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真璃の偽日記

『ひみつの部屋』

フェルゼンは
かわいいな。

いつもマリーをさがす
その目はキラキラしている。
きれいなマリーをみつめたくて
子供みたいにきょろきょろする。
何もかもはじめての赤ちゃんのように
瞳には、
また今日もかわいくなったマリーの姿を映している。

男の人らしい
きびしく、セクシーなくちびるは
それなのにマリーたちにどこか似ていて
なぜかしら?
小さな女の子みたいに愛らしい。
よく笑って
ときどきさみしくなったらきつく結んでしまいそう。
マリーといる時のフェルゼンのおくちは
うれしそうに、くいっと
おそらへ向かおうとする。
重力に負けそうな垂れてしまう目元と
どちらが正直者なの?
表情の全部で気持ちを表さないではいられない
マリーの恋人。
いつも女王はあなたをそばに置いて
そしてあなたは、マリーの小さな体を
優しく胸の中に受け止める。
前世の頃に恋人同士で、そう過ごしていたように。
それとも、
もっと前から
この世界の全部がはじまったときからそうだったと思えるほど
二人は、自然に寄り添いあう。
最初からそう決まっていたみたいに、ぴったりする感覚。
革命の火の中であろうと
家族いっぱいのおうちの同じ一員であろうと
二人はどんな身の上に生まれても、必ずめぐり合って
こうして暖かな気持ちを分け合うように
手を繋いで、
ぎゅうぎゅうくっつき合う運命なのね。

それなのにマリーは
気がついてしまったことがある。
ねえフェルゼン。
このごろかわいいだけじゃなくて
大人っぽくなったのかな。
背が伸びたりしたんじゃない?
それとも、何か決意を新たにした?
新年だもんね。
新年だからなのかしら?
マリーの感想は新年とは関係ないのかな?
どうもこのごろフェルゼンは
男らしくなったというよりは
ワイルドになった気がするわ。
なにかあった?
霙お姉ちゃまにこき使われて
疲れているのかしら?
だめね!
霙お姉ちゃまも、フェルゼンのことが愛しくてたまらないってこと
マリーは見ていたらわかるわ。
でも、散らかったお部屋のお掃除をしながら愛を伝えるのは
どうも部屋のお掃除が本当に苦手な霙お姉ちゃまには
難しいのね。
フェルゼンも、許してあげてね。
愛していないわけじゃないし
愛を忘れてしまうわけでもない。
疑う必要なんて何もないの。
でもときどき、他の用事を考えていっぱいいっぱいで
うろたえているだけ。
フェルゼンが手を貸してあげているうちに、
霙お姉ちゃまが愛する人の顔を見る余裕が生まれたなら
瞳は恋をしたようにうるんで、
共に歩む人の、手のひらだけではないぬくもりを実感して
愛は伝わっていくはずなのよ。
マリーは自分のこの目で見なくても
霙お姉ちゃまがどんな風にあなたを見つめるのか
もうすっかりわかってしまう。
それは今、フェルゼンの瞳に映るマリーの表情と同じはず。

それとも、ワイルドな理由は
やっぱりあれかな?
また氷柱お姉ちゃまとケンカしていたでしょう?
というより、怒られてしまって
もう仕方のない子だなあ氷柱は、みたいな
慈愛を込めた視線でかわいい妹を見つめていたでしょう?
ケンカしているのに仲がよく感じるなんて不思議ね。
あのかわいらしい氷柱お姉ちゃまが
フェルゼンにお兄ちゃんとしての自覚を与えて、男らしくしたのかも?
今になってという話ではないかなあ。
氷柱お姉ちゃまが関わっているらしいのは、やっぱりあれかしら。
妙なことに、誰にも見せないように気を使いはじめて何日も経つ
蛍お姉ちゃまと二人のお部屋。
誕生日パーティーはみんなでするから
別にサプライズを計画しているのではないだろうし。
蛍お姉ちゃまも、氷柱お姉ちゃまも
よくフェルゼンのことを見ているから
きっと今度も、またフェルゼンを思って、何か隠しているのよ。
そこまでは、小さい子たちの間で一致した意見。
お兄ちゃんを捕らえて自分たちの心強い仲間にしようとしているのでは、という
星花ちゃんの冗談は、とりあえずいったん置いておくとして。
観月ちゃんは、祭壇を設置して
兄じゃを男前にする祈祷を習得したのではないか!
夕凪ちゃんは、お兄ちゃんの心を奪うマジックポーションを調合しているんじゃない?
立夏ちゃんは、きっと会員制のおうちカフェをオープンさせて
大人だけでこっそりおいしいものを食べるつもりだ!
その前に先にこっちがオニーチャンのくちびるをものにしなくちゃ!
と、あわてていたわ。
でも、女の子の部屋は、いつも神秘のヴェールの向こうにあるもの。
想像して話題にするのは、あんまり上品なことじゃないって
みんなわかってはいる。
たぶん、詮索するというよりは、心配しているの。
しっかりしていそうな蛍お姉ちゃまと氷柱お姉ちゃまが、どうしてなんだろう、
ちょっと自分のことを後回しにして、家族に手を貸してくれそうな二人だけど。
自分たちにまで手が回らないほど無理な計画でお掃除を進めるなんて
いままでなかったんだけどな?
そこまで荷物が多かったかしら?
ハロウィンやクリスマスのコスプレはもう別の場所にきちんとしまっているから
片づけが進まないほどの荷物が何なのか、わからないの。
みんなの部屋の荷物を一時的に置かせてあげているということもないだろうし、
もしそうだったら、隠す理由もないんだし。
マリーはたぶん、
愛するフェルゼンのことを自分たちのものにするために
革命の計画を立てているんだと思うの。
それに気がついているフェルゼンも
みんなを守るために体を鍛えたりして
かっこよくなっているんじゃないかな。
でも、あんまり詮索するのは上品じゃないから、
みんなには言っていないの。
フェルゼンだけに伝える秘密よ。
危険な野望を抱いてしまうことは
誰にだってある。
でも、家族に相談もなしに革命をしたらいけない!
秘密にしていること、
ちゃんと話してくれたらいいのにね。
まあ、マリーも革命なんて説は本気というつもりではないけれど。
いえ、本当にそんなドラマがあったら
興奮しちゃうな、と期待はしているけれど。
でもたぶん、二人とも優しいお姉ちゃまだから
フェルゼンを力づくで奪ったりはしないと思うわ。
そんなに散らかっていて、なのに家族にも秘密のお掃除なんて
マリーたちも手伝わなくていいのかしら?
部屋の中の予想していたみんなは冗談もあったけど
心の中の秘密の悩みを誰よりも先に話してもらえて
解決してくれそうな人がいるなら
フェルゼンだと思う気持ちは、同じだと思うの。
お掃除が大変で困ってしまう前に
お部屋の様子を話してもらえそう?
フェルゼンは、マリーを見つめるときのように
蛍お姉ちゃまと氷柱お姉ちゃまを見ているから
仕方のないフェルゼンね、と思って
そっとたしなめてあげる日だってあるけれど
今は、心配な二人のこと
気にしてくれるかな。
遠慮なんてしなくていいから
マリーたちも手伝うって
フェルゼンからも伝えてね。
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真璃の偽日記

『もうすぐクリスマス』

あと何日?

