アルケイディア&キュクレイン

アルケイディア&キュクレイン TOP  >  2013年02月

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春風の偽日記

『天使の翼』

合図のベルが鳴ったら
どこへでも飛んで行きます、
春風の王子様。

今日、
蛍ちゃんが買ってきた
小さくてかわいい鐘。

鳴らせばいつでも
メイドが飛んでくる、
執事がやってくる、
便利な魔法がかかっているんだって。

でも、我が家では
メイドの蛍ちゃんは
忙しくしていることがあるでしょう?

春風のかわいい妹に
ゆっくりしてもらいたい時もあるし……

今日だって、小さい子たちは
蛍ちゃんのおみやげを見つけたとたんに
集まってきました。
子供の遊び道具じゃないのにね。

あまり大きな音を出さないようにと、条件付きの
お許しが出たら、
きゃあきゃあ、わあわあ、
たいへんな騒ぎ。
鳴らす鐘の音も聞こえなくなるくらい。
あれなら、鐘も必要ないですね。

誰でも使っていいわけじゃないと思うので、
話し合った結果、
ヒカルちゃんと王子様が使ってくれればいい、
という形でまとまりそうです。
ちゃんと必要なときだけ呼び出してくれそうだし、
私たちが助けてあげられる用事も多そうで。
蛍ちゃんも、もともとそうしてもらえればいいと思っていたみたいだし。
春風もなんだか胸がときめいてしまうし。

海晴お姉ちゃんも参加していいと思ったけど、
遠慮していたことや、
その場合は霙お姉ちゃんがなし崩しで参加したくなってしまうから
結局こうなりました。
あ、ヒカルちゃんも遠慮していたんだけど
なんとか説得しました。
王子様一人だけでは、特別扱いみたいで受け取りにくいかもしれないし
同じ部屋の仲間だから気兼ねは少ないし。
蛍ちゃんと同じ部屋の氷柱ちゃんは
こういう子供っぽいことには参加しないんだって。

そうです、
蛍ちゃんだけじゃなくて、
春風もすぐに駆けつけていい、ということになりました。

教会の鐘でないのは残念だけど、
春風はもうあなたのものになったつもりで
身も心も尽くします。

ヒカルちゃんは、自分のことは自分でやってしまうし
あまり使ってくれないと思うから
王子様は、遠慮しないでどんどん使ってくださいね。
ヒカルちゃんにも、もっと頼っていいんだと
王子様が教えてあげられたらいいな。

春風は背中に翼があるみたいに
すぐに飛んでいきます。
昔のお話で、腕に蝋で翼を付けて飛んだ人が
太陽の熱で蝋が溶けてしまって落ちたというけれど
あれは嘘です。
だって、春風の胸はもう
あなたのことを思って
太陽よりも熱く燃えているんだから。
春風の愛でいつでもあなたを暖めます。

本当は、特別な手段がなくても
すぐに手が届く距離にいつでもいたいんです。
王子様が側においてくれるなら
春風は翼をなくしてもいいの。

どうか、春風の体に消えない傷を
刻み込んでください。

翼があってもなくても、
春風は永遠にあなたを愛し、
あなただけに尽くす
あなたのための命──
それを天使と呼んでくれてもいいし、
違う名前で呼んでくれてもかまいません。

私がいつまで清らかな天使でいるのか、
きっとあなた次第です。
だけど、どんなものになってしまっても、あなたを愛する気持ちだけは変わらないの。

あっ、愛し合う人と同じ名字だったら
名前だけはいつまでも天使だわ。

王子様。
これからも末永く、よろしくお願いします。
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夕凪の偽日記

『一年生の作文』

お兄ちゃん、こっちに来て──

シッ、静かに!
誰にも見られちゃダメだよ!

この廊下の影なら大丈夫かな。

ねえ、お兄ちゃん。
次の夕凪のマホウ、いつできると思う?
もしかしたら、今この場で
新しいマホウが爆誕するかもしれないよ。
ことはお兄ちゃんの協力にかかってるんだよ。
で、相談なんだけど……

さっきまで夕凪、
物置をひっくり返して探してたものがあるんだ。
ママが少し前、お土産にもらって持って帰ってきた
外国のチョコレートの、食べちゃった後の空き箱。
何か小物入れにでも使えるかもって話だったから
たぶん取ってあると思うんだよね。

箱のイラストは、
外国の民族衣装。
重ね着がカラフルな、かわいい女の子。
もしかしたら、夕凪もあんなふうにかわいく変身できるかもしれない!
外国のお土産だもん、マホウくらいあるよ。

お正月にハワイに行って来たっていうクラスの子は、
さすがハワイだけあって、そう言えばなんか違うな!
なんて感じのオーラが出てたし。
あのおいしいカレーを発明したのはインドだし。
ラーメンは中国だし。
ケーキもチキンも外国っぽいし。
絶対何かあるって!

物置を探してたら、なんかマトリョーシカがあったから
これでもいいかなーって思ったんだけど、
マトリョーシカマホウって何?
お兄ちゃん知ってる?
かわいいっていうか、面白い顔だし。
夕凪は何も思いつかなかったからねー、
もっと探してたら、
見つけたの!
すっごいよ!
間違いなくこれはね、
外国よりもすごいものだよ!
なんだと思う?
お兄ちゃん、見たい?
そうだなー、見たかったらお願い聞いてもらおうかな。
キス一回分かな?
でも、
夕凪も早くお兄ちゃんに見てもらいたいから
夕凪のほうから先にキスするね?
チュッ!

はい、
見つけたのは、これ!
古そうなファイルで、
開くほうにある紐がきつく縛ってあって、
表紙には

一ねん
あまつか つらら

ね?
これ何かわかる?
ファイルに挟まってるプリントの量から判断して、
氷柱お姉ちゃんが一年生だったころの
勉強をまとめたやつだと思う!
なんか物置に紛れ込んでた。
マトリョーシカもあるくらいだから、そんなこともあるよね。

ということは、
この中には、
小学生の定番、
将来の夢をテーマにした作文!
も、たぶん入ってるよ。

夕凪はね、
マホウ使いになりますって作文に書くと
書き直しさせられるからー、
もっと真面目にって!
ひどいよね!
真面目って、もっと普通の将来にしてほしいってことでしょ?
そりゃ、あんまりマホウ使いになる人は見かけないけど、
当たり前だよ! マホウ使いなんだもん!
そんなにあちこちにいるわけないよ!
でも夕凪なら、なれてもおかしくないじゃない?
ていうか、なるじゃない?
じゃあなんて書けばいいの?
教えてよ! お兄ちゃん!

そう思って、
何かの参考になるかなって。
それに、氷柱お姉ちゃんの頭の良さの秘密もわかるよ。
夕凪にも、頭の良くなるマホウが使えるようになるかも!
氷柱お姉ちゃんみたいに、学校の勉強が好きだなんて普通じゃないし。
お兄ちゃんだって、学校の勉強はあんまり好きじゃないでしょ?
ほら!
あれは絶対何かのマホウだよ!
氷柱お姉ちゃんは偶然何かのマホウにかかってそのまま
頭が良くなったのかもしれないよ!
そのヒントがここにある、と思う!

あと、
ほら、
小さい頃の
氷柱ちゃんの将来の夢ってなんだったのか
気になるじゃない。
お兄ちゃんだって知りたいでしょ?
今みたいにガリ勉になる前の夢だよ?
怒りやすい氷柱お姉ちゃんが
怒ってもたぶん今ほど怖くなかった頃だよ?
霙お姉ちゃんと一緒におやつを食い逃げしていた現役の頃だよ!
友達百人欲しくて歌ってたとしたら、それがこの時代の氷柱お姉ちゃんだよ!
それが今では、友達と遊ぶ間も惜しんで
勉強大好き! 勉強楽しい!
何があったの!?
このファイルに、全ての秘密が隠されているよ!
秘密がなくてもいいから、普通に見てみたい!

でも見てよ、
この紐の縛り方!
ここまでしっかり縛る必要あると思う?
小学一年生なのに、なんでそこまでするの氷柱お姉ちゃん!?
もう少し大きくなってから結んだのかなあ。
夕凪にはほどく自信がないよー。
ほどけたとしても、元通りに戻すなんて絶対無理だから
見たことがすぐバレちゃうよ。

でも、お兄ちゃんならできるよね?
ねえ、お兄ちゃん。
夕凪の頭が良くなるかどうかは、今まさにこの時にかかってるの!
というか、別に夕凪は頭が良くならなくてもいいから
氷柱お姉ちゃんの作文を読んでみたいな。

氷柱ちゃんがまだ無邪気だった頃に
どんなふうだったのか、
お兄ちゃんは気にならない?

立夏の偽日記

『ハナキン』

オニーチャンは
毎日ハッピーに過ごしてる?

リカが知ってる
しあわせになる方法。
それはたったふたつ。

女の子に生まれることと、
女の子を幸せにしてあげることだよ!

だって、
女の子ってカワイイし、
キラキラしてるし、
あ、見た目だけじゃなくてハートがね?
あとは、楽しいことたくさん集めたがってるし、
毎日一生懸命で、タイクツが嫌いだし、
好きなものたくさんあるし
幸せにしてあげたくなっちゃうし。

だからオニーチャンも
いっぱいリカのこと幸せにしたらいいと思うヨ!

リカは簡単で
安上がりな女だから
幸せにするくらい、
すぐできる!

好きだ!
愛してる!
結婚しよう!
立夏がほしい!

って、
正直になって、遠慮なく言うといいんじゃないかな。
リカを誰よりも簡単に幸せにできる人、
オニーチャン。
誰よりも、いちばん大きな幸せをくれる人。
なんでオニーチャンにしかできないんだろう?
ジョン・レノンがどんなにがんばったって、オニーチャンにはかなわない。
こんな幸せ、リカの生まれて初めて。
どうしてオニーチャンといるとこんなに幸せになるの?
ギューッ。

だから、
オニーチャンはリカのために、
リカをいっぱい幸せにしてくれたら
きっとオニーチャンも嬉しくなるよ?

リカは小さいときから、かわいいものが好きで
気がついたら自分まで
こんなにかわいくなりました。
オニーチャン、リカ誰よりかわいい?
リカといると幸せ?
一緒にいると幸せになるのはネ、
オニーチャンがリカのことを
いっぱい幸せにしてくれるからなんだよ!

リカは子供のころからかわいかったし、
今でもかわいいものが大好き。
あーちゃんがどんどん大きくなるより
リカがかわいくなるペースのほうが速いんだよ!
だからリカから目を離さないで、
見逃さないように、すぐ近くで見つめていてね。

ずーっと昔から、
オニーチャンに会う前から
いつか会えると思っていた、
リカが大好きになれる人は
想像していたより、ずっと素敵な人だったんだよ。

好きな人ができたら
こんなふうに言おうって
小さいころから、ひとりで続けてきた
告白レッスンは、
あんまり役に立ちませんでした。
おかしいよね、
リカが集めてきた楽しさは
たくさんリカを楽しくしてくれるし、
かわいいものが好きだったら、自分もかわいくなっていくのに
好きな人に言おうと決めていた言葉だけは
どんなに練習しても、本番でうまくいかないの。

本当は、
ひと目見たときからあなたのことが好きでした、
つきあってください、
って、シンプルでストレート、
どんな時でも通じるはずの告白を練習してきたのに、

実際に現れた大好きな人には、
用意してきた言葉はいつも喉に詰まって、
胸でモヤモヤして苦しくて、
あっ、
リカが本当に伝えたい気持ちはそうじゃないんだって気がついたら、
あとはもう、好きーって抱きついて、
自然に言葉が出てくるの。
リカ、いつでもオニーチャンが好きだよ!
これからもいっしょにいようね!
リカを幸せにしてね!
って、素直な気持ち。
リカ、他の言葉なんて何にも知らないよ。
自分の本心しか、好きな人の前では口に出せないの。
女の子って、ヘンだよねー。
オニーチャンはそんな女の子ってやつと一緒にいて、幸せ?

それから、
あとねー、
なんだっけ。
オニーチャンに何を言おうとしてたのか忘れてたけど、
確か、そうだ!
金曜日が過ぎたね。
一週間、学校楽しかったね。
でもリカはオニーチャンと学校で会えなくて、少し寂しかったよ。
アクティブなリカだけど、
オニーチャンとずっと一緒にいていい自分の家が
自分で思っていた以上に好きみたいです。
これから土曜日。
その次は、待望の日曜日。
一週間のどんな時よりも仲良くできたらいいな!
実は、オニーチャンと出かけるのも好きだよ。
まだ予定は何にもないけど、
一緒に過ごして楽しいお休みにしようね。
リカを幸せにできるオニーチャン。

真璃の偽日記

『せつぶんパーティ』

明日は節分ね。

楽しいことはみんなマリーのためにあるの。
フェルゼンもマリーを楽しませてね。

節分のメインになるもの。
それは──
まめ。

……

まめって!

もっと他になかったのかしら?
せっかくのマリーのためのイベントなのに。

投げるなら、トマト投げが派手でいいと思う。
マリーの中にも、立夏お姉ちゃまに似てラテンの炎が眠っているのかしら?
日本であんなことをしたら怒られるけど、いつか体験してみたいわ。
つぶれたトマトまみれになって倒れるとき、
この命が燃え尽きてもあなたのことを忘れない……
ごっこできるし。
でもあれ、当たると予想以上に痛いって聞いたこともある。
やっぱりいいかな……

他に投げるものといったら
パイ?
それだとお笑いになっちゃう。
まあ、マリーは庶民の気持ちがわかる気さくな女王だから
お笑いになったらそれはそれで楽しめると思うけど。

ねえフェルゼン。
節分の日に投げるものって、もっと何かないの?
もっと情熱的な感じにしたいの。

嵐のようにうなりをあげて
飛び交うまめ!
頭を抱えていちもくさんに
逃げていく鬼!

まめ……
どうも、あんまり絵にならないわ。
もうひとつ、華が欲しいところよね。
別に節分ぽくなくなってもいいから
マリーに似合うお祭りにできないかなあ。

何がいいかしら。
やっぱり、マリーが一番大事にしているのは愛だから
愛の贈り物……投げちゃダメか。
何よりもマリーに似合う
マリーの日があるとしたら、
それはマリーの特別に大事な日。
フェルゼンがマリーに愛を告白してくれたから?
マリーの手料理をおいしいって言ってくれたから?
身長が伸びたから?
フェルゼンのくちびるに、マリーの顔が届くようになるまで。
空中を飛んで愛を届けるものは、投げキッス?
ウインク?
愛の言葉がいい?
そうなったらフェルゼンは、もう逃げられないわね。
フェルゼン、いつをその日にしてくれる?
マリーの一生の記念日を決めるのは、いつでもフェルゼンなの。

ま、そんなマリーの日の構想は置いといて。
やるとなったら本気で楽しむのが
マリーのやり方よ。
明日は覚悟しておいてね。
まさか、まめの日がこんなに華やかになるなんて!
と思わせるまで、マリーは張り切ってしまいそうよ。

今年もフェルゼンは、まめをぶつけられる鬼の役?
大変だけど、ひとりはいないと始まらない、大切な役目。
マリーも愛にこの身を捧げて、フェルゼンと鬼をしてみようかな。
愛のために同じ苦しみを分かち合い、
まめをぶつけられ、手に手をとって逃げ出した先は
愛する者たちに許される
二人だけの楽園──
どこにいても、それは私たちが愛の名のもとに
心をこめて、助け合う場所。

どこか浪花節も混じってきたわ。
やっぱりマリーの中には、生まれ育つ日本を愛する心もはぐくまれているのね。
故郷フランスのことを忘れがたいと思っていても
いま過ごしている時間が、マリーを変えていくの。
そう、あなた色に
高貴な女王を染め上げていくわ。

でも、日本のお祭りはいいものだけれど
いわしの頭を飾る風習?
あれもなんとかならないかな。
ちょっと怖いし。
派手にしようと思っても
リボンもフリルも似合わないし。
いわしよりケーキが好きだし。
そういえばマリーは、いわしの骨をとるのがじょうずなのよ。
まさか、きれいに残したいわしの頭が私たちの厄を取り除いてくれるなんて。
手先が器用な乙女は、ちょっと複雑な気分よ。
少し困るけど、欠かせないらしいもの。
蛍お姉ちゃまもいっしょうけんめい準備してるわ。
マリーにはまだピンと来ないけど。
きっと、いわしの頭って、大人の節分なのね。

明日はマリーといっしょに、優雅な節分を過ごしましょ。
楽しみね。

さくらの偽日記

『おにんぎょう』

さくらのおにんぎょうは
よいおにんぎょう。

お兄ちゃん、
さくらとおにんぎょうあそびしましょ!

たのしいよ?

いつもはお兄ちゃんになる
さくらのかわいいおとこのこ。
きょうは、
お兄ちゃんがいてくれるから
かわりに何になるのかな?
さくらになる?

おにいちゃん、
これがおにんぎょうのさくらです。
ほんもののさくらみたいに
かわいがってあげてください!

おにいちゃんのときは
かっこよくてやさしいおとなのおにんぎょう。
さくらのときは……
どうなるの?

さくらのいいところ、
なんだろう?
なんだろう──
う、うえええん!
さくら、いいところないよ!?

