アルケイディア&キュクレイン

アルケイディア&キュクレイン TOP  >  小雨

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

小雨の偽日記

『やってきた』

こっちかな?

それとも
やっぱり
こっち?

どちらも正しいような気がする
どんと座っていてくれる場所は
みぎ、
ひだり。

どちらでもいいって言う立夏ちゃんと、
いいのかなと思う小雨のふたりでは
堂々巡りの迷路に落ち込んでいたかもしれない。
抜け出せないまま
こっちがきれいかも、
ううん、こっち?
いつまでも、振り子のように行ったりきたり。
あのままでは、はたしてどうなっていたことか。

麗ちゃんが、
去年のお写真を用意して
確認してくれなかったら
当日に間に合うかどうかも疑わしいばかりか
小さい子たちのおもちゃになってしまったら
大変です。

私たち女の子の成長を祈る
とても立派なお雛様。
今年のお飾りの役目を
海晴お姉ちゃんからじきじきに任せてもらったのは
小雨でした。

どうして、
いつも失敗ばかりの小雨だったんだろう?

きっと、
六年生の先輩の卒業が近づいて
小雨が自信をなくしていたから。
来年の小学校を背負っていく
いちばんの年上。
同級生の子が
大事な生徒会を受け継いで、
来月には卒業式で送り出すお仕事があります。
残された私たちでも大丈夫だと
先へ向かう人たちの一歩に、
これまで支えてもらった私たちのお手伝い。
立派に卒業式のお仕事を果たして
手を振って見送って
涙を見せないで。
私たちは大丈夫ですと
胸を張ってその日を迎えるために
いま、小雨たちのクラスは準備をしています。
卒業して言ってしまう人は
来年度からこの学校にいなくなる。
春が近づくのに、冷たい風が吹くような寂しさ。
小雨たちが小学校のみんなを引っ張っていくなんて
本当にできるのかな。
小学校の授業や、委員会のお仕事を
いっしょうけんめい続けています。
満点のとてもいい結果を出せてほっとしたり、
みんなで協力して進めたお仕事が
ちいさな不注意でうまくいかなくなって
時間が足りないときもありました。
それは小雨がいけなかったりしたことも、
いつもみんなを引っ張ってくれる元気な子が
たまにどうにもならなくなってしまったことも
本当にたくさん、失敗を続けて。
そんなとき、立ち止まったままどうしていいのか何も思いつかないで
動けない私たちに手を差し出してくれて
おびえて座り込んでしまいそうな小さな子がいても
差し出した手をつかんでもらうまで
やさしく待っている。
小雨がどこにも見つけられない道を教えてくれて
一緒にみんなの失敗を背負ってくれるみたいにして
歩いてくれた大きなおとなの
お兄さん、お姉さんたち。
本当は、小雨たちがまだ全然そんなお姉さんになっていなくても
卒業しないで小学校に残るなんてできないと、知っています。
もし卒業式がうまくいかなくて、上手に送り出すことができなくても
お兄さんやお姉さんたちは小学校に残るみんなを不安に思ったりしない。
いっぱい学校生活を一緒に過ごして、よく知っている子のことは
もう心配いらないってちゃんとわかっているんだし。
それに、これから先の中学校生活に進む未来で
胸がいっぱいになっているはず。
小雨たちの任せられた卒業式がうまくいかなくたって気にしない。
たぶん、うまくいって恩返しをしたいなんて
そんな気持ちは届かないかもしれない。
小雨にできることなんて、そんなにないのだし。
どんなに寂しくて、不安だって
がんばれば上手に気持ちが届くとは限らない。
小学校に残る私たちが
この学校にいたみんなのおかげで、少し立派になりましたなんて
伝える必要は何もない。
期待に溢れて振り返っているどころじゃないのならなおさら。
卒業生の人たちが笑顔で旅立っていけるのならうれしい。
でも小雨は
春が来て、次の学年に進んでいくのがなんだかこわい。
そんな小雨に
しっかりしてほしいって思ったのかな。
海晴お姉ちゃんは
小雨ちゃんにしかできない大事なことがたくさんあるよ、って
いつも言ってくれます。
この家に小雨がいて、みんながとてもうれしいんだということ。
小雨にもできることがあると教えたくて
お雛様の準備を任せてくれたんだと思います。
でも小雨は
自分は何も上手に何もできないと
大切なお仕事を進めている途中で、ますます実感してしまうようで
なんだかつらくて
手が止まってばかり。
立夏ちゃんにからかわれたみたいに、お雛様にみとれてしまっているようだっていうのも
中断の理由には、少しはあるんだろうけど。
きれいなお雛様。
小雨の手で飾るにはあまりに華やかすぎるお雛様。
小雨の成長を守ってくださるなんて
とてもおそれおおい、豪華に着飾った美しい我が家のお雛様。
立夏ちゃんと麗ちゃんが手伝うと言い出してくれなかったら
小雨はどうなっていたのかな?
お兄ちゃんも手伝ってくれて、ありがとうございます。
小雨は目の前のことで頭がいっぱいで
周りを見ている余裕が全然なくて
お兄ちゃんから、最後にいちばん上の壇に来てもらうお内裏様を渡してくれたとき
ああお兄ちゃんだ、と思って
どうしてここにいるのかわからなかったくらいなんですけど。
小雨を手伝ってくれているんだ、と当たり前のことに気がつく前から
お兄ちゃんがいることにちょっとほっとした小雨でした。
こんな小雨でも
心強い人がいてくれたら、
大事な飾りつけの一番最後をきっちり終えることはできるんですね。
やっと完成した雛壇を前に
ふーっと長い息を吐き出して
緊張から解放されて、やっとまわりを見回したときに
小雨の周りには、
いつのまに家族のみんなが来てくれていたんだろう?
みんな、心配かけてしまってごめんなさい。
みんなで飾り付けをしたお雛様がいてくれるから
小雨は元気な笑顔でいられます。
我が家の立派なお雛様。
今年も小雨たちのところへ来てくださって
見守ってくれているんですね。
小雨たちを見ているすまし顔に恥ずかしくないように
小雨は、たぶんどうしても、いつもたくましくというわけにはいかないだろうけど。
なるべくもう少しの間だけは
泣かないで、がんばっていけたらと思います。
スポンサーサイト

