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蛍の偽日記

『こねこバレンタイン』

2月のにこにこ
お楽しみ。

はじまってまもなく
3日には
せつぶん。
蛍はもう幼稚園で豆まきをする年では
ないけれど。
お兄ちゃんが
鬼のお面をつけたら。
ふだんたくましいのに。
いつもは私たちの
かっこいいお兄ちゃんなのに。
それは、こわいこわい鬼のお面。
なのだけど。
家族みんなのために鬼になってくれて。
この日のために
虎柄のパンツをはいてくれたら
なぜかかわいいな、とは
変な感想?
ごめんね、お兄ちゃん。
蛍も童心に帰って
お兄ちゃんに豆をぶっつけて。
おにはそと!
ふくはうち!
おにいちゃんはうち!
みんなはうち!
かぜはそと!
ちょこはうち!
まほうもでんしゃも
よいこもいたずらっこも
みーんな、おうち!
きゃあきゃあ言っていたら
もりあがって
いっぱいぶつけてしまいましたね。
蛍、節分でこんないい汗をかくなんて
意外でした!
あいたた、あいたた
これはたまらないな、
逃げ回るお兄ちゃんを追いかけて
息をきらして喜んで
ほてった肌、
自然と笑顔も汗ばむよう。
冬のさなかに手でぱたぱたするほど
熱中するなんて
蛍は素質があったのでしょうか。
いえ、
えっと、
スポーツマンの素質?
豆まきがオリンピック競技にあったら
ホタ、2020年には
テレビの向こうから
節分だからこその楽しさを教えてくれたお兄ちゃんに
感謝の言葉をありがとうって
呼びかけるのかな?
私の家族でいてくれて
ありがとう。
みんなが家族でいるのは
神様が決めたことで
私たちの誰にもどうにかなることじゃないから
家族は一緒にいるのがいいのだし
感謝の言葉はおかしいかもですけど
お兄ちゃんがここにいてくれて
よかった。
オリンピックに出ることはない
こんな蛍ですが。
テレビに出たりしない
わりとぼんやりした妹ですが。
豆もぶつけてしまいます。
いつも迷惑をかけてしまいますが
お兄ちゃん、
蛍に楽しい日をくれて
いつもありがとう。
今年は、大雪の2月になったね。
小さい子たちは大喜びですけど
雪かきと、みんなの健康に気を使う私たちには
どこかてんてこまい、
でもやっぱり大騒ぎに
自然と顔がほころぶ
2月のなかばでした。
もう少しすると、猫の日もあるね!
って蛍が鼻息も荒く話題にすると
霙お姉ちゃんは不思議そうなの。
猫の日ってそんなに盛り上がって楽しむものなのか?
楽しくないですか?
霙お姉ちゃんの分析によると
うちの家族は、盛り上がれたら何でもいいのではないか。
だそうです。
なるほど。
今月9日のにくの日もそうだったし
それから、ロールケーキの日だって
全力ですものね。
蛍、なんでもいいのかな……
まあいいか。
ホタは猫の日になるまでに
家族みんながかわいくなるよう
コスプレ衣装作りをしたいな。
お兄ちゃんは、どんな猫ちゃんになりたいですか?
ホタがんばります!
きっとその頃には、麗ちゃんも出て来てくれますよね。
って、こんな言い方をすると
麗ちゃんは春が近づくと出てくる風物詩みたいになってしまいますね。
一応、ここまで気を使って
バレンタインの話題は出さなかったんだけど
でもやっぱり、恋をしてしまったら
いちばん気になる2月のイベント。
バレンタインにも姉妹でおそろいのかわいい衣装を作ったら
ますますラブラブで、思わず顔も熱くなってしまうような
ホットなバレンタインを演出できそうだと
ちょっと妄想してはみたのですけど
それは猫の日や、雛祭りのお楽しみになるのかな。
ううん、雛祭りもラブラブしようということではなくて
家族でコスプレするのはバレンタインでなくてもいいかなということですけど
でも、バレンタインのコスプレはあきらめるとして
もしもできそうなら
雛祭りでラブラブもできたらいいですね。
そのへんはお内裏様の意見を聞いて
予定を立てていくのかな?
よろしかったら、楽しいこと何でもはりきりたい困った妹に
ご協力お願いいたします!
その前に
今の目標は、ついに間近に迫ったバレンタイン。
お兄ちゃんには、大変な思いをまたさせてしまうかもしれないですけど
大好きな気持ちを伝えたいんです。
なるべくあまり行き過ぎたりしないように気をつけるから
どうか、この日だけは蛍の限りないわがままを
ちょっとだけでいいので、大目に見てくれたらうれしい。
また私たちと過ごしてください。
麗ちゃんはどうなっちゃうんでしょうね。
せっかくのバレンタインなのに、もったいないな。
立夏ちゃんもご飯を差し入れして仲直りをしようとして。
もう怒っていない麗ちゃんとお話したけど
でもやっぱり、バレンタインまで隠れているつもりなんだって。
勇気が出ないのかな?
それとも、女の子らしい告白が苦手なのかも?
もし、麗ちゃんがバレンタインに参加できそうになかったら
蛍がその分がんばって、
お兄ちゃんにいっぱい愛をお届けします!
家族揃ってのラブラブコスプレは、今からでは実現しそうにないから
そのぶん、チョコに力を入れて
蛍は試行錯誤をしていきます。
大好きなお兄ちゃんに、
体の奥、おなかの中からも愛を伝えられるように。
お兄ちゃん、
バレンタインの日のお料理は
蛍の特製、
世界のどこにもないものにしたいの。
こんなにたいした自慢もない妹の蛍でも
お兄ちゃんを思う気持ちは
誰にも真似ができないんだと
蛍だけの気持ちを、
込めることができたなら。
愛が届くなんていう、奇跡みたいな
こんなに素敵な日なら、できるかな。
楽しいバレンタインになるように、はりきるね。
みんなが幸せなバレンタインになるといいですね。
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蛍の偽日記

『効能は』

ママが持ち帰って、
みんなに見せてくれる昔の番組は、
白黒の時代から
激動の昭和を経て
今の私たちの世代に至るまで。

おうちの子が芸能人になるなら
その時のために、知っておくと役に立つかもしれないこと。
海晴お姉ちゃんは、もうテレビに出ている人。
お天気お姉さんだから
温泉リポートの番組には出ないかな?
たまに、出演してみないかって話はあるんだって。
こうして大きなお風呂があるホテルに来てみると
ママが見せてくれる番組を思い出します。
温泉につかった美人のお姉さんが
泉質は?
効能は?
説明してくれました。
昔は、そんな番組もやっていたんですね。
テレビって、本当にいろんな番組があるんだあ……
びっくり。
でも、海晴お姉ちゃんは、そんなにたくさんの番組に出るつもりはないって。
一途なお天気お姉さんです。
それに、お風呂に入っている姿は
あんまり他の人に見せると
恥ずかしいですよね。
お兄ちゃんも、
こういう番組に出てねって言われたら、困ってしまいますよね。
ママはお兄ちゃんに期待しているんです。
芸能人になったら、温泉番組に出てほしいって。
お兄ちゃんはいつか芸能人になるのかな?
そんな忙しそうな、すごく大変そうなお仕事に就いたら
蛍はお兄ちゃんを愛する妹として、おうちでサポートしてあげなきゃ!
おいしいものをいっぱい作って
もりもり栄養をとってもらいたいです。
忙しすぎて家にいる時間が少なくなってしまったらさみしいな。
お兄ちゃん、芸能人になるときはちゃんと蛍たちに相談してね。
絶対だよ。
約束です。
ただ、お兄ちゃんはもう蛍の心のアイドルみたいなものだから
毎日の生活を、ふだんから支えていたくて
蛍はお兄ちゃんのために一生懸命に、
できることを少しでも、って張り切ることは、
もう今でもしているのかもしれないな。
お兄ちゃんはもう、蛍が一生懸命支えたい大切な人なんです。
それにしても、ママが温泉番組に出てほしいのって
やっぱり、おじさまのホテルがいいところだから
紹介したいのでしょうか?
私たちが紹介したら、きっとおじさまはうれしいですよね。
でもさすがに、テレビのたくさんの番組に出演できる子はなかなかいない気がするな。
お兄ちゃんがテレビの人になってしまったら蛍は寂しいし。
立派で気持ちのいいホテルだけど。
残念ながら、蛍たちが紹介はできない。
知る人ぞ知る、ですね。
お客さんがいっぱい入っているから、もう有名なのかな?
お正月の観光シーズンのピークが過ぎても、大きなホテルはまだいっぱい。
人が多いからみんな迷子にならないように、一人で出歩いたらいけない約束なの。
お兄ちゃん、突然ふらっと大浴場にでも行きたい気分になったら
蛍に声をかけてくださいね。
蛍はこういう立派なところで落ち着いて過ごすのが苦手というか
何もしなくていいと言われても
できることがないかうろうろして、うるさいって氷柱ちゃんによく怒られています。
せっかくだから骨休めすればいい、
普段からおうちの仕事をがんばっていてえらい蛍ちゃんだから、
って。
蛍は自分が好きで、やりたくてやらせてもらっているお仕事だから
全然大変じゃないの。
毎日とっても楽しいし
こういうとき、することがないとかえってどうしようって思うくらいです。
お兄ちゃんも、蛍はがんばっていてえらいと思う?
もし、そう思ってくれているなら蛍は照れてしまいます。
でも、嫌じゃないよ。
もっと褒めて、ってこっちから言うのは変だけど
気持ちを全部伝えてほしい家族なら
褒めてもらえるとうれしいよ、って言ってもいい?
好きでやっていたら、家族の役に立って褒めてもらえるなんて
蛍はお得な子ですね。
蛍の好きなことをさせてくれる家族に
感謝、感謝です。
お兄ちゃん、
蛍のお料理をいつもたくさん食べてくれて
うれしいんだよ。
おいしいって言ってくれて
ありがとうございます。
お兄ちゃんの喜ぶ顔をもっと見たいよ。
笑顔でいてくれて、よかったな。
蛍をたくさんうれしい気持ちにしてくれる。
蛍と一緒にいてくれる。
毎日、蛍を幸せにしてくれていますね。
言葉で伝えきれるかわからないけれど
とっても感謝しています。
ありがとうございます。
お兄ちゃんといる蛍の時間は、いつも大切に感じる。
あんまりたいしたことができない蛍で
芸能人になったりなんてもちろん出来ない。
それなのに、たぶん、どんな輝く立派な人たちみたいになるよりも
蛍は、いま自分がここにいてよかったなと思う。
それが、蛍がいつも感じていること。
家族には何でも伝えたいから。
蛍の気持ちを
素敵なお兄ちゃんにたくさん聞いてほしいです。
それと、蛍の悩みは
こうして特にすることがないときに、弱ってしまうことです。
お兄ちゃん、
何か蛍にしてほしいことないですか?
それともやっぱり、温泉に入ってゆっくりしたらいいかなあ。
今なら、温泉を紹介する仕事でもなんでも
蛍ができることだったら、してみたい。
あんまり蛍に温泉リポートを期待している人はいないですか?
スタイルがいいほうじゃないので……
こういう体型はテレビとかでは求められていないかもしれないし。
蛍は難しい説明が苦手です。
よくお世話になっているこのホテルの温泉の効能だとか
いつもすっかり忘れて
私たちが楽しく入っているお風呂なんだから
効能は、家族円満です!
と、みんなで話をするから
今でもそれで納得している蛍です。
たぶん温泉の科学的な泉質調査って、
家族円満をまねく成分は見つからないと思うの。
自宅のお風呂も、別に温泉を掘り当てたわけじゃない普通のお湯なのに
家族円満の湯だということになりそうだし。
難しいことは苦手な蛍ですけど
テレビに出るわけじゃないし、
大好きなお兄ちゃんに説明してあげるお話は
これくらいしかできないんですけど。
小さい頃から旅行に来てはよくお世話になった温泉です。
おかげさまで、みんながこんなに仲良くなれました。
お兄ちゃんもぜひお風呂を楽しんでみてくださいね。
家族の笑顔に
きっと効くと思います!