お兄ちゃん、
なさけないさくらのこと、きらい?
すぐにないちゃうし、
すぐにおもらししちゃうし、
すぐにお兄ちゃんにあまえて
こまらせるの──
お兄ちゃんにあそんでほしくて
お兄ちゃんとふたりでいたくて
ずっとお兄ちゃんとはなれたくないの。

ごはんも
おふろも
ようちえんも
いっしょがいいです。

お兄ちゃん、
さくらのおにんぎょうにいいところを見つけてあげてください!
そうしたら、さくらも
おにんぎょうからおしえてもらって
いいところがあるようにします。

さくらのいいところ、
これから見つかるの?

まりおねえちゃんより、
みづきおねえちゃんより、

やさしくてすてきな
はるかおねえちゃんより
ほたるおねえちゃんより

お兄ちゃんがたのしくあそぶ
おにんぎょうのさくらより
もっとかわいい、
お兄ちゃんだけのさくら。

お兄ちゃんがさくらのことをすきになって
ずっとあそんでいたくなる
すてきなさくらって、
どんなさくら?

あのね、
さくらはお兄ちゃんにすきになってもらいたいから
さくらのだいじなひみつ、
お兄ちゃんにだけおしえてあげます。
さくらのとってもたのしい
うれしくなるひみつ。
だれにもいわないでね!

ほんとはね、
お兄ちゃんのおにんぎょうは、
さくらとなかよしで、
こいびとなの。
そういうことにしてあそんでいると、
さくらはうれしくなって、
むねがどきどきしてきて
とってもしあわせ。

お兄ちゃんとさくらがこいびとになるって
とってもいいことだからだとおもう!

だから、お兄ちゃんも
さくらのことをこいびとにしたら
きっと、
とっても、
びっくりするほど、
こんなことしらなかったっていうくらい
うれしいとおもいます。

お兄ちゃんとふたりだけの
さくらのひみつ。
どうだった?
お兄ちゃん、さくらのことすきになった?
おとなでりっぱなおねえちゃんたちより、
さくらのことがすきになる?

お兄ちゃんが
さくらのこと、
すごーくすきになってくれたら
いいのにな。

お兄ちゃん、さくらともっとたくさんあそんでね!

霙の偽日記

『赤鬼はじめました』

この家に、
悪い子はいないか?

フフフ──

これは微妙に違うな。

それに、
オマエは家族たちが認める
満点お兄ちゃんのようだから
私に悪い子をさらっていく権利があったとしても
簡単に私のものにはできない。

だが、いいお兄ちゃんだったとしても
いい弟であるかどうかは別問題だ。
困ったときには年長を頼り、
姉を規範として、正しく行動しようと心がけ、
何より、姉を尊敬し、その指導を仰ごうとする謙虚な姿勢が
オマエにあるだろうか?
まあ、その生活態度の結果は
当日のお楽しみとしておこう。

というわけで、
私が節分の鬼を任されることになった。
例年なら、イベントに張り切るのはあまり気が進まないが、
蛍が製作した赤鬼の全身タイツが
なかなかの出来だったものだから、
これはと思った。

普段から、何事も塵に帰る儚いものと決めていても──
やはり年頃の女子高生でもあるからな。
ファッションには胸がときめくものがある。

パーティグッズとして売っている全身タイツは、あまり感心した出来ではないが、
さすが蛍の手にかかると違うな。
まず色合いからして違う。
私の愛する小豆色を思わせる魅力を発揮しながら、その深みには赤鬼の風格もある。
絵本の中の赤鬼を思わせる、大物感のあるこの輝き。
誰でも一目でわかるこの威圧感、迫力。
ただの赤ではない、別の色でもない。
まさに赤鬼のために用意された赤と呼ぶにふさわしい。
見た目だけではない。
着てみてわかる、長時間動いても不快にならない作り。
こういう細部に気を使えるものこそが本物だ。
素材には相当にこだわっているようだな。
今日もずいぶん気温が上がったが、この全身タイツだけは別格だった。
まさに、節分の鬼をつとめるために作られた逸品。
節分という伝統と、見事な蛍の腕が生み出した芸術品だ。

それにしても、試作品を次々と着替えることになったこんな日に
妙に気温が高くなったのはなんだったんだろうな。
何度かシャワーを浴びるくらい、汗で蒸れてしまった。
私は自分でも知らずに
天の神様の気に触ることでもしただろうか?
全てはいつか滅びるものと受け入れ、
定めに身をゆだねて、
塵に等しい少々の快楽の他は何も求めず、
品行方正に暮らしているというのに。
そうか、きっと、天の神様が私を憎んでいるわけではない。
逆に寒いほうが体調を崩す心配があって危険だった。
むしろこれは、寵愛と言っていい。
私を愛するあまり、少し張り切りすぎてしまったかな?

まあ、それは冗談として。
蛍の手になる衣装は、実はもう一つある。
こちらは青鬼だ。赤鬼と負けず劣らず、なかなかの完成度になっている。
着用者の候補は、オマエとヒカルだ。サイズもそれに合わせてある。

今年はオマエにも、選ぶ自由がある。
いつもやっている鬼を担当するか。
たまには豆を投げる側に回ってみるか。
好きにするといい。
もしも鬼を選ぶというのなら、
この輝ける青鬼の全身タイツが
いつでもオマエを歓迎するだろう──
ヒカルと取り合うことになったら、話し合いかジャンケンだな。

ところで、
天気予報によれば、明日から急に気温が下がるという。
家族たちの体調を心配する一方で、思うことがある。
急に何の話だろうと思うかもしれないが、
一般に、長期的な視野で天気を予測することは非常に難しい。
私は気象予報士を目指すつもりはないが──
バタフライ効果の例えもある。
あまりに規模の大きい複雑系は、人類の知恵でどのように扱えるのか?
カオス理論の話まで行ってしまうと、天気予報とはまた分野が違うのか。
もしも、蝶の羽ばたきが天候にまで影響を与えるなら、
私の唇の動きだって同じだろう。
これからもこの家に幸福が訪れるように、と願いながら口に出す
鬼は外、福は内、の繰り返しが、世界の営みに関係する可能性は考えられる。
私たちの祈りが、結果を出せるものだと
いつかは科学的に説明できるようになるかもしれない。
だから、塵のように儚い私たちが
節分に祈りをこめることは、間違っていないんだ。
誇るべき日本の伝統行事だ。

そんな雑な理屈で吹雪をからかって遊ぼうと思ったが、
やはり知識量ではまるでかなわず、すっかりやりこめられてしまった。
あの冷静な子が元気に豆を投げるところを見たかったのに。
オマエの意見はどうなんだ。
いや、元気な吹雪のほうではなく。
私の考えはやはり、強引すぎるかな?

まあ、
どんなに強引な理屈でもいい。
私たち家族のところに、たくさんの幸福が訪れて欲しいものだな。

今日は暖かかったからと言って油断せず、
体調には気をつけるようにな。
こんな日に風邪でも引いてしまったら──
明日は邪気を祓うために、どれだけ豆を投げられるか分からないぞ。
私も体調を管理するために、
少し甘いものでも食べてから、休むことにしよう。
うん、それがいい。
オマエも付き合ってもいいぞ。
いやあ、健康な体を維持するというのも一苦労だな。

氷柱の偽日記

『げぼく』

わたしのゆめ

2ねん あまつか つらら

わたしのしょうらいのゆめは、
なんでもいうことをきいてくれる
やさしいげぼくをもつことです。
わたしのためにつくしてくれて、
こまっているときはすぐにやってきて、
なにもいわなくてもわたしのきもちを
ぜんぶわかってくれる、
きがきいて
さいのうがあって
てんさいてきで
どこをさがしてもほかにはぜったいにいない
わたしだけの
じまんのげぼくをつかまえて
いっしょうにがさないで
しぬまでこきつかうことです。

ああそれなのに、
どうしてこんなことになってしまったのでしょう。

もうちょっとまともな
げぼくになれなかったのかしら?

バカ!

どうやら、
夕凪が私の子供のころのこと、
気になるみたいだけど。

あなたも気になるの?
私のことをそんなに知りたいのかしら。
……
まあ、どうでもいいけど。

頭が良くなる秘密なんてないわよ。
夕凪にはまだわからなくてもいいことかもね。
学校の勉強が少しずつできるようになれば
楽しいし、やりがいもあるし。
将来の選択肢が増えるし。
未来に向けて努力するのは、人間だけに許された特権よ。
私たちは本能だけで生きている野生の動物じゃないんだから。

夕凪はいいとしても、
あなたの年で分からないようだと問題だわ。
そんな向上心のない下僕は、
ちょっと厳しくても仕方ないから
愛をこめて躾けてやらないと。
ね?
そうでしょう?

それで、
もし、自分は能無しだから
氷柱の下僕には向いてないなんて
すぐ弱音を吐くようだったら、
その時は、だらしない根性を
徹底的に叩きなおしてやるんだから。
あなたのご主人様は、一度下僕と決めた人間を
そう簡単に放り出したりしないの。

それで、
ここのところ、ご主人様にまったくいいところを見せることがない
情けない下僕が、
ちょうど困っているご主人様を助けられる
絶好の機会に恵まれたみたい。
いいことを教えてあげるから、感謝しなさい。
本当なら、このくらい自分で気がつかないといけないのに。

今日の節分。
鬼になってもいいし、豆をまいてもいいから、
あなたが家族を引っ張って、
どんどん盛り上げて、
家族みんなを楽しませて、
後ろのほうで一人くらい引っ込んでいても
誰もわからないくらいに
みんなの気を引いておくの。
いい?
それが下僕の役目。

だいたい、
鬼は外! 福は内! の掛け声なんて
恥ずかしいことを考えたのは誰なんだろう?
ばかばかしいから、小声で適当に済ませようとしたら
海晴お姉様もヒカルお姉様も、調子に乗って人を前に引っ張り出そうとするし。

家庭の行事って、
どうしてこう、揃いも揃って
年頃の娘に厳しいものばっかりなの。
鬼なんているわけないし、
福の神だっていないし、
豆をまいたところで運勢は何も変わらないし、
鬼は外の掛け声が大きかったところで小さかったところで
困る人なんてどこにもいないし、
子供の行事なら元気が一番と思うけど、
何もかも理屈が分かっているいい大人が参加して
どうしろって言うの。
何がしたいんだかさっぱり分からない。

いいこと、下僕。
女の子は繊細なもの。
鬼なんかよりももっと大変なものから、守ってもらわなきゃ。

そのくらい、
こっちが言葉にしなくても
気が利いて自分から言い出せるようでないとね。

ま、今日のところは
少しくらいできの悪い下僕であっても、目をつむってあげるわ。

あなたみたいにガサツで無神経で考えなしの性格が
たまにはご主人様の役に立つなんてことがあるのね。
良かったわね。
下僕冥利に尽きるでしょう?

さ、
あなたもろくな大人でもないことだし、
子供みたいに張り切って
小さい子たちを楽しませてあげて。

それで疲れてしまったら
散らかった豆の後片付けは手伝ってあげないでもないわ。

海晴の偽日記

『家族はあせらず』

あーん、
日曜日が終わっちゃう!

大人の女に必要な
癒しの時間、
まだ充分に堪能してないのに!

これから間に合うかしら?
休日の最後を味わう、
深夜にかけてのお楽しみ。

広いお風呂で
ひとり、ゆったりのんびり?
それとも、誰かと入ろうかな?
ねえ弟クン。
どっちのほうが、明日への元気が沸くと思う?
お姉ちゃん、迷っちゃって決められない。
本格的な大人の夜を迎える前に
キミが決めてくれなくっちゃ!

あとねぇ、疲れを取るのにね、
マッサージなんかもいいかな。
私のことをやさしく揉みほぐしてくれたら
お礼に同じことをしてみたくなっちゃうかも。

キミは今日は大変じゃなかった?
家族の節分。
はしゃぎすぎる子も、面倒になって逃げ出そうとする子も
一筋縄ではいかない子ばっかり。
私みたいにいい子になって、家族みんなが楽しめるように気にするのは
ほんの一部だもの。
よくこれで、大きな家族行事が成り立つなーって、
ちょっと不思議。
なんだかんだで、お互いを大事に思っているからかな?

節分かぁ──
天気予報のときの話題で、よく紹介するのよ。
今年の節分は、各地でこんな行事があります、って。
大きな神社では、お相撲さんや芸能人が豆を撒いたり
小さい子が巫女装束をするところもあるし
たいまつを用意して、にぎやかに、どこか厳粛に──
それから、この時期には珍しいけど、神楽の奉納をする神社もあるわね。
キミも、アイドルの投げる豆に興味がある?
行ってみたいところがあるなら、いつか家族みんなで行こうか。
まあその前に、家族会議がちょっと大変かもしれないけど。

でも私は、この家で過ごす節分が
一番楽しいかもしれない。
なんでかな?
そんなに特別なことをたくさんするわけじゃない。
どこの家でも大体同じようにしている節分なのに、
私の節分はいつも、どこよりも楽しく過ごしている気がする。
芸能人がいなくても、立派な神事がなくても
とっても嬉しい、家族の行事。

キミは、家族のことをどう思っているのかな。
家族といられて嬉しいと思ってくれているなら
きっと家族みんなも、キミといられて幸せを感じている。
だから、私たちといるときに遠慮なんかしないでね。
信じていて。
家族みんながいつもお互いを大事に思っていること。
これからも、私たちと一緒に幸せになろう。

いよいよ節分も過ぎて、立春ね。
これから春に向けてどんどん暖かくなるといいけれど──
私の予報だと、本格的に春を迎えるのはまだ少し先かな。
寒いときにはいつでも言ってね。
家族みんなが、キミを暖めたくて待っているんだから。
それから、春が近づいてきて、だんだん暖かくなったら
キミといろんなことをしたくて、また大騒ぎになるわ。
覚悟していてね。
そのときに備えてキミも、有効なリフレッシュの方法を
たくさん身に着けておかなくちゃ。
がんばってね。
もちろん、私も協力するから。
ううん、協力してもらうっていうほうが正しいかな?

春はまだ遠いけど──
その日が来るのを、みんなで楽しみに。
家族と暖かく過ごそうね。

あさひの偽日記

『んま』

んまっんまっんまっ
あんばっ!

んまっ
めっ!
んばっ
あんまっ!!

んばばばば、んば!
あっばっばー?
べろべろ。

(まめ、まめ、まめ。
 まめのひだよ!

 ちっちゃくてかわいい
 まめのひ!
 ちっちゃくてかわいい
 あさひのひ!

 あさひがたべるまめのかず、0こ!
 おにいちゃん、まめってどんなあじ?
 まめとおにいちゃんと、どっちがおいしい?)

青空の偽日記

『ぼくしんぐ』

えいえい!

ぱんち!

そらの、
ぼくしんぐ!

ひかるにおそわった。
そら、するどいこぶし?
すじがいい?

まえにみたことある!
そらしってる!
これ、かんふー!

あちょー!
ふっくだ!
あっぱーだ!

なんでもこわす
おそろしいいちげき。

おおきないわもふんさい。
びるを、たてにまっぷたつ。
おもらしふとんもこなごなよ。

はるかがいってた。
そらのねらいから
にげられるものは
しんじつのあいだけ!
みらくるぱわー、
そらのかんふー。

おにいちゃん、
そら、なにかこわす?
おねえちゃんたちをこまらせる
わるいしゅくだい!
あちょー!
これでかいけつ!

にじこをこまらせる
わるいなっとう。
あちょー!
ねばねばもふっとぶ!

ゆうなをなかせる
わるいつらら。
あちょー!
そしたら、
こちょこちょでかえりうちよ。
つらら、つよい。
まじつよい!

そらのおうちの
なまえはてんし。
てんしのこぶしは
ほのおのこぶし。

そらのぱんちはへびーきゅう。
ひかるがいう、
そらはわがやのへびーきゅうだな!
せかいいちのうつわだな!
って。
おにいちゃん、そうかな?
そら、へびーきゅう?
せかいいちのこども。
そらはへびーきゅう!

せかいでいちばん
ちいさいへびーきゅう。
それが、そら!

せかいでいちばん
かわいいへびーきゅう。
それが、そら!

せかいでいちばん
おにいちゃんをだいすきなへびーきゅう。

ぱんちも、
いいこも、
せかいいち。
ぱわーと
げんきの
そら!

おにいちゃんもつよい?

ひかるがいってたよ。
あいつのほんきは、ぱわーはないけど
よけられない。
うけとめたくなる
ふしぎなちから。

ちょうのようにまい
はちのようにさすの?

おにいちゃん、
そらよりつよい?
たたかうまえの
いいこのあいさつ。
よろしくおねがいします!

かったほうが
あしたからへびーきゅう。
まけたら
つららにちょうせんから
やりなおしよ。

ごんぐがなったら
はじまりだよ。
はい、
じゃーん!

かってもまけても、
あいさつができたら、いいこなの。
ありがとうございました!