小雨の偽日記

『席決め』

眺めがいい窓側の席と、
移動しやすい通路側の席と。

お兄ちゃんはどちらがいいですか?
小雨は通路側の席になって、
みんなを助けてあげられたらと思っていたんですけど。

行きの電車では
窓側に座った星花ちゃんと夕凪ちゃんが
周りを見に行こうとするときに
小雨は何度も立ち上がって、道を開けるので
そのたびにつまずいては
手元の荷物をころころ転がして
みんなに迷惑をかけてしまった
不器用な小雨なので……
帰りの電車は、窓側にいたらいいでしょうか?
たぶん疲れている子は眠ってしまうだろうし。
行きでさんざん見ては、みんなで歓声をあげた電車旅行。
車両には他に人がいなかったとはいえ、騒いでしまったのはいけなかったかな。
でも、小雨にはみんなは止められなかったし
むしろ、小雨も声を出してしまっていたかもしれないし。
大きな声は出せない小雨ですけど
みんなと一緒に同じ景色を見ているのは楽しかった。
窓の外、通り過ぎていく知らない風景は
だんだん知らない町の、見慣れない色合いに変わっていく。
何度か通っている大磯ですけれど、年に一回か二回くらいですから
やっぱりいつも車窓の眺めは新鮮ですね。
次から次へと移り変わる景色が
私たちが、楽しみな目的地へ近づいていると伝えてくれているみたいでした。
楽しい旅行でした。
電車を楽しめるのが麗ちゃんだけじゃなくてよかったですね。
長い移動時間で、どうなるかと思っていたけれど
麗ちゃんは電車の難しい話をするだけじゃない。
窓の外にどんな景色が見えるか知っていて
小雨たちに教えてくれます。
今度の旅行は、ホテルで温泉に入るくらいしかすることがないし
私たちが行きなれている場所だから
麗ちゃんのしおりは、今回はそんなに情報は多くなかったけど。
そのぶん、電車の中でいろいろ教えてくれました。
年末だから、力を入れてしおりを作るのも難しいけど
このあたりの地図も役に立って、
いつも家族旅行は、麗ちゃんの電車好きに助けてもらっています。
忙しかった年の暮れに、お疲れ様です。
大掃除も途中だったりするし。
麗ちゃんは計画的に進めて、自分の掃除はきっちり済ませたんですけど。
立夏ちゃんがとても困っていたから
麗ちゃんも、小雨と一緒にお手伝いをしたり
どこかへ行っているようで、姿が見えなかったり。
立夏ちゃんは、麗ちゃんは逃げちゃったんだって嘆いていたけれど。
後から聞いたら、いらないものを運んでいたんです。
旅行中は使わないお風呂で
はしっこに積んである荷物は立夏ちゃんのものが多いみたい。
帰ったら、お風呂の掃除が大変ですね。
麗ちゃんはてきぱき片付けを進めていて
立派でした。
小雨なんて、立夏ちゃんのお手伝いで精一杯で
自分の掃除もあんまり進んでいないくらいです。
でも、家族のためにたくさんがんばった麗ちゃんの手を借りるのは悪いから。
年をまたいでしまったけれど
小雨の大掃除はこれからです。
明日は、帰ったら旅行の後片付けをして
少しは小雨自身の掃除も進められるかな?
旅行から帰ったときの一番の大仕事は
やっぱりお洗濯でしょうか。
お天気になるといいですね。
そうだ、
晴れてうれしいのは、お洗濯だけじゃないんです。
ホテルならちょっと寒い日でも、お風呂で体の芯からぽかぽかになれますよね。
おうちだと、そうはいかないから。
今日は寒の入りだって、海晴お姉ちゃんが教えてくれました。
季節はいよいよ本格的に寒さを増していきます。
いままで大丈夫だったからって
油断をしないで。
明日の帰りも、晴れてくれるかな。
そのあともずっと
よく晴れて暖かい日が続いたらいいのですけど。
みんながうれしい、気持ちのいい日差しが続いたら
冬だなんてことも気にならずに
みんなが元気で過ごせるのかな。
小雨が願ったところで、どうにもならないことですね。
でも小雨は、こんなちょっとしとしとした名前だけど
やっぱり晴れている日のほうが気持ちがいいんです。
お風呂に長く入っているのが苦手なのは
小雨があんまりあったまってしまったら温泉になっちゃうからなのかもって
立夏ちゃんが言ってました。
温泉になるかどうかはわかりませんけど……
熱いお風呂が苦手で、せっかくの温泉なのに長く入れなくて
損じゃないかな、って立夏ちゃんや麗ちゃんは気を使ってくれます。
でも小雨は、あんまりお風呂に入れなくても
みんなと旅行に来て
とっても楽しい時間を過ごしたから、満足です。
何をしていたかというと、特に何もしていなくて
小さい子とお部屋で遊んでいたり、ときどき散歩に出たりするくらいでしたけど。
晴れた日が続いて、あんまり寒くもならない、いい陽気でした。
海晴お姉ちゃんはもうちょっとここに泊まっていたいって言うし
春風お姉ちゃんも、もっと温泉にいっぱい入りたかったって。
お兄ちゃんと一緒にお風呂に入りたかったんだそうです。
それはなんだか恥ずかしい気もするけど、いいのかな。
家族だから、かまわないのでしょうか?
むしろ一緒に入るほうが家族らしい付き合いだと言われたら
そうなのかなと迷ってしまいます。
小雨はたぶん恥ずかしくて
なかなかお兄ちゃんと一緒にお風呂に入れないと思います。
そんな小雨でよかったら
これからも妹でいさせてください。

いよいよ新年を迎えた小雨たちの
未来へ向かう、心をこめたあいさつは
いつもありきたりな言葉だけど。
小雨の今の精一杯の気持ちを伝えようとしたら
どうしても当たり前のあいさつになります。
こんな小雨の心からの言葉を、お兄ちゃんに聞いてほしい。
どうぞ、今年もよろしくお願いします。
新年最初の旅行は
とってもいい旅行でしたね。
熱いお風呂が苦手な小雨でも、満足しています。
みんなも、楽しい旅行になったでしょうか。
おうちに帰るまで、安心したらいけないかな。
もう少しの時間ですけど、楽しく旅行を続けたいですね。
麗ちゃんは、小雨が帰りの席で悩んでいると相談したら
電車の席くらいで
こんなに真剣に悩むことができるなんて
幸せなことだわ、って言ってくれました。
そうですね。
何も思い残すことなく、旅行から帰れそう。
家族みんなのおかげです。
なんだかやけに細かいことで悩んでいるね、ってあきれていましたけれど。
こんなことで真剣になれるのは
たぶん、家族のみんながとても大事だからなんだだと思います。
今年も家族で一緒に
たくさん、楽しく過ごせるといいですね。
みんながいてくれて
一年のはじまりは、とても幸せな時間になりました。

小雨の偽日記

『クリスマス』

小雨たちに
今日、クリスマスを運んできてくれたのは──

家族みんながそわそわ準備をはじめた頃から
しだいに厳しさを増してきた
12月の本格的な寒さなのでしょうか?

それともやっぱり、
プレゼントと一緒に
家族にきらきら笑顔を届けてくれたサンタさんの活躍?

蛍お姉ちゃんと立夏お姉ちゃん、氷柱お姉ちゃんが
晩ごはんの前に帰ってくるとき、
それぞれのお店から持って帰ってきてくれた大きなケーキは
食べ切れなくて冷蔵した分も多かったけれど
雰囲気を盛り上げてくれたし。

星花ちゃんの初めてのケーキも上手に出来あがって、
二十人分に切り分けたおいしさが、今日のクリスマスの一番のお楽しみだったのかな。

夕凪ちゃんのリクエストのクリスマスピザは
おうちで作るのは難しくて用意できませんでしたけれど
おすしのリクエストなら、
ちらし寿司を作る春風お姉ちゃんのお手伝いができてよかったな。
クリスマスらしいちょっと豪華な楽しさがみんなに届いたでしょうか。
お兄ちゃんも食べてくれましたか?

もしかしたら、
晩ごはんを食べながら盛り上がったクリスマス会で
ユキちゃんたちのおうち合唱団が披露してくれた
かわいい歌声が、
おうちにも本当にクリスマスが来たような
うれしい気持ちを届けてくれたのかもしれない。

でも、いちばんうれしいのは──
久しぶりに家族全員が晩ごはんの席に並んでいること。
蛍お姉ちゃんと氷柱お姉ちゃんが、長い間のお仕事を無事に終えました。
立夏ちゃんも持ち前の明るさで、臨時アルバイトの役目をしっかり果たしたそうです。
やっと、誰も寂しい気持ちを我慢しないでいられる晩ごはんになりました。
お疲れ様っていう、小雨の尊敬の気持ちや
みんながいるととっても安心する感じが
ふくらんで。
とっても盛大なクリスマスのお祝いをしているのに、
それだけじゃないみたい。
小雨は、蛍お姉ちゃんたちがいてくれてうれしいって
珍しく積極的に伝えられました。
長い間寂しかった、っていう愚痴も少しこぼしてしまったのは
恥ずかしかったですけど。
見回すと、うれしそうな顔がテーブルのどこにも並んでいるパーティー。
普段は冷静な麗ちゃんも、ときどき満足そうに息をついて
ゆっくり周りを眺める目が、こころなしかうるんでいるよう。
小雨がうれしすぎて、そう見えてしまっただけ?
なんだかいつもよりたくさん食べていたり
小さい子が食べるときに手助けしてあげたり。
蛍姉様は今日はゆっくりしていて、なんて
むしろ蛍お姉ちゃんがおろおろしてしまうほどはりきっているみたいで。
家族が揃っていることをみんなが喜んでいるような食事の席でした。

