アルケイディア&キュクレイン

アルケイディア&キュクレイン TOP  >  麗

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

麗の偽日記

『明日は』

関東地方でも
午前から降り始める雪が
一日中続く場所もある予報。
積もる雪で
足元には注意。
公共交通機関にも影響が出て
通学や通勤の足が止まるかもしれないから
気をつけて行動するようにと
海晴姉様も予報していた。
特に、電車には大きな影響が出るだろうから
わがやの自慢の
電車好きの子は、あまり落ち込まないように
元気を出して。
と、
私は見ていないけれど、そう言っていたと
立夏ちゃんから聞いたわ。
もう!
わざわざテレビでそんなこと!
だいたい、
もっと心配することが他にいっぱいあるでしょう。
寒くなるから
体調管理は注意。
この前みたいに、張り切って雪かきをして
汗びっしょりになってしまったら
ただでさえ、大変な一日になりそうなのに
はたして体力が持つのかしら?
張り切るとなかなか止まらない性格は
家族だから似ているのか
この家にも、そんな人はたくさんいて
特に、後からやって来たはずなのに
いちばんこの家族らしいというか
どこかで見たところのある困ったところばかりというか
後先を考えないというか
なんでみんなにこんなに似ているんだろう、
と疑問で仕方がないような。
買出しの荷物持ちも
毎日の皿洗いも
お風呂掃除も
少し前の秋は落ち葉の掃除だって
いつの間にか中心になって
みんなに囲まれて
やけにうれしそうに。
明日も、疲れているんだからとか
何も言い訳をしないで
子供みたいに雪景色に飛び出して
みんなに囲まれて、はしゃいでいるのね。
そんな性格だから
あっさり自分の部屋からも追い出されてしまう。
こんな日にも、あなたは
文句も言わずに
リビングのソファで眠るのね。
いえ、
四六時中観察しているわけでもないし
文句を言わないかどうかは知らない。
みんなが気を使って、私に伝えないだけかもしれない。
それに、心の中を覗くことはできないから
実は内心では不満があるとしてもわからない。
でもたぶん、
たいして不満も言わないだろうし。
それで気を悪くしてもいないだろうし。
困っているのがわかるのに
うれしいのか何なのか
楽しそうにしているのだと思う。
今日も。
広いリビングで、
急ごしらえの布団をソファに敷いて
まるまりながら。
きっと世界で一番幸せな日を過ごしていると
何も疑っていないような
いつもののんきな顔で
憂鬱な大雪が降るのに
何もかもが待ち遠しいみたいに
明日を待っている。
旅行のとき、立夏ちゃんにつっつかれた
あの無防備な寝顔を浮かべて
眠りにつくまで
もう、あとわずかな時間。
ほんの数日前、
私が旅行カバンと自分の布団を抱えて
部屋を譲るよう要求したときに
立夏ちゃんと仲直りするように
やけに心配して。
別にけんかをしたわけじゃなくて
しばらく落ち着いたところで考え事をしたいだけだからと
そんな短い説明で。
そわそわ
心配そうに。
のそのそ
困ったように。
何度も振り返りながら
自分がこれからどうなるかも想像していないみたいに
人のことばかり気にしていたらしい
私がどうしても向き合っていく
イベントの当日が、明日にはやって来る。
あなたにも大変な日になることは
わかりきっているはずなのに。
盛り上がる女の子たちに全力で体当たりされて
一日を走りきって
お疲れで通り過ぎていく
毎年の、この日。
私だって
普段から感謝はしていないわけじゃないけど。
というか
いつも助けてくれているのでなければ
こんなふうに困ったときに、駆け込んだりはしない。
いつのまにか私のことばっかり
こんなに気にかけていて
19人も姉妹がいるのに大丈夫なのかな、
と思って
改めてじっくり観察してみたら
ちゃんと、家族みんなのことを
同じだけ気をかけているようにも見える。
その状態が、本当に大丈夫なのかどうかは
おおいに疑問だとしても
私が頼れる先を
真っ先に思いついたみたいに
たぶん、姉妹みんなが頼りにしていて
いちばん大好きな
自慢のお兄ちゃん。
もしくは、弟。
あるいは同年齢。
私の家族。
それは、みんなが日頃の思いを胸に
お世話になっている気持ちとか
感謝とか
迷惑をかけて気の毒だとか
せっかくいい人がいるんだからとか
あれこれの理由があって
チョコをあげたくなる
そんなことだってありえるわ。
家族に男の人がいなかったら。
それがこんなふうに、みんなでチョコをあげて
あげるほうももらうほうもうれしいバレンタインが
この家に訪れるような
そんな人が、ここにいなかったら
私は悩まないですんだのかどうか
一人で部屋にこもって、
ゆっくりと
長い時間、無駄とわかっていることを考えたものだけど。
いくら考えても
あなたがこの家からいなくなるわけはない。
もしかしたら、進学や就職を迎えて
別のところに住むことはないとは言えないけれど
それでも、ここはもうあなたの家なのだし
いつでも帰ってくる場所にになった。
まあ、今の様子を見ていると
家族のことが気になって当分出て行かないなんて
自分の都合で決めるのはありそうだなと
なんとなく予想してしまう。
本当に、
なぜこんなに
あっというまに、人のことを好きになってしまう
そんな人が、この世にいるのだろう。
いくら家族だからって
出会ってすぐ、
家族なんだからというたった一言で
全部が決まったみたいに
あなたは私たちを
見つめることにしたかのよう。
寂しがりやなのか
甘えんぼうなのか
心配性のようでもあり
ただの泣き虫かもしれない。
私たちを気にしている。
この世で一番大事なものであるかのように
たぶん、
うれしすぎて
自分を抑えきれないみたいに接して
愛している、
と、言っているような。
ときどき思っていたの。
こんなにあっという間に家族に馴染んで
家族がいないとひと時もいられないとでもいうくらいの人が
一人部屋になって
寂しくないのかな。
やっぱり、趣味の電車の写真集みたいなものを
一人で落ち着いて眺める時間が
こんなにいいお兄ちゃんだって欲しいのかな、
と思って
気を使って、電車の写真集を貸してあげたことは
よくあるけど。
この部屋で何日も過ごして
今頃はチョコを心待ちにしている人に
なんであげないといけないのか悩みながら
普段の生活を想像していると
聞こえてくるのは
どこかで、家族が笑っている声。
大きな声を出して泣きながら
助けを呼んでいたりもする。
くだらないことで大騒ぎするケンカの原因も
ここに一人でいたら、結構聞こえてくるものだし
その後、少し前に危なっかしいぶつかり合いをしていた子たちが
たちまち仲良く転がりあっているらしい様子も
ひっきりなしに届いてくる。
どこかわからない遠くから、
ちょっとの距離なんて関係ないと主張しているように。
もしかしたらどの声も
思ったより、ずっと近くから聞こえているのかも。
すぐにわかる。
私たちは、すぐ近くに家族がいるということ。
この部屋にいたら
寂しくないかもしれない。
きょうだいの人数が多いと
なかなか落ち着いていられないようで、普段から大変ね。
よく聞こえてくる声は
元気な子ばかりとも限らないし
落ち着きや大人っぽさとも関係がない。
ああ、また夕凪ちゃんが叱られているな、とか。
吹雪ちゃんがまた何か騒動を引き起こしているとか。
毎日ユキちゃんに遊んで欲しい子が多いんだとか。
声が届かないくらいの子も
すぐ近くにいるのが、よくわかるよ。
私の家族は今日もわいわい言っているんだって
一人で部屋にいるのもわかる。
なんだ。
寂しくなんかないじゃない。
この前、私の様子を見に来て
部屋を出てみんなと遊んでいるなんて
にやけていたわね。
ここにいたって、みんなを気にしていられるのは
あんまり変わらないじゃない。
出て行きたくなかったら、まだいてもいい。
でも、みんなが待っているだなんて
心配そうにして。
私を叱って部屋に戻しても
この部屋にいて楽しく過ごせるのは間違いないし
リビングで寒い思いをして眠るより
ずっといいはずなのに。
ここにいても、
声が聞こえてくる。
家族みんなが、
いつもいるよっていう声。
誰一人として欠けることなく。
そろって、
私のそばで
この家にいる。
みんなの声が、一人で座っているだけで
ここに届いてくる。
バレンタインのチョコレート作りに失敗している悲鳴が
だんだん増えてきたみたい。
やっぱり、失敗する子は多いのね。
私も手先は器用なほうじゃないから、
どんな失敗をしているのか、目に見えるようだわ。
きっと、何度も。
わかっているのに
教えられた通りなのに
なんで!
って、
よく聞くことだけど
人は学ぶ生き物だから
一度失敗したら、同じ失敗は繰り返さないようにできるって。
あれは間違っていると私は思う。
何度も繰り替えしている。
うんざりしても
忘れているつもりはなくても
厳しく気を引き締めているつもりで
自分が嫌になるほど
失敗は繰り返して
いつも落ち込むものだと
私はよく知っている。
それなのに、わざわざ
何を作る必要があるんだか!
わかっているわ。
上手にできないどころか
迷惑ばっかりかけてしまうことは。
チョコだけじゃない。
わがままを通して
くだらないことで泣いて
情けない思いをして
私はいつも
家族のみんなに慰められているということ。
失敗を何度も繰り返して
おかしな思い込みで
突拍子もない行動ばかりで
情けなくなっても
どんなときでもそばにいてくれる人がいる。
優しい言葉ばかりではなく
笑顔でいられるときばかりじゃなくても。
私には、どんなことがあっても
どうやっても離れることができない
家族がいるの。
つい最近、この家にやってきたばかりだと思っていたのに
いつの間にあなたは
私のわがままを何でも許してくれる
家族の一人になったんだろう。
私が無理を言って
たぶんチョコだって今年はもらえないと
あなたは知っているのに
よく、寒いソファで納得して
それが当たり前みたいに
私に優しくしていられるわね。
どんなことがあったって
決して変わることなく
家族なんだと
言葉だけじゃなくて
いつもいつも、
私が何かを告げるたびに
伝えてくれる。
触れるだけで。
どこかから声が聞こえてきたら
それは、すぐそこにいる家族だったように。
間違っていても、許している。
迷うことなく
私を受け入れている。
大事な家族の一人。
きっと、あなたが体調を崩したら
悲しむ人が多いわ。
小雨ちゃんの様子も聞いたの。
私がいつ部屋に戻ってきてもいいように
しまってあった余りの布団を用意して、ベッドに敷いて
毎日寝る前に
私の分もベッドを整えているって。
立夏ちゃんも、そのたびに手伝っているって言うけど。
まったく。
あんなに大雑把な立夏ちゃんが手伝って、
ちゃんときれいに整ったベッドメイクができるわけがないじゃない。
手を出さないほうがいいくらいなのに
余計なことばっかり。
私は……
去年のこの時期から
ほとんどお菓子作りはしていないし。
今年も全然練習していないから
明日、急に教わったくらいで
いいものが作れるなんてこと
どう考えたってありえないわ。
感謝の気持ちのつもりで
自分でも納得いかないものになると
最初からわかっているような
絶望的なチョコ作りに
不器用な私が挑戦して
喜ぶような変わった人がいるなんて、
まあ、この人のことだから
そういうことはあるかもとは
少しは思っていたけれど。
本当にそうなんだろうな、と思うようになったのは
ほんとについさっき。
あなたが今日も、
雪まで降る中、寒いところで眠っているなんて。
私には、お兄ちゃんができたんだな。
と、そう思ったのは
気の迷いかもしれないけれど
明日には。
きっと大変な日になるから。
ほら。
変なものを食べておなかを壊さないように
今からでもゆっくり休んで
少しでも体調をしっかり
万全なものになるように心がけてきたらいいわ。
私も、これから部屋に戻るから。
きっと立夏ちゃんがくしゃくしゃにしている
私のベッドだけど、仕方ないわ。
それじゃあね。
また明日。
どんなチョコを贈られるとしても、文句を言うのは、
って、あなたなら心配いらないか。
じゃあ、少しでも元気いっぱいで
明日を迎えられるようにね。
おやすみなさい。
スポンサーサイト