蛍の偽日記

『おしまい』

それから女の子は
王子様と
いつまでも
いつまでも
幸せに暮らしました。

今日はクリスマス。
そして、
長いような短いような
一ヶ月ちょっとのアルバイトの
おしまいの日。
今日で蛍は、普通の女の子に戻ります。
これからは楽しいことも
つらいできごとも
大好きな家族と分け合って
喜んだり、ぶつかったりしながら
仲良く毎日を送っていく
どこにでも当たり前にいる
普通の女の子。
観月ちゃんが詳しい、ずっと昔の時代から。
吹雪ちゃんが興味を持っている、科学が進んだ未来世紀が到来しても。
いつも変わらず、町の風景のどこかにいる
ささやかな幸せを大事にする普通の子。
明日からは蛍も
はたらく女性をしばらくお休みして
愛する人たちと日々の生活を重ねていく
何も特別なところのない一般人。
家族の人数が多いにぎやかなおうちで
お兄ちゃんのことが大好きな、平凡な妹になります。

でも、実を言うと、パン屋さんでの仕事はまだあるんです。
忙しかったクリスマスの後片付けや
細かな用事の引継ぎ、
何よりも、とてもお世話になったお店の人たちへの挨拶に
明日はもう一日お仕事。
夕方になる前には帰ってきて
晩ごはんの支度をはじめられると思います。
お兄ちゃんが迎えに来てくれたら
一緒に買出しに行きたいな。
でも、いよいよはじまった冬休み。
小さい子たちも、お兄ちゃんに遊んでほしがっているかも。
蛍も、遅い帰りで心配をかけてしまうこともなさそうだし。
買出しは一人で行くことになるでしょうか?
クリスマスのごちそうを食べ過ぎて
成長分をはるかに上回るカロリー摂取量を心配しているまじめな子たちに
健康面を考えたバランスのいい栄養献立を用意したいな。
でも、冬休みにいっぱい遊びたいみんなには
寒い季節に負けない力がつくメニューのほうが喜んでもらえる?
冬休みはあまり長くないけれど
みんなが毎日おうちにいるんだもの、
蛍の腕を振るう機会は多いはず。
あ、でも、
大磯に旅行に行っている間は、家事はあんまりいらないですか?
時間が空いたら、どうやって過ごせばいいんだろう?
もしあんまり暇そうにしていたら
どうかお兄ちゃん、
何もわからない蛍の手をとって導いてください。
旅行先で有意義な過ごし方があんまりできなくて恥ずかしいです。
もしかしたら、意外と少ないかもしれない蛍の冬休みの活躍。
あまり出番は多くなくても
台所に立つ一回一回の全てに全力投球して
おなかから家族を支えていけたらと願っています。
あとは、元旦は振袖の着付けを任される大役もあるし
家族のために張り切って過ごせる冬休みになるといいな。
大掃除は、小雨ちゃんのほうが得意そうかな?
蛍はコスプレ衣装の片付けも苦手だし
霙お姉ちゃんや立夏ちゃんは、なかなか蛍の手に負えないかもです……
宇宙の永久のような営みに比べれば、一年の区切りなど何の意味もないって
霙お姉ちゃんがごまかそうとしたら
蛍はそんなことを言われたら、なるほどってその場は納得してしまって
後になって思い返して微妙に釈然としない感覚が残ってしまうので
その時は、かしこい氷柱ちゃんやお兄ちゃんに手助けをお願いしたいです。
難しい理屈はたくさんあるのかもしれないけど
できるだけの大掃除をして
たまった汚れをきれいにしつつ、積み重ねてきた日々を思い返し──
感謝の気持ちを新たにして、
一年の締めくくりを気持ちよく迎えたいのが、蛍の気持ちです。
アルバイトが終わりになって、浸っている間もないうちに
この一年も、もうまもなくお別れのとき。
中学生でもこんなに忙しい気がするんだから
もっと大きくなったら、どんなにあわただしいんだろう!
海晴お姉ちゃんもきっと大変だと思うし
蛍も家族みんなのさわやかな年越しのお手伝いをしたいな。

今日の日記のはじめのご挨拶は
よくお店をごひいきにしてくださるお客さんのおうちの
せっかく仲良くなった小さな女の子に、
アルバイトのお仕事が終わって、もうこのお店で会えなくなるお別れの挨拶をしたときに
そのあとお姉ちゃんはどうするの?
と聞かれたときにとっさに浮かんだ今後の予定。
自分でも何を言っているんだろうと思っていたけれど
改めて考えると、そんなに間違ってはいないですね。
その場でぱっと浮かんだ内容が
あらかじめ用意しておく凝ったお別れの台詞よりも、的確になることはあるのかもしれませんね。
お兄ちゃん、今まで蛍のお仕事を支えてくれて
ありがとうございます。
いつも感謝している蛍です。
アルバイトがなくても、お兄ちゃんにはとってもお世話になっているし
こんなときに思うだけではないんだけど。
でもやっぱり、いつも考えています。
忙しくて助けてもらいたい必死のときも
落ち着いて過ごす毎日も。
蛍に、こんなに優しいお兄ちゃんがいてくれてよかった。
アルバイトからの帰り道は
クリスマスの飾り付けがきれいだったからなのか、
お兄ちゃんが隣にいてくれたのが理由なのかもしれませんが。
同じ道のりを辿る変わらない帰りがいつも
まるで夢のような時間でした。
寒くないか気を使ってくれて、
蛍のほうがお兄ちゃんに尽くしたくてうずうずしている状態なのに、
たくさん優しくしてもらいました。
思い返すと、本当にあったのかしらと疑ってしまうほどのきらきらの思い出。
励ましてもらうこともあったり、
ただ、その日の仕事の内容を聞いてもらうだけでも
すぐ近くで蛍を見ていてくれる笑顔が
いつも蛍の力になりました。
あの時間は、朝が来るとすぐに忘れてしまう夢ではなくて、本当にあったことで、
蛍はお兄ちゃんと歩いた道をいつまでも忘れずにいていいんですよね。
お兄ちゃんと話した何気ない会話も
一緒に見た町の景色も全部、
蛍の胸の中の、子供みたいな宝石箱の
いちばん大切な場所にしまっておいて
ときどき取り出して、眺めたい。
今は蛍の一番目立つところに、
もっとお兄ちゃんと毎日を重ねていく時間を宝石箱に詰め込むその時まで
手の届くように置いておきたい。
あんまり大事な思い出ばっかり増えていったら
どこにしまったらわからなくなっちゃうかな?
蛍は整理整頓が得意なほうじゃないのに、どうなってしまうのでしょうか?
でも、どこを手にとっても大切な思い出ばかりだっていうのは、絶対うれしいから
まあいいかな。
触れてしまうと赤面してしまうようなつたない経験も
胸を張って大好きな人に話せた小さな背伸びも
もちろん、毎日変わらないような時間の積み重ねだって
これからずっと、蛍だけの宝物。
それがどんなにうれしいことなのか、
お兄ちゃんと過ごしてきた蛍は知っています。
そして、毎日新しく
何気ない暮らしの中で思い出が増えていくに違いない
確かな予感が
どんなにうれしいのか、
それも蛍は、お兄ちゃんに教えてもらったから、知っているよ。

