちをいっぱい譲ってあげてもいいから!
気の早い来年の挨拶をしておきながら
今年のうちも、まだずいぶんお世話になるな……
あと数日になったけど
さわやかな新しい年を迎えるまで
もう少しの間、オマエを頼りにしているよ。

霙の偽日記

『禁断』

あけましておめでとう。

冗談だ。

春風と蛍が買ってきたお正月メニューを
大掃除の合間に提供してもらって
しだいに年越しの準備は整っていく。
オマエが今、何を考えているのかは
なぜか想像がつくから
誤解を解いておくと、
私が頼んでおやつにしてもらったわけではない。
重箱に並んで、見た目も味も雅に正月を飾る料理は多い。
金塊を思わせるということからおせちに顔を見せる栗金団。
だが、この家族に、すでに金塊よりも得がたいものを
私は見つけている。
金の形状もいつか残らず消え去り
ただ、ひとつの元素として広がり散っていくそのはかない姿を見せることとなる
この宇宙の無限の営みを前にしながら、
またたきのような一瞬の輝きだとしても
なぜか私の心をひきつけて
20人のきょうだいたちが、いつもまぶしく輝いていると知っている。
あるいはそれは、海晴姉が言うように、
晴れ渡る暖かい日差しのようなものかもしれない。
または、宇宙の深遠を思わせる漆黒、
手を触れただけで全てが無に染まり、喜びの他は何も残さないように見える
完全を形にしたように美しく、神秘めいて甘く、
深い暗黒の美しさに似た……
まあ、それはいいだろう。
おやつ関係の誤解を解くための話だから、それは言わない。
とにかく、私が甘い食べ物を時には望むとしても
今日の栗金団はリクエストをしたわけではないのだ。
どうやら、自作するおせちの参考に少し買い込んできただけ。
というか、そもそも予定になかったのに
お店に並んでいたらつい盛り上がって買ってきてしまった結果だという。
春風も蛍も、季節を感じるアピールには弱いのだ。
だがそれは、私たちが過ごしている日々で気がつかない場所に
思いが行き届く感覚を持っているともいえる。
二人がいなかったら、私たち家族の季節感は曖昧になっていたのかもしれないな。
振袖に着替えて迎える晴れやかな新年のはずが
こたつで寝転ぶジャージ姿のだらしない群れでは
かるたも羽根突きも雰囲気が出ないまま
あまり楽しくなさそうだ。
おぞうには、季節感というよりジャンクな味付けが似合いそうな風景になってしまう。
それもおいしそうな気がしてくるな。
そういえば、蛍は三が日を過ぎる頃には少し挑戦的な試みを始めるのだが
今年は、旅行先で厨房に立つこともないだろうからよかったな。
いや、蛍の活躍を見る場面が減って、残念と考えるところかな。
活躍とは違うだろうか……
おせちの準備も、
予算オーバーしてグレードが下がったということもないようだ。
そのへんは経済観念がしっかりしてる、我が家の台所担当。
参考のためと、盛り上がる気分で買い込んだ早めのおせちの準備をもとに
年の初めに、今度は家族だけを思って作られる心のこもったオリジナルおせちが
団らんの場に届く日はもうすぐだ。
さすがに、伝統を感じるにふさわしい日なのだから
元旦くらいは野心的な挑戦も控えるだろう。
何気ない私たちの毎日を支える強さと
特別な日を築き上げる感性と、蓄積した経験値。
春風と蛍を見ていると
妹たちが、そのしとやかな女性らしさに憧れる一方で
あんなふうに素敵な年長になれるかどうか
不安を抱いてしまうのも、わかる気がする。
春風も蛍も、普段の優しさと力強さが
彼女たちの素晴らしいすべてというわけではないのだし
私のかわいい妹たちは、一人ひとりが違う魅力を備えて、
日々の生活で、みんなが持ち合わせる良さを自然と伸ばしていけるのだと
わかってもらうことはできるだろうか。
言葉で伝えるのではなく、私がそれぞれ違う妹たちを愛していると信じてもらうこと。