麗の偽日記

『旅と温泉』

はいはい、
おめでとうございます。

年が明けてから
もう何度も。
繰り返してきたあいさつ。
礼儀正しく
まずはママに。
次は海晴姉様から順番に
末っ子のあさひまで。
たぶんあさひはよくわかっていないけど。
でも、あいさつをしたら
うれしそうにうきうきと返事をするから。
まあ言ってることは言葉にはなってないけれど。
きちんとしたあいさつはおうちの決まりだし。
だからあさひにも、今年もよろしく。
この一年、またみんなで過ごしていくために。
おめでとうございます。
何度口にしても
気を抜きたくない
年の始めの大事なことば。
すがすがしい一年の始まりがやってきたと
みんなで言葉にして伝え合って、顔を合わせて
実感しながら──
また今年もお世話になりますと
新年のさわやかな日の出みたいな気持ちを届ける。
おろそかにしたくない、
心をこめたあいさつを
重ね続けて
今日で三が日も終わり。
私の日記は今年初めてだから、
一応ね。
もうそろそろいいかなと思いながら。
いい加減、おめでとうもどうかなと悩んだりしながら。
三が日の間は、お正月のあいさつをするきちっとした場だと思うから、
言ってはみたという感じです。
でも別に、
実際のところ、もういいわよね?
もう新年になってからも三日も顔を突き合わせて
うるさくても面倒でも、あれこれ一緒にいる時間も長くて
大変な長い旅を、みんなで電車に揺られてやって来ました。
楽しかったり、にぎやかだったり、さっそく泣いたりケンカしたり、いろいろあったり。
そろそろさわやかな新しい年も、たぶんないだろうし。
というか最初から
元日の朝に目を覚ましたときから
家の中はもう日常が始まったみたいにざわざわして。
それなりに晴れ着を着せてもらったら、ぴしっとした気分になったもので
新年のあいさつをきちんとして、
決意を込める書初めもがんばろうと思ったけど。
気が引き締まるお正月の空気を感じるまもなく
すぐ庭に出て行って凧揚げをする子たち。
かるたもそんなに晴れの新年の気配を感じるほどじゃない。
この手の遊びが得意な子たちは競い合いながら、
まだ真剣勝負は苦手な小さい子たちに手を貸してあげたりもして。
だいたいはいつもと同じ。
何も変わらない大騒動の家族。
まあね。
年をまたいだくらいで、急に変化があるわけじゃない。
それはそうよ。
むしろ疑問なのは、
ユキちゃんが言ってたみたいに、日付が変わって新年になった瞬間に
静かに穏やかなあいさつって
本当だったのかしら。
この家の人たちだもの、
たぶん、その場の雰囲気で厳粛に見えただけで、
実際は結構うるさかったんじゃないの?
私は眠ってしまって体験することができなかった
年越しの時間。
来年はちゃんと起きたままで、確認しなくっちゃ。
私たちの家が迎える晴れがましいその時間。
この目で見るまでは、真相ははっきりしないわ。
もう少し大きくなれば、今度は私も起きていられるだろうし
そうしたらまた心のこもったあいさつね。
新しい年が来たことをみんなで分け合うようなうれしいあいさつは、
またその時になってからのこと。
だから今日は、
もう三日目ね、って
そんなあいさつ。
今年もよろしくというより
新年そうそうそんなにうるさく言わなくてもわかってる、
いくらこの辺に来る機会があんまりないからって
別に、一人で喜び勇んで
勝手に電車を見に行ったりなんてしません、
という感じ。

今年になって三日目でも、初詣に行くならきちんとしないとね。
新年らしい、気が引き締まるこの緊張感。
まあ、家族で行くことだからあんまり贅沢は言わないわ。
周りがうるさくても
私自身が清らかな気持ちでお参りできれば、それでいいの。
新年のお願いは
私たち家族が健康でありますように。
やっぱり、こういう行事は恒例だし。
あんまり奇をてらったりしないでいいの。
それはまあ、他にお願いしたいことはたくさんあるけど。
初詣はこういうものだと思うから。
私のお願いは、それだけ。
今年も神様に頼ることはたぶんたくさんあると思う。
お願いしたって、叶えてくれるとは限らない。
むしろ、お願いしたくらいで叶うほうが珍しい。
わかっていても、
今年も私は、お願いを何度もすることになるのかな。
心安らかに過ごしたい、とは言いません。
どうせ、いくら願ってもそれは無理だし。
だったら他に願うことはいっぱいあるし。
とりあえず、晴れがましいお正月にする最初のお願いは
たったひとつ、シンプルに。
今年も、私たちには
たくさんの出来事があるはずだから
みんなが元気で、どんな日々も乗り越えて行けたらいい。
それが一番最初の
大事な土台だと思う。
神様、よろしくお願いします。
まあ、私がお願いしたくらいで何も変わらないだろうっていうくらい
みんなはお正月から元気だったけどね。
神様も、あんなに騒々しく、いっぱいお願いされて
ちゃんと聞いてくれるのかな?
神様だから
大丈夫だよね。