お兄ちゃん、
何度でも言いたい蛍は
しつこくても、やっぱりどうしても
また言いたい。
今まで蛍を支えてくれて
本当にありがとうございました。
蛍はこんな素敵なお兄ちゃんがいてくれてうれしいです。
これからも、末永く妹の蛍を
どうかよろしくお願いします。
今年がもうすぐ終わってしまって、来年もまた。
それから、やがて来るその次の年も。
長いようで短いような、一年の繰り返しを重ねていきたい。
いつまでも変わらない絆の家族に生まれたことを幸いに
ずっと蛍のそばで
蛍のお兄ちゃんでいてください。
お兄ちゃん、
大好きです。

あんまり日数がなくて
すぐに終わってしまうかもしれない予感の冬休み。
これから蛍は余裕がある時間が増えると思うので
もしも用事があったら、遠慮なく呼んでください。
いつでもメイドさんのかわいい衣装に着替えて
お世話に飛んで行きたいです。
それとも、家族みんなが冬休みだから
お兄ちゃんに遊んでほしい子が多くて
蛍のことをそんなにかまってもらうわけには行かないかな。
蛍は、夢みたいにお兄ちゃんと幸せな時間を過ごしている間、
というのは、アルバイトのお迎えをしてもらったときのことですけど、
お兄ちゃんは忙しくて用事もいっぱいあるのに
蛍にかまってくれて。
お兄ちゃんがこんなに愛してくれると実感できるのが
とてもうれしいことだとわかってしまった。
でも、お兄ちゃんは蛍を愛するためだけに生まれたわけじゃないかもしれないもの。
家族みんなの大切なお兄ちゃんです。
蛍がいつまでも独り占めすることはできない。
だからひとときだけ蛍の近くにいてくれるなら
この時間をとても大切にしなくちゃ、と思っていました。
忘れられない思い出があまりにも多いのは
そうして、特別に大事にしようとしていたからかもしれませんね。
ううん、意識していなくても自然とこうなっていたかな。
これからずっと、お兄ちゃんが
蛍だけをこんなふうに愛してくれたらな、と
現実になることがおそらく叶わない望みを持ったときが、よくありました。
お兄ちゃんが蛍を愛するためだけに生まれてくれたのならいいのに。
お休みになったら、お兄ちゃんは家族みんなの幸せな宝物。
蛍だけのものではないという、当たり前の事実。
蛍も家族のみんなは大切だもの。
みんなで仲良く過ごせたらと思います。
ただ、お兄ちゃんがたまにでいいから
蛍の小さなお願いを思い出すときがあったら
少し時間が空いたようなときにでも
蛍のほうをちらっと気にしてくれたらうれしいな。
いつもお兄ちゃんのことを思っている妹が
お兄ちゃんの大勢の家族には、少なくとも一人だけでもいるんだって
蛍のことを忘れないでね。
お兄ちゃんの助けがあってうれしかったアルバイトは無事に終わって、
どうしてもお兄ちゃんに頼る場面は減るとしても
蛍は、いつもお兄ちゃんを必要としています。
ときどき、助けに来てくださいね。

蛍の偽日記

『かがやくゆめの』

きらきらと
きれいなもの。

どこまでも続いている宇宙がそのまま見えるような
澄んでいる冬の夜空に
小さい子たちが遊んでいるみたいに
気ままに散らばったり、おぎょうぎよく並んだり
かわいい、またたく星の粒。

それから、
クリスマスが近づいた私たちの町に
サンタさんを歓迎する、並木道やお店のイルミネーション。
ここにはプレゼントを待っているいい子が
たくさんいて、
今年のクリスマスには
楽しみにしていたプレゼントを家族に見せてあげたくて。
とてもうれしいものが届いたら
大好きな人に急いで教えてあげたくて。
蛍がそうだったからわかる。
お兄ちゃんがいたら、きっと何よりもうれしくなって見せてあげたかったから
いまお兄ちゃんがいる小さい子達の気持ちを想像してみる。
そんな子を見て喜ぶお兄ちゃんの顔を、早くも思い浮かべてしまう。
いい子たちと一緒に過ごす家族が
この町にたくさんいるんだと
ほのかな明かりで伝える、クリスマスのよそおい。

まだまだあるよ。
立夏ちゃんの女の子らしいファッションは
一年前のちびっこガールズモードと比べたら
きらり、はなやか。
おこづかいはそんなに変わっていないから
蛍がリクエストに応えて作ってあげているのが理由かな?
それともやっぱり、立夏ちゃんが見た目も中身も
ぐっと女の子らしく成長中だから?
片付けの苦手な立夏ちゃんも
秋の大人しかったおしゃれから、冬景色が似合うようになっている。
もうすぐ静かな雪が降ってきたら
去年ほど派手過ぎない立夏ちゃんの工夫は
どのくらい季節感があるものなんだろう。
まだどこにもないその景色を思い浮かべてみる。
寒い季節らしくおとなしめの色合い、
でもどこかに遊び心を盛り込みたい。
私たちは、これからたくさん楽しいことがあるって
もう知っているんだよ。
女の子たちのはちきれそうな胸の中みたいな、色とりどりの冬服が歩く景色は
すぐそこまで迫っている。

あ、もちろん
お兄ちゃんもかっこよく決めたらいいと思うな。
寒い季節、
おうちの中で過ごしたくなる季節でも
これから始まる冬には
いろいろな思い出が生まれる。
どうやったって、忘れられない思い出ばかりできてしまうはずだもの。
私たち家族はずっとそうでした。
だからこの冬もきっと。
何が起こるか、手のひらを口元に持っていって寒そうに暖めながら
きっとだよ、
絶対だよ、
って、その時をそわそわ待っている。
足踏みは寒いからだけじゃない。
待ちきれないからなの。
もし、かっこいいお兄ちゃんの服装がとっても似合っていて
優しさも強さも、いつも私たちのお兄ちゃんでいてくれるたくましさも
誰よりもかっこいいヒーローだったら
思い出になる時間も、ひとまわりくらい楽しそうじゃないですか?
蛍はときどき、お兄ちゃんの服を見てあげたい。
迷惑じゃなかったら、いつでも蛍にお手伝いさせてください。

