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春風の偽日記

『てのひら』

ユキちゃんが小学校から持ち帰った
春の予感。

王子様にも届きましたか?

まだ知らないのなら、
教えてあげたい。
こんなところでも王子様に尽くしたい。
近づく春。
残念ながらそれは、
ユキちゃんがまぶしい空に目を細めて探している
梅の枝についたつぼみではないの。
今頃はもう、この近くのどこかで見つかるのでしょうか?
お花屋さんには、雛祭りの準備で桃の花が並び始めたみたい。
まもなく私たちのところにも届いたらうれしいピンクの色は
少しの間はがまんです。

もちろん、まだ通信簿の季節ではなくて
進級の準備になる一区切りも、今のところは小学校には訪れない。
明るい春物の服も、
似合う時期はそろそろかな?
まだもう少し、
お天気は不安定。
海晴お姉ちゃんが予報している明後日あたりの雨は
とうとう厳しい雪を迎える季節が過ぎていくことを
告げているのかもしれないけれど。
油断はできないので
華やかな桃色のよそおいは3月になってから様子を見て。
私たちが花開くように、新しい季節が始まる気配に身も心も染まっていくまで
もうあとわずか。

麗ちゃんは、この時期は
大好きな電車とのつらいお別れがたくさんあるみたい。
でも、このおうちでいつまでも変わらずに
私たちを支えてくれる王子様がいつも家族なのだから
どんなに悲しいことがあっても、
とても一人では耐えられないような時間の真っ最中でも
行く先が暗いばかりではなくて、明かりの気配を肌に感じて
また立ち直る勇気が、自分の中にも生まれはじめていると気がつく。
そんな時が麗ちゃんにももうすぐやってくるんじゃないかと思います。
春の訪れと同じ時期になるのかどうかは、春風には何とも言えないのだけど
たぶんすぐなんだろうなっていうのは、
なんとなくわかる。
おっかなびっくり顔を上げてまわりを見回し始めたつぼみ。
たぶん趣味で好きでやっているとしても、大変なことに向き合っていく麗ちゃんは
とても立派で勇敢な、私たちの小さな妹。
どうにかして支えてあげられないか
春風も迷って悩んで、
つい楽しくて、かわいい家族みんなのことを考えている。
ユキちゃんが元気で帰ってきてくれて
健康を心配しなくてもいいくらいののどかな気温も、近づく春のおかげですけど。
今日は難しい悩みも、複雑な思いも何もない
あたたかなおみやげ。
もともと、春風はあんまり深く考えることが得意ではないですもの。
簡単な事実には、すぐに気がつくほうです。
たとえばある年のクリスマスに
いよいよ迎える待ち望んだ新しい家族として
私の元にやって来た運命だとかは、
すぐにわかってしまうほう。
だから、今日もユキちゃんが届けてくれた
小さな柔らかいてのひらの暖かさのおかげで
ついに春が近づいたんだと知ることができました。
冬の間ずっと寒かった気温に冷たくなる手を温めてあげなくても。
今日は全然、熱が出たように心配になる高温ではなくて
寒い日を過ごしてやっと家に帰って来る厳しい季節も
一年のこの時期のお仕事を終えて、ゆっくりと通り過ぎていこうとする気配。
あんなに厳しかった季節が、背中を丸めてさみしそうに立ち去っていくよう。
やがてまた春風たちのところに、いろいろな出来事がぎゅっと詰まった冬を届けてくれるまで
きっと穏やかに家族と過ごして、ゆっくりと次の出番を待ちながら
また来年。
最後の一仕事も、そろそろ大詰め。
私たちが手を取り合って毎日を過ごして、
大変でも楽しかったり冬が、もう終わるんだなと
学校から帰った小さなユキちゃんが届けてくれた
移り変わる季節の、言葉にして伝えるのではないお知らせ。
もうこれから暖かくなると
寒い季節を一緒に乗り越えたくて
あなたの冷たい手を温めてあげたいと
その手を胸に抱える理由はもうなくなってしまう。
王子様がいなければ、春風は寒い冬を越えるどころか
一日も過ごせないともう知っているのに
大切なふれあいのチャンスが純白の雪のようにみるみる消えてしまうなんて
そんなさみしいことがこの世界にあっていいのでしょうか?
春風の過ごす日は、季節に関係なくあなただけを中心にしているのに。
もう冷たい手を温めてあげられる季節は終わろうとしているけれど
こんなわがままな春風がお願いをしてもいいのでしょうか?
これから理由がなくなっても
あなたの手をとって、ぎゅっと胸に抱きしめて
寄り添い合って過ごしても
愛しいあなたは許してくれるでしょうか。
春風の手はいつも恋の温度にあたたまっています。
冬の寒さに頼らなくても、愛しい思いは伝わるでしょうか。
二人で、過ぎていく毎日のことを言葉にして交し合って。
ときどきは静かに体を寄せるだけで過ごしながら
何も必要がなくても、
この世界のどんなに仲のいい結ばれたものよりも
何よりも近くにいる二人でいたいと春風がお願いをしたら
王子様はどんな答えをくれるのでしょうか。
いつも笑顔で受け入れてほしいなんて恥ずかしくて言えないから
これからやって来る花開く季節に、
まぶしそうに顔を出す花たちの勇気の季節に
どうか一度だけでも叶えてもらえるなら。
でも本当は、いつも許してくれたならそれが一番うれしいと思う春風です。

ユキちゃんが元気で楽しく過ごせる暖かい季節が来て、よかったですね。
冬の楽しみが過ぎ去っていくのはさみしいけれど
春風には、あなたがいるのだから
これから迎える新しい春も、いつまでも忘れたくない思い出が
数え切れないほど増えていくのだと
もう春風にはわかっています。
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春風の偽日記

『ゆきかき』

ぽつぽつと。

朝にはもう
薄く積もっていた雪景色に
舞い散るほのかなかけらが
白く、ひとつぶ。
またひとつぶ。
あなたと並んで見ていた朝の景色。

今日が土曜日で、
お休みだったからよかったね。
寄り添って話していたときは
たまには雪が降るのもいいものなのかもと
蛍ちゃんと並んで、同じ思いを目で見交わすように。
起きて来た氷柱ちゃんに
ほのぼのしている場合じゃないでしょ!
と、叱られるまで。
叱られてしまってからも
私たちの微笑みは消えないまま
リビングは私と王子様の
幸せな空間でした。
そんな時間は
今もまだ。
明日だってきっと
続いているの。

