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ヒカルの偽日記

『猫の日』

ついについに、と
蛍がやけに盛り上がったので
今日は猫の日パーティー。

いったい、何をするのが普通なんだろう?
猫の日パーティー。
不思議なパーティーが始まっている時点で
もう何か普通ではないのだろうか?

普通じゃないかもしれない私たちの猫の記念日は
実際に体験してみると
意外と平凡。
朝から
誰かが
にゃーお。
部屋のどこかから
あれはいったい?
夕凪が
にゃー。
寝る子だから
ねこ、
という語源を聞いたと
ごろごろ
にゃー。
青空も真似をして
にゃーご。
ごろごろ。
日向に寝転んで
なでてもらって
気持ち良さそうに喉を鳴らす。
いや、鳴らす真似。
これでは、せっかくの休日が
だらだらする日みたいになった?
オマエはどんな体験をしただろう。
こういうのは戸惑うかな?
ちょっとは楽しかったのだろうか。
戸惑って、どうしようかと思っても
でも、こういうものなんだと
すぐ馴染んでしまったかな。
だったら私と同じだ。
氷柱が手当たり次第に尻尾を引っ張って
うっとおしいから、外で猫遊びでもしてきなさい!
そしたら蛍がびっくりする。
しっぽをひっぱったら
猫はどっきり、困っちゃう!
おどろいて、おこってひっかくよ!
だめだめ!
と、蛍がそう言っても
別に、誰もひっかきもしないで
素直にぞろぞろ
いい天気だねーって外に出て行ったので
あれは本当は猫の集団じゃなかったのかもしれない。
その場の思いつきで何をしようか考えた、
誰か一人が猫が追いかける
猫鬼ごっこは、猫の遊びでいいのだろうか。
最初は鬼だけが
にゃーって言って捕まえるルールだったのが
あっちから
にゃーん、
こっちから
にゃーん、
小さい子供みたいに、みーみー。
しかも、裏山のほうから、やけに上手な
猫の泣きまねをしている子がいるなと思ったら
溶け残った雪の間から、
本物の猫が顔を出していた。
黒で一色だけの全身に、緑色きょろきょろよく動く目がきれいな猫。
ひげが濡れたみたいにぴくぴく。
青空が追いかけたら、すぐに山のほうへ逃げていって、
軽い身のこなしが残した、うっすらとした足跡。
やっぱりあれは
仲間がいると思って、一緒に遊びに来たのだろうか。
どうも怖がりだったらしい黒猫。
私たちの家にも、知らない子が来たら固まってしまう怖がりは多いけど。
でも、庭で楽しく遊ぶのはみんな大好きだから。
いつでも参加してくれたら
すぐ友達になれたのにな。
あのとき声をかけてきたのは
すぐに追いかけてきてほしいのか、そんな気がなくて様子を見に来ただけなのか、
一緒に遊んでみたいけどなかなか本当の気持ちは言えなかったのか。
本物の猫ではない私たちには、言葉はわからなかったな。
猫の耳と尻尾をつけていても
寝てばっかりは物足りないし、ねずみをとったりできない。
本当は私たちは
人間で、仲良しの家族だった。
春風も蛍も子供みたいにニャンって笑っていたけど
私は猫耳をつけて
ぶにゃーってそれらしく言っても
なかなか猫にはならない気がする。
向き不向きがある?
観月が言うには、昔の文献では
猫という文字は、たぬきのことを指し示していたようだ。
おなかいっぱいになって
家族が輪になってぽんぽこしていそうなたぬきが
私にはちょうどよさそう。
そっちが似合いそうな子は、私のほかにもいっぱいいる気がする。
今日は、春風と蛍が猫の日ご飯を用意するという話だったから
みんなは期待と不安の配合が
だいぶ不安に偏った割合のようだった。
もしや、かつおぶしだけなのかな。
それとも、ねこまんまだったらどうしよう?
ごはんが入ったお汁だから、よくかんで食べなきゃ!
ねずみは食べられないし。
いくらなんでもあんどんの油をなめたりはしないはずだけど?
予想はいろいろだったけれど
晩ごはんは、普通の焼き魚。
猫ご飯だ!
おいしく食べたら、実は本番に待っていたその後の
猫デザート。
蛍の行きつけで、アルバイトもしてお世話になっているパン屋さんと相談の
共同開発。
にゃんにゃんパン。
猫の顔に似たできたてパンが
三毛猫みたいなの三色、
黒猫のこしあん、
ロシアンブルーをイメージしたブルーベリー。
二本の耳を立てて、ほかほかの湯気を出して
ひとかじりしてもらうのを待っている。
一度かじったらもう止まらないと知っているのは
にゃんにゃんパンたちだけじゃない。
においをかいだら、一人残らずもうわかってしまった。
こころなしか、今日はあさひまで
にゃーん。
おなかがすいて、甘えているだけかな?
ミルクは猫の日の特別じゃない、いつものやつ。
猫の日の過ごし方って、こういうものなのか
今でもよくわからない。
はたして、おなかいっぱいぽんぽこに自信がある私は
たぬきの日があったら活躍をするのだろうか。
うーん。
難しいことを考えても仕方ない
私たちの猫の日。
猫っていつもよく寝る子だから
夜はよい子で早く休むのも、猫の日の大事な特別。
おやすみ。
明日も癖が抜けなくて、うっかり鳴いてしまう子が
一人はいそうな気がするな。
もしもオマエが鳴いてしまっても笑わないと約束をしたなら
私の鳴き声にも笑わないって誓ってくれるだろうか?
でもやっぱり私は笑ってしまうのかな?
オマエが気を悪くしないなら
私も、笑われてしまってもかまわない気がするな。
それとも、明日にはうっかりしてしまわないように
今日のうちに二人で、もうこれくらいならいいだろうって
たっぷりと言葉にして
一日を終えておくと、間違えないで済むかも。
そういうものなのか、知らないけど。
何事も、試して損はしないものだし。
にゃんにゃん、にゃん。
明日はもう言わない
甘えたごろごろ。
なでなでして、たっぷり言わせるつもりなら
今日のうちにしておかなくっちゃ。
まだ、ふぎゃーって甘えたりない気もするし
誰かをもっと甘えさせたい気もするな。
たぶん、猫の日はそういうものなんだろう。
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ヒカルの偽日記

