アルケイディア&キュクレイン

アルケイディア&キュクレイン TOP  >  2013年02月

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霙の偽日記

『虫歯』

全ては塵になる。
だが、虫歯で塵になったという話は
最近あまり聞かないので──

私は歯医者へ治療に行かねばならない。
なんということだ。

かつては、小さい妹たちの歯を
磨いてやったものだ。
まさか私がこんなことになるとは。
油断していたはずはないのだが、こうなった。

ズキズキと鈍痛が繰り返して、
歯茎の奥まで侵略していく。
私の意思に関係なく深く押し入り
神経はなすすべもなく降伏する。
さらり身を翻し痛みが立ち去っていくかと思うと、
ほっとする間も与えられず
また無遠慮に、予告なく訪れる浸食──

この宇宙とは、
儚い塵が寄り合って
ほんのつかの間だけ形を成し、
定めを受け入れ塵に戻っていく
止めようのない循環。
時に現れ、
時に消え行く──
ただそれだけが真理だ。
私の口中にも宇宙が生まれ、
痛みは定めに従い、現れては消える。
塵に等しいミュータンスが
消え去るだけの宿命に儚い抵抗をしている。
彼らもまた、寄せては返す痛みのようにいつか滅びる。
今の私には、儚く消えるものたちを
いとしく思う余裕があまりない。
いったい私は何を言っているのか。
なんで口の中に宇宙が生まれるのだろう。
どうも痛みのせいで少しおかしくなっているようだ。
冷静な思考は彼方へと消え去り、
やがて儚く消え去るこの肉体だけが
私を支配していくのだ。
ああ、
あまり快感じゃない。
こういうのは、私が言う滅びと
ちょっと違う気がする。
なんだろう。

家族とは、
必ずしも平穏な関係を保てるわけではない。
時にはぶつかり合うこともある。
小さな塵でありながら自らを主張しようとする。
弾き合い、結びついていく。
そんなもの、たいしたことではないのにな。
私たちの喜びも悲しみも、宇宙の前では何の意味もない。
それでも、塵は互いを求め合うことをやめないのだ。
こうして苦しんでいる私に
優しい言葉をかける家族がいてもいいと思う。
オマエもそう思ってみたらどうだろうか。
たまには甘え、慰められるのもまた宇宙の塵の活動ということで
いいんじゃないだろうか。
なぜ歯を磨いていたのにこんなことに──
つまみ食いが度を過ぎたのだろうか。

妹たちの見本になるべく、
先頭に立って歯を磨いてきたものだが、
どうやらもう、立派な姉として
家族の見本にはなれないようだ。

とはいえ、
家族を引っ張っていく頼もしい背中を
春風やヒカルや
オマエに期待するのは
まだ少々不安があるな。
姉として、
弟や妹に甘えることはあっても
そう簡単に越えられてしまうつもりはない。

オマエがどんなふうに育てば、私を越えたと認めてやれるか
それはオマエが考えなければいけない。ヒントはやらない。
もしかしたら、私も意地を張って、
越えられたことをいつまでたっても認めないかもしれない。
だが、もうしばらくはいらない心配だ。
まだまだかわいいところばかりでできているような弟や妹たちに、
もう少し、私がかっこいいところを見せてやる場面もあるだろう。

せめて、この虫歯をごまかさず
恐れることなく歯医者に向かい、
堂々と治療を受ける背中を
小さい妹たちに見せてやろう。
それが、虫歯になった私が
家族に示してやれる姿だ。

あの恐ろしい治療に
私が力尽きるときが来たら──
愛していると家族に伝えてくれ。
まあ、歯の治療ではなかなか死なないと思うが。
それから、もちろんオマエも愛する家族だ。
しかし、こんな状態に便乗するのはロマンがない。
またの機会にしよう。

観月の偽日記

『きつね色』

チョコレートだらけの
季節が過ぎて、
小さき子らのおやつも、
少し前までは

チョコ白玉
チョコ道明寺
チョコわらびもち

といったものが
ならんでおった。
意外といけるぞ。
きなことチョコは合うし、
道明寺も、一足早い春の知らせのようであった。

ひとつまみの挑戦的な味付けが
宴の座をにぎわせる。
人の世も、
もののけの集まりも、
穏やかな休みはなかなか訪れぬもの。

そんな賑やかさも一段落の、
のんびりした陽気の日じゃ。
たまにはよいの。
兄じゃもいるでの。

目先の変わったおやつにしようと
蛍姉じゃの提案で
色合いも様変わり。
こんがりきつね色の
チュロスじゃ。

卵を混ぜた生地を
搾り出して、油で揚げる。
子供は揚げ物に近づいてはいけないが、
星型の絞り口から
竹串で切りながら油に落としていく
あの工程は、遠目ながらも
なかなかゆかいなものであった。

本場ではオリーブオイルを使うが、
サラダ油を使うと軽く仕上がると
蛍姉じゃのまめちしき。
油の話なら
キュウビは一家言あるやもしれぬが
まあ、油揚げのおやつもないものな。

からりと揚がった
おいしそうなチュロスを
きつね色というが、
キュウビの色は──

こやつ、
本当にきつねか?

これは何の色じゃ?
というか、色がついていないのか。

わらわがもっと、こーんな幼きころからの友達。
普段からわらわを守ってくれる感心な子じゃ。
少しくらい不審でもよかろう。
もし、暴れて兄じゃを食らおうとしたら
わらわがよく言って聞かせるから安心しておれ。
わらわを食らおうとしたら
兄じゃが守ってくれるであろ。

キュウビも立派なきつね色に育ったら、
さとうをまぶして頭からぺろりといけるであろうか?
わらわがあと千年もすれば、それだけの霊力が身につくかの。
成長してどうなるかはまだわからぬ。
このキュウビも、わらわもじゃ。
あんがい、わらわのほうがおいしそうに育つやもしれぬ。

夜食にレンジでチュロスをあたためて
寒い夜の見回りを、
とりとめもない話をしながら
兄じゃと過ごしたいものじゃ。
兄じゃは、わらわがおいしそうに育つと思うかの?

レンジでチンするときには
金のついた食器はいかん。
五行思想にあるとおり、火は金を剋す。
金には古来から魔力があり、小人や竜や、異形どもの運命を弄ぶ。
レンジをつかさどる一つ目の火の神様は
金を嫌って火花を散らすぞ。
というのはうそで、
科学の進歩がもたらした便利な技術じゃ。
神代を尊ぶわらわのような子も、現代技術の進歩にあずかる。
ラララ科学の子じゃ。
いい時代に生まれたものじゃの!
兄じゃもいるでの。

いま疑問にも思ったのじゃが、兄じゃよ。
キュウビをレンジに入れたらどうなるかの──
もちろん、うそじゃ!

ヒカルの偽日記

『ダブルス』

今日は寒かったな。
オマエはどうだった?
こんな日は、近くにいればよかったのに。

私は、個人的な買い物があって
デパートに行ってきた。

一人でもいいかな、と思っていたけど
ちょうど虹子が暇そうにうろうろしていたから
声をかけたんだ。

虹子が言うには、
それなら今日は、
フレディとフラミンゴはお留守番だって。
遊ぶのはまた今度。
フレディとフラミンゴに悪いことしたな。
私は会ったことないけど。
どこに出没するのかもよく知らない。
もし、オマエが見かけたら
一言謝っておいて。
いや、本気にするなよ。
まあそれはともかく。

楽しかったよ。
オマエも来れば良かった。
近くにいたら、誘ってやったんだけど。

虹子はちょっと気をつけていないとすぐ
浮かれて歌いだすし、
手を離してどこかへ行こうとするし、
知らない人に挨拶をするのが好きだし。
そのたびに注意していたから、
姉妹というよりは
親子に近い二人だったかもしれない。
虹子にも困ったものだ。
もし、オマエが来て
三人だったならどうなっていたかな。
周りの人が見たらきっと、
お父さんが二人いる変な親子になるだろう。

デパートに着いても、
まだ自分には大きすぎる服を見て楽しんでいたようだ。
私の行く先はスポーツ用品売り場。
虹子にも付き合ってもらったことだし
何か買ってやりたかったけど。

新しい靴は欲しくないか。
こっちのポロシャツは似合うんじゃないかな。
ここのタオルは洗濯に強いぞ。
繰り返し使えるぞ!
いろいろ聞いてみたけど
虹子の希望は
パフェが食べたい!
だった。

子供って、
面白いよな。

あんなにいい服がたくさんあったのに。
動きやすそうなのが。
すぐテニスの公式試合ができる白い無地のやつも。
いろいろ便利だと思うんだけどな?

買う予定だったのは
スポーツタオル。
虹子の意見も参考にしたよ。
もう少しシンプルなほうがいいかなあと思ったけど、
絶対こっち!
かわいいから!
と、押し切られた。
虹子が使うわけじゃなくて、
私の買い物だってちゃんと説明したんだけどな?
もちろん、虹子にもおそろいのを買ってやったけど。
でも、使いやすそうなやつだったから
やっぱり虹子は私の妹だな、
見る目があるな、
連れてきて正解だったな、
虹子が妹でよかったな、
これはもう、
虹子は将来、私が面倒を見てやるしかないな!
スポーツの実力を鍛えてやりたいな。
と、決めた。

それから、
こっちも虹子のおすすめ。
お店で見かけて気に入ったらしいよ。
蛍光ピンクの、テニスグリップ。
滑り止めに巻くやつだ。
リボン結びに使うには、ごわごわしてるし太すぎるけど
どうにか虹子の髪留めに巻いてやったので、見てあげて。
今日の虹子は、普段よりもっとキラキラのお姫様!
だそうだ。

せっかく選んでもらったけど
このところ天気もあまりよくなくて
コートはどろどろのまま。
テニス部は筋トレが中心の練習メニューらしい。
助っ人によく行ってるから部活に参加はできるけど、
こんな時期にコートだけ使わせてもらうのもなんだか悪い気がして。
今度晴れたときには、コートの整備を手伝おうかな。
それで、ラケットにピンクのグリップを巻いて、
妹に選んでもらったって自慢するんだ。
晴れるのが楽しみだな。

将来有望な妹がいるぞ、って言っても
テニス部の連中には関係ないか。
15年後くらいの話だもんな。
その頃は、私は30過ぎか。
まだ全然現役だ。
虹子とダブルスを組んでコートに立てるかな。

今日のデパートには
オマエに似合いそうなポロシャツもあったけど、
今度また行こうか?
コートの整備を手伝ってくれるなら、
オマエも練習に参加してもいいと思うよ。
二人でダブルスを組んで
テニス部の連中といい勝負ができたら楽しいと思う。
オマエは前と後ろとどっちがいい?
私ならどっちもいけるし、好きなほうを選ばせてやるよ。

虹子がテニスをするようになったら私と組むんだからな。
その時はオマエとは敵同士だな。
いい勝負をしよう。

蛍の偽日記

『お菓子の家』

おさとうと、
スパイスと、
すてきなものでできている
蛍です!

でも実は、
蛍をぺろぺろしてもあんまり甘くないけど。

甘いほうのお菓子の話です。
お兄ちゃんは知っていましたか?
最近は、本物のお菓子で作る
本物のお菓子の家製作セットが
お店で売っているの。

もちろん、
人が住める大きさじゃないですけどね。
お皿に乗るくらい小さいみたいです。
家族で分けるのは難しそうだし、
倹約家のホタなので、手を出してはいません。

あっ!
お兄ちゃん、
欲しいなんて言ってもダメですよ。
小さい子たちも興味があるみたいだけど、
おやつは家族みんなで分けるものです、って
ちゃんと言い聞かせています。
見本になるべき私たちが
ナイショで自分たちだけ楽しむ、なんて
そんなことできるわけないじゃないですか。
お兄ちゃんはそんなにホタとの間に秘密を作りたいんですか?
だったら別の秘密を作ってもいいですよ。
台所の整理をして、
古くなった分やあまっている分をこっそり処分してしまいましょう。
いっしょにね。

それに、ホタだったら
やっぱり本当に住める大きさのお菓子の家を考えちゃうなあ。
そうなると、課題はいろいろありますよね。
柱に使う丸太も、ブッシュドノエルというわけにはいかないし。
内装にも快適さを求めなくちゃ。
ソファだって、立夏ちゃんなんかが元気に体重をかけても耐えるには
相当な量の寒天が含まれている必要がありそう。
強烈な寝相でもしっかり包んでくれるベッドとなると
羊羹並みの弾力があってもなかなか難しいかな。
マシュマロのやわらかさがよく眠れそうかなとも思うんだけど。
お兄ちゃんの寝相は大丈夫?
マシュマロボディーで受け止めきれないやんちゃな寝相だったら
ホタ困ります!
あと、賞味期限の問題もあるし
こまめに食べては作り直すことになりますね。
つまり、お菓子が大好きな我が家のみんなは
お菓子の家の健康を守るために活躍する看護師さん。
そして、傷口を治していく蛍はお医者さんの役目です。
お兄ちゃんもお医者さんが似合うんじゃないかな。
でもそれは、ときどき疲れたり弱気になったりした蛍を支える
お医者さんの蛍のためのお医者さんなんです。
ややこしいですね。
でも大事です!