たぶん、
小雨ががんばって作った分のお料理は
それほどクリスマスを盛り上げる力になっていないと思うけど。
でも、星花ちゃんや夕凪ちゃん、吹雪ちゃんの頼もしいお手伝いもあって
小雨がびっくりしてしまうほど、見栄えもよくておいしくて
喜んでもらえるクリスマスディナーになりました。
星花ちゃんたちが中心になって作る頃には、もっとすごいのかな。
家族みんなが食べてくれてうれしいです。
失敗ばかりしてきたけれど
どうにかおいしく食べられるものもできてよかった。
最初に用意していた分量から、失敗の分がずいぶん減ってしまって
お兄ちゃんは男の人だからいっぱい食べてほしかったのに
ちゃんとおなかいっぱいになったでしょうか。
いつも蛍お姉ちゃんと氷柱お姉ちゃんのお迎えも大変だったはずだから
クリスマスくらいは小雨でもおいしいものを作って力をつけてほしい、と
そう思っていたのに、張り切れば張り切るほど失敗は増えていくようでした……
それはともかく、お兄ちゃんもお疲れ様でした。
暗くなるのも早くて、夜になるととても寂しいこんな季節。
蛍お姉ちゃんと氷柱お姉ちゃんがアルバイトを続けられたのは、
いつもとても立派なお姉ちゃんたちだからなんですけど、
小雨は勝手に
お兄ちゃんの力がとっても大きかったからだと思ってしまいます。
小雨も、お兄ちゃんにはいっぱい迷惑ばかりかけてしまいました。
春風お姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒にキッチンにいて
いつも見守っていてくれると思うから、
小雨はうまくいかないことのほうが多かったのに
どうにか、キッチンのお留守番をつとめました。
期待されていたほど、メインの調理担当として
蛍お姉ちゃんの後継者になって次代を担うことは全然できなかったですけど
だんだん、ちょっとずつでも小雨のお料理をテーブルに並べられるようになって
まったく役に立たないわけではない程度の仕事はできました。
もっとやるべきことはあったかもしれない、そう思ってはいても
小雨にできる精一杯をなんとか果たそうとして
お兄ちゃんにも、ときどき褒めてもらえて。
反省したり、悔やんだり、落ち込む思い出がどんなにたくさんあったって
今、小雨は、自分を責めるばかりではなくてもいいのかな、と思います。
お兄ちゃん、ありがとうございました。
小雨にお兄ちゃんがいてくれてよかったです。
お兄ちゃんが、こんな家族のピンチが訪れるときに
小雨のおうちにいてくれて、どんなにうれしかったか言葉にできないくらい。
もしもお兄ちゃんがまだこの家にいないなんて悲しいことがあったら
しばらくみんなはごはんが食べられないだけじゃなくて
小雨はどんなに落ち込んでいたか、自分でもわからない。
小雨は、実は恥ずかしいことを考えていたんです。
お料理のお手伝いの役目を任せてもらったとき、
いつも家族に迷惑をかけてばかりで
感謝の気持ちをあまり上手に行動で返したりできない不器用な小雨は
こんなときこそ、
いつも小雨のことを守ってくれて
家族からもらっているうれしい気持ちに、
お料理でお返しができたら、と思っていたの。
むしろ迷惑をかけてしまうだけでした。
がんばろうとするほど
小雨はお兄ちゃんたちの優しさのお世話になってしまう。
失敗を重ねて余計な仕事を増やしたことがどれだけあったか、数え切れません。
小雨が今までずっともらってきた暖かい気持ちに
少しでもお返しをしたかったのに
またたくさんの優しさをもらってばかり。
夜になって、ひとりでベッドに入ったときに
一日のことを思い出す小雨が泣いてしまうのは
何もできなくて悔しいからなのか、
小雨に優しくて素敵な家族がいてくれてうれしいからなのか、
止められない涙の理由がはっきりしないまま、
つらいのとうれしさが全部同じみたいに混じりあいながら
今日までお料理担当を続けることができました。
一緒にキッチンでお仕事をする人がたくさんいたからです。
春風お姉ちゃん、いろいろ教えてくれてありがとう。
ヒカルお姉ちゃんも、お互いに励まし合いながら続けてきたような気がします。
お兄ちゃんが、小雨のことを見ていてくれたからがんばれました。
小さい子たちの力が一人でも欠けていたら、
今みたいに笑顔でクリスマスを迎えることができなかったかもしれない。
みんな、ありがとう。
どれだけお礼を言っても足りない気持ちがします。
もう、これから小雨がたくさん働いても返しきれるかわからないほどの優しさ。
本当は、返す必要なんてないと言われます。
小雨たちは家族なんだから。
お兄ちゃんと小雨も、うれしい家族なんだから、
もらった気持ちを感謝で返したりしなくたって
ずっと家族のまま、変わることはないんです。
小雨はまだまだできることがあんまりないから、優しくしてもらうばかりなのかな。
胸を張って、みんなのためにできることなんて、今までも、たぶんこれからも何もなくて。
がんばろうとするほど足を引っ張るだけの思い出が増えていくかも。
小雨は──
みんなに迷惑をかけながら、
仕事を続けてきて。
ひとつ、思うことがありました。
お兄ちゃん。
立派なことが何一つできない小雨でごめんなさい。
何も役に立たない小雨が妹で、お兄ちゃんは困ってしまうときがどんなに多いか
小雨の今の想像なんて全然及ばないくらいではないでしょうか。
力も何もない小雨です。
返そうと思っても、きっと返しきれないものをもらって
返さなくてもいいはずなのに、考えています。
小雨はお兄ちゃんたちのために
少しでもいいからお役に立ちたい気持ちになっています。
これから、また迷惑をかけながら
小雨は慌てつづけると思います。
吹雪ちゃんは、普通にすればお料理はできるのに
なぜかいたずらばっかりしていましたね。
それで気がついたんだそうです。
たとえ間違えないようにしていても
どんなに上手な人でも、失敗は絶対にある。
挑戦しないでいてもいいなんて黙って大人しくしていることは
大好きな、憧れの人がいるのなら絶対にできない。
吹雪ちゃんも、春風お姉ちゃんやお兄ちゃんを見ていると
自分に苦手なことがいっぱいあると忘れてしまうよう。
だから、一番必要なのは、失敗を恐れて何もしないことなんかじゃない。
挑戦を繰り返したら、
何をしていたって、どこかで必ず壁にぶつかるものだとわかってしまった。
本当に覚えないといけないのは、
失敗したときにどうすればいいのか。
吹雪ちゃんがハンドベルの日に、
お兄ちゃんに抱きつくみたいにして帰ってきたときに、
こうすればいいんだ、と思ったんだって話を聞いたの。
それで、
小雨にはお兄ちゃんがいるとわかりました。
小雨は、春風お姉ちゃんみたいにみんなを引っ張っていくことはできないし
蛍お姉ちゃんほど立派なお仕事だって全然できない。
小雨が知った、たぶん一番大事なことは
たくさんの家族がみんなすごい人たちだということと、
何よりも、お兄ちゃんが
小雨をいつも気にかけてくれて
情けなくても優しくしてくれて、
必ず守ってくれる。
家族のみんなが、この世の誰よりも小雨のことを愛してくれること。
小雨が気がついた、家族の大変な日々の収穫。
お礼や感謝を行動で上手に示す必要がなくて、
もしもしたくたって、全然上手にはできないとわかっています。
小雨はこれから
できないけれど、どうしてもしたくって
お兄ちゃんたちのために
何かしようとして
迷惑をたくさんかけて、
落ち込み続けて。
その時、小雨が家族と一緒なら
悲しくて泣いている小雨でも
やっぱり、今みたいに
お兄ちゃんたちにありがとうを言おうとしていると思うんです。

蛍お姉ちゃんのお仕事の話を聞いていると
恥ずかしがっているみたいな言い方になっていても
すごい大変なお仕事をして、活躍しているんだなと感じます。
氷柱お姉ちゃんは、
蛍お姉ちゃんのケーキの思い出だとか、
とても難しいことを考えながらお仕事をしていたんですって。
小雨があと何年かしたら、蛍お姉ちゃんや氷柱お姉ちゃんみたいになれるとは
全然思えないの。
お仕事をする能力も、考えている内容も、ずいぶん違うんです。
氷柱お姉ちゃんは、お仕事なら答えを出せると期待していた悩み事は
結局何もわからないまま終わった、って残念そうでした。
家で作るんじゃなくてケーキを売るお仕事の大切さとか
どうして蛍お姉ちゃんはおうちでしたいことがたくさんあるのに
わざわざ外にお仕事に出て行くのか、とか
そんな悩み事は、答えが出ないままだって。
でも、蛍お姉ちゃんからお話を聞いてしまいました。
氷柱お姉ちゃんのお店の人が話してくれたんですって。
てきぱきと仕事をこなして
頭がよくて、要領もよくて
頼りになるお仕事をしていた氷柱お姉ちゃんの
一番の活躍は、
小さい子がお店に来たときに
優しく話してあげて、
緊張している子でも上手にお話ができるようにしてあげたこと。
他の誰にもできない、すごい能力だったそうです。
氷柱お姉ちゃんは、おうちだと小さい子たちに厳しくしすぎてしまったり
蛍お姉ちゃんも、よく相談を受けていたみたい。
ところが実は、知らない人ばかりのお店で働くようになって、
子供の相手は得意なほうだったということが判明しました。
どうしておうちでは、なかなか全員に優しくするのが難しいみたいなんでしょう?
蛍お姉ちゃんは、このアルバイトで自信をつけて
いいほうに成長していけそうで期待している、って。
氷柱お姉ちゃんが、お給料のほかにもたくさん得るものがあったなら
小雨みたいな未熟すぎる小さい子が言うのもおこがましいですけど
なかなか発見できない自分を見つけるって
きっと、すごく難しくて、とても無理みたいに見えて
ありえないようでも、もし成功するときだって
ときどきはあるとしたら、
大変なことばっかりの連続でも。
氷柱お姉ちゃんが、何かうれしくもあった思い出だって
アルバイトを思い返していられたらと、小雨も願っています。
小雨は大変な経験をたくさんして
少しは何かを見つけることができたでしょうか。
これからの小雨が、上手に成長していけるか、つまずいてばかりなのか
たぶんうまくいかないことだらけで変わらない気もして。
でも、これからあわただしい年末。
もしも何かあったら
こんな情けない小雨のことを
どうかよろしくお願いします、お兄ちゃん。
小雨が情けない子でも
お兄ちゃんは見捨てないで
守ってくれます。
小雨は何もできないままかもしれないけれど
お兄ちゃんの妹として
たまには前向きになって、がんばっていこうと思えるときがあります。
迷惑かもしれませんが
お兄ちゃんが頼りなんです。
小雨があたふたと
どうしようもない空回りを続ける姿を
これからもお見せしてしまうことを考えたら
今からもう、顔が熱くなってしまうけれど
お兄ちゃんがいてくれると思えるから、
小雨は、弱い心に少しの勇気が生まれそう。
クリスマスが終わっても
小雨はお兄ちゃんに守ってもらっているんです。