小雨の偽日記

『幸せになることを遠慮しない』

今日も麗ちゃんは
海晴お姉ちゃんに怒られていました。

あんなに電車のことが好きなのに
あんまり乗りに行けないって、きっとつらいですよね。

小雨が海晴お姉ちゃんだったら
麗ちゃんに、もっと好きにさせてあげたいと
思ってしまうんじゃないかな。

でも、それっていけないですよね。
子供のころからあんまりお金を自由に使わせるわけには行かないし。
夕方遅くまで電車に乗っていたら、こっちは心配になります。
時間があるときに一人で電車に乗っていて、家族といられなくなったら──
それで寂しいのは小雨のほうかもしれないけれど。

麗ちゃんは、小雨よりもずっと大人で、しっかりしています。
でもまだ小学生だから、海晴お姉ちゃんのやり方で正しいんです。
麗ちゃんだって頭がいいから
していいことと悪いくらいはわかっているんだし……
小雨は慰めるくらいであんまり力になれません。これじゃいけないですね。

小雨が海晴お姉ちゃんくらいになったら
あんなふうに、しっかり妹のことを気づかうことができるのかな?
どうしましょう、お兄ちゃん。
小雨には全然自信がありません……

麗ちゃんより一つ上の小雨が
本当は少し早く大人になれるといいんだけど。
小雨のほうが麗ちゃんに助けられてばっかりです。
でもそんなふうに弱音を吐くと、麗ちゃんを怒らせてしまうから
小雨のもやもやした気持ち、
お兄ちゃんに聞いてもらえて嬉しい。
あの、お兄ちゃんもこんな話を聞くのは嫌ですか?
こんな小雨はうっとおしい?

海晴お姉ちゃんは、家族の間で遠慮があっては
いけない、ってよく言ってくれます。
家族と一緒に幸せになるとき、遠慮なんかしていたら
何もできないって。
ちゃんと言葉にしないと、気持ちはなかなか通じないって。

家族の間でも、できることとできないことがあるのかもしれない。
だとしても──
麗ちゃんみたいに自分の考えをはっきり言える子がいてくれるのは
海晴お姉ちゃんは嬉しいのかな、と思います。
いつも電車に乗りに行けるわけではない、というか、
好きに乗りに行けることのほうがまずないのに、
麗ちゃんはあきらめないで、家族にお願いするんです。
あきれられても、
どうしてそんなに、って言われても
普通に考えて無理に決まってるじゃないって
お姉ちゃんたちからさんざん言われても──

やっぱり、電車が好きだから?
それとも、家族ってそれでいいのかな?
遠慮しないで自分の意見を伝えられたら
麗ちゃんみたいに電車に乗りにいけなくて悲しくてもいいの?

小雨にはまだ分かりません。
家族みんなで幸せになる前に、自分の幸せもなかなか見つけられない。
一番年が近い麗ちゃんがどんなふうにできたら幸せなのか、
小雨にはまるで思いつかないんです。

お兄ちゃんも、小雨が遠慮しないほうがいい?
こんな小雨だけど、お兄ちゃんに聞いてもらいたいことがたくさんあります。
お手伝いでお料理を運んでいたらひっくり返すし、
家族旅行では切符をなくしてしまうし、
トイレに行ったらスカートがめくれてパンツのお尻がよく丸出しになる
恥ずかしくて情けない小雨が
お兄ちゃんに遠慮なく自分の気持ちを伝えてもいいものなのでしょうか?
ただの迷惑にならない?

あのね、お兄ちゃん。
小雨は麗ちゃんのことでときどき考えるんだけど、
麗ちゃんくらいしっかりしている子なら、きっと、もっと大人になってから
好きなことがなんでもできるようになると思う。
麗ちゃんに話したら無責任だって怒るから、言えません。
でも、無責任な思いつきだけど、お兄ちゃんも思いませんか?
どんな電車に乗ることもできるし、
昔の電車を整備して動かすこともできる。
新しい素敵な車両をたくさん作ったり、
麗ちゃんが一番いいように線路を敷くこともできるはずです。
大好きな電車たちの
麗ちゃんが知っている一番いいところを引き出してあげられるように、
小雨には電車の気持ちは分からないけれど
麗ちゃんに愛されるたくさんの電車が
麗ちゃんといられて嬉しい、
愛されて嬉しい、
自分の良さを引き出してもらえて嬉しい、
麗ちゃんが電車を好きでいてくれて嬉しい──
きっと電車がみんなそう思ってくれるようなことがいっぱい、
麗ちゃんならできると思うんです。

もちろん、たくさんがんばれる麗ちゃんのことだから
電車を運転することも無理じゃないし、
一生懸命走れるように整備してあげたり、
電車にどんな問題が起こっても解決してあげられるようになる。

世界中の電車に乗りに行くのもいいし。
きっとね、麗ちゃんなら友達もいっぱいいて
大人になったら一緒に電車に乗りに行く友達ができると思うんだけど
こんなに家族がいっぱいの家で育っているでしょう?
もし、麗ちゃんが好きな電車に乗りに行こうとして
人数が少なくて少し寂しいと思ったら
そのときに小雨がついて行きたいの。
いま思いつく小雨ができることは、それだけだから。
小雨は大人になっても、すぐ切符をなくしたりして
お荷物のままかもしれないけど、
麗ちゃんが寂しくしていたら近くにいてあげることだけは
できると思うんです。

だから小雨は、麗ちゃんが
悲しくて泣いちゃうことがあっても
今みたいに、家族に遠慮なくなんでも言ってほしいです。
もしかしたら今よりも素直になってもらいたいかも。
寂しいって気持ちは、なかなか口に出せないみたいなんだもの。

そう思っていても小雨は
自分のことになると
なかなか気持ちを口に出せません。
怒らせてしまうし、
こんな小雨のつまらないお願いだし、
なんだか申し訳なくなってしまうもの。

思いを言葉にして
家族みんなと一緒に幸せになれるなんて──
小雨にはまだ少し難しいみたいです。

お兄ちゃん、
いつか小雨が、とても伝えたい気持ちを
きちんと言葉にして伝えられるようになるときまで、
小雨の側にいてくださいね。

小雨はがんばります。

麗の偽日記

『愛って何?』

節分も終わって、
毎日が平常運行。

と、行きたいのに。

まだ家の中は浮ついた感じ。
というか、いっそう盛り上がりつつあるわ。

なんでそんなに楽しみなの?

別に私が、
鉄道イベントに行こうとして
却下されたから
恨んでいる
なんてことは、全然ないけれど──

二月のカレンダーの真ん中に
我が物顔で、でんと居座る
うっとおしい日、
バレンタイン。

日本中があの日を目指して
盛り上がろうとしているようで、
これといって関心のない身としては、
まあ、好きな人は好きにすればいいんだろうけど、
なんで? とは思う。
人を巻き込まないで、とも思う。

そんなに大事なイベントなのかな。

というか、
この日に告白するっていう決まりは何なの?
別に、好きならいつでも勝手にすればいいのに。
好きでも言えない面倒くさい状態なら、言わなくてもいいのに。
愛さないといけない、
誰かを愛する人はこの日を大事にしないといけない、
なんて雰囲気になったせいで、
もう!
ほっといてよ!
って思わない?
あなたに言ってもしょうがないか……

私だって、誰かを愛する気持ちがあることは
わからないでもない。
家族を大事に思う暖かさとか──
そういうのとは、また違う
情熱的な感情も。

誰かのせいで、自分が自分でなくなってしまう。
止めようとしても止められないし、本当はこの気持ちを止めたくない。
顔を思い浮かべるだけで体が熱くなって、
遠くから声が聞こえると鼓動が抑えきれなくなって、
少しでも関係のあるものを見かけただけで意識してしまう。
もう何を見ても関係づけて、思い出してしまう──

大好きな気持ちで、胸の中がいっぱい。
苦しいのに、なぜか心地よい不思議な感じ。
こんな感覚、他の何も与えてくれない。
ずっとこのままでいたい。
永遠が許されないなら、
せめてもう少しだけでもいい。

もう少し、
もう少しだけ──
このままがいい──

あなただって、
何かを好きになったことがあるなら
きっと経験したはずよ。

あなたなら、何があるかな。
蛍姉様のカレー、
春風姉様のラーメン、
蛍姉様のから揚げ、
春風姉様のハンバーグ。

そんなところ?
それとも、もっとときめく何かがある?

私にはある。

誰も彼も、私の気持ちを
それは本当の恋なんかじゃないって言うけど
気持ちが伝わらないから?
相手が人間じゃないから?
そんなの関係ない。
相手に届かなくたって、片思いでいいじゃない。

別に、結婚して一緒に住んで、
あの人の子供を産みたいとか思っているわけじゃない。
できてもしないわよ。

こんなに私の心を激しく揺さぶるものがあるなら、
普通じゃないところもあるかもしれないけど、
それは恋ってことじゃないの?

みんなが言う恋の条件には、全部当てはまってる。
どうして、私の気持ちだけが違うなんて言われるのよ。

もしかして、
男の人を愛するなら、また違った気持ちになるの?
それが本当の恋?

だったら私には一生経験する機会はないわね。
男なんて永遠に嫌いなんだから。

もし本当の恋を知らなくても、
電車を愛するこの気持ちを知ることができて、
何も思い残すことはないわ。

男なんかに血迷うことがあるなんて、
考えるだけでおぞましい。
周りの男なんて、みんな汚らしいのばっかり。

そう、あなたも──

あなたは、特別ひどいじゃない。
主体性がまるでないみたい。
バカじゃないのって思う。
女の子がいっぱいの家に突然やって来て、
いつも騒ぎに巻き込まれて、
ちっちゃい子たちはまとわりつかれるし、
どんな用事でもすぐに駆り出されるし、
ちょっとしたことでからかわれてるし、
家族の冗談を本気にしてすぐにうろたえて、
何にもかっこいいところがないまま
ろくでもない生活をしているのに、
いっつもにこにこ、
何が嬉しいのか
こんなに幸せなことがないような顔で
笑っている。

ほんと、
男ってひどいものね。

ときめくことなんて、ないじゃない。
胸が苦しくなったりもしない。
私が私でなくなったりしない。
ただ、ほんのちょっと
このままでもいいかな、と思うくらい。
よく話に聞いてる愛なんかとは全然当てはまらない
私が、好きなものを思うときとは
ほとんど似ていない。

やっぱり、こんな感じは恋じゃない。
男を好きになるなんて──
そんな気持ち、
私には一生わからないわ。

観月の偽日記

『バレンタインの妖怪』

どろどろとうずまく
邪念がすっかり祓われた
節分の行事が過ぎて
まもなく、

何物にも邪魔されぬ
純粋さを伝える
バレンタインがやって来る。

よく出来ておるものじゃ。
和洋折衷が果たした妙な偶然。
妖怪をめぐる文明開化といえよう。

海を渡ってきた習慣が
時間とともに受け入れられ、
変容を繰り返しながら
人々の生活と融合を果たしていく。
伝統文化として伝えられ
人の心の支えになる。

多くの文化がたどってきた道のり。
いつかは、バレンタインを取り入れた文化が
古来からの伝統と尊ばれるのであろう。
その日、人々が思い浮かべる古来とは
わらわが正直な気持ちのまま
過ごしてきた時間に他ならない。

伝統は残そうとして残るものではなく、
ただ自然と伝えられていくものゆえに。

だが、変容していく風習によって
闇に隠れるものたちも変わっていく。

夜の暗がり、
深い森の中、
日の差さない場所でしか生きていけない異形のもの。
古い風習に寄り添うことで、己を繋ぎとめるものたち。

彼らはそうあるように生まれ、そのためだけに形を変えて長らえた。
人の目にうつらない小さな姿も、見上げるほどの怪異もある。
暗がりに潜んで生き、やがて、器用に自分を変えることなどできないまま
古い風習とともに滅び──

時代は変転し、
また新しい異形が
語り伝えられるようになるのじゃ。

バレンタインの妖怪とはどのようなものかの。

思いを伝えようとする情念。
届けたい思いと届かない無念が混沌を成し、
甘いチョコレートすら、呪物と化していく。
おお、おそろしや。
早くわらわの腹に放り込んで浄化してしまわねば。
これからしばらく、試食を任せてもらうことになろう。
楽しみじゃのう。
だが、甘いものの食べすぎは体によくないかもしれぬ……
兄じゃは本番までおあずけじゃ。
今回は、祭りの準備はおなごの役目。
寂しくとも、男はこらえて我慢の子じゃ。

ところで、
このごろよく見かける小さきものは
やけにふわふわしておるな。
やわらかそうな真っ白な毛玉が
風もない穏やかな暗がりを
気ままに飛び交い、ゆかいに転がり
行ったり来たり。

恋の波間に漂う、浮気の虫かの?
人のこころは、とらえておかねばすぐに変わってしまう。
恋慕の情を食らい、運ぶ小さな虫たちは
いつでも気まぐれにうろつき、
行く先は予想も理解もかなわぬ。
なまなかな感情など、
あのようなものに狙われたなら、すっかりふぬけてしまうぞ。

兄じゃよ。
いざというときには、
しっかり誠意を見せるのじゃぞ。

兄じゃが望めば、わらわも家族みなも
ふらつくこともなく、繋がっている。
離れられないよう、伝統のものたちが守ってくれるであろう。
だが、ちょっと浮気な心を起こしてみたら
人の気持ちはどこへ向かうか分からぬぞ。
まあ、いざという時は、わらわが兄じゃの味方について収拾に当たろう。
何かあったときに備えての、日ごろの精進潔斎じゃ。

兄じゃ、わらわがいつも清らかな気持ちであるように
どうか協力してくれぬか。
バレンタインなどなくても、男は気持ちを伝えてよいと聞く。
不安な恋の妖怪も、
チョコレートが大好きな子供の困った食生活も、
兄じゃの態度ひとつによって、すぐに闇の奥へと
逃げ帰ってしまうであろう。

ヒカルの偽日記

『おっぱい』

変なことを聞くけど──

オマエは
おっぱいが好きなのか?

どのくらい好きなんだ?
水や空気のようになくてはならないものなのか?
手が届く距離にあってほしいのか?
夢に見るまで憧れているのか?
オマエにとってどこまで必要なものなんだ?
おっぱい。

サイズは、大きいほうがいい?
小さいの?
ちょうどいいくらい?

形が好きなのか?
揺れるといいのか?
触ってみたいのか?
匂いはどうだ?
どのへんに興味がある?

たいして面白くないものだと思うんだけど
そんなにいいの?
どうして人の心をここまで動かすのかな。
関わっただけで騒ぎが絶えない。
たかがおっぱいにいったい何があるんだ。

オマエのおっぱい好きを
詳しく知りたがっている子は
実は、私じゃなくて立夏だ。

おっぱいだけじゃなくて
おしりの好みも気にしていた。

セクシーなおっぱいと
キュートなおしりでは
どっちが好みだろう。
それって、どっちを選んでもたいして違わないよな?
というか、どっちだったら立夏にとって嬉しいんだ?
真剣な顔をしてうなっていた。
オマエが立夏にとっていい返事をしてあげられたらなあ。
でも私も悩む意味があまり分からないから、アドバイスができないな。

オマエがさわやかな顔で
「おっぱいが好きさ! 大好きさ!
 立夏のおっぱいはいいおっぱいだ」
って言ってあげられたら、解決するのかなあ?
何が解決するのかわからないけど。
あ、おしりのほうが好きならそれでもかまわない。

オマエの部屋かどこかで、何かそういう本でも見たのか──
それとも野生の勘なのか、分からないけど。

そもそも、
立夏が自分のおっぱいを見てもらって
気に入ってもらいたい
というわけでもないようだ。
勘でかぎつけたらしいのは、オマエのおっぱい好きだけであって。

様子を見ていたらどうも、
バレンタインに作るチョコを考えているようだな。
おっぱいチョコ。
おしりチョコ。
お兄ちゃんの好みはどっちだろう。
そんな世界の終わりのような顔をしてまで悩むことなのか?

それほど、オマエの喜ぶ顔を見たいのかもしれないな。
立夏に正直な気持ちを教えてやってくれ。
オマエに喜んでもらうことが、たぶんあの子にとっては一番嬉しいんだ。

でも、ちょっと気が早いとも思うな。
バレンタインはまだもう少し先だし。
立夏みたいに独創的なチョコを作ろうとしたら、練習も大変なのかな?
ときどきはお菓子作りも手伝っているけれど
基本的に不器用で、なんとなく心配な立夏。
準備が早いに越したことはないか。

そういえば、私もチョコを作るように春風と蛍に誘われているんだ。
あんまりやったことないし、材料が無駄になってもいけないし、
買ってくるほうが早いよ、と主張したんだけど
それではだめだって。
左右から口をそろえてたしなめられた。
だめなんだ……?
まあ、簡単にできるっていう話だから、
味を気にしなければそこそこ料理だって作れるんだし、
失敗もしないだろう。
私のほうは何も心配することはないさ。
大丈夫だって。

立夏のチョコはどうなるかわからないが、
オマエに食べてもらいたくて作っているんだ。
少しくらい不器用でも、受け取ってあげて。
もし助けが必要な事態になったら、その時は一緒に食べてやるよ。

蛍の偽日記

『雨?』

昨日まで
少し暖かい日が続いて。

立春って本当なのね、
早いうちに春服の準備をしなくっちゃ!
と思っていたんです。

うちの家族はみんなかわいいから、
ホタも作り甲斐があります。
次はどんな衣装を用意しようか?
今度はアイドルをテーマにしてみたいなあ。
みんなのお気に入りは、AKB48だとどれになるんでしょう?
ね、お兄ちゃんはどれが好き?
ホタは、どの衣装もお兄ちゃんに似合うと思います!
というのは冗談です!