あれこれ考えてみたけれど、
ココアパウダーとホワイトチョコレートでチェスボードのお菓子も作れるし
貴婦人のお人形のパニエで広がったスカートに見立てるケーキも
バラの花の形をしたチョコレートだとか、
クリスマスを思い出せばツリーからはみ出して飾るオーナメント。
その気になれば意外とお菓子の家でした。
女の子はおさとう入り。
さらに、チョコボールを家族の分だけ買っていると
結構出てくる天使たちは、私たちの名字と同じで
ちょっと親近感の嬉しさもあります。

それにね、
お菓子の家があると思うと嬉しいのはなんでかな、
お兄ちゃんなんでだと思う?
ホタは考えたんだけどね、
それって、家族みんながおいしいものを食べて
笑顔で過ごせるからじゃないかって。
だったらホタ、がんばって
私の家はお菓子の家みたいに幸せだな!
と、みんなに思ってもらいたい。
青い鳥は最初から家に──これはちょっと違う話だったかしら。
蛍の力はささやかだけど、
おいしい幸せだけでもみんなに届けられたら、お菓子の家に住むよりこっちがいいです。
大事なことは
愛する人の笑顔ですものね。

お菓子の家は蛍の一番の希望ではなかったけど
ほんのちょっとだけ望みを言ってもいいなら、
蛍はときどき、おもちゃのカンヅメを運ぶ天使のように
ラッパを吹いてみんなに幸せを運べたらと思います。
もちろん、地味な仕事に不満はないし、
今だって自分で楽しいことをやってるだけなんですけど、
たまにはみんなに向けて
笑顔のお届けものでびっくりさせたいな。
ぱんぱかぱーんって。

ぱんぱかぱーん。
新しい日の朝が来ましたよ。

ぱんぱかぱーん。
おやつができました。

ぱんぱかぱーん。
かわいい服はいかが?

ぱんぱかぱーん。
なわとびがたくさんできたよ。

ぱんぱかぱーん。
背が伸びました!

ぱんぱかぱーん。
お兄ちゃんにお料理上手の彼女ができました。

ぱんぱかぱーん。
ご懐妊でーす。

ぱんぱか
ぱんぱっかーん。

お兄ちゃんにいいことが
たくさんありますように!

あさひの偽日記

『もーにゃ!』

あばばば、
おんば、
おぶおんば!
んば!

もっちゃ、
もっちゃ、
おちゃ!

もーにゃ、
もーにゃ、
あおにゃにゃにゃ!

もんにゃーにゃ、
もんにゃーにゃ、
あっばおあっちゃ!

(きいちゃったぞ、
 すごいこと!
 なんでおおねがいをきいてくれるひと、
 かみさま!

 おねがい、
 おねがい、
 みるくちょうだい!

 もっとおねがい、
 もっとおねがい、
 おにいちゃんをつれてきて!

 それから、
 おにいちゃんは
 あさひをぎゅーってしてね!)

青空の偽日記

『むちゃぶり』

たのしい、
むちゃぶり!

おにいちゃん、
いっぱつぎゃぐ
してね!

はやく、
はやく!

あっ
おにいちゃん、
すべった!

むちゃぶりを
ふったあとには、
よいこはちゃんと
ほめてあげるの。

すべったね!
すべったね!
って。

おにいちゃんに、
もっともーっと
むちゃぶりするよ!

なにかして!

すべって!
すべって!

おもしろーい!
たのしい!
おにいちゃんもたのしい?

おとなになったら、
むちゃぶりされるってきいたの!

むちゃぶりされても
くうきをよむ!

わらいをとるんだって!
おとなってすごいね!

すべるのが
すきなんだね?

そらもする!

そらにも
むちゃぶり
ふって!

なんで、
そー
なるの!

きゃははは!

なるの!
なるの!
おもしろーい!

おにいちゃんにふっても
そらにふっても
おもしろい、
ゆかいなこと
むちゃぶり!

みんなだいすき、むちゃぶり。
さくらにもふりたい!
こさめにもふりたい!

みんなすべる?
よくすべる?
どのくらいおもしろい?

つるつる
すべる!
つると
かめと
おにいちゃんが
すべった!

おにいちゃんに、
むちゃぶり!
そらとあそんで。

そらをたかくあげたり、
ベッドにほうりなげたり
おにいちゃんがほうりなげられたり
たかくあげられたりしながら
はしったり
おどったり
わらったりして
あそんで!

そらに、
むちゃぶりをふるよ!
おにいちゃんを
わらわせろ!

こちょこちょこちょ──

おにいちゃん、
すべった?
そらすべった?
だいばくしょう?

おにいちゃん、
わらって、
わらって!
そら、もっとやる!

あいーん!

真璃の偽日記

『寒いったら!』

寒い、
寒い!

こんなに寒くなると
蛍お姉ちゃまに作ってもらった
女王の首巻きでも
女王の腹巻きでも
女王の毛糸のパンツでも
限界があるわ。

何かおかしいと思ったのよ。
これ女王? って気はしていたのよ。

でも、
これがなかったら
危ないところだったのよ。
おもらしして普通のパンツに着替えさせてもらったさくらが
くしゅん!
くしゅん!
幼稚園で遊んでいても聞こえてくるくしゃみに
もう心配で心配で。

おもらしなんてするもんじゃないわね!
さくらのパンツのくまさんも、今日は涙でぬれたように洗濯でびしょびしょ。
おぼうしのくまさんのほうは、雨とさくらの鼻水でびしょびしょよ。
さくらも早く大きくなればいいのに。
どうすれば大きくなるかって?
さくらも、マリーの妹なんだから
結構とんでもない人の生まれ変わりだったりするのかしら。
自分の生まれに目覚めればいいの?
観月は別に特別な生まれじゃなくてもしっかりしてるかな?
ま、そんなこと全然なくてもかわいいさくらだけど。
もうしばらくはマリーが面倒を見ていないといけないわね。
元気に遊んで、おいしいもの食べて、
お兄ちゃんに守ってもらって
すぐに大きくなると思うわ。

それにしても、
寒い日って嫌ね。
でも、フェルゼンが抱きしめて暖めてくれるから
嫌でもないわ。
ねえ?

やっぱり、
女王に必要なものは、
心のこもった献上品もあるけど
そればかりではなく──
いつもそばにいて
困ったときには私が何も言わなくても
さっと進み出てきて
助けてくれる
優しいナイトがいてくれないと。
いつでも──
幼稚園でも──

そうしたら今日だって、
フェルゼン!
さくらのパンツを用意しなさい!
って、格好良く言えたんだけど。
あったかいパンツよ。
蛍お姉ちゃまが心をこめて作ってくれるパンツよ!
フェルゼンがマリーやさくらたちのために
心をこめてたたんでくれたパンツよ!

と言いたいけど
フェルゼンにも都合があるものね。

いつになったら
フェルゼンは私のために永遠の愛を誓って
ずっとそばにいてくれるのか──
いつになったら熱く抱きしめて
離さないでいてくれるのか──
こんなゆううつなお天気の日は
女王も少し物思いに沈んでしまうのよ。

さ、
なぐさめて。

上手にね?
心をこめてね。

寒さを吹き飛ばして、
毛糸のパンツもいらなくなるほど
熱く熱く、
マリーの体を
ぽかぽかにするまで
愛をささやいて。

寒い冬に二人で暖めあいましょう?

たとえ、うまくできなくても
マリーは氷柱お姉ちゃまみたいに
フェルゼンを叱ったりしないわ。
愛の形は人それぞれ。
表現の仕方もいろいろよ。

フェルゼンと二人、様々な愛を語りつくすまで
今度のマリーは、女王をやめるわけにはいかないの。
ずっと、あなただけの女王でいるわ。

夕凪の偽日記

『夕凪の野望』

お兄ちゃん!
冬は
寒いねえ!

今ちょっと冗談っぽく
あつはなついね!
みたいなのを
勢いで仕込もうかなと思ったけど
そんな余裕全然なかったね!
今日の夕凪は普通だね!
普通に寒いね!
冬!

夕凪がもうちょっと強力なマホウ使いだったら
地球を傾けて日本を赤道まで持っていって
一年中暖かい国にするんだけど、
いくらなんでもそこまでのマホウなんて
さすがに大人にならないと使えないと思うんだよね。
大人になったらなったで、他に使いたいマホウたくさんあるし。
寒いくらいしょうがないか!
がまんする!
けなげな夕凪だよね。
お兄ちゃん、褒めたくなったら褒めればいいじゃない?
マホウに向ける気持ちは真っ直ぐだ!
寒さなんか気にしてたら
夕凪の大きな野望のマホウは
いつまでたっても完成しないぞ!

夕凪が大人になったとき、
そこまでして使いたい
マホウはもちろん
お兄ちゃんとケッコンして、
仲良く暮らすマホウ!

おかえりなさい、あなた!
ってやるの。
おやつにする?
マホウにする?
それとも、夕凪の──
宿題を手伝ってくれる?
夕凪の宿題を代わりにやってくれる
かっこいい旦那様!
夕凪はマジカル新婚パワーで
疲れて帰ってきた旦那様の疲れを
ふっとばします!
杖で叩いて癒すよ!
別にマッサージとかじゃなくて、新婚パワー注入で!
だいたいそんな感じの結婚生活。
楽しそうでしょ?

夕凪ねえ、
お兄ちゃんとの子供は
50人くらい欲しい!
うちが20人きょうだいだから
夕凪は対抗してもっと多くなると思うな。
でも、それだと
一番下の子が生まれるころには
上の子は50歳だ!?
おばあちゃんだかお姉ちゃんだかわからないよ!
さすがにそれは大変かなあ。
やっぱり、20人でちょうどいいのかな?
あ、大人になるころには科学が進んで
50歳くらいならまだ若いままかも?
なんだ大丈夫だ。
科学って便利だね。
これでケッコンマホウも安心だ。
じゃあ、もういっそのこと100人にしよう!
多ければ多いほど楽しいに決まってるよ。
少なかったら寂しいって思うし。
子供100人作って暮らそう!
友達1000人になるよ!
一家全員で物置に乗ってぺしゃんこにしちゃおう!
うわぁー楽しみだなあ。
お兄ちゃん、いいよね?
いいなあ、お兄ちゃんの未来はバラ色じゃない?
家に帰ってきたらかわいいマホウ使いの奥様が
パワーをためて待っているし、
100人の子供がお帰りなさいって
一斉に襲ってくるの。
きっとかわいいよ。
夕凪がお兄ちゃんになりたいくらいだよ。
だって、こんなかわいくてマホウの才能がある夕凪がお嫁さんで
夕凪に似た子供たちがいっぱいいるんだもん。
でも、夕凪もかっこいいお兄ちゃんがいて
お兄ちゃんに似た子供がいっぱいいるんだから
夕凪のほうが幸せな気がしてきたよ?
どちらかというと、こっちのほうがいいかも。
やったあー!
お兄ちゃん、いいでしょ!
夕凪なんて、お兄ちゃんのお嫁さんなんだよ!
うらやましい?
かわってあげないよ!

よし、新婚ごっこもう一回。
おかえりなさい!
誓いのチューして
子供を作ろう!