そして今日の
きらきらくるくる
まぶしさに目が回りそうな輝きは
世界中のかわいいケーキたちの
ほんのひとかけらが集まっただけでも
この景色はパーティドレスで競うような舞踏会。
蛍が人よりちょっとだけお料理が得意かな、
それならうれしいな、とうぬぼれていたって
おうちのお茶会は、せいぜいお菓子たちのパジャマパーティ。
やっぱり本当のお店は違うな。
こんなところで働ける氷柱ちゃんなのに
しかめっつらはいけないな。
少し困ったことがあったって
店員さんは、できれば花開く笑顔でいなくちゃ!
繊細なデザインの洋菓子たちの中にいても
きっと負けないまぶしさだと思います。
本当は、アルバイト先に行ったら
氷柱ちゃんも緊張してしまうかもしれないから
気にしていても
でも、わりと近い場所で働いているのだし
あちらの店長さんもよくごあいさつに来るくらいだし
今日は土曜日、
ホタと氷柱ちゃんがどちらも働いている、週に一度の日。
でも、おうちで家事をすることになったみんなは大変ですよね、
変なところではしゃいでしまって、なんだかごめんなさい。
だけどね、
いけないとは思っていても
弾みはじめた胸は、だんだん勢いを増すばかりで
あっちに跳ねたり
こっちに飛んできたり
わくわくは、わりと自然に大きくジャンプするようになる。
お昼の忙しい時間が過ぎて、少し息をつけるようになって
休憩を取った短い時間で
お店の人たちも、ケーキでリフレッシュしてもいいと思って。
蛍がおつかいの役目を申し出て
ついでに、氷柱ちゃんの様子も見れたらいいなと
そのくらいで出かけました。
洋菓子のお店、
やっぱり私たちのパン屋とは、だいぶ違いますね!
パン屋は素朴で親しみがある日常の一部に感じてもらえたらと
木材のあたたかみを意識した店内に、
棚にめいっぱいパンが並んでいたら、選ぶ楽しみもあるし
ふっくらしたやわらかそうなあたたかさが自慢なんですけど。
チョコレートとフルーツは、
こんなふうにして魅力を引き出すんだと
ケーキの全てが、女王の風格。
手の込んだデザインの高級感は、
なんというかお店の隅々まで行き渡っているよう。
ああ、上品なんだ!
かわいいなあって憧れるけど
蛍が店員さんだったら、ちょっと緊張して失敗しそうな空気だよ。
氷柱ちゃんは、
なんで来たの! って顔を一瞬だけ。
すぐにプロの顔に戻りました。
いらっしゃいませー、
とはいえ、いつもこんなぎこちなさではないかも?
最初はどうなることかと思っていたけれど、と出てきて
パン屋さんでは蛍とお話もする、洋菓子店の店長さんが
しっかりしているからクリスマスの後も働いてくれたらいいのに、
とうれしい言葉をかけてくれるくらい。
氷柱ちゃんも、蛍が突然訪ねてしまったから緊張してしまったんだよね。
ごめんなさい。
でも、ケーキを扱うてきぱきとした手際はさすがでした。
おうちでも、おかたづけは小さい頃から上手だった氷柱ちゃんだもんね。
手先が器用じゃないくても
頭がいいし、もしかしたら蛍よりもお料理に向いているのかもしれないと
普段のかっこいい氷柱ちゃんを見ていたら、ときどき思うこともあります。
きっとすぐにお料理も上手になるよ。
ショーケースのきらきらを眺めて
蛍が見つけたのは
あっ!
アップルパイは、蛍のお店でも扱っているよ。
どちらがおいしいか、
これは調査しなければいけませんね。
パン屋に戻って、
休憩しながら
いざ勝負!
燃え上がる炎を背負って、対決のはじまりです。
やっぱり、一口食べてすぐわかるところがある。
フルーツが違いますね。
ケーキの幸せと最高の相性を追求していったら
どうしても得意分野。
くやしいけど、そこは本格的な洋菓子店の強みだな。
みずみずしさを封じ込めておいて
さくっと噛んだときに、口の中に広がる喜び。
大好きな人を遠くから見つけた瞬間を思い出す
うれしい、切ない、この甘酸っぱさ。
のどもとを通り過ぎるまでの、あっというまの天国。
木になっているりんごに祝福を与えたときと同じように、蛍の胸に降りてくる天使。
りんごの迫力は、さすがだな。
でも、パイ生地はうちのパン屋も負けていないかな。
バターを使って焼くことなら、毎日研究しているようなものです。
さくさく気持ちのいい音を繰り返し、だんだん広がる柔らかな甘さは
そう簡単には追いつけない努力のはずですから。
今日のところは、ひきわけというところですね。
見習い店員の蛍も少しの対抗心、
うちだって簡単には負けない。
ちょっとだけ、ほっとした感じです。

クリスマスまでのアルバイトは
あと二週間くらいになりました。
一番忙しいのはクリスマス当日なんだから
今から、短いような気分になるのはおかしいですけど
お仕事を任せてもらえるこの期間、
一生懸命走り抜けたいです。
氷柱ちゃんがお店でしっかりと立つ姿がかっこよかったみたいに
蛍も少しはまぶしく輝いているかな。
星空にも、クリスマスにも一目見た感じではかなわない
だけど真面目なお手伝いさん。
きらめく立派な店員さんになりたくて
今日も笑顔で働いています。
疲れてしまっても、
お客さんの大切なお買い物の時間が
今日も、いつものように変わらぬ愛しいものになってもらえるように。
まだ小さくて何も知らないホタも
おいしいものを食べて元気が出るときは
こんなふうに、人の心を支えるお仕事の端っこで
少しでもキラキラ活躍したくて。
毎日が、お勉強の真っ最中。
蛍がいなくて大変なはずなのに
優しい家族に励ましてもらえる幸せ者、
明日もがんばります。

蛍の偽日記

『手紙』

お兄ちゃんへ。

いつも、お迎えありがとうございます。
日が暮れると、とっても冷え込む季節。
風邪を引かないように、暖かくしてお迎えに来てね。
蛍もいっぱい着ていきます。
太って見えてしまうなんて言ってられない!
お仕事をするからには、体調管理が一番大事です。
もこもこしながらがんばります。

今日の日記は、蛍のお当番。
お互い忙しくて、日記を渡すときにあまり長くお話ができない。
だから、今日は文章だけで蛍のお話をお届けします。

アルバイトのあとでお迎えにきてもらって、
お仕事の話題を聞いてもらって、今までよりもお話ができてうれしい。
とても冷え込む帰り道、手袋で顔をさすりながら、
それでも伝えたいことばかりで、言葉が止まらないホタです。
お兄ちゃん、蛍のお口で手袋がもごもごして声が聞き取りにくくない?
町はだんだんクリスマスムード。
イルミネーション、クリスマスツリーの点灯が始まっているところも増えてきました。
とってもきれいで──
こんなに大勢の人がクリスマスを楽しみにしているんだと思うと
蛍はほっこりしています。
お兄ちゃん、蛍はおにいちゃんと並ぶ帰り道はずっと、
きれいですね、
こんな風景をお兄ちゃんと見られて幸せだなって
そんなことばかり言っていたような気がします。
だけど、ちゃんと他の人のことだって考えているんです。
今年の蛍は、はたらく女の子ですもの。
いろんな人に幸せをお届けするお手伝いをするんですよ。
どうか、みなさんのところに、幸せなクリスマスがやってきますように。
そして、私たちの大切な家族が住むこの家にも。
蛍もみんなのために張り切って、我が家のクリスマスを盛り上げようと思います。
お兄ちゃん、今度の帰り道は町の景色を見ながら
そんなことを相談したいな。
このごろはたくさん話しているから
日記に何を書こうかな、と思っていたけれど
いざペンを手に取ると、伝えたいことが次から次へと溢れてきます。
顔を合わせてはなかなか言えない蛍の気持ち、たくさんあります。
聞いてください。

お兄ちゃん、
蛍はお仕事をがんばれているでしょうか?
ときどき思うんです。
ふと、充実した時間のすきまに、蛍の胸に忍び込む考え事があるの。
お店の人も、お客さんもいい人ばっかりで
蛍は毎日、一生懸命。
お仕事はだんだん慣れてきたかな?
まだまだ未熟で
目の前のことに向き合うのが精一杯だけど、どうにかお店のお役に立っているみたい。
憧れていたかわいいパン屋の制服も、
お兄ちゃんに似合っていると言ってもらえてうれしいな。
でも、蛍は本当にこれでいいのかしら、
このお仕事は蛍の性格だとあんまり向いていないんじゃないかな、と思うときが
あるんです。

仕事がうまくいっていないわけではないし、
不満があるというのも違うんです。
働き出す前は、蛍の力なんて小さなものなのにいいのかなとすごく不安だった。
家でみんなに食べてもらうのとは違う、立派な商品を扱うなんてできるのか。
でも、クリスマスが終わってからも働いてほしいってたまに言われるくらいだから
思ったよりも蛍はお仕事をこなせているみたい。
パン作りはもともと家でやっていたし、お店の厨房もすぐに使い方を覚えることができました。
接客に向いていると、褒めてもらえることもある。
天使家は海晴お姉ちゃんや霙お姉ちゃん、春風ちゃんやヒカルちゃんがいて
学校でも少し話題になるから
蛍が働いているお店だからと見に来る木花の生徒も多いんです。
お客さんが蛍の話をしていたり、
声をかけてくれたりしたら、
こんなホタでもこのお店の力になれているんだと思えて。
ようこそいらっしゃいませ!
とってもおいしいパンがたくさんありますよ。
今日はこちらのパンがおすすめです。
お客さんは甘いものは大丈夫ですか?
がっつりいきたい気分のときも、おまかせください。
このお店のパンは、どれも楽しい個性があって、みんなおいしいんです。
これなんて焼き立てです!
今この瞬間だけの出会いです!
自然とそんなふうに声をかけている。
おいしいパンがいっぱいのお店で働けるって、とても楽しいことなんだと思う瞬間。
蛍はよく知っているんだから。
たくさんいいものがあります。
どうか、蛍の好きなこのお店のファンになってください。
まだ新人の店員でたいした力はありませんが、
あなたのおいしさを見つけられるように、お手伝いをさせてもらいたいんです。
同じ学校の制服を見ていると、身近に思えてしまうのでしょうか。
こんなでしゃばりかもしれない店員ですけど、
蛍を見に来たお客さんにはそれでいいと、お店の人も言ってくれている。
氷柱ちゃんのお店にも木花から見に行く子がいるんだけど
お友達が来てくれたのに、見世物じゃないときつく言って追い返そうとして
店長さんにすごーく怒られたらしいんです。
今日、氷柱ちゃんのお友達が蛍のお店に来て、つい漏らしてしまったそんな話題。
こんなふうに笑顔でお客さんを迎えられる余裕が氷柱ちゃんにもあれば! って。
きのう、お兄ちゃんと一緒に氷柱ちゃんをお迎えに行ったとき、
氷柱ちゃんは何も言っていませんでしたね。
むしろ順調にいってるみたいに話をしてくれて。
怒られて、きっとすごく落ち込んだはずなのに。
お兄ちゃん、今日はおうちにいた氷柱ちゃんの様子はどうでしたか?
悩んでいるような気配はなかったでしょうか。
もっと打ち明けて話してくれたらいいんだけど……
怒られて落ち込んだなんてことくらい、家族に話せば気が楽になるようなことなのに。
わりとうまくいっている蛍でも、失敗して怒られるくらいよくある当たり前のことなのに。
さりげなく聞き出すようにしたら、やっぱり氷柱ちゃんは怒るよね。
クリスマスのきらめく町の魔法みたいな雰囲気が、
氷柱ちゃんにも、素直になる勇気をくれたらいいのにな。
明日は氷柱ちゃんのお迎えに、蛍も一緒に行っていいですか?
土曜日は、蛍と氷柱ちゃんの仕事が重なる日。
まだ仕事を始めたばかりの氷柱ちゃんが心配だし
お迎えは氷柱ちゃんのほうを優先してもらうことになりそうですね。