家族の服を考えていたのは、本当です。
ラブライブだと、もっぎゅーが似合う季節でしょうか。
でもあれは、露出度が高めでまだちょっと寒いかも?
大事な日に勇気を出して気持ちを伝えるために、
まず、日ごろから元気と健康を養っていくことも必要。
でも、普段からかわいいことや素直な気持ちにもっと慣れておくことが
必要な子もいるけどね?
ウフフ、って
そんな予定を立てていたら──

びっくり!
あんなに暖かい日が続いたのに、
関東は大雪に警戒。
海晴お姉ちゃんも、この冬何度目かの真剣な顔で伝える
まじめなニュース。

急激な低気圧の発達で
いきなり寒くなります!

ホタ、コスプレが趣味なんだけど
お天気キャスターの真似はちょっと苦手です。
生活に密着しているのに、
わかりやすく伝えるには、意外と難しい用語が必要なんですよね。
何事もプロの人ってすごいです。
まあ、そんなホタのお遊びは、こっちに置いといて。

やっぱりまだ二月です。
春服の準備をしてる場合じゃなかったかしら?
大変、みんなの冬服はどこへしまったっけ。
タンスをひっくり返してでも、厚着させてあげなくっちゃ。
どうしよう、急いで探さないと、
ああ、ホタが普段からしっかりしていればこんなことには、って
慌ててしまいました。
でも、よく考えたら
まだ冬服は奥にしまわずに、そのまま置いてありました。
よかったよかった。

……
もしかして、
ホタはおばかなのでしょうか。

でも、
家族ためにこうして元気に働けるんだから、
少しはおばかでもいいかな。
お兄ちゃんも、頭が悪いくらいは気にしませんよね?
ホタ、学校の勉強はそこまで悲観するほど悪くはないと思うの……
ただちょっと、うっかりするというか、
あれ? ってなるというか、
すぐぼーっとしているというか?

ちょっと力が足りないところもある蛍ですけど、
家族のために精魂込めてがんばります!

お兄ちゃん、明日の朝はずいぶん寒くなりそうです。
蛍がそこまでしなくてもよかったというくらい一生懸命タンスをかき回して
探し出したコートを着ていってね。

なんでも素直に言える家族になりたいけれど、
蛍はうまくしゃべるのもあまり得意じゃないし、
一生懸命言葉にしてもなかなか気持ちの全部が伝わらないので
行動でも家族のみんなに好きって伝えたいんです。

私、お兄ちゃんのことが大好きです。
だから、できることならなんでもしてあげたいの。
してほしいことみんな、言いつけてね。

ところで、
思ったより雪が降らなくて、
寒さだって、雪が積もるときほどでもないし、良かったですね。
ただ、ユキちゃんの体も心配だし、
小さい子の健康については、油断してはいけないですけど。
そんな心配な当の子供たちは、
雪遊びができるほど積もらなかったのが不満みたいで、
部屋で廊下で、鬱憤を晴らそうと大暴れです。
こっちの気も知らないで、いい気なもので
なんだかつられて笑ってしまいます。

麗ちゃんは違う意味で不満があったみたい。
大雪の可能性があったから、
早朝から電車の本数が少なくなっていたんですって。
麗ちゃんが全部の電車に乗るわけじゃないのに、
やっぱり好きな人にはいつも活躍していてもらいたいのかな。
それはホタも同じ気持ちです。

蛍では麗ちゃんを助けてあげられないけれど、
お兄ちゃんならどうかな。

雪が降っても走れるような
麗ちゃんが気に入るかっこいい電車がたくさんできたらいいのかな?
お兄ちゃんは男の人だし、そういう話に詳しくないですか?

虹子の偽日記

『こいごころ』

にじこです!

おにいちゃんは、
にじのことすき?

どのくらいすき?
ケーキよりも?
こねこよりも?
おさるさんよりも?
たのしいおうたよりも?
カレーライスよりすき?
けっこんしたい?

にじこも!
にじこもだいすき!

にじね、
にじのことがだいすきです!

だってにじ、
こんなにかわいいし、
だっこするのにちょうどいいおおきさだし、
すてきなふくとリボンがにあうし、
ふわふわしてて、なでなでしたくなるでしょう?
あいされじょうずだとおもう!

それに、
にじこのことだいすきって
おにいちゃんがいってくれるし、
にじこ、
とってもうれしい!

にじこがかわいいと
おにいちゃんはしあわせになるんでしょう?

かわいいにじこです。

それからね、
にじこのすきなもの。
にじはおにいちゃんがだいすき!
おにいちゃんにかわいいっていってもらえて
うれしい!
にじこのおかげでおにいちゃんがしあわせになれて
うれしい!
おにいちゃん、にじこがかわいいと
いつでもいっしょにいる?
おにいちゃんがいっしょでないと
にじ、
にじのこときらい。

かぞくのみんなが
おにいちゃんのことすきだけど、
にじこがいちばん
おにいちゃんのすきだとおもいます。

それでね、
どうしてみんなが
おにいちゃんのことすきなんだろう?
はるかおねえちゃんにきいてみたらね──

おにいちゃんがかぞくだからですよ、
だって!
かぞくって、すきなひとのことだって。
そうか!
おにいちゃんがかぞくだと、にじこうれしいもんね。

はるかおねえちゃんがいってたの。
かぞくじゃなかったら、どんなひとをすきになっても
はなれてしまったとき、きもちもはなれてしまうかもしれない。
でも、かぞくだったら、ずっとずっとすきでいていいんだよ!

おにいちゃんと、はるかおねえちゃんは、
こいびといじょう!
かぞくって、こいびとより
あいじんよりなかよし。
にじ、しらなかった。
じゃあ、にじ、おにいちゃんのあいじんになるし、かぞくになる!
もうかぞくだった!
おにいちゃんとにじこも、こいびといじょう!
だから、
おにいちゃん、けっこんしきしよう!
いいでしょう?

こいびとよりすてきなことが
いっぱいできる、
にじことおにいちゃん。
にじちゃんまだちいさいけど、
かぞくだからけっこんできるよ!
たぶん!

ウェディングケーキなら、
みんなでわけても、まだ大きいよ。
おたんじょうびのケーキみたいに大きいのを
みんなでたべるよ!
けっこんしきっていいね。
おにいちゃん、はやくしよう!
にじことおにいちゃんのけっこんしき。

まだはやいの?
にじちゃん、おやさいたくさんたべて
はやくおおきくなります。

にじこがけっこんできるようになったら、
すぐするのよ。
まいにちけっこんしきするの。
ねえ、いつから?
いつからけっこんしきできる?
それからは、ずっとけっこんしき。
まいにち、まいにち、
ちかいますか?
ちかいます!

おにいちゃんとけっこんできるから
にじこは、
にじこがだいすきです。

真璃の偽日記

『ベルサイユ宮殿』

今朝は寒かったわね。

どうせなら、
きのうの朝にでも冷え込んでくれれば、
また雪遊びができたのに。

一月に、ずいぶん雪が降ったときがあったでしょう?
あのとき、お庭を見ながら思ったの。

これだけの雪があれば、
ここにベルサイユ宮殿を建てられるんじゃない?

もちろん、雪で作るのよ。
マリーはまだ小さいし、本物のベルサイユ宮殿は大人になるまで
ちゃんと我慢するわ。

前のときは思いつくのが遅かったけど、
今度雪が降ったらどうしようか、ちゃんと計画は立ててあるの。

本物の宮殿にはない、
マリーとフェルゼンが愛を語り合うための離れも
どこに建てるか決めておいたし。
フェルゼンが作るのを手伝ってくれたら
きっとこのマリーを満足させるものができるわ。

でも、降らなかったものはしょうがないか。
マリーがおねだりしたら、フェルゼンは命を投げ出してでも
雪を降らせてくれるだろうけど
おうちには寒いのが苦手なお姉ちゃまがたくさんいるもんね。
それに、フェルゼンが命を捧げるのは
今度は二人が、革命も引き離せない強い絆で
生涯を共にすることなんだから
ベルサイユ宮殿くらいで命を捨てていたらたまらないわ。

そういうことだから、
フェルゼンには別のベルサイユ宮殿を建ててもらいます。
積み木、ブロック、あやとり、なんでもいいわ。
大丈夫よ、あんまり上手じゃなくても、
フェルゼンが作ってくれるならそれでいいの。
マリーも革命の前はずいぶんいろんな宮殿を見てきたものだけど、
隅々まで完璧なものなんて一つもなかったわ。
ま、世の中にはあるかもしれないけど、
足りない部分を作り手の情熱で補うほうが、マリーの好みなの。
例えば、マリーへの愛を込めるとかね。
だから上手にできなくてもいいけれど、
ちゃんとマリーが喜ぶようにがんばって作るのよ。
フェルゼンの愛が試されるわね。

遊んでいる時間も限られるし。
こんなに寒いと、みんな早々に布団に引っ込んじゃうのよね。
マリーたちの部屋は、
夜の間に寒がる子がよその布団にまでもぐりこんでしまうの。
朝になったら、ちっちゃい子が猫だまりみたいに密集してるわ。
そこまでしなくても、ちゃんと布団に入って大人しくしていれば
あったかくなるのにね。
仕方がないから、部屋のリーダーのマリーがめざとく
放り出された布団をかけ直してあげなくちゃ。
子供の世話が性に合ってるのかしら?
まだ女王様にはなれないけど、お嫁さんや愛人にならなれそうね。

でも、明日の朝も寒くなるみたいよ。
フェルゼンは一人部屋で、寒かったり寂しかったりしない?
男の人に生まれるのも、こういうときは悲しいわね。
マリーが男装してフェルゼンの部屋に忍び込んで行きたいけど
そうもいかないものね。
大人になったら部屋を自由にしてもらわなくちゃ。
お姉ちゃまたちをがんばって説得してみるから
それまでの辛抱と思って、今は我慢してね。
代わりに、少しでも暖かくなるように──
小指だけでもね。

二人が永遠の愛で結ばれた暁には──
フェルゼンが寂しいときにはいつでも暖めてあげるって
約束してあげる。
もちろん、
マリーが寂しがっているときや
困っているときには
すぐにフェルゼンが駆けつけてくれるの。
約束しましょう。
この約束をいつまでも信じられるよう、
マリーはこれからもずっと、フェルゼンを愛し続けてあげる。

これで小指と、心が暖かくなった?
続きはマリーが大きくなってからよ。

吹雪の偽日記

『ノーデータ』

例え話をします。

ここに、二種類の内服薬を入れた
二つの薬瓶があります。
外見を元に区別することはできません。

内容物の片方は、
確実な致死性がある猛毒。
もう片方は──

この薬品を服用した人間が、
望んだ人間から
必ず愛してもらえる効果を持ちます。

例え話です。

実際には、そのような効果を発揮するものはありません。

さて、
服用するまで区別がつかない
このような二つの瓶があるとして。

キミはどうしますか?
死の危険があるとしても
愛の達成を望むか。
それとも、このような不確実な試行はしないのか。

私の回答は──
可能な限りの手段をとって、二つの瓶を区別しようと試みるつもりですが
この例え話は、いっさい区別の手段はないと仮定するものです。

もしも私が、
勘に頼って中身を服用する、と言ったら
キミは止めるでしょうね。

だから、私の回答はあえて秘密にします。

もしも、この例え話に
服用を選ぶと回答する人がいた場合。

導き出される結論は、
愛が成就することは死の危険に優先する、
ということです。
これは、その人の考え方によるもので、
人の考え方は、社会生活の範囲内でその人の自由です。

愛は死に優先するか。
この命題が真であるかを証明するには、
対偶が真であることを証明すればいいということになります。

さきほどの例え話において
対偶とはどのような条件をさすのでしょう?
望みの人と愛し合っている状態を前提とします。
ある薬品を服用しなければ死の危険がある。
しかし、その薬品によって
肉体に変化が発生し、
その人との愛は、永久に失われる。
例えば、脳に影響があるとしてもいいし、
外界を判断する全ての感覚が失われるとしてもいい。

もちろん例え話です。

この場合に、死を覚悟してでも
愛し続けることを選ぶのか──
しかし、この例えは適当ではないかもしれません。
私であれば、もしも脳に損傷が発生しようと
キミを判断する感覚が一切失われたとしても
愛を失うことになるとは思えない。
愛せない状態というものが、考えられません。

愛を科学的に分析できない現在の状態で
何を言っても、
正確な予測にはなりませんが。

自分でも、なぜこのような例え話を思いついたのか
よくわかりません。

バレンタインデーが近づいてきました。
もしかすると、その関係でしょうか?
愛が非常に大事なものだとしたら
バレンタインデーに関わらず、いつでも求めるものであるはず。
では、バレンタインデーは
愛を伝える一つの手段に過ぎないのか?
他に愛を伝える手段が多く存在し、
人はいつもそれを行動に移しているのだろうか?
だとすれば、バレンタインデーのイベントにもそのヒントがあるのか?

いったい、
愛は、生き物にとって
どれくらい大事なものなのだろうか?

私は数学を学ぶことを好みます。
整った数学体系に魅力を感じます。
これは、数学というものが
世界を理解しようとする手段であり、
世界を、あるいは
何者かを愛そうとする手段だからではないか、
と、考えることがありますが
その判断が正確かどうかはいまのところ証明できていません。

数学を学ぶことで得た経験を参考に
物事を計測することが
現在の私は比較的得意です。

何か別の手段で
愛を扱う方法が他にあるのでしょうか。
私にはまだ推測できませんが、
その方法が実在するという根拠は
私の家族から与えられています。

いずれにしろ、
私が愛を充分に理解するためには
いまだに情報量は少なく、
完全な理解を達成する可能性は
ゼロに等しい状態にも感じられます。

おそらく、個人の研究では達成は不可能でしょう。
私はキミの助けを必要としています。
気が向いたときでかまわないので、
協力してもらえませんか。

これは根拠のない想像ですが、
私の研究の成否は、
キミの将来にも大きく関わってくると考えています。

氷柱の偽日記

『三連休』

今日は風が強かったわね。

私の情けない下僕は
めくれるスカートに鼻の下を伸ばしたりは
してないわよね?

恥ずかしい下僕。
ご主人様に余計な心配をさせないくらい
しっかりしてくれたらいいのに。

風であまり気温が上がらなかったし、
明日の朝はずいぶん寒くなるって。
今の時期、浮かれている妹たちが多いから
布団をしっかりかけておくように、
それから油断して薄着になったりしないように
気をつけてあげて。

役立たずの下僕でも、
よく見ておいてご主人様に報告するくらいのことは
できるでしょう?

うちのみんなが
どうして浮かれているか考えたら
腹も立つけれど──

まったく、誰が最初に始めたのか知らないけど。
まんまと踊らされているうちの家族も困ったものだわ。

この三連休は
せっかくだし、家族でどこかに出かけてもいいのに。
それどころじゃないみたいね。
もうすぐ迎えるお祭りのために
ここぞとばかりに連休を利用するみたい。

しばらくは、男の子のあなたは
することがないかもしれないけど、
いいじゃない。
当日は楽しそうにしてるんだし。
準備の間も、本番も
もうずっとイライラさせられる立場に比べたら
全然マシでしょう。

まったく、
こんな不愉快な男が原因で
どうして私がこんな目に……
ぶつぶつ。

ご主人様の不興がわかったら、
どうせ暇をもてあましている間は
少しでも役に立とうって考えたらどう?

バレンタインをぶち壊せ、とまでは
言わないけど──
みんな楽しそうにしてるもんね。
あんなくだらないイベントで。

もっと何かいいイベントだったら──
みんなが楽しみにしてることなら
夏祭りみたいに屋台が出て、
脳天気な太鼓の音に合わせて
無邪気にわんぱくな踊りでも踊って、
うちの小さい子たちが喜んで参加できるとか、
そういうふうにしたらよかったのに!

私がちゃんと勉強して
発言力のある大人になったら、
将来ある乙女たちをこれ以上不愉快にさせないためにも
バレンタインのイベントを根底から覆してやりたいわ。

もちろん、
下僕だって協力してくれるでしょう?
他でもない、あなたのご主人様の希望なんだから。

心配しなくても、
おうちバレンタインの習慣くらいは残してあげるわよ。
家族で愛を伝えるだけのイベントだったらまだマシなのかな。
ううん、本当は私だけの──
なんでもないけど。

そうだ、
いつかバレンタインが家族限定になったら、
下僕からご主人様にチョコを贈る習慣も付け加えようかな。
あげるばかりじゃ不愉快だし、ホワイトデーのお返しなんてあんまり盛り上がらないし、
たまにはあなたも感謝の気持ちを示したいだろうし、
それがフェアってものでしょう?
あなたも今のうちからチョコの作り方を練習しておいたほうがいいかもね。
ご主人様への贈り物なんだから、下手なものを作ったら覚悟しておくようにね。

あーあ、
ばっかばかしい。

この連休は、
特別なことなんて何もないものだと思って過ごすから
ちゃんとそのつもりで
余計なことをしないように。
これ以上イライラさせないで。

今日ほどじゃなくても
まだ風が強くなるかもって話だし、
小さい子たちがあんまり無理をしないように見ていてあげなきゃ。
普段どおりに過ごしたいんだから、ちゃんとそういう態度で付き合って。

ここ数日の間は、
連休はまだバレンタインなんか関係ない無邪気な子供たちと遊んで、
ご主人様に付き合ってバレンタインなんか無視してくれる下僕も
この連休は誰にも相手をされなくて寂しがって
私だけが頼りで相手をしてもらいたがってるから
せいぜい働かせてやって、
ゆっくり過ごすつもりよ。

いい? わかった?
しっかり頼むわね。

立夏の偽日記

『ビタースイート』

ハーイ、
リカだヨ。

バレンタインのために生まれたイキモノ、
リカだヨ!