ずいぶん前から
早く来ないかな、
まだかしら、
さすがにもう
そろそろクリスマスじゃないかな?
待っていた。
明日くらいには、朝起きたら
その日がクリスマスになっていないかな。
なんて。
胸は弾むし
足は踊るし
気がつくと、勝手に鼻歌は口ずさんでいるし。
マリーらしく優雅に
クリスマスムードの高まってきた町を眺めながら。
おチビちゃんたちの手をとって
おうちのツリーの飾り付けをしながら。
ときどきは、
フェルゼンの胸に抱かれて
楽しみに待っているのに、どうしてまだクリスマスが来ないのか
わかっているのに、尋ねてみたり。
にじちゃんや青空ちゃんじゃないんだから、あと何日待つのか知っているのに
カレンダーなんて見えないふりで
そろそろだと思っているの、とからかってみる。
あの時のフェルゼンの困った顔。
真剣に答えようとしてくれていたのよね。
跳ねたり飛んだり、子供みたいに
くっつきあってぐるぐる転がりまわりながら
待ち続けたクリスマス。
冗談と本気が交じりあって
自分でもどっちなのかわからなくなるほど
もういつ来るのか、
本当に訪れるものなのかさえ疑問に思って
ずいぶん長いこと待っていたようなクリスマス。
目の前に近づいてきた今から思えば
もどかしいのか、待っているのが楽しいのか迷うそんな時間も
あっという間のことだったような。
それでいて、
あとほんのわずかの数日が
まだまだ、あまりにも長すぎると感じるほど
マリーを戸惑わせるいけないいたずら妖精のよう。
まもなく本番を迎えたとき、
今からこんなにドキドキしている胸は
これ以上に高鳴ってしまうの?
そんなの、マリーは
とても耐えられない気がするわ。
愛するフェルゼンが助けに来てくれなくちゃ。
羽飾りをつけた騎士の姿で
クリスマスのうれしさがあふれてめまいがしそうなマリーの前に現れて
甘い喜びの瞬間を分け合ってくれなくちゃ。
でないとマリーは
不機嫌になってしまう。
楽しくて仕方ないクリスマスを
マリーとひと時も離れずに味わい尽くしてくれないと
とても許せない!
フェルゼンが気がきかないで、マリーのそばで
どれだけ楽しいかいつも聞いてくれなかったら
おしおきが始まるかもしれないわ。

だいぶ前から町の景色は様変わりして
お店のクリスマスの飾りつけは
きらめくダイヤモンド。
そんな気分。
もみの木も、
リースの飾りつけも
大粒の宝石がついたブローチのよう。
絵本で見つけるクリスマスは
夜空に輝く星たちが、
金のティアラにも負けないほどにきれい。
クリスマスの夜には、本当にこんなに輝くの?
きっとそうよね。
星空を渡ってサンタさんはやって来る。
こんなふうに輝いていてくれなかったら
暗い夜は、道に迷ってしまうもの。
それに、お迎えする私たちも
サンタさんに早く来てほしくて
道を照らしてあげられたらいいと思うわ。
星がたくさんの夜だったら
きっと安心ね。

前から考えていたの。
世界中を彩るきらびやかな飾りつけと
楽しみなパーティ。
いい子にはプレゼントまでもらえるなんて
クリスマスって、とっても華やか。
まるでマリーのためにあるように
みんなみんな
うれしいものばっかりでできているクリスマス。
本当は知っているの。
マリーがいくらかわいらしくて
みんなに愛される女王だからといって
クリスマスの素敵なこと、
マリーのために用意されたわけではないの。
全部、クリスマスを楽しみにしているいろんな人たちが
待ちきれなくて、どうにもならなくて
気がついたら全力で工夫を凝らしていたら
こんなにきれいで、にぎやかなものになった。
もし、マリーのためにクリスマスをしてねって言ったら
他の人たちは困るかもしれないけれど。
世界一特別にかわいいマリーのために
フェルゼンは、こんなに楽しくお祝いする人たちにも負けないほど
マリーに最高のクリスマスを届けてくれる?
クリスマスをわくわくしながら待っているどんな子も体験できない
世界一のクリスマスをマリーに届けてくれるかしら。
そんな楽しみな日が、もうすぐ訪れるの。
とはいえマリーは
どこにだってありそうな当たり前のクリスマスも好きよ。
定番のお料理をテーブルに並べて
イブの夜にはサンタさんを待って、いい子でベッドに入ったら
その時だけは静かなこの家の夜は、
トナカイの引くそりが近づく音が聞こえてくるかな。
シャンシャン、きらめくような鈴の音。
冷たい夜空から降り注いでくれるかしら。
目が覚めたときに届くプレゼントは
サンタさんはお願いしたとおりに届けてくれるかな。
マリーのくつしたが大人っぽいからって、
お姉ちゃまたちと間違えたりしないでね!
クリスマスパーティーは、今年は蛍お姉ちゃまと氷柱お姉ちゃまのお仕事が終わってから。
吹雪ちゃんがハンドベルの演奏に参加したから
今日はおうち合唱団の練習が寂しいみたいで
一緒に遊んであげている間にマリーと観月とさくらも参加して、
規模が大きくなりつつあるジングルベル。
パーティーの日は、家族のみんなにマリーたちのお歌を届けてあげる。
明日のフェルゼンたちの発表会も見に行くわ。
素敵なお歌を聞かせてもらうの。
マリーたちの心のやる気のキャンドルに火をともしてね。
蛍お姉ちゃまがいないクリスマスの準備だけど
当日に向けて、それぞれが張り切っている。
ここしばらく、おやつの時間に蛍お姉ちゃまがいないことがあるのは寂しいけど
今日は、マリーがお手伝いしたホットケーキ。
おいしくなーれって一生懸命かきまぜたロイヤルなホットケーキ、おいしかった?
小雨お姉ちゃまが作ってくれたロイヤルミルクティーもなかなかのもの。
マリーとここまで張り合えるなんて、やるわね。
クリスマスのお料理担当を任せてもらって、
やる気になっているのかな?
ときどき、キッチンのほうから
小雨お姉ちゃまの不吉な悲鳴が聞こえるのは気になるけど。
クリスマス本番が楽しみね。
おやつの時間にこんなふうに、自分たちで好きなものを作れるようになれたら
もう少しだけ蛍お姉ちゃまたちがいない寂しい時間も、我慢できるかな?
クリスマスにみんなが揃うときには
マリーのエプロン姿で、驚かせてあげるんだから。
みんなお料理も上手になっている上に
かわいい合唱の贈り物までしてあげたら
蛍お姉ちゃまの喜ぶ顔が想像できるわ。
これからはマリーの時代だな、って言ってくれるはず。
フェルゼンもそんな素敵なマリーの姿に
これまでにも充分にフェルゼンの心をひきつけているマリーの
さらに新たな魅力を発見するはずよ。
誇らしいそんなパーティーのために準備を重ねたい。
とても待ちきれないと思っていたクリスマスまで
まだまだ増えていく喜び。
本番前に、もっとクリスマスがうれしいものになっていって
そのおかげでマリーがもっと成長して、きれいになってしまったら
マリーより先にフェルゼンが我慢できなくなってしまうかも。
そんなときは、マリーにそのハートの情熱をそっと分けてね。
少し早くても、クリスマスを二人で味わいましょう。
なんて思っていたら
ホットケーキがおいしすぎて
ぽろぽろこぼしてしまう青空ちゃんや
においでおなかがすいてしまったのか、泣いてしまうあーちゃん。
もしかしたらあーちゃんは、フェルゼンが恋しくて泣いてしまったのかも?
マリーも覚えがあるわ。
我慢しないで泣いてしまってでも、愛する人をそばに引き止めたくなってしまう。
でも、それではどうにもならない時だってあるから
あーちゃんにも、どうやって素敵な女性になって
向こうからそばにいさせてくださいって言わせてあげられる方法を
大きくなったらちゃんと教えてあげる。
だから泣かないで、よく食べてよくお休みして早く大きくなるのよ。
って言っても、聞いてくれないで泣いている。
そんなにフェルゼンが恋しいのね。
わかるわ。
でも、だからってマリーの愛しいフェルゼンをあげるわけにはいかないし
あーちゃんは泣かせたくないし
お姉ちゃんって大変ね!
こんなとき、蛍お姉ちゃまがいたらな、と思ってしまうわ。
ごめんなさい、蛍お姉ちゃま!
もう少しだけ我慢できるなんて嘘だったの!
うわーん、早くマリーたちのおうちに帰ってきてー!