たまに怒られている、と言ったけれど
蛍が悩んでいるのは、怒られているからという理由ではないと思うんです。
それは確かに、新しいパンを開発する相談のとき、
ホタが20個くらいアイデアを考えていったら、全部ボツだったときには
さすがに落ち込んだけれど。
霙お姉ちゃんの好きなあんこと組み合わせるのって、いいと思ったのにな。
ヒカルちゃんはいっぱい具があると喜ぶかと、お肉を大盛りにしようかって。
焼き上げるのが難しかったり、採算が取れないと言われました。
そうですよね……蛍はそんなこと全然考えていなかった。
家で試したこともあるオリジナルのお楽しみパン。
お店で販売するパンはやっぱり素人の考えとは違うんだと、実感した瞬間でした。
笑顔で接客ができているお話は、さっきもしたけれど
パンを紹介するとき、ちゃんとお客さんを見て話しているのか、とたしなめられるときもあります。
単に個人的な好みで紹介するだけでは、店員として充分とはいえない。
お客さんの一人一人に、それぞれ考えていることがあるのだし、
このお店に来て、パンを選んでくれるのはどういうことなのか。
決して、誰も同じ気持ちの人はいない。
その思いに私も真剣に向き合って欲しい、と言われました。

お兄ちゃん。
蛍がパンを前にして考えていること。
お店の大事な商品を大切に扱いながら考えているのは
いつも家族のことなんだよ。
気がついてしまいました。
焼きたてのパンを一番に食べさせてあげたいのは
おいしそうに食べてくれる蛍の家族です。
お客さんのことが見えていないというのは、たぶんその通りなの。
蛍は、いまお兄ちゃんがここにいたらどんな顔をするのかな、
みんながここにいたら、とよく考えている。
蛍にとって、家族がこんなになくてはならないものだなんて、
そうかもしれないとは感じていたけれど。
クリスマスにはサンタクロースの服を作って仕事をしたいね、とお店で話しています。
店員のそれぞれに飛びっきりに会う服を作れたらいいね、なんて。
趣味の手芸が得意な人が多いお店です。
蛍も少しはできると話していたから、決して変な話題ではないんだけど。
なんでだろう?
おうちのみんなに服を作ってあげるときみたいに心がときめかないよ。
かわいいおうちのみんなのサンタ服、
みんなの個性に合わせて作ってあげたいな。
普段なかなか着ないようなのも、挑戦してもらいたいな。
家族にかわいくなってもらうことにかけては、
いくらでも腕を振るいたい蛍なのにな。

小さい頃から、優しいお姉ちゃんやかわいい妹たちがいっぱいの家で育ったから
自然にそんなことばかり考えているのかな?
それじゃあ、この家に来たばかりのお兄ちゃんは
家族とずっといることに、まだそれほど馴染んでいないのかな。
ううん、いつも蛍たちを守ってくれるお兄ちゃんだよ。
それに、家にやってきたばかりと言っても
蛍はお兄ちゃんのことをとても大事に考えています。
私、いつでもお兄ちゃんがいないとだめだよ。
それは出会ったときからずっとです。
日に日に強くなる気持ちです。

お客さんと真剣に向き合うことをしないといけないけれど
蛍が喜んでほしいのは、いつも大好きな人なんです。
蛍が見ているのは、大切な人だけ。
何をしていても、変わらない。
自分がこんなにわがままで自分勝手だなんて、知らなかった。
サンタ服を作るのは、会ったこともない人に見せるためじゃないんだよ。
お世話になっているお店の人たちにお礼をするためでもないの。

お兄ちゃん、蛍は悩んでいることもたくさんあります。
うまくいっているはずなのに、どうしてなんでしょう?
こんな蛍を見込んでいてくれる人のために
せめて、クリスマスまでは仕事を続けたいと思っています。
蛍にできるでしょうか?
本当にできるのでしょうか。

お兄ちゃんに話を聞いてもらえることが、こんなに力になるのだと
蛍はここしばらく、今までになかったほど感じています。
いろいろとっても大変だと思いますが、
これからもときどき一緒にいてもらえたら、蛍はすごく元気が出るんです。
不思議なの。
悩んでいて、迷っていても、お兄ちゃんがいるだけで
世界はつらいことなんて何もない、全然違うものに変わっている。
蛍の大切な大切なお兄ちゃんが
どうか体調を崩したりしないように
体には気をつけていてください。
すごくすごく、
どうしても、
風邪なんてひいたら悲しいです。
今の蛍が頼りにしてしまう、蛍のお兄ちゃん。
お願いです。
これからもずっと元気でいてね。

まだまだ伝えたいことはたくさんあります。
いくらでも頭に浮かんでくるんだよ。
もっとたっぷり時間をとってお話したい。
お兄ちゃんのこともいっぱい聞かせてほしいな。
でも、きりがないので今日はここまでにします。
明日は、お料理のお勉強してもらうと約束していますね。
お兄ちゃんが家族みんなのかっこいいシェフになれるように、
ホタは一生懸命付きっ切りでお世話したいと思います。
よろしくね。

こんなわがままな妹ですが、これからも仲良くしてください。
蛍はいつも、お兄ちゃんがいてくれてうれしい気持ちでいっぱいです。
どうか、よろしくお願いします。
ぺこり。

大好きなお兄ちゃんへ。

蛍でした。

蛍の偽日記

『アルバイト』

おかしのくつを並べているお店を見つけて
えっ、もうそんな時期?
おどろいてしまいます。

目を引く赤い長靴の
ふわふわ白い飾りからは
あふれ出しそうな大きな箱が
ひとつ、ふたつ──
見ていると自然と
数えてしまう大盛り。

小さい子がはいてみたいクリスマスブーツは
実際は、かたくて曲がらなくて
どうにか足が入っても、全然歩けない。
右手を春風ちゃんにお願いして、
左手をヒカルちゃんに支えてもらって
慎重に一歩、一歩を試してみる
暖かなクリスマスの日。
そうなんです、蛍にもそんな小さい子供の頃がありました。
今でも時々、クリスマスの時期に見る風景。
力強いお兄ちゃんが、倒れそうなときに支えてくれるようになってから
蛍が手を貸してあげる場合は少なくなりました。
今年も、うまく歩けないクリスマスの靴に挑戦してみる子がいるのかな?
お兄ちゃんにお願いする子がいたら
転んで怪我をしないように、手を取ってあげてくださいね。
普段から走り回ってすぐ転んでしまう子供たち。
クリスマスくらいは、なるべく怪我をしないようにしてほしい。
見ていてあげます。
家族で過ごすクリスマスだもの。
蛍も実は、まだはしゃぎたい年頃。
わかっていても、ご迷惑をかけてしまうと思います。
一緒に楽しいクリスマスを作っていけたらいいな。

そうなるとやっぱり、
断ったほうがいいのかな──
あの話。

クリスマスの準備はまだ早いと思いますか?
でも考えてみたら、12月のはじめからアドベントカレンダーを用意するなら
11月のうちから考えておく必要がありますね。
おうちではまだ準備してはいませんけれど、
夕凪ちゃんは、お菓子の匂いに誘われるのか
いつかのクリスマスは、10月から用意していたというアドベントカレンダー。
今年も用意するのかしら?
蛍はいつくらいの時期に、今年のごちそうに腕を振るいたくなって
楽しみで待ちきれなくなって準備を始めるのでしょう?
毎年重ねたこのそわそわした季節を思い出しても
なんとなく、いつのまにか、としか言えない曖昧な記憶。
だいぶ先だと思っていても
気がつかないようでクリスマスムードは高まっていくみたい。
駅前にパン屋さんがあるでしょう?
ほら、はちみつパンが我が家でも人気の。
あのパン屋さん。
お店のお姉さんとお話をしていたら
前のめりでおいしさの秘密を聞き出そうとしてしまったはしたない蛍に
お姉さんは、気を悪くするどころか
むしろその熱意に、見所があると言ってくれました。
いえ、教えてはくれなかったんですけど。
わが家では私がお料理もお菓子も作っているとは話していたの。
それで、今年もクリスマスに向けてケーキの販売で忙しくなりそうだからと
お店のお仕事のお手伝いを頼まれて。
それまでの時期もアルバイトをしてくれたら助かるって。
蛍、クリスマスは家族と過ごしたいから断るつもりだったんです。
そしたら、家族といられる時間は特に問題なくとれる、
何も一日中というわけじゃない。
ケーキ作りも手伝ってくれたら当日も楽になると言ってくれました。
販売のお手伝いならまだしも
蛍が売り物のケーキまで作るのは
いろんなご家庭にお届けする責任重大なケーキに
みんな愛情をこめるなんてできないよー。
いつもは大好きな人たちの顔を思い浮かべて作っているお料理。
もう全部が全部、好きだけでやっているんだから
人前にお出しできるような立派な商品にはあんまりならないと思うんです。