小雨の偽日記

『奇跡』

小雨がおうちに帰ってきた頃から
ぽつぽつと降り出した雨は、
お兄ちゃんたちの帰宅を待たずに
どんどん強くなっていきました。

今日は、クリスマス合唱会の練習で
お兄ちゃんたちは遅くなります。
高校と中学が終わったら、小学校に行って星花ちゃんと夕凪ちゃんも合流するんだと
朝は話していたけれど
みんなは移動の時に濡れてしまわないかな。
それとも、もうお兄ちゃんたちは練習をする公民館に到着しているかな?
霙お姉ちゃんは早めに行って準備をするから
お兄ちゃんたちもお手伝いをするみたいな話をしていました。
誰も濡れていないで、無事に帰ってきてくれたらいいけれど。
もし濡れたときのために着替えは、朝はまだ降りそうになかったから
やっぱり持って行かなかったかな。
ちゃんと天気予報を見ていて、傘は持って行ったでしょうか。
立夏ちゃんは昨日の夜も張り切ってストレッチをして、声を出せるように体を整えて
よく運動したから、今朝はまぶたが重そうなぼんやりねぼけ顔でした。
顔より大きくお口をあけてあくびをしているって言ったのは、麗ちゃん。
小雨はいくらなんでもそんなことはないと思うんだけど
立夏ちゃんのあくびを見ていたら、本当に顔より大きいような気がしてくる不思議。
あのあとちゃんと目を覚まして、傘を持った?
着替えを届けに行ったらお邪魔かな……
家にたどり着いたとき、小雨が珍しくこんな天気でも帰宅中に雨を呼ぶことがなく
小さい子たちの賑やかな声がするおうちの中に無事に帰りついたときは
ほっとして、もう一仕事終えたような気もしてしまうくらい安心したものでした。
でも、お兄ちゃんたちはまだ移動中なのかもしれないし
小雨は自分のことばかり考えている場合じゃなかったんです。
なんであんなに安心してしまったんだろう……
お兄ちゃんたちが冷たく濡れていないだろうかと思うと、
お空の色みたいにどんどん灰色になっていく小雨の気持ち。
でも今日は、小雨はおうちで大事なお仕事があるもの。
温かいご飯をたくさん作ってお帰りって言ってあげなくちゃ!
着替えを届けに行ったらいいのか迷っても、実際はそんな余裕がなくて
力が足りない小雨ですけど。
せめて、おうちのお手伝いだけはしっかりしたい。
温かいご飯は、とても大事なこと。
お外で一生懸命がんばってきて
帰ってきたときにご飯がおいしそうだったら、とても安心すると思うもの。
ヒカルお姉ちゃんとも相談したけれど
どうしても傘や着替えが必要な時は電話があるかもしれないし
やっぱり、最初の予定通り晩ごはんの支度はしておいたほうがいいだろうと
そんな話でまとまりました。
今日は……
たぶん、とても大変なお仕事になりそうだったから。

ヒカルお姉ちゃんは、昨日は一生懸命お料理の練習をしていました。
喫茶店のお誘いには負けない!
初心者でも、いい先生について努力すれば、卵焼きなら上手に作れる。
味付けにこだわって、おうちならではの個性も出しやすいし。
お弁当に入っていたらうれしい定番メニュー。
苦労してようやく、お弁当を開けるときが楽しみになる卵焼きが完成したみたいでした。
春風お姉ちゃんと抱き合って喜んでいたっけ。
その結果はと聞いてみると、
喫茶店のオムレツにはやっぱりかなわなかったそうです。
それはそうかもですけど……
ヒカルお姉ちゃん、今日もはっきり断れなかったのかな?
心配だな……ヒカルお姉ちゃんまでお仕事に行ったら、
用事がなくておうちにいつもいる家族の一番年上が、小雨になってしまうもの!
今日のお料理の監督は、月曜日はアルバイトがない蛍お姉ちゃん。
サポートするのはヒカルお姉ちゃん。
昨日の経験もあるし、きっと頼りになります。
吹雪ちゃんも今日はあまり過激な実験はしないでいてくれました。
お手伝いの人数が少なくて、そんな余裕はないって吹雪ちゃんもわかっていたのかな?
蛍お姉ちゃんに丁寧に教えてもらったり、本を見たとおりに作れば
ちゃんと見た目も味も、何も問題ないものが作れるんです。
まだ2年生なのに、すごい!
身長が足りなかったり、包丁はまだ危なかったりして
ヒカルお姉ちゃんの手を借りる場面は多いけれど
それでも、吹雪ちゃんが責任を持って担当するお料理はしっかりできています。
小雨は教えてもらったとおりのそのままに作っても、普通のお料理にはなかなかならなくて
それがとてもうらやましいのですけど、
どうしてちゃんとできる吹雪ちゃんはときどき無茶なことをしようとするんだろう。
しっかりしている吹雪ちゃんなのに、
タコの足を切らないでおでんに入れようとしているところをヒカルお姉ちゃんに見つかって、
止められていました。
後から聞いたら、タコの足はよく煮るとどの程度柔らかくなるのか、
限界を試してみたかったそうです。
ヒカルお姉ちゃんに、そんないたずらしていたら
ご飯の支度が嫌で合唱会に参加したいみたいだぞって言われて
びっくりしてすごく慌てていた吹雪ちゃんは、一瞬だけでしたけど
いつもの冷静で立派な、自慢の妹ではなくなったみたいで、かわいそうだけどなんだかかわいかったな。
丁寧にお料理の支度を手伝ってくれるユキちゃんも、とてもしっかりしているように見えたけど
窓の外を見つめて、お兄ちゃんたちは今頃がんばっているかな、
寒い思いをしないで元気で歌っていたらいいなと話している時、
その時だけは、こんな小雨だけど同じ気持ちだよって言えました。
そして、お兄ちゃんはここまでの話で、もうわかってしまったでしょうか。
小雨は今日もあまりお役に立てなかったということを。
今日も、何回も盛大に足を引っ張ってしまった。
しっかりしなくちゃって思うほど、手足がいつも通りに動かなくなって
一口大に切るはずのじゃがいもが、いつの間にかみじん切りになっていました。
これではおでんに入れられないんです。
蛍お姉ちゃんの機転で、急遽ハッシュドポテトをメニューに組み込んだの。
ごぼう天とじゃこ天のために、揚げ物の準備ができていたから。
おでんの横になぜかハッシュドポテトがつけあわせみたいに並んでいたのは、
そういう理由だったんです。
帰ってきた立夏ちゃんは、高カロリーだってうれしそうに悲鳴をあげていたけれど
疲れた体にはこれもありだって喜んでいました。
発声練習だけでそんなに活動していないのにって、霙お姉ちゃんが不思議そうにしていましたね。

実は、小雨自身のこともそうなんですけど
麗ちゃんの様子を見ていると、とても心配なんです。
小雨が人の心配をしている場合ではないはずなんですけど……
さくらちゃんが幼稚園で乱暴な男の子と仲良くできているか
とっても心配だと、二人で話していたんですけど
今日、さくらちゃんが楽しそうに幼稚園の話をしてくれて
よかった、麗ちゃんもこれで安心だねって横を見たら
なんだか暗い顔をしていて、話を聞いていないみたいだったんです。
あんなにさくらちゃんのことを心配していて、
今日は少しは麗ちゃんが元気になったら良かったんだけど
お料理で毎日失敗を繰り返して、とても落ち込んでいるみたい。
今日、帰ってきたときからずっと暗い表情でした。
そんなにお料理が苦手なのかな……
もうすぐクリスマス。
奇跡が起こる日が近づいています。
もし奇跡が起こるなら、麗ちゃんを元気にして欲しいな。
小雨はせめて、人並みにお料理ができるようになりたい。
クリスマスに起こる奇跡がどんなものになるのか
小雨は全然知らないけれど
そんなことがあったらいいのに──
吹雪ちゃんに話してみたらね。
こう言っていたんです。
この家では毎日、奇跡が起こっているのかもしれないって。
20人きょうだいの家族が幸せでいられる、世界のどこにもないはずの奇跡。
クリスマスが近づくとそんなことを考える時もあって、
お兄ちゃんにも聞いてもらったことがあると。
そうか──
小雨が失敗ばかりしていても
落ち込んでばかりでも。
この家にいられてうれしくて
毎日幸せを実感しているのは
こんな小雨にも、毎日奇跡が起こっているからなんですね。
その上さらに自分のお料理のことも奇跡を望むなんて
小雨はぜいたくですね!
反省しなくちゃ。
お料理は、自分の力で上手になります。
がんばりたいな──