明日からは特に用事もなく
ホテルで待ったりする予定。
散歩に行くときは
たまに私のお勧めコースも辿ってくれたら
きっと、あなたもすてきなものが見られると思うわ。
この辺の線路は把握しているから。
帰宅するのは6日の予定。
七草粥は、おうちでいただくことになりそう。
まるまる自由でいられる日はそんなに多くないけれど
お参りを済ませたから、あとは観光地を見に行ったりするわけでもないし
温泉につかるくらいしかすることはない。
むしろ、そんなに何日も温泉に入りすぎてふやけてしまわないか悩むくらいよ。
他にすることがあるというわけでもないし。
年の初めくらいは、ゆったりできるかな。
家に帰ったらすることもいっぱい。
大掃除して出てきたがらくたを
いったん空いている場所に詰め込んで、
お風呂もしばらく使わないつもりで
またお風呂掃除が大変そうだし。
おうちに帰った忙しい海晴姉様たちだって、温泉でのんびりしてくれたらいいと思うけど
やっぱりうちのことだから、なかなかそうもいかないかもね。
この旅行先でも、あなたに頼らないといけない騒動はたくさんあると思うけど
まあそういうわけだし、とりあえず年の始めに、もう一度あいさつ。
今年もよろしくお願いします。

麗の偽日記

『考えている』

クリスマスに欲しいプレゼント。
おうちでも時々話題になっている。

立夏ちゃんが、結局何をお願いしたのか
私は知らないの。
口の軽い立夏ちゃんが
珍しく、秘密にしている。
みんなでプレゼントの話をしていても
あの明るい立夏ちゃんが、ふしぎと話題に乗ってこない。
24日の夜、
いい子で寝ていれば
必ず届く
とってもいいもの。
何をお願いしても
サンタさんなら持ってきてくれる。
何を頼むか秘密にしたまま
オニーチャンに聞いてみたら
何でも持ってきてくれるって教えてくれた!
と、言い張っている。
何かしら?
靴下に入るものかしら。
靴下どころか、煙突を通るかどうかも心配。
何を頼むかわかったものじゃない立夏ちゃんだもの。
なぜか誰にも明かさないのも気味が悪い。
今年はいつになく悩んでいたようだし。
普段から、考えても仕方のないことは、考えても仕方ないと
そう言ってる立夏ちゃんなのに
自分のプレゼントとなると、話は別みたい。
まったく調子がいいんだから。
まあ、そのうち自分から話してくれるでしょう。
黙っていられる立夏ちゃんじゃないと思うから。

私はちゃんと考えて
サンタさんがもしも不況の影響でおもちゃの仕入れが苦しくても
どうにかもらえそうな無難なものを選んだつもり。
そこまでサンタさんの事情を考慮してお願いしなくても大丈夫だと
わかってはいる。
それでもついつい、考えてしまう。
クリスマスの朝に、靴下の中によくわからないプレゼントが入っていたら
がっかりするのはサンタさんに悪い気がするし、
もらえるだけでもうれしいんだけど
年に一度のプレゼント。
少しは物がわかっているつもりでも
私は自分で言っても仕方ないことだけど、まだ小学生。
もらえるなら、なるべく希望しているものがいい。
だから、
考えすぎだと、毎年立夏ちゃんに言われてきたけれど
じっくり考えてお手紙を書きました。
フィーリングで決めてしまうと、
よくクリスマス翌日に本当に欲しいプレゼントが見つかる立夏ちゃんのよう。
今年は反省したのかしら?
じっくり考えていたわ。
私が悩みながらサンタさんに手紙を書いていても、ちゃかしてこない。
立夏ちゃんが誰にも明かせない秘密を大事に抱えているなんて。
いつ以来のことだろう?
私が望むプレゼントは
どこまでだって電車に乗れる、
何度使ってもなくならない切符と
遠くまで旅ができる大人の体。
頭脳も含めて、一人前の大人。
クリスマスに起こるはずの一晩の奇跡は、きっと叶えてくれる。
けど、それは靴下に入らないので。
大人の体はクリスマスにお願いするのはやめておいて。
夢の切符は、たぶん電車会社を全て買収すれば手に入ると思うけど
なんとなく手段と目的が入れ替わっている気がするというか
私がしたいのはたぶん経営じゃないし。
そのへんは大人になるまでに考えておく課題。
今年のクリスマスには
電車の模型をひとつだけ。
優先順位をつけて、五台の名前を挙げておきました。
たまたま手に入りにくいものをお願いしてしまって、
仕方なく希望していない車両になった、
そんな事態を避けるために。
サンタさんも、これなら本命のプレゼントが手に入らなくて困ることもないでしょう。
そう思っていたら、
麗ちゃん欲張りだな!
なぜか小さい子たちにびっくりされた。
五台欲しいと言っているわけではないんだけど。
サンタさんにも事情があるだろうからそこに気を使ってのお手紙で
むしろいいことだなと自分では思っていたんだけど
わがままに見えるのかしら?
あなたにも、そんなふうに見える?
クリスマスプレゼントは、本当に欲しいものを一つだけ選ぶほうが素直なのかな。
でも、サンタさんにも手に入らなくて、希望しないものになるのも嫌だし。
立夏ちゃんはたぶんとんでもないものをお願いしているだろうから
何を頼んだのかわからないのに、いまのうちから慰める言葉を考えているくらいだし。
考えすぎてしまうことがあると、
ときどき言われる。
私は、これが普通だと思っているんだけど。

そういえば、
あの日から一週間。
ステージの上に立って
恥ずかしいような、やりとげたような思いをした日。
電車を見に行って
気分がほっこりするようなときも
ふとしたきっかけで、あの日のことを思い出して
顔が赤くなる。
決して悪い劇じゃなかったことはわかっているのに
でもやっぱり、困るよ。
もしもサンタさんにお願いできるものが
正真正銘、本当に奇跡の力で用意できるとして。
何も制限がないというのなら
私は、学芸会で大勢の前に立っても困らない
鋼の心をもらえたらいい。
もっと欲しいものはたくさんあるけど、
まあ仮定の話だから。
いつまでも思い悩むことがない心、本当にもらえたらな。
でも、それは私が考えすぎているだけだと立夏ちゃんは言う。
私一人の演技を深く気にする人はいない。
もうそんな昔のことは忘れている。
今は、間近に迫ったクリスマスのことでみんな頭がいっぱいのはず。
いや……私はそんなことないから……
よくわからないはげましなのか、
別に深いことを考えていないで、思いつくままその場の気分でしゃべっているだけなのか。
そんなふうに気楽になりたい、と考えるには
ちょっと立夏ちゃんは強烈過ぎて憧れとかではない。
私が考えすぎているのは
もしかしたら本当なのかもしれない、と思っている。
それでも、顔が熱くなるのは止められない。
勝手に赤くなってしまう顔をコントロールするなんて
考えすぎないだけでできるようになるのかな?
気にしなければいいなんて。
そんな適当な人になるだけで解決するとは
私には、とても信じられない。