早くケッコンしないと
子供100人には間に合わないよー。

麗の偽日記

『痛くない』

いたたた──

おしりが
痛い──

ううん、
痛くない。

このくらい、なんでもない。
だから気にしないで。

ちゃんと湿布も貼ったし。
湿布特有のにおいがするけど──
誰に文句を言うわけにもいかない。
自分が悪いんだし。

今日の放課後。
帰り道は寒いけど
早く駅にたどり着いて電車に乗れたら
何も気にならないの。
早く、
早く──
駆けて行く心。
自然と急ぐ足。

雪ですべって
水たまりの中へ転んだわ。
傘を放り出して
水しぶきも高く、盛大な尻餅。
まあ、おしりを打ったくらいで怪我もしていない。
泥水の中に転んだけど、服までしみるほどでもなかった。

だけど、本当なら、
寒い日にはそれなりの楽しみがあるのに。
暖房の効いた電車にゆっくり
揺られてみたかったな。
心穏やかに、
どこか少し胸を弾ませて。

こんな寒くて大変な日も
私たちを乗せて、がんばって走っている車両たち。
たとえ私のほうで勝手に
つらいことがあっても、落ち込んでいても──
力強く走るあの姿を見ていたら
泣き言なんて忘れてしまえる。
少しだけでも、私は元気でいられる。

それが、今日は散々だったわ。
いつもは私を歓迎してくれる実直なベルの音。
駅の構内を行き交う車両たちの駆動音。
当たり前みたいに、迎え入れてほしかったのに──
それが、いくら拭いてもまだ泥を端っこに付けたコートで
なんとなく気後れして人ごみに混じっていると、
おしりからじんじん響く痛みがますます責めさいなむようで
情けなくて、悲しくて、
なんだかみじめで。

ううん。
泣いてなんかいない。
鏡を見たって、ほら。
目が赤いのは、おしりを打ったときにびっくりしたから。
私、目が赤くなりやすい体質なの。
初めて言うけど、そうなの。
それだけなの。

おうちに帰ってきて湿布を貼って
姉様たちは、あんまり怪我がひどくなくてよかったねって。
体のどこも悪くしないで済んで。
そんな不注意で車でも来てたらどうするの、
ってかなり怒られたり。
冗談めかして、顔に怪我でもしたらお嫁に行けなくなるかもしれない、
せっかく美人なんだから、って言われたり。
どこにもお嫁になんて行く気はないんだけど。

骨折や捻挫をしなくてよかったとは思う。
怪我がひどいと、きっと家族にも心配をかけてしまうし。
もし入院でもしたら、好きな電車にも乗りにいけないもの。
そうなったら、どうなってしまうか想像もつかないわ。
毎日電車の夢でも見るのかしら?
でも私、いくらなんでもそこまでディープなマニアじゃないか。
まあ、考えても分からないことだし、どっちでもいいわ。

一晩もすれば
こんな打ち身なんて治って、
元気に電車に乗りに行けるはず。
転んだくらいで、めげていられない。
もっと、これからも、
どんな季節でも、
ちょっとくらい体調が悪くたって、全然平気。
好きな電車にいつでも、いっぱい
乗りたい気持ちは果てしないんだから。
いたたた──
このくらい、大丈夫だってば。

天気予報では、晴れだって。
明日は暖かくなるといいな。

さくらの偽日記

『しりとり』

しりとりしよう、
お兄ちゃん!

さくらからはじめるね。
えっと、
えっと、
お、お──
お兄ちゃん!
あっ!

さくら、しりとりよわいの。
すぐお兄ちゃんっていっちゃう。
さくらは、ん、がつくことばが
すきなのかも?

あのね、いつもこんなかんじ。

しりとりの、り!
りんご!
ごはん!
あっ!

ごりら!
らっぱ!
ぱん!
あっ!

ううん、
ほんとうはここまでよわくないけど。
でも、気がついたらまけてるの。
なんでだろ?
みんながつよいのかな?
しりとりにつよい子っていいなとおもいます。

それでね、
ほんでみたけど、
ラブライブのりんちゃんも
しりとりよわいんだって。
すぐ、
うどん! とか
ごはん! とか
いっちゃうんだって、
さくらといっしょ!
うふふ。
りんちゃん、かわいい。

りん♪
りん♪
りん♪

たのしいものは、
ラブライブ。

たのしいものは、
しりとり。

たのしいものは、
お兄ちゃんと
なかよしでいること!

お兄ちゃん♪
お兄ちゃん♪
お兄ちゃん♪

さくら、
パン! って言いそうになったら、
パン、じゃなくて、
パ、パ、
パンツ!
って、
ときどきセーフになることもあるよ!
お兄ちゃんが、
さくらのパンツをだいじにしてくれて、
しまってくれるもの。
お兄ちゃんとおうちのおてつだいをしたり、
いろいろ、
いっぱい、
お兄ちゃんとあそんでるでしょ?
そうすると、
さくら、つよくなるんだよ!

だから、
お兄ちゃんとたべるごはんも、
しりとりにつよくなるように
うどんより、うなぎ!
ごはんより、ごりら!
が、いいとおもいます。

でも、
うどんはおいしいよね?
ときどきなら、たべてもいい?
うなぎよりすきだもの。
しりとりつよくなれないかなあ。

それに、
ごりらは、
ごりらは──

こわい!
さくら、ごりらなんてたべたくないよ!

おねえちゃんたちに言わなくちゃ!
さくら、ごりらたべないって!
お兄ちゃん、
さくらがごりらをたべなくてもいいように
おねがいしてください!
もし、ごりらがでてきたら
お兄ちゃん、さくらのきらいなごりら
たべてくれる?

さくらはしりとりがよわい子です。
お兄ちゃん、さくらがまけそうになったら
こっそりそばにきて、たすけてね。

ヒカルの偽日記

『初心』

こんな寒い日でも、
家に帰ると家族が出迎えてくれて、
チビたちなんかは飛びついてきて、
あっという間に熱くなってしまうほどだ。

ほっとするよ。
私は外にいても、こういうのを思い出して、
もうちょっとやってみるか!
ってなったりして。

でも、たまに──
女の子が多いから、恋の話になって、
そんな時は聞いているだけなんだけど、
お嫁さんになるって話が出ると、
この家は広いけど、みんなの子供の部屋まではない。
いつかは家を出て行く子もいるかもしれない、
って思う。

寂しいことだけど、仕方ないんだし。
そうなったら祝福して、見送ってやりたい。
この家は私が守っていくから、安心していいよ、大丈夫──
そう言ってあげられたらいいな。
私はお嫁にもらってくれる人もなさそうだから。

だけどやっぱり、
いなくなるなんて、寂しくてあんまり考えたくない。
大事な家族だもんな。

オマエはいいよな。
好きな子を嫁に選んで、連れて行っていいんだし。
春風でも、蛍でも、誰でも、
オマエが選べばずっと離れないでいていい。
でも、私はそういうわけにはいかないじゃないか。

どうも私は変なことで悩む時があるみたいだ。
頭の中がぐるぐるして、
すっきりしない感じ。
いつもあることじゃない。
たまにそうなるみたい。

そんなときは、運動して気分を変えたくなる。
頭が空っぽになるまで、
余計なことを何にも考えなくていいように
体を動かして、汗をかいて、
溜まっているものがみんな流れてしまうまで
一心不乱に──

そのうちに見えてくるもの。
そもそも私が運動しているのはどうしてだったかな。
今みたいに悩むよりも前のことで、
こうしている私は、どこから始まったんだろう。
私の最初の気持ちはなんだったのか。
私を動かし始めたものは何なのか。

そうするとたいてい、
まだ小さかった頃の私と、
大きくなりながらいろいろあった私と、
ずっと近くにいた家族の姿が浮かんでくる。
昔、いろんなことをしたよな、って。
どれかひとつが小さなきっかけだったって思い出すときもあるし、
もうちょっとごちゃごちゃした長い期間も。
それは私が忘れていたような子供の頃の思い出だったり、
ほんのついこの間の、何気なく続いている生活だったりする。

私が戻っていく場所。
どこかに出て行く始まりになって、
いつも心のどこかで思っていて、
またいつか戻ろうとしている
そういう始まりが、
家族たちと過ごしながら、もらっている何かなんだろうって考える。

ああ、
家に帰ったときのほっとする感じが
また大事に思えて
あれでいいのかな、
と、ときどきそんな答えが出たり。

また迷ったり。

そんなことを繰り返している。
だからたぶん、
いつか、私以外の全員が出て行ってしまって
もしもこの家に
私しかいなくなっても、
変わらないことなんだろう。

何かに迷ったら、
この家でみんなと過ごした時間に
いつも戻ってくると思う。
それを思い出せるこの家にも、何度も戻ってくると思う。
そして、またここに戻ってくる予感を胸に
そのときの私も外に出て行くんだろうな、と思う。

そんなことを考えると寂しいし、
悩むことはわりとあるとしても、
答えが出るときは、同じだったりもする。

子供の頃から家族と過ごして、
オマエがやってきて、それからずっと一緒に住んでいる
この生活が私のはじまり。

迷ったときには、
そうやって初心を思い出すんだ。

オマエが迷ったときの参考になるかな?
それとも、もっといい考えがあったら教えてよ。
私は、頭を使うのがあんまり得意なほうじゃない。
あんまりいい方法が浮かばないのかもしれないし。
いや、オマエが迷わないようなしっかりしたやつだったら
余計なお世話だな。
あんまり悩むことがない脳天気なやつにも見えるけど、
まあそれはそれでいいか。

だけど、
このごろは寂しいことを考えると、
なぜか、オマエだけはずっと近くにいて
今と同じように一緒に、私が戻る場所を守っているような
不思議な予感がある。

オマエが結婚して家庭を持ったところへ
遠慮なく転がり込むような無神経な自分ってことなのかな?
まあ、オマエなら笑って迎えてくれそうな気がするし、
春風も蛍もあんまり気にしないだろう。

ま、そんな先のことはいいか。
昨日も今日も天気が悪くて、
チビたちは元気がありあまってる。
明日は泥まみれにならないように、
しっかり見張っておかないと。
早く学校から帰って来たほうが良さそうだ。
どうやら寒さが続くかもしれないって話だし。
オマエも、あいつらが無茶をしないように見ていてくれよ。

まだまだ、やることがいっぱいで
迷ってる暇なんてなさそうだな。

星花の偽日記

『お外』

雪がなくても、
急に走り出したら
いけません。

雨が続いたせいで
力が有り余っているのが
小さい子たちばかりじゃなくたって
いけません。

道路の向こうに
お兄ちゃんが見えても
ダメ!
気をつけて。

右を見て、
左を見て、
もう一回右を見て、

横断歩道を渡ったら、
前を見て、
脇目もふらず
まっすぐに飛び込んでも、
もう大丈夫。
あっ、いきなりで驚かせないように声はかけます。

お兄ちゃん、
ただいま!

今日も寒い日でしたね。
日が暮れるまで遊んでいると、風が冷たくて
星花の耳は劉備様みたいに大きくないけど、
ますます縮こまって、うー寒いって言ってるみたい。
鼻の先まで痛いくらいです。
こんな帰り道に急ぎ足になるのは、
早くおうちで暖かくしたいっていうだけじゃなくて、
風の中でもいっぱい遊んできて、
お兄ちゃんに聞いてもらいたい話がたくさんあるから!
危ないから、走ったりはしないけど、うきうきして早足です。

なかなかお見せする機会はないのですけど、
星花はダッシュが得意みたい。
カンフーで鍛えられているのかな。
瞬発力がありますよ。
スタミナもあって、スピードもあって、
足りないのは、知恵だけです!
学校の勉強じゃなくて、
わりと動きがまっすぐだから、搦め手に弱いんです。
サッカーの相手に軍師がいなくて良かった!

小学生の女の子が
好きなものは、

恋の話。
ドッジボール。
いろおに。
サッカー。
花いちもんめ。

普段は大人しい子たちだって、
先生がおっしゃるので、
寒い季節は体を動かしてあったまろう!
と、冷たい風も気にせず、
というより寒さに負けないようにいつもより元気よく!
もうむちゃくちゃに走り回って
ボールをまわして
大声をあげて
校庭せましと駆け回ります。

お兄ちゃん、
星花のふわふわセーターは
カバンに詰め込んでしまったけど、
走って熱くなったほかほかの暖かさを
お届けします!
寒い日には、ちょうどよくないですか?
ちょっと、のしかかるみたいになってしまうけど
星花は冬場でもそんなに体重が増加しないほうだと思います。
どうでしょうか。

お兄ちゃんは、
いろおにがあんまり強くなさそうな
格好ですね。
そんな時は、星花にお任せください!
どうも、うちの小学校のいろおにでは伝統的に
ピンクといえば
天使家!
みたいなイメージがあるようで、
ピンクの掛け声がひとことあがると
周囲から密集してくる女の子たち。
星花はうちの家族にしてはあんまりピンクは身に着けないので、
そんな時は全員、一網打尽です。
ごめんなさいってにこにこ真っ赤。
もうーってみんなにこにこ真っ赤。
あ、星花は赤に強いですよ!
覚えておくと、お兄ちゃんも
いろおにのとき得をするかもしれません。
赤い髪留め、
赤いブラウス、
白いズボンに白い靴、
そしてほっぺの真っ赤が集まると
星花です!