『2月』

2月になって
少し経って。
新年で一息ついて
ゆっくりしていた頃には
ずいぶん先だと思っていた
イベントが次々と
近づいてくる。
もうラブライブのライブの日。
ライブビューに行けたら
よかったな。
でも、妹たちを連れては行けないからな。
私たちだけで行ったら、小さい子がむくれるだろうし。
それに、このへんも大変な雪。
交通の影響も大きいし
とってもあったかくして
とっても足元に注意して
とっても気をつけて
早めの移動を心がけて、無理はしないように
気をつけてくれたらいいな。
雪はまた別のイベントにも
ちょっぴり心配事。
材料の買出しに行けないみたいだ、って。
それはまだほんのちょっと、先のことになるけど。
2月といえば
真っ先に思い浮かぶイベントは
節分!
だった、私たちの小さい頃とは
雰囲気は
ずいぶん変わってしまった。
大きくなった子が増えたから?
それともやっぱり
贈りたい相手が
この家族みんなのところに
やってきたから?
あるいは、
ただ単に
盛り上がるイベントが
いっぱいあるのが
好きなのだろうか?
いつもの年と同じように
今年も、さくらは
節分の日に
幼稚園で泣いて
帰ってきて
お兄ちゃんにぎゅっとしがみついて
ちからいっぱい
離れない。
こんなに怖がりで、
お兄ちゃんが大好きで。
守ってくれるやさしいお兄ちゃんがいるなら
それは、結婚しないと、って思ってしまって
気持ちが盛り上がることも
あるのかもしれない。
さくらをなぐさめるためだけでも
ないと思うけど
今年の節分の主役は
豆ではなく
蛍の特製、
恵方ロールケーキ。
恵方を向いて丸かぶりはできなくても
家族に幸せがやってくるように
祈りを込めた
節分が過ぎて。
いよいよ
こちらが今の時期のメインイベント、みたいに
寒い家の中にも
ぐんぐん増して行く熱気。
私は女の子っぽくないから
こういうのは得意じゃない。
でも、氷柱や麗が言い出したように
バレンタインはあげたい人だけあげればいい、
あげたくない人を誘わないと約束する
バレンタイン中止同盟を立ち上げる一員に
入るのも
そこまで不満も感じていない。
不器用にしか作れないチョコでも
なんでもおいしそうに食べる人なら
受け取ってもらえるかな、と思うし。
そこは特に不安でもない。
喜んでくれるかな、とはりきる
春風や蛍のように
手の混んだ支度をする子みたいには
私は最初からなれない。
わかってる。
ただ、
今年もバレンタインが来るんだな、
という思い。
あげなくちゃ、というよりは
ああ、
私もあげるんだな、
チョコはあげるものなんだ、
みたいな。
ちょっと適当な気がしても
まあ、
もらうほうだって
私にはそこまで期待はしていないか、
なんて。
そうじゃないかな?
本当は
チョコをあげるよりは
私だったら、一緒に体を動かすくらいが
喜んでもらえそうだけど。
やっぱり、男の子に生まれたほうが
オマエは嬉しかったかな。
同じくらいの年頃の遊び相手があって
いつでも一緒にいられる
仲のいい友達同士で。
近くにいられたら。
私たちがそんなだったら
今、もうちょっとこう
チョコでいいのかな、の感覚は
こんなふうにむずむずしないでいてくれたのか。
これからはあげる側だから
もうもらうことはない。
ただ、受け取ってもらえないとわかっていても、
それでも作ってくる子はいて、
無駄になることは知っているのに
心を込めて。
決して伝わらない気持ちが
何かのきっかけで伝わるように。
それが見ていてわかってしまうと
断るのはちょっとつらい。
本当は、チョコはあげて
気持ちを伝えるだけの思いを込める側より
受け取るほうが大変なのだろうか、
とも思う。
だとしたら、オマエも苦労が多そうだな。
たまにはあげてみるのも
一つの案じゃないだろうか。
オマエがチョコをあげたいとしたら
相手は誰だろう。
でもやっぱり
大変でも、もらいたいのかな。
男の子。
私はこれでも、男の子じゃないから
わからなくて。
どうしたら少しは喜ぶんだろうか、
私が何をしてもたいしたことができる気がしないのに
あんまり回転の早くない頭で
どうもぼんやり
無駄に考えている。
体ひとつでぶつかることができたら
いちばん簡単なのに。

ヒカルの偽日記

『いいにおい』

キッチンのほうからは
おせち料理の相談と
いいにおい。
いや、まだ作り始めてはいないと思う。
いいにおいは、毎日のごはんだ。
それとも、
買い物袋から顔を出している
黒豆や栗きんとんや
おそばもだろうか?
来月2日からは、大磯旅行の予定。
あんまりたくさんは作らないおせち料理の材料が
もう、いいにおいをさせているのかな。

今年もそろそろ暮れが近い。
海晴姉が忙しそうに駆け回る時期も、もうあとわずか。
テレビの向こうのお天気お姉さんは
年明けの旅行を話題にして、楽しみな様子。
指折り数える日を越したら
いよいよ次の年。
やり残したことはないか?
私はたぶんなさそうだ。
あるかもしれないけど、あんまりいろいろ覚えていられる頭じゃないし
まあ覚えていないなら、いいかと思って。
今年の年始の抱負を思い出せば
健康に過ごす、とかだけだし。
一年のうちに何かが出来るようになりたいとか
成長したかったり、スタイルをよくするとか
そういう微笑ましい誓いもなかった。
霙姉がこたつでのんびりいるのどかな光景をよく見かけるけれど
私ものんきな点ではそんなに変わらなかったよ。
願うことといったら
家族みんなが元気ならそれでいい。
あとは、自分自身が悔いがない日々を過ごせたら
もうそれだけで満足。
今年を全力で走り抜けたら
あとは来年を楽しみにして。
年の瀬も、慌てるような理由は私にはなかった。
オマエもないなら、
これから一緒に
みんなの手伝いで大掃除だな。

春風が同室で、こまめに掃除をしてくれるおかげで
私の部屋はよく片付いている。
みんなには、ずるいって言われるけど
部屋割りは年が近い子同士が決まりだし。
それに、いいことばかりじゃなくて
大雑把にしているとうるさいし。
少しは女の子の自覚を持ったらいいなんて
私に言っても仕方ないことなのに。
もともと大雑把な、
気がつかない性格なんだから。
春風もわかっていると思うんだけどな?
まあ、注意しながら私を助けてくれるとき
楽しそう。
好きでやってるのかもしれない。
掃除が好きみたい。
いいな!
だから、ときどき細かいことを言われても
まあいいかと思う。
もしも部屋割りを自由にしていいなら、どうしよう?
うるさくなさそうな蛍と同室だったら
たぶん今度は、かわいい服にされてしまう。
春風ほど片付けは上手じゃないらしい。
家事は何でもできそうな蛍だけど、頼りないところもあるかわいい妹。
きちんとした性格の氷柱が同室で、釣り合いが取れているのかな。
氷柱が私が一緒だったら
きっと、かわいがると思うけど
氷柱はうるさくかまわれるのは苦手そうだな?
やっぱりオマエと同じ部屋が一番落ち着きそうな気がするんだけど
それはいけない決まり。
家族みんなの長男だから、しょうがないか。
いつも一緒にいたいのに。
暇なときはすぐプロレスも相撲も本気でできる相手なのにな。
ともかく、あれこれ考えてみたところで
いま、大掃除のために手があいていて
手伝いをして回りたいのは
私くらい。
オマエも暇になったら手伝うといい。
今日は曇り空の寒い日で
家の中で暖房にあたって
あんまりほこりを立てる大仕事は、暖かく晴れた日にまわすことにして
小さなものから掃除を開始している子たち。
整理整頓は手伝えないけれど
ごみがあったら、捨ててくるよ!
妹たちの部屋を回って
流行の季節が過ぎたファッション雑誌や
なんとなく残しておいた旅行土産の空き箱とか
思い出というわけではないのに捨て忘れたお菓子の袋もためている子がいたし
電車の時刻を書き並べた、数字だらけの空想旅日記や
マホウを考案する落書きノートも
複雑な計算式が並ぶ吹雪の頭の中みたいな書付は
内容が分からないけど捨てていいのかと本人に確認してみたり。
放り出しっぱなしのままにしてある
穴が開いた服やパンツ。
いろいろあるな!
今年積み重ねてきたいろいろな出来事の、
思い出に残っている部分も、つい取っておいてみたよくわからないものも
わけるのが大変なほど混じりあっているというか
本当にこの積みあがった山を、いるいらないでわけることができるのか
私たちの手に負えるのか迷うほど。
いらなかったら全部片付けてしまって
すっきりして新年を迎えられたら、ちょっとうれしい。
毎年、寒い思いをして大掃除をして
なんでこんな時期に年越しなんてあるんだろう、と不満もあるけど
凛と引き締まった雰囲気の冬空の下、
片づけを終えてきれいになった家にいて
すがすがしい気持ちで
澄んだ空気を呼吸していると
いよいよ新しい年を迎えるんだと実感できるようで
これから待っていることが想像もつかないスタートに立っている気分。
何もかも受け入れてくれそうなほど
透き通った空間へと歩みだしていくんだ。
冬の大気は、まだ何も詰まっていない新鮮な始まりのよう。
この季節に訪れる新年。
なんだか、よくできているな。
まだ空白の新しい一年が、
私たち家族みんなにとって、良い年になってほしい。
長い時間を共に過ごしていく幸せな家族として、
そして、助け合いながらみんなを守っていける頼りになる相手として。
来年も、オマエと一緒にいる。
どうかよろしく。
お前がいないと私たち家族はもう何事もはじまらない習慣なんだ。
みんながそろってはじめて、私たちは家族なんだから。
難しいことはわからないし、いろいろ考えてもすぐ忘れる私だけど
大事な人がいるということだけは
よく知っている。