こんなに毎日が大騒ぎで
クリスマスイブの夜も、サンタさんの近づくうれしい鈴の音が聞こえるかどうか
だんだん心配になってきたけど。
遠い夜空にだって、どこまでも声が聞こえそうで
マリーたちの家をうっかり通り過ぎて心配はなさそうね。
なんて考えていると、ますます待ちきれない。
早くサンタさんのプレゼントが届いて
素敵なクリスマスパーティーがはじまらないかな!

真璃の偽日記

『うわさ』

うわさ話に興味を持ってばかりの
おしゃべりな女の子は
ちょっとだけはしたない。

マリーはね、
会話はエレガントに楽しみたいの。
上品な話題が好きよ。

でもね、
話の引き出しは多いほうがいい気がするし。
いろんな人と話をしたいなって時には
知識がたくさんあったほうがいい。
吹雪ちゃんの好きな数学は高尚な気がするけど、ついていくのが大変なときもあるし。
というか、マリーにはわからないし。
吹雪ちゃんたら好きな話題になると夢中なのね、とかわいく思えたり。
一番長い時間を過ごしたいのは愛するフェルゼンの隣だけれど
マリーの好きな話ばかりになってしまったら、飽きてしまわない?
好きなフェルゼンの話だけ。
もちろん何も話さずにいる時間も、フェルゼンとなら心地よい。
だけど、長い時間を過ごす私たちに
ぴりりと気のきいた刺激は必要かもしれないわ。

やさしいフェルゼンは、虹子や青空が同じような話ばかりしていても
いつも優しく聞いてあげるけれど
マリーならもうちょっと、
他の人にはなかなかできない話題で
フェルゼンを楽しませてあげられたらいいかしら?
と思う。
どんな話が好きだろう?
同じ話ばかりだと飽きないかな?
つい、引き出しを多くしたくて
耳を傾ける、うわさ話。
はしたないかも。
でも、マリーも気高い女王の生まれ変わりとはいえ
女の子。
ついつい楽しむ
気さくなおしゃべり。
迷惑をかけたくないのに
詮索してしまうみたいになって、話題の主役が恥ずかしがってしまうと
マリーいけないわ!
と、苦悩しながらも
うわさ話をしてしまうの。
いけないわ!