お兄ちゃん。
蛍お姉ちゃんたちがアルバイトに行くようになって
小雨たちがお手伝いを任されて。
小雨は自分でも、すぐに弱音を吐くだろうと思っていたけどね。
まだ、もうちょっとやめないでがんばろう、っていう気持ちになれるんです。
全然うまくできないけれど、なぜかまだあきらめていない。
これって、信じられないことだと思うの。
やっぱり私たちには、毎日奇跡が起こっているのかもしれませんね。
小雨が麗ちゃんを元気にしてあげるのも
奇跡に頼ってじゃなくて、小雨の力でできたらいいな。

お兄ちゃんの帰りが遅くなって寂しくて、
それなのにまだ小さくて合唱に参加できない虹子ちゃんや青空ちゃんは
自分たちで合唱団を作って、
クリスマスには、お仕事をがんばっている蛍お姉ちゃんやお兄ちゃんたちに
歌ってあげるんだって張り切っています。
だから、お兄ちゃんが帰ってきたらいっぱいクリスマスの歌を教えてもらうんだって。
お兄ちゃんのために歌ってあげたいのに、お兄ちゃんに教えてもらうのは変じゃないのかな?
それに、お兄ちゃんはお仕事というわけではないですけど。
今日はお疲れ様でした。
あんまり雨に濡れなかったみたいで、よかったです。
合唱の練習も大変でしたよね。
あの、もし余裕があったらでいいんです。
虹子ちゃんと青空ちゃんは、お兄ちゃんをいい子で待っていたから
一曲だけでも、クリスマスの歌を教えてあげられませんか?
もしもお疲れなら、今日ではなくてもいいかもしれないけれど
虹子ちゃんと青空ちゃんも、歌うのが大好きで、
お兄ちゃんに歌ってあげて、喜んでほしいみたい。
小さい子たちも一生懸命、
お兄ちゃんたちを応援したいんだと思います。
小雨もお兄ちゃんのために何かできたらいいなって……
だから、虹子ちゃんと青空ちゃんの気持ちがわかるような気がするの。
もしよかったら、遊んであげてください。
きっと、とても喜んでくれると思います。

小雨の偽日記

『お手伝い』

いつも体を動かしていれば暖かいから
今年の冬くらいは別にいいんじゃないの?
と思っていたと聞きました。
秋服で済ませようとしていた立夏ちゃん。
おしゃれのためならいけるはずだったと。
寒いからって丸まってばかりではだめ。
まるで服に着られてしまうみたいに
もこもこになるなんて、年頃の女の子として耐えられない。
計算外だったのは、雨の日は外で体を動かせないことと、
お手伝いの最中は走ったり踊ったりばかりしていられないということ。
そう説明して
天気が悪かった昨日は、小雨と麗ちゃんの服を無理して着ようとしていました。

ついにあきらめて、
冬のおしゃれの支度を始めました。
天気予報では、明日あたりから冷え込むそうです。
明日の朝は12月上旬の気温なんですって。
いよいよ本格的な冬が近づいていると感じます。
それで今日は、蛍お姉ちゃんにアドバイスをもらいながら
タンスの片付けと、かわいい重ね着のお勉強。
小雨と麗ちゃんも同じ部屋にいて話を聞いていました。
麗ちゃんにもパン屋さんの三角巾とエプロンが似合いそうだね、
なんて話もして、麗ちゃんが怒ってしまったみたいだったり。
あと、麗ちゃんには軍服で凛々しく決めるのもかわいいかも、とか。
麗ちゃんのことばっかりなんだけど、立夏ちゃんはそれでいいのでしょうか。
でも、時間をかけてがんばっていたから
だいぶ片付けは進んだみたいです。
まだタンスに入りきらない分は、お部屋の中の小雨のスペースにもはみだしてきました。
置かせて欲しいって頼まれたんです。
麗ちゃんは、自分のスペースに人が入ってくるのは苦手みたいだし、
小雨のところにはどんどん置いてもらってかまわないです。
たぶん小雨は服をそんなにたくさん着まわしたりしないですから。
決まった服だけいくつかあればいいかなと思っています。
暖かなお気に入りを、少しだけ。
見た目を気にしないでもこもこになりすぎていたら
立夏ちゃんは気になってしまうかな。
お兄ちゃんは、家の中にそんな妹がいると気になりますか?
でも小雨は情けないことに、ファッションは全然だめなんです。
今日もおしゃれの話に全然ついていけなかったんです。
麗ちゃんに似合いそうなコスプレと言われても──
小雨には、暖かい服で過ごしてほしいとしか思いつかない。
麗ちゃんが不機嫌だったのは、
たぶん話題がつまらなかったという理由だけじゃない。
蛍お姉ちゃんがおうちにいてくれなくなることを気にしているんだと思うの。
結局、麗ちゃんは何も言いませんでした。
服の片付けを途中で切り上げたのは
明日からの晩ごはんをなんとかするために
教えてもらうことがたくさんあるから。

クリスマスの忙しい時期の間だけのお手伝いだそうです。
ほんの短い間だけ、と蛍お姉ちゃん。
病気で倒れてしまったときとは違って、今回は準備する時間もあります。
アルバイトは一日おきですし
春風お姉ちゃんが元気ですもの。
小雨たちでお手伝いをすればできる、かもしれない。
蛍お姉ちゃんがやりたいことをするのに、小雨たちが足かせになったら申し訳ないと思います。
たくさんのことができるようになる中学生。
アルバイトは結構、女の子なら憧れることもあるみたいで
制服がかわいいとか
興味がある子は目をキラキラさせて話を聞いています。

もしも蛍お姉ちゃん抜きでどうにもならないようなら、仕事はやめるそうです。
だけど、別に気負わなくていいと
蛍お姉ちゃんは言います。
慣れないことだから、上手に出来ないのは当たり前。
ごはんが上手に作れなくたって、誰も責めたりしない。
もちろん多少は不満も出るかもしれない。
どんな不満にも応えて完璧にこなすことは誰にだってできないし
慣れていない人ならなおさら。
たとえ無理だと思えても、新しいことに挑戦しないといけないときは
必ずやって来る。
怖いかもしれないけれど
踏み出すことをやめてはいけない。
大丈夫、
家族のみんなだけは
何があっても、時々は不満を言うことがあっても
本当に責めたりすることはないんだと。
そんな話をしてくれました。

蛍お姉ちゃんも、やっぱりアルバイトに出かけるのは不安があるのでしょうか。
あーちゃんと遊んであげながら、寒くない?
蛍がいなくても大丈夫? って何度も聞いていたの。
たぶんまだそういう話は通じないと思うんですけど
言ってしまう気持ちみたい。
麗ちゃんはね、たぶん蛍お姉ちゃんがいてくれなくなるととっても寂しいんだと思う。
小雨も蛍お姉ちゃんにはいてもらいたい。
明日からしばらく──
けんかをしないで仲良くしていてほしいな、って言ってました。
それから、ちょっと考えていたみたいで
素直な気持ちを伝えられないのは悲しいから
気持ちを押さえ込もうとしないでほしい、
けんかをしても仕方ないって。
ただ、どんなときもお互いを大切に思っているその気持ちだけは
何があっても忘れないでいてくれたら
それでいい。
蛍お姉ちゃんはいつもこの家族が好き、と。
出かけて行ってしまうのは家のことが嫌になったわけじゃない、
それはわかってほしいんだって。
みんなが家のことが上手にこなせなくても
蛍お姉ちゃんは、家族のことを決して嫌いになったりしない。
お兄ちゃん、小雨はね、
たぶん失敗ばかりすると思う。
よく悲観的な考え方をしてしまうほうだとわかっているんですけど
今度はそれは関係なく、本当に失敗をたくさんするんじゃないかな。
小雨は今日、じっくり時間をかけて煮物のいい味を出すのが上手だと褒めてもらいました。
普段から丁寧で、根気があるからって。
それはいつも失敗をよくしているから、無理をしているだけで
たぶん、ちょっと油断したら、すぐだめなの。
蛍お姉ちゃんがいなくなって一番に弱音を吐くのが小雨になるかもしれない。
無理をしようとして長続きしないと思う。
そんな時、小雨は本当に失敗してもいいんでしょうか。
すぐに弱音を吐いても、蛍お姉ちゃんはあきれたりしないかな。
お兄ちゃんはそんな小雨を見たら、愛想を尽かしてしまいますか?
こんな何も出来ない子が家族のはずがないって。
それとも、もしかしたら。
小雨がたぶん当たり前みたいに失敗して、それでも大丈夫なんだと
麗ちゃんに教えてあげられるでしょうか。
みんなは何があっても家族なんだと。
お料理が上手じゃなくてもずっと家族だから
大切に思う人のために
ただ、できそうなことをすればいい。
失敗してもみんなは嫌いになったりしないんだって、小雨が教えられたなら
麗ちゃんも、ちょっと元気を出してくれるかな。
小雨は弱くて、すぐ逃げてしまう子です。
もうほんの少しだけめげないでいることができればいいんですけど。
もしサンタさんがいてくれるなら、クリスマス当日には何もいらないから
蛍お姉ちゃんが無事でお仕事を済ませて帰ってくるまで
どうか小雨にくじけない心をください。
クリスマスまでの間だけでいいんです。