今日は帰ってから、ビーフシチューのお手伝いをするの。
朝出かけるとき、春風お姉ちゃんがそういう予定だって言ってました。
急がなくても夕凪ちゃんにお肉をどんどんとられる心配がないから
ゆっくり温かいシチューをふーふー、
おなかでもゆったり気持ちでも味わえますね。
あったまろうね、お兄ちゃん。

立夏の偽日記

『ハッピー』

最近どう?
オニーチャン、
ハッピーにしてる?

リカはいつだってハッピーだから、
オニーチャンにおすそわけしたくなっちゃう。

はい、こっちこっち。
何をされちゃうと思う?

まずは、幸せになれるか手相占いから、かな?
はい、手を貸してちょうだい。
うーん、おっきい手だ。
手のひらも指もつめもビッグサイズ。
あら、あったかい。
手が冷たい人は心が暖かいっていうの、
オニーチャンには当てはまらないんだねえ。
こんなに優しいのに。
リカのその場のノリにも、ちゃーんと付き合ってくれるし。
じゃ、せっかく期待してもらってるんだから
ノリじゃなくて少しまじめに答えましょう!
ここにある、長くて太い線。
どっしり堂々、途中で切れたりしていないやつ。
これが幸せになる線。
だって、オニーチャンはリカといられて
すごくハッピーじゃん。
幸せになる線が一番太いに決まってるよ。
実はよくわからないけど、絶対そうだって。
まあ見れば分かるカナ、と思って手にとってみたけど、
自然に触れ合う肌と肌──
手を握っちゃってリカはドキドキ、
どうしよう、これってステディ?
一歩一歩、
大人の階段のぼってる!
次はオニーチャン、いったい何されちゃうだろうね?

はい次。
幸せになる心理テストするネ。
目を閉じて。
大丈夫、チューなんてしないから。
あ、して欲しかったら言ってネ。
はい目を閉じて。
今から言うことを想像してください。
いいですか?
あなたの目の前に、一匹の動物がいます。
それはどんな動物で、どのくらいの大きさ?
あなたの前で何をしようとしているでしょう?
どう?
浮かんできた?
この質問は──
オニーチャンがいったい
リカのことをどう思っているかが分かります。
そのまんまのテストだね!
知らないでテキトー言ってるだけだもんね。
もしもオニーチャンが、
襲い掛かってくる凶暴なライオンの姿を想像したら
それが正解です!
そういうテストじゃないか。

最後のテストね。
さあさあ、目を閉じて。
疑ってなんかいないで、
ここまで来たら最後まで付き合うのが男ってもんでしょ!
さあ想像してみてください。
今、あなたの目の前には
かわいい妹の立夏ちゃんがいます。
あなたは立夏ちゃんと一緒に生活して、
ごはんもおやつも同じ空間を過ごし、
おはようもおやすみも毎日欠かさず、
おかしいときには同じように笑い、
困ったときには同じように悩み、
病めるときも健やかなるときも
死が二人を分かつまで
決して離れることのない
強い愛で結ばれています。
そして、二人のまわりには優しい家族たちがいて、
みんなで愛し合い、
お互いを思い、
ずっと一緒にいたいと願って、
仲良く、
いつでも幸せに暮らしています。
つらいことがあっても、
どんなトラブルがあっても、
何気ない一日も、
当たり前の日常も、
いつでも頼ってもらえるように手を伸ばして
みんなで助け合い、
大好きな人をいつも思いながら毎日を過ごして、
その人がそばにいる幸せを感じ、
顔を合わせて、言葉を交わし、
こんな日々がひとときも途切れることなく続くようにと願っています。

さて、そんなふうに
一緒に楽しく過ごしているリカのことを
あなたはどんなふうに思っているのでしょうか?
リカはね、
オニーチャンといられて
すっごい楽しくて
めっちゃハイテンションで、
ちょー嬉しくて、
なんていうか、
スキ、
スキだよ、
一緒にいてね!
って、いう答えが出ました。
リカが質問してたのに変だね?
だって自分で言いながら想像してたんだもん。
いっつもこんなふうに過ごしてるね、ってこと。
リカ、幸せだよ。
これからもずーっとずーっと、
二人でハッピーでいようね。
家族みんなで幸せになろうね。
オニーチャンに何かあったらリカがすぐすっ飛んで行くし、
リカがしょんぼりしてたらどうしたのって聞いてね。

リカがハッピーなのは、
オニーチャンがいるからなの。
オニーチャンがハッピーだとしたら、
それはたぶん、
リカがいつも幸せをあげたいからなんだよ。

今度はちゃんとした幸せ占いができるように、
フォーチュンクッキー作っておくね。
中身が全部大吉のやつ。
中に書いてある運勢はそれぞれ違っていて、
これを食べたら、立夏ちゃんがハグしてくれそう。
こっちを食べたら、立夏ちゃんがチューしてくれるかも。
こっちは、立夏ちゃんの大事なものをもらえます。
おやつを分けてもらえる?
手作りのお料理かな?
それとも、もっといいものかな?
でね、全部のおみくじに書いてある
これから必ず起こる確かなことは、
あなたは立夏ちゃんに
いつまでも愛されて、
これからずっと付きまとわれるでしょう。
覚悟してね!
チャオ!

青空の偽日記

『ひっさつ』

そら、
やりたい!

のうてん
からたけわり!

おにいちゃんが
そらをりょうてでかかえて
たかいたかーい
かわいいかわいい
してくれたら、

うれしくなって
ちゃんすをねらって
てをのばし
いちげき
する!

のうてんは、
あたまのこと。

わり、は──
わり!

からたけは、
からたけ──
からたけさん?
っていう、ひと?
がんばれ! からたけさん!
そらもがんばる!

おねえちゃんたちは、
そんなことしたらいけませんっておこるの。
あたまがわれちゃうでしょ!
だいじなところでしょ!
そら、いいこだから
だいじなあたま、わらないよ。

だけどおにいちゃんは
たくましいから、
われないよね?
みんないうよ。
おにいちゃんは
たくましい!
おうじさまは
たくましい!
げぼくのとりえは
がんじょうなところだけ!
やりたい!
のうてんからたけわり!

おにいちゃんなら
だいじょうぶ?

そら、あこがれる!
のうてんをたたきわるひと、
わり!
わりまん!

わりまんのてんてき。
いくらいどんでも
たたきわれない
えいえんのらいばる。
あいつのなまえは
とうきょうすかいつりー。

いつかはあいつを
たたきわる!
ちょうじょうにいっぱつ!
あたまにいっぱつ!
そのひをゆめみて、
わりに、
わる。

そら、まだわるのとくいじゃないから
れんしゅうするよ。

そらちゃん!
おてつだいしてね。
たまごをわってください。

はーい!

ぱかん。

そら、
じょうずにわれるよ。
ほかにわる?
なにをわる?

すかいつりー?
そら、すかいつりーすき!
のぼりたい!
だから、わらない。

おにいちゃん、すき!
われないおにいちゃん、すき!
そらがやっても、われないから
いいでしょ?
わり。

ゆめの、
のうてんからたけわり。

はくりょくの
のうてんからたけわり。

おにいちゃん、
やっていい?
だめ?
だめなら、
いうこときく!
そら、いいこだもん!

まんじがためならいい?

そら、まんじがためで
おてつだいする!
かためるわざ。
なにをかためる?

氷柱の偽日記

『眠れる森の──』

お姫様は、
王子様のキスで
目を覚まして──

ふたりは結婚して、
いつまでも幸せに暮らしたそうです。

ふん。
いったいどこの誰が考えたのかしらね。
こんなリアリティのない話。

小さい子たちに読んで聞かせたとき、
どうしてキスすると
目が覚めるの?
って聞かれる立場にもなってよね!

だいたい、何?
愛の力で試練を乗り越えて、
ハッピーエンド?

他の話だってそうだけど、
意地悪な姉の目を抉り出すとか、
焼けた鉄板の上で死ぬまで躍らせるとか、
そんなことが平気でできる連中が、
ずっと幸せでした?

そんなわけ、
あるか!

ていうか、
王様とお姫様が
そんな感じで幸せに暮らしていたら
こっちが困るわよ!

暴力的な内容の話も多いし。
それに、王子様と結婚したからって
幸せが約束されたりするものですか。

大変なのは毎日のことなんだし。
苦労しないで生きていけるわけないじゃない。

ひとつ試練を乗り越えたから
あとはもう神様に祝福されて
安楽に暮らせるなんて。
あるわけない。
悪いこともせずまじめに生きてきた人が
悲しい思いをすることなんて
世の中にはたくさんあるのに!

しかも試練の乗り越え方が、
ただの偶然だし。
召使が転んで毒りんごが飛び出しましたとか、
それは愛の力っていうか、
死んだと思い込むほうがおかしいでしょうが!
魔法使いが死なない祝福をしてくれました?
そうじゃなくて、魔法を使うなら他にできるでしょう!
王子様が来てくれる運命って言われても、
そんなものあるわけないって納得いかないし。

子供に細かく聞かれたときに、
どう答えることを想定していたんだろう?
ツッコミどころばっかりで。

もっと、知恵や努力で乗り越えるみたいな、
ためになる話はないのかしら。
あ、長靴を履いた猫があったか。
あれもなんかね。
知恵のおかげっていうか、詐欺師みたいだし。
ブレーメンの音楽隊も、
知恵を使ってるし努力もしているけど、
結局ブレーメンまで行ってないし。
乗っ取った家に住み着いて終わりだし。
教訓とか考えなかったのかな、あの話。
知恵を使って、もっと困難を乗り越えるような、ほら。
え、三国志?
子供には早いんじゃないの。
それに、乱暴だし。
星花ちゃんみたいなまじめな子が、あんなに好きになるなんて不思議。
大きくなったら、趣味も女の子らしくなっていくんじゃない?
なるべくそうなってほしい、ってほどでもないけど。
少女趣味なのは私も苦手だし。

なんかもっとないの?
小さい子のためになるような、
純粋な心に希望を与えるような。
王子様のキスなんかいりません!
っていうの。

大事なことは王子様を待つことじゃなくて、
もちろん金銀財宝でもなくて、
使えもしない魔法なんかに希望をかけたりじゃなくて、
知恵で思い通りにすることじゃなくて、
悪者をこらしめてよかったねでもなくて──

ないの?
教訓になる話。
何か、そういう話でも作る?
あなたの脳じゃ到底無理か。
ま、下僕はやれることをやるようにね。
やれることなんてたいしてないだろうけど。
でもほら、
絵本の細かいところにこだわる子達に
何かそれなりの答えを教えるとか、
他の話をして気をそらすとか、
それくらいならできるわよね。
無力な下僕でも。

もちろんあんたは王子様じゃない、
ただの下僕。
春風姉様がなんて言おうとね。
キスに魔法の力なんてない。
そもそも誰もあんたなんかとキスしたくない。
よかったわね。
今が、王子様の時代じゃなくて。
でなかったらあなたなんて、どうなっていたか。

いろいろ大変なことの多い世の中。
王子様くらいじゃ解決できないわ。
だから、日ごろからがんばってる私を見て、
神様は下僕を与えてくれたのね。
こんなのでも私が使えば、それなりに役に立つかもしれないもの。
あなたも、私みたいなご主人様の
ただひとりの下僕になれたことをありがたく思いなさい。

自分に与えられた役目が分かったら、
きりきり働くこと。
下僕が苦労するのは、当たり前なんだから。
いつまでも幸せに暮らしていける保証なんて
王子様にもお姫様にもないし、
もちろん私たちにもない。
それでも、しっかりまじめに下僕として勤め上げたなら
私たちがずっと幸せじゃなかったとしても、
死んだ後で同じお墓に眠るくらいは
許してあげるかもしれないわ。

少なくとも、20人が眠るお墓か。
死んだ後もゆっくりできそうにないわね。
出来の悪い下僕もいることだし。

春風の偽日記

『お弁当』

うれしい、
おいしい、
そんな、かわいいお弁当。

秘密は、
彩り。
も、そのひとつ。

おいしそうにお弁当箱に並べて、
愛情も詰め込んで。
食べる人の気持ちになって、
全体のバランスを見ながら。

栄養を気にして作っているから、
楽しく全部食べられるように
したいですよね。

緑色が入ると、見た目が引き締まるし
栄養面でも心強いものです。
赤色は、少し入っただけで
全体が明るくなるみたい。
黄色だって入れなくちゃ。
卵のおかずの他にも、
じゃがいも、さつまいも、
カレー味に炒めた野菜。

お弁当のおかずは、
塩分を入れて痛みにくいように、
ついつい味付けの濃いものが多めになってしまうけど、
それだと、茶色のおかずが中心になるの。

お弁当箱を開けたときの、
わあ!
いただきます!
っていう
楽しみがなかったら、
少し物足りないですものね。
せっかく、大好きな人が作ってくれるお弁当
だものね?
お弁当をもらって嬉しくなりたいじゃないですか?
王子様はどうですか?