今日は幼稚園のクリスマス合唱会。
午前中から始まって、一時間くらいで終わる小さなイベント。
それでも本番を迎える子たちは緊張してしまう。
ゆうべは、お兄ちゃんにお歌をいっぱい聞いてもらうって
はりきっていたさくらちゃんが
今朝になって、おなかが痛いって言いはじめた。
私は──
緊張すると具合が悪くなってしまう感覚、
つい最近経験したばかりだから。
無理をしないで休むのが一番だと思ったの。
もしも悪い風邪だったら、重くしてしまうといけない。
今日はゆっくり休んで、悪くなりそうなら病院に行って。
休んで治るなら、それが何より。
そう思っていたんだけど。
がんばって練習したんだから、
もし出られそうなら、行くほうが後悔しないと思うと
意見を出した子もいた。
ユキちゃんは、
具合が悪くなったときに、どんなことをしてもらいたいか
よく考えているから、少しなら知っているかもって
ずっと手を握ってあげて
おなかをさすって。
ついていてあげた。
治ってほしくて、根気強く。
すぐにあきらめない、って言ってた。
いちばん近くで、励ましていればいい。
この時だけは少し無理をしてでも、笑顔でいれば
そのほうがいいんだって。
ついていてあげる人は、できることがなくて悲しい気持ちになっても。
つらい病気のとき、本当にしてほしいことは
すぐそばに、自分だけを見る人がついていてくれること。
同じ苦しさを分け合うことができなくても
その人だけは、そばにいたら力になると信じているみたいに。
治ったらいいと強く思ってくれる人が本当にいること。
氷柱姉様は、もし風邪だったらうつるとひどくなるかもって
すごく心配していた。
さくらちゃんも心配だけど、ユキちゃんのほうが体が弱いから
うつったら重くなるかもしれない。
ユキちゃんは何も気にしていないみたいに、ずっと一緒にいたわ。
小雨ちゃんは、少し前から続く寒さを気にしていたみたい。
自分も立派なお天気お姉さんだったら
ゆうべから寒さに気をつけてあげられたのに。
なぜか、そんなことを言って悔やんでいた。
お天気お姉さんじゃなくても、暖かくしてあげたらいいだけだと思うんだけど。
もっとお天気のことがわかったらいいのにって
変なことで悩んで、あっちに行ったりこっちに来たりあわてていた。
病人のまわりでうるさくして、ほこりをたてて
邪魔になっているんじゃないの、というくらいだった。
こんな小雨ちゃんがいたら治らないわ、と
私は何とか部屋で大人しくしてほしかったんだけど
小雨ちゃんでも、じっとしていられないときってある。
目を離したらすぐさくらちゃんの様子を見に行ってた。
よくないって何度も言ったのに。
さくらちゃんはそのうち自然に治ってしまって
何事もなかったみたいに、元気に合唱会に参加したわ。
いい歌声だったね。
きっと、たくさん練習したのね。
短い時間だったけど
精一杯に歌って
満足そうな顔をしていたっけ。
私は今でも、
さくらちゃんが風邪を重くしてしまうことを考えたら
合唱会に行かせるべきじゃなかった、と思っている。
すぐ治ったんだから、は結果論。
無理をして重くなる可能性のほうが高かったはずよ。
合唱会の満足そうな笑顔も、
今後も同じようにしていい理由にはならないと思う。
また誰かが、大事なときに病気になったら
私は今日みたいに、消極的に止めるに違いないの。

あんまり考えすぎるとよくないのかな。
私だったら、さくらちゃんにあんなうれしそうな顔をさせてあげられないかな。
同じように人前に立って、練習の成果を発表していたのに。
今でも赤面して思い返すだけの私と、ずいぶん違うな。
おなかが痛いときに誰かに励ましてもらえること、
そんなにうれしいのかな。
別に、私も病気になりたいというのではない。
あの時に病気で劇に出なかったら、
後で恥ずかしがらなくてもよかったのか、
それとも悔いが残る苦い思い出になったのか
たぶん本当のところはわからない。

ときどき思うの。
家族がこんなに大勢いたら
みんながずいぶん違う。
考え方も違って
きっとみんなが別々の将来を選ぶ。
同じ道を進む子がいるとしても
全員が同じ道になるなんて、たぶんない。
将来はたぶん複雑に分かれていく。
でも、今日みたいに同じ悩みを持って
みんなが別々の意見を出して
それぞれ違う答えになって。
こういう時間を重ねているなら
私たちは、いずれ違う道を歩くことになっても
その先でも家族なのかもしれないな。
全然違う家族が、違う感情をぶつけあっているから。
変な話で、考え方が全然合わない子がいっぱい集まって
問題ばっかり山積みだから
家族でいられるのかもしれないな。
そんなことを考えた。
だから何だというわけではなくて
また考えすぎだって言われるかな、とそう思った。
それだけの話。

もし本当に、誰かが風邪で寝込んでしまったら
今日みたいに落ち着けない気分になるだろうな、とも思った。
だから、うがい手洗いくらいは徹底してよ。
少し口うるさく言ったとしても
お兄ちゃんなんだから、私の味方でいてくれるでしょう。
こんなに神経質なのは、うちの家族でも私だけみたいだし
せめて、あなたくらいは
たまに私の肩を持つくらいでいいんじゃないかな、と
それが今日の私の意見。
立夏ちゃんが風邪をひいたりしたら
クリスマスでお目当てのものがもらえなくてダブルショックで
弱ってしまうかもしれない、と思ったけど
バカは風邪を引かないって言うわね。
たぶん、あんまりものを深く考えない人は
寒さ対策もそんなにしないだろうから
風邪が比較的重くなってしまうだろうし、
長い人類の歴史で、バカでも体だけは丈夫な子が生き残って遺伝子を残して
私たちの家族の血の中にも少しは流れているのかな、と
立夏ちゃんの意味不明な健康さを見ていて考えたりもするけれど
これは私の勝手な想像。
実際は、風邪をひかないわけじゃないと思うから
なんとなく立夏ちゃんが寒そうに肌を出していたら
少しうるさく思われるだろうけど、ひとこと言ってもいいんじゃないかと
このごろ、ほんのちょっと考えているの。
実際に行動にうつすか、私にもわからないとしても。

麗の偽日記

『サンタの正体』

今日の日記は、
立夏ちゃんには見せないでほしい。

それから、
立夏ちゃんから下の子たちにも。
小雨ちゃんにも、一応。
念のため。

約束してくれる?
いいわね。

私も、はっきりと確信しているというわけではないの。
だいたいわかっているんだけど
自分の目で確認したのではないし
確認しようと思ってもいない。
とにかく、最初から順番に話していくわね。

小さい頃の私は何も疑っていなかった。
純真だったわ。
家族が私に嘘を言うはずなんてないと思っていた。
いえ、もしかしたらこっそり電車に乗りに行っているんじゃないかと疑ったことはあった。
でもそれは私が小さくて、複雑なことを知らないからだし。
幼かったの。
子供だから、考えればすぐわかるはずのことなのに
なかなか気がつかなかった。
そんなことで人をだましているなんて普通考える?
最初に何かおかしいなと思ったのは、
ずいぶん前、サンタさんにお願いするプレゼントを考えているとき。
あれはいつの頃だったかしら。
もう小学生になっていたか、まだだったか。
お庭にレールが通ったらいいな、
もしかしたら、駅があったらもっといいんじゃないかな?
それならママがお仕事に行ったり帰ってきたりするのも早いよ。
もっと私たちと一緒に遊んでくれるようになるかもしれないな、って。
でもそうしたら、海晴姉様は
麗ちゃんは私がいっぱい遊んであげるからね。
駅はたぶん無理じゃないかなあ、だって。
世界中の子供にプレゼントを用意して、
一晩で子供たちの家をめぐるサンタクロースなのに
できるプレゼントとそうでないプレゼントがあるって、どういうこと?
しかも、海晴姉様がそのへんに詳しいのも妙な話だわ。

立夏ちゃんは、今年のプレゼントはまだ悩んでいる。
この前までの候補もとんでもなかったのに、まだエスカレートするのかしら?
あの調子だと大変なおねだりをしそう。
小さい子たちは、クリスマスに蛍姉様や氷柱姉様と過ごしたい。
元気でお仕事をして、無事に帰って来てください。
クリスマスはきょうだいみんなで揃ってパーティをしたい。
サンタさんに一番のお願い。
なんだって。
ちゃーんと帰ってくるんだから、プレゼントは他のものでいいよって
姉様たちは慌てている。
あなたもね。
なぜなの?
サンタの事情なんて、
うちの家族がどれだけ知っているというんだろう。

なんだかこんな話をしていると、
私もサンタさんを困らせるプレゼントをお願いするみたいね。
違うの、もうわかっているもの。
サンタさんにもらえるものと、もらえないものの境界線。
もちろん、欲しいものはたくさんあるわ。
どう考えても叶わないようなお願いだって、いっぱいあります。
だから何なの?
言ったって仕方がないことだし──
仕方がないとわかっていたって、
どうしても自分の中だけにとどめておけないお願いは
必ずあるとしても。
霙姉様や春風姉様にもあるんだって。
いろいろ、とんでもないお願い。
サンタさんにするのとは別のお願い。
あなたに話を聞いてもらっているって言ってた。
もちろん、あなたにもあるって。
大人になっても難しい願い。
私が子供だからというわけじゃないのかな。
でも、どんなに願っていても叶わないのは、やっぱり苦しい。
大人になっても叶わないことがあるとか、そんな簡単に片付けられないよ。
幼稚園くらいの頃は、クリスマスに何をもらったのか覚えていないの。
やっぱり私のことだから、本物の電車をおねだりしていたのかしら。
小さい頃からたくさん電車を見に行った記憶はあっても、
プレゼントは覚えていないないなんてね。
海晴姉様と手を繋いで行ったわ。
ずっと毎年模型をもらい続けていてもおかしくないはずなのに
クリスマスの特別の贈り物は、私の部屋には四台。
それ以前はいったい?
年に一回のチャンスを無駄にしたとか、そんな話をしているわけじゃないのよ。
今年はなにか特別なお願いがあるとか、そういうのでもなくて。
きっと、あの頃の私も、
サンタさんには叶えてもらえないようなお願いをしていたんだろうな。
それでサンタさんも困って、お菓子あたりをくれたんじゃないかしら?
そういうことが言いたいの。
お菓子は嫌いじゃないけど。
小さい頃の私なら、きっととっても喜んだと思うけど。
今、みんなのお願いにそんなふうに応えるのがいいことなのかなって。
蛍姉様と氷柱姉様を心配していた良い子のみんなに
お菓子のプレゼントです!
で、いいのかしら。