あんまりものを考えない立夏は
その分、直感が発達してきたというのは本人の談。
掃除の時にいるもの、いらないものは
においで一発でわかるんだそうだ。
甘いお菓子だとか、おいしそうなにおいとは違うもので
うまく説明はできないらしいけど
なんとなくいいにおいがするんだって。
私も頭を使うのが苦手なら
そのくらい鼻が利いてもいいのにな。
なにかよさそうなにおいを感じるものは。
おいしそうとかじゃなくて、感覚で良さそうな気がするにおいをたどると
掃除をしてもいつまでも残しておきたいものは
オマエかな?
くんくん……
家族のにおいだからかな?
こんないいものが近くにあったら
あとは掃除のついでにだいたい捨ててしまっても
特に不都合がない気もしてくる。
みんながそろっていれば
もう、だいたい何とかなるよな。
困ったことがあったって
頼りにできる人が、私にはここにいるんだから。
この家に、
大事な家族がいるんだ。
こんなに大雑把な鼻を利かせても
全然掃除の役に立たない気がするな。
実は相談なんだけど、
さっき観月が、
まとめて読もうと思って出しておいた古い本が
どこにも見つからなくて、心当たりがないか
聞いて回っていた。
そういえば、
やけにぼろぼろの本が並んでいるなと思って
張り切って紐で縛ってまとめた記憶があるんだ。
今日、庭の物置に運び込んだ本の束のどこかに
たぶん混ざっていると思う。
必要なものだったんだな。
私の鼻はやっぱり適当すぎて頼りにならないことがわかったよ。
もし、オマエの大掃除が大丈夫で、時間があったら
明日は観月の本を探してやりたいんだけど、
手伝ってもらえるかな。
いや、私がしたことだから自分で探すべきか。
なーに、どこかにあることは間違いないんだし
体を鍛えると思って、あの山積みの本を
今日みたいに汗びっしょりになって並べなおせば
見つかるんじゃないだろうか。
えっと……
やっぱり、できればこっちを優先して
手伝ってもらえたら助かるんだけど。
お礼に、お正月が来たら
私の分のおぞうにのもちをいっぱい譲ってあげてもいいから!
気の早い来年の挨拶をしておきながら
今年のうちも、まだずいぶんお世話になるな……
あと数日になったけど
さわやかな新しい年を迎えるまで
もう少しの間、オマエを頼りにしているよ。

ヒカルの偽日記

『断ってきた』

喫茶店の話。
やっと、伝えることができた。

というより、
伝えるだけは前から伝えていたんだから
わかってもらうことができた、
かもしれない。

喫茶店メニューのおかずは
正直まだ名残惜しいけれど
もう決めたんだ。

だいぶ前から考えていた。
期待されても、喫茶店で働くことはできないんだから
おかずをもらい続けていたら悪い気がする。

相手に無駄に希望を持たせてしまったら申し訳ないし
私も気がひける。

でも、
やっぱり私の付け焼刃の腕前では
とても本職にはかなわなくて。
おいしくて。
毎日のお弁当の時間に、楽しみが増えてしまった。
得をしたような、って言ったらせこいけど
すごく上手だったから。
春風も対抗して張り切って、
私は、いいのかなと少し動揺しながらも
二人に甘えていた。
だって──
おいしいおかずがいっぱいあると、楽しかった。

もういいか、
ここまで世話になってしまったから
何日か働いてみても、
なんて考えることもあった。
喜んでくれるはずだ。
こちらが毎日心のこもったおかずをもらっているんだし
少しでもお礼の気持ちを表現することができたら
きっと、誰にとっても悪いことじゃない。

本当は、自分の得意分野で思いっきり戦えたらよかったな、
と何度も思った。
お弁当勝負に巻き込まれる形じゃなくて。
働くか働かないか、
私が積み重ねてきた日々の力を
発揮する場だと思って
竹刀を構えて、正面からぶつかり合って、
負けたらそれで、すっきり話はまとまる。
そうしたくても、相手には剣道の経験はないからな。
働くのも剣道をするわけじゃないから
意味がない。
もしも私が、自分の得意分野で結果を出せたとしても
喫茶店の助っ人に何か影響があるということは
たぶんないんじゃないかな。
本当にないな。
意味のない想像だな。
あーあ、
本気で戦って決着を付けられないなんて
どうも盛り上がらない。
残念だったよ。

なんとなく、受け入れかけていた。
相手が熱心に誘ってくれるのは、うれしいことなんだ。
今はピンと来なくても、
やってみれば考えが変わるかもしれない。

麗だって、気が進まない演劇をしようとしているんだし。
でも、麗を見ていたら
あんまりやりたくないのは変わらないみたいでも。
私とは、何かが違う。
このごろあきらめたみたいで、一応やるだけはやると決めたみたい。
家族に不満を言いながら、
それを笑って慰めてもらって
むくれている。
仕方ないなーって、自分でも少し笑って。
家族に話せないで悩んでいたらしい、少し前の顔と比べたら
そういえば
気が楽になっているみたいに見えるな。

ああ、なんだ、
悩んでることがあったらこんなふうに話してもいいんだ。
みんな、ちょっとうるさそうにしながらも
なぐさめてくれるんだ。
それはそうだよな。
家族だし。
当たり前だ。
私はあんまり話さないで、なんで一人で考えて
決めようとしているんだろう?
麗が不得意な戦いに挑んで
家族に励ましてもらっているように。
私だって当たり前に、大事な妹の麗を元気付けているように。
私が苦手な分野で戦ってみて、
家族に励ましてもらってもいいんじゃないか。
私がしたいことはたぶん、喫茶店で働くことじゃない。
流されるままに、そのまま誘いに応えるんじゃなくて
私の気持ちを伝えたかった。
言葉だけで気持ちを伝えるのは苦手なんだ
たぶん、自分で考えているよりもずっと苦手だ。
これまでうまく話せなくて、誤解されることもあって
もっと体だけでぶつかれたらいいのになって、いつも考えていた。
今回は。
うまくいかなくて、相手を悲しませてしまったら
私にはつらい話を聞いてもらえる家族がいる。
聞いてもらおうと決めた。
大事な友達に誤解されて、傷つけることになるとしても
私はやらなくちゃ。
苦手なやり方だけど、
いつも剣で語ってばかりいられない。
麗は不満そうにしているけれど、
文句を言いながらも、自分ひとりでは向き合うだけでも難しい壁を乗り越えようと
前向きになっているみたいに見えたから。

だから、今日はお弁当のおかずは受け取らないことにした。
ごめん、ってちゃんと言ったけど
おかずが嫌だったわけじゃないことはわかってもらえただろうか。
別に、そんなに喫茶店で働きたくないってことではない。
今は蛍と氷柱がアルバイトに行って、家に人手が欲しい時期。
麗が苦手な演劇に挑戦しているのを、なるべく励ましてあげたいし。
本当は、私にできることは少ないのかもしれない。
もしかしたら、今の家族の忙しい時期を乗り越えるために
私の力は何の役にも立たないのかもしれない。
ときどき、そんな気はしている。
オマエと一緒に料理を習っているのに
まだ見習いで、簡単な仕事を任されるだけ。
麗が悩んでいる時も、そこまで難しく考えていなかったり。
私には、家族の気持ちをわかってやることなんて
できないんだろうか。
だけど、近くにいたいんだ。
家族がそれぞれの用事であわただしく活動しているこの時期に、
なるべくみんなのそばで見ていたいと思った。
力を貸せることが全然ないとは限らないじゃないか。
実は全然ないとしても、
私は、家族を見ていてあげたいから。
喫茶店の仕事は手伝えない。
今の私には、とても大事なことがあるんだ。
どうしてもやりたいことは、ずっと前から家族を守ることだった。
今でも、気持ちは何も変わっていない。
時々、役に立っていないと感じることがあっても
ずっと変わらないままだと思う。