もうすぐだねぇ。
準備に忙しくて、オニーチャンを寂しくさせてたらごめんね?
リカに言ってくれれば、いつでもフライングバレンタインはじめるからね。
みんなに知られたら怒られるからナイショでね?

おうちでも、
あんまり参加する気のない氷柱ちゃんとか麗ちゃんとかいるけど、
我慢することないのにねぇ。
どうしてもこの時期、
気分盛り上がるじゃん!

バレンタインにはゼッタイ、
恋の神様が祝福してくれるし、
恋の妖精が花びらのラッパを吹き鳴らしているし、
恋のターザンがワーオワーオとハートのジャングルで吠えているし、
恋の魔法使い、恋のサンタクロース、恋の狼男、恋の王子様とお姫様、
総出で不思議な力を世界中に振りまいてくれて
いくらでも奇跡が起こる日だよ。
この日を逃す手はないヨ!
どんな恋だって必ず叶う!
叶わないこともあるかもしれないけど、
だからといって黙って大人しくしていられないよね。

小雨ちゃんがうまくチョコを作れないって困ってるけど
気にすることないのにね!
どんなチョコでも心をこめて作れば
きっと伝わるよ。
オニーチャンが、愛情たっぷりのチョコに囲まれて
おいしい、
おいしい、
おいしいなあ!
って喜んでいる顔が、
今からもう、目の前に浮かぶよう。
たとえ、
温めすぎてボロボロになったチョコでも、
白い斑点がところどころにあるチョコでも、
つやが消えた膜のできているチョコでも、
なぜか固まらないチョコでも、
喜んでくれるに違いないんだから!

小雨ちゃんと二人、
チョコレート作りで可能な失敗を
この一日で残らず経験したと、
蛍おねーちゃんに太鼓判を押してもらったし、
あとは上手になる一方なんだってば。
ホント、ホント。
ただひとつの心配は、
バレンタイン当日までにちゃんとしたものが作れるほど
上達するかどうかっていう
その一点だけなんだから。
もうここまで来れば、あと一息だってば。

せっかく作るんだもんね、
一年に一度だけのバレンタインだもん。
恋の日、
甘い愛の日、
チョコレートスイートの日。
いいものを贈りたいじゃん。
がんばるからネ。

オニーチャンて、
リカのこと、
いまどう思ってる?
どのくらい好き?
バレンタインで、もっと好きになって欲しいんだあ。

リカさあ、
ダイスキ、
ダイスキ、
胸の中に抑えきれない思い、
しまっておけなくて
いっつもフルパワーでぶつけちゃって、
オニーチャンも大変かなあ、
って思っても、
なかなか止められないでしょ?
あ、止めるつもりだっていう話じゃなくて。
止められないから、それは仕方ないんだけど。

でもね、
好きな気持ちって、
言葉にしただけ伝わるとか、
抱きついて気持ちをぶつけた分が全部伝わるとか、
なかなかなくて──
だって、もしそうだったら、
今頃リカとオニーチャンは、
朝から夜まで
ちゅっちゅ
ちゅっちゅ
離れないじゃん?
ねえ?

なんで、そうなってないんだろ。
まだリカ、
オニーチャンに伝えたくて
伝えきれてない気持ちが
たくさんあるんだと思うんだ。
だからね、
今度のチョコレートのチャレンジで
まだ子供だったリカが伝えきれてないぶん、
なんとかして伝えられるかなって、
そう思ってるの。

リカ、
もうこんなに立派なチョコレートが作れるくらい
大人なんだ!
って見せてあげたら、
オニーチャンときめくかな?

小雨ちゃんとふたり、
失敗のたびに泣きそうになりながら
ビターな気分になったりもするけど、
オニーチャンがここにいるだけでリカに元気をくれるから、
もうちょっと、
おねーちゃんたちのドクターストップがかかるまで
挑戦しようと思いマス。
ぜったい成功するんだから。
あきらめないヨ!
楽しみに待っててネ、オニーチャン。

ニキビができても、
妙に太っても、
オニーチャンは愛してくれるって
リカ信じてる!

星花の偽日記

『報告』

まぜて、
まぜて、
よくまぜて──

ねって、
ねって、
よくねって──

あっ!
氷水につけて冷ましたあと、
もう一度湯せんで温めるときはかきまぜない!

そして、29度になったら
お湯から外して
木べらでよくかきまぜます。
これでつやが出て
おいしそうなチョコレートになるよ。

星花、けっこう力があるって褒めてもらいました。
お兄ちゃんに尽くすために一番役に立てるのは、
つやがよくなるまで一生懸命にかきまぜる
この根気かもしれません。

星花はこの特技を認められて、
果たしてお兄ちゃんと
男の熱い絆を築くことができるのでしょうか?
うーん……

意外といいものができそうだし、
お兄ちゃんに喜んでもらえたら嬉しいです!

今のところ星花はいい成績です。
型に流し入れてハート型を作るところまでは
一番最初に合格。
もう少し難しいチョコを練習してもいいって。
お兄ちゃんは、どんなチョコがいいですか?
でも、春風お姉ちゃんと蛍お姉ちゃんのほうが
お兄ちゃんの気に入ったものを作れるかな?
いろいろ試していいそうなので、
星花が作ってみて一番おいしいと思ったチョコを
お兄ちゃんに差し上げるつもりです。

どれを選んでもおいしい
ずらり並んだチョコレートのレシピ。
星花にはまだ、遠く手が届かないものもたくさんあります。
春風お姉ちゃんは、チョコレートケーキが豪華で
挑戦してみたいって言ってるけど、
でも、普段からちょこちょこ作ってるからどうしようかって──
あっ、お兄ちゃんごめんなさい。
ダジャレみたいになっちゃった。
チョコレートケーキをちょこちょこ、
だって。

蛍お姉ちゃんは、
今年も珍妙な料理を次々と考案しています。
珍妙って言っちゃった。
えーと、その、
なんと言っていいのか、
一応、
あんまりチョコの割合が多すぎると胃にもたれるかもだし、
今年はおなかに優しい料理もあればいいなーと、
さりげなくリクエストしておいたけれど、
気分が盛り上がってしまったら
そんな意見は蛍お姉ちゃんの頭からすっ飛んでしまうと思います。
お兄ちゃんから意見があれば、もう少し控えめになるかも。
ダメ元のつもりで試してみてはどうでしょうか……

とはいえ、
冷蔵庫の中身は
いわしにかれい、
かす漬けにする予定だった鮭だったり、
しばらくはさすがの蛍お姉ちゃんでも
チョコと合わせる気にならないものが豊富です。
酒かすといくらかの鮭は今日の晩ご飯に使ったので、
残りの鮭は焼いて食べることになりますね。
チョコ作りに夢中なみんなが食べやすいように
おにぎりの中に入れてもいいかなあ?
ただ、忙しくしているみんなだけど、ご飯のときくらいは
お兄ちゃんが一緒でないとつまらないと思うし、
戦場に出ているわけでもないのに
簡単なおにぎりだとご主君様がご不満なら、
みんなの中では比較的余裕がある星花に
お任せください。
ちょっとしたものならなんとかなります。

もうしばらくは挑戦を続ける私たちですけど、
お兄ちゃんを放っておくなんてことはしないので安心してくださいね。
バレンタインでなくても、申し付けてもらえれば
星花がいつでも戦いに赴きます!

今日の晩ご飯は、
チョコの試食にくたびれた胃に
あまり刺激が強くないものがいいだろうと、
煮魚に合わせて
鮭と大根、にんじんのかす汁になりました。
明日は試作品が今日ほど出ない予定だし、
というか、今日ほど失敗作の処理に困ることはないだろうし、
それほどおなかをいたわるメニューでなくてもいいかもしれないけど、
念のため、
牛乳いっぱい、栄養たっぷり、
暖かくてたくさん野菜がとれるクリームシチューがいいかもって話をしています。

星花たちもキッチンを占領してしまって申し訳ないし、
できるだけご飯の準備を手伝おうと話し合っているんですけど、
立夏お姉ちゃんや夕凪ちゃんはくたびれ果ててしまったし、
ユキちゃんたちにはまだ早いし──
今日のかす漬けは、実は星花が教えてもらって作ったものです。
お兄ちゃん、あったまった?

バレンタインに学んでいるものは、実はお菓子だけではないのです。
この先もずっと、お兄ちゃんのお役に立ちたいもんね。

おいしいご飯で体をあっためて、
栄養を十分に取って、
お兄ちゃんは元気に明日を過ごせそうですか?
星花は、明日もお兄ちゃんに尽くすためにがんばります!

さくらの偽日記

『てんごく』

さくら、しってるの。

ひとがしんだら
いくところ、
てんごくか、じごく。

てんごくは、
いつもぽかぽかいいてんき、
おいしいものがたくさんあって、
うたって、
おどって、
にこにこ、ゆかい。
おもしろおかしい、たのしいところ。

じごくは、
わるいこがいくところ。
そこでは、
う、
うえーん!

おにがきて、
この、
わるいこめ!
って、
つねるんだって!

ちいさいこにそんなことして
いけないとおもう!

どうしておには
いけないことするの?

おにこわい!
さくらだって、
わるいことしようとおもって
してるんじゃないの!

でも、
しらないうちに、
ごはんこぼしてたり、
おもらししちゃったり、
ないちゃうんだもの!
うえーん!

わるいことしたくないのに
じごくにいくなんて
さくらかなしい──

そんなかなしいこと、
かんがえるだけで
さくら、
ないて、
ないて、
なきすぎて
しんじゃうかもしれない。

そうしたらじごくいき。
うわーん、しぬのこわいよう!

お兄ちゃん、
さくらがじごくにいったら
たすけにきて──

じごくのおはなしは、
えほんにもあったよ。
こわいもの、それは
じごく!
さくらはわるいこだからじごくいき?
ってきくと、

おねえちゃんたちは、
さくらちゃんはいいこだから
だいじょうぶ!

さくらちゃんは、
かぞくにあいされるいいこだから
きっとだいじょうぶ。
てんごくいけるよ!

ほんとう?
さくら、あんまりわるいことして
すてられちゃうかも──
いいこでいたいのに、
ふえーん!

てんごくは
おいしいものがあるところ。

おさらにやまもりのチョコレートが、
たくさんあるから
なかよくわけてね、って
でてくるの。

きのうも、きょうも。

さくら、
てんごくにきたの?

いつのまにかしんでたの!?

うわーん!
しぬのこわい!
でも、
ここはじごくじゃないし、
お兄ちゃんも、みんなもいるよ?
しんでもお兄ちゃんがいてくれるからいいのかなあ?

このチョコレートはね、
しさくひんっていうんだって。
どうして、しさくひんってたくさんあるの?
ちいさいこは、あんまりたべすぎるとおなかをこわすから
きをつけてね、って。
きをつけます!

お兄ちゃんと食べるチョコレート、
おいしい。
お兄ちゃんがいるおやつの時間、
とってもたのしい!

お兄ちゃん、あのね。
チョコレートって、食べてもうれしいけど、
あげてもうれしいんだって。
ほんとかな?
お兄ちゃんにあげたいから、こんなにチョコレートがあるの?
さくらもお兄ちゃんにあげる!
あーん──

おいしい?
もうひとつ、
あーん──

たのしい!

なんでなんで?
むねがどきどきするの。
しぬとむねがとまるんだって。
さくらいきてたんだ!
いきたままてんごくにきちゃった。

お兄ちゃん、
たべて!
ぜんぶ!
これぜんぶ!
もっとチョコレートをあげたくて、
さくらはどきどきしています。
たべてたべて!
やまもりあるよ!

てんごく、たのしいね?

あのね、
さくらしってるよ?

ほんとうは、
おひさまぽかぽかじゃなくて、
あめがふったときも
てんごくだったもの。

いっつも
こーんな
やまもりチョコレートはないけど
てんごくだったもの。

おうちのみんなと、
お兄ちゃんがいたら、
たのしくて、
おもしろい!
どうして、えほんにかいてないの?
お兄ちゃんがいればいいんですよ、って。
おいしいチョコレートを
あげたくなるって。

たのしいてんごく、おやつをどうぞ。
さくらもだいすき、ゆかいなところ。
お兄ちゃんに、
さくらのすきなもの
たくさんあげる。

はい、
あーん!

麗の偽日記

『あげない』

あなたは、
私からのチョコレートが
ほしい?

春風姉様が言ってるわ。
日頃の感謝を表現するいい機会だから、
チョコ作りに参加すれば?
とかなんとか。

日頃の感謝って、
誰かに強制されて表現するものじゃないと思う。

だいたい、
バレンタインの制度がおかしいのよ。
なんで女性から?
なんで告白?
愛を伝える日があるのは、まあかまわないけど、
だったら他に、日頃の感謝を表現する日を用意してもいいじゃない。
区別を付けてよ!
なんで、
感謝してることと
愛してることが
だいたい同じみたいな扱いなの?

そんなイベント、
参加したくないの。

そりゃ、
家族みんなが参加するって言われたら
まあそういうものかな、
ってチョコも贈るでしょ?
恋愛感情は関係なくやってたけど、
それって、春風姉様たちのバレンタインとは別物だって
やっと気がついたわ。

だから今年は、
私はあなたに
チョコレートなんか贈りません。

手作りなんてするもんですか。
私、
女の子に生まれたかったわけじゃないし、
女の子でよかったと思ったことなんてないし!

もし、私が男の子で
あなたが女の子だったら
こっちがチョコをもらうはずだけど、
私は別にあなたからチョコなんて欲しくないわ。
あなただって、私からなんていらないでしょ?
なんとなくとか、渡すほうももらうほうも空しいだけだし。

春風姉様は、
麗ちゃんも女の子なんだから
今のうちからがんばっておかないと
後になってきっと後悔する、
って言うけど
そんな後悔なんて絶対しないわよ。

あのときチョコをあげておけばよかったとか、
いったい、どんな後悔よ?
それは、あなたには普段からお世話になっていないこともないし、
感謝なんて──まあ、なくもないけど。
日頃の感謝をする日があったら、してもいいし。
でも、それとバレンタインとは別物だと思う。
あなたに愛を告白するつもりなんて、
これっぽっちもありません!

私の心は、私のものよ。
誰よりも、私が一番良く知っているわ。
あなたに告白しなかったから後悔するなんてことは、
どう考えてもありえない。
バレンタインでチョコを渡しておけばよかった
なんて後悔をすることは
未来永劫ありえない。

誰も私のチョコなんて欲しくないと思う。
喜ぶ人なんていないでしょう。
バレンタインに不満を抱きながらとか、そんなの。

家族の愛を伝えるバレンタインです──
なんてのは、
ただ単にバレンタインを楽しみたい人たちの欺瞞よ。
バレンタインって、
そんなイベントじゃない。
愛とか恋とか、
めんどくさい意味があるって
この歳になればちゃんとわかります。

チョコを溶かして、
固めて、
また溶かして、
失敗したら最初の溶かすところから
やり直しとか、
感謝の気持ちでする行為じゃないでしょ!
明らかに好きでやってるでしょ!
お菓子作り自体が好きとか、
贈る相手の顔を思い浮かべて、
喜んでもらいたいからやる気が出るとか──
私には、想像しかできないことだけど、
たぶんそうだと思う。

吹雪ちゃんからチョコ作りの話を聞いたときは、
ふーん、みんな結構科学的なこともするんだ、
だったら鉄道に興味を持てばもっと面白いのにって思って
見に行ったら、
吹雪ちゃんの説明が科学的だっただけで、
実際のチョコ作りはアバウトだったわ。
気持ちで補う感じだったわ。
むしろ根性の塊だったわ。
もう少しで甲子園にいけそうなくらいだったわ。
甲子園は冗談よ。

吹雪ちゃんも、基本は習ったから後はバレンタイン前日まで
キッチンを離れるって。
あんな暑苦しい集団に参加するなんて、誰だってお断りよね。
好きでやってる人だけは別かもしれないけど。

私はクールなタイプだから、
勢いで行動なんてできません。

とにかく、しばらくは、私のことはいないものだと思って。
おやつはもちろんいらないし、ご飯も食べたくない。
そういうわけにはいかないとしても──
家族の意味をひとりで見つめなおすために、
家族から距離を置きたい気分よ。

家族愛っていうのは、別物です。
バレンタインなんかに
私が参加する理由はどこにもないっていうこと、
覚えておいて。

虹子の偽日記

『おふろ』

それゆけ!
おっぱいかぞく!

おっぱいがあると
うれしいこと、
それは──

おふろ!

おにいちゃんは、
おふろがすきですか?
どのくらいすき?
あいしてる?
にじこのこと、あいしてる?
あれれ?
おふろのはなしだったのに?

にじはね、
おふろが
すきで
すきで
たまらない!
ってほどじゃないよ?

ふつうに、
すき!