この間、さくらが落としたお守りがあったでしょう。
同じ組の男の子に拾われていたの。
あなたの写真が入っていたお守り。
暴れん坊の男の子だから、さくらにいじわるするつもりで
写真のお兄ちゃんにひげをたくさん描いた。
渡してもらったお守りを
家に帰ってきてから開けたとき、
その写真を見て、みんなずいぶん笑っていたわ。
あなたはときどき
面白いコスプレをすることがあるから。
さくらも思い出したみたいで、笑っていた。
きっとクリスマスのときも、サンタさんの格好をしたがるよ!
お兄ちゃんのことだから!
あなたの趣味はコスプレではないわよね?
格好良かったり面白かったりするのは、その場の雰囲気に合わせているだけで。
さくらはあんまり気にしていないみたいだけど、
私は、男の子のしたことはひどいと思うな。
お守りに入れている写真があったら、きっと大事なものに決まっているのに!
そんな野蛮な子が暴れている幼稚園なんて、行くことないわよ!
なんだか許せない!
さくらも、小学校からは女子校に通ったらいいわ。
それまで心配だな……
合唱の練習が来週あたりから教会で始まるの。
上手な人は幼稚園に行って歌を教える予定があるそうよ。
マリーも観月もさくらも、お兄ちゃんと一緒の幼稚園を楽しみにしている。
そんなに楽しみなもの?
でも、あなたがいればさくらを守ってやれると思うから、そこだけは安心ね。
いくらサンタに頼んでも、
ずっとさくらを守っていることは
してもらえません。
私たちがなんとかしないと。
さくらたちみんなが安心して通えるような、
例えば私たちの家で幼稚園のお勉強ができる施設があったらいいのにね。
家族で経営する幼稚園から小学校から、中学と高校と大学まであるともっと助かる。
サンタのプレゼントでもらえないかな。
クリスマスプレゼントは、意外と融通がきかないものよね。

我が家にもうちょっと小さい子が増えたらわからないけれど、
もう赤ちゃんはやって来ないと思うから。
まあ、小さい子が増えても、家が学校になるなんてことはないか。
これは冗談よ。
私、サンタにはちゃんとした手紙を書いたから。
無理は言っていないから、大丈夫。

サンタさんもきっといろいろ忙しいと思う。
プレゼントを用意するのも大変なんだろうとわかっている。
それなのに、こんなことまで言ったら困らせてしまうかな。
これはプレゼントでお願いしていないこと。
もし幼稚園に行くことがあったら、さくらのことを気をつけて見てあげてほしい。
この話をどこかでサンタさんが聞いていたら、
きっと今年のクリスマスまで忙しいと思うけど、
私が行くのは無理なんだもの。
プレゼントとは違うけれど
どうかお願いを叶えてください。
よろしくお願いします。

麗の偽日記

『おしごと』

天気予報でよく聞くようになってきた
冬の便り。
けさは各地で今シーズン一番の寒さを観測しました。
暖かくしてお過ごしください。
テレビの向こうに立つ海晴姉様のあいさつも
しだいに秋の報告から変わり始めている。
冷たい季節が近づいている。
それなのに、まるで備えをしていない頼りない人もいる。
大家族を支えるために、協力してやっていかなきゃいけないのに
私も不安なのに。
それは冬支度のことではないけれど。

おうちでは、もうだいぶ前から
寒い季節を迎える準備を進めてきました。
あなたもちゃんとした?
みんな、だいたい済ませていると思うの。
これから本格的な寒さがやってくると
また秋の服を押入れにしまって、重いコートを出して
もう少し入れ替えながら。
だんだんと冬の気配を増していくタンスの中。
今の時点でできることは各自が済ませているはず。
それくらいの余裕はあったのよ。
冬の準備が必要になるのはわかっていたのに
なんで後回しにしていたんだろう。
立夏ちゃん。
寒いから服を貸して欲しいって言われた。
貸さないわよ!
どれも大事な服なのに。
それに、丁寧にしまったのに、かきまわされたらたまらない。
こう寒くなってくると、服を貸しても仕方ないと思うときはあるわ。
でもね──
入らないみたいだし。
立夏ちゃんは成長が著しいから。
一応、入るかどうか貸してみた。
本人は、胸がきついと言い張っているけれど
ぱっつんぱっつんは体の全体に渡っているように見えるわ。
ズボンのチャックが上がっていないし。
立夏ちゃんの言い分を認めるかどうかは置いておくとして
貸すのは無理だということがわかった。
立夏ちゃんはなぜか忠告してくれたわ。
もっと食べて大きくなったほうがいいよ──
大きなお世話よ。
というか、それは別の問題よ。
今は立夏ちゃんが充分な冬服を出していないという話よ。
そもそも私はそんなに小さくない。
平均です。
よく食べるほうじゃないとしても
食べ過ぎないのは普通でしょ?
だから食事もちゃんと作れないんじゃないの、なんて
立夏ちゃんも出来ないんだけど!?
そしたら、立夏ちゃんは
ホットケーキは焼けるようになっていた。
蛍姉様のケーキの準備で材料をかき混ぜることも上手だって。
いつの間に。
まあ、たぶん私が出かけているときだけど。
家にいたら用事がいくらでもあるから
自分の仕事を済ませたらさっさと行きたいところへでかけていた。
電車を見に行っていたわよ。
悪い?
きちんと仕事を早く片付けていたのに
なぜか差をつけられている。
料理なんて別に作れなくてもいい、と断言できないのは
いろいろな経験をして、私が大人になったせい?
食べることにあまり興味がないから、料理が得意じゃないのかな。
興味がないというほどではないと思う──
自分でやるつもりがないのは良くないかもしれない。。
蛍姉様がアルバイトでごはんの支度ができなくなるかもしれないでしょう?
そんな時は、カレーでいいんじゃないかという話が出ているの。
でも、いつもというわけにはいかないものね。
春風姉様は、みんなそれぞれが得意な料理を増やせばいいと言っている。
だからひとりひとり、自分の食べたい候補をたくさん考えて、挑戦してみたらって。
慣れないと危ない揚げ物なんかは、
料理の下ごしらえを作ることだけでも得意になればいいとかね。
私の好きな料理って何があるかなって
考えてみた。
……
あれは料理とは呼ばないわね。
このごろ気がついたの。
もしかしたら。
カップラーメンを作れるのは、料理ができるとは言わないんじゃないか、
と。
でも私、ちゃんとしたものなんて全然作れないと思うわ。
自信がない。
どこをどうしても、できる気がしない。
逆さにして底をたたいても、
自分が料理を作っているビジョンがまったく出てこない。
蛍姉様は──
どうして外のアルバイトになんて行ってしまうんだろう。
怖くないのかしら。
知らない人がいっぱいお客で来るんでしょう?
今日、あなたと春風姉様とヒカル姉様がお迎えに行って
聞いてきたというあの話。
蛍姉様は、おつかいに来た幼稚園くらいの男の子にも優しく接してあげて
ついにプロポーズまでされたそうね。
この調子では、そのうちお金持ちのお客が来て見初めてしまうかもしれない。
町のパン屋さんにはあんまりお金持ちは来ないけど
お兄ちゃんがお嫁にもらいたくなってしまうかもしれない。
春風姉様も蛍姉様も、冗談にして笑っていたわ。
男もお客で来る大変な場所で仕事をするなんて
私には、とてもじゃないけど考えられない。