一緒にいられないけれど、
あなたのことを思っています。
お友達と楽しくご飯を食べられるなら、
私はちょっと寂しいけれど、
でも、
このお弁当なら、いつも私たちと食べているおいしい食事を
思い出してもらえるんじゃないかな。
どうか、あなたがとっても幸せな顔になって
お弁当を食べられますように。

食べてもらうときの顔を想像しながら
お弁当は作るもの、
って時々聞きますよね。
本当は、作る人の顔も
食べるときに想像するのかも。
それは顔ではなくて、
お弁当に込めようとした気持ちなのかも。

毎日作るものだから、
そう手の込んだおかずばかりにはできません。
いつもみんなの大好きなものを入れるわけにもいかない。
これなら喜んでもらえるかな?
こんなものになってしまってもいいのかな?
お弁当のふたを開けたときに、笑顔になってもらえるのか。
残さないで食べてもらえるのか。
いつも迷いながら。

春風がときどき、
やめようかなあ──
という気持ちになると言ったら、
王子様は春風のことを情けないと思うでしょうか。
小さい頃から臆病な春風でした。
いつも家族のみんなを喜ばせたい。
お料理が得意なんだから、続けたい。
だけど、いつもみんなの期待に応えられるとは限らなくて、
うちの家族なら、もっと立派に仕事を果たせる子が
いるのではないかしら。

やめるつもりなんて、本当はないのにね。
春風はいつでも、
家族のみんなに愛を届けたくて
胸の奥から溢れるものが止まらなくて
どうしても、止められなくて──
それでもなぜか、弱気になるときがあるんです。
妹たちがとっても優しくて元気でかわいくて、
いつもお弁当を残さず食べてくれて、
おいしかったって言ってくれて、
こんなにいとしい家族に囲まれて幸せだっていうのに。

春風なら、
いつでもお弁当作りは完璧!
なんて言い切れないから
時々とまどうの。
私がいなくてもいいのではないかしら?
私がいないほうが、もっとうまくやれるのではないかしら。

幸せなお弁当作り。
ありがとうの言葉。
おいしそうに食べてくれる笑顔。
春風のお弁当を受け取ってくれる朝の時間。
そういう素直で嬉しいもの──

そしてたぶん
春風が他にも欲しいものは、
迷ったときに
これでいいんだ!
こんなに大事なことが他にない
って思い込める、
私の中にある単純で
ドキドキする嬉しいもの、
永遠に変わらない
確かなもの。
それを与えてくれる人と
すぐ近くにいられて、
視線を交わし、
言葉を重ね、
触れ合っていく
こんな生活なのかな。
そうだといいな。
ね、王子様。

おかずの彩りは
バランス良くしたいのだけど、
赤いおかずはにんじん、ミニトマト、梅干し。
小さい子が苦手なものも多いんです。
桜でんぶはどうかな、かわいくていいと思いませんか?
でも、お弁当の本には、
幼稚園児のお弁当だからといってかわいくしすぎなくてもいい、
実際に親が食べてみておいしいと思えるもので、
実質的な内容を。
と書いてあるし、そうかなとも思うけど。
とは言っても、春風の好みも王子様の好みも少しづつ違うし、
小さい子達の好みもいろいろ。
頭を悩ませるところです。
って、春風と王子様は親じゃないか。
少し気が早かったですね。

王子様はお弁当に何を入れて欲しいですか?
ついつい王子様の好きなものばかりを
お弁当に入れたくなるの。
春風は、実は悪い子だったんです。
叱ってください、王子様。

観月の偽日記

『あさひはよい子』

おお、よしよし。

あさひはかわゆい子じゃ。

ユキ姉じゃは
青空の子守をするのが得意であろう?
わらわも、妹の面倒を見なければいかん、
と思うてな。
よしよし。
怖いものが来たらわらわが追い払うぞ。
キュウビも手伝ってくれるぞ。
わらわでもキュウビでもどうにもならなかったら、
まあ、そういうこともあるかの。
おばけはいろいろいるものな。
あさひも早く大きくなって、いざとなったら自分で何とかせねばの。
よく食べてよく寝て、大きくなるのじゃ。
言わなくてもミルクをよく飲むのう。
うーむ、このままでは、
だいだらぼっちになってしまうかもしれぬ。
なんとも楽しみじゃ!
おや、どうした。
泣いてはいかん。
そんなに泣いたら兄じゃを困らせるぞ。
大丈夫じゃ、怖いものはそんなにたくさんはいないから安心せい。
あさひもそう簡単に怖いものにはなるまい。わらわがついておる。
よし、子守唄を歌ってやろう。

この子泣いたら俵に入れて、
土佐の清水へおくります。
土佐の清水は海より深い、
底は油で煮え殺す。

気に入らぬか?
誰だって殺されたくはないか。
いい子にしていれば守ってやるからな。
守れるものならな。
なーに、あさひには頼れる兄じゃもいることだし
意外となんとかなるであろう。
兄じゃでもなんともならなかったら、
まあ、運命とはそういうものじゃ。
よくあることじゃからの。
わらわと兄じゃがふんばって、あさひを逃がすくらいならできるか。
一人で逃げられるように、早く大きくならねばの。
兄じゃは家族を守れるように、わらわと修行を積まねばならぬ。
まだ泣いておるな。不安なのであろうか?
そんなにオーラの色を悪くしていたら、すぐ食べられてしまうぞ。
別の子守唄を歌ってやろう。

でんでん、ごろばし、ごうろごろ、
マキリコ、とげたが、とげだがよ、
娘いたが、
マキリ持った雪女、
よろたの肉とりね来た。

ますます泣いてしもうた。
すまぬの、わらわではいまひとつ青森の雰囲気が出ぬ。
あの女に教わったのもだいぶ前の冬。
あれほど雪が深くなければ、今時はこのあたりにも来ているであろうに
今年は妖怪がうろつくのもおっくうになる寒さじゃ。
歌い方の問題ではないか。
ああいうものどもに、あさひの世話を任せられぬ。
こんなにまるまるしていると、ぱっくりいかれるぞ。
よく育っておいしそうな頃合じゃ。
まあ、野蛮な鬼はたくさんいるものとはいえ
たいていは偉い神様や修行者が封じておるから怖くないぞ。
なかなか封じられぬ鬼がいたら、
とりあえずわらわもやるだけのことはやるとしよう。
あさひにも身を守る手段くらいは教えておかねば。
神社に行ったら見るべきものを見るようにすれば、
初詣のときにも願いを聞いてもらいやすくなるかも知れぬ。
わらわの願いはよく叶っておるぞ。
兄じゃがいつも遊んでくれるのじゃ。
早くあさひにもいろいろ仕込みたいのう。
ぐんぐん大きくなるのじゃぞ。
少し落ち着いてきたか? まだか?
もっと子守唄を歌ってやろう。
おや、兄じゃも怖い子守唄は嫌か?
今度は普通のものじゃ。

ねんねんころりよ おころりよ
坊やはよい子だ ねんねしな
ねんねのお守りは どこへ行た
あの山越えて 里へ行た
里のみやげに 何もろた
でんでん太鼓に 笙の笛
起き上がり小法師に ふり鼓
たたいて聞かすに ねんねしな

おや、おや。
これは大変じゃ。
あさひときたら、
安心しすぎたのか、お漏らしをしてもうた。
おむつの取替えは兄じゃに任せよう。
もうずいぶん慣れておるであろう?
兄じゃのほうがしっかりしておる。
なにしろ、わらわはまだ5歳。
何事に慣れるにも、少々時間が必要なのじゃ。
ちっちゃなキュウビも、まだこれから育つ。
子供は遊びながら学んでゆくものだが、学ぶことは急いでもどうにもならぬ。
あさひは遊び道具ではない。
遊び相手じゃ。
わらわは、まだお世話も遊びもなかなかできぬが
あさひが大きくなっていくにつれて
いろいろな遊びを教えてやることはできる。
どれ、今度はまた違う趣味の子守唄でも聞かせてやろう。

あさひはよい子じゃ、
かわゆい子。
あさひの家族は幸せじゃ、
姉は優しく数多く、
兄は大きくたくましく、
おまえがいるから喜んで、
おまえと遊ぶと楽しくて、
みんな、みんな、
おまえの成長を待っている。
お前と歌い、お前と眠り、
まもなく話もできるであろう。
もう少し大きくなったら、
手を繋いで幼稚園に連れて行ってやろう。
もう少し大きくなったら、
学校で面白いお勉強をするそうじゃ。
わらわが先に行って、様子を見ておいてやろう。
大きくなれば、
ごはんは見上げるほどのおやまごはんじゃ。
チョコカツカレーもいくらでも食べられる。
さらにどんどん大きくなったら、
下着も選んでやれる、
恋の相談にも乗ってやれる、
姉はいつでも頼りになる、
兄はいつでもおまえを見守る、
おまえもいつでも兄じゃを追いかけ、
いずれ運命が二人を結ぶであろうか。
何が起ころうと、
家族の絆は
どんな妖怪が襲ってこようと、なくなりはせぬ。

早く大きくなれ、
よい子のあさひ。
たくさん遊びを覚えて、待っているぞ。
でも、ゆっくり大きくなっておくれ。
まだまだあさひには、兄じゃは渡せぬ。
わらわは遊び足りぬのじゃ。

外から帰ってきた姉じゃたちはときどき、
手を洗った後で
冷えた手をあさひのほほに当てて暖めようとする。
やわらかそうであるし、触りたくなるのもわかる。
確かに暖かいのではあるが、
あさひがびっくりして目をまん丸にするぞ。
雪女でも来たかと思って、またおもらしするかもしれぬ。
それよりは、わらわと遊んではどうであろう。
手を暖めるには、せっせっせの歌がちょうどいい。
兄じゃも、あさひをあんまりびっくりさせたりせぬように。
あさひは遊び道具ではない、わらわたちのかわゆい妹じゃ。
守ってやらねばの。
それに、育ってからはわらわの遊び仲間じゃ。
あさひをおもちゃにしている場合ではないぞ。
あさひが知らないところへたくさん連れて行ってやらねば。
まあ、その頃にはわらわも少しは力がついているであろう。
きっと、どこへ連れ出しても大丈夫じゃ。
今でもあさひの世話をしたいものだし、
あさひと遊んでやりたいが、
まだまだ、兄じゃのおむつ替えの手際にはかなわぬ。
わらわもこれからどんどん大きくならねばならぬようじゃ。
あさひに負けぬよう、よく食べてよく子守唄を聞かせてもらい、
よく遊んでもらおうとしておる
まだまだ小さい
かわゆいよい子の観月じゃ。
兄じゃよ、わらわを早く大きくしておくれ。

吹雪の偽日記

『パラドックス』

床屋のパラドックスについて考えています。

このパラドックスは
簡単に言えば──
いえ、簡単に言わなければ
集合論が苦手なうちの家族には理解しづらいのですが、
キミなら大丈夫でしょうか?
しかし、一定の基準に従っているほうが
行動は複雑になりすぎず、便利ですので、
私の家族にはまず簡単に言うことから試みることにします。

ある村にたった一人だけ床屋がいます。
この村では、自分のひげを剃らないものとします。
では、床屋のひげは誰が剃るのでしょう?