おふろは、
いいにおいがするし、
あったかくていいきもちだし、
あひるとにんぎょがぷかぷかするし、
おっぱいだらけだし、
ごくらく、ごくらく──
って、おねえちゃんたちがおもしろいことをいうから
たのしい。

でもね、
あんまりはいると、
ふやけて、
のぼせて
かぜをひく!

おそろしいから、
にじこはいいこで、
おねえちゃんがじゅうまでっていったら
じゅうまでかぞえて
すぐでるの。
にじこのおふろ。

それが、
きょうは!

おふろがこいしかったよ。
さむかったでしょ?

はれたり、くもったり、
くもがとんできたら、
おひさまをかくしちゃだめ!
こらーっ!
おいかけて、つかまえようとしたけど
にじこはまだちいさいから、だめだったの。

すぐにあきらめちゃう
おひさまの、
いくじなし!
って、つららおねえちゃんがおこってた。

にじこ、
くもをおいかけて、
ほこりだらけになってはしりまわって
ほこりくさくなっちゃって
あせをかいてひえたらいけない、
さっぱりしなきゃ!
おねえちゃんたちがいうの。

さむいときは、
おにいちゃんとくっつきたかったんだけど、
ほこりだらけだとだめなんだって。
おにいちゃんも、にじことくっつきたかったら
ほこりだらけだとだめですよ?
そうでもないかな?
いつでもいいのよ!
おにいちゃん!

おふろにはいるときは、
かみをまとめて、
からだをあらって、
あわをながして、
おゆにつかるの。
にじこはだっこしてもらいます。
おっぱいがあるとたのしいけど
おにいちゃんとつららおねえちゃんはおっぱいがない──
でも、おにいちゃんはおとこのこだから
にじこのこと、しっかりだっこしてくれるの。
おっぱいがなくても、おにいちゃんとおふろにはいる!

このごろ、おふろは
チョコレートのにおい。
みんな、チョコレートつくってるからなの。
もうすぐ、チョコレートのひ!
そのあとは、キャンディのひ!
それからすぐに、おひめさまのひ!
たのしいことがつづくのね。
そのつぎくらいが、おにいちゃんのひ?

にじこ、すぐおっぱいおおきくするから、
おにいちゃん、にじこともっと
おふろにはいろ!
おっぱいがいっぱい、おふろっていいね。
ゆざめしないように、
おふろあがりは
ピンクのどてらをはおらなくちゃ、ね。

海晴の偽日記

『お兄ちゃん』

世界でいちばん
キミのことを愛しているのは
いったい誰でしょう?

もちろん、私も立候補するわ。
でも、あーちゃんにも戦いに参加するチャンスをあげないとね。
さすがにまだチョコレートは作れないけど──

家の中に溢れている
この熱気を感じているのかしら?

近頃はもう、
目を覚ましたとたんに何かを探してきょろきょろ、
キミの顔を見つけたら一直線に向かっていくの。
はいはい競争の新記録を毎日更新中よ。
計ってないけど、たぶんね。

愛情を伝える情熱も
更新中かもね?

いいなあ──あーちゃん。
こんなにかっこいいお兄ちゃんがいて。
私も、
キミのことはかわいい弟として扱うだけじゃない、
この心がまだもっと純粋で幼くて、それでも──
好きで好きでたまらなくて
小さな胸に膨らむ思いをとどめておけなくて、
気持ちをもう言葉にできず、
毎日飛びつきたくなるような、

こんなお兄ちゃんが
初恋の相手だったらな!

弟でもするけどね?

お姉ちゃんだけの楽しみっていうのも、あるわね。
悩んでるときには相談に乗ってあげる。
キミより少しだけ広い私の世界に連れて行ってあげる。
悪いことをしたら、叱ってあげる。
それからね、
まだ知らないこと、たくさん教えてあげる。
知っておいたほうがいいことも、
知らないほうがいいくらいのいけないことも、
家族と過ごす時間がこんなに楽しいって、
私が知っていることを全部教えられる。
少しだけ長く生きてるお姉ちゃんの強みよ?
一日分の経験がどれだけ大きいかって、
毎日を楽しみにしている
キミならよく知っているはずだもん。
お姉ちゃんの少しのアドバンテージが
どれだけのものか、想像できるでしょ?

キミを今よりも少し立派な男の子にできるよ。
人の心を、ほんのちょっと深く理解するような。
つまづいても、ねじまがったりしないような。
素直な気持ちを表現することがどれだけ大事か知っている、
家族を愛するかっこいい長男くんに、
私がしてあげるね。

そうしたら私は、
よくこれだけ育てあげた!
なんて自分を褒めながら、
大きくなったキミを頼もしく見上げて──

でも、
まだまだだな。
これからもお姉ちゃんとして教えてあげることが
いっぱいだわ、
って笑うの。

19人姉妹の長女として育ってきた経験があれば、
そうそう追い越されはしないわよ。

キミに身に着けてほしいものは、
まずね、
お姉ちゃんが連れて行く
女の子の服のお店で、
私に似合うものを選べる
ファッションセンスとか──

本当は欲しいものは服ではなくて、
キミといっしょならどこでも楽しいっていうことや、
キミが私のことをいつも見ていてくれてすごく嬉しいってこと、
私が気づかないうちから気がついてしまう
そんな能力とか──

私の心を一番良く知っているのは、
本当は私じゃなくて、
私のことを愛している人なんだと教えてくれる
二人で積み重ねていく経験とか──
そうやってお互いが努力しているうちに、離れられなくなっていく
家族として過ごす時間だとか──

私が欲しいもの、いっぱいあるんだ。

実は、まだ言えないものだってあるのよ。
素直になるとか、
愛を表現するのって、
簡単じゃないの。
努力がたくさん必要なんだよ。
毎日の、たゆまざる努力。
そんな大変な日々を、愛しあえる家族と一緒に続けていくの。
がんばろうね。
お姉ちゃんもまだまだなんだよね。
ねえ、知ってることみんな、お兄ちゃんみたいに私に教えてね。
大好きなかわいい弟クン。
私の大事な家族──
キミにお願い。

それからね、
他にも身に着けてほしい能力はあるんだけど、
とりあえず、晩ご飯のときに妹たちに囲まれて
バレンタインにどんなかわいい衣装を着て欲しい?
というか、お兄ちゃんはどんな服をかわいいって思う?
なんて無邪気な質問に、
氷柱ちゃんの制服がかわいいって答えて
食卓を必要以上に混乱させない
心配りも覚えてね。

あれは氷柱ちゃんの制服がかわいかったというより、
制服を勝手に借りてまでかわいくなりたかった夕凪ちゃんがかわいかったのよ?

それとも、
本当にああいう制服が好みで、
私にも着て欲しいとか──
うーん、それはキミの希望でもかなり難しいかな。

私に着て欲しい
バレンタインのリクエストがあったら、早めに教えてね。

って、コスプレイベントをする日じゃないから
そっちはおまけか。
作って欲しいチョコとかもあったら、どんどん言って。

あ、でも、
12日は夜から雪になるかもしれない予報よ。
バレンタインまでに用意するなら、雪が降る前に買出しをしておいたほうが良さそう。
リクエストは早めがいいな!
とか言って、キミにお願いされたら
どんなに時間がなくても、大変でも、張り切っちゃうな──

情熱的なあーちゃんが
大きくなったときに負けないように、
今のうちに差をつけておかないと。

夕凪の偽日記

『ドンキホーテ』

よく、
昔の人は
馬に乗ってでっかい風車と戦ったって
いうけど。

いつも思ってたんだよね。
昔の人は大変だな、
そりゃ怪我もするよ、
夕凪みたいにマホウ使いならよかったのにな、
風車も竜も、杖の一振りだよ。
もしこれからお兄ちゃんが風車に立ち向かうときは
夕凪を呼んでくれれば
ぜったいお兄ちゃんは、夕凪に惚れ直すってわけ!
よゆうよゆう。

だけど──
なんでもやっつけるマホウがあっても
できないことがあるんだよ。

海晴お姉ちゃんは、
雲の動きを予測するのにすごく勉強してるけど。
だったら雲の小さいようなやつ、
湯気!
も、そりゃうかつに扱えないじゃない。

他のみんなは
結構簡単に進めてるけどさ、
チョコに水分が入らないようにって言われても、
人間だって寒かったら白い息を吐くんだから
お湯も湯気くらい出すよ。
湯気が出たらチョコに入るでしょ?
入るんだよ!
湯せんってむずかしいよね──
こっちの手でボウル、こっちの手で木べら、
こっちの手にはもうひとつボウルだよ?

まだ一度も
チョコ作りを成功させていないのは
夕凪とヒカルお姉ちゃんのふたりだけなんだよね……
立夏ちゃんも小雨ちゃんも、小さいユキちゃんも
なんとか簡単なものなら完成させられるようになったし。
マリーちゃんから下は、形を作るくらいだっていうし。
夕凪にもまだ早いのかなあ?

このままだと、
チョコ作りが大変すぎて夕凪は力尽きて、
たどる運命はお話のドンキホーテと同じ。

夕凪が死んだら、
お墓にはこんなふうに書いてね。

愛に生き、
愛のために死に、
愛の力でよみがえり、
お兄ちゃんと愛を誓い合って、
いつまでも幸せに過ごしたマホウ使い、
ここに一度眠る──

ほーんと、
思ったより大変なんだなあ。
パティシエの繊細な指先が夕凪にも欲しいよ。
器用になるマホウとか、
落ち着きが出るマホウとか、
もうちょっと早めに考えておけばよかった!
あと、チョコを作らなくてもお兄ちゃんの愛を
夕凪一人で独占するマホウも。
そっちを作るほうが早い気もするよ。

バレンタインはチョコじゃなくてさあ、
お肉の日にしたらどうかな。
好きな人とお肉を食べる日。
おいしいし。
元気が出るし。
もしお兄ちゃんがそれでいいなら、
今年からそういうことにしようよ。
ほら、お兄ちゃん、
だんだんチョコじゃなくても良くなってこない?
そんなにチョコなんていらないでしょ?
だったら変えちゃおう!

それか、
バレンタインを違う日にするなら、
お兄ちゃんに何でも言うことを聞いてもらえる日がいいなあ。
だって夕凪、お兄ちゃんとしたいことたくさんあるよ。
恋のマホウを研究するとか、
庭でかけっこするとか、
おやつをわけてもらうとか、
気がついたら不思議と散らかっている部屋の掃除とか、
いつでも適当に作った歌を一緒に歌うとか、
何か踊るとか、
チョコなんて作ってる場合じゃなくない?
でも、いつもお兄ちゃんにやってもらってることだから
バレンタインだけ特別にってわけじゃないかな?

夕凪はおやつのチョコも好きだし、
チョコだって食べると元気出るし、
お兄ちゃんにはいつも夕凪の言うこと聞いてもらえるし、
バレンタインくらいは
もうちょっとがんばってチョコを作ってみようかな?

どこから見ても
明らかにチョコじゃない
謎の物体しかできなかったとしても
受け取ってね!

小雨の偽日記

『歯磨き』

小雨の番です。
ごめんなさい。

今日の小雨は
いつにもまして
情けない小雨です。

何があったかというと、
たいしたことではないんです。

小雨は緊張しやすいし、
不安になるとますます緊張するし、
ただでさえ失敗しやすいのにさらに失敗が増えるし、
やりたいことを早めにできるときは
余裕を持って計画を立てて──

このバレンタインも、
本番直前まで追い詰められたら
まず失敗する!
どうしても失敗したくないときほど、緊張する──
と、気が気ではなかったので、
ちょっと早いけど、三連休のうちに用意しておこうとしたら
試食にまぎれて、
小雨からお兄ちゃんにあげるはずだった普通のチョコが
どこかへ行ってしまいました……
今はもう、誰かのおなかの中。
早くもチョコとして生まれた役割をまっとうしました。

大丈夫です。
まだ、振り出しに戻っただけ。
時間はあるんだもの。

お兄ちゃんにおいしいチョコを食べてもらいたいから、
小雨はまたがんばって作ります。

ところで、このところチョコをわりと試食していますけど、
こんなに食べる機会は普段あまりないので、
いつもよりもしっかりと歯磨きをしないといけません。
家族全員で気をつけよう、と声を掛け合っています。
お兄ちゃんは、歯磨きは大丈夫ですか?
一番食べて欲しい当日に
お兄ちゃんがチョコを食べられなくなったりしたら、
みんな悲しみます。
何かあったら、小雨のチョコは後回しにしてください。
なるべくならやっぱり、せっかくのバレンタインには──
ううん、本当は受け取ってもらえるだけでいいんです。
ともかく、お兄ちゃんの歯が健康であるにこしたことはありません。
小雨たちも、バレンタインを言い訳にして不健康になってはいけないし、
歯磨きくらいはしっかりしようって。

それが、今日は──
歯磨きしているとき、どうやら他の事を考えて
ぼうっとしていたみたいで……
立夏ちゃんはなぜか笑っているし、
麗ちゃんは苦い顔をしているし、
小雨はいったい歯ブラシで何をしていたんでしょう?
そこまでショックを受けていたつもりはないんですけど。
もう一度きちんとチョコを作れるのかな、
という不安で頭がいっぱいだったことだけはよく覚えているんです。
気がついたら、手に持っている歯ブラシがありえないほど開いていました。
歯磨きに集中していなかったというか、
何をしていたのか自分でも記憶にないというか。

お兄ちゃんも、歯ブラシは歯磨き以外のことに使わないように
気をつけてくださいね。
小雨のほかに誰がそんなことするでしょうか……
余計な心配をしてしまいました。

あんまり関係ないかもしれないけど、
普通は使わないような場面で
意外なものを使うことは、よくあるんですよね。
チョコでコーティングする
中身を工夫している子もいます。
それに、蛍お姉ちゃんのバレンタイン料理も、
小雨には見たことがないものが多いけど、たぶん
ああいうものなんですよね?

小雨は独創的な工夫に向いていないので、
教えられたとおりの、よくあるものに
また挑戦してみたいと思っています。
めずらしいものは作れないけれど──

普通すぎてつまらなかったら
ごめんなさい。
華やかな日に合わせたいけど、
結局作るものは普通にしました。
小雨がまだ小さいときからお姉ちゃんたちに作ってもらっている、
普通のチョコのお菓子は、
簡単だからって理由もあるけど。

子供のころからなじんだこの味を口にすると、
今日もこの家でおやつの時間を過ごしているんだな、
小雨も家族の一員の端っこにいるんだな、って
しみじみと実感できる、小雨の好きなチョコレート。
我が家のおいしい伝統を、
お兄ちゃんも気に入ってくれたら嬉しいです。

大丈夫。
ちゃんと落ち着いて作れば、
小雨もまた失敗しないで作れるかもしれません。

春風の偽日記

『前夜』

目が覚めたときには、
晴れ渡る冬空、
広がる銀世界。

小さい子たちは競うように駆け出して、
登校する時間になっても遊び足りなかったみたい。
帰ってきてからも雪が残っていたらなあ! だって。

あれ?
みんな、明日の準備はどうするの?

そうなると、
明日は春風が王子様を独り占めしてもいいのかしら?
やった!

この雪は
愛の妖精からの贈り物だったのかも?

普段からまじめにがんばってきた
春風へのご褒美ね!
神様はやっぱり見ていてくれてるんだなあ──
それって、明日こそついに私と王子様の
運命の日になるってことかしら?
ああ、どうしよう──
心の準備は──
もう、ずっと前からできているから大丈夫ですね。
早く明日にならないかな!

と、浮かれてしまったけれど、
みんな帰ってきてから、
がんばってチョコの準備をしていました。
そういうわけだから、春風が王子様を独り占めにはできないかも。
みんな張り切っています。
楽しいバレンタインにしたいですね。

蛍ちゃんが作ったメニューも、
スタミナを付けるウナギのチョコ蒸し、
チョコカキフライ、
チョコあんかけチャーハン、
具だくさん海の幸と山の幸盛り合わせチョコパエリア、
などは、
春風が阻止したので大丈夫です。
蛍ちゃんが次々と考案するチョコ料理は、
泉のように湧き出す勢いこそが
王子様への愛そのものなのかもしれませんね。
もしかしたら、全部は抑え切れなかったかな。

それで、
王子様は、毎年甘いチョコに囲まれてしまうでしょう?
もちろん一番甘くてとろける味は春風の心なんですけど、
それは王子様次第で、毎日召し上がってもらえるということもあるし──

最後までチョコ作りが難航している
ヒカルちゃんとふたり、
今夜は春風の最後の仕上げ。
みんなの用意したものは甘いチョコが多いし、
春風はここはひとつ、
甘いだけじゃない少し大人の味、
洋酒を使ったチョコレートを考えています。

他の子たちと少し違う刺激を用意をして、王子様を待っているの。
王子様も、きっと好奇心で手を出してみたくなります。
でもやっぱり、春風は待つなんて性格じゃないかな?
もっと直球が好みかも──
王子様は、何か希望するものはありますか?
春風へのバレンタインのリクエストはまだ間に合いますよ。
どんな春風が──
王子様はお好きですか?

とうとう本番を明日に迎えて、
私たちも、切羽詰っているようなどこか焦る気分と、
早く愛する人と素敵な日を過ごしたい待ちきれない気分で
ドキドキする、
ムズムズするの。
王子様、
世界中にバレンタインは訪れるけれど、
本物はここだけじゃないのかな、
世界のどこにも
他の場所にバレンタインなんてない、
と思うんです。
だって、こんなに愛しているなんて
他の誰かにできるのかしら?