しばらくはアルバイトを続けるんだって。
火曜日と木曜日の放課後、
それから土日。
ママには話して了解をもらったし
霙姉様が、校則で学校に許可を取ることになっているから明日のうちに、って
すっかり協力する態度。
もちろん、大変なお仕事だからみんなで助けられたらいい。
家のことは心配しないで、と言えたらいいんだけど
どう思う?
私の意見だけでは充分な説得力がないとしても
あなたが言ったなら、蛍姉様も考え直すはずだわ。
私──
いやだな。
蛍姉様がいないと、心細いのかもしれない。
あなたも同じよね?
アルバイトなんてしなくてもいいって、言ってあげて。
急に言われても、私たちで協力したくらいで
蛍姉様のいない穴を埋めるなんてできないわ。

麗の偽日記

『ふだんの』

また台風が近づいてきた。

ニュースで見たわ。
もう大変な雨が降っている地域もあるって。

こんな途方もない大雨では
今度も鉄道ダイヤが乱れて
私の胸を締め付けるのね。

わかっている。
それどころじゃないってことは。

海晴姉様も、テレビ局の急なお仕事が増えて
帰ってこられなくなるかもしれない。
私にも注意をしてきた。
妹たちと、
立夏ちゃんと小雨ちゃんをしっかり見ていてあげてね!
年齢的にどこかおかしくないかしら?
それとね、
お兄ちゃんたちと協力するように!
だって。
怖がっている子がいたら、なだめてあげるように。
外に出て行こうとする子がいたら、止めないといけない。
学校の帰りに寄り道をしているようなら、叱ってでも連れて帰らないと。
言ってることはわかるけど。
なんで私に?
まあ寄り道しないようには
私も言われた。
ということは、みんなに言ってるのかな。
お兄ちゃんたちと協力して、と。
立夏ちゃんにも、
麗ちゃんを見てあげてね、とか。
私が立夏ちゃんに頼ることなんてあるのかは疑問ね。
誰が頼りになるのかは、今のところ正確に判断できないとしても、
海晴姉様が家に帰ってこないのは、充分にありえるのだから。
気がかりだってことはわかるわ。
口うるさく言われなくたってわかってるとふくれたい気持ちを抑えて。
家族が安全でいられるよう守りたいのは、私だってできればそうしたい。
さっき、海晴姉様は、泊り込みに持っていくお弁当について
おにぎりの具は真剣に相談していた。
なんだか緊張感がないみたいにも見えるけれど
食事をしっかりとらないと力が出ないのは確かだから……
小学生が言っても仕方ないかも知れないけれど
あまり体に無理はしないでほしい。
それから、こちらも自分たちでできるだけのことはするから安心してほしいと。

9月の避難訓練で、近くの小学校に集まったの。
もしこのあたりで台風の大きな被害があったら
私たちが避難するのはあの場所。
私──
慣れない場所はあんまり好きじゃない。
もちろん、災害の時にそんなことを言ってる余裕なんてあるわけない。
でも、電車が止まってしまうだけでも
不安になってしまうのに。
最新のシステムで、どんなに努力を重ねていても
自然の猛威の前では立ち往生するしかない電車のことを思うと
当たり前の日常が途切れる感覚が、ますます突き刺さってくるようで
やけに心細くなってしまう。
そんな時に、知らない場所で避難なんてすることになったら……
めったにあることではない。
かといって、絶対にないと断言することはどこの誰にもできない。
備えは大事。
立夏ちゃんと小雨ちゃんの通ってる小学校だから、少しは馴染みがあるとはいえる。
私が野蛮な男の子たちと同じ学校に通うなん考えたくないから
いまさら、知らない場所だと気後れしたってどうにもならないけど。
立夏ちゃんはもう通っていないんだった。
中学生になって、半年も経つんだっけ。
本人は進学して一歩大人になったと言うけど
成長している気がしないのよね。
放課後、たまに早く帰ってきたときは
まだ小学校で遊んでいる星花ちゃんや夕凪ちゃんたちを迎えに行って
自分も一緒に泥や砂や雑草にまみれて帰ってくる。
あれで中学では女の子らしくておしゃれだって一目置かれているという話。
それともこれは、教えてくれた蛍姉様や春風姉様の見間違いかもしれないわ。
私には、立夏ちゃんが中学校の校庭でも男の子みたいにサッカーをしている姿しか想像できない。
体いっぱいで楽しそうに学園生活を送っているのが、何の苦労もなしですぐ目に浮かぶ。
立夏ちゃんたちが通っている学校だから、
多少は馴染みがあると言っていいかもしれないし
共学でも男の人は少ないみたいだから、そこはまだましなのかな。
いいか、それはまだ先の話。
覚悟が山ほど必要になりそうな気もするし
できれば、まだあまり考えたくないわ。
今の日常が変わってしまいそうなこと。
それは台風のような恐ろしい事態と全然違うと、理性ではわかる気はするんだけど。

日常とは違うイベントで、こちらは楽しみにしている子が多い。
もうすぐハロウィン。
何事もなく、みんなで迎えられるようにしたいわね。
私はお菓子には興味がないというか
ときどき立夏ちゃんの食べかすがやっかいに思えるのだけど
家族全員参加の厳命がある以上、
仕方ないから参加するわよ。
少しは食べたいし……
だから仮装も我慢する。
私はふたご座。
双子を扱った有名な文学であるウィリアム・ウィルソンの作者である
エドガー・アラン・ポーの代表的な短編が
黒猫。
だから黒猫の衣装で参加することになりました。
なんだかずいぶん本来のコンセプトから離れているんだけど。
ふたご座はカストルとポルックスだったはずなのに、いったいどこへ行ったの。
それに、ウィリアム・ウィルソンは双子じゃなくてドッペルゲンガーの話だと
聞いたことがあるような。
読んでいないから、反論はしにくいわ。
一応、ポーで有名な詩の大鴉とどっちがいいか選ばせてくれた。
鴉っぽくするとガッチャマンみたいなコスチュームになるって言ってたわ。
ガッチャマンは知らないし、予想もしていない変な方向に進んでしまったら困る。
黒猫は、前に着たことがあるからわかっているだけで……
別に自分から望んで黒猫を選んだわけではないの。
好みを主張できるほどにコスプレに興味が出たわけではないのだから
麗ちゃんがそんなに黒猫が好きならはりきっちゃうって
はしゃいでいる蛍姉様には、
あなたからそれとなく伝えておいて。
違うから。
無難に済ませたいだけだから。
あんなに嬉しそうにされると言いにくいだけで。

ウィリアム・ウィルソンは、自分の知らない場所で
自分同じような人間が生活していたという話だって聞いたわ。
私の知らないもう一人の自分がいたとしたら
どんな様子なんだろう。
もしかしたらその子は
好きなだけ電車に乗りに行けるような生活をしているかもしれないわ。
たぶん、その子にも姉妹が18人もいたり
いきなりお兄ちゃんが出来たりしているんでしょう。
その子が私なら、やっぱりそんな生活をしていると思う。
でも、それだと私以外の家族も全員がふたご座になってしまうか。
やっぱり、どこかにもう一人の私がいるということはなくて
ここにいる私だけ。
黒猫に仮装する運命を避けられなかったり
妹たちや、年上の立夏ちゃんの面倒を見ている生活があるだけ。
仕方がないから、私もどれほど電車に心が揺れたとしても
明日ばかりは寄り道は控えて、早く帰らないといけないわ。

麗の偽日記

『おみまい』

日の沈む時間が
だんだん早くなってきて
気がついたら暗くなっている夕方に
秋も深まってきた気配を感じる。
なのに
気温は妙に上がる
今日このごろ。

立夏ちゃんのミニスカが
涼しそうで
うらやましいなんて
なにかが間違っている。
はしたないから、私は真似しない。
ほんの気持ちだけ、薄着になった程度。
女の子に必要なのはつつしみ。
大切な人に会いに行けない悲しみを
誰にも言えず胸に秘めています。
激情を抱えて、誰にもぶつけるわけにはいかない
おんなごころ。
そういうものなの。
あまりあけっぴろげになんて。
暑くても、あまり恥ずかしい格好はできません。
男の人にだって必要。
つつしみ。
ね?