少し簡単にしすぎて、
これは正確な説明ではありません。
ともかく、誰かが床屋のひげを剃るほうが望ましいはずです。
伸ばしっぱなしでは、自身も、一緒に生活する人も、かなり違和感があるのでは。
剃らずに切るとすれば、やや見た目が野生的になりすぎるでしょう。
もしキミがそんなことになれば、海晴姉や小雨姉やさくらが困惑すると思います。
いえ、家族がそれでいいのならば、どうしてもとは言いませんが。
私としては、清潔さの観点から、剃るほうが有利であると提案します。
しかし、先ほどの仮定では、自分のひげを剃らないことになっています。
床屋は自分のほかにいませんし、今のところは新しい床屋も現れないようです。
さて、床屋のひげはどうすべきか?

パラドックスを回避する方法としては、
床屋は女性であった、
とするといいそうです。
何の矛盾もない、正しい説明ですね。
美しい論理です。
しかし、キミは女性ではないのでひげは伸びます。
ひげが伸びないように外科手術をするという奥の手もあります。
普通に抜いてもかまいません。
もともとの床屋のパラドックスは、もう少し文章が厳密なので
そういった逃げ道はありません。
女性説も、厳密な場合は逃げ道としては許されていません。
ただ、私が考えているのはもう少し別のことで、
パラドックスを回避する方法ではありません。
キミは現時点で床屋ではなく、
自分のひげを剃らない村の人間ではない。
それなのになぜ床屋と重ね合わせたのか、それは理由があります。

自分のひげを剃らない村とは何か?
過去にひげに関する問題が発生した?
それに類する言い伝えがある?
このパラドックスはもともと、集合論におけるラッセルのパラドックスを
別の視点から説明しようとしたものです。
つまり、このような習慣がある村の存在を前提としていません。
そこは説明不足なので、いくら考えても答えは出ません。
それなのに考えてしまう理由は、
自分自身のひげを剃ることを許されない床屋が、
別の姿に見えてしまったからです。
すなわち、
自分以外の何者からも愛を与えられない者は、
誰から愛を受ければよいのか?
恐ろしい話です。
この場合、いわゆる神の愛は別の話です。
ここで言う愛情は、人間から与えられるものです。
そして、自分では自分に与えられないものです。
床屋には、ひげを剃ってくれる相手がいない。
私はひげが伸びないため、近い男性であるキミの立場になってみましたが、
私を愛してくれる家族がいない想定です。
実に恐ろしいことです。

ヘンペルのカラスについて考えています。
カラスは黒い、という命題を証明するには、
その対偶を証明すればよい。
黒くないものはカラスではない──
これは、黒くないものを全て調べて、
その中にカラスが含まれていなければ成り立ちます。
つまり、カラスを一羽も調べなくても、カラスが黒いことを証明できる。
対偶論法の危うさを指摘する意図で提出された問題です。
世界中を調べることは、現実的ではないのです。
ある程度の範囲内であれば、この説明は無理なく成り立つのですが。
しかし、考えると疑問も生まれます。
私は、キミ以外を全て調べたとき、
キミの愛が実在することを確信できるのでしょうか?
一度も触れあうことなしに?
理論上では、そういうことになります。
愛とは、理論と別に成り立つものなのでしょうか?
だとすると、私が理論的に愛を理解しようとする試みは、
例外なく失敗すると確定しています。
だとしたら、私はなぜ試行をやめないのか?

もともと最初の生命が誕生したとき、
それはたったひとつきりだったはずです。
最初の生物はなぜ、増殖を試みたのか?
化学反応がもたらした、ただの偶然だったとする説もあります。
やがて、種族保存のために活用するようになった電気的刺激が
愛である、と考えられます。
愛はどの段階で発生したのか?
いえ、愛は本当に種族保存のためだけにあるものなのか?
それだけでは説明できないことがあります。
私であろうと、家族であろうと、
キミの子を残すなら、遺伝子はあまり変わりがないのに
どうして私の中に、独占しようとする感情が生まれるのか?

アキレスと亀のパラドックスについて考えています。
私が答えを出す前に疑問は次々とあらわれ、
永久に追いつけないように見えます。
亀が作り出した無限分割の世界にとらわれ、
私は永久に抜け出すことができないのでは──
そんな感覚にとらわれます。
この場合、亀の速度が明らかに早いことが原因なので、
パラドックスではありません。
一つでも答えが出せたら、私は満足できるのでしょうか?
全ての解を求める無謀な挑戦を続けるのかもしれません。
でも、もしもどれかひとつだけを求めるのだとしたら、
私が解き明かそうとしている問題は、果たしてどれなのか?
亀の背中は遠く、
私の歩みは遅い。
むしろ、私はアキレスに追いつこうとしている亀なのです。
より正確な例えをすれば、うさぎを追いかける亀ですね。
ただし、このうさぎは居眠りをしません。

これから私がどのような道をたどるにしても、
興味を持っているのはキミのことです。
私が力尽きるまでに、どれだけ解き明かせるのか。
キミは私を置いて先に行ってしまううさぎですか?
それとも、疑問を共に追いかけてくれる関係と考えてもいいのですか?
私がキミを研究したいこの気持ちを愛だとして、
キミが私に与えてくれる何かは、同じ愛だと理論的に説明できるのでしょうか?
いえ、同じ愛でなかったとしても、
それが私の求めているものであるかもしれない。
村の誰からもひげを剃ってもらえない床屋は、
ひげを剃ってもらえず、別のものを得るのかもしれない。
求めるものはパラドックスの解消ではないとして、では何なのか──
私が愛するように、キミから愛してもらえなかったとしても、
私はキミから愛を受け取っていることは確かです。

自分でも理解できない考え方ですが、
キミと一緒に探索を続けられるのならば
何ひとつ答えが出なくてもかまわない、という気持ちになるときがあります。

綿雪の偽日記

『お兄ちゃんインタビュー』

今日はとっても
風が強い日でした。

家の中にいても、
びゅうびゅう、ごうごう──
激しい音が鳴り続いていました。
強い風って体が冷えてしまうだけじゃなくて
とっても怖いものなんですね。
あんまり大きな音だから、
みんなでお部屋の中にいても、
誰かがびっくりして声をあげるの。
氷柱お姉ちゃんは、そんなに怖がらなくていいって言いながら、
自分でもときどきびっくりしていたんです。
ユキたちが怖いときは氷柱お姉ちゃんがいてくれるけれど、
氷柱お姉ちゃんが怖いときに、頼りになるお兄ちゃんがいればよかったね。

せっかくの日曜日だったのに、
小さい子たちは外に出られなくて、ちょっと残念そう。
この風を体で体験してみたい、って
完全防備で寒さに備えて出て行った
立夏お姉ちゃんと夕凪お姉ちゃん。
あっという間に氷柱お姉ちゃんに見つかって、
ものすごく怒られて、連れ戻されてしまいました。
戻ってきたとき、あの元気な二人がすっかり無抵抗。
よっぽど怖い思いをしたのね。
強い風だったもの。
その様子を見て、他の子たちもあきらめたみたい。
青空ちゃんはそれでも外に出て行きたがったけど、
だめだめ!
青空ちゃんはまだ小さいから、それはだめよ!
吹き飛ばされちゃうよ!
ばいばいきーんって言いながら飛んで行っちゃうよ!
そうしたら大変よ、どこに行っちゃうのかわからないよ?
青空ちゃんが帰ってくる家はここなのよ。
ばいきん星じゃないんだよ。
青空ちゃんはばいきんまんじゃないんだから。
飛んで行ったら、帰り道が分からなくなっちゃう。
また晴れた日はお外で遊んであげるから、
今日はおうちの中で大人しくしていようね。
青空ちゃんは、うんわかったっていいお返事ができるんだけど、
すぐ外の様子が気になって、そわそわしてしまうの。

小さい子でもおうちの中にいよう、って思えるように、
楽しいお話を聞かせてあげたらいいかな?
だったらやっぱり、お兄ちゃんのお話が、みんな好きだと思うな。
大好きなお兄ちゃんが、ユキたちの前でしてくれているように
いっぱい活躍するお話。
家族を守る冒険をするの。
そんな楽しいお話は、どれだけたくさんあってもいいと思いませんか?
みんな、喜んで聞きたがるよ。
いつもユキたちのヒーローで、いつも近くにいて、
かっこいいお兄ちゃん。
一緒にいると嬉しい、みんなのお兄ちゃん。
今日は、ユキたちのためにどんな冒険をしてくれるのかな?

でもね、
お兄ちゃんは大人で、たいていのことはできてしまうから、
罠にかかって天井が落ちてきても突き破って出て行くし、
大きな岩が転がってきても壊してしまえるし、
縄で縛られてもそんなの簡単に千切れるじゃないですか。
銃を突きつけられても、
悪い女の人がいけない誘惑をしてきても、
乗っていた船が沈みそうになっても、
宇宙から巨大な怪獣がやってきても、
そんなのちっとも気にしないで
ユキたちが困っているときに、助けに来てくれるでしょう?
お兄ちゃんが主人公だと、なんでもすぐに解決してしまいます。
普通のお話作りではどうしても、
お兄ちゃんのかっこよさを伝えきれないみたいなの。
どんなに驚くような解決をしても、お兄ちゃんなら普通のことだもんね。
何か苦手なものはありますか?
ライバルが繰り出す策略を、愛と勇気で乗り越えるのはありがちすぎるかな。
何か、食べるときちょっと苦手なものでもいいよ。
にんじん? セロリ?
お兄ちゃんが嫌いな食べ物があったら、ユキのお皿にこっそり移しちゃう?
でもお兄ちゃんなら、そのくらい克服してしまいそうですね。
本当に苦手なものはないのかな?
じゃあ、うっかり誘惑されそうな女の人のタイプは?
もっとお兄ちゃんのことを知らないと、ユキは面白いお話が作れない気がするの。

なんだか、本当に作家になって取材をしているみたいですね。
ユキが一番書きたいもののために
どうしても必要なインタビュー。
好きな食べ物は何ですか?
いま一番欲しいものは?
大事にしている宝物はある?
無人島に行くとしたら、何を持っていくの?
一人で部屋にいるとき、どんなことをしているの?
理想のプロポーズのシチュエーションを教えてください。
家族の中で、お兄ちゃんの一番好きな子は誰?
ユキが健康になったら、その時はお兄ちゃんの一番になれる?
候補に挙がりますか?
みんなが知りたい、お兄ちゃんのいろいろ。
ユキにだけほんの少し先に教えてください。

こんなに強い風が吹いている日でも、
お兄ちゃんとお話をしていたら、
怖いことなんてみんな忘れちゃうみたい。
こんな日もいいな、って思ってしまいます。

それから、
なぜかよくある定番の質問なんですけど、
お風呂に入ったときどこから洗うんですか?
一緒にお風呂に入ったらわかるかな。
お兄ちゃん、いまは芸能人で好きな人っている?
やっぱり海晴お姉ちゃんですか?
もしもユキが将来お天気お姉さんになったら、
あんなふうにきれいで優しいお姉ちゃんになれると思う?
そうなったら、お兄ちゃんは
ユキのことをどれくらい好きになってくれますか?

小雨の偽日記

『ゴールイン』

お兄ちゃん、
おめでとうございます。

ついにゴールインしたって
聞きました。
固い約束を交わしたと──
いつまでも離れないことを誓い合ったと。
死も二人を分かつことのできない
永遠の愛で結ばれたんだと。

立夏ちゃんが言ってました。
違うんですか?