王子様がいちばん幸せに過ごせる
世界でただ一つのバレンタインは
春風たちがいるこの家にしかないんだって
そんな気がします。
もっとたくさんのものをあげたいんです。
溢れる気持ちを贈りたいんです。
私たちの愛を受け取ってほしいんです。
ううん、受け取ってくれなくても──
こんなに愛していることを知ってもらえなくても──
ただ、あなたを愛しているだけで春風は満足──
できるものならしたいんですけど!

きっときっと、
王子様を喜ばせてさしあげます。
自信があります。
努力します。
どうか、今年のバレンタインを一緒に過ごしてください。

春風、もしかして大人のチョコを味見しすぎたかな?
少し酔っているのかも。
なんだかふらふらしているような……
一人で歩けなかったら、どうしよう?
王子様、春風を部屋まで連れて行ってもらえませんか?

雪のように真っ白いベッドに
汚れのない春風を横たえたら、
あとは王子様の好きにしてください。

一日くらい早くても、
春風は気にしません。

19人バレンタイン偽日記

結局、バレンタインには他にやりたいことも特になかったということで、全員分書いてみました。

・海晴
私だって、
まだ十代だし。

とうが立ってるとは
言えない気がするのよね。

そう思わない?
でしょう?

だからまだまだ、
バレンタインは
恋人気分で過ごしたい、
そんな時だってあるわよ?

みんなのまとめ役とか、それだけじゃつまらないっていうか、
でも、この立場も、それはそれでおいしいかな?

というわけで、
このチョコレートは──

姉妹いっぱいのこの家で
いつも立派な長男をがんばっている
キミへの感謝の気持ちと、

これからも一緒に過ごしていく
家族の一員に、
この機会だからということで
これからもよろしくの気持ちと、

それから、
かっこよくてやさしくて
何をしても好きな気持ちが溢れてしまう
大好きな男の子に
どうしても伝えたい
愛しているの気持ち。

今日くらいは恋人気分っていうか、
ううん、
世界中のどんな恋人たちにも負けない
キミへの強い愛を
込めました。

大好きです。
これからも、私の愛は
永遠にあなただけのものよ。

たまには私だって、
こういうのも似合うと思わない?
実は普段から結構真剣なんだし。
愛する気持ちは、いつもそうなのよ。



・霙

全ては塵になり、
消え去っていく。
滅びまでの時間をどのように過ごそうと、
決して逃れられない結末だ。

オマエは、滅びに向かう日々を
どう生きる?

私は、
全てを受け入れ、
快楽に身を任せ、
なるようになると思って、
あるがままに
生きようとしている。

だから、家族たちが思いのままに生きることを
止める理由はない。
むしろ楽しい。
見ていてかなり楽しい。

オマエは今年もずいぶん
振り回されているようだな。
いいことだ。
全てが塵になるまでに
経験しておけるだけのことをしておくというのも
また一つの正しい選択だ。
私は止めない。
どちらかというと、推奨する。
どんどんやってしまえと思う。
無責任なのではない。
そもそも、責任というものが塵に等しいだけだ。

では、私もこの一日に
ひとつの混沌をもたらそうと思う。
果たしてこれが
滅びへの抵抗なのか、
破滅を受け入れ
あるがままに過ごすことなのか、
正しいことなのか、そうでないのか──
私には分からないし、答えを求めるつもりもない。

オマエが探求したいと思うなら、
全てが塵になる前に
答えが出る可能性も
少しは残るのだろう。

チョコレートの匂いのする花だそうだ。
あまり今日一日が甘すぎると、
こういうのもいいだろう?

私は、普段から甘いほうが好みだからな。
それから、もう少し和風だとなおいいな。



・春風

王子様の夢は何ですか?

立派な大人になって、
なんでもできるようになること?

やりがいのある仕事に就いて
一生懸命働くこと?

かわいいお嫁さんをもらって
幸せに暮らすこと?

それとも──
私が考えたこともない
立派な夢があるんでしょうか?

春風の大事なことは、
春風の一番かなえたい
ささやかな夢は、
王子様から見たら
ちっぽけでつまらないものかもしれません。

でも春風は、
この夢が止まらなくて、
いつも全力で追いかけているつもりです。

叶うかどうかも分からないけど、
何があっても、これからどれだけ時が過ぎても
変わらない夢だと思います。

春風のいちばん大事なことは、たぶん
チョコを受け取ってもらうことではありません。
胸の奥のこの思いを知ってもらうことでもないし、
本当は、王子様に愛してもらうことでもないのかも。

春風はあなたを支えるために全てを投げ出し、
あなたを幸せにするために
何もかも犠牲にする覚悟です。
あなたをいつまでも愛し続けて
報われても、報われなくても
決して変わらず、永遠の愛を捧げると
ここに誓います。

でもなるべくなら、
王子様に私の気持ちを知って欲しいし、
王子様に愛して欲しいです。

春風の気持ちを込めたチョコが
王子様を虜にできますように!



・ヒカル

うん。
大変だったよ……

あれは職人芸だと思う。
我が家には、あんなにたくさんの職人がいたんだな。
大きいのから、ちいさいのまで。
上手なやつから、微妙なのまで。
かわいいのから、小生意気なやつまで。
いや、みんなかわいいかもしれないな。
私は、ちょっと──
微妙なタイプのほうだ。

長い時間、一緒にいる家族だけど。
私が自分の好きに過ごしている間に、
みんなずいぶんいろいろな技を見に付けて、
成長していたんだ。

なんだか、
取り残されたような気分なんだろうか?
自分が一人になったようで
ちょっと寂しいけど──
でも、よく知っている家族の
あまり知らないかっこいい面を知ることは
とてもよかった。

変な感想だけど、
バレンタインに感謝だ。

本当に、
感謝だらけのバレンタインになった気がするな。

春風にはずいぶん世話になった。
あいつの根気がなかったら
私のチョコはこんな感じにもならなくて
もっとこう──
詳しい話は春風に聞くといい。
キッチンで練習していた子たちも、
話してくれると思うよ。
あいつらとは、ずいぶん笑いあったもんだ。

けど、
どんなにうまくいかなくても
やめようって気にはなぜかならなかった。

あいつらみんながいてくれたからな。
それに、オマエも待ってるだろうと思って。

時間はかかったけどようやく、
まあまあのものができた。
春風も褒めてくれたし。
でも、本当はそんなにたいしたものじゃないんだ。
もっといいものをやりたいけど、そのつもりならもっと特訓しないと。

なんだかんだで、
私は努力するのが好きなのかもしれないな。
なるべく体を動かすジャンルのほうが得意だけどな。
お菓子つくりは結構重労働だったけど、
しばらくは休みたい気持ちも、正直あるかも。

ほら、あげる。
春風の上手なラッピングがいい感じにごまかしてくれた。
ちょっと形が悪いけど、一応手作りチョコレート。
これが一番うまくできたやつだ。

・蛍

お兄ちゃん!
覚悟してくださいね!

なーんて言わなくても、
お兄ちゃんはホタの料理を
普段から喜んで食べていてくれますもんね。

ちょっと挑戦的なメニューで
蛍もおっかなびっくりしているところです。

もともとメインにするつもりはなかったんだけど、
流しチョコは残念でしたね。
すぐ固まってしまって──予想外でした。
でも、意外とみんな盛り上がってくれて
良かったです!
気がついたけど、わりとチョコフォンデュみたいで
順当な感じの味になったでしょうか?

ホタね、お兄ちゃんにはおなかいっぱい食べてもらいたいし、
やっぱり、主食と合わせたらいいと思うんですけど、
ご飯とチョコの相性はもう一工夫欲しいし、
パンだと軽食みたいになるし、
麺類もどうしてもチョコのイメージからか
軽食っぽいレシピしか見つからないんです。
シェフの人たちは、チョコを何だと思ってるんでしょう!
チョコの気持ちを考えたことがあるのかって思っちゃいます!
愛を伝えるために、こんなにがんばってくれているチョコレート。
恋する女の子に勇気をくれる、あの頼もしいチョコレート。
震えそうな恋心を支える、たった一つの頼り。
大事な日に気持ちを伝えたいこんな女の子がいるって、
それほど特別なことではないと思うんですけど──

そういうわけで、どうでしたか!
いろいろ作ったけど、気に入ったものはありましたか?
特にチーズと相性が良かったかな?
お兄ちゃんのおなかを満足させるために、
ホタはどんな時も手を抜かないで
料理に愛情を込めていきます!



・氷柱

チョコレートなんて
あげるつもりはないわよ。

あなたも薄々は
予想していた通りでしょう?
それとも、そんなにチョコが欲しい?

じゃあ、チョコが欲しいって言えばいいじゃない。

それから、
バレンタインなんだし、
好きな人からチョコをもらうわけなんだから、
私のことが好きって言ってみる?
私があなたみたいな卑しい下僕を
対等な立場で好きになることはないけれど、
バレンタインだし、
死ぬ気でおねだりすれば、
少しはご主人様にも慈愛の気持ちが芽生えるかもしれないわ。

ま、多少の努力をしたくらいじゃ
あなたはまだ全然チョコを受け取る資格はないわね。

うん。

不合格!

思っていた以上に
情けない下僕ね!

使えない!

もはや見るに耐えないし、
仕方ないから、
同情のつもりでこのチョコはあげるわ。

まあ、今日はともかく、
家族みんなの下僕家業を
生まれたときから定められたとおり、
少しはがんばってるもんね。

来年は、
もう少しスマートにおねだりできるように
なりなさいよ。



・立夏

オニーチャン!
バレンタインプレゼントだヨ!

リカのすべてをあげる!

さあ、
唇をうばってネ!
もっと過激なこともしてネ!

バレンタインだもん!
しょうがないよね!
当たり前、当たり前。

というわけで、
ジャーン!
できたよ!
できちゃった!

立夏の手作り、
すごいおいしそうでしょ?
いやあ、自分で言うのもなんだけど、
この艶を出すのは、春風おねーちゃんたちにも無理だね。
バレンタインが起こした奇跡だよ!
どう? 褒めて!
いっぱい言って!
多少のひいきを込みで言って!
リカのチョコが一番おいしそうだって!

食べたら、
チョーおいしいって言ってね。
立夏のファイトを頭に入れた上で言ってね。
生まれてから今まで一度も食べたことがないおいしさって言ってね。
思わずリカのことも食べたくなっちゃうって言ってね。
二人の日ごろからの強い愛を思い出して言ってね。
愛の記念日だって言ってね。
これからも一緒にたくさん愛の記念日を過ごそうね。

まだ食べたりないときは
もう体のかなりの部分がだいぶチョコでできている
リカを食べちゃってネ。



・小雨

小雨の
チョコレート作りは、
もちろん──
失敗しました。

もうこんなところではひっかからないと思っていた
ありがちな罠を
次から次へと踏み続け、
気がついたらすでに、
この時間。

緊張のあまり
小雨の体が小雨でないようで──
だらしない小雨には
やっぱり無理でした。

いつも弱気な小雨が
大好きな人に気持ちを伝えられるチャンスは
この日以外にないって
だからがんばろうって思っていたのに──

お兄ちゃん、
これから小雨が作るチョコは
もうバレンタインのチョコではなくなってしまいました。

家族みんなが
バレンタインに込めた思いなんて
もう、この小雨のチョコには宿らないと思います。
もしうまくいっていたとしても、
みんなほどうまく伝えることはできなかったけど、
それ以前の話だったんです。

小雨のチョコがお兄ちゃんに届くのは
明日以降。
それじゃダメですよね。
でも、ダメな小雨だけど
もう一度作ってみたいんです。
ううん、もう一度っていうか、
蛍お姉ちゃんたちからも
まだ作っていいって言ってもらえたし、
いつまでも成功しないかもしれないけど、
もう少しやってみます。

バレンタインを過ぎてしまって
お兄ちゃんにどれだけ気持ちを伝えられるかわからないけど、
小雨のチョコレートは
もう少しの間、お兄ちゃんを思って作ります。

引っ込み思案の小雨なのに
こんなふうに根気が続くなんてちょっと不思議ですけど。
なんでだろう?
お兄ちゃんに食べてもらいたいって思うと
元気が出るようです。

うまくできたら、
食べてもらえるでしょうか?



・麗

バレンタインは嫌い。
家の中がムンムンしてるし。

チョコをあげるのも、
なんか納得いかないなあ、
気が進まないなあ、
って
そもそもあなたが来た
最初から思っていたわ。

別に、あなたは男にしてはマシな気もするし、お世話にもなってるけど。
でも、チョコレートをあげるのは違うんじゃないかなって。

だから、あげなくてもいいわよね?

そういうつもりだったけど。
小雨ちゃんが言ってたのかな。
もしも、あなたが将来、
誰か私たちの知らない人を好きになって
家を出て行くときが来たら、
私はどんなにがんばっても
あなたに日頃の感謝を伝える手段がなくなるんだって。

そんな薄情な男には、
ますます感謝なんてする必要ないと思う。

でも──

自分の気持ちをよく知ってるのは
自分だけだって
私は思う。
あなたに、言おうとしていたことを伝えられなくなるときが来たら
私は、
少しだけ心残りがあるような、
そんな気持ちになりそうな気もする。

後悔することがあったら
嫌だと思ったの。

はい。
これ。

もともと手先は不器用なほうだし、
他の子より特訓した期間は短いけど。
それなりの努力はしたつもりよ。

私の生まれてはじめての、
手作りの──
義理チョコ。

普段から、ときどきはお世話になっています。
いつもありがとう。

これからもよろしく。



・星花

はい、
どうぞ。

御主君様!

他の子より
妙に大きい
やけに丸いチョコレートが
姿をあらわしたな?
と、不審に思ってはおられませんか。

星花はなんだかんだで張り切る子だし、
普段の元気から盛り上がって
何か妙なことになったのでは?
と、不安を抱いてはおられませんか。

実は、
このチョコは星花の作戦によって生まれたのです。

星花、他の子よりは、ふだんお料理の手伝いをしてるからかな?
チョコ作りが少し早く、うまくいきそうだったんです。

それで、
もっと難しいチョコに挑戦して
お兄ちゃんを驚かせちゃおうかな!
と、ちょっと調子に乗っていたわけですが。

夕凪ちゃんがなかなかうまくいかないみたいで
手伝ってあげているうちに
これは! と、ひらめいたのです。

お兄ちゃんも知っているでしょう?
夕凪ちゃんの普段からの、あの発想力。
チョコ作りも、変わったことを試しすぎてうまくいってなかったみたい。
夕凪ちゃんの失敗には、星花が思いもしなかったアイデアが
山ほど盛り込まれていたんです。

そういうわけで、
星花がチョコレートを担当する、
夕凪ちゃんが中身を担当する、
二人で一つ!
チョコ作りの戦場を駆け巡る
熱い絆で結ばれた
私たちの
合体チョコになりました。

中身もすごいですよ。
大丈夫、おいしいと思います。
星花がついていてあげたんだもの。
お兄ちゃんにおかしなものを食べさせるなんてことはありません!
刺激的な発想に
試食は時々大変だったけど、
できあがったものは、ばっちりです。

星花が命をかけたチョコを、
どうかおいしく食べてください!



・夕凪

食べてくれた?
おいしかった?
もっと食べたくなった?

今年は夕凪の才能が輝く
驚きのアイデアチョコだよ。

星花ちゃんと共同開発。
最初からこうして置けばよかったね。
協力して、仲良く作るのって楽しかったー。
来年は、蛍お姉ちゃんと一緒に作ろうかな!

でも、夕凪って意外と何でもできる子だったんだ。
将来の可能性が開けた気がしない?
これからの目標は、マホウ使いだけにとどまらないね。
マホウのパティシエになろうかな?
マホウのグルメになろうかな?
マホウのアイドルもいいな?
マホウのお嫁さんになろうかなー、
お兄ちゃんは、
マホウが使えるおむこさんとして夕凪とケッコンするの?
それとも、マホウが使えないおむこさんとして夕凪とケッコンするの?

どうなっても毎年、
お兄ちゃんは夕凪のマホウチョコを食べるのは決まりだね!

夕凪の成長を楽しみにしていてね。
今日はできないマホウが
明日にはできるようになる!

今年はできなかったマホウが
来年にはできるようになる!

試してみたいこと、たくさんあったんだ。

星花ちゃんは止めたけど、
チョコに愛を込めるには、
もうちょっとお酒を入れたって
良かったよね?

ぽかぽかあったかくなるし。

春は近い、
夕凪の未来も明るい。

バレンタイン最高!



・吹雪

キミとの関係を考えています。

私とキミは
法的な婚姻関係を結ぶことができません。
ではどのような関係になることが理想的なのか?

歴史上および
世界各地の家族関係を調べています。
私たちがこれから目指す関係を考える際、
参考になるかもしれません。

しかし、
私とキミが結ぶべきは、
これまでになかった概念となる可能性もあります。

20人きょうだいは珍しいですから。
まだ目標となる概念が確立されていないことはありえます。

その場合、私たちが結ぶ関係に
キミが新しい名前を付けることになるでしょう。
私が名前を付けてもかまいませんが、
どちらかというと、普段からキミに教わることが多いですから、
知識の豊富なほうがふさわしいでしょう。

それは愛に似たものでしょうか?
恋に近くなるでしょうか?