たとえ誰にでも憧れる人間がいるとしたって
何者も、望んだとおりのその人になり変わることは出来ない。
仮に、それができるとしても
きっとするべきではない。
私たちは誰もが違う道を歩く。
走り続ける先達は遠くへ、彼方へと向かい
残したものは種になって芽を吹き、豊饒の土地を築く。
たった一瞬のうちに消え去る人間の、
それでもどうしても続いていく連なり。
尊敬する姉の背中を追いながら
家族の全員が、別々の地を切り開き、
それぞれの美しいものを見つけながら生きていくという私の確信は
どこに根拠があるのか判然としていなくとも、決して間違ってはいないと信じる。
同じ場所で、肩を寄せ合ってお互いを支えあう
まるでひとつのかたまりのような私たち家族が
実はまったく違う力を育て続けて
尊敬する姉たちの誰にも負けないほど、自分たちも家族全員の喜びなのだと
みんなが自分を心から認める日は
もしかしたら言葉で言うほど簡単なものではなくて、
なかなかやって来ないかもしれないが
まあ、そんな未来をふと思い描いてみる楽しみも、年上の特権だと思う。
立派に家族たちに新年の喜びを届けてくれる姉たちも、
そしてそうでない者たちも同じように
愛する家族で、同じになる必要もないし、必要があってもできない。
私は今日も、
多少は気を抜いても人は楽しく、
この幸福な家族の一人としてかけがえのない日々を生きていけるのだと教えるつもりもあって
大掃除を急いで進める努力は、いったん置いておくことにした。
すっきりと片付いた掃除だけが、私たちを新年にいざなうとは限らないのだ。
ここで家族を見つめて、ときどきは声をかけて励まし、
そして疲れて戻ってきた者に差し出すおすすめの甘味で
一息ついてもらって、
こんな年越しもまた一つの形なのだと理解してもらうことができたら
それぞれの個性を生かして、まるで広がっていく宇宙のような熱い空間を作り上げる日も
そう遠くはないのかもしれない、と考えていたが
理解を求めるには、まだ遠く長い道のりのようだ。
おせちのおやつ……
おいしかったのに……
海晴姉は、みんなの見本にならないからと
私の分だけ取り上げてしまった。
しかもなお、
観月の本を探して物置をかき回していたヒカルが
よっぽどまっくろくろすけに好かれたようで、蜘蛛の巣とほこりだらけになった姿で
見つけ出してきたものは
もちつきの臼と杵だ。
我が家には、年末のもちつきの習慣はないと思っていたんだ。
前は男手がない家だったのも理由の一つにあるだろう。
しかし、あるにはあったんだな。
ママに聞いてみたら、そういえばと思い出した様子だった。
どんどん増える家族がいっぱいで、あまり気にせずしまいこんだままというのも
いかにもというか、
自分の中に流れる血を感じるというか、
そんなに細かいことまできっちりとしていない家系ということで
いいのではないだろうか。
だめかな。
納得しない子もいるだろうし。
とにかく、こんなものが出てきてしまったら
自分たちで年始のもちが作れると判明したわけだし
すがすがしい年越しにそんなに興味がない私も
こういうものはやらねばならないと思うのは
なぜだろう?
来年の正月は
オマエが一生懸命ついてくれたもちでいっぱいだ。
なんというときめく新年の始まりであろうか。
もちつきは初めてか?
少なくとも、私たちと協力しながら20人分の量を作った経験はないわけだ。
うん、初めてのことに戸惑う気持ちは私も想像できるが
何も不安に思う必要はない。
珍しくたまには張り切って年越しのイベントをしてみたい私が
時々は、一般的な意味で普通に助け合える立派な姉としての姿をお前に見せる
なかなかない、いい機会になるだろう。
もち米の買出しは完璧だ。
明日は──
我が家では、めくるめく初めての餅つきが、
快感と共に新年を招くだろう。