お兄ちゃんがくれたっていう、
キャンディがついた指輪を
見せてもらったんです。

立夏ちゃんの勘違いなんですね。
よかった──
あ、よくないです。
このまま誤解されていたら、大変です。
でも、あんなに嬉しそうな立夏ちゃんに
本当のことを言うなんて──
どうしましょう、
小雨にはそんなことできません。
立夏ちゃんにはもう少し、夢を見せてあげてもいいでしょうか。
だって、小雨が見ている夢もいつかは終わってしまう。
お兄ちゃんは将来、誰かを選ぶんでしょう?
その時に、小雨が選ばれることなんて考えられないですもの。
どんくさい小雨だし、
いいところがない小雨だし、
それに、私たちはきょうだいです。
だけど、お兄ちゃんが立夏ちゃんを選んでくれたと聞いたとき、
少し胸がズキズキしたけど、
良かった、それは良いことだと思ったんです。
お兄ちゃんが将来はそれほど遠くへ行ってしまわないということだし。
立夏ちゃんと小雨は一つ違いで
仲がいいほうだから、これからもいつでも会えると思います。
これまで、なんとなく考えていたことですけど、
お兄ちゃんは男の人だし、広い世界へ出て行くのかもしれない。
立夏ちゃんが勘違いしたままでいれば
小雨にもちょっと希望があるでしょう?
お兄ちゃんと、もっと時間が経ってもいつも会えるのかもしれないって。

ちょっとだけ欲張ったことを言ってしまうと、
お兄ちゃんがまだ誰も選ばないで、
小雨がこのままお兄ちゃんの近くにいられたらと思うんです。
もう少しこのままの時間が続けばいいなって。
小雨が選ばれるわけではないとわかっていても、結論を出さないでいてほしい。
お兄ちゃんの気持ちを考えない、小雨のわがままですよね。
立夏ちゃんとはまだ結婚しないんだ、ってわかって安心してしまうなんて。

いけないですね、お兄ちゃんには早く幸福になってほしいのに
それだと小雨が悲しい気持ちになってしまうなんて。
ううん、恋人ができたら小雨は
おめでとうって、心から祝福してあげたい。
小雨たちにも必要なお兄ちゃんだけど──
お兄ちゃんは、私たちの家族を支えてくれるとても大事な人。
みんなの笑顔のために、たくさんのことができる人。
だからきっと、いい人と結婚して幸せになれると思う。
そうなったら素敵だなと思うんです。
小雨はそれを思うだけで、自分のことのように幸せです。

でも、やっぱり
そんなの寂しいです。
お兄ちゃんがこの家からいなくなるかもしれないなんて。

お兄ちゃんは、いつまで小雨の近くにいてくれるのかな?
お兄ちゃんが大学に行くなら、来年度からあと6年いてくれることになるのでしょうか。
その時には、小雨もちょうど高校を卒業します。
もう少し立派になって、お兄ちゃんがいなくても大丈夫になっているのかな?
全然想像もつきません──
小雨は立派に成長できていると思いますか?
お兄ちゃんがいなくてもいい小雨なんて、未来のどこかにいるのかな?

あさひちゃんが6歳になるときの話ですね。
きっと、あさひちゃんは泣いてしまいます。
そうなったら、小雨は自分が悲しいことなんて気にしている場合じゃないです。
あさひちゃんや、その時もまだ小さい妹たちを慰めないと。
でも、小雨にはそんなの無理です。
小雨はいくら経っても、全然しっかりしていないと思うし。
しっかりしていたって、そのときのみんなの悲しさが分かるから、きっと慰められない。
お兄ちゃんがいなくなったら、みんなどんなに悲しくなることか──

だけど、小雨たちがお兄ちゃんを縛ることなんて
してはいけないんです。

お兄ちゃんが自分で選んだ結果が、いつまでもこの家にいることだったら
うれしいのにな──
実際に立夏ちゃんと結婚するつもりはありませんか?
立夏ちゃんならきっと、お兄ちゃんと明るくて楽しい家庭を作れると思うし、
立夏ちゃんは、お兄ちゃんといられてすごく幸せになると思う。
それで、お兄ちゃんが幸せでいてくれたら小雨も嬉しいし、
小雨もお兄ちゃんの近くにいられたら嬉しいです。
といっても小雨なんて
お兄ちゃんがここにいる理由の一つにもならないですよね。
でも、立夏ちゃんはいい子なんです。
考えてみてはもらえませんか。
小雨のことなんて、何も気にしないで決めていいんです。

それで、小雨は──
小雨はたぶん、なかなかお嫁に行けなくてずっとこの家にいると思います。
そうなったらせめて、
お兄ちゃんがいつでも帰れるように、過ごしやすいようにしておきたい。
お兄ちゃん、どこに行ったとしても時々は帰って来てほしいです。
ううん、お兄ちゃんの都合が合わないなら、帰って来れなくたっていいです。
いつかお兄ちゃんが帰ってくるかもしれない場所にいられるだけで、
小雨は幸せです。
もしも小雨の知らないどこか遠くでも、
お兄ちゃんが幸せにしていたら、小雨はきっと凄く嬉しいです。

お兄ちゃんがもしも疲れてしまったとき、
いつでも帰ってきて笑顔になれる場所は
小雨がいつまでも守っていたいです。
でも、そんなことが、いつか小雨にもできるようになるのかな。

虹子の偽日記

『かわいいにじこ』

あのね、
きょう、
みはるおねえちゃんの
おねえさんが
きたよ!

えっ!
おねえさんがいたの?
これからいっしょにすむの?
びっくりしちゃった。
ちいさいおんなのこもきたのよ。
なかよくなったの!
にじこはね、
こうやっておどるのよ、
こうやっててをたたくのよ、
こうやってとぶのよ、
って、おしえてあげたよ。
にじこも、おんなのこも、まだちいさくて
ひとりでなわとびはできないけど、
とぶだけならできるもんね。
たのしかった!
おにいちゃんもいっしょならよかったね。
どうしておにいちゃんは、おひるはいないの?
がっこう?
みはるおねえちゃんは、がっこうがおやすみのときもあるの。
せんせいがおやすみで、ちょっとじかんができたって、
ときどきあそんでくれるよ?
おにいちゃんも、がっこうをおやすみして
にじとあそんでくれればいいのにね。
にじ、おにいちゃんといつもいっしょがいいんだもん。
きょうのおんなのこも、
にじにかっこいいおにいちゃんがいる、っておしえてあげたら

すごい!
いいな!

いっしょにあそびたかったって。
いいでしょう!
にじのおにいちゃんなんだよ。
この、おしゃしんのおとこのひと。

あれ?
あんまりかっこよくないね?

そんなことないよね?
おにいちゃん、にじのそばにいてくれる
とってもかっこいいおにいちゃんよ。
しゃしんうつりがわるいのかな?
おにいちゃん!
おきゃくさんにみせるしゃしんには、
もうちょっとかっこよくうつってくれなきゃ!
いつもどおりにうつってくれなきゃ!
にじにやさしくしてるところ、うつってくれなきゃ!

いっしょにすむんじゃなくて、
あそびにきただけだったよ。
なーんだ!
みはるおねえちゃんのおねえさんっていうから
にじ、はやとちり。
こういうとき、いうの。
はやとちり。
うっかりしてたなあ!
はやとちり。
このまえおひなさまをかざったから、もうおひなまつりかとおもった。
はやとちり。
にじ、とっくにおにいちゃんのおよめさんになったきがしてた。
はやとちり。
およめさんは、おおきくなってからなんだよ。

おてんきよほうの、せんぱいなんだって。
こそだてのおはなしをたくさんきいて、
げんきでやさしいおんなのこにそだてたいって。
にじ、おねえさんにたくさんおしえてあげたよ。
なんてったって、
にじこはもう、2さい!
そらちゃんのおせわも
あーちゃんのおせわも
なれたものなのよ。
よしよし、
いいこね、ってゆらすと
もっともっと!
あばばあばば!
いもうとたちは、にじのだっこがだいすき。
まだだっこっていうか、ぎゅうってだいてゆらすだけだけど。
おねえさんは、すごいすごい、ってほめてくれたの。
おんなのこにもしてあげようとしたら、
もうあかちゃんじゃないもんって、にげちゃったの。
そんなー!
にじがおにいちゃんにだっこしてもらえるときは
いつでもとんでいくのに。
だっこしてもらえないときでも
おねだりするのに。
おんなのこ、にげちゃった。
きっと、おにいちゃんにだっこしてもらったことがないんだよ。
あんなにうれしいのにね。

あのね、
おきゃくさんがきてわかったんだけど、
にじって、おもってたより
かわいいおんなのこだったんだね!
だって、にじのほうが
おどりがじょうずだったし、
おぎょうぎのいい子だったし、
いつもにこにこしてて
いいえがおだねって、ほめてもらえたもん。

こんなにかわいいにじこなのに、
どうしておにいちゃんは、おひるはおうちにいないんだろう?
おにいちゃん、いつでもにじといっしょがいいでしょ?
ときどきでいいから、がっこうをおやすみして
おうちにいてくれないかなあ。
それとも、にじこががっこうについていってもいい?
いいでしょ?
おにいちゃんはにじこといっしょがいいんだし、
がっこうのひとたちも、にじがかわいくてよろこぶよ。
にじ、ちゃんとあいさつもできるもん。
うちのおっとがいつもおせわになっています。
おくさんのにじこでございます。
ちがった!
これは、おままごとのとき。
それと、おとなになったとき。
だからいまは、
うちのおにいちゃんがいつもおせわになっています!
いもうとのにじこです。
おにいちゃんのおくさんになるにじこでございます。
おどりがじょうずで、
えがおがあかるくて、
こそだてがじょうずで、
おにいちゃんにあいされる
かわいいにじこでございます!

ごあいさつできるよ。
つれていってね。

海晴の偽日記

『純情』

恋をすると、
胸が苦しくて、
好きな人の顔が見られなくて、
どんな言葉で伝えようとしても嘘みたいに思えて──

どうしてこんなに好きなのに、
あなたは気がついてくれないの?
本当は私の気持ちを知っているのに
知らないふりをしているんでしょう?
好きで好きで、隠しておけないのに
わからないはずなんてないもの。
いじわる!
応えてくれる気がないの?
ただ戸惑っているだけなの?
臆病なあなたなんて嫌い!
はっきりしてよ!
もうこんな揺れる気持ちを抱え続けるのは嫌だよ。
でも、きっぱり答えが出たときに
あなたの心が遠くにあるってわかってしまうのもつらいの。
怖い、
知るのが怖いよ──
どうか、私を好きだと言ってください。

人の気持ちって、
言葉にしないとなかなか伝わらないものだって、
子供じゃないもの、私はわかってる。
わかっていたって、怖くなる。
恋をすると、私が私じゃなくなるみたい。
無力な子供に戻ってしまう。
今まで私を動かしていた力が、何も通用しないの。
世界がまるで別のものに形を変えてしまう。
ただ、あなたひとりがいるだけで。

19人姉妹の長女だけあって、
ずいぶん女の子として経験を積んできたと思うわ。
まあ、人並みくらいはね。
もしかしたら、人並み以上に。
かわいい、
楽しい、
切ない、
ふしぎ、
それに不安とか、
どんな悲しみも吹き飛ばすほど嬉しいこととか、
姉妹の人数が多いこともあって、いろいろあったと思う。
その上、私は長女。
たくさんのものを妹たちからもらっているけれど、
私がしてあげたいことも、それはいくらでもある。
できること、できないこと、
できないのにいつのまにかできるようになっていたこと。
今でもまだ大変なこと。
できないこと。
まあ、姉妹の中では
頼りになることが多いほうなんじゃないかな?
キミも頼りにしてね。

でも、恋の経験だけは無理だった。
キミがこの家にいなかったからだよ。
それなのに海晴お姉ちゃんは、誰と恋をすればいいの?
他にいないでしょう?
私の心を奪っていく、大事な人なんて。
私の充実した大騒ぎの日々に、どんどん巻き込まれてくれる人。
どんな賑やかな騒動も、穏やかな日常も、すぐそばで過ごしているだけで
かけがえのない相手になっていく──
そんな恋は、他の誰とも体験できない。

長女なのに、こんな弱点があったなんて情けないな。
これじゃいけないから、キミに協力してもらって
恋に慣れておかなくちゃ。
これから本気の恋をする妹たちに、年上として教えてあげられることが
何もないなんて、そんなの恥ずかしいもんね。
ねえ、いいかな?
私と一緒に恋の秘密、たくさん学んでみない?
長女の立場を利用しているってわけじゃないのよ。
むしろ、みんなはこれから好きな人とデートする時間があるじゃない。
私は花ざかりの十代の大半を、キミがいないで過ごしていた。
遅れを取り戻すためにも、今のうちから始めなきゃ。
だいいち、一番年上の私こそが、
キミと経験していくには、順当だと思うんだけどな。

もしいいなら、何から始めようか。
恋のレッスン。
デートの場所はどこにする?
遊園地?
動物園?
水族館?
それとも、お弁当を持って近くの公園に行く?
そうなったら、私がお弁当を作っていくことになるね。
デートのお弁当まで蛍ちゃんに任せるわけには行かないものね。
これでも結構、お料理は得意なのよ。
みんなが大きくなる前は、私が大活躍だったんだもん。
まあ、ここしばらくはあんまり作っていないのは確かだけど。
それに、大活躍の時期がそんなに長くなかったのも確かだけど。
練習すればなんとかなるんじゃないかな?
キミが言ってくれたら、なんでもできるよ。
はりきっちゃうからね。

私の愛する弟クン。
この家に来てくれて、毎日を過ごしてくれている
誰よりも素敵な人。
家族みんなが、それぞれの形でキミのことが大好きだけど、
私の愛だって負けていないよ。
こんなに好きな気持ち、
言葉にしないと伝わらないから、
苦しいけど、怖いけど、言葉がなかなか出てこないけれど
この女の子いっぱいの家で長女をしている海晴お姉さんだから、
積み重ねてきた経験と
年上のちょっとの意地で、
怖いことなんて忘れて、キミに言うよ。
抑えきれない思い、
秘めておけないこの気持ち。
妹のみんなに、こうするのが恋する乙女の姿なんだ!
って、長女として見せてあげなきゃ。
これからキミにどんどん本気になっていく女の子たちに、
年上としての義務、それとも特権?
とにかく、いつでも、惜しみなく伝えなくちゃ。
私は君のことが好きです。
この気持ちは永遠に変わらず、いつでもあなたを見つめていたいと思っています。
思いは強くなるばっかりで、とどまる気がしない。
恋に慣れていない私だけど、
キミとなら経験を積み重ねていきたい。
ずっとずっと、一緒にいよう。
恋におびえる私の胸は、
キミの返事を聞くまで、泣きそうに震えています。
急に言われても困ってしまうと思うから、私の焦りを押し付けたりはしないわ。
ただ、今すぐでなくてもいいから、答えが欲しいです。
お願い、正直な気持ちを教えてね。
いつでもいいよ。
ただ、お姉ちゃんでも時々、
こんなことをキミに言ってみたくなるっていうだけの話なの。

蛍の偽日記

『大変!』

大変、
どうしましょう!