パン屋さんのお姉さんには、よくお世話になっています。
ときどきお料理の作り方を教えてもらったりしているし。
いつもおいしいパンやケーキ。
感謝の気持ちもあるから、お手伝いできるならもちろんしてみたい。
パン屋さんの制服はかわいいし。
それに、落ち葉の多いこの季節に掃除をお手伝いしてくれるおうちのいい子に
ときどきは豪勢にほかほか肉まんを振舞ってあげられたらと思うと
予算に余裕ができるのは助かるな。
よく知っている馴染みのお店だから、不安も少ないし。
平日のアルバイトは、放課後の時間でも大丈夫とのこと。
家のことも大変そうだから、試しに一日おきくらいでやってみたらと
そこまで気を使ってくれるのは助かるんです──
家の人に相談しないといけないからということで、もちろん断る口実だったんですけど。
無理だよねって春風ちゃんに話したら、そのスケジュールならたぶんやっていけるし
他の子に料理を教えるいい機会にもなる、
ぜひやってみたら、ってすすめてくれました。
ああ、どうしよう。
あのね、いちばん心が動いてしまうのは情けないことに
蛍の下心が刺激された部分というか。
パン屋のお姉さんがね、
帰りが遅くなるのが心配なら、
頼りになるお兄さんがいるんだから迎えに来てもらえばいい、
なんてそんな!
お兄ちゃんに迷惑じゃないかしら。
もし迷惑じゃなかったら
これってもしかして、
お兄ちゃんにお願いして、守ってもらって帰り道を歩いてもいいのでしょうか。
蛍がそんな、本当にいいのかな。

手伝えそうなら、明日は日曜日だから
お試しでどうだろうと、お話をいただいていたので
一日お世話になってみます。
制服を着る誘惑に抵抗できなかったのか
パンの焼ける香ばしい匂いに呼ばれたのか
それとも──
お仕事のあとに声をかけてくれるかもしれない
優しい笑顔を期待してしまうのか。
不安だけではないドキドキが蛍の胸にいっぱいです。

明日は、夕方には帰ってきます。
お昼ごはんの用意をしておきますね。
暖めるだけで食べられそうなものを、朝のうちにささっと作っておきます。
もしおやつが足りないような場合は
小さい子たちはだんだんホットケーキも上手になってきたから、
お任せしてもいいかもしれません。
それでも、どうしても蛍の助けが必要になるそうなことが何かあったら、
すぐ電話してくださいね。
飛んで帰ります!

蛍の偽日記

『なかよくしてても』

けんかをすると
へるのが
おなか。

いつもけんかをしないのも
むずかしい。
たぶん、お互いを大事に思っていれば
行き過ぎたりはしないかもしれない。
もしも悲しいことに、我慢できなくなったら
そのときはしかたない。
だって、楽しいときも、好きになったときも
気持ちを止められないことはあるでしょう?
氷柱ちゃんが怒って家出して
気まずくてなかなか帰ってこられなくなったりすることも
ときどきはあるのかも。
氷柱ちゃんが怒り出したら
たくさん気持ちを聞かせてほしい。
けんかをしておなかがすいてもいいんだよって
たくさん食べてもらいたい。
それから、なかよくしていたら
ますますおいしく食べられるようなごはんを用意しておきたい。
今日のおやつは
おいも。
レンジでチンが氷柱ちゃんの得意な味付けだけど
そればかり続いても物足りない。
大学いもにしてみました。
甘さで疲労回復してもらえるかな?
お兄ちゃん、がんばっていたもんね。
氷柱ちゃんの相手。
おなかがへったでしょう?
いったいあれは
怒られていたのか
けんかしていたのか
なかよくしていたのか。
なんだったのか。
足跡を探すつもりが
結局、行き届かない掃除が気になって
氷柱ちゃんがお兄ちゃんの手を引っ張って、掃除を教えていましたね。
お兄ちゃんにかまってもらえれば何でもいいみたい。
ぞうきんがけをしながら
男の人は細かいところに気がつかないから教えるこちらが面倒だって
お兄ちゃんと並べてかかげた
おしりをふりふり。
麗ちゃんは、通りすがりに見ながら
そんなに面倒なら男なんて放っておけばいいのにと言ってました。
通り道というわけでもないし近づかなければいいんだから、って。
でも、そんな通り道でもないところに行った麗ちゃんの目的が
胸に抱えた鉄道雑誌をお兄ちゃんに見てもらうことだったのかも。
お兄ちゃんに聞いてほしいお話、たくさんありそうな
むずむず顔をしていたもの。
とってもぞうきんがけをがんばってくれたんですね。
晴れてもそんなに日差しは強くならない季節。
手が冷たくなりませんでしたか?
春風ちゃんが暖めてあげたいそうなので
もしお兄ちゃんがよかったら。
結局、誰がお兄ちゃんの部屋に行ったのかわかりませんでしたね。
観月ちゃんはもののけではないだろうかと
祈祷したがっているの。
もちろん、もののけではないですけど。
ううん、ホタも幻の女の子の正体は知らないの。
もしかしたらと考えはあるけれど。
というか、誰も名乗り出ない理由は
隠しているからじゃなくて
お兄ちゃんの部屋に行くのが日常になっていて
騒ぎの原因になっている自覚がないだけだと思うの。
家族の七つの約束で、お兄ちゃんのお部屋に入ったらダメとはいっても
ホタ、洗濯物を届けに、普通にお邪魔するし。
約束はみんなが気持ちよく暮らせるように決められました。
約束が一番の優先になったらおかしい。
息苦しくならないくらいに融通が利いたらいいと思うな。
という蛍のひとりよがりは、みんなにはナイショです。
氷柱ちゃんが、だったら自分も
家族行事のハロウィンに参加しないなんて言い出したらたいへん。
小さい子たちも、いつでもお兄ちゃんのお部屋に行きたくてきりがないみたいだし。
あんまりがまんさせるのもかわいそうだけど……
大人はうまく言い訳をして、やむをえない用事があるように見せかけています。
そういうわけだから、なのかどうかはよくわからないのですが
お兄ちゃん、ホタはサイズを測らせてもらいたいの。
明日からもまた雨続きで、気温が下がってしまいそう。
もう一枚何か羽織りたい場合に備えて
家族みんなにセーターを作っている途中です。
順番はまだ決めていないので
お兄ちゃんがもし早く欲しいなら、明日にお渡しの予約ができますよ。
どうですか?

編み物で夜更かししていたら、氷柱ちゃんの勉強の邪魔になりそうで
ちょっと気がひける。
蛍が起きていると氷柱ちゃんが体に悪いよって言ってくれるけど
氷柱ちゃんの夜更かしが心配な蛍がいるのも正直な気持ち。
遅くまで勉強をがんばって、ときどき疲れてしまうことがある
氷柱ちゃんの元気のみなもとを
お兄ちゃんは知っている?
たまに、そっと部屋を抜け出して
飲み物を持って帰ってくるとき、
蛍も飲み物をいれてあげるくらいできるかなと様子を見に行くと
氷柱ちゃんが、お兄ちゃんの部屋のドアが見える場所に立っていたことがあったの。
お兄ちゃんが同じ屋根の下にいると確認できるだけで
氷柱ちゃんはがんばれるんだなと
蛍は勝手に想像しています。
事情を知らない誰かに見られたら誤解されそう。
また台風が近づいているみたいです。
この前の台風は大きな被害があったし
もうこれ以上誰もつらい思いをすることなんてなければいいですね。
私たちの家族も、誰も危険な目に遭わなければいいな。
みんながあんまり怖がらないでいられますように。
お兄ちゃんの部屋に誰かが助けを求めに行ったら、どうか元気にしてあげてほしい。
蛍の勝手なお願いです。
でも、なんとなく思ってしまう。
もしまた台風の日に
お兄ちゃんの部屋に誰かが忍び込んだ疑惑が浮上したとしても
それは、自分が話題の当人だと知らないで
犯人探しの捜査を始めてしまう
自分の尻尾を追いかける子犬みたいな女の子が原因なんじゃないかと。
そういう可能性もあるという話でした。
お兄ちゃんは、なにか飲み物でもと思うときがあったら
たまにでもいいので、蛍に一声かけてみてください。
夜更かししがちな、蛍と氷柱ちゃん。
お兄ちゃんに誘ってもらえたら、どんなに疲れていても元気になれます。