氷柱の偽日記

『おもち』

また脳天気な下僕や
こんがらがるとわかっていて面白がる霙姉様や
たまにヒカル姉様も
おかしなことをはじめるんだから!
と、思っていたけど。

ママがしまいこんだ臼と杵が原因だったのね。
どこか常識を超越しているというか
大物っぷりは理解しているつもりだったけれど
やっぱり、家族のうちで何人か受け継いでいるのかしら。

後から生まれるはずがないお兄ちゃんを
そのへんで拾ったみたいに連れてきて
今日からは一緒に暮らすのよ
いろいろ事情があって離れていたけれど
本当の家族なの!
と言われても。
いくらなんでも
大物のママでも
さすがにありえない、と思っていたら
みんな疑問もなく受け入れるような家族。
こんなときにまともな常識を持ち合わせている
人並みに世間がわかる自分は
損な性格だと思うわ。
相手は男なんだから危機感を持たないと、と言っても
いい人だよ、って。
むしろこっちが家族に気を使ってもらっている。
私も、人がいいことだけはよくわかっているけどね。

おまけにあなたも私たちの家族らしく
19人姉妹を前にしても
ええっ!
まあそういうこともあるよね、
みたいに。
……
これからずっと自分が一緒に生活する家族なのに
なんでそんなに軽い感じ!?
今にして思えば、あの初めての出会いから
この人もママの子供だなあ、
という納得は
していたのかもね。
いつの間にか、そんなあなたを受け入れている自分を見ても
ああ、同じだ、
みたいな。
なんという──
適当さを伝える、大雑把な血の呪縛。
でも、性格はもう仕方ないか、と思ってしまうのも
そういう家系かな。
ただ、下僕なんだから少しは常識的な知能を備えて役に立ってもらわないと、って
そこはあきらめたわけではないけど。
多少の事態では騒がなくなるのも、大家族で生活した経験もあると思う。
すると、適当さは環境によるものかしら。
性格が親から遺伝するというデータはいまだに証明されてはいないんだし。
それにしては、大家族にもいろいろな子がいるような気がするわ。
かなり神経質だったり
控えめだったり。
優しさを素直に表現できたり
いたずらっぽくなってしまったり。
一番の謎は、
後からやってきたくせに
こんなにいろんな子がいる家族でも
あっという間に馴染んだ長男よね。
うちの家系の多彩かつ不思議な血脈を、誰よりも濃厚に受け継いだのは
偶然にも、この家のたった一人の男だったりしてね。
こんなのが、そのうちママみたいに
したたかな大物になって
うちの、個性豊かというか
もはや複雑怪奇といっていい面々を
まとめて面倒見てやるとばかりに
その腕に抱えて
たくましい姿を見せたりするのかな。
……
ならないか。
ともかく、大家族とは言っても
見過ごせないことはあるの。
物置の奥でほこりをかぶっていた臼と杵で
もちつきなんかして
そんな不衛生なもちを食べて、ユキがおなかを壊すかもしれないでしょう!
臼と杵は丁寧に包んでしまってあったから
汚れは全然ないと
ヒカル姉様は主張していたけれど、
そんなのわかったものじゃないから。
この大掃除の季節に
あなたみたいに意味不明に無駄にうすらでっかいもちつき道具を
隈なくきれいにピカピカ輝くまで
何度も拭く人の身になってみたらどうなの!
大掃除の季節じゃなかったら、こんなに掃除道具が揃っていなかったから
その点では、時期的にまだ適切だったとも言えるけど。
まったくもう、私も暇じゃないのに。
部屋の掃除も中途半端で投げ出すことになって
旅行先に持って行きたくないから、早めに冬休みの宿題も進める計画が
今日の下僕たちの急な思いつきのせいでいっさい残らずだいなしよ!
ママもなんで、でっかいもちつき道具を買い込んでおいたんだろう。
忘れてしまいこむくらいなのに。
それなりの体力がないと難しい作業なんだもの、
女ばっかりの家で、そんな力は期待できないと思うんだけどな。
それとも、いつか長男が来てこの家で暮らす予定は
もともとあったのかしらね。
いつ頃買ったものだかわからないけれど
そのうち男の子がこの家に生まれて、
他の子たちと一緒に育っていくなんて
いつごろからわかっていたのかな。
もしかしたら、女の子が三人続けて生まれたあたりで
男の子もいないと! ってむきになってしまったのかもね。
そのまま勢いがついて、ついにあさひまでノンストップで生まれてしまったんだとしたら
うちにこんなに家族が揃っているのは
ちょっとは、あなたにも原因の一端があるのかもね。
我が家のたった一人の男の人として
下僕がどうにかこうにか生まれてきてくれなかったら
私たちや妹たちもその後からいなかったかもしれないなんて
そんなことがあるのかしらね。
想像もできないな。
うちの家族が今みたいに賑やかじゃなかったら、
なんてこと。
家族がいっぱいであわただしくて、とてもそんなどうでもいいこと
今まで考えている暇はなかったわ。
お兄ちゃんが増えるほうが不思議かもしれないけどね。