それに今日は
ヒカルお姉ちゃまがいつもほど元気がないみたいだって
朝からみんなが心配していたのよ。

冬場にスタミナをつけたくて、
用意したらっきょうの瓶詰め。
お弁当に一個くらいなら、においもあまり気にならないかな?
苦手な子は言ってねーって
春風お姉ちゃまが明るく呼びかけながら、腕には力をこめているのに
ふたはなかなか開かない。
みんなも、らっきょうはカレーの付けあわせにもいいし
そろそろ家族みんなお料理のお手伝いも板についてきたところで
おいしいカレーパーティーもできるんじゃないかな、
きゃあきゃあにぎやかに話し合っていても
なかなか開かない瓶のふたを
いつの間にか息をのんで見つめている。
フェルゼンにも頼んで、立夏お姉ちゃまも挑戦したがって
順番に瓶が一同をめぐって
氷柱お姉ちゃまが瓶を開ける豆知識を披露しても
がっちり頑固に閉じたふたは、
微動だにしない。
こんなにみんなで力を合わせているのに、
大きなかぶじゃないから、全員で引っ張るわけにいかないのよ。
頼りになりそうなヒカルお姉ちゃまは
みんながお願いしても覇気がなくて
瓶詰めを手にしても、力が出し切れないみたい。
うんうんうなってるけど、開かないの。
どうしたの、ヒカルお姉ちゃま!?
顔が濡れていて力が出ないの!?
青空は変な心配をしていたけど
ヒカルお姉ちゃまの優しい笑顔は
新しい顔と取り替えたりできないもんね。
すぐに元気になったらいいのにね。
この調子では、
カレーパーティーはまだ先になりそう?
と、食い意地を張っている場合でもないかも?
マリーたちが心配してもしょうがないことかもしれないけど
観月やさくらと、幼稚園でも暇があれば顔を合わせて相談し合った今日。
その後、帰ってきたヒカルお姉ちゃまから話は聞いたわ。
喫茶店の家のお友達と、いろいろあったのね。
確かに、忙しいクリスマスにアルバイトをしてくれたら助かるけど
ヒカルお姉ちゃまならいつでもいいらしい。
暇なときはまたよろしく、って
今日は喫茶店とは関係ない、梅干のおにぎりをくれたって。
よくわからないけど、
商売をしている家の娘さんって、たくましいのね。
マリーたちも、ママが本気になったら大変かもしれないわ。
フェルゼンをセンターにしたいみたいだし。
もし本当にそんなことになりそうなら、
マリーはフェルゼンの味方よ。
一緒にアイドルグループに入って、すぐ近くでいつも助けてあげる。
任せて。
お弁当に間に合わなかったらっきょうの瓶詰めは
ふたが緩んだのか、ヒカルお姉ちゃまが元気を取り戻したらひとたまりもないということなのか
晩ごはんの支度の途中に他愛もなく降伏したわ。
アルバイト先で、お料理に詳しいお友達から
瓶の開け方の工夫を本格的に聞き込んできた氷柱お姉ちゃまが
呆然としていたっけ。
リベンジ果たせずね。
たぶんマリーたちの家族は、難しい理屈に頼るより
考える前にまず体でぶつかっていくのが向いているのよ。
そういう家系なのね。
この瓶のふたを何としても開ける! とか
蛍お姉ちゃまが晩ご飯の支度をできない日でもカレーを作ろうよ! とか
フェルゼンのことが誰よりも好き! とか。
カレーパーティーの予定は、日付はまだ決まっていないけど
ヒカルお姉ちゃまは、喫茶店の子からコツを聞いてくるから
きっとうまくできるよ、ってその気になっている。
マリーの正直な心境は……
ヒカルお姉ちゃまのことだし、あんまり全面的に任せたら不安な気はするけれど。
張り切っている元気な人の力をうまく引き出してあげるのも、女王の仕事。
やめたほうが、なんてそんな誰にでも言えるような忠告は
マリーは言いたくないわ。
がんばって、ヒカルお姉ちゃま!
もしも、予想をまったく裏切らない結果が出たとしても
マリーは決して責めることなく、全てを受け入れるわ。
それよりもマリーは、ヒカルお姉ちゃまの深刻な悩みが解決したことを
一緒に喜びたいの。
大好きな家族の悩みも知らないで
うわさ話を控えるのがエレガントとか言ってる場合じゃない。
だから、マリーが少しおしゃべり好きでも
フェルゼンは大目に見てくれる?
カレーパーティーをするなら、麗お姉ちゃまが今は大変そうだからその後がいいとか
きっと失敗したらすごく落ち込むと思うし、みんなでおいしく食べるなら早いほうがいいとか
いろいろ意見が出ているの。
失敗するって決まっているみたいな話になっているのはなぜかしら?
やっぱりうわさ話は、気を使って控えめに話したほうがいいかな。
フェルゼンは、カレーパーティーはいつがいいと思う?
もしもみんなが決めかねているうちに、付け合せにしたいらっきょうがなくなっても、
まだ保存している瓶はあるそうだから
ヒカルお姉ちゃまがちゃんと開けてくれると思うわ。
福神漬けを作ってもいいし。
我が家では、小さい子を中心に福神漬け派が多いの。
マリーはらっきょうも好き。
でも、これはナイショね。
うわさ話の種にしたらだめよ。

真璃の偽日記

『マリーが大きくなったら』

氷柱お姉ちゃまがアルバイトに行くことになったの。
大丈夫なのかしら?
月、水、金の放課後と、それから土曜。
日曜日は家にいるって。
土曜以外は、見事に蛍お姉ちゃまとずらしたわね。
フェルゼンが寂しいって言ったの?

それにしても、どうしちゃったのかしらね。
クリスマスまでの臨時のアルバイトだって。
今まで、そういうの全然興味なさそうだったのに。
蛍お姉ちゃまなら、かわいい制服を見るとすぐ働いてみたいって言うから
まだわかるわ。
氷柱お姉ちゃまが働くなら、もっと向いてる仕事がたくさんありそうだと思うけど。
お皿を落として割ったりとか
食べ物を落としてしまったりとかすると
それはもう、すごく怒られるんでしょう?
お客さんにも笑顔でごあいさつなんて
氷柱お姉ちゃまにできるのかしら。
うーん……
クビになって帰ってきたときに慰める言葉を考えておいたほうがいいのかな。
フェルゼンはどう思う?

蛍お姉ちゃまに続いて、氷柱お姉ちゃままで。
いったいどうなることかと思ったけれど
家のことは、フェルゼンを中心にしてそれなりに回っている。
みんなで協力してがんばっている結果が
そろそろ形になってきた感じね。
小雨お姉ちゃまもそんなに失敗しなくなってきたし。
まわりを見回す余裕も出てきて、
夕凪ちゃんや吹雪ちゃんがとても料理とは思えない謎の実験をしていても
すぐに見つけて、
アドバイスをしてあげられるようになったらしいの。
そこはこうしたほうがいいですよって。
止めなくていいの?
実験なのに。
でも今のところ、食べられない料理は出てこないから大丈夫なのかな?
焦げすぎたり、生焼けだったりすることも少なくなってきたわね。
でもね。
マリーたちもがんばっているんだから、忘れないでね。
小さくても協力しているの。
お姉ちゃまたちが忙しくてあまり遊んでもらえなくても、
文句ばかり言ってないで、マリーが小さい子を見てあげなくちゃ。
積み木やおままごとで遊んであげたり、
絵本を読んであげることだってできるの。
外から帰ってきたら、うがいと手洗いを忘れずに。
あと、これからケーキの試食が増えるんだから、しっかり歯を磨かないとね。
なまけていたらマリーが許さないわ。
小さい子のお世話は任せて!
大変なのは、クリスマスまで。
クリスマスには蛍お姉ちゃまと氷柱お姉ちゃまも、お仕事を済ませて帰ってくるの。
無事に帰ってきてくれて、
そしてみんなでいられることが、きっとマリーたちの一番のクリスマスプレゼントね。
あ、もちろんそれとは別にプレゼントはちゃんともらうわよ。
サンタさんにもらえるプレゼントじゃないらしいのよね。
家族との時間みたいなものは。
だから、プレゼントは違うものをお願いしなくちゃ。
そういえば観月は、交通量の多くなる年末だからお守りを作るって言ってるの。
風邪を退散させる健康のお守りとかもね。
サンタにお願いしても、安全や健康はなかなかもらえないから。
大切なものなのにね!
お迎えがいつも大変なフェルゼンも、もらってね。
マリーたちみんなで祈りを混めて、お守りを作ってあげるわ。