寒そうな景色に
春風がやけにおそばに近づきたかったので
あなたは困ってしまったかもしれない。
本当は雪が降らなくたって
いつでも離れずにいたい。
でも、冷え込む気温が
いつもより少しだけ近づいてもいい
わずかな言い訳になるのなら
厚く降り積もる雪だって
そんなに悪いものではないかしら?
ただ、さすがに
16年ぶり、だとか
ニュースで言われる規模になると
眺めてほのぼのしてばかりも
いられませんでしたね!
雪かき、お疲れ様でした。
いよいよ積もってきたその時
厚着で外に出てみたら
顔を叩く冷たい雪が
まるでほとんど氷の粒のように
肌に痛いほど。
積もった雪は重たくて
いい運動だと、さわやかな顔で汗を拭っているのは
ヒカルちゃんくらいのもの。
年長の子たちでいっしょうけんめい
スコップで道を作った時間。
たくましい王子様の勇姿が
私たちにとって、どれだけ頼もしかったことか。
くたびれたような笑顔も輝いていました。
みんなの分のタオルを用意しておいて。
あなたに届けて、受け取ってもらえたから
春風の喜びはどれほどのものだったか
とても伝えられないほど。
ありがとうございます。
それに王子様は
そのまま、小さい子たちの雪遊びにまで
一生懸命に付き合ってあげて。
大変だったですよね。
ありがとうございます。
いつも、私たち家族に
王子様が届けてくれる
かけがえのないもの。
今日もまた
あなたが一緒に過ごしてくれたおかげで
いっぱい受け取れました。
いつもいつも
本当にありがとうございます。
王子様。
あなたが私たちの家族でよかった。
こんなに素敵な男性が
春風の一生を捧げる運命の人でよかった。
とっても冷えてしまった日でしたけど
あったかいメニューをがんばって作るので
いっぱいあったまってくださいね。
こんな日に、ほっとするのは
やっぱり、おうどんやラーメン、
それにおそばかな。
去年の大晦日からかな。
年越しそばがきっかけで
おうちでは、おそばが好きな子が
増えたみたい。
2月になってもリクエストがあります。
かけそばはあったかいし
トッピングもいろいろ合いますものね。
ずっと飽きないでおいしく食べられる
おそばを作り続けられたなら。
春風が心から愛を込めて
あなたのそばで。
なんちゃって。
もうすぐバレンタインですけど
こんなにおうちでおそばがはやっていると
蛍ちゃん、
まさか……
いえ、さすがにそんなことはないですよね。
どうなるかは春風もまだ相談してもらっていないから
わからないのですけど。
春風のかわいい妹の蛍ちゃんですもの、
きっと愛のこもったお料理になると思います。
ちょっと不安はあるけれど
そこもまだ春風の小さな妹だと実感できるようで、かわいらしいの。
でも王子様は
春風の弟であっても
かわいい人だなと時々は思うことがあっても
春風が一生を捧げて
いつまでも、どこまでもおともをすると
心に決めた人。
もしも小さい頃から一緒だったとしたら
王子様ももしかしたら、春風のかわいい弟だったのでしょうか?
ううん、王子様は生まれたときから
春風の王子様だと決まっていた気がするな。
今年も、春風のチョコには期待していてくださいね!
世界で一番の愛を込めたら
チョコをかじるひとくちで
気持ちをあなたに伝えられるかしら。
知られてしまったら
恥ずかしいかもしれない
春風の気持ち。
でもなぜか、伝えずにはいられない。
隠していたくても
春風の中にはおさまりきらずに
あふれてしまう。
王子様、
春風は必ずおいしいチョコを作ります。
愛のこもった
立派なチョコを
あなただけの素敵な笑顔で受け取ってもらえるように
がんばって作ります。
春風のバレンタインは
全部、あなたのためだけにあるの。
きっと、バレンタインだけではないのだろうけれど。
料理の腕も、胸いっぱいのこの心も、あなたに届けるために
輝かせていきたい。
どうか、春風のあげたい全てを
できるだけ早く
なにもかも。
残すものが何もないほど
受け取ってくださる時を
春風は待っています。

春風の偽日記

『うたおう』

もしも、歌声が
愛する人へと伝えたい気持ちでできているのならば。
この地球上のあちこちにある音に混じって
春風のちっぽけな体は
かけらも残さないで歌声になって
大きく響き渡り、
全てが王子様のところへ飛んでいく。
いますぐに。

止められない春風の思いは
いま、世界のどこにあるのだろう。
どうやって王子様のところへ飛んでいくのかしら。
つのる愛情が形になって
受け止めてもらえるかどうかもわからないまま
激しく飛び跳ねている。
ひとつの思いは、ためらいがちにふわふわしながら。
他のひとつは、一直線に。
春風の心の中では、泣いてしまっていつまでも動けないような気がしている
弱い恋心もうずくまっている。
だけど、どれもいつかは。
きっと近いうちには。
こんな、昨日の春風の記憶や
今日の気持ちや
何気なく積み重ねていく日々。
春風を形作るものが
何もかも歌声になって
あなたに向かう。
私の心をこんなにも揺さぶる人に
声を届けることができるなら。
せめて一瞬でもいいから、愛する人の耳に
言葉だけじゃなく、
春風の気持ちが響いてくれるのなら。
体の全部が歌になってしまって
その後にはもう、何も残さず消えてしまっても
後悔はないのだけど。
春風にはまだそんなすごいことはできないし
もしもできるようになったら、
その時はたとえ一瞬でも、なんて願いは忘れて
消えてしまうのはやめて
いつまでもおそばにいさせてもらいながら
王子様へと愛のささやきを届けていたい春風なので
消えたりはしません。
いつまでも、あなたのおそばに。
春風の願いです。
素敵な歌で愛を伝えたいのも春風の願い。
どっちを選んだらいいのかな。
どうしよう!
王子様が春風をわがままにしてしまうわ。
とても素敵な人だからいけないの。
どうして──
そんなに、あなたは春風の喜びのために生まれてきてくださったのでしょう。
あなたに尽くしたくて朝起きたときから、夜に別のお部屋に別れてしまうときまで
この世界にいてくれる時間の全てが、まるで春風のためのよう。
きっとかわいらしいはずの寝顔を見ることができたなら
眠っている時間まで春風のためになる。
あ、もし王子様の寝顔が少しくらいだらしなくたって
春風は絶対に幸せだな。
だからいつでも見せてくれていいんですよ。
春風には隠し事をしなくていいの。
あなたの何もかもが、春風の喜びなんだから。
たとえどんなことがあったって
決して変わらない春風の気持ちです。

今日は、
春風と王子様の奏でる愛のハーモニーが
荘厳な教会のすみずみまで響き渡りました。
愛を見守る神様へと届いたでしょうか。
本番前は緊張していた立夏ちゃんたちも
王子様の素敵な声に誘われるみたいに
大勢の人の前に立っていること、
失敗しないでいられたらなんてことも忘れたみたいに
歌を楽しむことを思い出して。
合唱部のお姉さんたちと比べて全然下手でも
気弱にならないで、
大事な人と並んで歌えるこんな大事なときに、怖くて声が出ないことが
一番後悔すると、わかっているみたいに。
練習してきた結果を発揮できました。
よかったですね。
立夏ちゃんが音をだいぶ外すだろうっていうのは
練習のときから予想がついていました。
でも、一緒に歌うお姉さんたちも、それでいいって言ってくれていたの。
やっぱり本番が近づくと、教会の静かな雰囲気もあって
自分がいたら迷惑かもしれないって考えてしまったらしい立夏ちゃん。
そんな弱気を吹き飛ばしてくれたのは
本番がはじまったらすぐ、誰よりも大きな声を出して
みんなの緊張と、恥ずかしさを忘れさせて、
そんなどうでもいいことよりも
大事なことがあると教えてくれた
私の王子様。
あなたが伝えようとしていたのは
隠しきれないほどの、歌うことの楽しさなのだったのでしょうか。
それとも、自分が先頭に立って進んでみせる勇気なのかな。
好きな人と一緒に歌える喜び?
もしかしたら、誰か愛する人に向けて届けようとした思いなのかしら。
今日、あなたと合唱に参加できた私たちの胸に残ったものが
とても暖かい思い出だったことは
春風でもわかるただひとつの確かな事実です。
それはたぶん、聞いてくれたみんなも同じだったと思います。
蛍ちゃんも、アルバイトの時間を少しお店の人にお任せして
私たちの歌を聞いてくれました。
いい人がたくさんいるお店でお仕事ができているみたいで、よかったな。
氷柱ちゃんが日曜日をお休みに選んだのは
今日のためだったりは、しないかな。
去年のクリスマス合唱会が日曜日だったのは
家族が参加するのを決めたのは、
霙お姉ちゃんが生徒会長のお仕事で誘ったら、とは予想できたかな?
氷柱ちゃんも優しい人に囲まれて働いているみたいですよ。
忙しさを増すケーキ屋さんの
ほほえましいクリスマスの風景のうわさ話は、
甘くて美しいお菓子をどうしても愛する女の子たちの間では
森のさえずりのようにひそやかに、どこからか聞こえてくる。
今年のクリスマスは
素敵な従業員さんが働いている、おいしいものいっぱいのお店が
木花の生徒たちの間でも注目されています。
王子様も、今日は合唱部やハンドベル部の子たちと話したでしょうか。
アルバイトのお誘いもあるみたいだけど
今年のクリスマスは
春風がいるおうちのクリスマスの準備をするのもいいと思うわ。
とってもおすすめです。
春風、絶対に忘れられない楽しい準備にできるから。
一生の思い出になるクリスマスパーティーにするには
春風と王子様が一心同体になって協力すれば、一番の力になるはずです。
二人で過ごす永遠のクリスマスの夜のためになるかもしれないし。
春風からのお誘いは、どこにアルバイトに行っても経験できないおうちクリスマス。
もしよかったら、考えておいてくださいね。