蛍の偽日記

『青春の日々』

大人になってからでは
決して取り戻すことができない
青春の弾けるような時間。
そのうちの、大きな出来事の一日が
もうすぐ終わろうとしています。

赤組も
白組も──
勝利を目指してたたかう体育祭。
全校が一体となって
駆け抜けた結末は
惜しくも、蛍とお兄ちゃんたち赤組の
敗北で終わりました。

運動の得意なメンバーの多さでは
赤組が優勢だと見られていたんです。
ヒカルちゃんも、まわりの期待に応えて
活躍を重ねました。
でも、白組はどんな展開になっても
あきらめずに、少しでも点を重ねて
チーム全員がひとつになったよう。
一部の生徒を除くとなかなか点を奪えなかった赤組は
少しづつ、だけど確実に点を引き離されて行き
最後の競技となる400メートルリレーが始まる寸前、
ついに逆転不可能な点差が開き、勝負が決まりました。
赤組みんな、
力が及ばなかった物足りなさと
全力で戦えたすがすがしさで
とまどっていた様子。
どこか落ち着かないような。
そんな中で、ヒカルちゃんは
負けが決まっていても
応援に来てくれた家族に
気が抜けた走りは見せたくない。
最後まで本気で走りたいと言ってくれました。
負けがわかっていても全力で走るのが
あるべきスポーツマンのかたちだって。
次の戦いに向けて体調を維持するような
プロの仕事はあるとしても
自分はただ一人の人間として
後のことも何も考えないで
ただ、受け取ったバトンをゴールへ届けるために走る。
リレーの前、
励ますように
ヒカルちゃんは春風ちゃんと蛍につぶやいて
グラウンドに向かいました。
全校生徒と、たくさんの家族たちと
ずっと一生懸命応援してくれた私たちの家族の
みんなが見守る中、
ホタの大事なお兄ちゃんとヒカルちゃんが走り抜きました。
全力を尽くして、ゴールの後に言葉も出なくなるほど走りきった
最後の競技が終わりました。
私たち、
家族にいいところ、見せられたかな。
麗ちゃんも、ぶらり途中下車の旅をあきらめてまで
応援に来てくれたのだもの。
それに、朝ごはんは春風ちゃんと蛍の
敵に勝つ!
特製カツサンドを用意して
赤組も白組も仲良くテーブルを囲んで一緒に勝つサンドをほおばる光景に
本当に、どちらも勝てればいいのになんて無茶なことを考えていたけれど。
お昼のお弁当は、海晴お姉ちゃんが指導して
小学生のみんなが作ったお弁当。
きっとこちらも全力の20人分です。
家族の愛情は決して貸し借りではないとわかっていても
体育祭でがんばることで、どうしても応えたいと思ったの。
蛍たちは負けてしまったけれど
勝ち負けだけじゃなく、蛍もヒカルちゃんたちみたいにかっこよかったでしょうか。
そして、見事に勝利をつかんだ
霙お姉ちゃん、氷柱ちゃん、立夏ちゃん。
悔しいけれど
強かったね!
祝福を伝えたいです。
それにしても、へとへとに疲れたね。
たぶんこんなに本気で走るなんて、大人になったらもうないよ。
全力の一日でした。
後になって、ヒカルちゃんから
もう負けが決まっているからかえってプレッシャーを感じないで走れたと
みもふたもないことを教えてもらったのも
ただお兄ちゃんから渡されるバトンだから、本気で走りたかったと
そんな打ち明け話も体育祭の思い出。
あんなに盛り上がった学校のみんなにも
これだけは教えられない
蛍の体育祭が過ぎていきました。

でもまだ、学園祭は終わっていない。
明日は文化祭。

お兄ちゃんは文化祭の準備
もう終わりましたか?
ホタは実はまだなんです。
氷柱ちゃんに聞かれたら
怒られちゃう!
ここだけの話にしてください。

蛍は計画性が足りないんです。

試作品も含めて
たくさんの衣装、
たくさんの料理。
製作は、クラスの得意な子たちが何人も担当するので
蛍一人の負担は実は大したことはないの。
でも、クラスの子のサイズ計測に忙しくて
自分のサイズは、春の身体測定に合わせて作ったら
できあがりの衣装は、思いがけなく袖が突っ張る事態に。
まさかそんな、
ちょっとくらい太った場合に備えて
横幅は余裕を意識して仕上げたのに
改めて図りなおしてみたら
まさかこの歳になって背が伸びていたとは。
半年間で3センチの飛躍です。
犬のおまわりさんは少しくらいのサイズの違いも問題ないけれど
時間限定シークレットの予定だった
おさるのくのいちは
袖までぴったり合わないとサマにならないのに。
よりによってなんと直しにくい衣装を選んでしまったのか。

体育祭に真剣になって
疲労困憊のこんな状態で
夜になってから手直しするなんて
かなり無理があると、
理性で判断する前にもう体が知っている。
明日の接客も笑顔を絶やさず大変なんだとわかっている。
でも、ちょっと手直ししたくらいでうまく仕上がるかどうか分からないけど
時間を決めて、せめて自分の気が済むまで試したいと
クラスの子に相談したら
それはどう見てもフラグだって反対されました。
気がついたら窓から日が差して
ちゅんちゅん鳴き声が聞こえている朝が
決定してしまうフラグ。
蛍も分かっています。
文化祭も、リレーと同じで
参加する全員で作るものなんだから
蛍一人が自分の都合で無理をして
バトンをとり落としたら情けない。
そんなふうに迷っていたら、
もしも蛍が甘えられる
本当に信頼できる相手が家族にいてくれるなら
その人に相談して、時間を区切ったらいいって。
必ず約束を守ってくれるという期待ではなくて
約束が守られなかったとしても
相談したところで、早く寝るように諭してもらうだけだったとしても
絶対に相手のせいにしないで、その人を信頼していられる。
どんな結果になっても、自分の気持ちが変わることのないくらい
心から信頼している相手が家族にいると思えたら
任せてもいいんじゃないかと
今日の体育祭の蛍と家族たちの様子だと、それもありかもしれないと
友達が言ってくれました。
お兄ちゃん、体育祭でどんなに疲れているのかよく知っています。
もしもお兄ちゃんが0時にまだ起きていたらでいいんです。
そのとき、蛍がまだ裁縫の作業中だったら
もう寝る時間だと教えてくれますか。
お兄ちゃんがもしその時に近くにいてくれるなら
こんな小さな維持を張るのも
あきらめられると思う。

明日は午前中に、体育館でクラス発表の鑑賞。
お兄ちゃんとヒカルちゃんの劇と
立夏ちゃんの創作ダンスが本番です。
見るだけの蛍まで緊張してきちゃう。
お兄ちゃんは、緊張しすぎないでね。
緊張してしまったら、手のひらに人です。
ヒカルちゃんにも教えてあげてね。
蛍たちのクラスの喫茶店はその後、
体育館で軽音楽などの自由発表が始まってからなので
午前11時の開店です。
たくさんの人に来て欲しくて、メニューも豊富でおねだんおとく。
なぜかお子様ランチだけでも2種類も用意しました。
気に入ってもらえるようにがんばるから
ぜひ一度足を運んでみてください。
そういえば、氷柱ちゃんは家族のみんなに
つまらないから自分のクラスの展示発表には来なくていいと
必死で伝えているの。
本当に行かないほうがいいのでしょうか?

蛍の偽日記

『決定』

お帰りなさいませ、
ご主人様。
にゃんっ!

あれ?
メイドさんのあいさつが
いま何か
おかしかった?

観月ちゃんみたいに、
猫と体が入れ替わっちゃった
遊びをしているわけじゃあないんです。

そもそもなんでメイドさん?
というのは、
今日いよいよ、蛍たちのクラスで
学園祭の準備が本格的に指導したからです!

蛍のクラスは、今年の文化祭で
コスプレ喫茶を申請しました。
ところが、申請内容があいまいすぎて
出し物として適切かどうか判断しにくいとの
生徒会の意見があったの。
今年の文化祭のテーマは、
夏休み前に生徒全員から募集して
決まりました。
つないだ手と手。
私たちの学校の、
これが今年の文化祭。
テーマに合った出し物にできるかどうか、
コスプレって具体的に何をするのか聞かれたら
実はつい数日前まで決まっていなかったんです。
クラスでも意見は分かれていました。
憧れのかっこいいお仕事を体験したい
はたらきもの喫茶。
ホタも沖縄旅行で飛行機に乗って
キャビンアテンダントに改めて惚れ直しました。
チキンオアビーフ?
とは、言ってくれませんでしたけどね。
喫茶店の案としては、そういうのがあったんです。
工夫を凝らした制服を作って、
お仕事と言っても、さすがに海賊までは想定外だったけど
虹子ちゃんが好きみたいだし
ラブライブのにこちゃんの活動日誌でもあったでしょう?
あれを読んで、あっいいな、
露出が多くてもさわやかそうで
かわいいなって。
ホタの体型だとあんまりおなかや足を出すのは恥ずかしいかな。
お兄ちゃん、
蛍のスタイルは微妙ですか?
でも候補を考えている時期は良かったけど、
本番は秋の真っ只中。
葉っぱも色が変わる頃です。
クマも人間も冬ごもりの準備を始める季節だよ。
おさびし山だって雪の季節には、みんな家の中。
きっと、このくらいの時期から食べ物を運び込む。
そんな時に
はらだしは、
少しきびしい。
お兄ちゃんは、蛍が変身して欲しい職業って何かありますか?
参考にします。