もう少しマリーが大きかったら、
みんなが働きに出たいって言ったときに、
あら、それじゃあここで働けばいいわってお店を出すくらいしてあげるのにな。
それくらいのこともできないまだ小さい子なのが悲しいわ。
家族みんなで働くほうがきっと楽しいのにね。
本当に大丈夫なのかな、氷柱お姉ちゃまは。
知らない人のところに働きに出かけちゃって。
あの性格だから誤解されて怖がられてしまうかもしれないわ。
本当はやさしいお姉ちゃまだってわかってもらうのに、時間がかかると思うの。
まったく、どうしていつも意地っ張りなのかしら。
女の子は素直が一番なのにね。
まあ、いつもまじめで手を抜けないのも、氷柱お姉ちゃまのいいところなのよね。
お店の人たちにも伝わるといいわね。
そうだ、フェルゼンは聞いた?
蛍お姉ちゃまと氷柱お姉ちゃまがアルバイトに行く話は
早くも学校でうわさになっているみたいで、
なんと!
春風お姉ちゃまやヒカルお姉ちゃまはもちろん
立夏お姉ちゃまにまでお誘いが来ているそうよ!
クリスマスメニューを用意している喫茶店やファミレスは、どこも人手が欲しい時期。
臨時のアルバイトが春風お姉ちゃまやヒカルお姉ちゃまなら頼りになるはず。
お誘いする人の気持ちはよくわかるわ。
立夏お姉ちゃまも誘われるのは不思議だけど。
でも、これ以上家から人手が減ると困るから断ったんだって。
それに、春風お姉ちゃまたちはおうちで過ごしたいみたいだし。
フェルゼンのところにもお誘いが行くかもしれないけど
ちゃんと断ってね。
フェルゼンのお仕事は別にあるんだから。
おうちのこともそうだし、
それに、霙お姉ちゃまが参加する合唱会。
そっちに出るのよね?
生徒会と、教会の人たちが協力して開催するクリスマス合唱会。
幼稚園の子たちも参加するのよ。
もちろん、マリーも観月もさくらもね。
さくらはよくわかっていないみたいだけど。
まだ小さいから、教会がなんなのかよく知らないみたいなのよね。
マリーもあんまり詳しくないけどね。
幼稚園で開催する合唱会と、教会で開催する合唱会。
二日続けてある予定。
教会のほうは幼稚園の子が自由参加だから、本番は幼稚園でやる日。
それぞれのおうちの人たちも招いて、盛大なパーティーになるわよ。
霙お姉ちゃまは、フェルゼンが忙しいのはわかっているみたいで
一曲だけでもいいから合唱に参加してほしいな、って言ってたわ。
参加することになれば、無関係な人より裏方のお仕事も任せやすいからって。
霙お姉ちゃまも意外とやり手なのね。
フェルゼンも、マリーたちと一緒に合唱の練習をしたいでしょう?
時間を作ってぜひ遊びに来てね!

おうちのことも大変だと思うけど
マリーたちも、小さい子にできることがあったらサポートするわ。
話を聞いたの。
今日、蛍お姉ちゃまから教わったお料理のこと。
ついに、あれに挑戦するのね。
にんじんとピーマンを細かく切って、わからないように混ぜるハンバーグ。
大丈夫よ。
マリーは誰にも言わないわ。
にんじんとピーマンくらい何よ!
あんまり得意なほうではないけど。
好き嫌いなんて言わないで、たくさん食べることが
子供にもできる大事なお仕事なのよね。
マリーはがんばって、にんじんとピーマン入りのハンバーグをおいしく食べるわ!
あ、大きな声を出したらいけないわね。
フェルゼン、
もしも慣れていないお料理のせいで
ハンバーグの中身がみんなにばれてしまったとしたら
マリーは先頭に立って、おいしいって食べて見せるわ。
誰もが食べたくなってしまうほどに。
それが、フェルゼンを愛するマリーのつとめ。
愛のために今のマリーができるたったひとつの行為なの。
ああ、本当にマリーがもう少し大きかったら
他にもできることがあったのかもしれないのにね。
ハンバーグ──
きっとおいしく作ってね。

真璃の偽日記

『さそり座』

お空のさそりは──
オリオンを一突きしたさそり。

オリオンが何をした人なのか
よく知らないけど。

地味な位置よね!
さそり。
もっと主役ばりに前に出てきていいのに。
マリーの星座なんだし
胸を張っていいと思うわ。
さそりだからって、潜んでいないで
堂々と輝いていい。
マリーみたいに。
毒を持って生まれたからって
何も卑下することはないわ!
うっかり動物を刺してしまう体だとしても
いやな運命に従う必要なんてないわ!
マリーが見ていてあげる。
たくさん教えてあげる。
マリーの星座で、分身みたいなさそり。
世界の誰も体験できない、マリーの近くにいる人だけの特別をあげる。
身をもって実感してもらうから。
出ておいで!
さそりだって華やかなエピソードに恵まれて
目がくらむほどのスポットライトを浴びてみたいときもあるでしょう?

さそり座は、妖艶の相だとか
男を惑わす美人の星座だとか
ちょーっとだけ、わがままな悪女のふしがあるとか
世の中では言うみたい。
これに、華やかで人をひきつけるって性格を付け足せば
わりとマリーに当てはまるかもしれない。
占いのさそり座については、まあ納得できるとします。
霙お姉ちゃまが、バルタン星人みたいな衣装を作ってもらって
ご満悦なのも、別にマリーはおそろいではないし、まあいいでしょう。
マリーよりずっとお姉さんなのにとても喜んで、微笑ましいのよ。
昔は、ヒカルお姉ちゃまや立夏お姉ちゃまが男の子っぽいヒーローものを見ていたから
それに付き合って自分もごっこ遊びをしていたことを思い出して
ちょっと懐かしいんだって。
さそりじゃないような気もするけど
あんまり馴染みのない生き物だから、それっぽかったら別にいいみたい。
もともと、かに座の星花ちゃん用に作っていたハサミだったの。
星花ちゃんは鎧武者になったのよ。
もちろん本物の鎧というわけじゃなくて
やわらかい素材でそれっぽく見せている
ふわふわあたたか武将。
でね、霙お姉ちゃまのハサミは、お菓子収納スペースが多く隠されているみたいだけど
こちらもふんわり素材だし、あんまり詰めたら破けてしまわないかしら?
あんまり本格的な作りじゃない仮装があるとしても
マリーの衣装は、こだわってきらびやかにしてほしいってお願いしているの。
そこまではいいのよ。
吹雪ちゃんがね、魔界から来た悪魔に扮するの。
先っちょが分かれたフォークに似た槍でつんつんしてきそうな
かわいらしいいたずらっ子。
女の子は小悪魔っていう理由もある。
吹雪ちゃんのおとめ座は、正義の女神様アストライアが由来なのにおかしいと思う?
でも、地面の下の神様に見初められて奥様になったペルセポネという説もあるんだって。
ペルセポネが地面の下にいる間は、おとめ座も天に姿を見せない。
おとめ座の一等星スピカは、乙女が手にする麦の穂のように見えることが名前の由来なの。
ペルセポネが地上に戻るとき、春の恵みをもたらすからって解釈もある。
なかなかドラマがあるのね。
壮大ね!
吹雪ちゃんの悪魔っ子はかわいいだけに見えても
小さい妹や赤ちゃんたちにとても興味があって、しかも研究熱心な性格だから
やがて大きくなったら、我が家に生命の恵みをいっぱい運んできてくれるのではないか。
とは、蛍お姉ちゃまの説明。
物語があるって、いいわね。
さそりはないのよ。
刺すだけなんて!
蛍お姉ちゃまにお願いはしているのよ。
マリーの衣装は絶対かわいく作ってね、
フェルゼンがいつまでも忘れられないくらいにしてね、
マリーにいちばんよく似合う衣装を作ってね。
たった一日限りの仮装であっても
女の子はかわいくなることにはいつも真剣。
妥協しないで、世界で一番の美人になりたい。
いつもそうでいたい。
ただ一人の愛する人の目を奪うために、誰よりもきれいになりたい。
もしマリーがまだ小さくて、できないんだとしても
愛のために挑戦する気持ちを忘れてしまったら
それはもうマリーではないわ。
なのに、蛍お姉ちゃまったら
さそりは毒があるから、
ハロウィンならゾンビということかしら、
ですって!
わーん!
マリー泣いちゃう!
必死で止めたけど
代わりのアイデアが思いつかなくて。
何かないかしら。
ハロウィンパーティは31日。
時間はもうそんなにない。
フェルゼン!
マリーがどんなハロウィンを迎えるか、
美しい永遠の思い出になるかそうでないかが
この判断で決まってしまうのよ!