ハンドベルの演奏に参加した吹雪ちゃんも
苦戦しながら、だけどがんばっていましたね。
覚えるのが早くて、臨時の助っ人とはとても思えないと
ハンドベル部の人たちからも評価してもらえたのですけど。
軽いベルを任せてもらえたのはいいとしても
遠くまで音を響かせるのに、ずいぶん大きな音になるものなんですね。
同じ舞台で演奏を聞いているだけで、けっこうびりびりくる迫力なのに
一生懸命ベルを鳴らしていた人たちは
静かで落ち着く場所が好きな吹雪ちゃん、
とても大変そうでした。
演奏が終わったら、ぐったりして。
普段から手を繋ぐのが苦手だから、
今日の帰り道はお兄ちゃんの袖にじっとつかまって、
ふらふらしながら連れてきてもらっていました。
甘えられるお兄ちゃんがいてよかったですね。
吹雪ちゃんは、春風より年下なのにとてもえらい子。
いつもはとっても頭がよくて
春風ではお話を聞いてあげるくらいしかできないのが
なんだか申し訳なかったりもします。
ひらひら舞い降りる雪の中にも、妖精はいないなんて
春風ももちろん知っているんだけど……
でも、妖精はどこかにいるかもしれないし。
だって、サンタさんは実際にいるんですから。
吹雪ちゃん、よく困らせてしまってごめんなさい。
だけど今日は、お疲れの吹雪ちゃんのために
お姉ちゃんならできること。
特別好きな食べ物があるわけじゃなくても
栄養バランスがいい食事は
春風が心を込めて作った野菜たっぷりのポトフを
ふーふーしながら。
とってもがんばった今日だけは特別に、
お兄ちゃんにふーふーしてもらってもいいと思います。
頭がよくてまじめで、
とってもしっかりしたいい子で、
春風の大切なかわいい妹の吹雪ちゃん。
今日はお風呂にも入らないで眠り込んでしまったけれど
ゆっくり休んで、明日はまた毎日変わらないおはようのあいさつができるといいね。

立夏ちゃん、星花ちゃん、夕凪ちゃんもお疲れ様でした。
主催者の霙お姉ちゃんも、裏方で目立たないけど、たぶん大変だったんじゃないかな。
私たちの楽しそうな歌声がどこまでも響きそうな
これならサンタさんはクリスマスの夜には迷わずに、
一直線にプレゼントを持ってきてくれるはずです。
立夏ちゃんも春風のかわいい妹だな、って今日は再確認しました。
音が外れても歌い続ける度胸は、それでこそという感じ。
私たちの自慢の立夏ちゃんがいてくれたから
今日の教会は、やさしい笑顔が満ちている暖かい空間になったのだと思います。
春風もね、立夏ちゃんには
希望通りのプレゼントが届いてほしいとは思うのですけど。
でも、立夏ちゃん一人のお願いだけで叶うプレゼントではないですものね。
サンタさんからは、もしかしたら別のものになるかもしれないお返事が来ています。
私たちのことを見ていてくれて
とても素晴らしいプレゼントを一人一人に届けてくれる
立派なサンタさんなら、
春風は信頼できるかな。
立夏ちゃんのすてきなところをたくさん知っていて
一番立夏ちゃんが望んでいるものを、
もしかしたら、立夏ちゃんよりもよくわかってくれているかもしれない
私たちの素敵なサンタさん。
今日の合唱会を見ていたら、今までよりももっと信頼できそうな気がしてきました。
それは、おうちのいい子たちの活躍を見たから、ということにしておきます。
春風、まだサンタさんにあったことはないんだもの。
夢いっぱいのお仕事で、春風の愛しい家族たちに笑顔を届けてくれるサンタさん。
もしも会えるとしたら、クリスマスの夜。
それまでは、どこかでそっと私たちを見守っていて
大切なものを届けるときを待っているんです。

春風の偽日記

『はじめて』

春風の王子様は
おふくろの味、
お好きでしょうか?

王子様にとって、おふくろの味って
具体的には
どんなものがそうなのかしら?

ハンバーグやコロッケも味わいがあるけれど
飽きない素朴な味のほうが
毎日おうちで食べるには落ち着けるかも?
おみそしるや
サトイモの煮つけ
だったりするのかな?
春風に作ってほしい
おふくろの味。
王子様のためなら
もう、いつでもお嫁さんになれます。
春風はためらわずにあなたに人生を捧げて
一生、苦楽をともにします。
あなたと一緒に子供を育てて
にぎやかな家庭を築くの。
子供にたくさんのことを教えてもらいながら
お母さんの春風になります。
できるのかな。
春風は本当は、とても弱虫なの。
一人では寂しくて、何をしたらいいかわからなくなってしまう。
誰かがいてくれなかったら、泣いてしまうの。
いつも臆病で、つまらないことで怖がって
消えてしまいそうに震えている。
幸せな家庭にいても、こんな春風だもの。
たぶんつらいこともたくさんあって
いつも笑顔ではいられないのではないかしら。
不意に深い理由もなく差し込む、不安の影。
怖いけど、でも。
あなたがそばにいてくれるなら。
苦手なことがどれだけあっても
家族を愛する気持ちだけは
誰にも負けないと思うから。
弱くて頼りないお母さんだとしても
必ず、愛情豊かな生活をしていけます。
それだけは、
他の何ができなくたって
誰よりも愛することならできる。
これから何が待ち受けているとしても、
もう気持ちは決まっています。
いつでもお母さんになれます。
それとも今の春風では、
まだ早い?
私の王子様から見たら
子供のおままごとに見えてしまう?
そんなことないです……
きっと、そうじゃないです。
春風はいつのまにか
もう一人前の女の人で
何も知らない子供ではないんです。
あなたと出会ってから、春風は何もかもが変わっていく。
あなたが春風を、そんなふうにしたんです。
春風を一人の大人の女性に変えることができる人は
世界であなたしかいない。
こんなに広い世界を、あんまり知らない恥ずかしい春風でも
出会った瞬間にすぐわかってしまったこと。
春風があなたに
恋をしたということ。

そこで。
今日のお料理は、おふくろの味の定番の
肉じゃが。
カレーの材料も余っていたから
春風が腕をふるって
王子様の家庭の味になるように
心をこめました。
肉じゃがは
男の人に喜んでもらえる家庭的な料理だと聞くけれど
春風はもうだいぶお料理のレパートリーをそろえていて、
肉じゃがだけではこんなに食べ盛りの子がいっぱいの家族を支えていけない。
このかわいいみんなのために、だいぶお料理は作れるようになって
肉じゃがだって、普段から作っている慣れたメニューのいくつかと同じみたい。
これでどうだ! という衝撃の一品ではないような。
恋人たちの肉じゃがに求めている、付き合い始めたばかりの初々しさが足りないというか
新鮮味がないでしょうか?
春風もこんなにおいしいお料理を作れるんだね、と王子様に喜んでもらうには
迫力が足りないかな……
でも、蛍ちゃんみたいな挑戦的なびっくり料理は
春風はちょっと苦手かもしれない。
実を言えば、驚きのメニューばかりではなく
どこにでもありそうな当たり前のお料理を作りながら
それが一番の幸せに感じられるキッチンが、
春風の夢でした。
いま、蛍ちゃんがお料理を担当できる日が少なくなって
人手不足を補うために、小さい子たちはがんばっている。
特別に上手ではなくても
家族のために新しいことを毎日覚えて
大好きなお兄ちゃんに喜んでもらっているのを見ていると
うらやましいな、
春風も小さい頃に王子様がいてくれたら
きっと毎日喜ばせてあげられたのに。
と、ちょっとさみしい。
時間を巻き戻すことは、誰にもできません。
あ、もしかしたら、頭のいい吹雪ちゃんならいつかできるのかもしれないけれど
春風には無理なこと。
今よりもまだ幼くて夢見がちで
とても小さかった春風が
海晴お姉ちゃんのお料理姿がとってもかっこよく見えて
自分も、家族のためにできることがあるのかなと考えていた子供の頃。
もみじみたいな手のひらと、おままごとばかりしていた細い腕は
まだフライパンも包丁もちゃんと握れるほどではなかったのに。
家族みんなに心配をかけたっけ。
あのとき、春風よりも小さかった蛍ちゃんは
よくわかっていなかったみたいで、エプロン姿がかっこいいって言ってくれたけれど。