バカって言われた。
うん、たぶんそうだろうとは思っていたけれど
実際に面と向かって言われると、かなりショックだ。
そんなに大事なものが
ちゃんと自分でわかっているのなら
どうしてもっと早く、はっきり決断しなかったのか。
どうしてだろう。
おかしいな。
家族が一番大事だって、最初からわかっていたつもりなのに。
なんとなく、別に私がいなくてもいいみたいな気がしていた。
たとえ必要とされていなくたって
私が一番大事なのは、家族なのに。
いや、
ちゃんと私は家族に必要とされていて
何があっても変わらずに、ずっと愛されているんだって
ちゃんとわかっている。
でも、わかっているつもりだっただけなんだろうか。
迷惑をかけたくないって、遠慮していたのかな。
私も麗みたいに、悩んでいるときは甘えてみたくなったのか。
今日は素直に、
つらいことがあったと、オマエに話したい。
友達を泣かせてしまったよ。
クラスメートなんだ。
仲が良くて、これからもずっと仲良しでいたかった。
一緒にいると楽しいことがいっぱいあって。
私は、友達のことが嫌いで断るわけじゃなくて
とても大事に感じているけれど
今の私には、もっととても大事にしたいものがある。
申し訳なく思っている気持ちを
ちゃんと伝えたつもりだけど、
うまくいったのかわからない。
明日からも、今までみたいに仲良くしてくれるかな。
もう、お弁当のおかずはもらえないけれど。

トレーニングの走り込みの準備をしていると、
こんなふうにしている時間で
喫茶店の手伝いもできたんじゃないかって、悩み始めてしまう。
私にそんな器用なことができるわけなんてないと、知っているのに。
体を動かして、何も考えないでただ走るだけに専念して
すっきりする気持ちのいい時間が好きでやっていることだ。
やめればそれでいいという話じゃない。
ちゃんとわかっている。
きっと、少し走れば集中できると思う。
今日はなんとなく一人じゃなくて
誰かについて来てもらって、ペースを上げてもらいたい気分。
もしも暇だったら、ちょっと付き合わないか。
この季節は、夕方遅くにランニングしていると
あっという間に暗くなって、なんとなく不安になるときもあるけど
空はよく澄んでいて
星が見えて綺麗だよ。
町のほうでは、人工の明かりが邪魔でなかなか見えない星も
家に近づいてきて、裏山が見える場所まで来ると
明かりも少なくなって、またたく星の光がよくわかるようになる。
あの星の下に私の家族がいるんだと、教えてくれるみたいだ。
家族が一番大事なはずなのに、たまに見失ってしまう私に
あの星空はもうしばらく、これからも輝いて
道を示してくれたらいいな。
ここに、私の大事な人たちがいるんだよ。
って。
私がもう迷わないようになって、
ちゃんと一直線に、
何にも惑わされないで、今一番行きたい場所に向かっていけるような、
そんなふうに私がしっかりするまで、
もうしばらく、オマエにつきあってもらいたい。
どんな悩みも吹き飛ばせるほど、私が全力で走れるように
これからも一緒にいてもらわなくちゃ。

ヒカルの偽日記

『12月の予定』

私は、アルバイトに行く気はないと言っているんだけど。

どうしたらいいだろう。
春風は、はっきり断るのがいちばん相手のためだって言ってる。
うーん。
言ったはずなんだけどな。
しかも、何回も。
言ったのに、
いいから、いいから。
という感じで、
毎日お昼に一つ、おかずをくれる。
卵焼き。
ミニハンバーグ。
スパゲティ。
エビフライ。
定番メニューは、やっぱりうれしい。
なにしろ本職の喫茶店のメニューだから。
私は春風や蛍のお弁当のほうが好きだけど。
喫茶店は何度食べても同じ味。
時代に合わせて変えていく必要があるって、お店を手伝っているその子は言ってるけど
今の私には、昔ながらの喫茶店の味。
まだ海晴姉たちも小さい時期に、ママに連れて行ってもらって
ときどき食べた記憶がある味。
なんとなく華やかな時間だったような、外食の思い出。
子供の頃の懐かしいドキドキを思い出したりもする。
それとは違って、春風や蛍の料理は、今の私たちが毎日食べることを考えて
飽きないように工夫している。
いいお嫁さんになりそうなふたり。
私はたまに思うんだけど。
春風と蛍が家族にいてくれるおかげで
私の胃袋はとても幸せな毎日を送っているんじゃないだろうか?
家族たちと幸せに過ごすことは、胃袋はそこまで重大ではないかもしれないけど。
姉なのに泣き虫の春風や、子供っぽい好みが昔と何も変わっていない蛍を
私が守ってやるんだと思っていたのに。
いまはずいぶん頼ってしまっているんだな。
ずっと続けてきた剣道のそれなりの実力や、
昔から運動会でもスポーツでもある程度こなせている運動神経は、
蛍がしばらく用事でキッチンの仕事から抜ける現状で、
なんの役にも立ちはしない。
手伝いを始めた頃の指先の絆創膏は、
あの子も見ていて心配してくれた。
喫茶店の手伝いなんて、私は役に立てないのはわかっていると思うんだけど。
なのに熱心に誘ってくれる。
今日も、ハムカツをくれて
気が向いたらいつでも言って、だって。
私のサイズの制服もすでに準備しているというのは
さすがに冗談だよな。
はあ……
受け取らないほうがいいのかな。
ハムカツ、おいしかったな。
お弁当には、自分たちで作った前日の料理が入ることもあるから
具がこぼれた餃子の横に
形のきれいなハムカツは輝いていた。
今日のお弁当のうるおいだった。
いや、オマエと小さい子たちが一生懸命作った餃子もおいしいよ。
でも、プロの料理に対抗できるのは春風か蛍だけだよ。
蛍は今はいないし、春風だけでくまなく目が行き届くとは限らない。
今日、春風が弁当に入れてくれたのは
バランスや彩りを考えた野菜各種のベーコン巻き。
これもおいしいよ。
おいしいけど、メインにはならないよ……
メインは餃子だったし。
春風の助けがあっても、なかなか喫茶店メニューにはかなわない。
このままもらい続けていたら
やっぱり悪い気がしてしまって、ちょっとだけでも手伝うことになるのだろうか。
別に手伝えなくてもかまわない、って言ってくれる。
おかずを持ってくるのも下心なんだから気にしないで、と。
真剣に考えてみたけど、蛍も氷柱もアルバイトに行って、私まで家を空けるのは無理だよ。
期待を持たせ続けるみたいにもらっているほうが悪いとはわかってる。
でもこんなに買ってくれているのなら──
一日だけでもいいって言っている。
それにしても、私のどこがそんなに?
少しは家事にも慣れたけれど、いまだにたいしたことはできていないよ。
一応、指先の絆創膏はもういらない。
傷跡もきれいに消えている。
立夏は、オマエが私を傷物にした責任を取らないとって言ったけど
もう傷はこの通りだし。
あんなに慌てることなかったんだよ。
子供の頃から、もっと大きな擦り傷や切り傷はたくさん作ってきたんだ。
この前、一緒に包丁の練習をしていたあの時。
オマエが指を切りそうになってまわりがびっくりした拍子に、つい私が怪我をしたからって
小さな傷だったんだし。
責任を取るなんて必要ないよ。
うーん、あんなに熱心に喫茶店に誘ってくれるのは
多少の怪我はなんでもない頑丈な体を見込んでいるのか?
でも12月からは、合唱の練習も始まる。
家に残るのは参加しないメンバーだ。
小雨と麗と吹雪で、チビたちの面倒を見ることになる。
なるべく年長もいたほうがいいと思うから、私は家にいるつもり。
霙姉はもちろん主催者だし、
オマエは霙姉の誘いは断れないみたいだし
春風もオマエと一緒なら行くというし。
それから立夏と星花と夕凪。
このメンバーを心配している子もいるよ。
麗とか、本当にいいのだろうかって。
参加条件は年齢も経歴も問わない。
お気軽にと言っても
いくらなんでも立夏が。
おまけに夕凪が。
はしゃぎすぎないだろうか。
立夏は練習したとしても合唱になるのだろうか。
なんてね。
でも、私は難しいことはわからないから。
もし迷惑になったり、足を引っ張ってもいいと思うな。
参加したいならいいんじゃないか。
立夏も夕凪も、歌うのがとても好きだろう。
いいじゃないか。
思いっきり歌えばいい。
一生懸命練習すればいい。
やるからには、中途半端だったらかっこ悪いぞ。
せいいっぱい練習して、あんまり上手じゃなくて恥ずかしくてもいいよ。
私も、当日は応援に行くから。
家族みんなで行くと思うんだ。
参加する子達にとっては晴れ舞台。
楽しみだな。
がんばってきてほしい。
私は、留守の子が多い間は、家を守っていたい。
やっぱり喫茶店のアルバイトは断らなくちゃ。
もうおいしそうなおかずに心を動かされないように、
土日はお弁当作りの練習を少しだけ、してみたいんだ。
はっきり、おかずはもういらないんだと断れるように。
春風はすごいよな。
私よりも熱心に誘われていたって聞いたよ。
春風なら当然だよな。
だけどはっきり、全部断ったんだって。
それはもう、きっぱりと。
クリスマスは予定があるからって。
それは、とても大事な予定だから。
すごいな……
私もそんなことが言えるのかな。
おかずをもらえるのは、正直とても嬉しいんだ。
このごろは、まかないもおいしいよって誘われて心が揺れる。
いや、食べ物に釣られてばかりじゃなくても。
私に春風みたいに、自分の気持ちに目をそらさず
向き合う力があるだろうか。
何よりも、いちばん大事なものがあるからと。
それを誰かに伝えるために
自分の中で認める勇気があるだろうか。
でも、やらなくちゃ。
やるだけやってみてから、考えよう。
できなかったら、またその時だ。
私は、いろいろ悩むのは得意じゃないんだ。
本当に苦手なんだよな。
なんて、そんなことオマエならもう知っているかな。
晩ごはんのメニューを決めるときも、あんまり悩まないから。
メニューで迷ったときは私に相談するといいぞ。
私は、かなり不器用だから
キッチンのことは頼りにしてるよ。