ここは発想の転換で、
星座のさそりにマリー好みのエピソードがないなら
勝手に作って、これから流行らせていいんじゃないかしら?
たとえば、
いつも美しくあろうとしているけれど
愛するフェルゼンはつれないことに恥ずかしがって
かわいいとか、好きだとか素直に言ってくれないので
すねたさそりはおしおきに、ちくりとしびれさせてしまいました!
とかね。
恋人たちは、いつも素直が一番。
ハロウィンのマリーが誰よりも美しかったら、きちんと褒めてくれないとだめよ。

真璃の偽日記

『年長さんの休日』

とっても暑い日曜日。
真夏のよう。
フェルゼンも、ちっちゃい子たちにくっつかれて
ますます暑かったんじゃない?
どんなに暑くて夏に逆戻りしたような陽気でも
水着はもうしまっちゃった。
風はほんのり冷たいし
わがままな女の子だって
今どきプールには入りません。
秋だから。
おやつはアイスじゃないの。
くりなのよ。
くりのどら焼きよ。
あんこを家で作るのって、とっても大変なのよ。
って、マリーが作ったわけじゃないけど。
横で見ていただけ。
春風お姉ちゃまも蛍お姉ちゃまも
達成感があるのか
輝く笑顔。
高校球児みたいに戦い抜いた表情。
流れる汗。
スポーツマンと違うところは、
食べてくれる人を思ってきらきらする瞳と
さわやかな秋風にそよぐエプロンのフリルが
恋する乙女のよう。

ねえフェルゼン。
マリーね、
せっかくの連休なのに
アンニュイなの。
あんこ作りをわくわくしながら見ていたら
どうしてマリーのおなかは限界があるんだろうと
物思い。
小さなマリーは、せっかく食材が豊富な季節なのに
あんこ作りだって、大根おろしだってお手伝いできない。
みんなで家事のお手伝いをしたって、
お姉ちゃまたちみたいに年季を積んだわけじゃないから限界があるし
こんなんじゃ秋を食べつくせないわ!

秋のせいなのね。
夏みたいな日差しの下で飛び跳ねていれば
すっかり消えていきそうな胸のつかえ。
まだ真夏を思わせる事態は、まぶしい太陽のほかにまだあるの。
たっぷり汗をかいた服の山盛りと
雨が降ったら洗濯物が乾かせなくて困るということ。
マリー、干すわ。
この美しい日の光を少しも無駄にしたくなくて
洗濯物を抱えて、物干し台に向かうわ。
おやつを味わいつくせないと嘆くより
体を動かしておなかをすかせて
おいしくいただくほうが建設的なの。
いい子でお手伝いすれば、
おやつやごはんのリクエストも聞いてくれることが多いし。

洗濯物を干す休日は、
園児としてはどうなの? と少し悩んだりもするけれど。
同じ幼稚園に通うかわいい妹が二人もいるんだから
マリーがしっかり世話をしてあげたい。
汗をかいたら着替えを洗って、干してあげて
年長さんとはこういうものなんだと
堂々とした背中を見せてあげたいわ。

昨日はおでかけもしたことだし。
遊んでばっかりでは、立派な大人になれなくて恥ずかしいものね。
ただでさえ、マリーが目指すのは大人どころじゃない、女王の風格。
心も体も大きな人間になりたかったら
子供の頃はよく遊び、よくお手伝いをして、よく食べるといいという話。
フェルゼンも、子供時代はそうだった?
というわけで今日のマリーは家事の専用の作業服。
メイドさんです。
ドロワーズもばっちり身に着けて、下着から気が引き締まるわ。
活動的な年長メイドさんが我が家に出現。
家事をする。
羽ばたくように揺れるフリルエプロンは、
美人のお姉さんたちだけのものではないのだと
マリーがみんなに見せつけてあげるわ!
幼稚園児だって、家族のために何かしたい。
お洗濯日和が嬉しいの。

フェルゼン、今日は汗をずいぶんかいていたみたいね。
さあ脱いで!
メイドの仕事はお洗濯だけじゃ終わらない。
いつも家族を大事にしてくれてありがとう、
ちっちゃい子のお世話でお疲れ様の体に
マッサージもしてあげたい。
メイド服には、どこか力こぶが似合う。
なんでもお任せくださいって
頼りになりそうだからかしら。
普段から鍛えているからって。
優雅な白鳥は水の下で足を動かすの。
そんなに高貴じゃないように見えても、
このメイド服だってマリーに似合う衣装のひとつよね。

真璃の偽日記

『あらし』

女王の朝は
小鳥のさえずりを聞きながらの
心地よい目覚めよりも
もっと華麗なの。

どんな朝かというと
キスをされて起こされるか
キスをして起こすか
どちらかよ。

でもそんな朝は
マリーが本物の女王になってから。
今は幼稚園に通う身なのだから
子供らしく迎える朝。
同じ部屋のチビちゃんたちを起こして
着替えさせて
みんなでそろって
元気に朝の挨拶よ。
おはようございます!
おはよう、フェルゼン!
顔を洗って、あさごはんを
いただきます!