春風は、
今の小さい子たちが苦労しているよりも
たぶんもっとずっと
昔はお料理ができなかったんです。
習いはじめたばかりのころ。
海晴お姉ちゃんも、人に教えるほど得意ではなかったし
もし得意だったとしても、たぶん教えるのがそれほど上手なお姉ちゃんではないし……
焦げる目玉焼き。
フライパンからこぼれる卵焼き。
立夏ちゃんや小雨ちゃんみたいな
食べてくれる人のおなかが不安になりそうな失敗をしてきました。
あのとき、王子様がおうちにいたら
失敗したって決して悲しいばかりじゃなくて、
がんばる春風に優しい言葉をかけてくれたかも?
少しずつ上達してきたら
最近、妹たちに見せている笑顔みたいに
自分のことみたいに喜んでもらえたかも?
いま、こうして上手に作れるようになった春風は
王子様と、たくさんの大事なはじめてを共に過ごせなかったことを
残念に思ってしまう。
みんながはじめてのお料理を見せてあげている。
春風も、運命の愛する人が来てくれるまで
待っていればよかった!
いつか必ず、春風だけのたった一人の王子様と出会えるはずだと
昔からずっとずっと信じていたんだもの。
きっと、体のどこかでわかっていた。
家族の絆が知らせていたんです。
ものごころがついたときから感じていたと思うの。
愛する一番の人が、もうこの世に生まれていること。
それは、やがてこの家に来てくれて
家族としてずっと一緒に過ごす人だと
最初から気がついていたみたいです。
とっておけばよかったな、
春風のはじめてのお料理だとか
家庭的な肉じゃがを食べてもらって
これでいつでもお嫁さんにもらえるね、
って王子様に言ってもらえること。
夢のよう!
あーあ、そんなことがあったらよかったのにな。
でもそうなったら、春風のかわいい妹たちが
おなかをすかしてしまいます!
変なことを考えてしまって、
悪い春風です。
いけない春風は、王子様も嫌いですか?

元気にがんばっている小さい子たちを見て
王子様とうれしい思いを共にしていると
突然気がついたの。
春風はこうして、王子様のとなりで
小さい子たちの成長を見ていく幸せがあるんじゃないかしら?
不器用で心配だった妹たちが
だんだん一人前になっていったり
よく失敗して慰めてあげる時間を
あなたと喜べる毎日も
春風の経験したことのないはじめて。
こんな幸せを、
これからもたくさんあなたと過ごせるのではないかしら?
うれしい!
きゅん!
昔こんなふうだったらよかったな、なんて
後ろ向きに振り返っているなんて
それどころじゃない!

私の王子様。
春風は、あなたと過ごすはじめてが
この先数え切れないほどたくさんあることを
知っています。
何も難しいことを知らない春風でも、
そのくらいは簡単に気がつくんです。
あなたに、今の春風が見せたことのない姿をたくさん見てもらって
恥ずかしい思いもするだろうということ。
ときどき、自信のない部分を知られてしまって
悲しくなることがたくさんあることも、もう知っている。
でも王子様は、そんな春風とこれからもいてくれる。
うれしい時間をすぐそばで過ごしてくれる。
いっぱい一緒に喜んでくれる。
春風はわかっている。
あなたが家族でいてくれて、春風のこれからのはじめてを共にするの、
何度でも、
あなたに知られていない場所なんてすっかりないと思っていても
春風はいつもあなたと、知らない何かを見つけていく。
慣れているはずだったキッチンに立っているだけで
いくつも見つかる、あなたとのはじめて。
怖がりで悲しいことが多くても、
力が足りないことばかりでも。
春風の過去を巻き戻したくなってしまっても、
大好きな家族にいけない嫉妬をしてしまうことがあったって、
あなたといられることが
春風はうれしい。
私は、はじめてを
あなたと経験していく。
これから、何度でも。
決して尽きない
新しい幸せ。
春風が毎日一生懸命作ろうとしている
平凡な幸せの毎日のどこかに、
春風の見たことのない幸せを
あなたと見ているのだろうと思います。
今日の肉じゃがはどうだったかしら。
王子様の家庭の味になれそう?
今はもう、あまり新鮮さがないかもしれないけれど
春風は、あなたといると毎日がはじめての日々。
あなたも春風と同じ気持ちになってほしくて
何もできない子供の頃のように
いま、春風は不器用にがんばっています。
どうか、これからも末永くよろしくおねがいします。
愛しい愛しい
世界で一番大好きな
春風の王子様。

春風の偽日記

『春風の気持ち』

ヒカルちゃんは今日も──
喫茶店の子が持ってくるおかずを断りきれませんでした。

お願いに応えられないとわかっているのに
はっきり断らないまま希望を持たせるのも
相手にかわいそうだと思うんです。

それに、
春風の大好きなヒカルちゃんなのに。
よそのおうちからごはんをいっぱい持ってきて
餌付けするみたいな行為をするのは
春風はちょっと好きになれないです。

春風のほうがもっとおいしいものを作ってあげてるのに!

ずっと昔から、
ヒカルちゃんのことを思ってごはんを作っているのに……

春風のお料理はお店に出しているものではないけれど
ヒカルちゃんにおいしいって言ってもらえるはず。
絶対に負けていないものだと思うんです。
お弁当を春風が本気で作ってみたらいいのかな?
一度だけでも、栄養バランスや、家族のみんなの好みは関係なく
ヒカルちゃんの好きなものだけ入れて
春風のお料理は、こんなにヒカルちゃんに喜んでもらえるんです、
お友達の人よりもヒカルちゃんのことをよくわかっているのは
春風なんです!
と、伝えてあげたら
ヒカルちゃんは断る力が出るかしら?

でも、一番の問題は、
ヒカルちゃんは、どうにかしようと悩んではいても
それほど深刻な話だと考えていないらしいこと。
まあ、深刻な話にはなっていないんですけど。
相手はよく知っているお友達で、
誘われているお仕事先だって、よくわかっているお店。
もしもヒカルちゃんがその気なら、お仕事をしてもいいのだし。
お仕事を軽い気持ちで引き受けるのはいけないかしら。
でもヒカルちゃんなら、一度自分で決断したら、きっとまじめに働くと思うんです。
たとえお料理につられたとしても
真剣に働くつもりなら、動機はともかく立派なお仕事です。
おかずをくれるけれど、その子は別に働いてくれなくてもいいって言っているそうです。
もし気持ちが通じたらラッキー、くらいなんだって。
でも、きっと違うと思うな。
やっぱり、本当はヒカルちゃんにお仕事をして欲しいんだと思う。
どうしてもお願いしたいから、あきらめないでいるんだと思うんです。
はっきり断られるのが嫌だからって、あいまいなままでいようとするのは
なんだかずるい気がします。
本気でヒカルちゃんにお願いしたいなら、真剣にお話すればいいじゃないでしょうか。
そうすれば、ヒカルちゃんもあやふやなままで困らないで、丁寧にお断りできるもの。
申し訳ない気持ちはあっても、今はお仕事よりもやりたいことがあるからと。
それは春風に言っても仕方ないんです、ヒカルちゃん!
その子に言っても、結局変わっていないんですよね……
ヒカルちゃんと、そのお友達の子で決める話なんだから
横で春風が何を言ってもあんまり意味がないとはわかっています。
でもやっぱり……
きっと本気のはずなのに気持ちをごまかして
はっきりさせないのは、誠実じゃないと思うな。
真剣なお仕事の関係を築くかもしれないのに
そんな勝手なことでいいのかしら!