小雨の偽日記

『こたつ』

ついに登場。
霙お姉ちゃんが待ち望んでいた
こたつ。

しまってあった押入れの片付けや
重くても気にしない力仕事。
マントをひるがえして、先頭に立って
霙お姉ちゃんがなんだか頼もしいです。
汗を流したものだから、途中からマントは小雨が預かっているうちに
どこに置いたのかわからなくなってしまって申し訳なかったり
霙お姉ちゃんがシャワーに行っている間に
立夏ちゃんと夕凪ちゃんが一番乗りを競い合って
こたつのまわりをぐるぐる追いかけっこして怒られたり
マントはなぜかこたつ布団を重ねた間に挟まっていて
汗を流した霙お姉ちゃんがまた体を動かすことになってしまったり
大変な騒ぎになったけれど
霙お姉ちゃんは、台風が近づいて外は宇宙的なカオスに満たされているから
家の中だって騒がしいくらいでちょうどいいと言ってくれました。
お手伝いをして一生懸命働いた
お兄ちゃんとヒカルお姉ちゃんもお疲れ様です。
それを大きな声で応援していた立夏ちゃんも疲れたって、こたつで体を伸ばしています。
がんばってくれたんですね。
小雨は着替えを預かるだけの仕事も満足にこなせなくて恥ずかしいです。

でも、こたつっていいものですね。
あったまっているみんなの顔も、ほっこりしています。
体だけではなく気持ちもほぐす暖かさ。
霙お姉ちゃんは、あーあったまるな、
ごくらくごくらくって
それは温泉ではないでしょうか。
同じようなものでいいのかな?
あんまりいいものだから、
こたつと結婚するそうです。
そしてお兄ちゃんを愛人にするって。
大人の話で難しくて、小雨にはよくわからないですけど
こういうのって甲斐性と言うのでしょうか。
霙お姉ちゃんなら頼りになる人ですものね。
でも、お兄ちゃんが愛人で、二号さんなんて
立夏ちゃんが、それなら奪うって張り切ってしまいました。
おませなオシャレ泥棒が狙うのは今度は心。
お兄ちゃんの心。
小雨は見ているだけでとても手が届かない高嶺の花のような。
遠くから眺めているだけでいい、小さな幸せ。
立夏ちゃんなら手が届くのでしょうか?

霙お姉ちゃんと結婚してしまったけど、こたつはみんなのものです。
お兄ちゃんみたいに取り合いをしなくてもいい。
あたたまっていってください。
って、お兄ちゃんも取り合いをするものじゃないですね。
お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから。
宝石や金ののべぼうみたいに、どろぼうに持っていかれたりしない。
お姫様みたいに王子様に助けられるのを待っていたりしない。
今ではお姫様も助けられるだけではないかもしれませんね。
春風お姉ちゃんだって
王子様のためなら迷わない。
小雨はお姫様ではない、自分で何かできるということもない。
こたつにあたってゆっくりしているだけの子です。
というか、小雨は機械がわりと苦手で
ときどき温度調節を間違えてあわててしまうこともあるので
こたつにあたってゆっくりしているだけのこともできない子です。
こたつを使うだけでお兄ちゃんやお姉ちゃんの助けが必要になるなんて
小雨は本当に、来年は中学生になるお姉さんなんでしょうか。
はあ……
いけない、
こたつを出しただけで落ち込んでいたら
せっかく、みんなが張り切っていたのに
雰囲気が暗くなってしまいますね。
小雨はがんばってこたつを上手に使えるようになります。
小雨が入っているこたつに、
お兄ちゃんが遠慮なく入ってこられるように。
こたつに入るだけで勇気がいるなんて小雨一人で充分。
家族があたたかく、だんらんできるこたつ。
あんまり入っていると暑くてのどがかわいてしまう欠点もありますが
小雨は上手な使い方をおぼえます。
お兄ちゃん、霙お姉ちゃん、見ていてください。
せめて人並みくらいにはこたつを利用できるようになりたいです。

雨が降る外の気温が冷たくて、
こたつの出番があると
いよいよ秋も深まってきたよう。
これが台風の影響なんて考えると、
少し複雑で、こんがらがってしまいます。
あまり台風の影響が強いと、明日は休校になるかもしれないって
夕凪ちゃんたちはそわそわしていますけど
たぶん休校にはならないので
雨に備えた準備をしておくことも大事。
着替えとタオルと、大事なのは靴下。
荷物が多くなると、それはそれで困るし
うまくまとめてもっていかないと、と焦るとますますちらばってしまう。
麗ちゃんはよく持ち歩いているポケット時刻表は
明日はなるべく荷物がかさばらないように、置いていったらと思うのですけど
そんなことは余計なお世話かと悩んでいて、まだ言っていないんです。
大事そうにしているし、濡れないといいですね。
一応小学生のみんなに忘れ物があったときのために
小雨は少し余計に持っていきたくて
準備がまだ終わっていないんです。
もう少し時間をかけて、丁寧にたたんでまとめておきたくて。
同じ部屋の麗ちゃんは、うっとおしくて眠れないかな。
明日は雨で大変になりそうで、早めに休んでもらいたい。
小雨はまわりの邪魔にならないように
小さくなりながらこっそり明日のお支度をするつもりです。

小雨の偽日記

『イリュージョン』

鳩が出てくる
シルクハット。

消える自由の女神。

ふしぎ。
縦ジマのハンカチが
横ジマに!

テレビを見ていると
ときどき出会うイリュージョン。

タネを見つけるのが得意なのが
吹雪ちゃん。
コインはどこに消えたのか?
いったい、いつのまに?
えっ!? あの人が協力していた!?
説明されてもむずかしい
鏡や光の不思議な性質。

ときどき手品を仕入れてきて
見せてくれるのが
霙お姉ちゃん。
やっぱり見破る
吹雪ちゃん。
ちょっと待って、
それは言ったらかわいそう!
翌日の朝、
お天気予報を通じて広がる
新しいマジック。
ハンカチから出てきた小さな花。
今日もいい一日を過ごしてくださいね。
一番のふしぎは
ああ、明るい一日が始まったな、って
見ていると今日も元気になれる
海晴お姉ちゃんの笑顔。
そして、海晴お姉ちゃんが魔法だって言うのが
うれしい家族の存在。
でも、今日は海晴お姉ちゃんは
とっても大変だったみたいですね。
お疲れ様でした。

夕凪ちゃんは、
小雨たちの家族でもとっても特別な力を持った
かわいいマホウ使い。
どんな不可能も
マホウで解決します。
何事にも元気に挑むマホウ使い。
でも、
怖いマホウは使わないでほしいです。
あんまり怖いと
小雨は腰を抜かして
座り込んでしまいます。
逃げられないで
いのししに食べられてしまいます。
ぺろぺろ。
今日は、
食べられなくて良かったです。
いのししの赤ちゃんでほっとしました。
小雨、恥ずかしかったです。
あんなにあわててしまうなんて。