一年違いの私たち姉妹に
もう一人あとから割り込む余裕はないって、
ずっと昔は吹雪ちゃんは不思議そうに言っていたけど
私はなんだかもう、そんなことはどうでもよくなってきたし
吹雪ちゃんもとっくに気にしていないみたいだわ。
これだけいるんだから、実は双子が何人いてもおかしくないし。
ママの体はこんなに驚くような仕事をしているんだから
予想外の事態がいったいどれだけ起こっているのかわからないほどだし。
そんな細かいことよりも今は、
この常識知らずの長男を一人前に鍛え上げて
少しは役に立つ下僕に育てるのが最優先ね。
私たちの家族が頼りにしている長男なんだから
人並みに恥ずかしくないくらいの能力は身に着けてもらわないと
こんな長男のはずじゃなかった! って
大掃除のついでに捨てられてしまうわよ。
どなたか優しい人は拾ってください、の看板を首にぶら下げて
大晦日のさみしい夜に放り出してそのままかもね。
そうなったら、私は優しいから
マッチくらいなら持たせてあげるわよ。
せいぜいあなたにお似合いののんきでおいしそうな夢を見ながら、
わずかな明かりで暖を取るといいわ。
でもきっと、こんなのでも捨ててしまったら
探しに行ってしまう底抜けにやさしい子が、
我が家には一人や二人ではない数はいるだろうから
マッチを使うなら、火には気をつけて
探しやすい目立つところにいなさいよ。
うちのやさしい子を、あなたなんかのために風邪引きにさせるわけには行かないし。
ヒカル姉様なら、年が近いこともあるから
何かのカンを働かせて、いそうなところに簡単に見当をつけてしまいそうだけど
あなたが家に来てからずいぶん長い時間が過ぎて、
家族みんなの思い出の場所が増えすぎたし
今からどこか行きそうな心当たりを探そうなんてことになったら、とても回りきれないわ。
本当に、いろいろなことがあったから。
この前のクリスマスパーティの時だって、
みんなの間にデジカメを回して撮った写真を
今日になって麗ちゃんと整理しようと思ったら、
いったいなんでこんな無駄なものばっかりあるんだか。
クリスマスのサンタさんごっこがそんなに珍しいのか
あなたを中心にしてとった写真が
まるで、私たちの気持ちが全部あなたを中心にしているみたいにいっぱい。
いくら迷いに迷っていらない写真を消してしまおうとしたって
私たちの家にあなたがいた時間は消せそうにないくらい。
とりあえず、クリスマスの間は
アルバイトの送り迎えをしてくれたことは感謝しているけど。
この日記で、ありがとうって伝えていなかったから
たまたまそういう話になった機会だし、
ありがとう、
とても心強かった、
って、
お礼の気持ちは伝えたほうがいいっていう家族の習慣だから
一応言っておくけれど。
でも、家の用事で忙しいのに、
わざわざ毎回私のアルバイトに迎えに来て。
蛍ちゃんのアルバイトと重なるときは、
海晴姉様やヒカル姉様から、下僕が気にしていたって話を聞いたこともあって。
もっと他にすることがいっぱいあった時期なのに
いちいち私のためにバカみたい。
そんな不器用で要領の悪い下僕には
もっと教えてあげないといけないことがいっぱいあって
せめてもうちょっと知性的な行動ができるようにならないかなと
前から思っていたけれど
今日のもちつきの異様な騒ぎを見ていたら
改めて決意したわ。
下僕は私がしっかり手綱を操ってあげないと
何をしでかすかわからない、ってね。
このもちつき道具は
どうせ、来年も使うだろうから
ほこりがつかないように、また丁寧にしまっておくのよ。
それから、あなた中心のもちつきに付き合って
大量のもちができたのはいいとしても
時間を浪費した子がいっぱいいるし
霙姉も、これを言い訳にして掃除をしないなんてことになったら
また海晴姉様の雷がありそうだから。
明日は、あなたは責任を取って
家中を回って、みんなの大掃除の手伝いをするのよ。
今日は体を使ってもちつきをしたからって
日ごろの運動不足がたたって筋肉痛で動けませんでした、なんてことになっても
そんな言い訳は通じないから。
今日は体調管理をしっかりして
ゆっくりお風呂に入って、
疲れを残さないように早く休んで、明日も一生懸命働いてよね。
まったく、
体を大事にするように、なんて当たり前のことも言わないとわからないなんて
子供みたいだわ。
たっぷり遊んだ後は、いい子でお手伝いする決まり。
下僕でも、そのあたりの一般的な常識はあると思うから。
明日はわかっているわね。
相当の重労働を覚悟しておくようにね。

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