一人で勝手に怒っていたら、
はっきりさせないまま続けようとしているのは
春風も同じだと気がついてしまいました。
答えを出してしまうのが怖い。
思いが届かないとわかってしまったら、もうそれっきり。
あの人との間は、これ以上近づけないと決まってしまう。
そんなの、とても受け入れられない。
あまりに悲しすぎることがあったら、春風の心は千切れてしまうのではないでしょうか?
きっと幸せなばかりではない、
春風の気持ちがいつも叶うわけではないとわかっていました。
相手の人がいることですものね。
いっぱい悩んで苦しいだろうなと、あなたに出会う前から想像はしていたの。
私がそんな怖いことをするなんて考えられなかったの。
最初から恋をしなければよかったのに、
私はもう、そんなわけにはいかなかったんだもの。
もし、春風が始めて王子様に出会う前の時間に戻ることができて
当時の春風にアドバイスができるとしたら
この恋は真剣すぎて苦しいからやめておいたほうがいいよなんて
そんなことは絶対に言わないもの。
言っても止められないのだし、
それに、幸せなこともたくさんある。
春風は世界で一番悲しみ悩む女の子だけど
世界で一番幸せな女の子でもあるんだって、胸を張れます。
誰も春風にかなうはずなんてないわ。
春風は、こんなに素敵な王子様に恋をしているんです。
私たちは、まだ決断する日が来ていないだけ。
まだ、恋が叶わないとは
決まったわけではないんだもの。
春風の大好きな王子様──
私たちが出会ってから、ずいぶん時間が経ったけれど
二人の将来を決定する運命的な瞬間は、まだ来ていないのかしら。
でもそれは形の上で話に限ったことであって、
春風の気持ちがいつまでも変わることはないだろうなって思える瞬間は
王子様と長い時間を過ごし続けて
数え切れないほどありました。
むしろ、出会ってからの時間の長さを考えると
どうしてこんなに王子様との大事な思い出がいっぱいあるんだろう、
とてもこんなに幸せがどっさり詰め込めるほど長い時間じゃなかったのにな、
と思うほどです。
もしこの先、王子様の気持ちが春風を選ばないとしても。
そんなことは考えるだけで胸が痛くなってきて、壊れてしまいそうですけど。
でも、そんなつらいことがあったって、
春風にとって何よりもつらいことがあったって。
春風は負けない。
あなたのことが好き。
へこんでなんていられません。
いつか私のことを見てくれるように、
もしもあなたの心が動かないと決まってしまった後でも、
春風は愛し続けるんだと思います。
はっきりわかってしまったって、それで終わりなんて限らないと思うの。
いつかきっと、って言い聞かせて、泣いている自分を励まして。
何があっても
春風は絶対に止まらない。
関係をあいまいにしている余裕なんてないですよね。
いつまでも春風の恋が終わるわけなんてないもの。
一度断られたって、そこからまた続いていくんですもの。
王子様、春風は臆病ですけど
ごまかしたりしません。
いつもあなたを愛していると、伝えます。
ためらわずに、いつも言えます。
断られるかもしれないとしても
怖がって、大人しくしているなんて春風にはできません。

喫茶店のお友達も、あきらめたくないのでしょうか。
あいまいにしようとしているわけではなくて。
だめかもしれないとわかっていても、ひっくり返したいのかな。
全然力が足りなくても、がんばればなんとかなるかもしれないって。
いや、まずはがんばってみないとはじまらないと奮闘しているのかも。
そうして一生懸命努力を続けているのでしょうか。
毎日もらっているお料理は、喫茶店メニューではなくて
愛情料理なのかしら。
ヒカルちゃんも言葉にしてはいませんが、体でそれがわかってしまっているのかな?
このおいしさは打算と下心だけでは出せないな、
愛なのかな、って気がついてしまって
断りにくくなっているのかも?
春風の愛情が負けていない自信はありましたけど、
もしかしたら相手も真剣なのかもしれないですね。
でもやっぱり、春風は決して負けているなんて思いません。
いつも本気で家族を愛しているって伝えたいな。
ヒカルちゃんのことがとても大事だとわかってほしい。
激しい戦いになるかもしれませんね。
愛情勝負になったら、春風は絶対に譲らないですから!

楽しいクリスマスまで、気がついたらあと一ヶ月を切りました。
もうすぐのような気もするし、まだまだかなって
待ちきれないでそわそわしてしまうかも。
今年も家族みんなで楽しく過ごしたいな。
春風たちのところに、世界で一番素敵なプレゼントが届いた季節。
もしも、毎日この家で奇跡が起こっているとしても
春風は、その話にはなるほどなあってすごく納得しているのですけど
でも、クリスマスは春風には特別なものに感じられます。
今年も、あなたとクリスマスを過ごしたい。
こんなに特別な季節なんですから
何か特別なことがたくさん起こってしまうかもしれません。
王子様がそのつもりなら
クリスマスだし、いいんじゃないでしょうか。
春風に最高のプレゼントをくれたクリスマス。
もうこれ以上欲しいものなんて他にあるわけがないと思っていたの。
あなたがいてくれるから。
でも、
あなたがいてくれるからこそ
今年も、サンタさんにお願いしたいことが
いっぱいあるんです。

春風の偽日記

『遊園地』

春風はいけない子です。

悪い子なんです。
いつも、いつも
なんということを──
考えてしまうのでしょう。
澄んだ心なんて、とても言えないな。
いい子じゃない。
王子様も、そう思っているかしら。

春風は決して、
いつだって笑顔でかわいい子供たちを見守っている
お姉ちゃんという面ばかりではない、
ということを──
王子様はやっぱり、気がついてしまっている?

春風は王子様と出会ってはじめて
この世界に、こんなに愛せる人がいるということを知りました。
それまでの春風の毎日に愛が足りなかったわけでは全然なくて、
愛する家族がいっぱいいる生活がどれほどうれしいものだったのか
春風は知っているはずだったのに。