呼び名は、
愛でいいのかもしれません。
全ての人間にとって、愛の形は個人的なものだからです。
似通った愛の形は、どこにもありません。
同じ家族で育っていてもそうであると思います。

例え、
家族愛とさられるものであっても、
恋愛とされるものであっても、
その全てが個人的な概念なのです。

私は、キミのことを愛しています。
このチョコレートは、私の愛の証明のつもりです。
万人が認める方程式で証明することはまだできませんが、
いずれそれを可能にできたらと思っています。

愛を伝える手段がチョコレートでよかったです。
あまりに高温の調理が必要な食品では、
毎年、バレンタインのたびに命の危険があります。



・綿雪

お兄ちゃんのために
ユキは心を込めて作りました。

チョコレート。
まだ子供のユキには、平凡な手作りチョコが精一杯だけど
これでもがんばって作ったの。
お兄ちゃんのいつもの笑顔を思い浮かべながら、
お兄ちゃんの喜ぶ顔を想像しながら──

よく体調が悪くなるユキは、
あまりちゃんとしたものは作れないかも、
って覚悟していたんです。
でも、今年はなぜか調子がいいみたい。
急に具合が悪くなるようなこともあんまりないし、
バレンタインの準備の間だって、
ユキちゃんが一番がんばってるみたい、ってみんな言うの。
そうなのかな?
春風お姉ちゃんや立夏お姉ちゃんや夕凪お姉ちゃんより
元気に見えたかしら?

ユキが元気でチョコを作れたのは、
お兄ちゃんがいつも励ましてくれるからだと思います。
今までできなかったことができたのは、
お兄ちゃんが喜んでくれるかも、って思っていたから。
こんなふうに、絶対望めない成功が
ユキのところにあるのは、
お兄ちゃんがいてくれるからなんです。

このチョコレートがおいしかったら、
それはお兄ちゃんがユキのことを大事にしてくれて、
ユキのことを愛してくれて、
ユキの家族でいてくれてるから──
理由は、ただそれだけ。
他には何もない。
ユキががんばれたのは、お兄ちゃんのおかげだし、
そう考えると、ユキがしたことなんて何もないみたいです。

お兄ちゃん大好きって伝えたくて作ったチョコなのに、
全部お兄ちゃんの力なんて、変な話みたい?

いつもいっぱいユキに元気をくれるお兄ちゃん。
これからも、ユキにたくさん力をください。



・真璃

もちろんフェルゼンも知っての通り、
楽しいことはみんな私のためにあるものでしょう?

美しさも──
興奮も──
全てが、マリーに捧げられるためにこの世にあるのよ。

バレンタインだってそうだわ。
楽しいイベントである以上、
このマリーが世界で一番バレンタインを楽しんでしまうに
決まっているじゃない。

だから、
マリーに愛されるフェルゼンは
男性として世界でいちばんバレンタインを楽しむことになる。
そうでしょ?

マリーのチョコは、
まだちっちゃいものが限界だし
作りもまあ、ちょっと本位じゃないけど
幼稚園から下の子では、一番うまくできてると思うわ。
こんなにがんばったことを考えると、
マリーのチョコが世界中のバレンタインのベストっていう気がしない?
これをもらえるフェルゼンが世界一のバレンタイン男であることは
もう確定よね。

いつもマリーに尽くしてくれるフェルゼン。
マリーに惜しみなく愛を注いでくれるフェルゼン。
マリーの愛は弾けそうよ。
女王の大きな心のうちにもしまっておけない。
だって女王だって人間なんだもの。
愛に全てを捧げ、
愛以上に求めることなんて何もない、ただの人間なのよ。
あなたと一緒にいられるなら
マリーはいつでも女王の座を捨ててあなたを追いかける──

でも、
フェルゼンだってマリーが女王でいてくれるほうが
なるべくだったら嬉しいわよね?

さあ、マリーのチョコを褒めてね。
バレンタインをノーブルに過ごしてみる?
あなたの小さな女王様の活躍をたたえながら──
それとも、こんな日は愛におぼれて
地位も名誉も、全てを忘れてしまうのもいいかしら。

ふふ──
革命の嵐でも消せない
二人の情熱が
チョコを溶かしてしまう前に、
マリーへの愛の言葉を
決めてくれなくちゃ。



・観月

愛し合うもの同士は、
赤い糸で結ばれているという。

だが、
わらわはそんなもの
一度も見たことがないのじゃ。

千年、二千年と生きるものどもさえも
見たことがないという。
人間でなくては見えないのであろうか?
しかし、かつては人であったものもおるしの。

相当の修練を積まねば
至れない領域であるようじゃ。
そのような赤い糸の伝説、
どこの誰が探り出し
どのようにして言い伝えられたのか、
わらわにははっきりせぬが──

ひとつ確かなことは、
兄じゃとわらわが
運命の赤い糸で結ばれていることだけじゃ。

なぜ確信を持って言えるかというと、
別の術であれこれと試してみたからじゃ。
うむ、確実に結ばれる二人。
愛称は最高、
邪魔するものは追い払うとしよう。

赤い糸は
どうして見えぬものか?
愛が通じ合ってから、もっとはっきり形を成すのか?
生まれたときに決められておるとも聞く。
わらわの修行が足りぬのか?
それとも、そもそも得意分野が違う気もしてきたぞ。
縁結びの神にも顔見知りがいることであるし、
結ぶのは別の糸であるかも知れぬ。

わらわの修行によって
赤い糸の秘密を探り出す時まで、
運命の相手は離れてはいかん。
二人がどのような結ばれ方をするとしても、
結ばれる運命はすでに決まっている──
それだけは、わらわにもわかっておるのじゃ。



・さくら

うわああん!
うわああん!
お兄ちゃん!

どうしてチョコは
おいしそうなの?

どうしてさくらは
チョコがこんなにすきなの?

うわああん!
いやしいさくらで
ごめんなさい!

お兄ちゃんにあげるはずのチョコ、
食べちゃったの。

さくらは、
お兄ちゃんよりもチョコがすきな
ダメな子なのかもしれない。

お兄ちゃん、
どうしたらさくらをゆるしてくれますか!?

どうしたら、
さくらがお兄ちゃんをすきだってわかる?

さくらは──
お兄ちゃんがしたいこと、なんでもしてあげる!
お兄ちゃんにちゅーするし、
お兄ちゃんとあそんであげるし、
なんでも、なんでも──

さくらのきれいなおようふく
きてみたい?
さくらのおもしろいえほん
よむ?
さくらのかわいいぬいぐるみ
だっこしてねる?
かしてあげる!

あっ、
お兄ちゃん!
チョコがまだあった!
さくらのチョコたべてね。
バレンタインデーっていうの。
すきなひとに、チョコをあげるひ!
ほたるおねえちゃんがいってたから
さくらもおにいちゃんにあげたくて
つくりました!
ほたるおねえちゃんにたすけてもらって
ハートのあなにどろーっていれたんだよ。

チョコがまだあるから、
すきなひとにあげるの。
ほたるおねえちゃんにあげる!
それで、
ほたるおねえちゃんもさくらのことがすきで、
チョコをくれるから、
そしたらお兄ちゃんにあげます!



・虹子

ちょこちょこ
ちょこれーと!

おーいしーい!

お姉ちゃんたちに
おしえてもらった、
ことりのおやつ!
っていう、おうた。

おにいちゃんも、
チョコレートがすきだよね?

はい!
チョコレート!
あげる!

それから、

はい!
ティッシュ!

よごれたらふいてね。

それからね、

はい!
にじこ!

どーん!
もっとほしいものある?
おにいちゃん、すきなものなに?

にじこはチョコレートだけじゃなくて、
まかまかマカロン
すきだけど、

きょうはチョコレートなんだって。
バレンタインはチョコレート。
バレンタインはチョコレート♪
これは、にじこがつくったおうたなの。

マカロンはいつ?
クリスマス?
ひなまつり?

チョコレートもすきだから、
ひなまつりがチョコレートでもいいかな?

あと、おにいちゃんもすき!
ひなまつりはおにいちゃんがいちばんいい!

きょうがチョコレートじゃなくて、
おにいちゃんだいすきのひでもいいよ?
おにいちゃんも、にじこがいいでしょ?

なにたべる?
なにがほしいですか?
なにしたい?
うたっておどるひ、
バレンタイン!
おにいちゃんのひ!



・青空

そら、しってるよ!

ちょこぷろれす!

おにいちゃん、しってる?
しらない?
しらないの?
そらがおしえる!

さっきそらがかんがえた。
ちょこぷろれす。

こっちからそらがはしって、
そっちからおにいちゃんがはしって、
どっかーん!
だっこして!
ぎゅーってして!
らぶらぶして!

ちょこぷろれす!
わかった?

やろう!
もっとやろう!

そら、もっとはやくはしる!
おにいちゃんのところにとびこむ!

とおーっ!
うけとめて!

そら、もっととぶよ!
おにいちゃん、
これ、
どのへんがちょこなの?
そら、しらない!
あのね、
そら、もっとはやくはしるよ!
とぶよ!
そらをつかまえろ、
おにいちゃん!
とおーっ!



・あさひ

あっばー、
あっばー、

ふんばっば!

わっちゃー!
わっちゃー!

あちょ!

あばばば、
おんばばば、
ふんばばばー!

(おいしい
 おいしい

 あさひがきたぞ!

 ミルクよりあまい!
 チョコよりあまい!

 きをつけろ!

 ゆだんするとくわれるぞ、
 くうかくわれるか
 やじゅうのバレンタイン!)

綿雪の偽日記

『寒い日』

冷たい雨が、
雪に変わるかもしれない予報。

お空はずっと、雲の灰色。
明かりをつけた部屋の中も、
普段より暗く沈みこんでいるよう。

指先に染み込む寒さや、
日差しをさえぎる暗さ。
とても厳しい、冬の一日。
さむいさむい日でした。

お兄ちゃんは大丈夫だった?
ユキがこんな心配しても仕方ないんだけど、
だってお兄ちゃんはもう大きいんだから
ユキみたいに無理をして具合が悪くならないで
ちゃんと暖かくしていると思います。
わかっているんだけど、少し心配になってしまったの。

こんな日には
ユキはいつも
お外に出てはいけません。
仕方ないことだって、ユキも知っています。
体のことなんだから、わがままを言ってはいけないんです。
誰も、ユキをいじめたくて閉じ込めているわけじゃない。
ユキのことを思っていてくれるから。
これ以上ユキがつらくて苦しい思いをしないように考えてくれているから。

お兄ちゃん、
今日、
ユキが元気で学校に行って来たなんて
教えてあげたら、
お兄ちゃんはやっぱり心配するでしょうか?

昨日からユキは変なんです。
楽しいことがたくさんあって、
ドキドキすることがたくさんあって、
少しも落ち着いている時間がないほど
家族みんなが大騒ぎだったバレンタイン。
本当なら、
疲れてしまってお休みが必要で、
ただでさえ、体調が悪くなってもおかしくないのに、
なぜか今日は、
体の調子もよかったんです。、
このまま、寒さなんかに負けない子供みたいに
学校に行きたかったの。
お友達と会って、
楽しかったこと、
張り切ったこと、
ユキが勇気を出してチョコを渡せたことや、
お兄ちゃんが家族みんなといて嬉しそうだったこと、
いつもみたいにかっこよかったこと、
ユキたち家族が幸せに過ごせたこと、
ユキが本当に幸せなバレンタインを過ごせたことを、
お友達に話したかったの。
自慢するつもりじゃなくて、
ただ、そういういいことがあったって、
それだけのことを
いろんな人に聞いてもらいたかった。
ユキといつも仲良くしてくれるお友達に
たくさん聞いて欲しかった。

お天気のことがよくわかっている海晴お姉ちゃんは
もちろん反対したし、
氷柱お姉ちゃんだって、こんな寒い日にユキを学校に行かせて
どうなるかちゃんとわかってる。
でも、
ユキは昨日の興奮がまだ冷めないみたいで、
普段なら絶対に言わない、
他の誰でもないユキ自身の体のことだから
いけないってわかっている──
無茶なことを言い出して
お姉ちゃんたちを困らせてしまいました。

だけど、
少しでも調子が悪くなりそうならすぐに帰る、
無理をしないように、っていう条件で
行ってもいいって。

ユキがお休みばかりじゃなくて
普通に学校に通ってみたいと思っていること、
お姉ちゃんたちは知っているの。
とてもよくわかってくれている。
だから、お姉ちゃんたちも困ってしまうんだって、ユキはちゃんとわかってる。
いつもなら、かなうわけもない
ユキのいけない願い。
つまらない、たいしたことのない、
誰かに迷惑をかけるだけしかない、
ささやかだけど叶うことのない
悲しくなってしまうような、ユキの切ないお願い。
だけど、今日は体の調子がいいまま
一日を終えられそう──
大丈夫、こんなに寒くても
体が弱くても
ユキは今日は大丈夫だと思う。
だって、昨日は楽しかったんだもの。

小学校の女の子たちの間でも、
昨日のバレンタインの話は盛り上がります。
女の子は誰でも、頬を赤くして
興奮して、ちょっと照れて
甘い体験を教えてくれます。
まだお兄ちゃんから見たら
小さくて手足も短くて、
まだお花のつぼみでも若葉でもない
種から芽を出したかどうかもわからない子たちばかりの
一年生の教室。
それでも、いつもよりほんの少し、にぎやかな気配でした。

ユキ、普段はお友達の元気なお話を
いいなあって思いながら聞いてることが多いんだけど、
今日はね、ユキがみんなの話題の中心になって
いちばん元気にはしゃいでいたかもしれない。
お姉ちゃんがいっぱいいるおうちのバレンタインだし、
それに、チョコの手作りもみんなより少し早く経験しているし、
それにね、まだまだ他にも違うところがあるの。

ユキのお兄ちゃんが世界一すてきでかっこいいっていうこと。
お兄ちゃんが、大事な家族としてユキを愛してくれていること。
そして、ユキがお兄ちゃんを大好きな気持ちが、
きっとすごく大きいっていうこと。
まだ小さい一年生のお友達みんなの中でも、
体の成長が少し遅くて体調も不安定なユキが
実は、人を好きになる気持ちだけは、他の誰よりも
激しい勢いで膨らみ続けていること──

この気持ちを手のひらに乗せて、お兄ちゃんに見せてあげたいのにな。
そうしたら、ユキの胸の中にあるのが
どれくらいのものなのか、
言葉にするよりもずっとわかってもらえると思う。

でも、そんなわけにはいかないので、
言葉で伝えてお兄ちゃんに分かってもらおうと思います。

お兄ちゃん、
今日、ユキが元気で過ごせたのは、お兄ちゃんがいるからです。
いつも学校に通ってお勉強できるのも、
とっても弱いユキが繰り返す寒い日を乗り越えられるのも、
きっとお兄ちゃんがユキを好きでいてくれて、
ユキを守ってくれるから。
ユキに、大事な気持ちをたくさんくれるからだよ。
まだ子供のユキは、ときどき自分の気持ちを抑え切れなくて
無茶をしてしまって、お兄ちゃんにもお姉ちゃんたちにも
心配をかけているけれど──
もう少し大きくなって、
きちんと自分の気持ちを整理できるようになって
それで、お兄ちゃんにユキの気持ちを
今よりも上手に伝えられるようになって、
ちゃんとした女の子に成長したら、そのときには
ユキはお兄ちゃんの自慢の妹になりたい。
体があんまり良くなくても普通に過ごせる日が、もっと増えるの。
お兄ちゃんのためにいろいろなことができるようになります。
いつもありがとうの感謝の気持ちを毎日伝えたいです。
お兄ちゃんが幸せになるお手伝いを、
ユキにできる小さなものでいいからしていきたい。

ユキは、そんなふうになりたい。
今まで、叶わない願いはたくさんあったけど、
この願いは叶うでしょうか。
いつも願いが叶うとは限らないのは、ユキの体なら仕方ないことなの。
でも、ときどきだったら叶います。
お兄ちゃんが叶えてくれるからだよ。

今日はユキにしては無理をしてしまったから、
ゆっくり体を休めないといけません。
体の調子が悪くなるときはどんな気配がするか、
ユキは何度も経験しているからなんとなく感じるけれど、
そんなときも、具合が悪くならないと思いたくて
不調を見ないふりしようとするから、
ユキには自分の体のことなんてわからないのかもしれません。
だから、いま少し悪い気配がしていても、
調子が悪くなるって決まったわけじゃない。
必ず、ユキは元気で明日の朝を迎えます。
明日もお兄ちゃんに元気なおはようのあいさつをして、学校に行って、
これからも毎日、体調を崩さないで
ユキは元気にお兄ちゃんを助けてあげられるようになって、
また来年のバレンタインを迎えたいです。
お兄ちゃんと幸せな毎日をたくさん過ごすの。

お兄ちゃん。
来年のバレンタインも、ユキと一緒にいてくれる?
これからも離れないでいてね。
ユキがもっと大人になって、もっと元気になって、
もっと上手に気持ちを伝えられるようになったら、
毎年のバレンタインがどれだけ楽しかったか、
お兄ちゃんに話したいことがたくさんあるんです。

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