ダンボールの箱から飛び出してきた
ちいさな姿。
学校から帰ってきて、裏庭を見に行ったんです。
声はすれども姿は見えない。
というか、どう見ても
この箱の中ですよね……
近くに来たさくらちゃん、虹子ちゃん、青空ちゃん。
何かあったら小雨が守らないといけないのに
大丈夫かな、
小雨では無理だと思う、
頼りになるお兄ちゃんが帰ってくるまで
近づかないほうがいいのかな。
みんな、戻ろう。
と言い出したときに
足音に反応したのか
おもりにしてあった石を内側から転がして
小さな影とは思えない力強さで
小雨に突進してくる、ものすごい速度。
こわかった……
さくらちゃんが、積み重ねてきた練習の成果を発揮して
きれいなフォームで逃げていきます。
虹子ちゃんも、青空ちゃんも大声をあげて追いかけていく。
さくらちゃんが先導してくれて良かった。
そのまま遠くまで逃げてくれれば、小さい子たちには危険はないもの。
早く、もっと遠くに──
どうかさくらちゃんたちを追いかけていかないでください!
そしたら、さくらちゃんがふりむいてこっちを見たとたん、
小雨お姉ちゃんをたべないで!
あっちいって!
うわあーん!
自分のせいで、妹たちを危ない目にあわせてしまうなんて
情けない小雨ですね。
いのししの赤ちゃんは怪我をしていたから
裏庭を逃げ回って、すぐ倒れてしまったの。
結局、責任を感じた夕凪ちゃんと一緒に
海晴お姉ちゃんが、いのししを動物病院に連れて行きました。
夕凪ちゃんが隠していたんですね。
たぶんマホウでもないしイリュージョンでもないけど、びっくりしました。
茶色いから、ちゃちゃちゃん、という名前を付けたそうです。
でも、裏山にいのししなんて住んでいないのに変だなって
みんなで首をかしげているの。
夏の間に、ママが裏山に職人さんを呼んで、手入れしたんです。
草が茂っている場所に蛇がうろついたりしないように、きれいに刈ったり。
蜂の巣がないか、危ない動物が住み着いていないか
見て回って。
えさになるような種類の木はないから、何かが迷い込むということもなさそうなんだけど。
お医者さんに診てもらったところ、怪我をしていたのは車にぶつかったのでは、と
おっしゃっていたそうです。
車で連れていく途中で逃げ出してしまったのでしょうか?
いくらなんでも、いのししはもらってくれる飼い主を探すわけには行かないし
そもそも、いのししを育ててくれる場所なんてあまりないような気がします。
海晴お姉ちゃんは、動物園か専門の大学あたりから逃げ出したのではないかって。
テレビの人たちに協力してもらって、情報提供を求める案もあるけど
あんまり騒ぎにしたくなくて迷っているみたいです。
それに、いのししの赤ちゃんが町中に出現したニュースより
女の子が19人もいる20人きょうだいの大家族のほうがニュースになりそうだって。
テレビの人がおうちに来るなんてことになったら
小雨は緊張しすぎて
どうなってしまうかわかりません。
また腰が抜けてしまうかもしれない。
でも、怪我をしたちゃちゃちゃんを放っておけないのは
小雨も夕凪ちゃんと同じ気持ちです。
怖い思いもしたけれど。
小雨が怪我をして一人きりだなんてことになったら
とても生きてはいけません。
小雨ほど弱くはなくても、大変な怪我をしているんです。
ちゃちゃちゃんは立つこともできなくて、このままでは死を待つばかり。
厳しい野性のおきての中に放り込まれてしまった
小さな命。
今は話を聞いて同情してしまうけど
もしもまた目の前に現れたら怖くて逃げてしまうでしょうか。
今日は、ちゃちゃちゃんは動物病院にお泊まり。
もう戻ってこないんじゃないかって、
夕凪ちゃんがさみしがっています。
それは、いのししは普通のおうちにいたらいけないですよね。
夕凪ちゃんのことも心配です。
小雨なんかが元気付けてあげることもなかなかできないし
お兄ちゃん、ひとこと声をかけてあげるだけでもいいので
夕凪ちゃんの様子を見てもらえませんか?
お願いしかできない小雨ですみません。

小雨の偽日記

『休日の予定』

立夏ちゃんが
熱を出してしまいました。

赤い顔をして
うわごとをつぶやいて
苦しそう……

おだんご、
おだんごと
昨日のお月見が楽しかったんですね。
もっと食べたかったみたい。
でも、その時からふらついていたんです。
それで、なるべく早く寝てもらったの。

このところ
体育祭と文化祭の練習で
疲れていたらしくて。

それに加えて
昼間はずいぶん暖かいものだから
夜も油断して
薄着でいることが多かったの。
このごろ朝方と日暮れは、冷えるようになりました。
一日の温度差が結構あるから
お兄ちゃんも油断しないで
寒かったらちゃんと着てくださいね。
しっかりしているお兄ちゃんに、小雨なんかが
何を言っているんでしょう。
でも心配なんです。

それから、
昨日拾ったお財布を
交番に届けに行ったとき、
大変だったみたい。
立夏ちゃんは休日にお友達に来てもらう予定で
おまわりさんみたいに案内したくて参考にと
遊びに行くようなつもりで交番に行ったみたいなんですけど
やっぱりおまわりさんはまじめなお仕事で
いろいろ聞かれたものだから、知恵熱が出そうになったって。
その影響もあったのでしょうか?

本当は、お月見よりも休んでいたほうが良かったんだけど
どうしてもおだんごが食べたかったんだそうです。
ゆうべは誰よりも大量に、ぺろりとたいらげていたから
まわりが気づくのが遅れたの。
結局、今日一日寝込むくらい熱が出ました。
でも一日で元気になってよかったですね。
他の子にうつったらいけないから
今日一日は自室待機だけど
明日はお友達を招いても大丈夫です。
そんなに急がなくてもいいと思うけど
楽しみなんでしょうね。
朝はお友達が来る前に立夏ちゃんがお風呂に入るから
お兄ちゃんに気をつけてと伝えてほしいと。
今日の小雨は、
お仕事が多いメッセンジャー役。
立夏ちゃんは、家族のクラスによく遊びに行くから
上級生のお友達もたくさんいます。
明日のお友達は
お兄ちゃんとヒカルお姉ちゃんのクラスメイト。
もしもまだ伝わっていないなら
それも小雨から、とお願いされました。
三人でおもてなししたいんだって。
聞きましたか?
立夏ちゃんが一人でどんどん話を進めてしまったみたい。
明日のお客さんは
演劇部だけど、裏方をしていて演技に自信がなくて
ほら、お兄ちゃんたちの演劇は時代劇ですから
観月ちゃんが昔の習慣に詳しくて、協力できればと
観月ちゃん本人にも相談なく決めてしまったので
それも小雨に託された役目で
伝えたら快く引き受けてもらえて、安心しました。
祝詞や祈祷が観月ちゃんの得意分野なのは知っていたけど
その子が演じる静御前は
むかしふうに歌いながら舞う白拍子。
いくら観月ちゃんでも、そこまで詳しいだなんて
びっくりしました。
勉強熱心なんですね。
好きなものには詳しくなるって言うけど
小雨は本にもそんなに詳しくないので
やっぱり、詳しくなるのはえらいなと思います。
巫女装束がいつものおこのみの観月ちゃん。
水干と立烏帽子も、備えているとか。
明日は、かわいい舞が見られるかもしれません。
なんだか楽しみで
そわそわしてしまいますね。
小雨を見に来るわけじゃないのに、どうして小雨が緊張するんでしょう。
どちらかというと、無関係なほうです。
引っ込んでいてもいいくらいです。
でも、よその人でも挨拶はきちんとしたいです。
やっぱり立夏ちゃんのお友達なんだから、
元気にチャオって言えたらいいのかな。
小雨はそんな陽気な挨拶はしたことないから
普通にこんにちはで大丈夫かな。
立夏ちゃんが自分でお茶とお菓子を出したいって言ってるから
お手伝いにかかりきりで、難しく考えるどころじゃないかも。
関係ない小雨でもこんなになってしまうんだもの、
立夏ちゃんが一日でも早く招待したいのもわかります。
一人で急いで招待を決めてしまったのだって
かわいい妹たちをはじめとして
自慢の家族を見てもらいたくて仕方がないんだって
明日をワクワクしながら待っている立夏ちゃんを見ていると
そんなふうに感じます。

小雨の大好きな家族が住んでいる
素敵なおうちへ、いらっしゃいのあいさつを
内気な小雨には難しくても、してみたい。
小雨のおもてなしは拙いかもしれませんが
ここには自慢の家族がいるから
きっと気に入ってもらえる訪問になると思います。
どうか安心していらしてください。

小雨の偽日記

『オリンピック』

日曜日の朝は
気分もなんだか
のんびり、ゆったり。
家族がゆっくり起きてきて
大きな声で朝の挨拶を交わして。
賑やかな、
なのに穏やかな
一日の始まり。

そんな朝に飛び込んできた
嬉しいニュース。
オリンピックの東京開催決定
おめでとうございます。
お兄ちゃんも嬉しい?
小雨はスポーツに興味がないためか
そんなにピンと来ないんだけど
テレビの向こうの人たちは
飛び上がって
抱き合って
歓声を上げています。
しみじみ喜びをかみしめる静かな表情もあって、
こんなにいいことはそうはない
みたいに
嬉しそう。
だから、いいなと思って。
こんなふうに、笑顔になれる人が
たくさんいるのはとってもいいなと思って。
あまり思うことがあるわけでもない
こんな小雨でも
なんとなくで参加してもいいでしょうか?
喜んでいる人たちがおおぜい。
よかったです。

2020年ですね。
これから、東京は賑やかになるんでしょうね。
オリンピックに合わせて
激しい変化もあるかもしれません。
家族がわいわい言っているときにも
うまく入り込めなくて少し離れて見ているだけの小雨が
そんなに騒々しい環境についていけるのでしょうか。
いえ、見ているだけなのはそんなに嫌でもないです。
ただ考えてしまうんです。
その頃には海外から人がたくさん来るんだな、
このあたりもあわただしくなるかもしれない、
小雨の知らないうちにどんどん周りが変わっていって
知らない場所だらけになってしまったら
ただでさえ勇気が出せない小雨なのに
どうやって外に出ていけばいいんだろう?