家族のことを、
こんなに胸が苦しくなるまで愛してしまうなんて
いけない春風。
でも、二人を家族と決めたのは神様なんだから
しょうがないですよね。
悩んでいてもしょうがない。
もう、家族として生まれたからには結婚するものなんだ、と。
そういうふうに結ばれるのが自然なんだ、
他の家はどうかわからないけれど、20人きょうだいなんて人数がいれば
離れられない運命の二人が現れたって何もおかしいことではないんだ、
だといいけれど
本当にそうかなあ?
物思う秋の夜長に
じっくり考えても、なかなか答えは出ない。
愛してしまう気持ちは本人にとってもどうにもならないことなんだから
家族であっても止めようがないし、
いけない春風だとわかっていても、そんなものなんだろうと思うときもあります。
仕方のない気持ちなら、抑えようとする必要なんてないかって。
でも本当に春風が、自分が悪い子だとわかってしまうのは
止められない自然な思いを抱いているときじゃないの。
ちゃんと物事がわかっているいい歳になったのだから
自分勝手なわがままを言い過ぎたりしないほうがいい。
気持ちを聞いてもらえる家族がいてくれて、なんでも話せる春風の家です。
だけど、やりたい放題で人の気持ちも考えないのは違う気がするな。
欲望に際限がないとしても、自制しないといけないな。
限界を知らないなんて、それは愛することだけにしておきたい。
この前の連休の話題で
お友達が彼氏とデートで遊園地に行ったと聞いただけで
すぐ、うらやましいって思ってしまうのは
なんとかしないと。
春風は先週はハロウィンでとっても楽しく過ごしたのだし
連休の間はおうちにいたことは何の不満もなくって
むしろ、愛する王子様が春風と家にいてくれて
ああ、王子様はここをいつも過ごしていたい家だと思ってくれているんだなと
幸せを感じていたくらいなのに。
ときどき用事があって出かけるときにも
春風が帰っていく家は大好きな人がいる場所なんだな、
それに、ここが王子様の帰ってきてくれる家になったんだな、
自由にしていいお休みも、当たり前みたいにほとんど家で過ごしているんだと
春風としてもうれしいことだったのに。
悪い子だから、求めてしまう。
お友達が、混雑しすぎた遊園地のせいで彼氏と気まずくなって
本心ではないやり取りで傷つけあってしまった苦い経験談、
それでもお互いの愛情で
けんかをしていても二人の気持ちを実感するようになっていったこと。
いっぱい遊んだ帰り道で
それぞれの家路に別れていくぎりぎりの場所。
人の少ない通りにある橋の手前で
思いが通じ合ったみたいに
普段はそんなに勇気を出せる女の子じゃないのに
どちらからともなく
誓うようなキスをかわしていたこと。
そんな話を聞きました。
だったら、春風と王子様なら帰る家も同じなんだから
遊園地の帰りにも、キスだけで終わりにはならなくて
その続きもしてしまうのではないでしょうか。
私たちのキスの続きとは、もちろん
そして王子様と女の子はいつまでも幸せに暮らしました、という日々のこと。
もうなっているような気もするけれど
春風は想像してしまいます。
あんなに楽しそうな場所に
もしもあなたと二人で行けたなら。

実際は、楽しい思い出を作りたいなら
どんなところに行くのだって
恋人たちの愛にかかっているという噂です。
まだ経験したことがない、二人だけで行くデート。
王子様に大切な思い出をあげられるかな?
春風にそんなに立派なことができるのかしら?
あなたとならば、試してみたい。
いつもは優しいお姉さんでいられそうな春風を
こんな気持ちにしてしまうのは、あなたしかいない。
あなたと歩きたい場所がたくさんあります。
今よりももっと遊びに行きたいなんて
小さい子たちだってそんなに言わないわがままですね。
しかも、家族みんなと行くのもいいのに
二人でなくては満足できそうにないなんて。

あさっては雨の予報。
土日は、これから本格的に寒くなる季節に備えたり
毛糸のパンツに興味があるみたいで
編み物に挑戦したがる立夏ちゃんを見てあげたい。
どこにも出かける予定はありませんが
春風は穏やかな時間の中で
ただ、ぼんやりとした夢を見続けていると思います。
叶うかどうかわからない夢であっても
いつまでも飽きないで、ずっと。
愛する王子様と、春風が二人でいる夢です。
臆病な春風は、おばけ屋敷では怖くて目が開けられそうもないのに
あなたと行ってみたいと願っている。
わがままばかりが膨らんでいって、
本当なら立派な大人のひとは
どこまで我慢しなければいけないものなんでしょうか?
もう春風はだいぶ大きなお姉さんになっているのに
自分の気持ちを抑えることがどんどんできなくなっていきます。

春風の偽日記

『春風の一日』

今日は一日を通して雨でした。

芋煮会に行けませんでしたね。
残念です。
でも、家族が一緒にいられて春風はうれしい。
不満げだった小さい子たちも、
一日みんなで遊んで、満足してくれたでしょうか?
明日からの一週間を過ごす活力をいっぱいためられた。
そんな幸せな休日を過ごしたのが
春風だけだった、
なんてことになっていないかしら。
さくらちゃんたちも
明日から幼稚園でがんばってくれるかな。
あさひちゃんたちも
さみしくお留守番の平日。
いい子で待っていてくれるかな。
王子様が授業中に春風に会えないで
切ない思いをしていたらどうしよう。
なんて。
春風のことを少しでも思ってくれるでしょうか。
今日の春風は、王子様が忘れられなくなる素敵な子でしたか?
小さい子たちに編み物を教えてあげたの。
春風もとってもちっちゃいときから
女の子らしくいられることがとっても楽しかった。
大好きな人に作ってあげる日を想像して、腕に磨きをかけました。
春風のかけがえのない妹たちに、服を作ってあげて
大人っぽいのにとてもかわいい憧れのお姉さん二人に
似合うものを一生懸命作ってあげていられた。
そしてついに目の前に現れて
その瞬間に春風の全てを捧げたくなった運命の人に
これからずっと、ほんのちょっとだけど贈り物ができる。
鍛え上げた編み物の実力を発揮していける、こんなに大勢の私の家族。
みんな、春風お姉さんの編み物教室は優しいですよ。
ちょっと自信があったの。
それなのに、
蛍ちゃんのゴッドハンドにはとてもかないません。
上手な子や、まだはじめたばかりの子、それぞれの技術に合わせて助言ができて
笑顔を絶やさずいられて
その一方で、ハロウィン衣装の製作も進めています。
女の子らしく育ったことではそれなりだった春風でも
真似ができない、その実力。
ちょっと抜けたところがあるってよく言われるこんな春風の妹に
どうしてこんなによくできた立派な子が育ったのでしょうか。
吹雪ちゃんでもいまだに解明できない、遺伝子の不思議です。
立夏ちゃんと小雨ちゃんが違うみたいに
実はずいぶん違っている、春風と蛍ちゃん。
春風は、そんなかっこいい蛍ちゃんが
うらやましくて
うらやましくて
う、
う、
うわーん!
春風も、そんなふうに立派に女の子らしくなりたかった。
このままでは王子様のハートを奪われてしまうのではないかと
焦りに焦っています。
なんだか春風、お酒でも飲んで
何もかもを忘れてしまって
理性にも常識にもさえぎられずに
ただひたすら王子様に心の中の思いを全てぶつけてしまいたい。
お酒はだめですけど。
蛍ちゃん、どうしてそんなに何でもできるんだろう?
それは、ときどきはうっかりしてしまうこともある
微笑ましい大事な妹なのだけど。
こんなにできが違うと、王子様の心は惹かれてしまうに決まっている。
春風を選ぶ理由が何もないのだから。
ヒカルちゃんに悩みを聞いて欲しくても
春風のうるんだ瞳を見ただけで
春風は今日も乙女チックだなあ、
と感心されるだけで終わってしまうの。
この苦しい胸の思い。
どうしても抑えきれない恋するときの不安。
好きで乙女チックをしているんじゃありません!
くすん。
ヒカルちゃんも時々は、自分の中で整理できない気持ちを相談してくれる。
そのたびに、
それは恋ですよ!
ヒカルちゃんは王子様が好きなの。
と言ってあげたいけれど
いつも鈍いヒカルちゃんなので
意地悪をして教えてあげません。
ううん、教えたことは何度もあるんだけど
春風は乙女だからな、
で済んでしまうの。
ヒカルちゃんも乙女なのにね。
いつか自分自身で本当の気持ちに気づくまで、
春風が手助けできることはないのかもしれません。
でも、こんなときは春風の複雑な思いをわかってほしいのにな。
無理にでも目覚めさせてしまえばよかったな!
麗ちゃんなら、自分に力が足りなくて
思いが届かないもどかしい気持ち、
わかってくれると思っていたのに
自分はそんなに桃色光線を出していないって。
そうだけど……
麗ちゃんは、自分の気持ちを本気で相談できる人がいないから
まだ気がつかないのかもしれない。
よく似た悩みを持つ、同じ女の子だということに。
春風の気持ちが本当は分かるくせに
男なんかって意地を張ってしまう。
小雨ちゃんでは、鉄道の難しい話はわからないみたいだし
王子様がもし麗ちゃんの鉄道趣味をわかってくれて
それがきっかけで、麗ちゃんが自分の本当の気持ちと向き合うことができたなら
もしかしたらいつか。
春風と麗ちゃんは、同じ悩みを持つ
誰よりも仲のいい姉妹になれるかも。
なんて、王子様に頼りすぎではいけませんね。