台風から変化した低気圧が
南の海上からの暖かい風を呼んでいます。

こんなこと言わなくても知ってるか。
晩ごはんの時に、海晴姉様からレクチャーがあったものね。
ちゃんと聞いているのか怪しい人たちも数人いたけれど。
みんながおなかいっぱいになるくらい作ったんだから
そんなに急いで食べる必要ないのに。
今日のカレーライスで余ったカレーは
カレーパンになって明日のおやつに変わります。
なんだか天気予報の解説みたい?
とにかく、よくかんで食べないと
消化に悪いのに。
胃がもたれて眠れなくなっても知らない。
夜まで電車体操して付き合っていられないわ。
日が暮れるのが早い時期、
体操にヨガに趣味も幅広く。
だけど私は食事も落ち着いていただくから
特に意識して体を動かす必要はありません。
長い夜が続いても、
時刻表一冊で越してしまいそうな秋と冬。
あなたも、小さい子に遊びをせがまれて体力が必要みたいだけど
むさぼって食べないほうが健康よ。
見た目も上品だし。
男に上品を期待しても仕方ないか。

こんなに20人分も量があるから
食事の匂いに誘われて
ちゃちゃもやって来たのかしら。
せっかくだけど、そんなにあまらないから
野生の動物にはあげられないわよ。
残った分は、家庭的な知恵でおいしく利用します。
肉や魚のカレー煮も候補に挙がりそうね。
たぶん明日あたりまでリクエストは受け付けてくれる。
カレー料理は百花繚乱。
意外とそんな日本。
食べ物の匂いに誘われて野生動物が入り込むことも
ないとは言い切れないけど。

今日は、夕凪ちゃんと小雨ちゃんに付き合って
動物病院でいのししに会ってきた。
どうにも放っておけない二人だし。
道に迷う心配は、私がついていけば問題ない。
夕凪ちゃんが顔を見せただけで
狭いおりの中でじっとしていた赤ちゃんいのししが
急に鼻息も荒く興奮を始める。
やっぱり、知っている人だと嬉しいの?
いのししも?
あさひと変わらないわね。
知っている人を見つけたら、すぐ遊んでもらいたがる。
小雨ちゃんともすっかり仲良くなってる。
足の怪我はだいぶよくなって
食欲も出てきたんだって。
お医者さんが用意したエサを、夕凪ちゃんの手から食べていたわ。
いのししに上品を期待しても仕方ない勢いだった。
何を食べているかというと
今日のエサは、穀物を砕いたものや植物の種子を混ぜ合わせてあるらしい。
あまり参考にならないわね。
参考にする機会も今後あまりないと思うけど。
確か、最初はエサも食べなかったんだから
食べ物に誘われてやってきたわけじゃないか。
遊んでほしかったの?
にぎやかにしていたから?
まあ、にぎやかさではこれほどの家はなかなかないと思う。
動物が多い病院でも
夕凪ちゃんと小雨ちゃんに遊んでもらって、
安心したみたいに眠ってしまった図太さがあるから
うちの家族にすぐ馴染む素質は持っているのかもね。
こんなふうに気の抜けた表情で寝る人を
うちの家族で何人も知っている。
この子も、当たり前みたいに家族になれたらいいのに。
ママは長男なんて生き物まで連れて来て平気でいる。
そんな無茶をしても
すっかり家族の一員になっている。
よく油断しきった顔で眠っているのも同じ。
小さい子と遊んでいたらやけに興奮を始めることだって
夕凪ちゃんがこんなにきらきら見つめているのも変わらないのに
どうしていのししだとだめなんだろう。
顔も同じようなものなのにね。
でも、ちゃちゃにはみんなかわいいって言うけど
あなたのこと、かっこいいって。
私はそうは思わないけど。
あなたのこと、頼りになるって。
私は普通だと思うな。
やっぱり男の人がいると違うと言う。
来てくれたのがあなたでよかったと言う。
男の人なんて来なくてよかったのに。
まあ、あなただったからまあいいかと思う。
ママは、いのししの身元がわからなかったら
いざというときには
知り合いの動物王国に預かってもらえそうだって。
そのつてで、動物園や大学から逃げていないかあたってもらったけど
今のところはどこも心当たりがないとか。
この近くにいのししなんて住んでいないのに
どこから来たんだろう。
ちゃちゃは、うちで遊びたくて
わざわざ遠くの山から訪れたの?
いくらうちがにぎやかといっても、そこまで響き渡らないんじゃないかしら。
大きな声で歌ったり泣いたり、笑ったり跳ねたりはしている。
みんな、そういうものだと思うけど。
うちだけ特別なんてこと、
それはもちろん、住んでいる私たちには
家族の全員が特別なだけよ。
ちゃちゃもわざわざ、こんなうるさいところに迷い込まなくてもいいのに。

麗の偽日記

『お月見泥棒』

拾ってしまった
とんでもないもの。

と、言うからには
たいていの場合
捨て犬、
捨て猫。
くだらないドラマなんかで
ごくまれに
こども。
さらに珍しいものが
お兄ちゃん。

青空がかえるを拾って持ち帰ったとき
捨ててきて!
と騒ぎになることはあっても
なんというものを拾ってしまったんだ感があまりないのは
何かが違うみたい。
生き物でなくても
拾ってしまって
えらいことになったと思う
電車の網棚のマンガ雑誌の
いやらしいマンガ。
私は拾わないわ、そんなもの。
拾うのは、立夏ちゃん。
見つけたらすぐ手を伸ばして
汚れているかもしれないのに
警戒心がないのね。
やめてよって言っても
いつも返事だけは元気でいい子。
はあー。
あなたからも言って聞かせてよ。
効果があるかどうかは知らないけど。
他に、拾うと困るものは
定期券。
なくした人は絶対に
必死の思いで探している。
想像するだけで胸が痛くなるわ。
どうしても駅員さんに届けたい
大きな責任が伴う拾得物よ。
だけど時間がないときには、
拾った場所の説明やら
詳しい話を済ませるのは大変。
そうか、
拾うものがどれだけ大変なのか
責任によって決まるのね。
かえるに責任を持つ理由なんてないものね。
それにしては、
お兄ちゃんなんてものを拾ってきたママは
責任とかあんまり考えていないわよね。
そんなママの子だから、立夏ちゃんも
難しいことを考えるのが苦手なのね。
責任感がない、というわけではないと思う。
そういうわけで、一番拾って困るのが
お財布なのね。
今日の問題はそれだった。
しかも
一万円札が一枚という大金。
やばい、
やばすぎる!
チョー大金。
立夏ちゃんみたいな声が頭に浮かんでしまう。
冷静な態度が一瞬飛んでいく。
大きすぎる金額。
こんなお金があったら、
この駅からどこまで乗っていけるか。
リニアの駅も予定が発表されて
ますます遠くへ行くのが便利になるし。
それにしても、リニアのルートは
前々からだいたい予想ができているんだから
ニュースで大騒ぎするほどでもないわ。
そんなに気になるようなら、
みんなが普段からこまめに調べていればいいのに。
誰も彼も、今さらになって決定したくらいで
騒ぎすぎ。
軽薄なんだから。
これだから、大人の人は嫌いよ。
ニュース番組も嫌い。見たいのは天気予報くらい。
テレビは、嫌いな番組が多いわ。
好きな番組もある。
そんな話じゃなかったわね。
立夏ちゃんとは、下校時刻が重なることはあまりなくて
今日は、たまたま一緒。
駅で声をかけてきたから
並んで座って
9月でもまだ暑い日なのに
くっついてきて。
夏服だから暑苦しいって感じじゃないのが
まだ救いだった。
もう衣替えも間近なのに
少し着たほうがいいんじゃないのかな。
やけに暑いからと言ってもね。
近くの席に落ちていた財布を二人で見つけたとき
その金額に変な感嘆が頭に浮かんだのは
立夏ちゃんがずっとうるさかったせいね。
もちろん、お財布を落とした人はすごく困っているはず。
立夏ちゃんが帰りに交番に届けてくれるって言うから
お願いしたわ。
こういう時に堂々と引き受けて、頼りになるのは
なんだかんだ言っても、あれでお姉ちゃんという感じがしました。
リニアで遠くに行くお金は
路線ができる頃には大人なんだから
ちゃんと自分で稼ぎます。

いくら、十五夜には
子供が竿の先で団子を盗んでいく
お月見泥棒の風習があるらしいと言ったって
関東近辺ではほとんど広まっていないし
盗んでいいのは団子です。
お財布を拾ったからって
自分のものにするなんてできない。
お月見泥棒の風習を聞いてきた蛍姉様が
家でもやってみないかって提案したけど
不器用な子も多いし
食べ物で遊んではいけない。
わざわざ手作りでつくったお団子だから
お行儀よく食べたらいいわ。
特に年長は、小さい子の見本になりたい。
あんまりがつがつ急いで食べたらみっともない。
あなたも
量はいっぱいあるから。
よく食べる子が多くて充分じゃなかったら
あげるし。
私はうさぎ耳を断ったから
うさぎ柄のエプロンを渡されて、お団子作りのお手伝い。
一応、家族行事には参加したことになるのかな。
うさぎ耳が家族行事というのも、珍しい光景だと思うけどね。
月がきれいで
みんな喜んでいるわね。