お兄ちゃん、
大変なんです!

このままでは──

2月が、
2月が!
終わってしまうんです!

あ、
そんなの当たり前のことですよね。
でも、3月に入ったらすぐ雛祭りがあるんです。
お雛様も飾って、お部屋はなんだか華やいだよう。
我が家の女の子たちもみんな、立派なお雛様を見て喜んでいます。
これは、日記でもお話に出るんだろうな。
女の子のお祭りだし、かわいらしい話がたくさん聞けるはず。
まだ少し先だから、何度も話題になるんだろうなあ、
嬉しいな!
なんて思っていたら、
今日になって急に気がついたんだけど、
2月って少し短かったんです。
このままだと、すぐ終わってしまうんです!
お雛様の話……みんな、あんまりしませんね。
それよりも、お兄ちゃんに聞いて欲しい大切なことが
いっぱいあるんですね。
言われてみれば、そんなに雛人形って
一日中見ているものじゃないですね。
お兄ちゃんと遊ぶものでもないし、
他にしたいこといっぱいあるみたい。
楽しい雛祭りは当日になってから。
毎年コスプレをしているわけでもないですから
今年は準備もそんなにありません。
お部屋の見た目が華やかになったくらいで、
実はあまり影響がないのでしょうか?
雛祭りがついに来る、張り切っちゃう!
っていうイベントじゃないかもですね……
蛍は何を期待していたのか、
こうなってくると自分でもさっぱりです。
今年もコスプレしたらよかったかな?

それに、
女の子のお祭りだと、
私たちのお兄ちゃんが参加しにくい気がしませんか?
それで、テンションがあがりきらないのかなあ?
お兄ちゃんもこの家に来てずいぶん経って、
蛍のわがままも聞いてもらっています。
いつもありがとう、お兄ちゃん。
お兄ちゃんがいてくれて、蛍は毎日嬉しいことがいっぱい。
というわけで、もうずいぶんコスプレに慣れた頃ではないですか?
お内裏様に扮装して、今度は本当に家族みんなでお雛様になるの。
どうですか?
でも今年は準備していないから、今からだと無理ですね。
お兄ちゃんがその気になってくれたら、来年しましょうね。
その時は蛍はきっと張り切って、
かつてない会心の衣装を製作しそうな予感があります。
お兄ちゃん、来年は絶対しましょうね!
あ、いえ、あんまり無理に誘ったりするのはいけないですけど、
蛍もお兄ちゃんの素敵なところ、
もっと見たいんだもの。
いつもわがままを聞いてもらっているのに、ついついこんなこと。
いけませんか?

今年の雛祭りは、もうすぐやって来ます。
小さい子たちがお兄ちゃんを順に連れて行って、
お雛様を見せてあげたかったみたいで、
ずいぶん引っ張られていませんでしたか?
本当にお疲れ様でした。
みんな、いつもお兄ちゃんと遊びたくて仕方がないんです。
きれいなお雛様を見てもらえば、きっと喜んでもらえるはずですもの。
なんとなく盛り上がってきているとは言えるし、
これから雛祭りのごちそうの用意をみんなで支度していくうちに、
また雰囲気が出てくるんじゃないかなと思っています。
当日は、楽しい雛祭りになって欲しいな。
蛍も家族たちと力を合わせて、いい雛祭りを迎えられるようにしたいです。
そこまで張り切るものでもないですか?

でも思うと、やっぱり
2月の短さは、改めてびっくりしちゃいます。
26日って言えば、普通の月ならもう少し気持ちの余裕がある時期だけど。
明日と明後日で、今月が終わっちゃう!
来月になったら、雛祭り本番に向けての仕上げ。
うわー、短いような気がしてきます。
お兄ちゃん、どうしよう、ホタ焦ってきちゃう。
どうしたら落ち着けるかな。
ホタ数学は苦手だから、素数は分からないし。
お兄ちゃん、迷惑でなかったらホタの勉強を時々見てもらえませんか?
あ、それとも、気持ちが落ち着くように手を握ってもらってもいいですか?
ホタがまだ小学生の頃は、怖いテレビを見てしまったら、
春風ちゃんやヒカルちゃんと手を繋いで、
同じ布団に入ってぎゅうぎゅうしながら眠りました。
布団の中の温度は上昇、怖くてぶるぶるしているどころじゃなくなって、
ほかほかになって眠ることができたんです。
お兄ちゃんと一緒に寝るなんて考えたら少し恥ずかしいけれど、
落ち着くように手を握ってもらうだけなら、いいですか?

まあ、できることをすればいいか。
とにかく、楽しく雛祭り当日を迎えたいものです。
でも雛祭りはコスプレの日じゃないですね。
女の子の健やかな成長を願い──
お雛様には、私たちの厄を代わりに請け負ってもらう意味もあるんでしょう?
不思議な力を持っていて、
時には、私たちの分身とも言われる、お雛様。
雛祭りのお祭りのおかげで、これからも無事に過ごせたら
それが一番ですよね。
でも、蛍は分身よりも、本人をかわいがってもらいたいな。
お雛様ほど、いつ見ても華やかってわけじゃないけれど、
蛍も毎年、ちょっとは女の子らしく成長していませんか?

これからも、毎日を幸福に過ごせますように。
家族みんなが元気で、そして、女の子として楽しくいられますように。
蛍は、もう少しでいいから、お雛様みたいにきれいになれたらいいな。
それから、お兄ちゃんがいつもかっこよくて健康で
私たちの家族でいることが幸せでありますように。
お雛様、今年の雛祭りもよろしくお願いします。
私たち家族のことを見守ってくださいね。
ちょっとお願いしすぎたかな?
これは、どうやら今年も、
雛祭りの本番は張り切ったほうがいいかもしれません。

あさひの偽日記

『んまんま』

んまんま、あんまんま!
あおんば、ばっ!
ちょっ、ちょっ。

お?
おっ!
おおん!
おお──
おんば?

んまままっ。
んまっ?
おんも、おおんば。

ひぃ、なっ!
ひぃ、なっ!
なっ!
なななっ!
なんなんなんなっ!
んにゃーっ!

(きれいなあまざけ、おいしそうなあまざけ。
 あさひも、ちょっともらったよ!
 おちょこにひとくち、おっとっと。

 お?
 こっ!
 これは!
 これは──
 こういうもの?

 あさひにはまだはやかった。
 まだほかにもあるよ?
 どんどん、でてくるね。
 
 ひしもち!
 ひなあられ!
 ひなにんぎょう!
 かわいい、ひなまつりのしたく!
 くちなおしにぜんぶいただく!
 まずはおにいちゃんからいただく!)

霙の偽日記

『偶像』

せっかくだから、アイドルになることにした。

まあ待て、オマエも何か言いたいことがあると思う。
その前に少し話を聞いてもらおう。

もちろん、この宇宙の定めは滅び。
私たちはみな、塵と消え去る。
ひとときの華やかなショービジネスなど、広大な宇宙では何の意味もない。
くだらないことだ。
だが、そんな無意味が、なぜか時には人の心に突き刺さる。
なぜこんなにも、熱い思いが伝わってくるのか。
私たちとアイドルは、みな同じ塵だからなのか。
そのひたむきさが、私たちに不思議な熱をもたらすのだ。
彼らはおそらく──
いや、何がしかの道を知るものは、意識的か否かを問わず、
自らの歩みが塵に等しい無価値であることを知り、
それでもなお、自らの思いに忠実であろうとするのだろう。
目をそらさずに自分自身を見つめ、
広い世界と向き合うことで何かを見つけ、
どれだけ無意味で絶望的な試みであったとしても
何かを伝えようとしている。
多くの人に支えられながら続けているのだろう。
私が、家族に支えられていることを実感しているように。
アイドルの仕事も、無意味であってもとまらない何かのひとつなのだろう。
華やかだから目に付くし、
注目される仕事ではあるとしても、
それが人の心を震わせることに理由があるとしたら、
その活動もまた人の心によって成り立っているからではないか。
あらゆる塵こそが私たちであり、彼らもまた例外なく塵であり
疑いを挟む余地もないほど明らかにつまらない、くだらない存在だ。
そして、つまらない塵の一つが見せる微動が、
私たち同類に何がしかの感情を引き起こすこともまた、疑いなく事実なのだ。
この感情も、塵であると知っている。
でも、時には身をゆだねたくなる──
だからというわけではないが、
アイドルになるという話に戻ると、
別にテレビデビューするというわけではなく
おうちアイドルだ。
雛祭りのお祭りを少し華やかにしてやろうという
一日アイドル。
つまり、アイドルごっこだ。
チビたちが歌い、騒ぐ無邪気と変わらない。
しかし年長であるからには、もう少し良いものを見せたいとも思う。
経験を積み重ねたからこそ持てる力。
たまには、威厳を見せるのも悪くない選択だ。
鍛え上げた本職には及ぶべくもないが、それはそれとして。
ついでに私も心置きなく騒げるという利点もある。
リミッターなどとうの昔に破壊されてしまった自由人のように
いっさいをためらうことなく、桃の節句を祝うのだ。

もし私が自分の特長を生かして活動するなら、
おそらく追求するものは新しいタイプの、虚無的なアイドルの姿。
いわば、終末系アイドルと言える存在か。
なかなか見かけない個性のような気もするし、
そういうアプローチはもうわりと繰り返されているようでもある。
マニアックな方面でありそうだ。
だいいち、終末系を主張する歌のチョイスも困るし、やめておくか。
雛祭りにドナドナも合わないだろうからな。
まあここは順当に、愛らしい雛祭りの歌を選ぶとしよう。
妹たちの見せ場を奪わないように、もうしばらく悩んでみることにする。
さて、雛祭りを盛り上げる歌というのはそんなにあったかな。
まあ、愛しい妹たちの活躍で出番を奪われるとしたら、それも良いものだろうな。

というわけで、少し鍛えている。
発声やダンスをレッスンできる映像は、海晴姉に相談したら揃った。
海晴姉はダンスのレッスンをしてどうするつもりだったんだろう?
特に意味もなく、混じっていただけなのか?
家の仕事を考えれば、そういうこともあるかな。
ここしばらくは夜遅くまで起きていることも多い。
なにしろ、宇宙の神秘に心を惹かれ、虚空に思いを馳せ、
うっとりと夜に抱かれて長い時間を過ごす経験を重ねてきただけあって
気がついたらレッスンに夢中で夜更かしすることもよくある。
なーに心配するな、その分は昼間寝ているから。
数日の徹夜をものともせず、
なかなかの成果を挙げている気がするぞ。
特にダンスのレッスンは、映像の掛け声に合わせて
ワンモアセッ! ワンモアセッ!
ビクトリー!
後になって、これはダンスじゃなくてダイエットや体の鍛錬が目的だなと気がつくまで
結構楽しんでしまった。
海晴姉が持っていたのも、そういう理由だったのかもしれない。
私も、もうずいぶん腹筋が割れてきたことだろう。
見てみるか?

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