でも、今朝はそれどころじゃなかったの。
目を覚ました時には
お外から、すごい風の音。
おまけに雨が大粒で叩きつけている。
あんな音がしたら
観月だって妖怪が来たと思うわよ。
さくらも虹子も、わけがわからないまま
おにーちゃーん!
そりゃ、うろたえるわよ。
青空だって、部屋の中まで風が吹いていると思って
音が強くなったらふとんにころりんしたりするわよ。
まだ明るくなりきらないうちから起き出して
部屋のみんなで顔を合わせて相談して
決めた!
助けてもらおう!
きゃー!
こわいよー!
廊下を走っても今日だけは、
あぶないって叱られなかった。
家族の誰もが、心細いのは同じだから。
もう起き出している春風お姉ちゃまと蛍お姉ちゃまに会いに
キッチンに早めに突入よ。
温かい牛乳をもらって、少し落ち着いたら
大勢が寄り添っていられるように
テーブルの椅子をなるべく近くに並べて
固まって朝ごはん。
抱き合いながら、テレビで天気予報を確認。
海晴お姉ちゃまは、なんと昨日の夜から
お泊りでお仕事なの。
台風情報が続いて、気象予報士さんが何人も交代で
海晴お姉ちゃまも、いつもの番組以外でも
ときどき顔を出すのよ。
あっまた映ったって、喜んでなんていられない!
真剣な表情で伝える台風の情報。
麗お姉ちゃまの愛する電車たちも動けない。
こんな大変な日は、いくら日ごろは働き者の電車だって、
おうちでお留守番したいわよね。
そういうわけにもいかない海晴お姉ちゃま、
本当にお疲れさまだわ!
いくら同じお天気が続いたら予報していて飽きるからって
こんな大嵐は歓迎できないわね。
さすがの女王でも、天気を変える力はないの。
ごめんね、海晴お姉ちゃま。
せめて苦労をいたわるのは
小さいからと言い訳せずに、したい仕事だわ!
マリーはお給料上げたりとかできないけれど
夕方、海晴お姉ちゃまが帰ってきたときに
静かに休めるよう、みんなを説得しました。
そういう理由で
フェルゼンと吹雪ちゃんと
氷柱お姉ちゃまの
激しい決戦も
台風の通過とともに
夕方には落ち着いたみたいね。

大嵐が巻き起こったのは
家の外だけではなかったの。
まあ、台風よりはたいしたことないけど
参加する人は真剣よ。
頭の回転を武器にして競い合い、
宇宙のご本を借りる順番を決めようと
パズルを始めたフェルゼンと吹雪ちゃんに
知恵では負けられないと
なぜか参加を表明した氷柱お姉ちゃまの
三つ巴の合戦。
ルービックキューブの早解きや
スライディングブロックパズルのミニゲームは
横で見ていてすぐ勝敗がわかるけど
だんだんと、紙に記号を書く
難しいパズルになっていって
結局、誰が勝ったのかしら?
審判の霙お姉ちゃまは、
最終的に三人の健闘をたたえて
とっておきのどら焼きを、努力賞として分けてくれたみたいね。
いいな。
おいしかった?
戦いの後の友情のおやつは格別よね!
マリーも実はおいしいものを食べたの。
こんなお天気の日は
食べるものも、避難訓練のときの缶詰やカンパンになってしまっても
仕方がないかなと思っていたら
台風の予報を見て、お買い物を済ませておいた
計画性のある春風お姉ちゃまと蛍お姉ちゃま。
こんなところにも、知恵者よ!
きのこごはんとさんまのメニューは
秋が嬉しく思える出来事の一つ。
台風は大変だったけど
もう秋が来るのね。
マリーは女王にしては家庭的な育ちで
庶民の気持ちが分かるタイプなの。
目黒のさんまが一番なんてことも言いません。

真璃の偽日記

『女心と』

雨の日に
あったらうれしいもの。

色合い
はなやか
きれいな
かさ。
きれいな
ながぐつ。

替えの靴下も
あったら便利だけど
それはちょっと意味が違うの。

おしゃれな雨具で
なんだかときめく。
それがうれしい。

変わりやすい天気。
秋の天候は、女心に例えられるけど
女の子は、いつだって一途なのにね。
ただ単に、愛する人に
一番きれいな姿を見せたくて
かわいくておしゃれな持ち物に
心が揺れるだけなの。

このところのお天気は
秋雨前線の影響なんだって。
海晴お姉ちゃまが天気予報で言ってたわ。
秋の雨にしては、
降るときは激しくて
まるで真夏の夕立。
これじゃあ、
かわいいかさやながぐつで雨を楽しく
どころじゃないわ。
濡れないように大変な努力。
欲しくなるのは靴下、着替え。
必需品。

雷は鳴るし
薄暗いし
蒸し暑いし
怪談は似合うし
秋の雨って本当かしら?
午後になって、お空のはしに雲が湧き出すと
わーっと降って
見ているうちに
からりと晴れて
外に飛び出す
20人きょうだいの
長い影。
休日の過ごし方が
夏休みとまるで変わらないわね!
いいけど!
やっぱり、9月になってまだ一週間じゃあ
急に変化はないのかしら。
しとしと雨を
お気に入りのかさで歩く優雅なマリーも
まだもう少し先ね。
秋になったら食べものがおいしい季節なのに
その気でいても、まだ暑いし。

心はもう
あきだわ!
くりだわ!
なすだわ!
さつまいもだわ!
収穫を待っているというのに。
気温のせいで体は、軽いおそうめんを求める。
小さな秋は、まだ気がつかないどこかにあるの。

フェルゼンたちの学校の
秋の祭典、学園祭は
今月の末ごろにあるのでしょう?
その時期にはあんまり真夏みたいな雨は降らないと思うから
天気が悪くても、自慢の傘で行くわ。
しっかり準備していてね。
というか、がんばって準備するんだから
晴れるほうがいいわね。
これからしばらく、お姉ちゃまたちは
放課後や休日が
学園祭の準備で忙しくなるかも、って言うの。
さみしいけれど、
家族のみんなが充実した学園生活を過ごすためだもの。

フェルゼンも文化祭では
お帰りなさいませご主人様って言うの?
蛍お姉ちゃまが練習していたわよ。
そのうちおうちでメイドキッチンも開催する予定とのこと。
練習のため、家族で協力よ!
蛍ちゃんが立派なメイドさんになれるまで。
マリーは女王様だけど
メイドにお世話してもらったことはあまりないの。
慣れないことで戸惑うかしら?
まあ、なんとかなるでしょう。

幼稚園の運動会は、フェルゼンたちの次の週。
フェルゼンたちの姿を見て、マリーたちも輝くわ。
それでね、しばらくの間
マリーがさみしい思いをしているということを
忘れないでいてくれたら
ごほうびに
学園祭が成功した後で、
ふたりきりの時間をあげたいな。

真璃の偽日記

『女王のお祭り』

夏の旅行も
とうとう終わってしまったわ。

楽しい時間ほど
過ぎ去るのは一瞬。

さよなら!
またね!
さざなみのエメラルドブルー。

そのうち、
一年くらいかけて
旅行しましょう!

そうなるのは──
マリーやおうちのみんなが長い休みを取れる
大人になってからね。

あら、
大人になったら
フェルゼンとふたりきりで旅行に行っても
いいんじゃない?
もう子供じゃないんだし。
大人になったら。

女王の魅力で
ホテルを貸切にしようね。
あの海も。
砂浜も。
星も月も、
おひさまだって
愛するふたりだけの
貸切。
いくらなんでも
そんなことをしたら
みんなが困ってしまうので
大人がかばんに入れていく
どうしても必要な最小限のものは
一番大事なものだけ。
お互いを何よりも大事に思う
愛し合う気持ちだけを
貸切にして
旅行に行きたいな。
お忍びね。
どこの新聞だって、取材お断り。
海晴お姉ちゃまが頼んできても
ママが頼んできても
テレビに映せない
家族水いらず。
ふたりの旅を
守り抜くわ!