麗の偽日記

『やりのこしたこと』

半袖だと
冷えるかな。

一枚重ねたい涼しさが
知らせているみたい。
夏休みもあとわずか。
残り一週間の
カウントダウン。

宿題はもう終わったから
焦ることはない。

電車の絵は
どこに提出するというわけでもなく
気まぐれで描いていたものだから
下手だからって気にならない。
自分でまあまあと思えるならそれでいい。
愛はあると思う。
技はないとしても。
まあ、誰かに見られるかもという話になったら
良くない気がするだろうけど。
しまっておくだけのものだし。

だから、
なんだかこのまま終わって欲しくない
なんて気持ちになるのは
思ったほどレールの上を
走り回ることができなかったから
なのかしら。

日本中に敷かれたレール。
この長い休みで
私はどこまで乗っていくことができるのか、
わくわくしていたわりに
乗れなかった。
近所を回るくらいでした。
まあ、わかっていたけれど。
無謀な空想の翼を羽ばたかせただけで
実現はあきらめていた。
小学生なんだから。
それに、近場を歩くだけでも
一日かけて
休みでなければできないことを
おこづかいと相談しながら
なんとかやり遂げた。
小学生にできる夏休みとしては
充実していたと思う。
最初から高望みはしていなかったから
やりのこしたことは
特にないと思うんだけど。

学校が始まるのは
嫌じゃないんだけどな。
きちんとした規律正しい生活。
毎日、立派に役目を果たす
お姉さんたちや電車たちのように
私たちも一歩ずつ将来を目指します。
どこかすがすがしい。
なんで気が進まないの?
いじめられているわけでもない。
友達が言うには、
いじめとかなくてよかったね。
しっかりしている子が多いクラス。
麗ちゃんを初めて見たときには
しっかりしすぎて
いじめるほうだと思ってた。
そうなの?
私、誰もいじめたことはないわよね。
言い方がきついのかなあ。
学校は何とかうまくやっていけてます。
男もいないし。
ずーっと私の周りに
どこにもいなければ
気分は落ち着いていたのに。
家にいるほうが自信がないくらい。
夏休みに
お手伝いで男と並んでキッチンに立つようなときは
えーってなったし。
あなた本当にできるのって
それなのに
休みがもう少しあったらいいなんて
どういうことなんだろう。

みんなは夏休み最後のお祭りで
ぱっとはしゃいで
一区切りの感覚があるから
いいのかもしれないけれど。
私にはそんな、気分の切り替えみたいな
大きな山ではない。

夏休みに後悔がない生き方。
やりのこしたことがない
完全燃焼を実感するなんて──

たぶん、
夏休みを利用して
好きに乗りまわれるようになるまで
夏の終わりの
はっきりしないもやもやは続くのね。
終わって欲しくないというわけではなくて
ただ、
もう少し
あったら
もしかしたら
というだけ。
それだけです。
気持ちが引き締まらず
そんなに暑くもないのに
ダラダラしている原因は
それだけ。

夏休みが終わっても
特に問題はないです。
デザートにスイカが出るのも
今日が、今年最後になるかも。
嫌でも訪れる夏の終わり。
始まる普段どおりの生活。
私は、それが嫌ではないんだから
もう少ししたら
気持ちを整理して
迎える準備をきちんとしておこうと思います。

陽炎の立つ
汗臭いプラットホームも
もう来年まで経験することもなさそう。
汗臭さはともかく
あの夏らしい景色は
暑苦しいわりに
そんなに苦手でもなかったな。

麗の偽日記

『それどころじゃない』

旅は嫌いじゃない。

心残りといえば
ゆいレールには乗れなかったけれど──
いい旅でした。
私は自分で思っているよりも
窓から見える海に
心を動かされるのかもしれない。

また行こうねって言ってる子も
多いから
今度は違うルートを通ることになるかもね。

それともあなたは
また同じ場所に行きたい?

家に帰ってきて
これからは、元通りの日常が始まります。

旅もいいけど
これはこれで。
また近くを歩くと
目が行く線路に
出会いがあるかもしれない。
一瞬、きらめいて
過ぎていく
またたくような踏切の
胸のざわめき。
旅行の間、時々懐かしく思った、
私が遠くに置いてきた風景。
帰ってきました。
私の住む町にも、
いいところがたくさんあるって知っている。

それに、家には
慣れ親しんだものが
たくさんあって
ほっとする。
そうだ、一応言っておくけど。
吹雪ちゃんの朝顔に105系の名前を付けたのは
私じゃないから。
いえ、本当に。
ただ、朝顔の世話を手伝っただけなんだけど
一緒に作った、感謝の気持ちだって。
私なら、もうちょっと名前を付けるときに悩むけど
まあいいか。
それから、さくらちゃんはうまく言えてなかったけど
アルエルじゃなくて
人魚のアリエルね。
アールとエルじゃあ、右と左ね。
しかも位置が逆だし。
帰ってきたら、暑さのせいで
元気がなくなって見える花。
時期的に、そろそろしぼんでしまうのかな。
吹雪ちゃんがまたお世話をしてあげたら
お母さんが帰ってきたと思って
また元気になるのかな。
妖怪の研究も含めて、
生命に関心があるこのごろの吹雪ちゃん。
妖怪って生き物でいいの?
本物のシーサーには会えなかったみたいで、残念ね。
琉球村でシーサーに色を付けるときは
本物のサンプルがないから困っていたみたいだけど
その顔が、まるで
どんと来い!
と言ってるみたいだったって。
望むところだ!
と。
待ってました!
と。
そんな顔だった?
お兄ちゃんの顔はあんなに怖くはないのに
なぜか、いつもの優しいお兄ちゃんを思い出して
つい夢中になっていたって。
自分で気に入るくらいにはできたみたいで
良かったわね。
私のは、あんまりかっこ良くならなかった。
あなたが水着を選ぶとき、
私の意見もみんな気にしていたけれど
あまり参考にしないほうがいいかもね。
ましてや、男の水着なんて興味はないし。
浜辺は慣れないことがいっぱいで
水着に気を使うどころじゃない。
私の水着は、立夏ちゃんには
これほどのものがあるなんて!
と驚かれるほど
大人しい水着。
うっとおしい水着選びの買い物だったけど
まあ、このくらいなら。
それなりの色合いの水着。
面倒が多そうで
ちょっと心配だった海水浴も、
思ったより、快適に過ごせました。
水着のおかげだとしたら、感謝するところなのかな。
複雑な気分。

帰ってきて、困ること。
それは、まだまだ続くこの暑さもあるけれど
たまった洗濯物がすぐ片付くのは助かるところ。
小雨ちゃんの水着が冒険的だったのは
夏の暑さがいけなかったからで
小雨ちゃんに文句を言うようなことじゃない。
と、思うようなあの頼りない布地も
簡単に乾きそうなものをさっそく洗濯して
物干し竿でひらひらしている姿を見ると
なんだか頼りないくらい。
あんなに活躍していたのに、
今年はもうお疲れかな。
問題は、これだけあると
どうしても一家総出の大仕事になってしまうこと。
嫌ってわけじゃなく、
なんて言うか、
水着も、下着もあるのに
男の人に手伝ってもらって
いいのかな。
よくないわよね。
霙姉様は、家事も大変だから全員の手を借りないといけない、
恥ずかしさとかそれどころじゃないって
達観したようなことを言ってる。
それはまあ、宇宙の大きさに比べたらささいなことだとしても。
私には、それどころじゃないで済まない問題。
あんまり洗濯物をいじりまわされたくないから
私が片づけをがんばるからって言ったけれど
えっ、ていう顔をされたというか
いやいや、という顔をされたというか
そうよ、たたみものなんて上手にできないわよ。
自分の好きで不器用に生まれたわけじゃないのに!

旅行から帰ってきて
さっそく一騒動のはじまり。
大きなお仕事になりそうな、どっさりお洗濯。
まあ、旅行の計画で
団体割引の相談まで出てきたときには
うちの家族は普通とは違うところもあるのかなって
そんな気がしてはいたけどね。


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。