7年後の開催ということは
その時の小雨は
中学、高校を卒業して
大学を選ぶときも、近い将来を見据えていて。
自分の夢を胸に社会と向かい合っている年齢。
海晴お姉ちゃんが、慣れないお仕事と大学を両立させようと
一生懸命になっている、エネルギッシュな時期。
大人の女性として飛び立つ方法を覚えはじめた
海晴お姉ちゃんみたいな大学生に
小雨もなろうとしている
そんな頃だろうと思います。
本当に、小雨がきちんとした大人になる
そんな時間が来るのでしょうか?
ずいぶん遠い未来のような──
そんな日はいつまでたっても来ないような──
想像も難しいくらい先の話という気がします。
なんて言ったら、
オリンピック開催に喜んでいる人たちに怒られるかな。

いつかは訪れる未来だけど
すぐ向き合うわけではないんだと思ったら
少し気が楽になりました。
心の準備をしておいて
7年かけて少しでも成長して
大切なイベントを、きちんと迎えたいです。
あまり自信はないですけど、
小雨もお兄ちゃんの妹なんだもの。
できないとあきらめるのは早い気がします。

ヒカルお姉ちゃんも、
スポーツは見るのもするのも好きだから
とても喜んでいるのかな
と思っていたら、
難しい顔の理由は
自分も大きな決定の日を間近に迎えているから。
でも、向き合わないといけないって。
高校一年生、
まだ大人というわけでもないヒカルお姉ちゃんに
訪れた大きな試練です。
きっと小雨では、ヒカルお姉ちゃんの歳になっても乗り越えられないの。
でも小雨はそもそも、そんな悩みとは最初から縁がないの。
気持ちをわかってあげられなくてさみしい。
これはお兄ちゃんもまだ詳しく知らない、木花の事情。
中学の頃から学校のプリンスとしてファンが多いヒカルちゃんなので
高等部になって初めて迎える今年の文化祭には
ぜひ演劇の主役として出演して欲しいと
演劇部のほうからお願いがあったらしいの。
お兄ちゃんとヒカルお姉ちゃんのクラスの出し物が
演劇になるという話があるのは
そういう事情なんです。
演劇部が全面協力する、本格的な内容になるそうです。
このままではヒカルお姉ちゃんが
今月の末には、ジュリエットと相思相愛のロミオになってしまいます。
そんなの自分の柄じゃないって
なんとか代案として、ヒカルお姉ちゃんは
忠臣蔵を提案するそうですけど
大丈夫かなあ……
ロミオとジュリエット、忠臣蔵では
ずいぶん目指しているものが違う気がします。
そもそもシェイクスピアがヒカルお姉ちゃんの趣味じゃないらしくて。
急な話で
小雨に手伝えることは何もないんです。
どうか、お兄ちゃんが
ヒカルちゃんの力になってあげてほしいの。
小雨がこんなお願いをして
お兄ちゃんは迷惑じゃないでしょうか。
あまり無理にというわけでもなくて
でも本当はヒカルお姉ちゃんのことは心配なんですけど
もしできたら、でかまわないので
ちょっと気にしてくれたら嬉しいです。

小雨の偽日記

『帰宅』

ただいま帰りました!

私たちが
毎日生活している
このホテルのお部屋に。

なんだかすっかり馴染んで──
虹子ちゃんが言うとおり、
このままこの場所で暮らしていけそうな気が
するほど。

嬉しいのは、
海が見える
いい眺めだけではなく。
冷房が効いた
心地よさだけではなく。
ここにいれば、家族が揃う。
一人で帰ってきたときも
誰かが待っているときも
やがて必ず。
みんなが帰ってくる場所なんだと
いつのまにか
理屈抜きで体が覚えてしまったよう。

家族がいてくれる
安心のお部屋です。

吹雪ちゃんは
冷房も嬉しいみたい
かな?
気温が高いと、とても大変そう。
熱を逃がすのが苦手なのでしょうか?
それとも、体の中に回転の激しいパーツがあって
私たちよりもずっと温度が上がりやすいのかも?
頭の回転が速いって、とっても大変なのかもしれませんね。
ときどき心配になるの。
吹雪ちゃんは、甘いお菓子と比べても
涼しいところが大好き。
もしも悪い人が、お菓子じゃなくて
冷房で誘って、連れて行こうとしたら
暑さで判断力が弱りがちな吹雪ちゃんは
もしかしたらついていってしまったり
しないでしょうか。
まだ小さい吹雪ちゃん。
見ていてあげてくださいね。

そういえば、麗ちゃんの小さい頃、
鉄道の話で誘われたら
ついていっちゃうんじゃないか?
小雨が勝手に心配していたことがあったけど
いくら好きなものでも、麗ちゃんは
ああ見えてしっかりしているから安心です。
でも、しっかりしすぎて
自分の意見を貫こうとしすぎて
ときどき強情で、
お姉ちゃんたちがあんまり怒ったら、
思いつめて家出してしまうんじゃないかと
不安になることがあります。
優しいお兄ちゃんになら、お願いできます。
本人はいいって言うかもしれないけれど
麗ちゃんのこと、
気にしてあげてください。

そうなると、しっかりしていない小雨は
お兄ちゃんがいるよ、ってだまされて
ついていってしまわないでしょうか。
でも、ただでさえ忙しいお兄ちゃんに
これ以上負担をかけるわけにはいかないし、
小雨のことは気にしないでいて。
なんとかして
自力でもどってこられるように努力します!

部屋に帰ってくると、
ほっと息をつく
沖縄旅行。
家にいるように快適でいられます。
いいホテルで本当によかったですね。
月曜日にチェックアウトするまで
あとは、予定が詰まった
土日を残すのみ。
土曜日は雨が降るということで
おみやげなどのお買い物に。
日曜日は、みんなが楽しみにしている
美ら海水族館の見学です。
なんだか、あっという間でしたね。
気ままに泳いでいられるのも
あとは明日、
お買い物の後で余裕があったら
雨でも屋内プールがあるから
という話ですけど、
今のところはみんな、それどころではないみたい。
蛍お姉ちゃんは、珍しいおみやげに興奮しすぎないようにと
自分に言い聞かせている真っ最中だそうです。
お兄ちゃんも、いざとなったら止めて欲しいって頼まれましたか?
小雨がいても何もできないと思うので、
もしもの時には、蛍お姉ちゃんの相談に乗ってあげてほしいです。
そういうわけで、明日はみんなそちらに意識が行っています。
沖縄の太陽に背中を押してもらったおかげで
ようやく着ることができた小雨の水着も、
もう今年の出番はなさそうです。
ヒカルお姉ちゃんが、海が青すぎるだけで
なぜか泣けてきてしまったというので
その横に並んで、家族みんなで海を見た旅行。
とっても短く感じる旅行。

小雨も、
家族に助けてもらったり
飛行機でも、バスでも、ホテルでも
従業員さんや、見知らぬ人にまで親切にしてもらって
楽しく過ごせています。
まだ、家族以外の人は怖く感じることも多いけれど
みんなが帰ってくるホテルの部屋があるおかげで
どうにかやっていけています。
あと数日、何事もなく
私たちが本当に暮らしている
嬉しい家へ無事で帰れるよう、
小雨はがんばります。

ママは荷物になって大変だから
おみやげはいらないって言ってましたけど
それもさみしい気がします。
小さくても、控えめでも
気持ちを届けることができたらと思うの。
明日は、何かいいものが見つかるでしょうか。


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。