まあ、そんな先の話はおいといて。
夏休みも半分が過ぎて、
みんながそれぞれ
今のうちにできることを
今だからこそ。
何をする?
宿題をする。
電車の絵を完成させる。
夏服でファッションショーをしておく。
もう少しになった夏休みを
まだまだ楽しみたくて
仕方がないの。

盆踊りをするお祭りを
小さい子は楽しみにしているみたいだけれど
お祭りがやって来たら
それで本当に
今年の夏休みは終わり。

夏休みのはじめにあったのは
盆踊り保存会の主催。
気合の入った
盆踊り精神。
暑い夏の始まり。

夏休みの終わりにあるのは
街の商店街と子ども会の主催。
イベント盛りだくさん。
のどじまんもあるし、
花火も上がるわ。
盆踊りというよりは、
去り行く夏を惜しむような
お楽しみの一夜。

いえ、一夜じゃなく
連休の間のお祭り。

もちろん、どちらも
マリーが輝くお祭り。
盆踊りでみんなの視線を集める
エレガントな振る舞い。
誰もがため息をついて眺める
手の届かない存在の
その横に
フェルゼンがいるのも
お祭りには当たり前の風景。
夏のはじめも
終わりが来ても。
身分や年齢の差を乗り越えて
ときどき意地悪な運命が与える
どんな試練にも離れずに
寄り添う二人なのよ。

楽しみね。
日本に生まれて
日本で育つ
マリーが踊る
日本の踊り。
盆踊りよ!

女王の華麗さは、
前世のフランス仕込み。
情熱のリズムは
フェルゼンと育てている
家族愛。

ああ、
夏休みが終わってほしくないような、
早くお祭りの日が
来てほしいような!
女王の休日は、
揺れる心で過ごすものなのね。

真璃の偽日記

『バカンス』

むかしむかし。

おじいさんは、
海へバカンスに。

おばあさんも
海へバカンスに。

桃太郎も
かぐや姫も。

鬼も
乙姫も
みんな、海に向かいます。
バカンスのために。

フランスではいつもそうなのよ。
桃太郎だって、フランスに生まれたらきっと。

マリーも思い出すわ。
遠い前世──
地中海までバカンスに出かけたこと。

潮を含んだワイルドな風のにおい、
砂浜に照り返すまぶしい日差し、
寄せては返す波の音。
じゅうじゅう焼けたイカの香ばしい味わい、
ソースの味が強烈な焼きそば、
焦げた焼きとうもろこしのコクのある甘みを
まとめて
レモンの風味のラムネで流し込む
海の恵み、というか
砂浜のとれたて名物。

フランスの冬はほかほか焼き栗がおいしいって
よく聞くから
別におかしいと思ってもいなかったんだけど
やっぱりおかしい?
この記憶。
吹雪ちゃんが調べたら、
フランスにバカンスの習慣ができたのは
革命からずいぶん後。
マリー・アントワネットはあんまり地中海に行かなかった。
どうやら、
前に家族旅行で海に行ったときの思い出らしいの。
波に足を取られて、かき氷を落としたさくらが
泣いてしまったこと。
なぐさめて、分け合って食べた焼きそばの味。
女王のためだけに築かれた
海辺の別荘だと思っていたものは、
砂で作ったお城だったこと。
海辺に一日でお城を建てた、記憶の中の魔法使いは
夕凪お姉ちゃまだったのね。
あの城はどうなったのか、女王としては管理しておかないと、って
ずっと心配していたの。
革命に紛れて、誰かのものになってしまったかも、
私たち家族がいつか出かけるとき、今も泊まれるようになっているかな?
波にさらわれて、今はもうなくなっちゃった一夜の夢。
気にしていたなんて、笑っちゃう話ね。
フェルゼン!
今度は本当の城を作るわよ。
何事も、愛をこめて一生懸命作り上げたものが
本物なの。
たとえそれがまた、一晩で崩れる砂の塊だったとしても──
今度は夕凪お姉ちゃまに作ってもらうんじゃなくて
フェルゼンとの愛で築き上げるんだもん。
そう!
運命のじゃんけん決闘はマリーが勝ち抜いたので
夏の家族旅行の行き先は
フランス地中海に決定です!
と言いたいけど、
マリーはまだ小さいから
お姉ちゃまたちのアドバイスを受けて
変更です!
真の旅行先は、
南の島の本物の夏。
トロピカルでセクシーな
沖縄よ。
出発は次の次の月曜。
まだ一週間以上あるからって
安心していられない!
みんなで水着を買いに行きたいし
立夏お姉ちゃまと夕凪お姉ちゃまは、旅行までに
半分以上は宿題を進めておかないと
旅行先に持っていって、宿題することに決まっているの!
吹雪ちゃんが予定を計算しなおして、このままで旅行に行ったら間に合わないって
わかったから。
マリーと観月も、自由研究を手伝うのよ。
吹雪ちゃんも罪なことをするわね。
近場で旅行を済ませるための説得の材料だったらしいけど
旅行が沖縄に決まったら、もうじたばたしても仕方がないって
張り切ってシーサーについて調査の準備を始めたわ。
立夏お姉ちゃまたちにはとばっちりよね!
フェルゼンは、宿題は進んでる?
もし余裕があったら、手伝って!
自由研究のテーマがまだ決まってないんだって。
吹雪ちゃんは、観月ちゃんに手伝ってもらって
沖縄の伝説の生き物を調べるの。
つまり妖怪の情報。
星花ちゃんは、沖縄の王様の歴史を調べることに決めたんだって。
エキゾティックでいいわよね。
マリーが小学生だったら、沖縄のお姫様の歴史を調べるのに。
立夏お姉ちゃまも、夕凪お姉ちゃまも、歴史は苦手なの。
というかそもそも、研究が苦手らしいのはどうしたらいいのかしら。
暗雲たちこめる自由研究よ。
伝説の生き物といえば、マリーの昨日の夢に出てきて
今日のじゃんけんで全部パーを出すように言っていた
毛むくじゃらの塊は
あれも妖怪っぽかったけど、なんだったんだろう?
女王としては、この小さなかわいらしい生き物の真剣なお願いは
聞いてあげなくちゃいけないわ! って、
そしたら連戦連勝。
きっと沖縄の神様か何かが、またマリーたちに会いたがっているのね。
何かが呼んでいる夏の旅、歓迎してくれているかな。
もしもこれが、女王の命を狙う悪人の罠だったとしたら
マリーが危機に陥ったとき、
フェルゼンは助けに来てくれるわよね。
期待しているわ。


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