もうひとつの案は、かわいらしいけものたちに扮する
どうぶつ喫茶。
定番の犬や猫、
かわいさなら負けないうさぎやペンギン、
ちょっと変化球できつねやクマ。
ゾウやタヌキはインパクト重視?
人魚では、注文の品をお届けするのは難しいですね。
蜂はあーちゃんや立夏ちゃんには似合うけれど
中学三年生がすると飛び道具だと蛍は思います。
家庭科自慢の子が揃った蛍のクラス。
おうちがお店をしていたり、単に趣味だったり。
調理部、家政部で活躍している子もいます。
そしてなぜか、あまり学校ではそういう姿を見せない
蛍がいつの間にか注目されていて気恥ずかしい。
毎日のお弁当を工夫するのは好きでしていることなんだけど、
なんとなくまわりから認められているみたい。
部活動などの実績があって、喫茶店の申請が通った我がクラス。
それが意見が分かれる原因にもなりました。
みんな、腕に覚えがあるもの。
かわいさの追求ではなかなか譲れない部分もあるの。
結局、メインはどうぶつにして
それぞれのイメージに合った制服を選ぶ形です。
だから猫耳メイドさん。
動物だけだと戸惑う人もいそうだけど
お仕事があれば、お客さんもお話しやすいはず。
手を取り合うのは、クラスのみんなばかりじゃない。
喫茶店なんだから、お客さんとの交流も大事にしたい。
はたらくどうぶつ喫茶です。
それにしても、きつねのお仕事はどうしよう、
不安定な天候の日に、お天気雨を見ていると
きつねの嫁入りっていうからウェディングドレスかなあ、
でもあんまり見たことない絵だなあ、と思っていたら
これは日本の言い伝えなので
お嫁に行くきつねは角隠しですね。
それなら絵本で見たこともあります。
観月ちゃんなら本物を見たことがあるかなあ?
ヒカルちゃんが時代劇も少し見るらしいと聞いて
それで気がつきました。
きつねが神秘的なのって、日本らしいイメージですよね。
町娘の格好も合うかな、
でも、
帯くるくる
あーれーは
はたらくどうぶつ喫茶ではしません!
非売品!

あっ!
そうだ、お兄ちゃん。
時代劇のことで、聞きました。
うちのクラスには演劇部の子はいないのに
なぜか噂が届きました。
お兄ちゃんのクラスも大変だったみたいですね。
話題の中心のヒカルちゃんが、時代劇を提案したことで
異様な盛り上がりだったと。
容姿端麗な剣士のイメージといえば
沖田総司、
片倉重長、
佐々木小次郎。
他にもたくさん話はあるそうで
想像が膨らみます。
その縁で、あと少しでお兄ちゃんが
宮本武蔵に決まってしまうところだったそうで。
惜しかったですね!
違う?
あぶなかったですね!
お兄ちゃん、演技は苦手だもんね。
ヒカルちゃんも苦手だけど
今回は、主役は動きを見せる演出。
ロミオよりもヒカルちゃんに合うと、ますます期待が高まる役。
佐々木小次郎だと出番が少なくなってしまうということで
歴史に名高い
美貌の剣士。
源義経。
お兄ちゃんは弁慶に決まったんですってね。
ヒカルちゃんからのじきじきの推薦で、
自分が一番信頼できる相手だからと。
五条大橋はどんなシーンになるのかな。
お兄ちゃんはあまり大柄じゃないほうですけど
ヒカルちゃんと並んだら、華があるシーンになると思います。
でもヒカルちゃん、スポーツはなんでもできるけど
牛若丸のイメージで宙返りとなると
新体操?
経験があるって聞いたことがないのは心配だな──
お兄ちゃん、どうか誰よりも一番近くで
守ってあげてください。
蛍は、たくましいお兄ちゃん弁慶と
美しいヒカルちゃん義経を
うっかりすると自分のクラスのお仕事もおろそかになりかねないほど
楽しみにしています。

蛍の偽日記

『あと少し』

霙お姉ちゃんは
全てのものが
塵になってしまうと言うけれど。

やっぱり、
時にはそういうことも
あるのかしら。

もうあと残りは
ほんのちょっとだけになってしまいました。
残念だな、
物足りないな、
本当にもうあんまりないのかな?
疑って
何度も確認しても
間違いなく、残りわずかです。

ここしばらく
家事をお手伝いしてくれたみんなには
感謝なんて言葉では足りないくらい
胸いっぱい。
蛍はどうしてこんなに素敵な家族が
いるのでしょうか?
しあわせもの!
だけど、気がついたらなくなってしまうものだってある。

さようなら、
買いだめしてあった
おこめ。
おいしかったよ。

ホタは宿題に専念して、
ここ数日は
台所仕事をしなくてもよかったから
スーパーで悩んで買ってきたちょっといいおこめが
いつのまにか
今日限りでなくなってしまうなんて
びっくりでした。
宿題が終わって、
さあおいしいご飯の天国が
はじまるぞ!
と、はりきって米びつを開けたときの
蛍の頭につぎつぎ浮かんだクエスチョンマーク。
数字が好きな吹雪ちゃんなら、
いくつ数えたでしょうか。
そうか、もうないんだと気がつくまでの間に。

どおりでご飯が不思議なくらいおいしいと
思ったの。
さては
みんなの愛情がこもっているからかな、
それにしては氷柱ちゃんは自分の料理に自信が持てないのね、
なんでかな、
と首をかしげていたら
お米作りの農家の皆さんの愛情も
こもっていたのね!
いつもおいしいお米をありがとうございます。
一生懸命作ってくださっている皆さんのおかげで
蛍のおうちは今日も笑顔でご飯を食べています。
おこめに限ったことじゃない。
たくさんの人への感謝があって、
ホタ、家計は無理できないけど
たまには、これもおいしくて、しかもふところにやさしい
もやしやお豆腐料理を工夫したり
おいしく、体によく、ちゃっかり上手にきりつめて
ちょっといいお米をまた買えたらな、と思います。
そして、知恵と工夫と地道に積み重ねたわずかな経験で
少しでもおいしく食べられたらいいな。
農家の人の努力に比べたらたいしたことではないですが
ホタは一生懸命がんばります。

そうです。
家族のみんなの協力のおかげで
やっと宿題は終わりました!
しかも、
なんと、
お兄ちゃん、おどろくよ。
こんなとほうもないこと聞いたら
お兄ちゃん、絶対おどろくんだから。
口から心臓が飛び出すんだから。
心の準備はいいですか?
あの、
蛍が最後の宿題の問題集を
あと1ページになって一息ついたその時、
私と氷柱ちゃんの部屋で、一緒に宿題をしていた立夏ちゃんが
やったー!
って
先に終わらせたの!
やればできる!
最後まで協力してくれた氷柱ちゃんに
思わず立夏ちゃんが右から、ぎゅーっ!
それなら蛍も左から、ぎゅぎゅーっ!
前からはあーちゃんが
よじのぼります!
よかったね、よかったね。
みんな我を忘れるほどハイテンションです。
氷柱ちゃんも、チアで応援はできないからと
今日はバンカラ応援団風の衣装に着替えて
見てくれた勉強会。
おおはしゃぎに拍車がかかったのも、あの雰囲気が理由かもしれません。
春風ちゃんも楽しいアドバイスをしますね。
こんな服だからあーちゃんも、お兄ちゃんと間違えたのかしら?
お兄ちゃんの制服は違うから
あーちゃんが遊んで欲しかっただけ?

というわけで
実は、蛍は
宿題をあと1ページ残しています。
終わったわけではないのに、はしゃいでしまいました。
なんだか、これを済ませたら
自分の手で夏休みを終わらせてしまうみたいで
さみしいな。
変でしょうか?
でも、どっちにしても終わるものだから
さみしがっていても仕方がないですね。
まだ塵になるわけではないし
夏休みが終わっても
これから楽しいことはいっぱいあります。
今日のキッチンでの出来事を思い出して
蛍は言います。
ごはんがなかったら
買いに行けばいいじゃない!
ホタもフランス女王の生まれ変わりなのかしら。
でも、倹約して買おうとするから
このつつましさは女王でもないということに?

米びつのおこめは
胃袋という名の大きな宇宙に飲み込まれて
もうなくなったけれど
私たちの食卓は
これからも続いていきます。
お兄ちゃん、
明日とあさってはお祭りですよ。
晩ごはんに、屋台のたこ焼きや焼きそばが許される日です。
それとも、やっと宿題の鎖から解き放たれた蛍の
久しぶりの手料理がいいとお兄ちゃんが言うなら
蛍は忙しくなっちゃうな。
浴衣の着付けもあるのにね。
お祭りは昼間から、商店街の特別セールで始まるよ。
おこめの買い出しは、明日じゃなくてもいいけど
どうしましょう?
月曜日は、始業式の後で
一日違いで大切な防災計画、避難訓練がある予定。
その後の下校は、中学と高校のみんなは時間が揃うから
買い出しにちょうどいいと話し合っています。
だけど。
夏休みももう終わり、
家庭内でちょっとメモリアルな食卓にしたい蛍と
こっちもまたメモリアルなお祭りと、
お兄ちゃんならどちらを選びますか?
あ、でも、台風が近づいているから
買い出しには向かないかな。
うーん。

宿題の最後の1ページは
なるべく忘れないうちに
ちゃんと済ませます。
終わらせたらその時は、
褒めてほしいというようなものではないし
特に理由はないんだけど
みんなのおかげで
宿題がちゃんと終わって嬉しいよ、と
お兄ちゃんや氷柱ちゃんに
報告してもいいですか?

そうしたい気分なんです。


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