ヒカルの偽日記

『うどん』

今日は剣道の練習をしたよ。

家に帰ったら、妹たちが料理をして待っている。
最近になって挑戦を始めた子たち。
なんとなく不安で、でも家族がどんな顔をしているか想像して。
たぶん私は家に帰るのが楽しみなんだと思った。
こんなにそわそわ、落ち着かない気分で練習の支度を始めるのは
いつ以来のことだろう?
蛍がまだ小さい頃の感覚にしては、どうも今でも馴染み深い気がする。
考えてみたら、オマエがいるからだとわかった。
この家に新しい家族がやってくると聞いたときにはじまって
オマエの周りで問題が起こったら
私が少しくらい心配していたところで、家族のみんなは力技で挑んでみたいようだ。
体当たりでぶつかってなんとかしてしまう小さい子たちとくらべて
もやもや考え出すと答えが出ない私こそ
オマエ絡みの悩みがいちばん多いと思ってしまうのは
気のせい?
結構最近になっても
私は落ち着かない生活を過ごしていたみたいだ。

今日の練習は、
始めてしまったら意外と頭の中がすっきりして
特に言うこともなくいつもと同じ。
変わりない積み重ねは大事だ。
ときどき、無茶をしている自分に気がついて
そこまでして強くなりたいのは、家族を守るためなんだろうかと考えている。
どんな相手からも愛する人たちを守れるように
私は、誰よりも強くなりたいのか?
オマエが家に来て、一人で気負わなければいけない場面もなくなった。
それなのに挑み続けているのは
ただ単純に、体を動かしていると楽しいから、
それだけの理由かもしれない。
どうして剣道を始めたのか。
どんな思いで続けているのか、
人間はいつでも初心と向き合うのだと思う。
私は自分を見つめなおして、いったい何を知るのか。
言葉に出来なかった子供の頃の気持ちを
そうしていれば自分の中に形になるのではないかと期待しているみたいに
無心になって練習を続けている。
考えたら、初心者って変な言葉だよな。
誰だって初心を持ち続けて、歩みを進めている。
つまづいたときや、壁にぶつかったとき、迷ったとき。
自分の中にあるはずの答えを見つめなおして
また新たな気持ちで、ひとつの思いを胸に動き出すんだ。
全ての人が、いつも初心を抱き続けるのだから
実は誰もが初心者で、熟練者なんてどこにもいないでいいんじゃないだろうか。
私の中にある最初の思いはなんだったのか。
オマエがいなかったあのときの感覚で、私はこれから生きていけるのだろうか?
もしかしたら、まだ始まりになる気持ちが見つかっていないのだろうか。
悩んでしまうより、
剣を握って答えを出そうとすることが私のやり方のような気がして、
夢中になって練習していたよ。
妹たちが新しいことに挑み始めている姿を見ていたら、
私もまた、この剣の道をいまだ何も知らず歩む初心者なんだろうなと考えた。
何か変かな。
でも、あの子たちと私はそんなに変わらないと思ったんだ。

今日の晩ごはんは、うどん。
どうも煮込みすぎて、麺のこしがなくなってくたくただと
作った夕凪たちは嘆いているけれど
こういうものだと思って食べればおいしいよ。
よく煮込んで、野菜の味がつゆによく染みている。
味噌煮込みうどんというのもあるけど、あれはこしが強い麺を使うから別物だな。
こういうよく煮込んだのは、ほうとうが近いのかな。
具のかぼちゃや野菜がいっぱい入っていて、味噌で味付けして煮込むやつ。
こっちの味は味噌じゃなくてうどんだな。
もう少しで、味も中身もよくわからないものになってしまう危険があったらしい。
てんぷら班とうどん班で別々になって
衣を着ける作業をするてんぷら班は、揚げ物は班長の春風に任せる。
うどん班は、計量に正確な吹雪が班長を任されたそうだ。
吹雪はしっかりしているからな。
夕凪が張り切ってあれもこれも入れようとしても
材料と分量を記述した料理本を参考にしているのだから
まだ料理に詳しくないうちから無謀な行為を始めるなんてやめたほうがいいと、止めたそうだ。
だから、味付けや具には問題なし。
煮込みすぎただけで、どうにかうどんになった。
ちゃんと食べられるものになったのは、吹雪のお手柄だ。
たくさんあって、暖まったな。
春風があとで教えてくれたことだけど
麺だけあればささっと焼きうどんも作れるから、
多少の失敗はなんとかなる、秘密の計画があったという。
王子様に新婚さんみたいに手料理を食べさせてあげたかったのにな、って。
いつも手料理は食べさせてもらっているし、そこは別にいいんじゃないかな?
夕凪が花嫁修業とか、教えてもらったばかりの言葉を連発していて
対抗したかったらしい。
もしまた失敗しても
何とかなるだろうか。
私も土日は調理に参加するように言われたよ。
明日のうちに春風と蛍から教えてもらうことになった。
まあ、みんな忙しくしているし、手伝いたいんだけど
料理か……
私にできるのかな。
やってみなくちゃわからないと言うには
何度か試してみて、かなりわかってしまっている……
私はたぶん、器用じゃないんだ。
というか、春風と蛍が凄腕なんだ。
あの二人も、昔はよく失敗していたっけ。
じゃあ私も練習すれば?
うーん──
たぶん、だめだけど。