春風一人ではあまりできることがないけど
気がついたんです。
つらくても、何も希望が見えなくても
恋をしていると幸せであること。
あなたの顔を見ただけで、悩みを忘れてしまうこと。
ただ言葉を交わすことができただけで、足が地に着かない。
ときどき春風に向けてくれる、何にも替えがたい笑顔を見てしまったせいで
もしかしたら、好意をもたれているかもしれないなんて思うと
うぬぼれかもしれないと自分に言い聞かせてみても、弾む胸が止まらない。
春風はたぶん、あなたの一番になれなくてもいい。
これからもあなたのために尽くしたいけれど
もしも、あなたが誰か一人を選ぶとしても
こんなにたくさんの幸せをもらえたのだから
何も不満に思うことなんてない。
蛍ちゃんにかなわないからって、何も変わらない。
王子様を愛している気持ちは春風が世界で一番なのに、報われないのはつらいと思っていた。
だけど、ただ恋をしたというだけで充分だと、
あなたの近くにいるだけでわかっていく。
春風は、それだけで満足です。
もう何も望まなくていいくらいなの。
でも春風は欲張りなので、もう少し王子様の近くにいられるように努力します。
あとほんのちょっと。
少しでも近くに。

それに、まだ女の子らしくなる方法がわからない子たちに
春風は教えてあげたいことが
いつかアドバイスが必要になったときのために
もうちょっと頼りになるお姉ちゃんになれたらな。
蛍ちゃんにはときどきかなわないことだってあるけれど
家族みんなを愛しているのは、春風は自信があるもの。
愛しているともらえるものは、報われることだけではないと知っているもの。
力が足りなくて悲しいことがこれからどんなにたくさんあったって
きっと、切ないだけではないと思います。

春風の偽日記

『ころも』

少し肌寒い休日。
こたつを出す時期がついに来た?
まだ早い?
家族会議も盛り上がっています。
今夜の結論は、保留。
明日から雨が続く予報で
冷え込みそう。
そうなったらいよいよこたつの出番。

王子様はどちらがいいと思う?
早く出したらいい?
まだ重ね着で充分?
やっぱり霙ちゃんの味方かな。
こたつ派は意外と多いんです。
ぬくぬくする感覚が支持を集めているの。

春風は──
こたつより──
人肌がいいと思います。
おしくらまんじゅうなんて言葉でごまかさないで。
春風はもう大きい。
真剣です。
いつでも、心から王子様を暖めてあげたい。
寒かったら声をかけてくださいね。

台所担当として
体を暖めるためにできることは他にもあります。
みんなの服を用意してあげるお姉さんとして
蛍ちゃんにそろそろ追い越されそうな位置だけど
まだなんとか現役。
我が家のファッション最前線に立つ
春風におまかせです。
蛍ちゃんは、ときどき盛り上がりすぎて
無茶をしてしまうかわいいところがあるものね。
虎のビキニは
春風は止めたらよかったですよね。
まもれ!
ヒカルちゃんのおなか!
もうすぐハロウィン。
仮装の日。
なんてね。
仮装して、本物のおばけをびっくりさせて追い払う日。
うわー、おばけだ!
これはたまらん、逃げなくちゃ。
って言わせてしまいたい。
おばけは自分がそうなのに、驚くものなのでしょうか?
おばけも怖がるくらい、おそろしいものなんですね。
おばけ。
あんまりおばけだとか怖いとか言っていたら
またさくらちゃんがおののいてしまうから
細かいことはおいといて、
とにかく仮装の日。
西洋由来で、亡くなった人をお参りしたりする日なので
観月ちゃんもあまり私たちに見えないようなものは見ないみたいで
安心です。
今年はまだ蛍ちゃんがテーマを決めていないようだから
王子様もアドバイスしてあげてはどうですか?
また動物園でもいいですし
いかにもおばけって感じもありだし
天使だって。
でも春風から見たら王子様はいつでも天使のようにきらきらしている。
こんなに春風の心をとらえる人が
この世にいるなんて。
いつか本当に住んでいる世界に戻ってしまいそうだから
春風は何があっても後悔しないように
いつも全力で自分のできることをして
あなたに尽くして
いつかあなたがふとした機会に私を思い出して
ああ、自分には春風というがんばり屋の家族がいて
とても幸せだった、
これはいつまでも一緒にいなくては、
と思わせたい!
もちろん、そんなことを考えているかたわらに
いつも春風が笑顔でいます。

衣装の話で思い出したことで、
ヒカルちゃんはときどき、そういうことに無頓着。
鈍感なんです。
ぷんぷん。
今日もね、
立夏ちゃんが見せている太ももに
寒いだろうと差し出す自分のジャージ。
立夏ちゃんは、まだ小学生みたいな子なんだから
いつでも動き回ってほかほかだし
ワカメちゃんみたいなスカートでも問題なしです!
とは、
大人になりたい立夏ちゃんの前ではなかなか言えないですけど。
女の子としてスカートにこだわりたい立夏ちゃんには、ジャージは、うーん。
それに、春風が季節を意識して選んだもみじ色のブラウス。
王子様が似合うって言ってくれたから
とってもお気に入りで
いつも春風のきれいな姿を見ていてほしくて
よく着ていたのに
昨日までの暑さで、どこか奥にしまってしまったのかしら。
今朝、見つからなくて探していたら
ヒカルちゃんが差し出すジャージ。
違うの、
重ね着したいわけじゃないんです。
気持ちは嬉しいんだけど
春風はいつもきれいでいたいだけなのに
説明しても、よくわかっていないみたい。
そうですよね、ヒカルちゃんが言うように健康も大事ですよね。
ハロウィンでは無理な衣装を身に着けないで
ヒカルちゃんの体も守りたいですけど
くすん。
春風が立ち直った理由は、
これまでの服だけにこだわらないで
今日も明日も王子様にきれいだと思ってもらえればいいんだと
思いついたからです。
どんな服装だって。
ハロウィンも、せっかくだから王子様の好きな衣装にしたいな。
虎のビキニ──
春風には似合わないと思いますけど
どうですか?
王子様のお好みで春風を染めあげてください。