悩んでいても仕方ない。
もう、
やるか!
誰でも最初は初心者なんだ。
試してみてうまくいかないらしいとわかっていても
まあ、だいたい初心者みたいなものだ。
慣れたからうまくいくなんて
たぶん、本当はたいして問題じゃなくて
いくら上手になったって
最初の気持ちを忘れることはないんだろうと思う。
きっといつでも、不安はあるけれど。
それでも試してみるものなんだ。
私の剣道も、だいたいそんな感じかもしれない。
やるだけやってみる。
失敗するとわかっていても
やらないわけにはいかないからな。
それから、
ひとごと見たいな顔をしている場合じゃないぞ。
オマエも参加。
霙姉もだ。
協力して乗りこえる、というか
無謀な挑戦を続けているんだが
昔からこんな家だったから。
そのへんはオマエもそろそろ、わかってきたんじゃないかな。
怖くても──
逃げてばかりいられない。
オマエも、私も。
な。
うん。

ヒカルの偽日記

『ハロウィン』

この日のために、何度もサイズ合わせをして
よく動けるように、きつくないよう細部にまで気を使って。
私のことだから、筋肉で服がはじけ飛んでもいけない。
小さい妹がいじめられたらすぐ怒ってしまうから。
そこまで筋肉はないと思うけど。
本物の貴族が着てもいいくらいきれいに仕上がった
蛍の渾身の力を込めたバンパイアの衣装も、
結局、本番では袖を通さないまま終わってしまった。

狙っていた仮装コンテストの優勝も逃した。
みんなが期待しているなら、と当日までは覚悟していたけれど
ステージに上がらないで済んだのは、ちょっとほっとした気持ち。
ときどき思うんだ。
華やかな注目を浴びるために、体を鍛えているんじゃない。
私は、そんなにたくさんのものはいらないんだ。
自分がその時楽しくて──
たまに家族を守れるくらいの力があれば、それだけでいい。
優勝商品のお菓子詰め合わせは、チビたちのためにもらっておきたかったけど
今日はそんなことがなくてもみんなたくさんもらえるだろうから、いいか。
かわいいからな。
うちの女の子たちは。
それから、ただひとりの男の子は──
海晴姉はかわいいと言う。
姉妹には、オマエのことをかっこいいって言ってる子も多い。
そうかな。
私は、そんなふうにはっきり言えないような気がする。
うまく言い表す言葉が、なかなか思い浮かばない。
のんびりしてるほうだけど、わりと普通だな──と言い切るには
他の男と比べたら、何か違うものを持っている気がする。
根性があるってことだろうか?
こんなにきょうだいが多い家なら
根性がなくてはなかなか大変だから。
氷柱が妙な怒り方をしても
小さい子がわがままをはじめても
オマエは不思議と楽しそう。
根性があるからだな。
そのへんは私の意見。
ハロウィンパーティに参加した人がどう見るかは、わからない。
オマエは特別かわいいというわけでもなく、普通に近いほうだと思うんだけど
お菓子はたくさんもらえた?
小さい子にわけてあげられる量になった?
もらったものをどんどん配ってしまった私みたいにならなかった?
私も、バンパイアになって参加していたらもうちょっともらえたのかな。
今日の仮装は、見る人はセクシーだねってびっくりしちゃっていた。
ハロウィンにおかしをもらうのに向いた衣装じゃなかったのかも。
前にも着た衣装だけど、やっぱりこれは蛍の趣味が出過ぎてしまったようだ。
春風は、私のおなかを守れなくて悲しそうだった。
でもまあ、私のおなかは私が守らないといけないものだし。
今日は自分の意思で着たものなんだから、春風が悲しむこともない。
悲しんでいるだけでもなかったよ。
春風にもかわいいって喜んでもらえたし。
おなかは、帰ってきて食べた鍋が暖かかったから大丈夫。
今日はさくらとおそろい。
お姉さん虎と、妹虎。
それともお母さん虎と子虎に見えるだろうか?
本当のことを言うと、蛍はさくらの衣装は鬼のつもりで作ったんだって。
さくらがちょっとでも鬼を怖がらないで、仲良くなれるように。
なるべくがんばって、かわいく鬼をディフォルメして。
鬼に化けた子がいるかもしれないハロウィン。
前に観月が仮装したときは、何も気にしていなかったさくらだから
ハロウィンは特別なのかも、と蛍は考えたらしくて。
こんなときにこそ、仲良くなれる鬼もいるんだとわかってほしかったみたいだけど
いきなりは無理だったな。
急遽さくらの衣装を虎っぽく細部を調整したんだ。
私が大きい虎になって、ほえ方もその真似をすればいい。
先輩虎は、前にちゃんと虎をしたんだ。
いろいろあったけど、どうにか虎だったと思う。
お姉ちゃんが虎なんだから、さくらに教えてやれる。
マリーが女王なら、さくらも女王の素質がある。
いつかマホウも使えるはず。
どうしても怖いものがあったら
今は隠れてしまってもいい。
虎だって小さい頃は守ってもらわなきゃ。
ライオンも本当は子供を谷に落としたりしないし。
私がついていてやるから、今日は虎っぽい振る舞いも、さくらのできる分だけでいい。
どうせ必ず、怖くても立ち向かわないといけなくなる日は来る。
自分から望んで、険しい道を進むことになるのか。
それとも、春風や蛍に押し切られて、思っても見なかったイベントに参加するのか。
いつでも隠れているなんて──
さくらみたいに怖がりだって、実はできないと思う。
さくらがこれからどんなふうに駆け出していくのかわからないけど。
それまでは、私がついていてやるから。
いつでも家族が見ているって、まずそのことをたくさん教えてあげなくちゃ。
今日はずっと手をつないでハロウィンパレードを歩いたよ。
私があきらめた仮装コンテストの優勝は──
かぼちゃをかぶった、まさにハロウィンらしい子供。
二位は、きらきら飾りがいっぱいのシーツおばけ。
そして三位に入賞したのが、てんびん座をモチーフに正義の女神に仮装したユキだった。
お菓子はたくさんもらえるはずだからそんなになくてもいいって自分では思っていたけれど。
やっぱり、家族がもらえると嬉しいものだな。
おめでとう、ユキ。
でも、半魚人をかわいく改造されて、いつのまにか貝殻のブラで人魚になっていた氷柱が
最初に声をかけられていて
恥ずかしいからと入賞を断っていたことは
うれしそうなユキの前ではあまり言えないけれど。

家族で十二星座の仮装をしたから、ただの気分かもしれないけれど
星がきれいな帰り道だったな。
いよいよ空気が澄んだ冬が近づいているのかな、と思った。
ハロウィンの間は寒い服を着ていたから、そう思っただけかもしれない。

せっかく作ったのに、もったいないから
みんなが休んでしまったあとでバンパイアの服も着てみた。
普段着にもできないし
明日から着る機会なんてないと思うし。
もう家族でたくさんもらって帰ってきて、お菓子が欲しいわけではないのに、
私は何をしているんだろう。
いたずらがしてみたいのかな?
もうすぐ日付が変わる時間。
おばけがあふれる一日は終わろうとしている。
やり残したことがある気分なのか。
もういたずらをするような子供じゃないのにな。
バンパイアの衣装を来て蛍が喜ぶところも見たかったのかも。
ハロウィンが終わる前に
オマエにこの仮装を見てもらって、何か言ってもらえたら
この落ち着かない気持ちの答えが出るのかもしれない。
それともやっぱり、いたずらしてみたいだけなのだろうか。
トリックオアトリート。
時間が来たら終わってしまうお祭り。
そうか、今わかった。
子供に帰ったみたいに私も楽しんでいたんだな。
来年もまた、同じ顔ぶれで行けるような気がしているけれど
今は、もう少しだけ誰かと一緒にいたいんだ。
いたずらをしてみたいのかもしれないな。

ヒカルの偽日記

『ほかほか』

くもりの日。

軽く体を動かそうと思い立っても
いつもより多く着込まないといけない
ちょっと冷える日。

頭を使うことにあまり縁がない自分だけど
なんとなく物思う
秋の冷たい日。

それでいて、動きはじめると
急に暖かくなる。
まわりで小さい妹たちがはしゃいでいたから?
よく動いているから
薄着でもいいみたい。

体が冷えると怪我をしやすいんだけど
準備運動をきっちりしておくような意識は
まだ体が柔らかい子供たちには全然ない。
運動の前には、軽くでも筋を伸ばしておいたほうがいいのにな。
言っても聞かない。
立夏あたりは調子に乗りやすいから、首根っこをつかんででも準備運動させるけど。
青空やマリーは、なかなか言うことを聞かせられないな。
すばしっこいし。
すぐ遊びに出かけたい。
時間はいくらでもあるのに
一秒でも早く、と飛び出して行って
ほんの少しでも多く遊びたがっている。
お姉ちゃんたちのまねをして動いているうちに
自然に準備運動になっているのが救い。
まったく。
これからもっと年下の妹に見本を示すお姉ちゃんに
この子たちはなれるのかな。
なんて、難しく考えながら
なぜか笑ってしまう、思い通りに行かない顔の筋肉。
今日も一緒に遊ぼう!

めまぐるしい速度でボールを追いかけていたと思ったら
立ち止まってきょろきょろする姿は
汗をかいて、湯気を立てている。
くっついてくると、体温の上昇が肌で伝わる。
立夏たちは、おとなりのジョンの散歩についていって
犬と張り合うようにはあはあ息を荒くして帰ってくる。
すぐにあたたかくなるものなんだな。

だんだん秋が深まるこの時期に
蛍が、急いで上着を作りたいとがんばっているよ。
胸元にイニシャルだけの簡単な柄だと言ってるけれど
本当に一日でひとつ形にしてしまった。
速さだけじゃなくて、暖かそうな仕上がりは
うちにも編み物が得意な面々はいるが
誰も同じことができる自信がないって。
このごろ編み物を習い始めた立夏からすれば神業にしか見えないという。
習い始めたというか、
前からちょっと習っては完成まで気力が持たずに投げ出して、
を繰り返して
また始めたというだけ。
今年は蛍の技が刺激になって、ひとつくらいは完成まで持っていけるかな。
蛍は余裕ができたら、家族の意見を参考にもっと作りたいって言うから
着てみて感じたことを遠慮なく教えてあげるといい。
あたたかいかどうか、とか。
かな。
私は編み物をしないから、どんな情報が求められているのかよくわからないけど。
せっかく作ってもらっても、すぐ脱いでしまいがち。
すぐ汚すし、洗濯しやすいとうれしいって言ったら、参考にならないかな。
蛍の編み物の腕があっても
なかなかぴたりと調節できない
今ぐらいの時期の重ね着。
着込んだり脱いだり
汗を拭かないとすぐ寒くなってしまったり
難しいな。

寒くなりはじめた秋は
行楽の秋でもあって
しかも収穫の秋。
おいしくて暖まるイベントが、
土日にはあちこちで盛りだくさん。
オマエもやっぱり、行きたいと思う?
近くの広場で開催される
明日の芋煮会。
私は、そんなにいつもあわただしくなくてもいいと思うけどな。
先週も出かけたし。
豚汁がおいしそうだって言うけど、家で食べてもいいんだし。
でも春風と蛍は、新しい味の研究になるって乗り気だ。
新鮮な野菜の販売も目当てらしい。
もちろん小さい子たちは、おでかけできるならどこだって嬉しいだろう。
そりゃ、みんなで行くならいいかと思う。
明日は雨の予報だから、どうなるかな。
芋煮会は、小雨決行だそうだ。
雨天決行なら聞いたことはあるけど
あんまり雨が降ったら中止ってことなのかな。
まあ中止じゃなくても雨だったら出かけられないな。
それで、大雨じゃなくて小雨であってほしいって
名前がそのままの小雨にみんなが相談しているよ。
小雨もこんなことで頼られるのは初めてで、戸惑っている。
戸惑っていなくても、小雨に何ができるというわけではないんだけど。
大雨だったら家であたたかいものでも作って食べようよ。
芋の皮むきくらいなら私でも手伝えると思う。

ヒカルの偽日記

『屋台』

3連休でも
チビたちは元気。

見習わなくっちゃ!

高校生になると、
3日間も走りっぱなしではいられないから
初日くらいは体力を残して、
なんて考えてしまう。
こんなことではいけないな。
今日を精一杯に走る子供たちに仲間入りして
私も連休を一緒に過ごすんだ。
3日間の休日を、思い残すことがなくなるまで駆け抜けたい。

春風は連休が来るといつも
あれもこれもとはしゃいでいる。
おでかけもいいし
そうでなくても楽しみたい。
家族といてうれしい。
炊事も、掃除も、買い物も
何をしていても、
疲れを知らないみたい。
それとも、ぐっすり寝たらすぐ復活するのかな。
春風が楽しく過ごした休日は、すごくいい夢を見るんだろう。
学年の問題じゃないんだな。
夢中になって楽しむっていうのは。
でも──
霙姉が、早くこたつにもぐりたくて楽しみに待っているのは
似たようなものでいいのかな。
熱い胸のうちを子供と変わらない活力で教えてくれる。
夢を語るような、澄んだ瞳。
なんだか暑い日が続いて
家族のみんなが大喜びで薄着になっているよ。
霙姉も、暑くてたまらないとか
薄着は楽でいいなとか胸元をぱたぱたしながら
弟をからかうのはいいが
季節のふれあいというものだってあるだろうと不満そう。
この季節らしいふれあいか。
こたつが出てきても、オマエは大変になりそうな気がなぜかしてきた。
霙姉は何をはじめるかわからないし。
これから寒くなる季節に、オマエに苦労が少ないほうがいいとは思うけど
なんだか、苦労することがあってもいいから
家族みんなで走り続けていられたらと願ってしまう。
どこに向かうのか、目的は何も考えないで
ただ一緒に走っていたい。
夢中で走っているときに、ふと隣を見ると当たり前に家族がいるような
そんな毎日を過ごすことを考えている。
私はあまり想像力がないのかもしれないな。

まあ、そういった姉たちや妹たちや長男がいる家だから
夕方になってからお出かけだとわかっていても
体力を温存するなんて忘れてしまうこともある。
お兄ちゃんと遊んでもらえて満足しきったさくらが
出発直前になってタオルケットにくるまって丸まったりして
みんなで慌てることになったりする。
おでかけ先で何か食べようという話で興味を引いて
ようやく全員がそろう事態。
そう。
お楽しみは、サーカスだけじゃなくて
実は、大きなイベントの会場にたくさん並んでいる
食べ物屋の屋台も目的のひとつ。
屋台はいいよな。
おいしいし。
いいにおいだし。
お祭りみたいで、うきうきする。
ごはんが食べられなくなると困るから、ふだんはあまり食べないけれど
今日の開園の6時は、先に夕飯を食べるには中途半端な時間。
帰ってきたときに簡単に食べられるおにぎりなんかを家に用意しておいて、
開演前には屋台で何かちょっとお腹に入れておこう、ということになった。
あまり食べ過ぎても家でご飯が食べられないし、軽い食事。
だから、ひとつを2人で半分こがちょうどいいかなと
2人づつに分かれて、それぞれのお腹にあわせてお店を選ぶ。
私とペアを組んだのは、青空。
だってオマエと組むと、半分こにすると足りないじゃないか。
青空も食欲旺盛だし、半分で足りるかと少し不安もあったけど
子供ならではの嗅覚を発揮して、大盛りしてくれる焼きそば屋を見つけてくれたからよかった。
私が見てやって、あんまり食べ過ぎると眠くなるぞって忠告もできて、いいコンビだったと思う。
同じように野性の嗅覚を発揮できても
氷柱と立夏のペアなんて、立夏が先に手を付けて
大盛りをほとんど食べきってしまったらしい。
食欲があまりないから別にかまわないって氷柱は言ってたけど、ちゃんと食べないと。
氷柱はもうちょっと食べて健康的に肉を付けてくれたら、こっちも安心なんだけどな。
ダイエットしてるわけでもないのに細いし、おまけにあまり食べないなんて。
そんなんじゃ、元気に外で遊んだりできないじゃないか。
困ったやつだ。
ただ、今日はせっかくのお出かけなのにずっと浮かない顔だったから、
何か心配事でもあったのかな。