春風の偽日記

『小さな夢』

本当は、
手ぶらで来てもらえれば
良かったのですけど。

ゆうべ、立夏ちゃんが電話でお誘いしたときに
春風もお話をしたんです。
そうしたら、
初めてのお宅に
何も持たずに訪問することは
できないと。

礼儀正しい子ですね。
大橋マリアさん。
王子様も、ヒカルちゃんも
しっかりしたクラスメートがいてくれて
安心です。

でもやっぱり、おみやげは
高校生の身で、負担になるものであってはいけない。
我が家の人数は、ちょっと大勢ですよね。
相手も選ぶのに困ってしまうんじゃないかと
心配でした。
もう一つ事情があって、
春風と蛍ちゃんは、文化祭の模擬店のために
試作品を開発している途中なんです。
春風はレトロでモダン、
時代を経ても変わらない懐かしい食事を。
蛍ちゃんは、喫茶店ということで
スパゲティやハンバーグ、オムライスの定番を選びつつも
いかに学園祭らしく仕上げるかが腕の見せ所。
パフェの研究にも余念がありません。
学園祭までの間に、家族の意見を聞けたらいいなとか
せっかく作るおいしそうなものはやっぱり家族に食べてもらいたいとか
しばらくは、我が家では学園祭お楽しみメニューを
予定しているの。
そういう状況だから
ケーキやカステラ、エクレアといったお土産らしいもので
あまり早めに食べないとならない生ものをいただいても
悪くしてしまわないかな。
しかも、今の時期は栗を使った秋のケーキがおいしい時期で
うれしいとはいえ、食べきれない。
エクレアは雷のことで
クリームがこぼれないうちに雷のように早く食べるという意味だそうですが
あまり何日も置いておけないのも雷のようです。
さりげなく
家の子供たちはあのお店が好きで、
と金額が負担にならないものを指定したけれど
失礼にならなかったでしょうか。
まるで、
あたしたちの家では
このお土産しか認めないざます。
ごめんあそばせ。
みたいな偉そうな言い方になってしまったら
せっかく相手はいい人そうで
立夏ちゃんや王子様たちも仲がいいのに
もう遊びに来てもらえなくなるかも?
いくらもらったものを悪くするほうが申し訳ないとは言え
もっと言い方があったかしら。
はらはらしてしまいました。
でも、わかってもらえてよかった。
この家に来るのに、そんなに緊張する必要ないんです。
立夏ちゃんのお友達なら、なおさら気楽でいて欲しいな。
だから今日のおやつのクッキーは
大橋さんのおみやげです。
まだ残っているぶんは
これからのおやつにちょうどいいですね。
春風はどうも、こんなとき
お客さんを迎える大人の会話は難しくて。
まだ子供っぽいのでしょうか?
いい年をして王子様なんて言っているような子は
幼くて
恥ずかしいかしら。
王子様は、こんな春風は恥ずかしい?
でも、本当に王子様だったんだもの。
子供っぽく、いつか出会えるといいなと憧れていた王子様が
本当に目の前に現れたんだもの。
どんなに子供っぽくても、
大人の女性らしく振舞わないといけないときに
戸惑うとしても
春風は、嘘はつけません。
王子様は本当に春風と結ばれていたの。
春風のところに来てくれました。
大きなお姉さんになっても密かに抱き続けていた
幼い願いは
本当に叶うことがあるの。
春風がいい子にしていたから?
それとも、これが運命?
あるはずがないなんて
あきらめないでよかった。
今、なんだか伝えたい気持ちになったから、言います。
いつでも王子様には伝えたいの。
私の家に来てくれてありがとうございます。
春風は幸せです。
あとは、もう少し大人の対応ができる
ちゃんとしたお姉ちゃんになれたら
春風は完璧ですね。
パーフェクト春風ですね。
無敵です。
実はもう今のままで、何が起こっても無敵かな。

観月ちゃんの踊りも立派でした。
参考にしてもらえたみたいで
春風も自慢の家族を見てもらえて、鼻が高いの。
電話で失礼だったかもしれない会話は
気にもしていなかったみたいに
明るくお話ができました。
大橋さんはいい人ですね。
でも、劇の間だけでも
ヒカルちゃんと相思相愛になるかと思うと
なんだかもやもやして
相手はあんなにいい人なのに
いけない春風です。
本当は春風がいちばん
義経さんも弁慶さんも心から愛しているのに。
誰よりも愛している自信があるのに。
劇の内容と役者さんは違いますよね。
でも、気持ちは整理するのが難しいの。
クラスの劇では春風が参加するのは無理だってわかっています。
春風の頼もしい弁慶さん、
お願いしてもいいですか?
私を守って矢を受けてほしいなんて言いません。
あなたがどんな役だったとしても
春風は名もない脇役。
ただ尽くすだけで、その名が残ることなんてない。
どこにいたのかもわからない
いたのかいなかったのかもわからない
舞台の端っこの人ですけど
だけど、歴史に現れなかったとしても
あなたを愛していることは何も変わらない。
この愛はいつまでも。
春風は誓います。
また叶えたい夢が、今日一つ増えてしまいました。
こんな素敵な月夜が続く頃、
千年も恋人たちを見守るあの月が証人で
どうかあなたが義経で
私は永遠に変わらない愛を抱く静御前でいさせてもらいたい。
そんな夢。
この愛は、古から変わることなく、なんて。
ただ今夜だけでも、いけませんか?
明日は春風に戻ります。
また千年後も愛を誓えるように。
だから、今夜は
演技でもいいから。

春風の偽日記

『かみなりこわいな』

くすんくすん。
さみしかったです。

昨日の夜は、
一晩中
がらがら
がしゃーん!
夜の雨を引き裂いて
鳴り通しだったかみなり。
カーテン越しの、一瞬の閃光が
まぶたをつらぬいて
はっ!
と身をこわばらせる
長い夜。
春風を泣かせる
こわいこわい
かみなり。
ひとりじゃなかったら。
もしも、隣のベッドでヒカルちゃんが起きていたら
もっと元気が出たのでしょうか。
それとも、
いつも心に浮かんでくる
たった一人だけ心に決めた人が
そばにいてくれないと
春風はもうだめなの?
自然とこぼれそうになる涙は、何が原因なんだろう。
春風の近くにあなたがいないなんて──
そんな悲しみに変わります。

もう大きいお姉さんなのに
雷が怖いなんておかしいですよね。
子供の頃は、もう少しは我慢できたみたいなんです。
こわくてこわくて
ふるえていても
ヒカルちゃんと蛍ちゃんを導いて
お姉ちゃんたちの部屋へ避難する話、
前に聞いたって本当ですか?
なんだか顔が赤くなってしまう、
小さい頃の話。
だけど誇らしい、
愛する家族を守っていられた昔話。
今はもう
救い出してもらいたいと
願うだけで精一杯なんです。
いつでも心に浮かぶその人の顔は、一人の夜も。
他の誰だって春風を助け出せないと信じ込んで。
あなたがいることで
春風は
雷の夜に一人ではいられなくなりました。
恋をしているのに、苦しいよ。
雷が鳴る
長い夜はつらいです。

昨日の雷は大変なものでしたね。
朝食にこんなに寝不足の子が並ぶのも久しぶり。
春風も眠かったけど
しゃきっと笑顔、
負けないみんなのお姉さんです。
朝ごはんで元気をあげる前に
まず春風が力いっぱいになりたい。
朝にがんばれるのだから
学校のあくびは
勲章です。
怒られるけど。
夜はまるごと
雷で眠れなかったなんて、先生には言えません。
王子様のところに避難に行った子もいたのでしょう?
静電気が苦手な吹雪ちゃんは大丈夫だったかしら?
電気の気配に人一倍敏感な吹雪ちゃん。
普段は冷静なのに、
というか雷のときも顔だけは冷静なのに
慌てているってわかる。
さくらちゃんみたいにクッションの下にもぐりこんで
おしりを出したりしているわけじゃないのに
吹雪ちゃんの顔色だけでわかるなんて
よっぽど雷が嫌いなんですね。
かわいいけど、ちょっとかわいそうかな。
雷が鳴り出すと
冗談でアースを繋ぎたいって言い出すの。
吹雪ちゃんは電化製品じゃないのにね。
まだ数日は不安定なお天気が続くみたいです。
雷が鳴り出したときにみんなが怖がらないか
心配していたので、その対策。
今日は特別。
ふだんはこんなお行儀が悪いことは
海晴お姉ちゃんと霙お姉ちゃんが絶対許さないし
春風も止めると思うけど
雷に怖がるみんなを見ているから
今日だけです。
朝から久しぶりのお天気に恵まれそうな日で
念のため、急な雨が降ってもいいように
リビングだとかガラスの内側に
みんなのお布団を干しておいたら
ふかふかになってくれたので
もう思い切って、リビングに全員分の布団を並べて
みんなが一緒にお休みします。
川の字と
川の字と
川の字を書いても
まだ足りない。
今日は雷は鳴らないみたいだけど
怖いことがなければ嬉しいです。
でも、今日だけで本当に春風は大丈夫なのかな。
愛はこの体のどこにためておけるのでしょうか?
お試しの日ですね。
でも本当は、明日から雷が鳴らないで
激しい雨にならなければいいのですけど。
一番いいのは、明日からずっと
王子様と一緒に眠る夜がやって来ることです。
おやすみなさい。
今夜は春風の
となりのとなりの
どのくらいとなり?
いつもよりも少しだけ近い場所で
王子様も、どうか
いつもより少しだけでも
いい夢を。
嬉しい春風は、
願っています。


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