サーカスも楽しかったな。
でもなんだか、あっという間だった。
ちゃちゃの出番が終わりのほうになったから、待っている間に油断していたかな。
私は途中から半分寝ていたみたいだったし。
いいところを見逃していただろうか?
氷柱のお腹が鳴ったりしていなかった?
ちゃちゃじゃなくて、マークくんだって紹介されていたな。
まあ、うちでつけた名前で呼ぶはずはないか。
昨日まで足の怪我で病院にいた子が
あんなに馬の背中から飛び移ったり、輪をくぐったりなんてできるわけない。
あれは別のいのししだろうって吹雪が分析していた。
ちゃちゃのことをよく知っているはずの夕凪も何も言い返さなかったから
もしかしたら、そうなのかもしれない。
でも、マークくんの出番が終わったとき、夕凪は一生懸命拍手していたな。
やっぱりあれはちゃちゃだったのかな。
最後にちゃんとお別れのあいさつができなくて残念だったな。

家に帰ってきても、話題は尽きないで賑やかだった。
今度は氷柱もたくさん食べていてよかったな。
そんなにおにぎりが好きなんだろうか? 知らなかった。
それにしても、せっかくうちに来てくれたのに、
こんなに楽しい食卓にちゃちゃが参加できなかったなんて、ちょっとさみしい気もする。
いのししだからって夕凪も遠慮しないで、堂々と連れて来ればよかったのにって冗談で言ったら
夕凪は、いいのって目を輝かせていた。
また何か拾ってくる気なんだろうか。
でも、いつまでもついてきちゃう子ってときどきいるじゃないか。
ああいうとき、置いていくのがちょっと勇気がいるんだよな。
小雨が小さい頃に子猫を拾ってきたのも、友達とエサをあげていたのに
なぜか友達と別れたあと、自分にだけついてきちゃったからなんだって。
もしまた何か拾ってきても、たまにはそういうことも仕方ない。
心を鬼にするなんて、夕凪にはまだ難しいだろう。
何かあったらその時になって考えるしかできないから。
だから、夕凪がまた何か拾ってしまったら、またその時に考えればいいんじゃないか。
そろそろハロウィンも近いし、今度はETでも拾ってくるかもしれないな。
それとも、ドラえもんが好きみたいだし
猫型ロボットはあんまり落ちてないと思うけど
恐竜くらいなら拾ってくるだろうか。
夕凪ならいけそうだ。

ヒカルの偽日記

『体でぶつかる』

土曜日に体育祭。

日曜日に文化祭。

体育祭の練習も
しなくちゃ!

花形種目になるのがリレー。
今年はシンデレラリレーじゃなくて
男女混合400メートルリレー。
よかった。
霙姉に、前から言っておいた甲斐があった。
あんまり恥ずかしいリレーなら
私は出ないぞ!
言っておきながら
体を動かすのが好きだから
出るだろうなと自分でも思っていた。
どうせ出るなら、迷いなく全力を出せる種目がいいな。
霙姉は、前に一回やったんだから
また同じことをすればいいだけじゃないかって。
そうかな。
またオマエをつかまえに行けるかな?
ともかく、今年はあまり奇抜な種目はない。
それから体育館は使わずに
校庭の種目が中心。
全校生徒の一体感を目標にして
正面から堂々と運動会!
という種目が多い。
血が騒ぐな!
玉入れ、
騎馬戦、
綱引き、
ムカデ競争。
団体競技の得点は多いぞ!
もちろん個人競技で得点を稼がなければ
優勝は狙えない。
障害物競走、
パン食い競争、
借り物競争。
でも今年は応援合戦がないんだ。
盛り上がったら
大声を出したいのにな。
咆哮したくなる。
私も立夏と同じ野生の血が?
そのぶん、いつも応援するよ。
クラスの仲間が出場しているときと
家族のみんなと
そして、がんばっている選手を全員。
おかしいか?
でも、体育祭は勝ち負けにこだわるものじゃない。
参加することに意義がある。
真剣な顔で立ち向かうやつを
応援したいな。
オマエもだ。
がんばれ!
私が参加する種目は──
どれも参加したかったから
全部!
は、だめだった。
1人で最大3つ。
その中でもやっぱり力が入るのは
体育祭最後の種目になるリレー。
おまけにアンカーを任せてもらった。
学校の男女比の関係で
男女混合と言いながら
男子の出番は3人目だけ。
私たちのクラスでは
オマエだ。
受け取ったバトンは
たとえその時の順位が何位だったって
全力でゴールまでつないでやる。
約束だ。
もちろん文化祭の出し物も練習している。
台詞はほとんどないけど!
しかも、もしもド忘れしても
まわりの出演者がうまく進めてくれるって。
いいのかな、こんなだらしない主役で。
基本的に剣道の動きを取り入れた殺陣で
飛んだり跳ねたりしないし。
義経なのに。
大道具の演出で動いているように見せればいいって。
そこまでしてもらってるのに
剣を取って向き合ったら
演技を忘れて
勝手に体が動いてしまうものだよな。
向き合う相手がオマエだったことが力強い。
ちょっと無茶して叩いても
頑丈そうだし。
やっぱりきょうだいだからなのか、
私も頑丈だ。
ちょっと無理して叩いても大丈夫だから。
でもそれで話が変わってしまわないかな?
がんばらなくちゃ!
いくら相手がオマエだとしたって
舞台の上で、慣れない戦場だからって
そう簡単には負けない。
主役がこんな適当な調子でいいのかなと思うけど
しっかり練習したら
あとはやることをやるだけだもんな。
そう思いたい。
でないと迷ってしまうし。
こんな自分でいいのか、なんて
期待してもらってるのに弱気になりたくない。
昨日はせっかく大橋さんに来てもらったのに
体操着に着替えたついでに
結局、体育祭の練習も始めてしまって
しかも競技にない相撲で
力比べまでして。
体を動かし始めると、調子に乗ってしまうタイプなんだ。
私は。
だけど、体でぶつかってわかりあえたような気もする。
昨日みたいな機会があって嬉しかった。
大橋さんは意外と根性あるんだな。
こちらが組んだら、向こうも応えてくれた。
力はずいぶん差があったけど
正面から戦おうとしてくれるいい女だ。
やっぱり私は演技より
体で語るほうが向いてるんだな。
こんな経験を積み重ねないと
相手を心から信頼して一緒に劇をするのもちょっと不安で。
いつも本気になって向き合っていないと
気持ちが伝わらないなんて。
友情って、
よくわからないな!
それとも、こんなのは私だけかな。
結局、大橋さんには一回も投げられることはなかったけど
戦いを重ねた後の握手は
決して嘘じゃなかったと思うんだ。
恋人役を演じる自信がなかったとしても。
何があっても相手を信じて舞台に上がれる。
私はその時、決して後悔はしない。
力いっぱいぶつかり合える友達だからな。
よし、次はオマエだ。
かかってこい!
これまでだって何度も繰り返してきた
本気で向き合える関係を
まだまだ重ねていくんだ。
いつだって、お互いの本気を
確かめ合っていこう。


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